説明

コンベヤベルト用ゴム組成物、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルト

【課題】加硫後の架橋形態に着目して低消費電力化を図ることができるコンベヤベルト用ゴム組成物、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトの提供。
【解決手段】コンベヤベルト1は搬送面5となる上面カバーゴム層2と、補強層3と、下面カバーゴム層4とからなり、少なくとも前記下面カバーゴム層4の裏面表面を構成する外層16が、ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤を含有するコンベヤベルト用ゴム組成物であって、前記ジエン系ゴムの含有量が55〜80質量%であり、前記カーボンブラックの含有量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜40質量部であり、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルト用ゴム組成物、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトは、資材等の輸送によく用いられているが、輸送量の増大、輸送効率の向上等により、大型化および高強力化が要請され、近年には、全長が数kmにも及ぶものも登場してきている。
このため、設備コスト、消費電力が膨らんでおり、低コストおよび低消費電力のベルトコンべヤシステムが求められており、特に、ベルトを構成するゴム特性の改良により、ベルトコンべヤの低コスト化および低消費電力化が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「駆動プーリーと遊動プーリー間に巻き掛けされて走行する物品の搬送システムに供されるコンベアベルトにあって、コンベアベルトの前記プーリーに接触するベルト内面ゴムの物性ロスファクタ−(tanδ)及び動的弾性率(E′)を、夫々0.04≦tanδ≦0.12、E′≧20kgf/cm2、としたことを特徴とするコンベアベルト。」および「駆動プーリーと遊動プーリー間に巻き掛けされて走行する物品の搬送システムに供されるコンベアベルトにあって、コンベアベルトの内面ゴムを、天然ゴム40〜100重量部、BRゴム60〜0重量部からなるポリマーに対して、カーボンブラックを20〜55重量部配合したことを特徴とするコンベアベルト。」が記載されている。
【0004】
また、本出願人により、「ゴム成分100質量部に対し、以下に示すコロイダル特性を持つカーボンブラックを30〜65質量部含有するコンベヤベルト用ゴム組成物。
1)窒素吸着比表面積(N2SA)が80(m2/g)以下
2)ヨウ素吸着量(IA)が70(mg/g)以下
3)ジブチルフタレート(DBP)吸油量が100(cm3/100g)以上」や、「周波数10Hz、動歪み2%、20℃における損失係数tanδが、0.120超0.200以下であるコンベヤベルト用ゴム組成物。」が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
更に、本出願人により、「天然ゴム(NR)およびポリブタジエンゴム(BR)からなるゴム成分と、カーボンブラックと、シリカと、シランカップリング剤と、ジエチレングリコールとを含有し、
前記ゴム成分中の天然ゴムとポリブタジエンゴムとの量比(NR/BR)が、80/20〜25/75であり、
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して15〜35質量部であり、
前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5〜25質量部であり、
前記シランカップリング剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5〜3質量部であり、
前記ジエチレングリコールの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5〜4.5質量部である、コンベヤベルト用ゴム組成物。」が提案されている(特許文献3参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−139523号公報
【特許文献2】特開2004−18752号公報
【特許文献3】特開2008−38133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のコンベヤベルトでは、基本的にはtanδ値を小さくして低消費電力化を図ることを目的としているが、加硫後の架橋形態には何ら検討がなされていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、加硫後の架橋形態に着目して低消費電力化を図ることができるコンベヤベルト用ゴム組成物、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリスルフィド網目鎖密度に着目し、これを所定の値とすることで、消費電力の低減を十分に図ることができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、下記(1)〜(4)を提供する。
【0010】
(1)ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤を含有するコンベヤベルト用ゴム組成物であって、
上記ジエン系ゴムの含有量が、55〜80質量%であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜40質量部であり、
加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるコンベヤベルト用ゴム組成物。
【0011】
(2)上記イオウ系加硫剤の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して2.5〜4質量部である上記(1)に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物。
【0012】
(3)コンベヤベルト用ゴム組成物を加硫してコンベヤベルトを製造するコンベヤベルトの製造方法であって、
上記(1)または(2)に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物をポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるように100℃以上140℃未満の温度で加硫する低温加硫工程を有するコンベヤベルトの製造方法。
【0013】
(4)上記(3)に記載の製造方法により得られるコンベヤベルトであって、
上面カバーゴム層、補強層および下面カバーゴム層からなり、
上記下面カバーゴム層の少なくとも裏面表面が、上記(1)または(2)に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物により形成される、コンベヤベルト。
【発明の効果】
【0014】
以下に説明するように、本発明によれば、加硫後の架橋形態に着目して低消費電力化を図ることができるコンベヤベルト用ゴム組成物、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトを提供することができるため有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤を含有するコンベヤベルト用ゴム組成物であって、
上記ジエン系ゴムの含有量が、55〜80質量%であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜40質量部であり、
加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるコンベヤベルト用ゴム組成物である。
次に、本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の各成分について詳述する。
【0016】
<ジエン系ゴム>
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物に含有するジエン系ゴムとしては、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明においては、これらのジエン系ゴムのうち、天然ゴム(NR)およびポリブタジエンゴム(BR)を併用するのが好ましい。
また、天然ゴムとポリブタジエンゴムとの量比(NR/BR)が、90/10〜25/75であるのが好ましく、80/20〜50/50であるのがより好ましく、75/25〜60/40であるのが更に好ましい。
NRおよびBRの含有割合が上述の範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の破断強度および耐摩耗性がいずれも良好となり、コンベヤベルトとしての基本物性を維持することができる。これは、NRとBRの相溶性が良好となり、補強性がより向上するためであると考えられる。
【0018】
また、本発明においては、BRは、重量平均分子量が50万以上であるのが好ましく、55万以上であるのがより好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の破断強度および引裂き強さが向上し、耐摩耗性もより良好となる。
【0019】
更に、本発明においては、BRは、末端変性ポリブタジエンゴムであるのが好ましい。
末端変性ポリブタジエンゴムは、末端が変性されたBRであれば特に限定されない。また、BRの末端変性方法としては、例えば、変性剤を使用してBRの末端(活性末端)を変性する方法を用いることができる。
このような変性剤としては、具体的には、例えば、四塩化スズ、四臭化スズなどのハロゲン化スズ;トリブチルスズクロライドなどのハロゲン化有機スズ化合物;四塩化ケイ素、クロロトリエチルシランなどのケイ素化合物;フェニルイソシアネートなどのイソシアネート基含有化合物;N−メチルピロリドン(NMP)などのアミド化合物;ラクタム化合物;尿素化合物;イソシアヌル酸誘導体;等が挙げられる。
【0020】
このような末端変性ポリブタジエンゴムを用いることにより、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の後述する損失係数tanδが良好な範囲となるため、消費電力の低減をより十分に図ることができる。これは、変性した末端部分が架橋に寄与するため、加硫後の架橋密度が上がるためであると考えられる。
【0021】
重量平均分子量が50万以上である末端変性ポリブタジエンとしては市販品を用いることができる。
具体的には、例えば、日本ゼオン社製のNipol BR1250H(重量平均分子量:57万、NMP変性)等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、このようなジエン系ゴムの含有量は、本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の総質量に対して、55〜80質量%であり、60〜70質量%であるのが好ましい。
ジエン系ゴムの含有量が55質量%未満であると、後述するカーボンブラックの影響により、架橋形態に伴うエントロピー弾性効果を発揮できないため、消費電力の低減を図ることができない。また、ジエン系ゴムの含有量が80質量%超であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の破断強度および耐摩耗性が低下し、コンベヤベルトとしての基本物性を維持できない。
【0023】
<カーボンブラック>
上記カーボンブラックは、特に限定されないが、GPF(General Purpose Furnace)を含むものであるのが好ましく、以下に示すその他のカーボンブラックを含むものであってもよい。
【0024】
その他のカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、HAF(High Abrasion Furnace)、SAF(Super Abrasion Furnace)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace)、FEF(Fast Extruding Furnace)、SRF(Semi−Reinforcing Furnace)、FT(Fine Thermal)、MT(Medium Thermal)等が挙げられる。
【0025】
このようなカーボンブラックとしては、市販品を用いることができる。
具体的には、GPFとしては旭#55(旭カーボン社製)、シーストV(東海カーボン社製)、ダイアブラックG(三菱化学社製)等が例示され、HAFとしてはシースト3(東海カーボン社製)、ショウブラックN339(昭和キャボット社製)等が例示される。
また、ISAFとしてはショウブラックN220(昭和キャボット社製)、SAFとしてはシースト9(東海カーボン社製)、FEFとしてはHTC#100(新日化カーボン社製)、SRFとしては旭#50(旭カーボン社製)や三菱ダイアブラックR(三菱化学社製)、FTとしては旭#15(旭カーボン社製)やHTC#20(新日化カーボン社製)等が例示される。
【0026】
本発明においては、このようなカーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、10〜40質量部であり、20〜35質量部であるのが好ましく、25〜33質量部であるのがより好ましい。
カーボンブラックの含有量が上述の範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の破断強度および耐摩耗性がいずれも良好となるためコンベヤベルトとしての基本物性を維持でき、また、後述する損失係数tanδが良好な範囲となるため消費電力の低減を十分に図ることができる。これは、カーボンブラックと上記ゴム成分との間の分子間の相互作用が大きく、補強性が向上するためであると考えられる。
【0027】
また、本発明においては、このようなカーボンブラックとして、少なくともGPFを用いることにより、得られるゴム組成物から形成される本発明のコンベヤベルトの低消費電力化がより良好となる。
【0028】
<イオウ系加硫剤>
上記イオウ系加硫剤は、上記ジエン系ゴムのゴムとゴムとの間に硫黄を介した化学結合(架橋)を生起させる加硫剤であれば特に限定されない。
上記イオウ系加硫剤としては、具体的には、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明においては、上記イオウ系加硫剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して2.5〜4質量部であるのが好ましく、2.7〜3.7質量部であるのがより好ましく、3.0〜3.5質量部であるのが更に好ましい。
イオウ系加硫剤の含有量が上述の範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の後述する損失係数tanδが良好な範囲となるため消費電力の低減をより十分に図ることができる。
【0030】
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物は、上述した各成分以外に、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、および/または、ヘキサメチレン−1,6−ビス(チオサルフェート)二ナトリウム塩ニ水和物を含有するのが好ましい態様の1つである。
ここで、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンは、下記式(1)で表される化合物であり、ヘキサメチレン−1,6−ビス(チオサルフェート)二ナトリウム塩ニ水和物は下記式(2)で表される化合物である。
【0031】
【化1】

【0032】
これらの化合物を含有することにより、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の消費電力の低減をより十分に図ることができる。
これは、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の損失係数tanδが小さくなるためであるが、これらの化合物がゴム組成物のリバージョン(加硫戻り)を防止する試薬(リバージョン防止剤)であることを鑑みれば、意外な効果である。
【0033】
本発明においては、これらの化合物の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜2質量部であるのが好ましく、0.2〜1質量部であるのがより好ましい。
なお、この含有量は、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンおよびヘキサメチレン−1,6−ビス(チオサルフェート)二ナトリウム塩ニ水和物をいずれも含有する場合は、合計の含有量をいう。
【0034】
また、本発明においては、これらの化合物として市販品を用いることができる。
具体的には、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンとしては、FLEXSYS社製のPERKALINK 900を用いることができ、ヘキサメチレン−1,6−ビス(チオサルフェート)二ナトリウム塩ニ水和物としては、FLEXSYS社製のDURALINK HTSを用いることができる。
【0035】
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物は、上述した各成分以外に、上記イオウ系加硫剤以外の加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤等の架橋剤や加硫遅延剤を含有していてもよく、更に、本発明の目的を損わない範囲で、各種配合剤を含有していてもよい。
【0036】
上記イオウ系加硫剤以外の加硫剤としては、例えば、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の加硫剤が挙げられる。
有機過酸化物系の加硫剤としては、具体的には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
その他として、酸化マグネシウム、リサージ、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリン等が挙げられる。
【0037】
加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チオウレア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系等の加硫促進剤が挙げられる。
アルデヒド・アンモニア系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(H)等が挙げられる。
グアニジン系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、ジフェニルグアニジン等が挙げられる。
チオウレア系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、エチレンチオウレア等が挙げられる。
チアゾール系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾールおよびそのZn塩等が挙げられる。
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等が挙げられる。
チウラム系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。
ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、Na−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジメチルジチオカーバメート、Te−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等が挙げられる。
【0038】
加硫助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華、ステアリン酸やオレイン酸およびこれらのZn塩等が挙げられる。
【0039】
このような加硫剤、加硫促進剤および加硫助剤を含有する場合の合計の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜15質量部であるのが好ましく、0.5〜10質量部であるのがより好ましい。含有量の範囲がこの範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の加硫後の破断強度がより良好となり、後述する損失係数tanδもより良好となる。
【0040】
加硫遅延剤としては、具体的には、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸などの有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体などのニトロソ化合物;トリクロルメラニンなどのハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;サントガードPVI:等が挙げられる。
加硫遅延剤を含有する場合の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜0.3質量部であるのが好ましく、0.1〜0.2質量部であるのがより好ましい。含有量の範囲がこの範囲であると、得られる本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物からコンベヤベルトを押出加工する際のスコーチ安定性が向上し、生産性が向上する。
【0041】
配合剤としては、具体的には、例えば、上述したカーボンブラック以外の充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変成付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、加工助剤等が挙げられる。
これらの配合剤は、ゴム用組成物用の一般的なものを用いることができる。それらの配合量も特に制限されず、任意に選択できる。
【0042】
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物は、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるコンベヤベルト用ゴム組成物である。
ここで、「ポリスルフィド網目鎖密度」とは、硫黄架橋のうち、モノスルフィド結合(ゴム間を硫黄1分子で結合する架橋形態)とジスルフィド結合(ゴム間を硫黄2分子で結合する架橋形態)とを除いた、ポリスルフィド結合(硫黄3分子以上で結合する架橋形態)の割合をいう。具体的には、以下に示すトルエン膨潤法により測定する。
なお、「加硫後」とは、100℃以上140℃未満の温度で45分以上で加硫させた後をいう。
【0043】
(トルエン膨潤法)
トルエン膨潤法は、スルフィド結合を選択的に切断する試薬(下記第1表参照)を用いて加硫後のコンベヤベルト用ゴム組成物(試験片:7mm×7mm×1mm)を処理し、未処理サンプルおよび各処理サンプルのトルエン膨潤度から、Flory-Rehner式を適用して、ポリスルフィド網目鎖密度を求める方法である。なお、本発明においては、この方法は、「ゴム試験法(日本ゴム協会編、丸善株式会社、平成18年1月30日発行)」の第407〜409頁に記載の方法に準じて行う。
ここで、下記第1表中、「THF/トルエン(1:1)」は、テトラヒドロフラン(THF)90mLとトルエン90mLとの混合液を示し、「THF/トルエン(1:1)+2-フ゜ロハ゜ンチオール+ヒ゜ヘ゜リシ゛ン」は、THF90mLとトルエン90mLと2−プロパンチオール3.31mL(0.4mol)とピペリジン3.35mL(0.4mol)との混合液を示し、「THF/トルエン(1:1)+リチウムアルミニウムハイト゛ライト゛」は、THF200mLとトルエン200mLとリチウムアルミニウムハイドライド10gとの混合溶液を示す。
また、各試薬による処理は、試験片を浸漬させて、室温下で8時間撹拌して行う。
その後、トルエンに16時間浸漬させて、トルエン膨潤度を求める。
【0044】
【表1】

νt:トータル網目鎖密度(100%)
νm/νt×100:モノスルフィド網目鎖密度
νd(=(νm+d)−νm)/νt×100:ジスルフィド網目鎖密度
νp(=νt−(νm+d))/νt×100:ポリスルフィド網目鎖密度
【0045】
一方、ポリスルフィド網目鎖密度の「45%超」という値は、tanδが良好となる範囲を実験結果から算出した値である(図2参照)。
【0046】
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物は、上述したジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤ならびに所望により各種配合剤を特定量含有し、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となることにより、20℃の測定温度下で、10%伸張させ、振幅±2%の振動を振動数10Hzで与えて測定した損失係数tanδが0.04〜0.17となる。
【0047】
(損失係数tanδ)
損失係数tanδは、ゴム組成物の動的性質を表す貯蔵弾性率E′と損失弾性率E″との比、tanδ=E″/E′で表され、この値が小さいほどゴム組成物の変形の間に熱として散逸されるエネルギー量(エネルギーロス量)が小さいことを意味し、エネルギーロスの尺度として用いることができる。
一方、tanδ値が小さいと低消費電力化が可能になると考えられるが、tanδ値をあまりに小さくしすぎると破断強度(TB)および破断伸び(EB)も低下するため、コンベヤベルトの稼動が安定しない。
本発明では、上述したジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤ならびに所望により各種配合剤を特定量含有し、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となることにより、低消費電力化と破断強度、破断伸び等の基本物性とを両立できるtanδ値の範囲(0.04〜0.17)とすることができる。
【0048】
本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物の製造は、上述したジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤ならびに所望により含有する各種配合剤を加え、バンバリーミキサー等で混練し、ついで、混練ロール機等で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤を混練して行うことができる。
【0049】
本発明のコンベヤベルトの製造方法は、上述した本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物をポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるように100℃以上140℃未満の温度で加硫する低温加硫工程を有する。
ここで、低温加硫工程における加硫は、上述した本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物を100℃以上140℃未満の温度で加硫するものであれば特に限定されず、45〜300分間、120〜135℃の温度で行なうのが好ましい。
【0050】
本発明においては、このような低温加硫を施すことにより、本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物をポリスルフィド網目鎖密度が45%超とすることができ、後述する本発明のコンベヤベルトの消費電力の低減を十分に図ることができる。
これは、上述したように、本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物をポリスルフィド網目鎖密度が45%超とすることにより、損失係数tanδが良好な範囲となるためである。
【0051】
上記低温加硫工程以外の工程は特に限定されないが、具体的には、例えば、まず、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等を用いて原料を混練りした後、カレンダー等を用いて各カバーゴム層用にシート状に成形し、次に、得られた各層を補強層を挟み込むように所定の順序で積層し、100℃以上140℃未満の温度で60分間加圧する方法が好適に例示される。
【0052】
本発明のコンベヤベルトは、上述した本発明のコンベヤベルトの製造方法により得られるコンベヤベルトであって、上面カバーゴム層、補強層および下面カバーゴム層からなるコンベヤベルトであって、該下面カバーゴム層の少なくとも裏面表面が、上述した本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物により形成されるコンベヤベルトである。
以下に、図1を用いて本発明のコンベヤベルトを説明するが、本発明のコンベヤベルトの構造は、下面カバーゴム層の裏面表面に上述した本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物を用いていれば特にこれに限定されない。
【0053】
図1は、本発明のコンベヤベルトの好適な実施態様の一例を模式的に示した断面図である。図1において、1はコンベヤベルト、2は上面カバーゴム層、3は補強層、4は下面カバーゴム層、5は運搬物搬送面、11および16は外層、12および15は内層である。
図1に示すように、コンベヤベルト1は、補強層3を中心層とし、その両側に上面カバーゴム層2と下面カバーゴム層4が設けられており、上面カバーゴム層2は外層11と内層12の2層から構成され、下面カバーゴム層4は外層16と内層15の2層から構成されている。ここで、上面カバーゴム層2および下面カバーゴム層4の外層と内層(外層11と内層12、外層16と内層15)は、それぞれ互いに異なるゴム組成物を用いて形成されていてもよい。
【0054】
図1において、上面カバーゴム層2は、外層11と内層12の2層から構成されているが、本発明のコンベヤベルトにおいては、上面カバーゴム層2を構成する層の数は、2に限定されず、1でもよく、3以上であってもよい。そして、3以上の場合にも、これらの層は、互いに異なるゴム組成物を用いて形成されてもよい。また、下面カバーゴム層4も同様である。
上面カバーゴム層2の運搬物搬送面5を構成する外層11は、耐熱性、耐摩耗性、耐油性等に優れたゴム組成物から形成されるのが望ましいため、上面カバーゴム層2は2層から構成されていることが好ましい。
下面カバーゴム層4の裏面表面を構成する外層16は上述した本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物により形成され、また、下面カバーゴム層4の内層15は製造コストや補強層3との接着性が重視されることから他のゴム組成物から形成されるのが望ましいため、カバーゴム層4は2層から構成されていることが好ましい。
【0055】
補強層3の芯体は特に限定されず、通常のコンベヤベルトに用いられるものを適宜選択して用いることができ、その具体例としては、綿布と化学繊維または合成繊維とからなるものにゴム糊を塗布、浸潤させたもの、RFL処理したものを折り畳んだもの、特殊織のナイロン帆布、スチールコード等が挙げられ、これらを一種単独で用いてもよく、2種以上のものを積層して用いてもよい。
また、補強層3の形状は特に限定されず、図1に示すようにシート状であってもよく、ワイヤー状の補強線を並列に埋込むものであってもよい。
【0056】
上面カバーゴム層2の内層12および下面カバーゴム4の内層15を形成するゴム組成物は特に限定されず、通常のコンベヤベルトに用いられるゴム組成物を適宜選択して用いることができ、一種単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0057】
上面カバーゴム層2の外層11を形成するゴム組成物は特に限定されず、通常のコンベヤベルトに用いられるゴム組成物を、該外層に要求される基本特性(例えば、耐熱性、耐摩耗性、耐油性等)に応じて適宜選択して用いることができる。
【0058】
本発明のコンベヤベルトは、下面カバーゴム層の少なくとも裏面表面が本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物により形成されるため、硬度、破断強度、破断伸び、引裂き強さ等の基本物性を維持し、消費電力の低減を十分に図ることができる。
【0059】
本発明のコンベヤベルトにおいては、下面カバーゴム層の厚さが、5〜20mmであるのが好ましく、6〜15mmであるのがより好ましい。ここで、下面カバーゴム層の厚さは、下面カバーゴム層が内層および外層で構成されている場合は、これらの層の合計の層厚をいう。
下面カバーゴム層の厚さがこの範囲であると、高温の運搬物を搬送に用いる場合であっても、ゴムの劣化等により生ずるベルトの反り返り(カッピング)を防ぐことができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げ、本発明のコンベヤベルト用ゴム組成物について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(実施例1〜5、比較例1〜3)
ゴム成分100質量部に対して、下記第2表に示す組成成分(質量部)で、各コンベヤベルト用ゴム組成物を調製した。
【0061】
【表2】

【0062】
上記第2表に示すゴム成分等の各組成成分としては、以下に示すものを用いた。
・天然ゴム(NR):RSS#3
・ブタジエンゴム(BR):Nipol BR1220(重量平均分子量:46万、末端未変性、日本ゼオン社製)
・スチレン−ブタジエンゴム(SBR):Nipol SBR1502(日本ゼオン社製)
・カーボンブラック2:GPF(ダイアブラックG、三菱化学社製)
・カーボンブラック1:HAF(ショウブラックN339、昭和キャボット社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸(日本油脂社製)
・老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業社製)
・ワックス1:パラフィンワックス(サンノック、大内新興化学工業社製)
・アロマオイル:マシン油22(昭和シェル石油社製)
・加硫剤:硫黄(油処理硫黄、細井化学工業社製)
・加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(ノクセラーNS、大内新興化学工業社製)
【0063】
得られた各ゴム組成物について、下記第3表に示す温度および時間の条件で加硫し、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度および各種物性を以下に示す方法により測定し、評価した。その結果を下記第3表に示す。
【0064】
(1)ポリスルフィド網目鎖密度(νp)
加硫後の各ゴム組成物について、上述した第1表に記載の試薬を用いて処理したトルエン膨潤度から、Flory-Rehner式を適用して、ポリスルフィド網目鎖密度を求めた。
【0065】
(2)損失係数tanδ
調製した各加硫ゴム組成物から短冊状(長さ20mm×幅5mm×厚み2mm)に切り抜いた試験片を用い、東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用いて損失係数tanδを測定した。測定は、20℃の測定温度下で、10%伸張させ、振幅±2%の振動を振動数10Hzで与えて行った。
【0066】
(3)破断強度および切断時伸び
得られた各ゴム組成物を、148℃、30分間、加硫し、加硫ゴム組成物を調製した。
調製した各加硫ゴム組成物から3号ダンベル状に打ち抜いた試験片を用い、JIS K6251-2004に準じて、引張速度500mm/分での引張試験を行い、破断強度(TB)[MPa]および切断時伸び(EB)[%]を室温にて測定した。
破断強度が14MPa以上であれば、高破断強度を有するものとして評価できる。
切断時伸びが400%以上であれば、高破断伸びを有するものとして評価できる。
【0067】
【表3】

【0068】
第3表に示す結果より、ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤ならびに所望によりワックス等を特定量含有するゴム組成物1および2を用いて調製しても、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%以下となる比較例1および2のゴム組成物は、tanδが高く、消費電力の低減が十分に図れないことが分かった。
これに対し、ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤ならびに所望によりワックス等を特定量含有するゴム組成物1および2を用いて調製し、加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となる実施例1〜5のゴム組成物は、消費電力の低減を十分に図ることができることが分かった。
一方、カーボンブラックを特定量以上含有するゴム組成物3を用いて調製した場合は、tanδが極めて高くなり、消費電力の低減が図れないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、本発明のコンベヤベルトの好適な実施態様の一例を模式的に示した断面図である。
【図2】図2は、ゴム組成物1〜3のポリスルフィド網目鎖密度とtanδとの関係を示す散布図である。
【符号の説明】
【0070】
1:コンベヤベルト
2:上面カバーゴム層
3:補強層
4:下面カバーゴム層
5:運搬物搬送面
11、16:外層
12、15:内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、カーボンブラックおよびイオウ系加硫剤を含有するコンベヤベルト用ゴム組成物であって、
前記ジエン系ゴムの含有量が、55〜80質量%であり、
前記カーボンブラックの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜40質量部であり、
加硫後のポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるコンベヤベルト用ゴム組成物。
【請求項2】
前記イオウ系加硫剤の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して2.5〜4質量部である請求項1に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物。
【請求項3】
コンベヤベルト用ゴム組成物を加硫してコンベヤベルトを製造するコンベヤベルトの製造方法であって、
請求項1または2に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物をポリスルフィド網目鎖密度が45%超となるように100℃以上140℃未満の温度で加硫する低温加硫工程を有するコンベヤベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により得られるコンベヤベルトであって、
上面カバーゴム層、補強層および下面カバーゴム層からなり、
前記下面カバーゴム層の少なくとも裏面表面が、請求項1または2に記載のコンベヤベルト用ゴム組成物により形成される、コンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13262(P2010−13262A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176532(P2008−176532)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】