説明

コンベヤ用軸受

【課題】防塵性、防水性、低トルクを実現することができ、低コストでコンパクトなコンベヤ用軸受を提供すること。
【解決手段】軸に外嵌・固定される内輪1と、内輪1に対して、玉3を介して回転自在に配置された外輪2と、この外輪2と内輪1との間にグリースを密封するためのシール部材とから構成されている。このシール部材は、径方向断面がL字形状で、内輪1及び外輪2の軸方向端部に、軸方向に相対するように間隔dを置いて各々に固定された2つのL字環状部材4,5から成っており、内輪1側のL字環状部材5は、外輪2側のL字環状部材4に嵌着されたシールリップ7が接触するように、軸方向外側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機械に使用される軸受であって、コンベヤのアイドラローラに用いられ、その防塵性や防水性の向上、及び構成の簡単化を図ったコンベヤ用軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンベヤアイドラローラ用軸受(以後、コンベヤ用軸受と言う)は、防塵性、防水性を持たせるために、シールド板タイプの深溝玉軸受、若しくは開放型の玉軸受の外側に、ラビリンス(迷路の意)形状をしたシールを組み合わせた図2に示す構成のものが一般に使用されている。
【0003】
同図に示すように、コンベヤ用軸受20は、軸11に外嵌・固定された内輪1と、複数の玉3を介して、内輪1に対して回転自在に配置された外輪2から成っている。外輪2は、アイドラローラ12の内周面に固定された軸受部材13に内嵌・固定されている。内輪1の軸11方向外側には、これに隣接した形でラビリンスシール14が軸11に外嵌・固定されており、その外径側のリップ部14aが軸受部材13に摺接するようになっている。このラビリンスシール14の内側部分には、グリースが充填されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のコンベヤ用軸受20においては、防塵性や防水性を向上させるために、ラビリンスシール14の構造を複雑にしたり、同シール14内部に多量のグリースを充填する必要があった。
【0005】
このように、ラビリンス構造が複雑になることから、加工し難いだけでなく、組み立ても困難になる。そのため、加工や組み立てコストが大幅に高くなるという問題点があった。
【0006】
また、ラビリンスシール14内部にグリースを多量に封入することから、グリースの使用量の増大、高コスト化につながるのに加えて、アイドラローラ12のトルクが増大するので、アイドラローラ12を回転させるモータを、より出力の大きいものにする必要が生じてくる。結果として、使用する電力量が増え、コンベヤ自体の構造も大型化してしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来の不具合を解消するために、防塵性や防水性を有しながら低トルクを実現することができ、低コストでコンパクトなコンベヤ用軸受を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明では、軸に外嵌・固定される内輪と、この内輪の軌道面に転動自在に配置された複数の玉と、前記内輪に対して、前記玉を介して回転自在に配置された外輪と、この外輪と前記内輪との間にグリースを密封するためのシール部材とから成るコンベヤ用軸受において、前記シール部材は、径方向断面がL字形状で、前記内輪及び外輪の軸方向端部に、軸方向に相対するように所定の間隔を置いて各々に固定された2つのL字環状部材から成っており、前記内輪側のL字環状部材は、前記外輪側のL字環状部材に嵌着されたシールリップが接触するように、軸方向外側に配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明のコンベヤ用軸受において、前記シールリップは、2つのリップ部を有していることが好ましい。
【0010】
本発明のコンベヤ用軸受において、前記内輪側のL字環状部材の外径寸法は、前記外輪側のL字環状部材の外径寸法よりやや小さく設定されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコンベヤ軸受において、前記内輪側のL字環状部材の外径寸法は、前記外輪側のL字環状部材の外径寸法よりやや大きく設定され、且つ前記外輪側のL字環状部材には、前記内輪側のL字環状部材との間隔を狭めるための凸部材が取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、外輪側のL字環状部材のシールリップが内輪側のL字環状部材に摺接することにより、軸受内のグリースが密封されると共に、ラビリンス構造によって、防塵性や防水性を確保することができる。
【0013】
また、低トルクのシールリップによってグリースの密封性を維持し、従来の複雑な構造のラビリンスシールを省略することができるので、アイドラローラの低トルク化を実現することができると共に、低コスト化、コンパクト化にも寄与することができる。
【0014】
このように、構造を簡単にすることができるので、コンベヤの組み立てに特別な設備投資をする必要がなく、製作工程の簡素化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態を示すコンベヤ用軸受の軸方向断面図である。
図1に示すコンベヤ用軸受10は、背景技術の図3で示したように、アイドラローラ12の軸受部材13に軸受20に代えて内嵌した形で取り付けられるもので、その全体構成の重複する説明は省略する。
【0017】
図1において、本第1実施形態のコンベヤ用軸受10は、図示しない軸に外嵌・固定される内輪1と、内輪1の軌道面1aに転動自在に配置された複数の玉3と、内輪1に対して、玉3を介して回転自在に配置された外輪2とを備えている。外輪2は、図示しないアイドラローラの軸受部材(図3参照)に内嵌・固定されている。
【0018】
外輪2の軸方向外側の内径側端部には、シール部材である第1のL字環状部材4が固定され、内輪1の軸方向外側の外径側端部には、第2のL字環状部材5が、軸方向で第1のL字環状部材4と相対して、外側位置になるように固定されている。これら第1と第2のL字環状部材4,5は、それぞれ径方向断面がL字形状で、第1のL字環状部材4は、径方向に延びる円板部と該円板部の外径側端部で軸受内方に折れ曲がって円筒部を形成し、この円筒部端部が外輪2の軸方向外側で内径側端部に形成された切欠き部2aの内径部端面に固定されている。第2のL字環状部材5は径方向に延びる円板部と該円板部の内径側端部で軸受内方に向けて折れ曲がって円筒部を形成し、この円筒部の内周面が内輪1の外周面に嵌着・固定されている。また、第2のL字環状部材5の外径寸法Rは、第1のL字環状部材4の外径寸法rよりもやや小さく(R<r)設定されている。第1のL字環状部材4の円板部と第2のL字環状部材5の円板部とは軸方向間隔dとされている。
【0019】
第1のL字環状部材4の内径側端部には、シールリップ7が嵌着・固定されており、その2つのリップ部7a,7bが第2のL字環状部材5の内側面に各々摺接するようになっている。すなわち、一方のリップ部7aは、第2のL字環状部材5の円筒部外周面に接触し、他方のリップ部7bは、第2のL字環状部材5の円板部の内側面に接触するように配置されて、ラビリンス構造とされている。リップ部7a、第1のL字環状部材4、外輪2、玉3、及び内輪1で形成される空間にはグリースが充填されている。
【0020】
この構成において、アイドラローラ(図3参照)回転時に、第1のL字環状部材4のシールリップ7(リップ部7a,7b)が第2のL字環状部材5に摺接することにより、軸受10内のグリースが密封されると共に、ラビリンス構造によって、外部からの塵や水分が浸入しにくくなっているので、密封性が高まり、防塵性や防水性を確保することができる。
【0021】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態を示すコンベヤ用軸受の軸方向断面図である。
なお、図2の第2実施形態においても、図1の第1実施形態と同じ構造部分については同じ符号をもって説明する。
【0022】
図2に示すコンベヤ用軸受110は、背景技術の図3で示したように、アイドラローラ12の軸受部材13に軸受20に代えて内嵌した形で取り付けられるもので、その全体構成の重複する説明は省略する。
【0023】
図2において、本第2実施形態のコンベヤ用軸受110は、図示しない軸に外嵌・固定される内輪1と、内輪1の軌道面1aに転動自在に配置された複数の玉3と、内輪1に対して、玉3を介して回転自在に配置された外輪2とを備えている。外輪2は、図示しないアイドラローラの軸受部材(図3参照)に内嵌・固定されている。
【0024】
外輪2の軸方向外側の内径側端部には、シール部材である第1のL字環状部材104が固定され、内輪1の軸方向外側の外径側端部には、第2のL字環状部材105が、軸方向で第1のL字環状部材104と相対して、外側位置になるように固定されている。これらの第1と第2のL字環状部材104,105は、それぞれ径方向断面がL字形状で、第1のL字環状部材4は径方向に延びる円板部と該円板部の外径側端部で軸受内方に折れ曲がって円筒部を形成し、この円筒部端部が外輪2の軸方向外側で内径側端部に形成された切欠き部2aの内径部端面に固定されている。第2のL字環状部材105は径方向に延びる円板部と該円板部の内径側端部で軸受内方に向けて折れ曲がって円筒部を形成し、この円筒部の内周面が内輪1の外周面に嵌着・固定されている。第2のL字環状部材105の外径寸法Rは、第1のL字環状部材104の外径寸法rよりもやや大きく(R>r)設定されている。第2のL字環状部材105の円板部と第1のL字環状部材104の円板部とは、軸方向間隔dとされている。
【0025】
第1のL字環状部材104の内径側端部には、シールリップ107が嵌着・固定されており、その2つのリップ部107a,107bが第2のL字環状部材105の内側面に各々摺接するようになっている。一方のリップ部107aは、第2のL字環状部材105の円筒部外周面に接触し、他方のリップ部107bは、第2のL字環状部材105の円筒部の内側面に接触するように配置されている。このリップ部107a、第1のL字環状部材104、外輪2、玉3、及び内輪1で形成される空間にはグリースが充填されている。
【0026】
第1のL字環状部材104の円板部外径側と円筒部外周面および外輪2の切欠き部2a内には、第1のL字環状部材104と第2のL字環状部材105との間隔dを狭める形の凸部材8が嵌着・固定されることにより、ラビリンス構造とされている。
【0027】
この構成において、アイドラローラ(図3参照)回転時に、第1のL字環状部材104のシールリップ107(リップ部107a,107b)が第2のL字環状部材105に摺接することにより、軸受110内のグリースが密封されると共に、第2のL字環状部材105の外径Rが第1のL字環状部材104の外径rよりも大きく、且つ、間隔dを凸部材8で狭めたラビリンス構造によって、外部からの塵や水分が浸入しにくくなっているので、密封性が高まり、防塵性や防水性を確保することができる。
【0028】
このように、低トルクのシールリップ107によってグリースの密封性を維持して、従来の複雑な構造のラビリンスシールを省略することができるので、アイドラローラの低トルク化を実現することができると共に、低コスト化、コンパクト化にも寄与することができる。
【0029】
また、構造を簡単にすることができるので、コンベヤの組み立てに特別な設備投資をする必要がなく、製作工程の簡素化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態を示すコンベヤ用軸受の軸方向断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示すコンベヤ用軸受の軸方向断面図である。
【図3】従来のコンベヤ用軸受を有するアイドラローラを示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
3 玉
4,104 第1のL字環状部材
5,105 第2のL字環状部材
7,107 シールリップ
7a,107a リップ部
7b,107b リップ部
8 凸部材
10,110 コンベヤ用軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に外嵌・固定される内輪と、この内輪の軌道面に転動自在に配置された複数の玉と、前記内輪に対して、前記玉を介して回転自在に配置された外輪と、この外輪と前記内輪との間にグリースを密封するためのシール部材とから成るコンベヤ用軸受において、
前記シール部材は、径方向断面がL字形状で、前記内輪及び外輪の軸方向端部に、軸方向に相対するように所定の間隔を置いて各々に固定された2つのL字環状部材から成っており、前記内輪側のL字環状部材は、前記外輪側のL字環状部材に嵌着されたシールリップが接触するように、軸方向外側に配置されていることを特徴とするコンベヤ用軸受。
【請求項2】
前記シールリップは、2つのリップ部を有していることを特徴とする請求項1記載のコンベヤ用軸受。
【請求項3】
前記内輪側のL字環状部材の外径寸法は、前記外輪側のL字環状部材の外径寸法よりやや小さく設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載のコンベヤ用軸受。
【請求項4】
前記内輪側のL字環状部材の外径寸法は、前記外輪側のL字環状部材の外径寸法よりやや大きく設定され、且つ前記外輪側のL字環状部材には、前記内輪側のL字環状部材との間隔を狭めるための凸部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のコンベヤ用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−208946(P2008−208946A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47259(P2007−47259)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】