説明

コンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法

【課題】ポリエステル繊維やナイロン66繊維をタテ糸に使用した補強用織物をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に冷却工程を入れて冷却処理加工をすることで高強度な補強用織物を得ることが出来るコンベヤベルトのディップ加工方法。
【解決手段】接着液をディッピングした補強用織物の加工処理工程を、第1ドライ工程7、ヒートセット工程8、冷却工程9、ノルマライジング工程10の加工処理工程により構成し、前記冷却工程は5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒以上、連続的に冷却。また前記ヒートセット工程8では、補強用織物を180℃〜200℃の雰囲気下を40秒〜100秒間通過させ、ノルマライジング工程では、補強用織物を200℃〜220℃の雰囲気下で40秒〜100秒間通過させて加工。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法に係わり、更に詳しくはコンベヤベルトの補強用織物のタテ糸に汎用のポリエステル繊維及びナイロン66繊維を用いた場合であっても、ベルトの切断強度のさらなる向上が可能なコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンベヤベルトの補強用織物に使用される汎用合成繊維織物からなる補強用織物には、織物特性がタテ糸の原糸特性に依存しており、高強力な補強用織物にするためにはタテ糸で高価で入手しにくい高強力糸を用いたり、密度を高くしたりと、高コストで低生産性的な方法しか存在しなかった。
【0003】
タテ方向の強度が大きい補強用織物が必要な時は、タテ糸密度を大きくしたり、及び/又は高価な高強度糸を用いた特殊使用の補強用織物構造を使用するが、高コストで汎用性に欠けるため、低コストの汎用合成繊維織物からなる補強用織物が望まれていた。
【0004】
そのため、コンベヤベルトの合成繊維織物からなる補強用織物で、低コストで汎用性のある生産性的な加工方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−183505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明はかかる従来の課題に着目し、補強用織物のポリエステル繊維やナイロン66繊維をタテ糸に使用したコンベヤベルト補強用織物をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に冷却工程を設けて冷却処理加工をすることで現在最大限と思われた以上に強力を引き出すことが出来る高強度な補強用織物を得ることが出来るコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記目的を達成するため、補強用織物を接着液にディッピングした後、ドライ工程、ヒートセット工程、ノルマライジング工程の順に処理工程を行う際に、ヒートセット工程とノルマライジング工程との間にディッピングした前記補強用織物を5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上の冷却工程を設けて冷却することを要旨とするものである。
【0008】
ここで前記補強用織物を、5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒〜90秒間連続的に冷却する冷却工程をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に設けるものである。
【0009】
また、前記補強用織物をヒートセット後巻取り、5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上、72時間未満冷却する冷却工程をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に設けることも可能である。
【0010】
更に、前記ヒートセット工程では、補強用織物を180℃〜200℃の雰囲気下を40秒〜100秒間通過させ、ノルマライジング工程では、補強用織物を200℃〜220℃の雰囲気下で40秒〜100秒間通過させて加工することが望ましい。
【0011】
前記冷却工程は、ヒートセット工程とノルマライジング工程との間で連続的に冷却処理しても良く、またヒートセット工程後の補強用織物を巻き取り、前記雰囲気下において放置冷却後ノルマライジング工程で処理しても良い。
【0012】
連続処理する時の冷却条件は、5°C〜50°Cの雰囲気下で、更に好ましくは、5°C〜30°Cの雰囲気下で50秒間以上、好ましくは、50秒〜90秒間冷却するのが好ましい。
【0013】
またヒートセット工程後の補強用織物を巻き取り放置冷却する時は、5°C〜50°Cの雰囲気下で、更に好ましくは、5°C〜30°Cの雰囲気下で、50秒間以上、72時間未満放置することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、上記のように補強用織物を接着液にディッピングした後、ドライ工程、ヒートセット工程、ノルマライジング工程の順に処理工程を行う際に、ヒートセット工程とノルマライジング工程との間にディッピングした前記補強用織物を5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上の冷却工程を設けて冷却するので、低コストで、現在最大限と思われた以上に強力を引き出すことが出来る高強度な補強用織物を安価に製造することが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明により製造されるコンベヤベルトを例示する断面図である。
【図2】図1のコンベヤベルトの内部構造を例示する一部切欠した斜視図である。
【図3】接着液をディッピングした補強用織物に対する加工処理工程の第1実施形態を例示するブロック説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下添付図面に基づき、この発明のコンベヤベルトの製造方法の実施形態について説明する。
【0017】
この発明の製造方法により製造されるコンベヤベルト1は、図1、図2に例示するように合成繊維織物からなる補強用織物2a、2bを心体として、この2層の補強用織物2a、2bを上カバーゴム層5および下カバーゴム層6により挟んだ積層構造になっている。心体となる補強用織物2a、2bは2層に限定されることはなく、1層であっても、3層以上であってもよい。
【0018】
前記コンベヤベルト1は、その他、接着ゴムからなる中間ゴム層等、他の構成要素が適宜追加されて構成される。上カバーゴム層5、下カバーゴム層6としては、少なくとも天然ゴムを含むジエン系ゴムからなり、カーボンブラックなどによって耐摩耗性を良好にしたゴム組成物が用いられる。
【0019】
2層の補強用織物2a、2bはそれぞれ同じ仕様なので、代表して上側の補強用織物2aを例にして説明する。補強用織物2aは、図2に例示するように平織り構造で、3はタテ糸を示している。なお、この発明では、補強用織物2a、2bは、平織り構造に限らず、ハーフマット織、ユニコン織であってもよい。
【0020】
またヨコ糸4は、汎用のポリエステル繊維または汎用のナイロン繊維(N66)から形成され、切断伸度は例えば、ポリエステル繊維(PET)の場合は14%〜18%程度、ナイロン繊維(N66)の場合は19%〜23%程度である。縦糸3と横糸4とは同じ材質(仕様)にすることもでき、異なる材質(仕様)にすることもできる。
【0021】
また、この発明の第1実施形態では、接着液をディッピングした補強用織物の加工処理工程を、図3に示す第1ドライ工程7、ヒートセット工程8、冷却工程9(冷却風等により強制的に冷却する工程)、ノルマライジング工程10の連続した加工処理工程により構成し、前記冷却工程は5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上通過させ、好ましくは、5°C〜30°Cの雰囲気下で50秒〜90秒間通過させる。
【0022】
また前記ヒートセット工程では、補強用織物を180℃〜200℃の雰囲気下を40秒〜100秒間通過させ、ノルマライジング工程では、補強用織物を200℃〜220℃の雰囲気下で40秒〜100秒間通過させて加工することが望ましい。
【0023】
上記実施形態の製造方法では、接着液をディッピングした補強用織物2a、2bに対する処理工程を連続的に冷却処理する構成の場合を説明したが、第2の実施形態として、接着剤をディッピングした帆布をヒートセット工程後、一旦巻取り、5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上通過させ、好ましくは5°C〜30°Cの雰囲気下で50秒以上、72時間自然放置冷却させた後、ノルマライジング工程を実施しても良い。
【0024】
なお、ヒートセット工程8とノルマライジング工程10との条件は、連続処理でも巻取り処理でも同じである。
【0025】
何れの方法であっても、この発明の実施形態では、ヒートセット工程8とノルマライジング工程10との間に接着剤をディッピングした補強用織物の自然または強制の冷却工程を設けて帆布の加工処理を行うものである。
【0026】
なお、冷却工程における加工条件は、上述したと同様であるので説明は省略する。
【実施例】
【0027】
図2に例示した同様の平織り構造の補強用織物の構造で、タテを汎用のポリエステル、ヨコ糸をナイロン66にして、補強用織物の幅を350mmにしたことを共通条件として、表1に示すように、接着液をディッピングした補強用織物に対する処理工程を異ならせた試験サンプルを8種類(実施例1〜3、比較例1〜5)作製した。
表1中の中間伸度とは、タテ糸原糸をコードの種類、太さに応じてJIS L1012の規定する荷重で引張った時の伸度である。
【0028】
タテ糸原糸物性の切断強度と伸度の測定は、JIS L1012に準拠して行ない、定速伸長形の引張試験器を用いて、つかみ間隔を25cmにして撚り数が変わらないようにして初期荷重を負荷して引張速度30cm/minの条件により測定した値である。
【0029】
また、表1中の1Dは第1ドライ工程、HSはヒートセット工程、Eは冷却工程、NLはノルマライジング工程を示している。作製した8種類の試験サンプルに対して、下記のとおり、ベルト(補強用織物)の切断強度、切断伸度を測定し評価した。その結果は表1に示すとおりである。
【0030】
[強度および伸度試験]
補強用織物の切断強度、切断伸度の測定はJIS L1096に準拠して行ない、定速伸長形の引張試験器を用いて、所定のつかみ間隔で引張速度100mm/minの条件により測定し、ベルト補強用織物特性の原糸特性の強度に対する強度保持率を比較した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、タテ糸をポリエステル繊維(A)、ポリエステル繊維(B)、ナイロン66繊維(A)の平織りの補強用織物を接着剤にディッピングした後の処理工程を、この発明で規定した条件に設定した実施例では、比較例に較べてベルト補強用織物特性を冷却工程を経ることで3%向上させることが出来る。
【0033】
例えば、350mmの補強用織物の幅のとき、従来の構成/構造の補強用織物でありながらコストアップすることなく、3%/ベルト幅の強度向上が期待できる。
【符号の説明】
【0034】
1 コンベヤベルト
2a、2b 補強用織物
3 縦糸
4 横糸
5 上カバーゴム層
6 下カバーゴム層
7 第1ドライ工程
8 ヒートセット工程
9 冷却工程
10 ノルマライジング工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸がポリエステル繊維またはナイロン66繊維からなるコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法において、
前記補強用織物を接着液にディッピングした後、ドライ工程、ヒートセット工程、ノルマライジング工程の順に処理工程を行う際に、ヒートセット工程とノルマライジング工程との間にディッピングした前記補強用織物を5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上の冷却工程を設けて冷却するコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法。
【請求項2】
前記補強用織物を、5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒〜90秒間連続的に冷却する冷却工程をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に設ける請求項1に記載のコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法。
【請求項3】
前記補強用織物をヒートセット後巻取り、5°C〜50°Cの雰囲気下で50秒間以上、72時間未満冷却する冷却工程をヒートセット工程とノルマライジング工程との間に設ける請求項1に記載のコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法。
【請求項4】
前記ヒートセット工程では、補強用織物を180℃〜200℃の雰囲気下を40秒〜100秒間通過させ、ノルマライジング工程では、補強用織物を200℃〜220℃の雰囲気下で40秒〜100秒間通過させて加工する請求項1,2または3に記載のコンベヤベルト補強用織物のディップ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−105422(P2011−105422A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260666(P2009−260666)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】