説明

コンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法

【課題】コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある評価を可能にしたコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法を提供する。
【解決手段】複数の心体層2をコートゴム層3を介して積層した心体部の試験サンプルを用いて、取得した引張弾性率および曲げ弾性率に基づいて、コンベヤベルトの固有値解析モデル7の材料特性値を設定し、この固有値解析モデル7を用いて有限要素解析により算出したコンベヤベルトの臨界挫屈荷重とコンベヤベルトを曲げたときに生じる反力との比である固有値Evに基づいてコンベヤベルトの耐挫屈性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法に関し、さらに詳しくは、コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある評価を可能にしたコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心体層を複数積層したコンベヤベルトでは、プーリ径が小さくなる程、プーリ巻付け内周側が波打つようにしわになり、プーリ巻付け内周側の心体には挫屈が生じることが知られている(例えば、特許文献1参照)。このように心体が挫屈したコンベヤベルトを使用し続ければ、心体強度の著しい低下や心体の破断等の不具合につながり、コンベヤベルトを使用することができなくなる。そこで、予めコンベヤベルトの耐挫屈性能を把握することが必要である。
【0003】
ところが、心体の挫屈には、プーリに巻付いたコンベヤベルトの中立軸よりも内周側に生じる圧縮応力や心体の剛性等の種々の要因が、複雑に絡み合って影響を与えていると考えられている。そのため、コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある適切な評価を行なうことができる評価方法を確立することは困難であった。
【特許文献1】特開平8−81029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある評価を可能にしたコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法は、複数の心体層をコートゴム層を介して積層したコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法であって、前記複数の心体層をコートゴム層を介して積層した心体部の試験サンプルを用いて、該試験サンプルの引張弾性率および曲げ弾性率を取得し、該取得した引張弾性率および曲げ弾性率に基づいて、前記コンベヤベルトの解析モデルの材料特性値を設定し、該解析モデルを用いて有限要素解析により算出したコンベヤベルトの臨界挫屈荷重と該コンベヤベルトを曲げたときに生じる反力との比である固有値に基づいてコンベヤベルトの耐挫屈性能を評価するようにしたことを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記解析モデルを、それぞれの心体層にはり要素を埋設した構造に設定することもできる。前記はり要素を、例えば、心体層の層厚方向の上端、下端および中央部の3箇所に埋設するように設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の心体層をコートゴム層を介して積層した心体部の試験サンプルを用いて、試験サンプルの引張弾性率および曲げ弾性率を取得し、この取得した引張弾性率および曲げ弾性率に基づいて、コンベヤベルトの解析モデルの材料特性値を設定することで、解析モデルによって現実のコンベヤベルトに近い応力状態を再現することができる。そして、この解析モデルを用いて有限要素解析により算出したコンベヤベルトの臨界挫屈荷重とコンベヤベルトを曲げたときに生じる反力との比である固有値に基づいてコンベヤベルトの耐挫屈性能を評価することにより、複合的な種々の要因を考慮することなく、コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある適切な耐挫屈性能の評価を行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0009】
図1に例示するように、本発明に用いる心体部の試験サンプル1は、コートゴム層3を介して5層の心体層2を積層した構造になっている。実際のコンベヤベルトの表面からカバーゴム層を除去した構造である。心体層の積層数は、複数であればよく、5層に限定されるものではない。心体層2は、帆布等から構成されている。この試験サンプル1を用いて、三点曲げ試験および引張試験を行なう。
【0010】
3点曲げ試験は、図2に例示するように、所定のスパンで配置された突起状の治具上に、試験サンプル1を両端自由端にした状態で設置し、スパン中心位置で上方から下方に荷重を負荷することにより行なう。この際の反力(負荷した荷重)とスパン中心位置の試験サンプル1の上下変位量との関係から、試験サンプル1の曲げ弾性率を取得する。
【0011】
引張試験は、図3に例示するように、試験サンプル1の長手方向一端部をチャッキング治具等で固定し、他端部に長手方向に引張荷重を負荷することにより行なう。この際の反力(負荷した引張荷重)と試験サンプル1の長手方向変位量(伸び)との関係から、試験サンプル1の引張弾性率を取得する。
【0012】
次いで、図4に例示するような、平面ひずみ場を仮定した材料特性解析モデル6を用いて、有限要素解析により心体部の曲げ弾性率および引張弾性率を算出する。材料特性解析モデル6は、図1に示した試験サンプル1のそれぞれの心体層2に、はり要素5が心体層2と平行に層状に埋設された構造に設定されている。はり要素5は、心体層2の層厚方向の上端、下端および中央部に設定されている。
【0013】
材料特性解析モデル6を用いて算出した心体部の曲げ弾性率、引張弾性率がそれぞれ、心体部の試験サンプル1を用いて取得した曲げ弾性率、引張弾性率と一致するように、材料特性解析モデル6の心体層2、はり要素5の弾性率を決定する。ここで、心体層2は低剛性部材として小さな弾性率に設定し、はり要素5は高剛性部材として大きな弾性率に設定する。
【0014】
このように、材料特性解析モデル6を、心体層2にはり要素5を埋設した構造に設定し、心体層2とはり要素5とに異なる材料特性値(弾性率)を与えることにより、心体部を異方性材料に設定することができ、心体層2とはり要素5とに与える材料特性値を任意に変えることにより、実際の心体部(コンベヤベルト)と同じ特性を容易に再現することが可能になる。はり要素5の数、埋設位置は、実施形態に示したものに限定されるものではないが、図4に例示したようにはり要素5を設定すると、実際のコンベヤベルトと同様の特性を再現し易くなる。
【0015】
次いで、図5に例示するような、平面ひずみ場を仮定した固有値解析モデル7を用いて、有限要素解析によりコンベヤベルトの固有値Evを算出する。固有値Evとは、コンベヤベルトの臨界挫屈荷重Pcrと、そのコンベヤベルトを曲げたときに生じる反力Fとの比(Pcr/F)である。オイラーの柱の挫屈の式から、Pcr=(1/4)・(πEI/L)と表わせる。ここで、Eは引張弾性率、Iは断面二次モーメント、Lは軸方向長さである。
【0016】
固有値解析モデル7は、図4に示した材料特性解析モデル6の両表面にカバーゴム層4を積層した構造であり、実際のコンベヤベルトと同様の構造に設定されている。ただし、それぞれの心体層2には、実際のコンベヤベルトとは異なり、はり要素5が心体層2と平行に層状に埋設されている。
【0017】
固有値解析モデル7では、心体層2とはり要素5の材料特性値(弾性率)を、材料特性解析モデル6により決定した値に設定して解析を行なう。コートゴム層3およびカバーゴム層4の材料特性(弾性率)については、例えば、試験サンプルを用いた試験により予め取得した値に設定する。具体的には、コートゴム層3、カバーゴム層4を構成するゴム材料により試験サンプル作製する。この試験サンプルを用いて1軸拘束1軸引張試験を行なうことにより、コートゴム層3およびカバーゴム層4の材料特性値(弾性率)を取得しておく。
【0018】
固有値解析は、図6に例示するように、STEP1として固有値解析モデル7の中心点を完全拘束(1軸方向および2軸方向の変位を拘束)して両端に強制回転変位を与えて静的に屈曲させる。次いで、STEP2として、STEP1と同じ境界条件にして両端部に強制回転変位を与えて固有値を得る。
【0019】
この固有値解析により、固有値Evが大きくなるほど心体層2(心体2a)が挫屈しにくくなり、コンベヤベルトの耐挫屈性能が向上することが判る。設定する固有値解析モデル7の構造等により異なるが、例えば、固有値Evが1よりも小さい場合は、心体層2(心体2a)に挫屈が生じることが判る。したがって、解析により算出した固有値Evが、予め決定した基準となる固有値以下の場合は、コンベヤベルトの耐挫屈性能が不十分であると評価を行なうようにすることができる。
【0020】
また、この解析により、心体部の引張弾性率/曲げ弾性率で表わせる無次元パラメータBと、固有値Evとに相関関係があることが判る。例えば、図5の構造の固有値解析モデル7において、全長150mm、はり要素5の個々の1層の厚さ1mm、心体層2の個々の1層の厚さ0.48mm、コートゴム層3の個々の1層の厚さ0.65mm、カバーゴム層4の個々の1層の厚さ3mmとする。そして、はり要素5および心体層2の引張弾性率を、表1に示すように設定する。
【0021】
【表1】

【0022】
この条件下で強制回転変位を1.67(rad)として解析を行なうと、図7に示すように、固有値Evと無次元パラメータBとの相関関係が線形であることが判明する。したがって、コンベヤベルトの耐挫屈性能を向上させるには、無次元パラメータBを小さくすることが好ましいことが判る。
【0023】
このように、本発明では、コンベヤベルトの耐挫屈性能に影響を与える多数の複合的な要因を考慮することなく、二次元の有限要素解析により算出したコンベヤベルトの臨界挫屈荷重とコンベヤベルトを曲げたときに生じる反力との比である固有値Evに基づいて簡易に、コンベヤベルトの耐挫屈性能を評価することができる。しかも、解析モデルでは、試験サンプルを用いた試験により取得した引張弾性率および曲げ弾性率に基づいて、解析モデルの材料特性値を設定するので、コンベヤベルトの現実の耐挫屈性能と整合性のある適切な耐挫屈性能の評価を行なうことが可能になる。
【実施例】
【0024】
図1に例示した構造で、心体層(心体)の挫屈が発生するサンプル1と、心体層(心体)の挫屈が生じないサンプル2の2種類のサンプルを用いて引張試験および3点曲げ試験を行ない、引張弾性率および曲げ弾性率を取得した。また、取得した引張弾性率および曲げ弾性率を用いて、上記実施形態で説明した同様の手順により、解析を行なって固有値Ev、臨界挫屈荷重を算出し、その結果を表2に示す。尚、表2の耐挫屈性能は、サンプルを所定の曲率で実際に曲げた際に、心体が挫屈した場合を×、心体が挫屈しなかった場合を○で示している。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、本発明に用いる解析により算出した固有値Evが大きい程、コンベヤベルトの耐挫屈性能に優れ、固有値Evに基づいてコンベヤベルトの耐挫屈性能を評価することができることが確認できた。また、心体部の引張弾性率/曲げ弾性率により表わされる無次元パラメータBが小さい程、コンベヤベルトの耐挫屈性能に優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いる試験サンプルを例示する断面図である。
【図2】図1の試験サンプルの三点曲げ試験の方法を例示する説明図である。
【図3】図1の試験サンプルの引張試験の方法を例示する説明図である。
【図4】本発明に用いる材料特性解析モデルを例示する説明図である。
【図5】本発明に用いる固有値解析モデルを例示する説明図である。
【図6】図5に例示した固有値解析モデルの解析方法を示す説明図である。
【図7】解析により算出した固有値Evと無次元パラメータBとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0028】
1 試験サンプル
2 心体層
2a 心体
3 コートゴム層
4 カバーゴム層
5 はり要素
6 材料特性解析モデル
7 固有値解析モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の心体層をコートゴム層を介して積層したコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法であって、前記複数の心体層をコートゴム層を介して積層した心体部の試験サンプルを用いて、該試験サンプルの引張弾性率および曲げ弾性率を取得し、該取得した引張弾性率および曲げ弾性率に基づいて、前記コンベヤベルトの解析モデルの材料特性値を設定し、該解析モデルを用いて有限要素解析により算出したコンベヤベルトの臨界挫屈荷重と該コンベヤベルトを曲げたときに生じる反力との比である固有値に基づいてコンベヤベルトの耐挫屈性能を評価するようにしたコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法。
【請求項2】
前記解析モデルを、それぞれの心体層にはり要素を埋設した構造に設定した請求項1に記載のコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法。
【請求項3】
前記はり要素を、心体層の層厚方向の上端、下端および中央部の3箇所に埋設するように設定した請求項2に記載のコンベヤベルトの耐挫屈性能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−224551(P2008−224551A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65838(P2007−65838)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】