説明

コンベヤチェーン

【課題】環状シール部材がころの周辺領域内に給油された潤滑油の外部漏出を抑止するとともに外部からころの周辺領域への異物侵入を防止し、潤滑油を長期に亘り確保し、さらに、環状スラスト軸受部材に対する環状シール部材の取付を簡便に達成するコンベヤチェーンを提供すること。
【解決手段】環状スラスト軸受部材170の外周面170aに密接して潤滑油を封止する環状シール部材180が、ローラ130の内周面130aと環状スラスト軸受部材170の外周面170aとの間に設けられ、環状シール部材180のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバー190が、ローラ130の内周面130aに圧入嵌合されているコンベヤチェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブシュとローラとの間に介在配置された複数のころの周辺領域内に潤滑油を封入してなるコンベヤチェーンに関するものであって、特に、製鉄分野におけるコイル、スラブなどの重量物を搭載して搬送するためのコンベヤチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄分野におけるコイル、スラブなどの重量物を搭載して搬送するためのコンベヤチェーンとして、ブシュとローラとの間に介在配置された複数のころの周辺領域内に潤滑油を封入してなるコンベヤチェーンが広く用いられている。
【0003】
このような従来のコンベヤチェーンは、左右一対で離間配置された内リンクプレートと、これらの内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌合されたブシュと、このブシュの外周側に回転自在に外嵌されたローラと、ブシュの内周側に挿通された連結ピンと、この連結ピンの両端に圧入嵌合されて内リンクプレートを相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレートと、ブシュの外周面とローラの内周面との間に介在配設された複数のころと、ブシュの外周面に圧入嵌合して内リンクプレートの内側面ところの端面との間に配置させた左右一対の環状スラスト軸受部材とを備え、ころの周辺領域内に潤滑油を封入している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の従来例のコンベヤチェーン500は、図9に示すように、ローラ530の両端部に環状スラスト軸受部材570が配置されて、ローラ530の内周面530aおよび環状スラスト軸受部材570の外周面570aに断面半円状の溝がそれぞれ形成されて、ローラ530の溝と環状スラスト軸受部材570の溝を上下に位置合わせされて断面円状の間隙を形成し、この間隙に断面円状のシールリング580が略隙間なく配置されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3719963号公報(特許請求の範囲、図1)
【特許文献2】特許3563354号公報(特許請求の範囲、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前者の特許文献1に記載されたような従来のコンベヤチェーンは、ブシュとこのブシュに遊嵌される環状スラスト軸受部材との間に間隙が存在するため、ころの周辺領域内に封入された潤滑油がこの間隙から外部へ漏出したり外部から粉塵等が侵入したりする虞があるという問題があった。
【0007】
また、後者の特許文献2に記載されたようなコンベヤチェーン500は、シールリング580の内径が環状スラスト軸受部材570の外径よりも小さく形成されているため、シールリング580を弾性拡径させつつ環状スラスト軸受部材570に嵌挿する必要がありシールリング580の取付負担が重くなるという問題があった。
【0008】
また、合成樹脂製のシールリング580が温度上昇により縮径した場合、ローラ530の内周面530aとシールリング580の外周面580aとの間に隙間が生じるため、この隙間から潤滑油が外部漏出する虞があるという問題があった。
【0009】
そして、ローラ530と環状スラスト軸受部材570との隙間が鉛直方向の下側に形成されているため、シールリング580が略隙間なく設置されたローラ530の溝内を摺接してローラ530の内周面530aに対してシールリング580が摩耗損傷した場合には、ローラ530と環状スラスト軸受部材570の間から潤滑油が何の妨げもなく外部に滲出するため、油切れを早期に迎える虞があるという問題があった。
【0010】
本発明は、前述した従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、環状シール部材がころの周辺領域内に給油された潤滑油の外部漏出を抑止するとともに外部からころの周辺領域への異物侵入を防止し、潤滑油を長期に亘り確保し、さらに、環状スラスト軸受部材に対する環状シール部材の取付を簡便に達成するコンベヤチェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、左右一対で離間配置された内リンクプレートと該内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌合されたブシュと該ブシュの外周側に回転自在に遊嵌されたローラと前記ブシュの内周側に挿通された連結ピンと該連結ピンの両端にそれぞれ圧入嵌合されて内リンクプレートを相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレートと前記ブシュの外周面とローラの内周面との間に介在配置された複数のころと前記ブシュの外周面に圧入嵌合して内リンクプレートの内側面ところの端面との間に介在させた左右一対の環状スラスト軸受部材とを備えて、前記ころの周辺領域に潤滑油を封入してなるコンベヤチェーンにおいて、前記環状スラスト軸受部材の外周面に密接して潤滑油を封止する環状シール部材が、前記ローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられ、前記環状シール部材のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバーが、前記ローラの内周面に圧入嵌合されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記環状スラスト軸受部材が、前記ころのチェーン幅方向の微動を許容する挟持位置でブシュの外周面に圧入嵌合され、前記ローラが、前記ころをチェーン幅方向で微動可能に挟持するとともに前記環状シール部材をチェーン幅方向で微動可能に位置決めする内周側フランジ部を備えていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の構成に加えて、前記ローラに形成された内周側フランジ部の外側壁面と環状シールカバーの内側壁面とが、前記環状シール部材の外周側部分に係合する環状溝形成部を形成していることにより、前述した課題を解決するものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の構成に加えて、環状シール部材が、前記環状溝形成部の底径より小さく前記ローラの内径より大きい外径で形成されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記環状シールカバーの外側面が、前記ローラの内周端縁部をかしめた係止爪によって係合されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記環状シール部材が、前記ころの端面と隙間を空けて対向配置されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記環状シール部材が、全周に渡って均一で切れ目のない環状体で形成されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記ブシュが、前記連結ピン内の潤滑油をころの周辺領域内へ給油する油導入孔を備えていることにより、前述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンベヤチェーンは、左右一対で離間配置された内リンクプレートとこの内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌合されたブシュとこのブシュの外周側に回転自在に遊嵌されたローラとブシュの内周側に挿通された連結ピンとこの連結ピンの両端にそれぞれ圧入嵌合されて内リンクプレートを相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレートとブシュの外周面とローラの内周面との間に介在配置された複数のころとブシュの外周面に圧入嵌合して内リンクプレートの内側面ところの端面との間に介在させた左右一対の環状スラスト軸受部材とを備えて、ころの周辺領域に潤滑油を封入していることにより、ころの周辺領域内が潤滑油で充填された状態となるため、ローラが複数のころを介して円滑に回動することができるとともに、以下のような本発明に特有の効果を奏することができる。
【0020】
すなわち、請求項1に係る発明であるコンベヤチェーンによれば、環状スラスト軸受部材の外周面に密接して潤滑油を封止する環状シール部材がローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられていることにより、環状シール部材の内径が環状スラスト軸受部材の外径に対して略同一寸法で形成されているため、環状シール部材を環状スラスト軸受部材に嵌入する際の環状シール部材を弾性拡径させる労力を回避して環状シール部材を簡便に取り付けることができる。
【0021】
また、環状シール部材のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバーがローラの内周面に圧入嵌合されていることにより、ローラの内周面と環状シールカバーの外周面との間が閉塞されているため、環状シール部材が温度上昇により縮径してローラの内周面と環状シール部材の外周面との間に隙間が生じた場合であっても、環状シール部材に隣接して被着された環状シールカバーがこの隙間から外部漏出しようとする潤滑油を封止することができる。
【0022】
そして、環状スラスト軸受部材の外周面に密接して潤滑油を封止する環状シール部材がローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられ、環状シール部材のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバーがローラの内周面に圧入嵌合されていることにより、環状シール部材が環状スラスト軸受部材の外周面を摩耗損傷させることなく環状シール部材と環状シールカバーとがローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間を確実に閉塞するため、ころの周辺領域内に給油された潤滑油の外部漏出を抑止するとともに外部からころの周辺領域への異物侵入を防止することができ、また、潤滑油が外部に滲出しようとする場合であっても鉛直方向の下側においてローラの内周面から環状シール部材の内周面までに亘り潤滑油を残留させるため、潤滑油を長期に亘り保持することができる。
【0023】
請求項2に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項1に係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、環状スラスト軸受部材がころのチェーン幅方向の微動を許容する挟持位置でブシュの外周面に圧入嵌合され、ローラがころをチェーン幅方向で微動可能に挟持するとともに環状シール部材をチェーン幅方向で微動可能に位置決めする内周側フランジ部を備えていることにより、左右一対の内周側フランジ部および左右一対の環状スラスト軸受部材がころのチェーン幅方向の微動を許容してころの周辺領域内に封止された潤滑油を偏在させることなく隅々まで行き渡らせるため、ブシュところとの相互間における転がり、および、ローラところとの相互間における転がりを円滑に達成することができる。
【0024】
そして、請求項3に係る発明であるコンベヤチェーンによれば、請求項2に係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、ローラに形成された内周側フランジ部の外側壁面と環状シールカバーの内側壁面とが環状シール部材の外周側部分に係合する環状溝形成部を形成していることにより、環状シール部材の外周面部分と環状溝形成部に形成される溝壁面とで凹凸係合構造となる、所謂、ラビリンス構造を呈するため、環状シール部材とローラとの間で生じがちな潤滑油の外部漏出を抑止することができるとともに、環状シール部材が環状溝形成部内でローラと環状シールカバーに対してラジアル方向に相対的に変位自在になっているため、搬送駆動時にローラがブシュに対してラジアル方向に偏心した状態で回動する場合であっても、環状シール部材がローラの内周面に接触して負荷を受けることなく環状スラスト軸受部材の外周面に対する摩耗損傷を回避しつつ環状スラスト軸受部材と環状シール部材との間で生じがちな潤滑油の外部漏出を抑止することができる。
【0025】
請求項4に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項3に係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、環状シール部材が環状溝形成部の底径より小さくローラの内径より大きい外径で形成されていることにより、環状シール部材が環状溝形成部内に常に係合しているため、搬送駆動時にローラがブシュに対してラジアル方向で偏心した状態で回動した場合やローラまたはころがブシュに対してスキュ状態で回動した場合であっても環状シール部材が環状溝形成部から不用意に脱落することを防止することができる。
【0026】
請求項5に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、環状シールカバーの外側面がローラの内周端縁部をかしめた係止爪によって係合されていることにより、環状シールカバーがローラに対してチェーン幅方向に相対的に移動しようとする場合であっても係止爪が環状シールカバーの移動を制限するため、環状シールカバーの脱落を確実に防止することができる。
【0027】
請求項6に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、環状シール部材がころの端面と隙間を空けて対向配置されていることにより、ころの端面と環状シール部材との間の油貯留領域に貯留された潤滑油がころの端面における油量状況に応じてころの端面に向けて供給されるため、ころの端面と環状スラスト軸受部材の内側面との間におけるチェーン幅方向、所謂、スラスト方向の接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0028】
請求項7に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、環状シール部材が全周に渡って均一で切れ目のない環状体で形成されていることにより、環状シール部材が環状スラスト軸受部材の全外周に亘って潤滑油の通路を遮断するため、潤滑油の外部漏出と外部からの異物侵入を確実に防止することができる。
【0029】
請求項8に係る発明のコンベヤチェーンによれば、請求項1乃至請求項7のいずれか1つに係る発明のコンベヤチェーンが奏する効果に加えて、ブシュが連結ピン内の潤滑油をころの周辺領域内へ給油する油導入孔を備えていることにより、連結ピン内に保有する潤滑油が油導入孔を介してころの周辺領域内へ給油されるため、ブシュところとの相互間における転がり、および、ローラとブシュとの相互間における転がりを保守メンテナンスする必要もなく長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例であるコンベヤチェーンを一部切欠いた全体概略図。
【図2】図1に示すコンベヤチェーンの平面図。
【図3】図2に示すコンベヤチェーンの断面図。
【図4】図2に示すコンベヤチェーンの側面図。
【図5】図3に示すコンベヤチェーンのX−X線から見た要部拡大断面図。
【図6】図5のローラがスラスト方向へ偏在した状態を示す図。
【図7】図3に示すコンベヤチェーンのY−Y線から見た要部拡大断面図。
【図8】図7のローラがラジアル方向へ偏在した状態を示す図。
【図9】従来のコンベヤチェーンを示す断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、左右一対で離間配置された内リンクプレートとこの内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌合されたブシュとこのブシュの外周側に回転自在に遊嵌されたローラとブシュの内周側に挿通された連結ピンとこの連結ピンの両端にそれぞれ圧入嵌合されて内リンクプレートを相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレートとブシュの外周面とローラの内周面との間に介在配置された複数のころとブシュの外周面に圧入嵌合して内リンクプレートの内側面ところの端面との間に介在させた左右一対の環状スラスト軸受部材とを備えて、ころの周辺領域に潤滑油を封入してなるコンベヤチェーンにおいて、環状スラスト軸受部材の外周面に密接して潤滑油を封止する環状シール部材が、ローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられ、環状シール部材のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバーが、ローラの内周面に圧入嵌合されていることによって、環状シール部材がころの周辺領域内に給油された潤滑油の外部漏出を抑止するとともに外部からころの周辺領域への異物侵入を防止し、潤滑油を長期に亘り確保し、さらに、環状スラスト軸受部材に対する環状シール部材の取付を簡便に達成するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0032】
すなわち、本発明のコンベヤチェーンに用いる環状シール部材の具体的な断面形状については、環状スラスト軸受部材の外周面に密接して、ローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられていればよく、円形断面、楕円断面、矩形断面のいずれを備えたものであっても構わないが、矩形断面を備えた環状シール部材の場合には、環状溝形成部を形成するローラの外側壁面および環状シールカバーの内側壁面とそれぞれ面接触状態を呈するため、潤滑油の外部漏出をさらに一段と抑止する。
【0033】
さらに、本発明のコンベヤチェーンに用いる環状シール部材の具体的な材質については、環状スラスト軸受部材の外周面に密接するものであれば如何なる素材であってもよいが、例えば、環状シール部材が合成樹脂からなる弾性体で構成されている場合には、環状シール部材が自己潤滑性を発揮するため、環状スラスト軸受部材の外周面に対する摩耗損傷を回避しつつ環状スラスト軸受部材と環状シール部材との間で生じがちな潤滑油の外部漏出を長期に亘って抑止する。
【0034】
また、本発明のコンベヤチェーンに用いるブシュの具体的な形態については、ころを転動させて環状スラスト軸受部材および内リンクプレートを圧入嵌合させる外周部を備えていれば、如何なる形態であっても差し支えなく、チェーン幅方向に均一な外径を呈するもの、あるいは、ころを転動させる大径外周部とこの大径外周部の両側にそれぞれ配置して環状スラスト軸受部材を圧入嵌合させる小径外周部を備えたものであっても良く、後者の場合には、大径外周部と小径外周部との境界領域に環状スラスト軸受部材を位置決め可能になるため、簡便な組付負担と高い組付精度を達成することができる。
【0035】
なお、前述したチェーン幅方向に均一な外径を呈する具体的なブシュについては、縦添えによる巻きブシュ、鍛造によるブシュ、成型加工による含油ブシュのいずれであっても良い。
【0036】
加えて、本発明のコンベヤチェーンに用いる連結ピンの具体的な形態については、ブシュ内を挿通して左右一対の外リンクプレートに両端を圧入嵌合されるものであれば、如何なる形態であっても差し支えないが、潤滑油を供給するための給油手段を内蔵している場合には、ころの周辺領域内へ継続的に給油することが可能となるため、ブシュところとの相互間における転がり、および、ローラところとの相互間における転がりを保守メンテナンスすることなく長期に亘って維持することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の一実施例であるコンベヤチェーンについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明のコンベヤチェーンを一部切欠いた全体概略図であり、図2は、図1に示すコンベヤチェーンの平面図であり、図3は、図2に示すコンベヤチェーンの断面図であり、図4は、図2に示すコンベヤチェーンの側面図であり、図5は、図3に示すコンベヤチェーンのX−X線から見た要部拡大断面図であり、図6は、図5のローラがスラスト方向へ偏在した状態を示す図であり、図7は、図3に示すコンベヤチェーンのY−Y線から見た要部拡大断面図であり、図8は、図7のローラがラジアル方向へ偏在した状態を示す図である。
【0038】
まず、本発明の一実施例であるコンベヤチェーン100は、特に、製鉄分野におけるコイル、スラブなどの重量物を搭載して搬送するために用いられるものであって、図1乃至図3に示すように、左右一対で離間配置された内リンクプレート110、110と、これらの内リンクプレート110のブシュ孔112に圧入嵌合されたブシュ120と、このブシュ120の外周側に回転自在に遊嵌されたローラ130と、ブシュ120の内周側に挿通された連結ピン140と、この連結ピン140の両端にそれぞれ圧入嵌合されて内リンクプレート110を相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレート150、150と、ブシュ120の外周面120aとローラ130の内周面130aとの間に介在配設された複数のころ160と、ブシュ120の外周面120aに圧入嵌合して内リンクプレート110の内側面110aところ160の端面160aとの間に介在させた左右一対の環状スラスト軸受部材170、170とで構成されている。
さらに、コンベヤチェーン100は、前述したころ160の周辺領域R内に潤滑油を封入している。
なお、環状スラスト軸受部材170は、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂、含油焼結金属、セラミック等の低摩擦性でかつ耐摩耗性に優れた材料を用いて形成されている。
【0039】
上述した連結ピン140は、図2及び図3に示すように、内部に潤滑油を貯留する油貯留部142が形成されて、油貯留部142の一端が蓋体144により閉鎖されているため、油貯留部142から油通路146を経由して、ブシュ120の内周面と連結ピン140の外周面との間に潤滑油が供給されるようになっている。
さらに、ブシュ120は、図2及び図3に示すように、ブシュ長手方向の中央付近に連結ピン140から供給された潤滑油をころ160の周辺空間R内へ給油する油導入孔122を備えている。
これにより、連結ピン140内に保有する潤滑油が、油導入孔122を介して複数のころ160が介在配置された周辺領域R内へ給油される。
【0040】
次に、本発明の一実施例であるコンベヤチェーンが最も特徴とする環状シール部材180および環状シールカバー190の具体的な態様について詳しく説明する。
まず、環状スラスト軸受部材170の外周面170aに密接して潤滑油を封止する環状シール部材180は、図2及び図3に示すように、ローラ130の内周面130aと環状スラスト軸受部材170の外周面170aとの間に設けられている。
これにより、環状シール部材180の内径が、環状スラスト軸受部材170の外径に対して略同一寸法で形成されている。
なお、本実施例では、環状シール部材180は、合成樹脂からなる弾性体を採用したが、ころ160の周辺領域R内に潤滑油を封止するものであれば他の材質を採用しても構わない。
【0041】
また、環状シール部材180のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバー190は、図2及び図3に示すように、ローラ130の内周面130aに圧入嵌合されている。
【0042】
これにより、ローラ130の内周面130aと環状シールカバー190の外周面190aとの間が閉塞され、また、環状シール部材180が環状スラスト軸受部材170の外周面170aを摩耗損傷させることなく環状シール部材180と環状シールカバー190とがローラ130の内周面130aと環状スラスト軸受部材170の外周面170aとの間を確実に閉塞し、さらに、潤滑油が外部に滲出しようとする場合であっても鉛直方向の下側においてローラ130の内周面130aから環状シール部材180の内周面180aまでに亘って潤滑油を残留する。
【0043】
また、環状スラスト軸受部材170は、図3に示すように、ころ160のチェーン幅方向の微動を許容する挟持位置でブシュ120の外周面120aに圧入嵌合され、ローラ130は、図3に示すように、ころ160をチェーン幅方向で微動可能に挟持するとともに環状シール部材180をチェーン幅方向で微動可能に位置決めする内周側フランジ部132を備えている。
【0044】
これにより、左右一対の内周側フランジ部132、132および左右一対の環状スラスト軸受部材170、170が、ころ160のチェーン幅方向の微動を許容してころ160の周辺領域R内に封止された潤滑油を偏在させることなく隅々まで行き渡らせるようになっている。
【0045】
また、内周側フランジ部132の外側壁面132aと環状シールカバー190の内側壁面190bは、図5に示すように、ローラ130の溝壁面130bと環状シールカバー180の外周面180aとの間に隙間を空けた状態で、環状シール部材180の外周側部分180bに係合する環状溝形成部Dを形成している。
このとき、ローラ130と環状シールカバー190とは、環状シール部材180を挟んだ状態でラジアル方向に変位可能になっている。
【0046】
これにより、環状シール部材180の外周面部分180bと環状溝形成部Dの底部に形成される溝壁面130bとで凹凸係合構造となる、所謂、ラビリンス構造を呈して、かつ、環状シール部材180の外周側部分180bが、環状溝形成部D内でローラ130と環状シールカバー190に対してラジアル方向に相対的に変位自在になっている。
【0047】
また、環状シール部材180は、図5に示すように、環状溝形成部Dの底径より小さく、かつ、ローラ130の内径より大きい外径で形成されている。
【0048】
これにより、搬送駆動時にローラ130がブシュ120に対してラジアル方向で偏心した状態で回動した場合やローラ130またはころ160がブシュ120に対してスキュ状態で回動した場合であっても、環状シール部材180が、環状溝形成部D内と常に係合して、環状シール部材180の不用意な脱落を防止している。
【0049】
環状シール部材180は、図5に示すように、ころ160の端面160aと隙間を空けて対向配置されている。
【0050】
これにより、ころ160の端面160aと環状シール部材180との間の油貯留領域Sに貯留された潤滑油が、ころ160の端面160aにおける油量状況に応じてころ160の端面160aに向けて供給されて、ころ160の端面160aと環状スラスト軸受部材170の内側面170bとの間におけるスラスト方向の接触抵抗を大幅に低減している。
【0051】
また、環状シール部材180は、全周に亘って均一で切れ目のない環状体で形成されている。
【0052】
これにより、環状シール部材180が環状スラスト軸受部材170の全外周に亘って潤滑油の通路を遮断して、潤滑油の外部漏出と外部からの異物侵入を確実に防止している。
【0053】
そして、環状シールカバー190の外側面190cは、図4に示すように、ローラ130の内周端縁部130cをかしめた4本の係止爪134によって係合されている。
【0054】
これにより、環状シールカバー190がローラ130に対してチェーン幅方向の外側へ相対的に移動しようとする場合であっても、係止爪134が、環状シールカバー190の移動を制限して、環状シールカバー190の脱落を確実に防止している。
【0055】
次に、ローラ130がスラスト方向に移動する動作について、図5及び図6に基づいて詳しく説明する。
まず、図6の矢印方向に作用する外力によって、ローラ130が図6の紙面右向きに移動する。
次に、図6の紙面左側に形成されるローラ130の内側フランジ部132が、図6の紙面左側のころ160の端面160aに当接して、ころ160を図6の紙面右向きに押し出す。
その後、図6の紙面右側のころ160の端面160aが、環状スラスト軸受部材170の内周面170bに当接して、ローラ130およびころ160のスラスト方向への移動が終了する。
上記一連の動作の際に、ローラ130と環状シールカバー190に挟まれた環状シール部材180は、ローラ130の移動に応じて図6の紙面右向きに移動し、環状シール部材180の内周面180aは、環状スラスト軸受部材170の外周面170aに対して変形することなく、無負荷の摺接状態、所謂、ゼロタッチ状態を常に維持する。
なお、図6の矢印方向と反対方向の外力がローラ130に作用する場合には、ローラ130およびころ160は、上記一連の動作と左右対称に移動する。
【0056】
次に、ローラ130がラジアル方向に移動する動作について、図7及び図8に基づいて詳しく説明する。
まず、図8の矢印方向に作用する外力によってローラ130が、図8の紙面下向きに移動する。
このとき、ローラ130と環状シールカバー190が、環状シール部材180を挟んだ状態で、環状スラスト軸受部材170の中心軸に対して偏心して図8の紙面下向きに動く。
そして、いずれか1つのころ160の外周面160bが、ブシュ120の外周面120aとローラ130の内周面130aとに当接すると、ローラ130およびころ160のラジアル方向への移動が終了する。
上記一連の動作の際に、環状シール部材180の内側面180cと内周側フランジ部132の外側壁面132aとが摺接して、環状シール部材180の外側面180dと環状シールカバー190の内側壁面190bとが摺接している。
なお、図8の矢印方向と反対方向の外力がローラ130に作用する場合には、上記一連の動作と上下対称に移動する。
【0057】
このようにして得られた本実施例のコンベヤチェーン100は、環状スラスト軸受部材170の外周面170aに密接して潤滑油を封止する環状シール部材180がローラ130の内周面130aと環状スラスト軸受部材170の外周面170aとの間に設けられていることにより、環状シール部材180を環状スラスト軸受部材170に嵌入する際の環状シール部材180を弾性拡径させる負担を回避して環状シール部材180を簡便に取り付けることができる。
【0058】
また、環状シール部材180のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバー190がローラ130の内周面130aに圧入嵌合されていることにより、環状シール部材180が温度上昇により縮径してローラ130の内周面130aと環状シール部材180の外周面180aとの間に隙間が生じた場合であっても、ローラ130に隣接配置された環状シールカバー190がこの隙間を介してローラ130の内周面130aと環状シール部材180の外周面180aとの間から外部漏出しようとする潤滑油を封止することができ、さらに、環状シール部材180がころ160の周辺領域R内に給油された潤滑油の外部漏出を抑止するとともに外部からころ160の周辺領域Rへの異物侵入を防止することができるとともに潤滑油を長期に亘り保持することができる。
【0059】
また、環状スラスト軸受部材170がころ160のチェーン幅方向の微動を許容する挟持位置でブシュ120の外周面120aに圧入嵌合され、ローラ130が、ころ160をチェーン幅方向で微動可能に挟持するとともに環状シール部材180をチェーン幅方向で微動可能に位置決めする内周側フランジ部132を備えていることにより、ブシュ120ところ160との相互間における転がり、および、ローラ130ところ160との相互間における転がりを円滑に達成することができる。
【0060】
そして、ローラ130に形成された内周側フランジ部132の外側壁面132aと環状シールカバー190の内側壁面190bは環状シール部材180の外周側部分180bに係合する環状溝形成部Dを形成していることにより、ローラ130と環状シール部材180との間で生じがちな潤滑油の外部漏出を抑止できるとともに、搬送駆動時にローラ130がブシュ120に対してラジアル方向で偏心状態で回動した場合であっても、環状シール部材180がローラ130の内周面130aに接触して負荷を受けることなく環状スラスト軸受部材170の外周面170aに対する摩耗損傷を回避しつつ環状スラスト軸受部材170と環状シール部材180との間で生じがちな潤滑油の外部漏出を抑止できる等、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0061】
100 ・・・コンベヤチェーン
110 ・・・内リンクプレート
110a ・・・内側面
112 ・・・ブシュ孔
120 ・・・ブシュ
120a ・・・外周面
122 ・・・油導入孔
130 ・・・ローラ
130a ・・・内周面
130b ・・・溝壁面
130c ・・・内周端縁部
132 ・・・内側フランジ部
132a ・・・外側壁面
134 ・・・係止爪
140 ・・・連結ピン
142 ・・・油貯留部
144 ・・・蓋体
146 ・・・油経路
150 ・・・外リンクプレート
160 ・・・ころ
160a ・・・端面
160b ・・・外周面
170 ・・・環状スラスト軸受部材
170a ・・・外周面
170b ・・・内側面
180 ・・・環状シール部材
180a ・・・内周面
180b ・・・外周側部分
180c ・・・内側面
180d ・・・外側面
190 ・・・環状シールカバー
190a ・・・外周面
190b ・・・内側壁面
190c ・・・外側面
D ・・・環状溝形成部
R ・・・周辺領域
S ・・・油貯留領域
500 ・・・コンベヤチェーン
510 ・・・内リンクプレート
512 ・・・ブシュ孔
520 ・・・ブシュ
530 ・・・ローラ
530a ・・・内周面
540 ・・・連結ピン
550 ・・・外リンクプレート
560 ・・・ころ
560a ・・・端面
570 ・・・スラスト軸受板
570a ・・・外周面
580 ・・・シールリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対で離間配置された内リンクプレートと該内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌合されたブシュと該ブシュの外周側に回転自在に遊嵌されたローラと前記ブシュの内周側に挿通された連結ピンと該連結ピンの両端にそれぞれ圧入嵌合されて内リンクプレートを相互にチェーン長手方向に連結する左右一対の外リンクプレートと前記ブシュの外周面とローラの内周面との間に介在配置された複数のころと前記ブシュの外周面に圧入嵌合して内リンクプレートの内側面ところの端面との間に介在させた左右一対の環状スラスト軸受部材とを備えて、前記ころの周辺領域に潤滑油を封入してなるコンベヤチェーンにおいて、
前記環状スラスト軸受部材の外周面に密接して潤滑油を封止する環状シール部材が、前記ローラの内周面と環状スラスト軸受部材の外周面との間に設けられ、
前記環状シール部材のチェーン幅方向の外側に隣接して被着する環状シールカバーが、前記ローラの内周面に圧入嵌合されていることを特徴とするコンベヤチェーン。
【請求項2】
前記環状スラスト軸受部材が、前記ころのチェーン幅方向の微動を許容する挟持位置でブシュの外周面に圧入嵌合され、
前記ローラが、前記ころをチェーン幅方向で微動可能に挟持するとともに前記環状シール部材をチェーン幅方向で微動可能に位置決めする内周側フランジ部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンベヤチェーン。
【請求項3】
前記ローラに形成された内側フランジ部の外側壁面と環状シールカバーの内側壁面とが、前記環状シール部材の外周側部分に係合する環状溝形成部を構成していることを特徴とする請求項2に記載のコンベヤチェーン。
【請求項4】
前記環状シール部材が、前記環状溝形成部の底径より小さく前記ローラの内径より大きい外径で形成されていることを特徴とする請求項3に記載のコンベヤチェーン。
【請求項5】
前記環状シールカバーの外側面が、前記ローラの内周端縁部をかしめた係止爪によって係合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のコンベヤチェーン。
【請求項6】
前記環状シール部材が、前記ころの端面と隙間を空けて対向配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のコンベヤチェーン。
【請求項7】
前記環状シール部材が、全周に渡って均一で切れ目のない環状体で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のコンベヤチェーン。
【請求項8】
前記ブシュが、前記連結ピン内の潤滑油をころの周辺領域内へ給油する油導入孔を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のコンベヤチェーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−28462(P2013−28462A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167514(P2011−167514)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】