説明

コンベヤベルト

【課題】耐挫屈性を損なうことなく、高い生産性を確保できるコンベヤベルトを提供する。
【解決手段】繊維補強層4の縦糸5および横糸6を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成することにより、撚り工程を不要にして生産性を向上させ、コンベヤベルト1の規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下とし、引張り切断伸度を25%以上40%以下にしたことにより、プーリまわりを通過する際に適度な伸びが生じるため、縦糸5および横糸6の無撚り化によって縦糸5のクリンプが小さくなっていても、この適度な伸びよって縦糸5に生じる座屈応力を緩和して耐挫屈性の低下を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトに関し、さらに詳しくは、耐挫屈性を損なうことなく、高い生産性を確保できるコンベヤベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトの芯材としては、平織構造の繊維補強層を単数または複数積層したものが多用されている。平織構造の繊維補強層では一般に、縦糸および横糸が、マルチフィラメントヤーンに数十回撚りを付与した構造になっている。
【0003】
そのため、縦糸および横糸の線径が太くなり、これらをゴム被覆した繊維補強層も必然的に厚くなるので、耐挫屈性には不利な構造になっている。また、被覆ゴム層も厚くなるため、コンベヤベルトを稼動させる際のエネルギー消費も大きくなる。さらには、撚りを付与する工程が必要になるため、生産性を向上させるには不利であった。
【0004】
ここで、撚り工程を省略して、縦糸および横糸を無撚り化することにより、生産性を向上させることができる。例えば、本発明とは目的は異なるが、繊維補強層を構成する糸(緯糸)に無撚り糸を用いたコンベヤベルトが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、縦糸および横糸を単純に無撚り化すれば、横糸が扁平化し易くなるため、縦糸のクリンプ(上下の湾曲)が小さくなって、耐挫屈性が悪化するという新たな問題が生じることになる。
【特許文献1】実開平7−35414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐挫屈性を損なうことなく、高い生産性を確保できるコンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトは、平織構造の繊維補強層を有するコンベヤベルトであって、前記繊維補強層の縦糸および横糸を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成し、規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下とし、引張り切断伸度を25%以上40%以下にしたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記繊維補強層の縦糸の弾性率を、例えば、10GPa以上にする。また、前記繊維補強層が複数積層された構造の場合には、その複数の繊維補強層の内、最内周側になる繊維補強層についてのみ、縦糸および横糸を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成することもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンベヤベルトによれば、繊維補強層の縦糸および横糸を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成することにより、撚り工程が不要になるため、生産性を向上させることができる。また、コンベヤベルトの規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下とし、引張り切断伸度を25%以上40%以下にしたことにより、プーリまわりを通過する際に適度な伸びが生じるため、繊維補強層の縦糸および横糸の無撚り化によって縦糸のクリンプが小さくなっていても、この適度な伸びにより圧縮応力を緩和して耐挫屈性の低下を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のコンベヤベルトを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1、図2に例示するように、本発明のコンベヤベルト1は、上ゴム層2と下ゴム層3との間に芯材となる4層の繊維補強層4a、4b、4c、4dが埋設されて構成されている。繊維補強層4の積層数はコンベヤベルト1に対する要求性能(剛性、伸び等)により決定され、4層に限定されず、単層或いはその他の複数層となる。これら繊維補強層4a〜4dは、ベルト長手方向に延びる縦糸5と、ベルト幅方向に延びる横糸6とが交互に上下に交錯する平織構造であり、すべての層が同仕様になっている。
【0011】
繊維補強層4を構成する縦糸5および横糸6はそれぞれ、図3に例示するように、複数のフィラメント糸5a、6aを実質的に無撚りの状態で引き揃えて合わせたものであり、実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成されている。実質的に無撚りとは、強制的に撚りを付与していない状態、いわゆる原糸撚りの状態をいう。縦糸5および横糸6を構成するフィラメント糸5a、6aの本数は適宜決定された複数となる。
【0012】
このように無撚り化した縦糸5および横糸6を用いることにより、撚りを付与する工程が不要になるため、撚り構造の縦糸および横糸を用いる場合に比べて高い生産性を確保できる。また、無撚り化に伴い、縦糸5および横糸6の太径化が抑制され、これらをゴム被覆する繊維補強層4も薄くできるので、耐挫屈性には有利な構造になる。また、繊維補強層4の被覆ゴム層も薄くできるため、コンベヤベルト1を稼動させる際のエネルギー消費を小さくできる。
【0013】
縦糸5と横糸6とは、同じ構造(同じ外径で同じ本数のフィラメント糸5a、6a)にすることもでき、また、それぞれのフィラメント糸5a、6aの外径や本数を変えることもできる。縦糸5と横糸6とで、それぞれのフィラメント糸5a、6aの外径を同じにした場合には、横糸6のフィラメント糸6aの本数を、縦糸5のフィラメント糸5aの本数よりも多くすることにより、縦糸5のクリンプを相対的に大きくできるので、耐挫屈性を向上させるには有利になる。また、縦糸5と横糸6とでフィラメント糸5a、6aの本数を同じにした場合には、横糸6のフィラメント糸6aの外径を、縦糸5のフィラメント糸5aの外径よりも大きくすることにより、縦糸5のクリンプを相対的に大きくできるので、耐挫屈性を向上させるには有利になる。
【0014】
さらに、本発明ではコンベヤベルト1の規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下とし、引張り切断伸度を25%以上40%以下に設定している。コンベヤベルト1の規定された引張り強さとは、例えば、JIS K6322(5.1.2項布層の特性など)に記載されているものである。
【0015】
この引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下にしつつ、引張り切断伸度を25%以上にすることにより、コンベヤベルト1が図4に例示するようにプーリ7間に張架されてプーリ7まわりを通過する際に、適度な伸びが生じる。そのため、繊維補強層4の縦糸5および横糸6の無撚り化によって縦糸5のクリンプが小さくなっていても、この適度な伸びよって縦糸5に生じる挫屈応力が緩和されて耐挫屈性の低下を回避することができる。一方で、引張り切断伸度を40%以下にすることによって、コンベヤベルト1を稼動させた際にプーリ7でスリップが生じないようにしている。
【0016】
縦糸5および横糸6はポリエステル、アラミド、ビニロン、ナイロンなど種々の材質を使用することができるが、縦糸5には、ある程度の剛性を確保するため、10GPa以上の弾性率を有する材質を用いることが好ましく、ポリエステルが好適である。
【0017】
このコンベヤベルト1は図4に例示するように、プーリ7の間に張架され、コンベヤベルト1がプーリ7まわりを通過する際には、繊維補強層4の中で最内周側の繊維補強層4aに最大の圧縮応力が生じるため、最も挫屈し易くなる。そこで、繊維補強層4が複数積層されている場合には、最内周側になる繊維補強層4aについてのみ、縦糸5および横糸6を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成した仕様にすることもできる。或いは、縦糸5および横糸6を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成した繊維補強層4を、少なくとも最内周側の1層の繊維補強層4aに適用する。
【実施例】
【0018】
縦糸の材質をポリエステル、横糸の材質をナイロンとし、それぞれをマルチフィラメントヤーンで構成し、所定の厚みのゴムをコートした平織構造の繊維補強層とし、この同仕様の繊維補強層を4層にして、厚さ3mmの上ゴム層、厚さ2mmの下ゴム層の間に挟んだ厚さ約9mmを共通の仕様とした試験サンプルを作製した。その際に、縦糸および横糸の撚り構造、規定された引張り強さの1/10荷重時の伸び、引張り切断伸度を、表1に示すように変化させた7種類の試験サンプル(実施例1〜3、従来例1、比較例1〜3)を作製し、それぞれの試験サンプルについて耐挫屈性、耐スリップ性、生産性を評価し、その結果を表1に示す。上記の規定された引張り強さの1/10荷重時の伸び、引張り切断伸度は、JIS K6322:1999の9.3.5項に規定されている引張試験に準拠して行なった際の値である。尚、従来例は、縦糸および横糸が片撚り構造である。
【0019】
[耐挫屈性]
試験サンプルを直径200mmのプーリに180°巻き付けた際の最も内周側に積層した繊維補強層の状態を確認した。最内周側の繊維補強層がプーリの周面に沿って追従した場合を○、追従せずに波打って縦糸が挫屈し易い状態になった場合を×として評価した。
【0020】
[耐スリップ性]
試験サンプルのプーリ間に張架して稼動させた際に、プーリ上でスリップが発生しない場合を良好として○、スリップが生じて実用上支障がある場合を悪いとして×で示した。
【0021】
[生産性]
繊維補強層の縦糸および横糸が、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成さている場合を生産性が良好として○、縦糸および横糸が無撚り化されていない場合を、撚り工程が必要となるため生産性が悪いとして×で示した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果より、繊維補強層の縦糸および横糸を実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成し、本発明で設定したコンベヤベルトの規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びの範囲(0.5%〜2.5%)および引張り切断伸度の範囲(25%以上40%以下)を満たす仕様にすることにより、耐挫屈性、耐スリップ性および生産性に優れたコンベヤベルトを得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のコンベヤベルトの内部構造を例示する断面図である。
【図2】図1のコンベヤベルトを一部切欠いて例示する斜視図である。
【図3】図1の繊維補強層を構成する縦糸および横糸の構造を例示する説明図である。
【図4】図1のコンベヤベルトをプーリ間に架張した状態を例示する側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 コンベヤベルト
2 上ゴム層
3 下ゴム層
4、4a、4b、4c、4d 繊維補強層
5 縦糸
5a フィラメント糸
6 横糸
6a フィラメント糸
7 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平織構造の繊維補強層を有するコンベヤベルトであって、前記繊維補強層の縦糸および横糸を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成し、規定された引張り強さの1/10荷重時の伸びを0.5%以上2.5%以下とし、引張り切断伸度を25%以上40%以下にしたことを特徴とするコンベヤベルト。
【請求項2】
前記繊維補強層の縦糸の弾性率が、10GPa以上である請求項1に記載のコンベヤベルト。
【請求項3】
前記繊維補強層が複数積層され、その複数の繊維補強層の内、最内周側になる繊維補強層についてのみ、縦糸および横糸を、それぞれ実質的に無撚りのマルチフィラメントヤーンにより構成した請求項1または2に記載のコンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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