説明

コンベヤベルト

【課題】生産性を損なうことなく、優れたトラフ性および耐挫屈性を確保することができるコンベヤベルトを提供する。
【解決手段】繊維補強層4の縦糸5を、フィラメント糸を1本または複数本ずつ同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りした糸を合わせて逆方向に上撚りした諸撚り構造にして、耐挫屈性を良好にするとともに、縦糸5の上撚り係数Kを適正な範囲(K=1000〜2400)に設定することにより、繊維補強層4の強度低下を抑制しつつ、更に耐挫屈性を向上させ、繊維補強層4の横糸6の配置密度を5〜15本/5cmとし、繊維補強層4の横方向強度を150〜350N/cm・plyにすることにより、適度なトラフ性を得つつ、縦糸5をばらけ難くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトに関し、さらに詳しくは、生産性を損なうことなく、優れたトラフ性および耐挫屈性を確保することができるコンベヤベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトの心材としては、平織構造の繊維補強層を単数または複数積層したものが多用され、その繊維補強層の仕様については、種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。平織構造の繊維補強層は、例えば、パイプコンベヤベルトや空気浮上式コンベヤベルトなどのキャリアローラや外側を保持するガイドパイプに馴染むように変形する性能(トラフ性)が強く求められるコンベヤベルトにも用いられている。
【0003】
平織構造の繊維補強層の場合、横糸の配置密度、或いは、横糸の繊度を小さくして横剛性をある程度低減させることにより、トラフ性を向上させることができる。しかしながら、このような対策を講じると、縦糸のクリンプ(上下の湾曲)が小さくなるため、耐挫屈性が悪化するという問題が生じる。また、繊維補強層の面剛性が低下し縦糸がばらけ易くなるため、エンドレス加工する際の作業が煩雑になり、生産性を低下させる要因になるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−246018号公報
【特許文献2】特開2006−282299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、生産性を損なうことなく、優れたトラフ性および耐挫曲性を確保することができるコンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトは、平織構造の繊維補強層を有するコンベヤベルトであって、前記繊維補強層の縦糸を、フィラメント糸を1本または複数本ずつ同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りしたフィラメント糸を合わせて逆方向に上撚りした諸撚り構造とし、その上撚りについて、縦糸の総繊度D(dtex)、縦糸の上撚り数T(回/10cm)とした際に下記(1)式による算出される上撚り係数Kを1000〜2400にするとともに、繊維補強層の横糸の配置密度を5〜15本/5cmとし、繊維補強層の横方向強度を150〜350N/cm・plyにしたことを特徴とするものである。
K=T×D1/2・・・(1)
【0006】
ここで、前記繊維補強層の縦糸の弾性率を、10GPa以上にすることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンベヤベルトによれば、繊維補強層の縦糸を、耐挫屈性が良好な諸撚り構造にするとともに、上記(1)式により算出される縦糸の上撚り係数Kを適正な範囲(K=1000〜2400)に設定したので、繊維補強層の強度低下を抑制しつつ、更に耐挫屈性を向上させることができる。また、繊維補強層の横糸の配置密度を5〜15本/5cmとし、繊維補強層の横方向強度を150〜350N/cm・plyにしたことにより、適度なトラフ性を得つつ、縦糸をばらけ難くしているので、エンドレス加工の作業が特別煩雑になることがなく、生産性の低下を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のコンベヤベルトを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0009】
図1、図2に例示するように、本発明のコンベヤベルト1は、上ゴム層2と下ゴム層3との間に芯材となる4層の繊維補強層4a、4b、4c、4dが埋設されて構成されている。繊維補強層4の積層数はコンベヤベルト1に対する要求性能(剛性、伸び等)により決定され、4層に限定されず、単層或いはその他の複数層となる。これら繊維補強層4a〜4dは、ベルト長手方向に延びる縦糸5と、ベルト幅方向に延びる横糸6とが交互に上下に交錯する平織構造であり、すべての層が同仕様になっている。
【0010】
繊維補強層4を構成する縦糸5は、図3に例示するように、複数のフィラメント糸5aをそれぞれ1本ずつ同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りしたフィラメント糸5aを合わせて逆方向に上撚りした諸撚り構造になっている。下撚りするフィラメント糸5aは1本に限らず、複数本ずつ同一方向に下撚りするようにしてもよい。また、上撚りする糸は複数本であればよい。
【0011】
諸撚り構造の縦糸5は、1本または複数のフィラメント糸を引き揃え、一方向に撚っただけの片撚り構造に比べて、良好な耐挫屈性を得ることができる。下撚りと上撚りは、異なる撚り数にすることもできるが、安定性を得るために同数、或いは略同数とすることが好ましい。
【0012】
ここで、上撚りについては、縦糸5の総繊度D(dtex)、縦糸5の上撚り数T(回/10cm)とした際に、K=T×D1/2により算出される上撚り係数Kを1000〜2400にしている。この上撚り係数Kは、大きくなる程、縦糸5の引張り強度は低下し、耐挫屈性は向上する。そこで、本発明では、上撚り係数Kを1000以上2400以下の範囲に設定して繊維補強層4の強度低下を抑制しつつ、一段と耐挫屈性を向上させている。
【0013】
さらに、繊維補強層4の横糸6の配置密度を5〜15本/5cmとし、繊維補強層4の横方向強度を150〜350N/cm・plyにしている。この横方向強度とは、繊維補強層4を横方向に引張った際の破断強度であり、JIS L1096:1999に記載されるラベルストリップ法に準拠した引張試験方法により得られる。
【0014】
横糸6の配置密度および繊維補強層4の横方向強度を上記範囲に設定することにより、コンベヤベルト1の横剛性が適度な大きさになる。これにより、パイプコンベヤベルトの場合ではキャリアローラに馴染むように変形し易くなり、空気浮上式コンベヤベルトの場合では、ベルト外側を保持するガイドパイプに馴染むように変形し易くなり、良好なトラフ性を得ることができる。
【0015】
一方で、上記した所定範囲の配置密度の横糸6の存在により縦糸5は適度なクリンプを有するので、耐挫屈性が悪化することがない。また、繊維補強層4の面剛性が過度に低下することがなく、縦糸5がばらけ易くなることもない。したがって、エンドレス加工の作業が煩雑になることがなく、生産性の低下を回避することができる。
【0016】
縦糸5および横糸6はポリエステル、ポリケトン、アラミド、ビニロン、ナイロンなど種々の材質を使用することができるが、縦糸5には、ある程度の剛性を確保するため、10GPa以上の弾性率を有する材質を用いることが好ましく、例えば、ポリエステル、ポリケトン、アラミドが好適である。
【0017】
このコンベヤベルト1は、図4に例示するように、プーリ7の間に張架されて使用される。コンベヤベルト1がプーリ7まわりを通過する際には、繊維補強層4の中で最内周側の繊維補強層4aに最大の圧縮応力が生じるため、最も挫屈し易くなる。そこで、既述した仕様の繊維補強層4を、最内周側の繊維補強層4aにのみ適用してもよい。或いは、既述した仕様の繊維補強層4を、少なくとも最内周側の1層の繊維補強層4aに適用するようにしてもよい。
【実施例】
【0018】
縦糸の材質をポリエステル、横糸の材質をナイロンとし、所定の厚みのゴムをコートした平織構造の繊維補強層とし、この同仕様の繊維補強層を4層にして、厚さ3mmの上ゴム層、厚さ2mmの下ゴム層の間に挟んだ厚さ約9mmを共通の仕様とした試験サンプルを作製した。その際に、縦糸の構造、上記(1)式により算出される縦糸の上撚り係数K、横糸の配置密度、繊維補強層の横方向強度を、表1に示すように変化させた11種類の試験サンプル(実施例1〜5、従来例1、比較例1〜5)を作製し、それぞれの試験サンプルについてトラフ性、耐挫屈性、エンドレス加工性、対原糸織物縦方向強度保持率を評価し、その結果を表1に示す。
【0019】
[トラフ性]
JIS K6322:1999(布層コンベヤベルト)に準拠して行なった。試験サンプル(幅800mm、長さ150mm)の幅方向両端縁を支持バーにより固定し、試験サンプルを水平に引張った状態で各支持バー端を懸架し、24時間放置した後に試験サンプルの最大たわみ量を測定した。最大たわみ量が300mm超の場合を良好として○、200mm超300mm以下の場合を並として△、200mm以下の場合を悪いとして×で示した。
【0020】
[耐挫屈性]
試験サンプルを直径200mmのプーリに180°巻き付けた際の最も内周側に積層した繊維補強層の状態を確認した。最内周側の繊維補強層がプーリの周面に沿って追従した場合を○、追従せずに波打って縦糸が挫屈し易い状態になった場合を×として評価した。
【0021】
[エンドレス加工性]
試験サンプルの長手方向端部どうしを接合する際の加工性の良否を評価したもので、縦糸のばらけ具合が小さく、加工作業が円滑に行なえる場合を良好として○、縦糸のばらけ具合を大きく、加工作業が煩雑になる場合を悪いとして×で示した。
【0022】
[対原糸織物縦方向強度保持率R]
JIS L1096に準拠する引張試験方法により得られた織物強力F(N/3cm)、JIS L1013に準拠する引張試験方法により得られたコード強力Y(N/本)、織物の縦密度W(本/3cm)によって下記(2)式により算出され、織物(繊維補強層)にした際に縦糸を構成する原糸(フィラメント糸)の引張り強度をどの程度有効に利用しているかを示すもので、数値が高い程、良好であることを示す。
R=(F/(Y×W))×100(%)・・・(2)
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果より、縦糸を諸撚り構造とし、本発明で規定した縦糸の上撚り係数Kの範囲(1000〜2400)、横糸の配置密度の範囲(5〜15本/5cm)および横方向強度の範囲(150〜350N/cm・ply)を満たす繊維補強層を用いることにより、トラフ性、耐挫屈性、エンドレス加工性および対原糸織物縦方向強度保持率に優れたコンベヤベルトを得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のコンベヤベルトの内部構造を例示する断面図である。
【図2】図1のコンベヤベルトを一部切欠いて例示する斜視図である。
【図3】図1の繊維補強層を構成する縦糸の諸撚り構造を例示する説明図である。
【図4】図1のコンベヤベルトをプーリ間に架張した状態を例示する側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 コンベヤベルト
2 上ゴム層
3 下ゴム層
4、4a、4b、4c、4d 繊維補強層
5 縦糸
5a フィラメント糸
6 横糸
7 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平織構造の繊維補強層を有するコンベヤベルトであって、前記繊維補強層の縦糸を、フィラメント糸を1本または複数本ずつ同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りした糸を合わせて逆方向に上撚りした諸撚り構造とし、その上撚りについて、縦糸の総繊度D(dtex)、縦糸の上撚り数T(回/10cm)とした際に下記(1)式による算出される上撚り係数Kを1000〜2400にするとともに、繊維補強層の横糸の配置密度を5〜15本/5cmとし、繊維補強層の横方向強度を150〜350N/cm・plyにしたことを特徴とするコンベヤベルト。
K=T×D1/2・・・(1)
【請求項2】
前記繊維補強層の縦糸の弾性率が、10GPa以上である請求項1に記載のコンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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