説明

コンポーネント内の残留応力を測定する方法及び装置

【課題】特に専門的な装置を必要とすることなく、既存の装置を使用してワークピース内の厚さ方向にわたる応力分布を測定する方法を提供する。
【解決手段】ワークピースを第1ポジション及び該第1ポジションから離間した第2ポジションでクランプするステップ44と、第1の材料除去作業を前記第1ポジションと前記第2ポジションとの中間における第3ポジションで行うステップと、前記ワークピースを前記第2ポジションで釈放するステップ54と、前記ワークピースにおける前記第1変形量を測定するステップ56と、前記第1変形量から前記ワークピース内の前記残留応力を決定するステップ60と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポーネント内(構成部材)の残留応力を測定する方法及び装置に関する。より具体的には、特に金属で構成したエンジニアリング・コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力であって、圧延(ロール)成形などの製造工程から発生した残留応力を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延成形などの製造工程は、コンポーネントの厚さ方向にわたる残留応力を発生させる。このような応力は、即座に表顕するものではなく、なぜならこのような応力は、基本的にビレット(鋼片)の厚さ全体にわたって対称的になる傾向がある(従って正味歪みを生ずるものではない)からである。残留応力は、コンポーネントの使用時に問題を引き起こす。なぜなら加えた荷重が、コンポーネント内に予想以上の応力を発生することがあるからである。さらに、コンポーネントを圧延後にある大きさに機械加工する場合、残留応力により、機械加工後に予期しない歪みを生ずることがある。
【0003】
これら残留応力を測定することができ、従ってコンポーネントの使用時又は後の機械加工時にこれらの残留応力を考慮できることは有益である。このことにより、予想外に大きな応力に起因してコンポーネントの寿命が予期しないほど短縮するのをすべて回避すると共に、コンポーネントの製造時に歪みが生ずるのを回避できるよう、残留応力を考慮に入れることが可能になる。
【0004】
残留応力を測定するための既知の方法には、スリット形成法や深穴穿孔法などの技術があり、これら方法においては、歪みゲージを使用してコンポーネント内部の歪みを測定し、この歪みに基づいて該当箇所の残留応力を測定する。これら技術は、専門的な装置及び歪みゲージを必要とするが、いずれも基本的には製造環境で使用するものではなく、主に試験室で使用するシステムである。従って残留応力場の測定は、時間のかかる高コストなプロセスであり、コンポーネントを適切な施設に運搬して検査することを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した欠点を軽減するための方法を得ることにある。本発明の方法は、特に専門的な装置を必要とすることなく、既存の装置を使用して適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様においては、コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定する方法を提供し、この方法は、
ワークピースを第1ポジション及びこの第1ポジションから離間した第2ポジションでクランプするステップと、
第1の材料除去作業を第1ポジションと第2ポジションとの中間における第3ポジションで行うステップと、
ワークピースを第2ポジションで釈放するステップと、
ワークピースにおける第1変形量から残留応力を決定するステップと、
を有する。
【0007】
好適には、上述の方法は、ワークピースの第1変形量を測定するステップに引き続き、
ワークピースを第2ポジションで再クランプするステップと、
第3ポジションでさらなる材料除去作業を行うステップと、
さらなる材料除去作業後に、ワークピースにおけるさらなる変形量を測定するステップと、
ワークピースにおけるさらなる変形量に基づいてさらなる残留応力を決定するステップと、
を有する。
【0008】
好適には、再クランプするステップ、さらなる材料除去作業を行うステップ及びさらなる残留応力を決定するステップを繰り返して、ワークピース内の厚さ方向にわたる残留応力分布を表出させる。
【0009】
好適には、上述の測定ステップは、第3ポジションで行う。
【0010】
本発明の第2態様においては、金属コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定する装置を提供し、この装置は、
第1クランプと、
第1クランプから離間した第2クランプと、
クランプ相互間のポジションにおいて、クランプにより保持されたワークピースの材料除去作業を行うよう構成した加工工具と、
第1及び第2のクランプ相互間に配置したたわみ測定装置と、
を備える。
【0011】
好適には、たわみ測定装置は、クランプ相互間の加工工具と同一ポジションに配置する。
【0012】
好適には、たわみ測定装置は、使用にあたり加工工具に対して、ワークピースの反対側に位置するよう配置する。
【0013】
以下、本発明による例示的なプロセス及び装置を以下の添付図面につき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】例示的な応力分布を示す一例としてのワークピースの概略的側断面図である。
【図2】本発明の第2態様による装置における概略的側面図である。
【図3】本発明による方法のプロセス図である。
【図4】図2に示す装置において、一方のクランプアセンブリを釈放したワークピースの変形量を示す説明図である。
【図5】ワークピースに生ずる応力の算出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、圧延(ロール)成形などの既知の製造プロセスにより形成したワークピース10を示す。応力プロット12は、どのように残留応力が、ワークピース10の厚さ全体にわたって、圧縮(C)から引張(T)までの範囲で変化するかを示す。図に示すように、応力プロットは、ワークピースの長手方向軸線L周りに対称的であり、またこのように応力のバランスが取れているため、ワークピースはこの状態では幾何学的に安定している(即ち、残留応力は材料の変形から観測できない)。
【0016】
本発明によれば、切削ライン14及び16で示すような切削の機械加工作業を実施することにより、非対称的な応力分布12を生じ、従ってワークピース10にたわみを生じさせる。応力分布における非対称性の結果、ワークピース10に曲げ応力を誘発する。ワークピースを釈放し、また非対称的な応力下で変形させることにより、残留応力の度合いを測定することができる。
【0017】
図2は、本発明による方法を実施するための装置18を示す。
【0018】
工作台20は、この工作台20に据え付けたジグベース22を有し、このジグベース22は、ジグベース22の互いに対向する両側の端部から突出する第1支持体24及び第2支持体26を有する。支持体24,26は、距離Dだけ互いに離間させ、またワークピースを支持するよう構成する(例えば、支持部24,26の相対間隔は調整可能にし、ワークピース10の適切な支持を行うことができるようにする)。各支持体24,26は、ワークピース10を垂直方向に支持する。
【0019】
たわみプローブ28は、ジグベース22から上方に突出させて、支持部24,26の中間位置でワークピース10に接触させ、またワークピースにおけるいかなるたわみをも測定するよう構成する。
【0020】
第1及び第2の支持体24,26の両側には、調整可能なクランプアセンブリ30,32を設ける。各クランプアセンブリ30,32はクランプ部材34を有し、このクランプ部材34は、ワークピース10をクランプ部材34と各支持体との間でクランプするよう構成する。クランプ部材34はシリンダ36に連結し、このシリンダ36はピストン38に着座し、またレバー40を使用して上方及び下方に移動させることにより、ワークピース10をクランプ及び釈放することができる。
【0021】
加工工具42は、ワークピース10の上面に対して、たわみプローブ28の対応する位置で降下することができる。加工工具42は、ワークピース10内に既知の距離だけシーケンシャル(逐次的)に切削を施すことができ、また運動変換器を設けることにより、ワークピース10に対する切削深さを記録することができる。
【0022】
留意すべきは、クランプ32のうち一方又は双方は、以下により詳細に述べるように、コンピュータ制御したアクチュエータにより自動で作動させることができる。
【0023】
図3は、本発明による例示的な方法をフローチャートとして示す。
【0024】
ステップ44において、ジグ及びワークピースをセットアップし、ワークピース10を装置18内にクランプする。
【0025】
ステップ46において、切削条件を加工センサ又は制御コンピュータに手動で入力する。例えばシステムは、N=50回の切削をそれぞれd=1mmの量で施すよう設定することができる。
【0026】
ステップ48において、カウント変数nは、n=1に初期化する。
【0027】
ステップ50において、nの値は、n=Nであるかを確認するために照合する(即ち、システムが所望の切削回数に達したか否かを確認する)。
【0028】
ステップ52において、nを切削深さdに乗算した後、加工工具42は、n×dの距離だけワークピースの初期上面データからワークピース10に向け前進する。
【0029】
ステップ54において、クランプ32をコンピュータにより釈放する。
【0030】
ステップ56において、たわみプローブ28を使用してワークピース10のたわみ量を測定する。このデータをコンピュータに保存する。
【0031】
ステップ58において、クランプ32を再度適用してたわみプローブを初期状態(ゼロ)に戻す。
【0032】
ステップ60において、n=n+1とし、このポイントでプロセスはステップ50に戻る。ステップ50において、n=N(要求した最大切削回数)であれば、プロセスはステップ62に進み、このステップ62においてプロセスが完了する。
【0033】
上述したプロセスに従って、nの各値に対する複数のたわみ量が取得される。材料内の残留応力がこれら各たわみ量に対して算出することができ、従ってワークピース全体にわたる応力分布のプロファイルを得ることができる。図1に示すような対称的な応力分布に関して留意すべきは、材料10の厚さの半分だけを加工すればよいことである。
【0034】
ワークピース全体にわたる応力は、以下のように算出することができる:
図4及び図5において、ワークピース10のたわみ量は、円セグメントに近似するものと仮定され、この円セグメントは一般方程式r=x+yに支配される。
図5に示すように、曲率半径をyとし、測定を左側のクランプからxIの距離で行い、またyIが測定した変位量であると仮定した場合、次式のとおりである。
【数1】

【0035】
試料の所定基準長さlに対して、基準点からの最大変形距離であるfを求めるためには、次式のとおりである。
【数2】

【0036】
したがって、ワークピース10に沿うポイントで測定した変形量を利用して、最大変形距離を算出することができる。
ワークピースの最大たわみ量を利用して、切削深さでの残留応力を算出することができる。
【0037】
本発明の改変も、本発明の範囲に含まれる。本発明によるプロセスはCNCシステムにより制御することができ、このCNCシステムにおいて、制御は、図2に示す装置に委ねられ、また結果、すなわちたわみ量測定値を、分析用にPCにフィードバックする。
【0038】
代案として、本発明によるプロセスは手動で実施することができる。この場合、ユーザーが手動でクランプ32をクランプ及びクランプ解除を行い、また手動の測定装置を使用し、再クランプし及び再加工を行って適切な測定をする。
【0039】
本発明によるプロセスは、垂直方向及び水平方向のベッドテーブルで実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定する方法であって、
ワークピースを第1ポジション及び該第1ポジションから離間した第2ポジションでクランプするステップと、
第1の材料除去作業を前記第1ポジションと前記第2ポジションとの中間における第3ポジションで行うステップと、
前記ワークピースを前記第2ポジションで釈放するステップと、
前記ワークピースにおける前記第1変形量を測定するステップと、
前記第1変形量から前記ワークピース内の前記残留応力を決定するステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記ワークピースにおける前記第1変形量を測定するステップに引き続き、
前記ワークピースを前記第2ポジションで再クランプするステップと、
前記第3ポジションでさらなる前記材料除去作業を行うステップと、
さらなる前記材料除去作業後の、前記ワークピースにおけるさらなる変形量を測定するステップと、
前記ワークピースにおけるさらなる前記変形量に基づいてさらなる前記残留応力を決定するステップと、
を有する、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記再クランプするステップ、さらなる前記材料除去作業を行うステップ及びさらなる前記残留応力を決定するステップを繰り返して、前記ワークピース内の厚さ方向にわたる前記残留応力分布を表出させる、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、前記測定ステップは、前記第3ポジションで行う、方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、前記残留応力を決定するステップは、前記測定ポジション以外のポジションで前記ワークピースの最大変形量を算出するステップを有する、方法。
【請求項6】
金属コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定する装置であって、
第1クランプと、
前記第1クランプから離間した第2クランプと、
前記クランプ相互間のポジションで、前記クランプにより保持されたワークピースの材料除去作業を行うよう構成した加工工具と、
前記第1及び第2のクランプ相互間に配置したたわみ測定装置と、
を備えた、装置。
【請求項7】
請求項6に記載の金属コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定するための装置において、前記たわみ測定装置は、前記クランプ相互間の前記加工工具と同一ポジションに配置した、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の金属コンポーネント内の厚さ方向にわたる残留応力を測定するための装置において、前記たわみ測定装置は、使用にあたり、前記加工工具に対して、前記ワークピースの反対側に位置するよう配置した、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83647(P2013−83647A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−223044(P2012−223044)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED