コークスの製造方法
【課題】簡便な方法を用いながら石炭及び粘結材の軟化溶融特性をより正確に評価できる方法を提供し、これにより、新たな石炭の配合基準を設定することによって高強度コークスの製造方法を提供する。
【解決手段】石炭又は粘結材を容器に充填して試料1とし、試料1の上に上下面に貫通孔を有する材料2を配置し、試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、あるいは一定の荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で試料1を加熱し、貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法を用いる。または、試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で試料1を加熱して、上下面に貫通孔を有する材料2を介して伝達される試料の圧力を測定し、該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する。
【解決手段】石炭又は粘結材を容器に充填して試料1とし、試料1の上に上下面に貫通孔を有する材料2を配置し、試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、あるいは一定の荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で試料1を加熱し、貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法を用いる。または、試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で試料1を加熱して、上下面に貫通孔を有する材料2を介して伝達される試料の圧力を測定し、該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコークス製造用石炭及び粘結材の品質評価法の一つである、石炭及び粘結材乾留時の軟化溶融特性を評価する方法およびその方法を用いたコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑法として最も一般的に行われている高炉法において使用されるコークスは、鉄鉱石の還元材、熱源、スペーサーなどの数々の役割を担っている。高炉を安定的に効率良く操業するためには、高炉内の通気性を維持することが重要であることから、強度の高いコークスの製造が求められている。コークスは、粉砕し、粒度を調整した種々のコークス製造用石炭を配合した配合炭を、コークス炉内にて乾留することで製造される。コークス製造用石炭は、乾留中約300℃〜550℃の温度域で軟化溶融し、また同時に揮発分の発生に伴い発泡、膨張することで、各々の粒子が互いに接着しあい、塊状のセミコークスとなる。セミコークスは、その後1000℃付近まで昇温する過程で収縮することで焼きしまり、堅牢なコークス(コークスケーキ)となる。従って、石炭の軟化溶融時の接着特性が、乾留後のコークス強度や粒径等の性状に大きな影響を及ぼす。
【0003】
また、コークス製造用石炭(配合炭)の接着を強化する目的で、石炭が軟化溶融する温度域で高い流動性を示す粘結材を配合炭に添加してコークスを製造する方法が一般的に行われている。ここで、粘結材とは、具体的にはタールピッチ、石油系ピッチ、溶剤精製炭、溶剤抽出炭などである。これら粘結材についても石炭と同様に、軟化溶融時の接着特性が、乾留後のコークス性状に大きな影響を及ぼす。
【0004】
一方、コークス炉におけるコークス製造において、乾留後のコークスは、押し出し機によりコークス炉外へ排出される。このとき、生成したコークスケーキ自体の収縮が小さいと、炉外への排出が困難となり、炉外への排出ができなくなる「押し詰まり」発生のトラブルを招くことがある。乾留後のコークスケーキ構造は、乾留過程における石炭、セミコークスの体積変化に大きく影響を受ける。このうち、セミコークスの収縮は、石炭の揮発分との間に良好な相関関係があることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、また、配合炭の揮発分含有量は同一工場における操業範囲内でほぼ一定に管理されることが多い。従って、石炭の軟化溶融時の体積変化特性が、乾留後のコークスケーキ構造に大きな影響を及ぼす。
【0005】
上述のとおり、石炭の軟化溶融特性は、乾留後のコークス性状やコークスケーキ構造を大きく左右するため、極めて重要であり、古くからその測定方法の検討が盛んになされてきた。特に、コークスの重要な品質であるコークス強度は、その原料である石炭性状、とりわけ石炭化度と軟化溶融特性に大きく影響される。軟化溶融特性とは、石炭を加熱したときに軟化溶融する性質であり、通常、軟化溶融物の流動性、粘度、接着性、膨張性などにより測定、評価される。
【0006】
石炭の軟化溶融特性のうち、軟化溶融時の流動性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されるギーセラープラストメータ法による石炭流動性試験方法が挙げられる。ギーセラープラストメータ法は、425μm以下に粉砕した石炭を所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、規定のトルクをかけた撹拌棒の回転速度を目盛板で読み取り、ddpm(dial division per minute)で表示する方法である。
【0007】
ギーセラープラストメータ法がトルク一定での撹拌棒の回転速度を測定しているのに対し、定回転方式でトルクを測定する方法も考案されている。例えば、特許文献1では、回転子を一定の回転速度で回転させながらトルクを測定する方法が記載されている。
【0008】
また、軟化溶融特性として物理的に意味のある粘性を測定することを目的にした、動的粘弾性測定装置による粘度の測定方法がある(例えば、特許文献2参照。)。動的粘弾性測定とは、粘弾性体に周期的に力を加えたときに見られる粘弾性挙動の測定である。特許文献2に記載の方法では、測定で得られるパラメータ中の複素粘性率により軟化溶融石炭の粘性を評価しており、任意のせん断速度における軟化溶融石炭の粘度を測定可能な点が特徴である。
【0009】
さらに、石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの石炭軟化溶融物接着性を測定した例が報告されている。少量の石炭試料を活性炭、ガラスビーズで上下方向から挟んだ状態で加熱し、軟化溶融後に冷却を行い、石炭と活性炭、ガラスビーズとの接着性を外観から観察する方法である。
【0010】
石炭の軟化溶融時の膨張性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されているジラトメーター法が挙げられる。ジラトメーター法は、250μm以下に粉砕した石炭を規定の方法で成型し、所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、石炭の上部に配置した検出棒で、石炭の変位の経時変化を測定する方法である。
【0011】
さらに、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬するため、石炭軟化溶融時に発生するガスの透過挙動を改善した石炭膨張性試験方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。これは、石炭層とピストンの間、もしくは石炭層とピストンの間と石炭層の下部に透過性材料を配置し、石炭から発生する揮発分と液状物質の透過経路を増やすことで、測定環境を、よりコークス炉内の膨張挙動に近づけた方法である。同様に、石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置し、荷重を負荷しながら石炭をマイクロ波加熱して石炭の膨張性を測定する方法も知られている(特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−347392号公報
【特許文献2】特開2000−304674号公報
【特許文献3】特許第2855728号公報
【特許文献4】特開2009−204609号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】C.Meyerら:「Gluckauf Forshungshefte」、Vol.42、1981年、p.233−239
【非特許文献2】諸富ら著:「燃料協会誌」、Vol.53、1974年、p.779−790
【非特許文献3】D.W.van Krevelen:「Coal」、1993年、p.693−695
【非特許文献4】宮津ら著:「日本鋼管技報」、vol.67、1975年、p.125−137
【非特許文献5】上岡ら著:「鉄と鋼」、Vol.93、2007年、p.728−735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を評価するためには、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することが必要である。コークス炉内において軟化溶融した石炭とその周辺の環境を、以下に詳述する。
【0015】
コークス炉内において、軟化溶融時の石炭は隣接する層に拘束された状態で軟化溶融している。石炭の熱伝導率は小さいため、コークス炉内において石炭は一様に加熱されず、加熱面である炉壁側からコークス層、軟化溶融層、石炭層と状態が異なっている。コークス炉自体は乾留時多少膨張するがほとんど変形しないため、軟化溶融した石炭は隣接するコークス層、石炭層に拘束されている。
【0016】
また、軟化溶融した石炭の周囲には、石炭層の石炭粒子間空隙、軟化溶融石炭の粒子間空隙、熱分解ガスの揮発により発生した粗大気孔、隣接するコークス層に生じる亀裂など、多数の欠陥構造が存在する。特に、コークス層に生じる亀裂は、その幅が数百ミクロンから数ミリ程度と考えられ、数十〜数百ミクロン程度の大きさである石炭粒子間空隙や気孔に比較して大きい。従って、このようなコークス層に生じる粗大欠陥へは、石炭から発生する副生物である熱分解ガスや液状物質だけではなく、軟化溶融した石炭自体の浸透も起こると考えられる。また、その浸透時に軟化溶融した石炭に作用するせん断速度は、銘柄毎に異なることが予想される。
【0017】
上述したとおり、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で石炭の軟化溶融特性を測定するためには、拘束条件、浸透条件を適正にする必要がある。しかし、従来方法には以下のような問題がある。
【0018】
ギーセラープラストメータ法は、石炭を容器に充填した状態での測定のため、拘束、浸透条件を全く考慮していない点で問題である。また、この方法は、高い流動性を示す石炭の測定には適さない。その理由は、高い流動性を示す石炭を測定する場合、容器内側壁部が空洞となる現象(Weissenberg効果)が起こり、撹拌棒が空転し、流動性を正しく評価できない場合があるためである(例えば、非特許文献2参照。)。
【0019】
定回転方式でトルクを測定する方法についても同様に、拘束条件、浸透条件を考慮していない点で不備がある。また、せん断速度一定下での測定のため、上記で述べたように石炭の軟化溶融特性を正しく比較評価することができない。
【0020】
動的粘弾性測定装置は、軟化溶融特性として粘性を対象とし、任意のせん断速度下で粘度が測定可能な装置である。よって、測定時のせん断速度を、コークス炉内での石炭に作用する値に設定すれば、コークス炉内での軟化溶融石炭の粘度を測定可能である。しかし、各銘柄のコークス炉内でのせん断速度を予め測定、または推定することは通常は困難である。
【0021】
石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの接着性を測定する方法は、石炭層の存在について浸透条件を再現しようとしているものの、コークス層と粗大欠陥を模擬していない点で問題がある。また、拘束下での測定でない点でも不十分である。
【0022】
特許文献3に記載されている透過性材料を用いた石炭膨張性試験方法においては、石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮しているが、軟化溶融した石炭自体の移動を考慮していない点で問題である。これは特許文献3で用いる透過性材料の透過度が、軟化溶融石炭が移動するほど十分に大きくないためである。本発明者らが実際に特許文献3に記載の試験を行ったところ、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透は起こらなかった。したがって、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透を起こさせるためには、新たな条件を考慮する必要がある。
【0023】
特許文献4にも同様に石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置して石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮した石炭の膨張性測定方法が開示されているが、加熱方法に制約があるという問題点の他、コークス炉内における浸透現象を評価するための条件が明確になっていないという問題がある。さらに特許文献4では、石炭溶融物の浸透現象と軟化溶融挙動の関係が明確になっておらず、石炭溶融物の浸透現象と生成するコークスの品質との関係についての示唆も無く、良好な品質のコークスの製造について記載されているものではない。
【0024】
このように、従来技術ではコークス炉内において軟化溶融した石炭及び粘結材の周辺の環境を十分に模擬した状態で、石炭及び粘結材の流動性、粘性、接着性、浸透性、浸透時膨張率、浸透時圧力などの軟化溶融特性を測定することができない。
【0025】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、コークス炉内において軟化溶融した石炭及び粘結材の周辺の環境を十分に模擬した状態での石炭及び粘結材の軟化溶融特性を測定するため、簡便な方法を用いながら石炭及び粘結材のより正確な軟化溶融特性評価方法を提供することにある。
【0026】
さらに、軟化溶融特性をより正確に評価することにより、石炭及び粘結材のコークス強度への影響をより精度よく把握することが可能になる。本発明はこうした知見を利用し、新たな石炭の配合基準を設定することによって高強度コークスの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上述したような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
[1]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、前記試料を加熱し、
前記貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[2]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、前記試料を加熱し、
前記上下面に貫通孔を有する材料を介して伝達される前記試料の圧力を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[3]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、前記試料を加熱し、
前記貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[4]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、前記試料を加熱し、
前記試料の膨張率を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[5]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなる[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[6]前記粉砕が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕することからなる[5]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[7]前記上下面に貫通孔を有する材料が、球形粒子充填層、或いは、非球形粒子充填層である[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[8]前記試料の加熱が、2〜10℃/分の加熱速度で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[9]前記一定荷重を負荷することが、貫通孔を有する材料の上面における圧力が5〜80kPaとなるような荷重を負荷することからなる[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[10]前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度2ないし10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[11]前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[12]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度2〜 10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[13]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[14]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[15]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[16] コークス製造用配合炭に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭について、石炭の軟化溶融特性である浸透距離を測定し、
測定された浸透距離の加重平均値に基づいて、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定し、
決定された配合率により配合された石炭を乾留する、
コークスの製造方法。
[17]前記浸透距離の測定が下記(1)〜(4)により行われ、
前記配合率の決定が、測定された浸透距離の加重平均値が15mm以下になるように、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定する、
[16]に記載のコークスの製造方法。
(1)石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置し、
(3)前記試料と前記ガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
[18]前記浸透距離の測定が下記(1)〜(4)により行われ、
前記配合率の決定が、測定された浸透距離の加重平均値が17mm以下になるように、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定する、
[16]に記載のコークスの製造方法。
(1)石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置し、
(3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
[19]コークス製造に用いる配合炭中に含まれる石炭又は粘結材の銘柄と配合炭中に占めるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を予め決定し、
コークス製造用配合炭に含まれる石炭のうち、ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の浸透距離を測定し、
配合炭に含まれるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を一定とした条件下で個々銘柄の石炭又は粘結材の配合率を変化させることでその時の配合炭に含まれるlogMFが3.0以上の石炭又は粘結材の加重平均浸透距離と前記個々銘柄の石炭の配合率を変化させて調製した配合炭から得られるコークス強度の関係を求め、
コークス強度が所望の値以上になるようにlogMFが3.0以上の石炭の銘柄と配合率を調整して加重平均浸透距離を調整する、
コークスの製造方法。
[20]前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる[19]に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
[21]前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる[19]に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、ガラスビーズの上部から圧力5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コークス炉内での石炭及び粘結材の軟化溶融層周辺に存在する欠陥構造、特に軟化溶融層に隣接するコークス層に存在する亀裂の影響を模擬し、また、コークス炉内での軟化溶融物周辺の拘束条件を適切に再現した状態での石炭及び粘結材の軟化溶融特性、すなわち、欠陥構造への軟化溶融物浸透距離、浸透時膨張率、浸透時圧力の評価が可能である。具体的には、本発明を用いることにより、コークス炉内で石炭及び粘結材が軟化溶融し、移動、変形した時のせん断速度での、欠陥構造への軟化溶融物浸透距離、浸透時膨張率、浸透時圧力が測定可能である。これらの測定値を用いると、コークス性状やコークスケーキ構造の推定を、従来法よりも精度良く行なうことができる。
【0029】
これによりコークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を正確に評価することができるようになり、高強度コークスの製造にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明で使用する試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明で使用する試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円形貫通孔をもつものの一例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、球形粒子充填層の一例を示す概略図である。
【図5】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円柱充填層の一例を示す概略図である。
【図6】実施例1で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例3で測定した、配合炭の軟化溶融物の実測浸透距離と加重平均浸透距離との関係を示すグラフである。
【図9】配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の加重平均浸透距離(一定荷重を負荷して加熱した測定)と、実施例4で測定したドラム強度との関係を示すグラフである。
【図10】配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の加重平均浸透距離(一定容積で加熱した測定)と、実施例4で測定したドラム強度との関係を示すグラフである。
【図11】浸透距離が好適な石炭Aを配合した配合炭Aを乾留したコークスの組織観察写真である。
【図12】浸透距離が大きすぎる石炭Fを配合した配合炭Fを乾留したコークスの組織観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で使用する軟化溶融特性を測定する装置の一例を図1と図2に示す。図1は石炭又は粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ試料を加熱する場合の装置である。図2は石炭又は粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱する場合の装置である。容器3下部に石炭又は粘結材を充填して試料1とし、試料1の上に、上下面に貫通孔を有する材料2を配置する。試料1を軟化溶融温度域以上に加熱し、試料を上下面に貫通孔を有する材料2に浸透させ、浸透距離を測定する。加熱は不活性ガス雰囲気下で行なわれる。ここで、不活性ガスとは、測定温度域で石炭と反応しないガスを指し、代表的なガスとしてはアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等である。
【0032】
試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ試料1を加熱する場合、上下面に貫通孔を有する材料2を介して試料浸透時の圧力を測定することが可能である。図1に示すように、上下面に貫通孔を有する材料2の上面に圧力検出棒4を配置し、圧力検出棒4の上端にロードセル6を接触させ、圧力を測定する。一定容積を保つため、ロードセル6が上下方向に動かないよう固定する。加熱前、容器3に充填された試料に対し、上下面に貫通孔を有する材料2、圧力検出棒4、ロードセル6間に隙間が出来ないよう、それぞれを密着させておく。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、圧力検出棒4が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と圧力検出棒4の間に板を挟む措置を講ずるのが望ましい。
【0033】
試料1と上下面に貫通孔を有する材料2に一定荷重を負荷して試料1を加熱する場合、試料1が膨張又は収縮を示し、上下面に貫通孔を有する材料2が上下方向に移動する。よって、上下面に貫通孔を有する材料2を介して試料浸透時の膨張率を測定することが可能である。図2に示すように上下面に貫通孔を有する材料2の上面に膨張率検出棒13を配置し、膨張率検出棒13の上端に荷重付加用の錘14を乗せ、その上に変位計15を配置し、膨張率を測定する。変位計15は、試料の膨張率の膨張範囲(−100%〜300%)を測定可能なものを用いれば良い。加熱系内を不活性ガス雰囲気に保持する必要があるため、非接触式の変位計が適しており、光学式変位計を用いることが望ましい。不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気とすることが好ましい。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、膨張率検出棒13が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と膨張率検出棒13の間に板を挟む措置を講ずるのが望ましい。負荷させる荷重は、試料上面に配置した上下面に貫通孔を有する材料の上面に対して、均等にかけることが好ましく、上下面に貫通孔を有する材料の上面の面積に対し、5〜80kPa、好ましくは15〜55kPa、最も好ましくは25〜50kPaの圧力を負荷することが望ましい。この圧力は、コークス炉内における軟化溶融層の膨張圧に基づいて設定することが好ましいが、測定結果の再現性、種々の石炭での銘柄差の検出力を検討した結果、炉内の膨張圧よりはやや高めの25〜50kPa程度が測定条件として最も好ましいことを見出した。
【0034】
加熱手段は、試料の温度を測定しつつ、所定の昇温速度で加熱できる方式のものを用いることが望ましい。具体的には、電気炉や、導電性の容器と高周波誘導を組み合わせた外熱式、またはマイクロ波のような内部加熱式である。内部加熱式を採用する場合は、試料内温度を均一にする工夫を施す必要があり、例えば、容器の断熱性を高める措置を講ずることが好ましい。
【0035】
加熱速度については、コークス炉内での石炭及び粘結材の軟化溶融挙動を模擬するという目的から、コークス炉内での石炭の加熱速度に一致させる必要がある。コークス炉内での軟化溶融温度域における石炭の加熱速度は炉内の位置や操業条件によって異なるが概ね2〜10℃/分であり、平均的な加熱速度として2〜4℃/分とすることが望ましく、もっとも望ましいのは3℃/分程度である。しかし、非微粘結炭のように流動性の低い石炭の場合、3℃/分では浸透距離や膨張が小さく、検出が困難となる可能性がある。石炭は急速加熱することによりギーセラープラストメータによる流動性が向上することが一般的に知られている(例えば、非特許文献3参照。)。従って、例えば浸透距離が1mm以下の石炭の場合には、検出感度を向上させるために、加熱速度を10〜1000℃/分に高めて測定しても良い。
【0036】
加熱を行なう温度範囲については、石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価が目的であるため、石炭及び粘結材の軟化溶融温度域まで加熱できればよい。コークス製造用の石炭及び粘結材の軟化溶融温度域を考慮すると、0℃(室温)〜550℃の範囲において、好ましくは石炭の軟化溶融温度である300〜550℃の範囲で所定の加熱速度で加熱すればよい。
【0037】
上下面に貫通孔を有する材料は、透過係数をあらかじめ測定または算出できるものが望ましい。材料の形態の例として、貫通孔を持つ一体型の材料、粒子充填層が挙げられる。貫通孔を持つ一体型の材料としては、例えば、図3に示すような円形の貫通孔16を持つもの、矩形の貫通孔を持つもの、不定形の貫通孔を持つものなどが挙げられる。粒子充填層としては、大きく球形粒子充填層、非球形粒子充填層に分けられ、球形粒子充填層としては図4に示すようなビーズの充填粒子17からなるもの、非球形粒子充填層としては不定形粒子や、図5に示すような充填円柱18からなるものなどが挙げられる。測定の再現性を保つため、材料内の透過係数はなるべく均一で、かつ測定を簡便にするため、透過係数の算出が容易なものが望ましい。したがって、本発明で用いる上下面に貫通孔を有する材料には球形粒子充填層の利用が特に望ましい。上下面に貫通孔を有する材料の材質は、石炭軟化溶融温度域以上、具体的には600℃まで形状がほとんど変化せず、石炭とも反応しないものならば特に指定はない。また、その高さは、石炭の溶融物が浸透するのに十分な高さがあればよく、厚み5〜20mmの石炭層を加熱する場合には、20〜100mm程度あればよい。
【0038】
上下面に貫通孔を有する材料の透過係数は、コークス層に存在する粗大欠陥の透過係数を推定して設定する必要がある。本発明に特に望ましい透過係数について、粗大欠陥構成因子の考察や大きさの推定など、本発明者らが検討を重ねた結果、透過係数が1×108〜2×109m-2の場合が最適であることを見出した。この透過係数は、下記(1)式で表されるDarcy則に基づき導出されるものである。
ΔP/L=K・μ・u ・・・ (1)
ここで、ΔPは上下面に貫通孔を有する材料内での圧力損失[Pa]、Lは貫通孔を有する材料の高さ[m]、Kは透過係数[m-2]、μは流体の粘度[Pa・s]、uは流体の速度[m/s]である。例えば上下面に貫通孔を有する材料として均一な粒径のガラスビーズ層を用いる場合、上述の好適な透過係数を持つようにするためには、直径0.2mmから3.5mm程度のガラスビーズを選択することが望ましく、もっとも望ましいのは2mmである。
【0039】
測定試料とする石炭および粘結材はあらかじめ粉砕し、所定の充填密度で所定の層厚に充填する。粉砕粒度としては、コークス炉における装入石炭の粒度(粒径3mm以下の粒子の比率が全体の70〜80質量%程度)としてもよく、粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕することが好ましいが、小さい装置での測定であることを考慮して、全量を粒径2mm以下に粉砕した粉砕物を用いることが特に好ましい。粉砕物を充填する密度はコークス炉内の充填密度に合わせ0.7〜0.9g/cm3とすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、0.8g/cm3が好ましいことを知見した。また、充填する層厚は、コークス炉内における軟化溶融層の厚みに基づいて層厚5〜20mmとすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、層厚は10mmとすることが好ましいことを知見した。
【0040】
石炭及び粘結材の軟化溶融物の浸透距離は、加熱中に常時連続的に測定できることが本来望ましい。しかし、常時測定は、試料から発生するタールの影響などにより、困難である。加熱による石炭の膨張、浸透現象は不可逆的であり、一旦膨張、浸透した後は冷却してもほぼその形状が保たれているので、石炭溶融物が浸透終了した後、容器全体を冷却し、冷却後の浸透距離を測定することで加熱中にどこまで浸透したかを測定するようにしてもよい。例えば、冷却後の容器から上下面に貫通孔を有する材料を取り出し、ノギスや定規で直接測定することが可能である。また、上下面に貫通孔を有する材料として粒子を使用した場合には、粒子間空隙に浸透した軟化溶融物は、浸透した部分までの粒子層全体を固着させている。したがって、前もって粒子充填層の質量と高さの関係を求めておけば、浸透終了後、固着していない粒子の質量を測定し、初期質量から差し引くことで、固着している粒子の質量を導出でき、そこから浸透距離を算出することができる。
【0041】
上記の(1)式中には粘度項(μ)が含まれている。よって、本発明で測定したパラメータより、上下面に貫通孔を有する材料内に浸透した軟化溶融物の粘度項を導出することが可能である。例えば、試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ試料を加熱した場合では、ΔPは浸透時圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、(1)式に代入することにより粘度項が導出可能である。また、試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱する場合では、ΔPは付加した荷重の圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、これも(1)式に代入することにより粘度が導出可能である。
【0042】
以上のように、石炭及び粘結材の軟化溶融物の浸透距離や、圧力、膨張率を測定して、石炭及び粘結材の軟化溶融特性を評価する。ここで、本発明における「試料(石炭または粘結材)の軟化溶融特性を評価する」とは、少なくとも浸透距離や、圧力、膨張率を測定して、その測定値に基づいて、石炭溶融物の挙動および、それに起因して発生する現象(例えば、生成するコークスの性状、コークスの押し出し抵抗など)を定量的に評価するための指標を得ることを指す。測定値は浸透距離や、圧力、膨張率以外の物性値(例えば、MF等)を併用することができるが、浸透距離、圧力、膨張率のみから選択された一つ以上を用いることもできる。その場合は、浸透距離や、圧力、膨張率の測定値が得られた段階で軟化溶融特性を評価したことになり、浸透距離や、圧力、膨張率を測定することと軟化溶融特性を評価することとは実質的に同義となる。更に、前記浸透距離や、圧力、膨張率をパラメータとしてコークス強度推定に適用し、これにより複数銘柄の石炭を配合して、所望の強度を有するコークスを製造することができる。コークス強度の指標としては常温における回転強度が最も一般的であるがそれ以外にも、CSR(coke strength after reaction)(熱間CO2反応後強度)や引張強度、ミクロ強度等のコークス性状に対する推定に適用し、これにより複数銘柄の石炭を配合して、所望の強度を有するコークスを製造することができる。
【0043】
従来のコークス強度を推定するための石炭配合理論においては、コークス強度は主に、石炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)と、ギーセラー最高流動度(MF)の対数値(logMF)により決定されると考えられてきた(例えば、非特許文献4参照。)。ギーセラー流動度は石炭の軟化溶融時における流動性を示す指標であり、ギーセラープラストメータの撹拌棒の回転速度、すなわち、1分間当たりの回転量をddpm(dial division per minute)単位で表したものである。石炭の特性値としては、最高流動度(maximum fluidity:MF)を用いる。また、ddpmの常用対数を使用することもある。本発明による浸透距離は、コークス炉内での軟化溶融挙動を模擬した条件下での流動性を示すパラメータであると考えられるので、ギーセラー最高流動度の対数値logMFより、コークス性状やコークスケーキ構造を推定するのに優れたパラメータであると考えられる。
【0044】
このような浸透距離の優位性は、コークス炉内状況に近い測定方法をとることに基づいて原理的に想定されるだけではなく、コークス強度への浸透距離の影響を調査した結果からも明らかとなった。実際、本発明の評価方法により、同程度のlogMFを持つ石炭であっても、銘柄により浸透距離に差があることが明らかとなり、浸透距離の異なる石炭を配合してコークスを製造した場合のコークス強度に対する影響も異なることが確認された。具体的には、以下の実施例で示すように、浸透距離の値がある点を超えるとコークス強度が低下するような関係になっている。この理由は、以下のように考察される。
【0045】
浸透距離が長い石炭を配合した場合、乾留時に十分な溶融を示す石炭の割合は多いと考えられる。しかし、浸透距離が長すぎる石炭は、周囲の石炭粒子間に顕著に浸透することで、その石炭粒子が存在していた部分自体が大きな空洞となり、欠陥となると推測される。従来のギーセラー最高流動度に基づく考え方でも配合炭の流動性が高すぎるとコークス強度が低下する場合があることは予想されてはいたが(例えば、非特許文献4参照。)、高流動性の個別銘柄の挙動までは明らかになっていなかった。これは、従来のギーセラー流動性測定においては、前述のWeissenberg効果のために高流動度域での正しい物性が測定できなかったことも原因のひとつと考えられる。本発明の測定方法を採用することにより、特に流動性の高い領域における溶融物の物性をより正確に評価できるようになったため、従来の方法では区別できなかった軟化溶融物の物性の差が明確になり、軟化溶融挙動とコークス構造の関係をよりよく評価できるようになった点が、本発明により大きく進歩した点である。
【0046】
発明者らは、本発明の方法における好適な測定条件を確立し、その測定結果を用いて高強度のコークスを製造する方法を確立した。
【実施例1】
【0047】
石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した場合の測定例を示す。17種類の石炭及び4種類の粘結材(A炭〜Q炭、粘結材R〜U)を試料として、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。使用した石炭及び粘結材の性状(平均最大反射率:Ro、ギーセラー最高流動度の対数値:logMF、揮発分:VM、灰分:Ash)を表1に示す。なお、測定に使用した粘結材の流動性をギーセラープラストメータ法で測定したところ、いずれもギーセラー最高流動度の常用対数値(logMF)が、検出限界である4.8を示した。
【0048】
【表1】
【0049】
図1に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。加熱方式を高周波誘導加熱式としたため、図1の発熱体8は誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料2として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒径2mm以下に粉砕し室温で真空乾燥した試料2.04gを容器に装入し、試料の上から重さ200gの錘を落下距離20mmで5回落下させることにより試料を充填した(この状態で試料層厚は10mmとなった。)。次に直径2mmのガラスビーズを試料1の充填層の上に25mmの厚さとなるように配置して、ガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を、その上に圧力検出棒4として石英製の棒を配置した。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで加熱した。加熱中はロードセル6により圧力検出棒4から付加される圧力を測定した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器3から、軟化溶融物に固着していないビーズを取り出してその質量を計測した。
【0050】
浸透距離は固着したビーズ層の充填高さとした。ガラスビーズ充填層の充填高さと質量の関係をあらかじめ求め、軟化溶融物が固着したビーズの質量よりガラスビーズ充填高さを導出できるようにした。その結果が下記(2)式であり、(2)式より浸透距離を導出した。
L=(G−M)×H ・・・ (2)
ここで、Lは浸透距離[mm]、Gは充填したガラスビーズ質量[g]、Mは軟化溶融物と固着していないビーズ質量[g]、Hは本実験装置に充填されたガラスビーズの1gあたりの充填層高さ[mm/g]を表す。
【0051】
粘結材の浸透距離を測定する際には、試料容器として、同一の径を持ち、高さ100mmの容器を用い、試料上部に配置するガラスビーズ充填層の厚さを80mmとした。これは、粘結材の浸透距離が大きいためである。なお、石炭を用い、一定の試料層厚で、容器高さとガラスビーズ充填層の厚さを変更した試験を行なったが、ガラスビーズ充填層厚さが浸透距離以上であれば、浸透距離の測定値は同じであった。
【0052】
浸透距離ならびに浸透時の最大圧力の測定結果を表2に、浸透距離測定結果とギーセラー最高流動度の対数値(logMF)の関係を図6に示す(MF値が正しく求められなかった粘結材の値はプロットしていない。)。
【0053】
【表2】
【0054】
図6によれば、浸透距離はlogMFに対しある程度の相関は認められるが、相関から外れている銘柄も多く見られる。また、表2の粘結材の測定結果でも、従来の方法では区別できなかった粘結材物性の違いが観測できていることがわかる。試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した場合の測定において、浸透距離に影響する因子は、上記(1)式が示すとおり試料の粘度μと試料の膨張圧ΔPであり、試料毎に変わる。従って、石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱する測定法で得られた浸透距離と圧力は、コークス炉内での溶融物の状態を反映した値であると考えられる。軟化溶融時の石炭及び粘結材の溶融状況や圧力は、乾留後のコークス構造に影響を及ぼすと推測されることから、コークス強度を推定するのに特に有効であるといえる。
【0055】
また、試料の浸透時に作用する圧力は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での圧力測定結果であるため、コークス炉で石炭の乾留中にコークス炉壁にかかる圧力の推定への適用にも有効であるといえる。
【実施例2】
【0056】
石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱した場合の測定例を示す。実施例1と同じ、上記表1に示す17種類の石炭及び4種類の粘結材(A炭〜Q炭、粘結材R〜U)について、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。図2に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。加熱方式は高周波誘導加熱式としたため、図2の発熱体8を誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒径2mm以下に粉砕し室温で真空乾燥した試料2.04gを容器3に装入し、試料の上から重さ200gの錘を落下距離20mmで5回落下させることにより試料1を充填した。次に直径2mmのガラスビーズを試料1の充填層の上に25mmの厚さとなるように配置してガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を配置し、その上に膨張率検出棒13として石英製の棒を置き、さらに石英棒の上部に1.3kgの錘14を置いた。これにより、シリマナイト円盤上にかかる圧力は50kPaとなる。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/分で550℃まで加熱した。加熱中はレーザー変位計により変位を測定し、試料充填時の高さから膨張率を算出した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器から、軟化溶融物と固着していないビーズ質量を計測した。浸透距離は、上記(2)式により導出した。
【0057】
本実施例においても粘結材の浸透距離測定の際には、実施例1と同様に大きい容器を用い、ガラスビーズ充填層の厚さを増やして試験を行なった。なお、実施例2の条件においてもガラスビーズ充填層の厚さは浸透距離の測定値に影響しないことを確認した。
【0058】
浸透距離および最終膨張率の測定結果を表3に、浸透距離測定結果とギーセラー最高流動度の対数値(logMF)の関係を図7に示す(MF値が正しく求められなかった粘結材の値はプロットしていない。)。
【0059】
【表3】
【0060】
図7によれば、本実施例で測定した浸透距離はlogMFとある程度の相関は認められるが、同程度のlogMFであっても、浸透距離の異なる銘柄が存在することが確認できた。特にその傾向は、logMFが高い領域で見られた。本装置での浸透距離の測定誤差が、同一条件で3回試験を行った結果、標準偏差0.6であったことを考慮すると、logMFがほぼ等しい石炭Hと石炭Kに対して、浸透距離に有意な差が認められた。上記(1)式の関係のみから推測すれば、同じlogMFの銘柄であれば溶融時粘度μも同様と考えられるため、浸透距離は同じになると考えられる。その理由は、本測定ではΔP、Kは測定する試料によらず一定であり、また、石炭のlogMFとその石炭が溶融性を示す温度域(溶融時間に相当)とはほぼ相関が認められるため、uもほぼ一定とみなせるからである。しかし、乾留中の石炭は、溶融すると同時期に、揮発分の発生に伴う発泡・膨張現象が見られる。従って、本測定によって得られた浸透距離の値とは、溶融物のビーズ充填層への浸透と、ビーズ層内での溶融物の発泡とを併せた影響を表したものであると推測される。これらの値は、乾留後のコークスの構造を決定付ける因子であると推測されることから、コークス強度を推定するのに特に有効であるといえる。
【0061】
また、表3に示す最終膨張率は、550℃での膨張率の値である。表3の結果は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での膨張率測定結果であるため、コークス強度推定や、コークス炉壁とコークス塊の隙間の推定に有効であるといえる。
【実施例3】
【0062】
実施例2と同じ測定方法で浸透距離の加成性の成立状況を調査した。
【0063】
4種類の石炭(V炭〜Y炭)のうちから2銘柄を選び、種々配合率を変えて作製した配合炭を試料として、浸透距離の測定を行った。使用した石炭ならびに配合炭の性状(Ro、logMF、VM、Ash)を表4に示す。ここで、配合炭の性状は単味炭の性状を配合割合で平均した加重平均値である。浸透距離の測定結果を表4に併せて示す。また、配合炭の加重平均浸透距離と実測浸透距離の関係を図8に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
図8によれば、本実施例で測定した浸透距離は極めて良好な加成性が成立することが分かる。従って、2種類以上の石炭を配合してなる配合炭の浸透距離の値を求めるには、実際に作製した配合炭を試料として浸透距離を測定しても良いし、配合炭を構成する単味炭の浸透距離を予め測定しておき、加重平均値を計算して推定することもできる。
【0066】
配合炭に使用する石炭は、通常、銘柄ごとに様々な品位を予め測定して使用している。従って、浸透距離についても同様に予め銘柄のロット毎に測定しておけば、配合炭の浸透距離を速やかに算出することが可能となるため、実用上好ましい。
【実施例4】
【0067】
本発明で得られた石炭の軟化溶融特性値をコークス強度推定に適用し、その有効性を検討した。
【0068】
上記のように、本発明による浸透距離は、ギーセラー最高流動度の対数値logMFより、コークス性状やコークスケーキ構造を推定するのに優れたパラメータであると考えられるので、logMFがほぼ等しく、浸透距離の異なる石炭を用いてコークスを製造した場合のコークス強度への影響を調査するために、以下の要領で乾留試験ならびに乾留後コークスの強度試験を実施した。
【0069】
上記実施例1、2で用いた表1において、石炭A、石炭F、石炭G(logMFが3.5以上)を「同程度MF炭」として選択し、それぞれを20mass%配合し、配合炭全体の加重平均Ro、加重平均logMFは等しくなるように、種々の石炭を残部として配合した配合炭(配合炭A、F、G)を準備した。石炭A、石炭F、石炭Gは、コークス製造において用いられる石炭のなかでもMFが高い種類の石炭であって、コークス製造において、石炭粒子の接着性を向上させることを意図して用いられることが多い石炭である。さらに、こうした高MF炭を混合して使用した場合の試験として、logMF≧3.0の複数の銘柄を同時に用いた配合炭(配合炭AF、配合炭FG、配合炭FGK)を準備した。なお、配合炭の平均品位は、Ro=0.99〜1.05、logMF=2.0〜2.3となるように調製した。それぞれの配合炭で用いた石炭の銘柄とその配合率、および配合炭中におけるlogMF≧3.0の石炭の加重平均定積浸透距離(表2の値から計算)、加重平均定圧浸透距離(表3の値から計算)、生成したコークスの強度を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
ここで、表5で用いる各石炭は、粒径3mm以下100mass%に粉砕したものを使用し、配合炭全体の水分が8mass%になるように調整した。この配合炭16kgを、嵩密度750kg/m3となるように乾留缶に充填し、その上に10kgの錘を乗せた状態で、炉壁温度1050℃の電気炉内で6時間乾留後、炉から取り出し窒素冷却し、コークスを得た。得られたコークスのコークス強度は、JIS K 2151の回転強度試験法に基づき、15rpm、150回転後の粒径15mm以上のコークスの質量割合を測定し、回転前との質量比をドラム強度指数DI150/15として算出した。さらにCRI(熱間CO2反応性)、CSR(熱間CO2反応後強度、いずれもISO18894法に準拠して測定)、マイクロ強度(MSI+65)の測定結果も示した。
【0072】
各配合炭について、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離(実施例2で測定した、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して石炭試料を加熱した測定で得られた浸透距離)の加重平均値と、各配合炭の乾留後コークスのドラム強度との関係を図9に示す。同程度MF炭として石炭A、石炭F、石炭Gを20mass%配合した配合炭A、配合炭F、配合炭Gの強度を比較すると、同程度MF炭の浸透距離が短いほど高いドラム強度を示した。更には、配合炭A、配合炭F、配合炭AFのドラム強度の結果から、同程度MF炭の浸透距離とドラム強度との間には、加成性が成立することがわかる。この例に加えて、配合炭FGおよび配合炭FGKの結果も合わせると、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離の加重平均値が17mmを超えるとコークス強度が低下することがわかる。したがって、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離の加重平均値を17mm以下にすることによって、高強度のコークスの製造が可能になる。
【0073】
次に、各配合炭について、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定積浸透距離(実施例1で測定した、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した測定で得られた浸透距離)の加重平均値と、各配合炭の乾留後コークスのドラム強度との関係を図10に示す。
【0074】
図10においても図9よりもやや弱いながら同様の傾向が認められ、本測定で得られた浸透距離の値は、一定容積で加熱した測定で得られた場合にも、一定荷重を負荷して加熱した測定で得られた場合にも、コークス強度に対して影響を及ぼしていることが分かる。なお、定積浸透距離を指標とする場合、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定積浸透距離の加重平均値は15mm以下とすることが好ましいと判断される。浸透距離の測定結果は、同じ石炭であっても用いる測定条件によって異なるため、各石炭の評価は実質的に同一の条件で行なう必要がある。試料の層厚と充填密度の積が±20%の範囲であり、貫通孔を有する材料の形式(球形粒子充填層または円柱充填層等)は同一として球形または円柱の径が±20%の範囲であり、加熱速度が±20%の範囲であれば実用上は問題なく使用できるので、その範囲を実質的に同一であるとする。このような条件で測定した値を用いて、図9、10のように、配合炭に含まれる高MF炭の浸透距離と、その配合炭を乾留して得られるコークス強度の相関を予め得ておけば、所望のコークス強度を得るために高MF炭の浸透距離をどの程度に調製すればよいかを知ることができる。なお、配合炭FGおよび、配合炭FGKから製造したコークスについてはCSRの測定も行なった。その結果、配合炭FGからのコークスではCSR=55.4(反応性CRI=29.7)、配合炭FGKから製造したコークスではCSR=59.5(反応性CRI=29.5)となり、JISドラム強度と同様の傾向が確認された。一般にコークスの反応性CRIが同程度であれば、CSRはJISドラム強度と良好な相関を示すことが知られており、この傾向は実施例における試料でも確認できた。なお、マイクロ強度、間接引張強度においてもJISドラム強度と同様の傾向が確認された。
【0075】
以上のように、高MF炭の浸透距離がコークス強度に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。特に高MF炭で浸透距離の影響が顕著な理由としては、図6、図7に示すように、高MF炭ほど浸透距離の差が大きくなることが考えられる。低MF炭では浸透距離の銘柄差はあまり大きくなく、浸透距離の影響が現れにくかった可能性がある。また、高MF炭では前述のWeissenberg効果や測定可能上限の存在によって、ギーセラープラストメーター法では軟化溶融特性が十分に評価できていなかった可能性がある。本発明の方法により、従来法の欠点を改善することができたため、軟化溶融特性のコークス強度への影響に関する新たな知見を得ることが可能になったものと考えられる。
【0076】
次に、浸透距離がコークス強度に影響する理由を確認するために、光学顕微鏡を用い、浸透距離が好適であると考えられる石炭Aを20mass%配合した配合炭Aを乾留したコークスと、浸透距離が長すぎると考えられる石炭Fを20mass%配合した配合炭Fを乾留したコークスの組織観察を行った。倍率100倍で撮影した石炭Aの写真を図11に、石炭Fの写真を図12に示す。
【0077】
図11及び図12に示す写真を比較すると、浸透距離が長すぎる石炭Fを配合した配合炭Fを乾留したコークスは、浸透距離が好適な石炭Aを配合した配合炭Aを乾留したコークスに比べて気孔壁20が薄く、また、気孔同士が連結し、歪な形状の粗大な気孔21を形成していることがわかった。コークス強度は、気孔壁が厚いほど、気孔の真円度が高いほど高くなることが報告されている(例えば、非特許文献5参照。)。従って、石炭の浸透距離が、乾留時のコークス構造の形成に影響を及ぼし、その結果、コークス強度に影響することが確認できた。
【0078】
本実施例から、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して石炭試料を加熱した測定および石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した測定で得られた浸透距離は、生成するコークスの強度に影響を及ぼす因子であり、かつ、従来因子では説明できない因子であることから、従来のコークス強度推定に組み合わせることで、高精度の強度推定が可能となることが分かる。さらに好ましい条件において測定された浸透距離に基づいて石炭の配合を行うことで、高強度コークスの製造が可能になることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 試料
2 上下面に貫通孔を有する材料
3 容器
4 圧力検出棒
5 スリーブ
6 ロードセル
7 温度計
8 発熱体
9 温度検出器
10 温度調節器
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 膨張率検出棒
14 錘
15 変位計
16 円形貫通孔
17 充填粒子
18 充填円柱
20 気孔壁
21 気孔
【技術分野】
【0001】
この発明はコークス製造用石炭及び粘結材の品質評価法の一つである、石炭及び粘結材乾留時の軟化溶融特性を評価する方法およびその方法を用いたコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑法として最も一般的に行われている高炉法において使用されるコークスは、鉄鉱石の還元材、熱源、スペーサーなどの数々の役割を担っている。高炉を安定的に効率良く操業するためには、高炉内の通気性を維持することが重要であることから、強度の高いコークスの製造が求められている。コークスは、粉砕し、粒度を調整した種々のコークス製造用石炭を配合した配合炭を、コークス炉内にて乾留することで製造される。コークス製造用石炭は、乾留中約300℃〜550℃の温度域で軟化溶融し、また同時に揮発分の発生に伴い発泡、膨張することで、各々の粒子が互いに接着しあい、塊状のセミコークスとなる。セミコークスは、その後1000℃付近まで昇温する過程で収縮することで焼きしまり、堅牢なコークス(コークスケーキ)となる。従って、石炭の軟化溶融時の接着特性が、乾留後のコークス強度や粒径等の性状に大きな影響を及ぼす。
【0003】
また、コークス製造用石炭(配合炭)の接着を強化する目的で、石炭が軟化溶融する温度域で高い流動性を示す粘結材を配合炭に添加してコークスを製造する方法が一般的に行われている。ここで、粘結材とは、具体的にはタールピッチ、石油系ピッチ、溶剤精製炭、溶剤抽出炭などである。これら粘結材についても石炭と同様に、軟化溶融時の接着特性が、乾留後のコークス性状に大きな影響を及ぼす。
【0004】
一方、コークス炉におけるコークス製造において、乾留後のコークスは、押し出し機によりコークス炉外へ排出される。このとき、生成したコークスケーキ自体の収縮が小さいと、炉外への排出が困難となり、炉外への排出ができなくなる「押し詰まり」発生のトラブルを招くことがある。乾留後のコークスケーキ構造は、乾留過程における石炭、セミコークスの体積変化に大きく影響を受ける。このうち、セミコークスの収縮は、石炭の揮発分との間に良好な相関関係があることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、また、配合炭の揮発分含有量は同一工場における操業範囲内でほぼ一定に管理されることが多い。従って、石炭の軟化溶融時の体積変化特性が、乾留後のコークスケーキ構造に大きな影響を及ぼす。
【0005】
上述のとおり、石炭の軟化溶融特性は、乾留後のコークス性状やコークスケーキ構造を大きく左右するため、極めて重要であり、古くからその測定方法の検討が盛んになされてきた。特に、コークスの重要な品質であるコークス強度は、その原料である石炭性状、とりわけ石炭化度と軟化溶融特性に大きく影響される。軟化溶融特性とは、石炭を加熱したときに軟化溶融する性質であり、通常、軟化溶融物の流動性、粘度、接着性、膨張性などにより測定、評価される。
【0006】
石炭の軟化溶融特性のうち、軟化溶融時の流動性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されるギーセラープラストメータ法による石炭流動性試験方法が挙げられる。ギーセラープラストメータ法は、425μm以下に粉砕した石炭を所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、規定のトルクをかけた撹拌棒の回転速度を目盛板で読み取り、ddpm(dial division per minute)で表示する方法である。
【0007】
ギーセラープラストメータ法がトルク一定での撹拌棒の回転速度を測定しているのに対し、定回転方式でトルクを測定する方法も考案されている。例えば、特許文献1では、回転子を一定の回転速度で回転させながらトルクを測定する方法が記載されている。
【0008】
また、軟化溶融特性として物理的に意味のある粘性を測定することを目的にした、動的粘弾性測定装置による粘度の測定方法がある(例えば、特許文献2参照。)。動的粘弾性測定とは、粘弾性体に周期的に力を加えたときに見られる粘弾性挙動の測定である。特許文献2に記載の方法では、測定で得られるパラメータ中の複素粘性率により軟化溶融石炭の粘性を評価しており、任意のせん断速度における軟化溶融石炭の粘度を測定可能な点が特徴である。
【0009】
さらに、石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの石炭軟化溶融物接着性を測定した例が報告されている。少量の石炭試料を活性炭、ガラスビーズで上下方向から挟んだ状態で加熱し、軟化溶融後に冷却を行い、石炭と活性炭、ガラスビーズとの接着性を外観から観察する方法である。
【0010】
石炭の軟化溶融時の膨張性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されているジラトメーター法が挙げられる。ジラトメーター法は、250μm以下に粉砕した石炭を規定の方法で成型し、所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、石炭の上部に配置した検出棒で、石炭の変位の経時変化を測定する方法である。
【0011】
さらに、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬するため、石炭軟化溶融時に発生するガスの透過挙動を改善した石炭膨張性試験方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。これは、石炭層とピストンの間、もしくは石炭層とピストンの間と石炭層の下部に透過性材料を配置し、石炭から発生する揮発分と液状物質の透過経路を増やすことで、測定環境を、よりコークス炉内の膨張挙動に近づけた方法である。同様に、石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置し、荷重を負荷しながら石炭をマイクロ波加熱して石炭の膨張性を測定する方法も知られている(特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−347392号公報
【特許文献2】特開2000−304674号公報
【特許文献3】特許第2855728号公報
【特許文献4】特開2009−204609号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】C.Meyerら:「Gluckauf Forshungshefte」、Vol.42、1981年、p.233−239
【非特許文献2】諸富ら著:「燃料協会誌」、Vol.53、1974年、p.779−790
【非特許文献3】D.W.van Krevelen:「Coal」、1993年、p.693−695
【非特許文献4】宮津ら著:「日本鋼管技報」、vol.67、1975年、p.125−137
【非特許文献5】上岡ら著:「鉄と鋼」、Vol.93、2007年、p.728−735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を評価するためには、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することが必要である。コークス炉内において軟化溶融した石炭とその周辺の環境を、以下に詳述する。
【0015】
コークス炉内において、軟化溶融時の石炭は隣接する層に拘束された状態で軟化溶融している。石炭の熱伝導率は小さいため、コークス炉内において石炭は一様に加熱されず、加熱面である炉壁側からコークス層、軟化溶融層、石炭層と状態が異なっている。コークス炉自体は乾留時多少膨張するがほとんど変形しないため、軟化溶融した石炭は隣接するコークス層、石炭層に拘束されている。
【0016】
また、軟化溶融した石炭の周囲には、石炭層の石炭粒子間空隙、軟化溶融石炭の粒子間空隙、熱分解ガスの揮発により発生した粗大気孔、隣接するコークス層に生じる亀裂など、多数の欠陥構造が存在する。特に、コークス層に生じる亀裂は、その幅が数百ミクロンから数ミリ程度と考えられ、数十〜数百ミクロン程度の大きさである石炭粒子間空隙や気孔に比較して大きい。従って、このようなコークス層に生じる粗大欠陥へは、石炭から発生する副生物である熱分解ガスや液状物質だけではなく、軟化溶融した石炭自体の浸透も起こると考えられる。また、その浸透時に軟化溶融した石炭に作用するせん断速度は、銘柄毎に異なることが予想される。
【0017】
上述したとおり、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で石炭の軟化溶融特性を測定するためには、拘束条件、浸透条件を適正にする必要がある。しかし、従来方法には以下のような問題がある。
【0018】
ギーセラープラストメータ法は、石炭を容器に充填した状態での測定のため、拘束、浸透条件を全く考慮していない点で問題である。また、この方法は、高い流動性を示す石炭の測定には適さない。その理由は、高い流動性を示す石炭を測定する場合、容器内側壁部が空洞となる現象(Weissenberg効果)が起こり、撹拌棒が空転し、流動性を正しく評価できない場合があるためである(例えば、非特許文献2参照。)。
【0019】
定回転方式でトルクを測定する方法についても同様に、拘束条件、浸透条件を考慮していない点で不備がある。また、せん断速度一定下での測定のため、上記で述べたように石炭の軟化溶融特性を正しく比較評価することができない。
【0020】
動的粘弾性測定装置は、軟化溶融特性として粘性を対象とし、任意のせん断速度下で粘度が測定可能な装置である。よって、測定時のせん断速度を、コークス炉内での石炭に作用する値に設定すれば、コークス炉内での軟化溶融石炭の粘度を測定可能である。しかし、各銘柄のコークス炉内でのせん断速度を予め測定、または推定することは通常は困難である。
【0021】
石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの接着性を測定する方法は、石炭層の存在について浸透条件を再現しようとしているものの、コークス層と粗大欠陥を模擬していない点で問題がある。また、拘束下での測定でない点でも不十分である。
【0022】
特許文献3に記載されている透過性材料を用いた石炭膨張性試験方法においては、石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮しているが、軟化溶融した石炭自体の移動を考慮していない点で問題である。これは特許文献3で用いる透過性材料の透過度が、軟化溶融石炭が移動するほど十分に大きくないためである。本発明者らが実際に特許文献3に記載の試験を行ったところ、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透は起こらなかった。したがって、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透を起こさせるためには、新たな条件を考慮する必要がある。
【0023】
特許文献4にも同様に石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置して石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮した石炭の膨張性測定方法が開示されているが、加熱方法に制約があるという問題点の他、コークス炉内における浸透現象を評価するための条件が明確になっていないという問題がある。さらに特許文献4では、石炭溶融物の浸透現象と軟化溶融挙動の関係が明確になっておらず、石炭溶融物の浸透現象と生成するコークスの品質との関係についての示唆も無く、良好な品質のコークスの製造について記載されているものではない。
【0024】
このように、従来技術ではコークス炉内において軟化溶融した石炭及び粘結材の周辺の環境を十分に模擬した状態で、石炭及び粘結材の流動性、粘性、接着性、浸透性、浸透時膨張率、浸透時圧力などの軟化溶融特性を測定することができない。
【0025】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、コークス炉内において軟化溶融した石炭及び粘結材の周辺の環境を十分に模擬した状態での石炭及び粘結材の軟化溶融特性を測定するため、簡便な方法を用いながら石炭及び粘結材のより正確な軟化溶融特性評価方法を提供することにある。
【0026】
さらに、軟化溶融特性をより正確に評価することにより、石炭及び粘結材のコークス強度への影響をより精度よく把握することが可能になる。本発明はこうした知見を利用し、新たな石炭の配合基準を設定することによって高強度コークスの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上述したような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
[1]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、前記試料を加熱し、
前記貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[2]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、前記試料を加熱し、
前記上下面に貫通孔を有する材料を介して伝達される前記試料の圧力を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[3]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、前記試料を加熱し、
前記貫通孔へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[4]石炭又は粘結材を容器に充填して試料を作成し、
該試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、
前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、前記試料を加熱し、
前記試料の膨張率を測定し、
該測定値を用いて試料の軟化溶融特性を評価する、
石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[5]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなる[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[6]前記粉砕が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕することからなる[5]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[7]前記上下面に貫通孔を有する材料が、球形粒子充填層、或いは、非球形粒子充填層である[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[8]前記試料の加熱が、2〜10℃/分の加熱速度で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる[1]乃至[4]の何れかに記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[9]前記一定荷重を負荷することが、貫通孔を有する材料の上面における圧力が5〜80kPaとなるような荷重を負荷することからなる[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[10]前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度2ないし10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[11]前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[12]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度2〜 10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[13]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[14]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[1]または[2]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[15]前記試料の作成が、石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填することからなり、
前記上下面に貫通孔を有する材料を配置することが、該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置することからなり、
前記試料の加熱が、前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱することからなる、
[3]または[4]に記載の石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価方法。
[16] コークス製造用配合炭に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭について、石炭の軟化溶融特性である浸透距離を測定し、
測定された浸透距離の加重平均値に基づいて、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定し、
決定された配合率により配合された石炭を乾留する、
コークスの製造方法。
[17]前記浸透距離の測定が下記(1)〜(4)により行われ、
前記配合率の決定が、測定された浸透距離の加重平均値が15mm以下になるように、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定する、
[16]に記載のコークスの製造方法。
(1)石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置し、
(3)前記試料と前記ガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
[18]前記浸透距離の測定が下記(1)〜(4)により行われ、
前記配合率の決定が、測定された浸透距離の加重平均値が17mm以下になるように、前記ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の配合率を決定する、
[16]に記載のコークスの製造方法。
(1)石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cm3で、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを層厚80mmとなるように配置し、
(3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
[19]コークス製造に用いる配合炭中に含まれる石炭又は粘結材の銘柄と配合炭中に占めるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を予め決定し、
コークス製造用配合炭に含まれる石炭のうち、ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の浸透距離を測定し、
配合炭に含まれるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を一定とした条件下で個々銘柄の石炭又は粘結材の配合率を変化させることでその時の配合炭に含まれるlogMFが3.0以上の石炭又は粘結材の加重平均浸透距離と前記個々銘柄の石炭の配合率を変化させて調製した配合炭から得られるコークス強度の関係を求め、
コークス強度が所望の値以上になるようにlogMFが3.0以上の石炭の銘柄と配合率を調整して加重平均浸透距離を調整する、
コークスの製造方法。
[20]前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる[19]に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
[21]前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる[19]に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、ガラスビーズの上部から圧力5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コークス炉内での石炭及び粘結材の軟化溶融層周辺に存在する欠陥構造、特に軟化溶融層に隣接するコークス層に存在する亀裂の影響を模擬し、また、コークス炉内での軟化溶融物周辺の拘束条件を適切に再現した状態での石炭及び粘結材の軟化溶融特性、すなわち、欠陥構造への軟化溶融物浸透距離、浸透時膨張率、浸透時圧力の評価が可能である。具体的には、本発明を用いることにより、コークス炉内で石炭及び粘結材が軟化溶融し、移動、変形した時のせん断速度での、欠陥構造への軟化溶融物浸透距離、浸透時膨張率、浸透時圧力が測定可能である。これらの測定値を用いると、コークス性状やコークスケーキ構造の推定を、従来法よりも精度良く行なうことができる。
【0029】
これによりコークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を正確に評価することができるようになり、高強度コークスの製造にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明で使用する試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明で使用する試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円形貫通孔をもつものの一例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、球形粒子充填層の一例を示す概略図である。
【図5】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円柱充填層の一例を示す概略図である。
【図6】実施例1で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例3で測定した、配合炭の軟化溶融物の実測浸透距離と加重平均浸透距離との関係を示すグラフである。
【図9】配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の加重平均浸透距離(一定荷重を負荷して加熱した測定)と、実施例4で測定したドラム強度との関係を示すグラフである。
【図10】配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の加重平均浸透距離(一定容積で加熱した測定)と、実施例4で測定したドラム強度との関係を示すグラフである。
【図11】浸透距離が好適な石炭Aを配合した配合炭Aを乾留したコークスの組織観察写真である。
【図12】浸透距離が大きすぎる石炭Fを配合した配合炭Fを乾留したコークスの組織観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で使用する軟化溶融特性を測定する装置の一例を図1と図2に示す。図1は石炭又は粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ試料を加熱する場合の装置である。図2は石炭又は粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱する場合の装置である。容器3下部に石炭又は粘結材を充填して試料1とし、試料1の上に、上下面に貫通孔を有する材料2を配置する。試料1を軟化溶融温度域以上に加熱し、試料を上下面に貫通孔を有する材料2に浸透させ、浸透距離を測定する。加熱は不活性ガス雰囲気下で行なわれる。ここで、不活性ガスとは、測定温度域で石炭と反応しないガスを指し、代表的なガスとしてはアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等である。
【0032】
試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ試料1を加熱する場合、上下面に貫通孔を有する材料2を介して試料浸透時の圧力を測定することが可能である。図1に示すように、上下面に貫通孔を有する材料2の上面に圧力検出棒4を配置し、圧力検出棒4の上端にロードセル6を接触させ、圧力を測定する。一定容積を保つため、ロードセル6が上下方向に動かないよう固定する。加熱前、容器3に充填された試料に対し、上下面に貫通孔を有する材料2、圧力検出棒4、ロードセル6間に隙間が出来ないよう、それぞれを密着させておく。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、圧力検出棒4が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と圧力検出棒4の間に板を挟む措置を講ずるのが望ましい。
【0033】
試料1と上下面に貫通孔を有する材料2に一定荷重を負荷して試料1を加熱する場合、試料1が膨張又は収縮を示し、上下面に貫通孔を有する材料2が上下方向に移動する。よって、上下面に貫通孔を有する材料2を介して試料浸透時の膨張率を測定することが可能である。図2に示すように上下面に貫通孔を有する材料2の上面に膨張率検出棒13を配置し、膨張率検出棒13の上端に荷重付加用の錘14を乗せ、その上に変位計15を配置し、膨張率を測定する。変位計15は、試料の膨張率の膨張範囲(−100%〜300%)を測定可能なものを用いれば良い。加熱系内を不活性ガス雰囲気に保持する必要があるため、非接触式の変位計が適しており、光学式変位計を用いることが望ましい。不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気とすることが好ましい。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、膨張率検出棒13が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と膨張率検出棒13の間に板を挟む措置を講ずるのが望ましい。負荷させる荷重は、試料上面に配置した上下面に貫通孔を有する材料の上面に対して、均等にかけることが好ましく、上下面に貫通孔を有する材料の上面の面積に対し、5〜80kPa、好ましくは15〜55kPa、最も好ましくは25〜50kPaの圧力を負荷することが望ましい。この圧力は、コークス炉内における軟化溶融層の膨張圧に基づいて設定することが好ましいが、測定結果の再現性、種々の石炭での銘柄差の検出力を検討した結果、炉内の膨張圧よりはやや高めの25〜50kPa程度が測定条件として最も好ましいことを見出した。
【0034】
加熱手段は、試料の温度を測定しつつ、所定の昇温速度で加熱できる方式のものを用いることが望ましい。具体的には、電気炉や、導電性の容器と高周波誘導を組み合わせた外熱式、またはマイクロ波のような内部加熱式である。内部加熱式を採用する場合は、試料内温度を均一にする工夫を施す必要があり、例えば、容器の断熱性を高める措置を講ずることが好ましい。
【0035】
加熱速度については、コークス炉内での石炭及び粘結材の軟化溶融挙動を模擬するという目的から、コークス炉内での石炭の加熱速度に一致させる必要がある。コークス炉内での軟化溶融温度域における石炭の加熱速度は炉内の位置や操業条件によって異なるが概ね2〜10℃/分であり、平均的な加熱速度として2〜4℃/分とすることが望ましく、もっとも望ましいのは3℃/分程度である。しかし、非微粘結炭のように流動性の低い石炭の場合、3℃/分では浸透距離や膨張が小さく、検出が困難となる可能性がある。石炭は急速加熱することによりギーセラープラストメータによる流動性が向上することが一般的に知られている(例えば、非特許文献3参照。)。従って、例えば浸透距離が1mm以下の石炭の場合には、検出感度を向上させるために、加熱速度を10〜1000℃/分に高めて測定しても良い。
【0036】
加熱を行なう温度範囲については、石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価が目的であるため、石炭及び粘結材の軟化溶融温度域まで加熱できればよい。コークス製造用の石炭及び粘結材の軟化溶融温度域を考慮すると、0℃(室温)〜550℃の範囲において、好ましくは石炭の軟化溶融温度である300〜550℃の範囲で所定の加熱速度で加熱すればよい。
【0037】
上下面に貫通孔を有する材料は、透過係数をあらかじめ測定または算出できるものが望ましい。材料の形態の例として、貫通孔を持つ一体型の材料、粒子充填層が挙げられる。貫通孔を持つ一体型の材料としては、例えば、図3に示すような円形の貫通孔16を持つもの、矩形の貫通孔を持つもの、不定形の貫通孔を持つものなどが挙げられる。粒子充填層としては、大きく球形粒子充填層、非球形粒子充填層に分けられ、球形粒子充填層としては図4に示すようなビーズの充填粒子17からなるもの、非球形粒子充填層としては不定形粒子や、図5に示すような充填円柱18からなるものなどが挙げられる。測定の再現性を保つため、材料内の透過係数はなるべく均一で、かつ測定を簡便にするため、透過係数の算出が容易なものが望ましい。したがって、本発明で用いる上下面に貫通孔を有する材料には球形粒子充填層の利用が特に望ましい。上下面に貫通孔を有する材料の材質は、石炭軟化溶融温度域以上、具体的には600℃まで形状がほとんど変化せず、石炭とも反応しないものならば特に指定はない。また、その高さは、石炭の溶融物が浸透するのに十分な高さがあればよく、厚み5〜20mmの石炭層を加熱する場合には、20〜100mm程度あればよい。
【0038】
上下面に貫通孔を有する材料の透過係数は、コークス層に存在する粗大欠陥の透過係数を推定して設定する必要がある。本発明に特に望ましい透過係数について、粗大欠陥構成因子の考察や大きさの推定など、本発明者らが検討を重ねた結果、透過係数が1×108〜2×109m-2の場合が最適であることを見出した。この透過係数は、下記(1)式で表されるDarcy則に基づき導出されるものである。
ΔP/L=K・μ・u ・・・ (1)
ここで、ΔPは上下面に貫通孔を有する材料内での圧力損失[Pa]、Lは貫通孔を有する材料の高さ[m]、Kは透過係数[m-2]、μは流体の粘度[Pa・s]、uは流体の速度[m/s]である。例えば上下面に貫通孔を有する材料として均一な粒径のガラスビーズ層を用いる場合、上述の好適な透過係数を持つようにするためには、直径0.2mmから3.5mm程度のガラスビーズを選択することが望ましく、もっとも望ましいのは2mmである。
【0039】
測定試料とする石炭および粘結材はあらかじめ粉砕し、所定の充填密度で所定の層厚に充填する。粉砕粒度としては、コークス炉における装入石炭の粒度(粒径3mm以下の粒子の比率が全体の70〜80質量%程度)としてもよく、粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕することが好ましいが、小さい装置での測定であることを考慮して、全量を粒径2mm以下に粉砕した粉砕物を用いることが特に好ましい。粉砕物を充填する密度はコークス炉内の充填密度に合わせ0.7〜0.9g/cm3とすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、0.8g/cm3が好ましいことを知見した。また、充填する層厚は、コークス炉内における軟化溶融層の厚みに基づいて層厚5〜20mmとすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、層厚は10mmとすることが好ましいことを知見した。
【0040】
石炭及び粘結材の軟化溶融物の浸透距離は、加熱中に常時連続的に測定できることが本来望ましい。しかし、常時測定は、試料から発生するタールの影響などにより、困難である。加熱による石炭の膨張、浸透現象は不可逆的であり、一旦膨張、浸透した後は冷却してもほぼその形状が保たれているので、石炭溶融物が浸透終了した後、容器全体を冷却し、冷却後の浸透距離を測定することで加熱中にどこまで浸透したかを測定するようにしてもよい。例えば、冷却後の容器から上下面に貫通孔を有する材料を取り出し、ノギスや定規で直接測定することが可能である。また、上下面に貫通孔を有する材料として粒子を使用した場合には、粒子間空隙に浸透した軟化溶融物は、浸透した部分までの粒子層全体を固着させている。したがって、前もって粒子充填層の質量と高さの関係を求めておけば、浸透終了後、固着していない粒子の質量を測定し、初期質量から差し引くことで、固着している粒子の質量を導出でき、そこから浸透距離を算出することができる。
【0041】
上記の(1)式中には粘度項(μ)が含まれている。よって、本発明で測定したパラメータより、上下面に貫通孔を有する材料内に浸透した軟化溶融物の粘度項を導出することが可能である。例えば、試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ試料を加熱した場合では、ΔPは浸透時圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、(1)式に代入することにより粘度項が導出可能である。また、試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱する場合では、ΔPは付加した荷重の圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、これも(1)式に代入することにより粘度が導出可能である。
【0042】
以上のように、石炭及び粘結材の軟化溶融物の浸透距離や、圧力、膨張率を測定して、石炭及び粘結材の軟化溶融特性を評価する。ここで、本発明における「試料(石炭または粘結材)の軟化溶融特性を評価する」とは、少なくとも浸透距離や、圧力、膨張率を測定して、その測定値に基づいて、石炭溶融物の挙動および、それに起因して発生する現象(例えば、生成するコークスの性状、コークスの押し出し抵抗など)を定量的に評価するための指標を得ることを指す。測定値は浸透距離や、圧力、膨張率以外の物性値(例えば、MF等)を併用することができるが、浸透距離、圧力、膨張率のみから選択された一つ以上を用いることもできる。その場合は、浸透距離や、圧力、膨張率の測定値が得られた段階で軟化溶融特性を評価したことになり、浸透距離や、圧力、膨張率を測定することと軟化溶融特性を評価することとは実質的に同義となる。更に、前記浸透距離や、圧力、膨張率をパラメータとしてコークス強度推定に適用し、これにより複数銘柄の石炭を配合して、所望の強度を有するコークスを製造することができる。コークス強度の指標としては常温における回転強度が最も一般的であるがそれ以外にも、CSR(coke strength after reaction)(熱間CO2反応後強度)や引張強度、ミクロ強度等のコークス性状に対する推定に適用し、これにより複数銘柄の石炭を配合して、所望の強度を有するコークスを製造することができる。
【0043】
従来のコークス強度を推定するための石炭配合理論においては、コークス強度は主に、石炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)と、ギーセラー最高流動度(MF)の対数値(logMF)により決定されると考えられてきた(例えば、非特許文献4参照。)。ギーセラー流動度は石炭の軟化溶融時における流動性を示す指標であり、ギーセラープラストメータの撹拌棒の回転速度、すなわち、1分間当たりの回転量をddpm(dial division per minute)単位で表したものである。石炭の特性値としては、最高流動度(maximum fluidity:MF)を用いる。また、ddpmの常用対数を使用することもある。本発明による浸透距離は、コークス炉内での軟化溶融挙動を模擬した条件下での流動性を示すパラメータであると考えられるので、ギーセラー最高流動度の対数値logMFより、コークス性状やコークスケーキ構造を推定するのに優れたパラメータであると考えられる。
【0044】
このような浸透距離の優位性は、コークス炉内状況に近い測定方法をとることに基づいて原理的に想定されるだけではなく、コークス強度への浸透距離の影響を調査した結果からも明らかとなった。実際、本発明の評価方法により、同程度のlogMFを持つ石炭であっても、銘柄により浸透距離に差があることが明らかとなり、浸透距離の異なる石炭を配合してコークスを製造した場合のコークス強度に対する影響も異なることが確認された。具体的には、以下の実施例で示すように、浸透距離の値がある点を超えるとコークス強度が低下するような関係になっている。この理由は、以下のように考察される。
【0045】
浸透距離が長い石炭を配合した場合、乾留時に十分な溶融を示す石炭の割合は多いと考えられる。しかし、浸透距離が長すぎる石炭は、周囲の石炭粒子間に顕著に浸透することで、その石炭粒子が存在していた部分自体が大きな空洞となり、欠陥となると推測される。従来のギーセラー最高流動度に基づく考え方でも配合炭の流動性が高すぎるとコークス強度が低下する場合があることは予想されてはいたが(例えば、非特許文献4参照。)、高流動性の個別銘柄の挙動までは明らかになっていなかった。これは、従来のギーセラー流動性測定においては、前述のWeissenberg効果のために高流動度域での正しい物性が測定できなかったことも原因のひとつと考えられる。本発明の測定方法を採用することにより、特に流動性の高い領域における溶融物の物性をより正確に評価できるようになったため、従来の方法では区別できなかった軟化溶融物の物性の差が明確になり、軟化溶融挙動とコークス構造の関係をよりよく評価できるようになった点が、本発明により大きく進歩した点である。
【0046】
発明者らは、本発明の方法における好適な測定条件を確立し、その測定結果を用いて高強度のコークスを製造する方法を確立した。
【実施例1】
【0047】
石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した場合の測定例を示す。17種類の石炭及び4種類の粘結材(A炭〜Q炭、粘結材R〜U)を試料として、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。使用した石炭及び粘結材の性状(平均最大反射率:Ro、ギーセラー最高流動度の対数値:logMF、揮発分:VM、灰分:Ash)を表1に示す。なお、測定に使用した粘結材の流動性をギーセラープラストメータ法で測定したところ、いずれもギーセラー最高流動度の常用対数値(logMF)が、検出限界である4.8を示した。
【0048】
【表1】
【0049】
図1に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。加熱方式を高周波誘導加熱式としたため、図1の発熱体8は誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料2として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒径2mm以下に粉砕し室温で真空乾燥した試料2.04gを容器に装入し、試料の上から重さ200gの錘を落下距離20mmで5回落下させることにより試料を充填した(この状態で試料層厚は10mmとなった。)。次に直径2mmのガラスビーズを試料1の充填層の上に25mmの厚さとなるように配置して、ガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を、その上に圧力検出棒4として石英製の棒を配置した。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで加熱した。加熱中はロードセル6により圧力検出棒4から付加される圧力を測定した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器3から、軟化溶融物に固着していないビーズを取り出してその質量を計測した。
【0050】
浸透距離は固着したビーズ層の充填高さとした。ガラスビーズ充填層の充填高さと質量の関係をあらかじめ求め、軟化溶融物が固着したビーズの質量よりガラスビーズ充填高さを導出できるようにした。その結果が下記(2)式であり、(2)式より浸透距離を導出した。
L=(G−M)×H ・・・ (2)
ここで、Lは浸透距離[mm]、Gは充填したガラスビーズ質量[g]、Mは軟化溶融物と固着していないビーズ質量[g]、Hは本実験装置に充填されたガラスビーズの1gあたりの充填層高さ[mm/g]を表す。
【0051】
粘結材の浸透距離を測定する際には、試料容器として、同一の径を持ち、高さ100mmの容器を用い、試料上部に配置するガラスビーズ充填層の厚さを80mmとした。これは、粘結材の浸透距離が大きいためである。なお、石炭を用い、一定の試料層厚で、容器高さとガラスビーズ充填層の厚さを変更した試験を行なったが、ガラスビーズ充填層厚さが浸透距離以上であれば、浸透距離の測定値は同じであった。
【0052】
浸透距離ならびに浸透時の最大圧力の測定結果を表2に、浸透距離測定結果とギーセラー最高流動度の対数値(logMF)の関係を図6に示す(MF値が正しく求められなかった粘結材の値はプロットしていない。)。
【0053】
【表2】
【0054】
図6によれば、浸透距離はlogMFに対しある程度の相関は認められるが、相関から外れている銘柄も多く見られる。また、表2の粘結材の測定結果でも、従来の方法では区別できなかった粘結材物性の違いが観測できていることがわかる。試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した場合の測定において、浸透距離に影響する因子は、上記(1)式が示すとおり試料の粘度μと試料の膨張圧ΔPであり、試料毎に変わる。従って、石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱する測定法で得られた浸透距離と圧力は、コークス炉内での溶融物の状態を反映した値であると考えられる。軟化溶融時の石炭及び粘結材の溶融状況や圧力は、乾留後のコークス構造に影響を及ぼすと推測されることから、コークス強度を推定するのに特に有効であるといえる。
【0055】
また、試料の浸透時に作用する圧力は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での圧力測定結果であるため、コークス炉で石炭の乾留中にコークス炉壁にかかる圧力の推定への適用にも有効であるといえる。
【実施例2】
【0056】
石炭及び粘結材試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して試料を加熱した場合の測定例を示す。実施例1と同じ、上記表1に示す17種類の石炭及び4種類の粘結材(A炭〜Q炭、粘結材R〜U)について、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。図2に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。加熱方式は高周波誘導加熱式としたため、図2の発熱体8を誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒径2mm以下に粉砕し室温で真空乾燥した試料2.04gを容器3に装入し、試料の上から重さ200gの錘を落下距離20mmで5回落下させることにより試料1を充填した。次に直径2mmのガラスビーズを試料1の充填層の上に25mmの厚さとなるように配置してガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を配置し、その上に膨張率検出棒13として石英製の棒を置き、さらに石英棒の上部に1.3kgの錘14を置いた。これにより、シリマナイト円盤上にかかる圧力は50kPaとなる。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/分で550℃まで加熱した。加熱中はレーザー変位計により変位を測定し、試料充填時の高さから膨張率を算出した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器から、軟化溶融物と固着していないビーズ質量を計測した。浸透距離は、上記(2)式により導出した。
【0057】
本実施例においても粘結材の浸透距離測定の際には、実施例1と同様に大きい容器を用い、ガラスビーズ充填層の厚さを増やして試験を行なった。なお、実施例2の条件においてもガラスビーズ充填層の厚さは浸透距離の測定値に影響しないことを確認した。
【0058】
浸透距離および最終膨張率の測定結果を表3に、浸透距離測定結果とギーセラー最高流動度の対数値(logMF)の関係を図7に示す(MF値が正しく求められなかった粘結材の値はプロットしていない。)。
【0059】
【表3】
【0060】
図7によれば、本実施例で測定した浸透距離はlogMFとある程度の相関は認められるが、同程度のlogMFであっても、浸透距離の異なる銘柄が存在することが確認できた。特にその傾向は、logMFが高い領域で見られた。本装置での浸透距離の測定誤差が、同一条件で3回試験を行った結果、標準偏差0.6であったことを考慮すると、logMFがほぼ等しい石炭Hと石炭Kに対して、浸透距離に有意な差が認められた。上記(1)式の関係のみから推測すれば、同じlogMFの銘柄であれば溶融時粘度μも同様と考えられるため、浸透距離は同じになると考えられる。その理由は、本測定ではΔP、Kは測定する試料によらず一定であり、また、石炭のlogMFとその石炭が溶融性を示す温度域(溶融時間に相当)とはほぼ相関が認められるため、uもほぼ一定とみなせるからである。しかし、乾留中の石炭は、溶融すると同時期に、揮発分の発生に伴う発泡・膨張現象が見られる。従って、本測定によって得られた浸透距離の値とは、溶融物のビーズ充填層への浸透と、ビーズ層内での溶融物の発泡とを併せた影響を表したものであると推測される。これらの値は、乾留後のコークスの構造を決定付ける因子であると推測されることから、コークス強度を推定するのに特に有効であるといえる。
【0061】
また、表3に示す最終膨張率は、550℃での膨張率の値である。表3の結果は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での膨張率測定結果であるため、コークス強度推定や、コークス炉壁とコークス塊の隙間の推定に有効であるといえる。
【実施例3】
【0062】
実施例2と同じ測定方法で浸透距離の加成性の成立状況を調査した。
【0063】
4種類の石炭(V炭〜Y炭)のうちから2銘柄を選び、種々配合率を変えて作製した配合炭を試料として、浸透距離の測定を行った。使用した石炭ならびに配合炭の性状(Ro、logMF、VM、Ash)を表4に示す。ここで、配合炭の性状は単味炭の性状を配合割合で平均した加重平均値である。浸透距離の測定結果を表4に併せて示す。また、配合炭の加重平均浸透距離と実測浸透距離の関係を図8に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
図8によれば、本実施例で測定した浸透距離は極めて良好な加成性が成立することが分かる。従って、2種類以上の石炭を配合してなる配合炭の浸透距離の値を求めるには、実際に作製した配合炭を試料として浸透距離を測定しても良いし、配合炭を構成する単味炭の浸透距離を予め測定しておき、加重平均値を計算して推定することもできる。
【0066】
配合炭に使用する石炭は、通常、銘柄ごとに様々な品位を予め測定して使用している。従って、浸透距離についても同様に予め銘柄のロット毎に測定しておけば、配合炭の浸透距離を速やかに算出することが可能となるため、実用上好ましい。
【実施例4】
【0067】
本発明で得られた石炭の軟化溶融特性値をコークス強度推定に適用し、その有効性を検討した。
【0068】
上記のように、本発明による浸透距離は、ギーセラー最高流動度の対数値logMFより、コークス性状やコークスケーキ構造を推定するのに優れたパラメータであると考えられるので、logMFがほぼ等しく、浸透距離の異なる石炭を用いてコークスを製造した場合のコークス強度への影響を調査するために、以下の要領で乾留試験ならびに乾留後コークスの強度試験を実施した。
【0069】
上記実施例1、2で用いた表1において、石炭A、石炭F、石炭G(logMFが3.5以上)を「同程度MF炭」として選択し、それぞれを20mass%配合し、配合炭全体の加重平均Ro、加重平均logMFは等しくなるように、種々の石炭を残部として配合した配合炭(配合炭A、F、G)を準備した。石炭A、石炭F、石炭Gは、コークス製造において用いられる石炭のなかでもMFが高い種類の石炭であって、コークス製造において、石炭粒子の接着性を向上させることを意図して用いられることが多い石炭である。さらに、こうした高MF炭を混合して使用した場合の試験として、logMF≧3.0の複数の銘柄を同時に用いた配合炭(配合炭AF、配合炭FG、配合炭FGK)を準備した。なお、配合炭の平均品位は、Ro=0.99〜1.05、logMF=2.0〜2.3となるように調製した。それぞれの配合炭で用いた石炭の銘柄とその配合率、および配合炭中におけるlogMF≧3.0の石炭の加重平均定積浸透距離(表2の値から計算)、加重平均定圧浸透距離(表3の値から計算)、生成したコークスの強度を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
ここで、表5で用いる各石炭は、粒径3mm以下100mass%に粉砕したものを使用し、配合炭全体の水分が8mass%になるように調整した。この配合炭16kgを、嵩密度750kg/m3となるように乾留缶に充填し、その上に10kgの錘を乗せた状態で、炉壁温度1050℃の電気炉内で6時間乾留後、炉から取り出し窒素冷却し、コークスを得た。得られたコークスのコークス強度は、JIS K 2151の回転強度試験法に基づき、15rpm、150回転後の粒径15mm以上のコークスの質量割合を測定し、回転前との質量比をドラム強度指数DI150/15として算出した。さらにCRI(熱間CO2反応性)、CSR(熱間CO2反応後強度、いずれもISO18894法に準拠して測定)、マイクロ強度(MSI+65)の測定結果も示した。
【0072】
各配合炭について、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離(実施例2で測定した、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して石炭試料を加熱した測定で得られた浸透距離)の加重平均値と、各配合炭の乾留後コークスのドラム強度との関係を図9に示す。同程度MF炭として石炭A、石炭F、石炭Gを20mass%配合した配合炭A、配合炭F、配合炭Gの強度を比較すると、同程度MF炭の浸透距離が短いほど高いドラム強度を示した。更には、配合炭A、配合炭F、配合炭AFのドラム強度の結果から、同程度MF炭の浸透距離とドラム強度との間には、加成性が成立することがわかる。この例に加えて、配合炭FGおよび配合炭FGKの結果も合わせると、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離の加重平均値が17mmを超えるとコークス強度が低下することがわかる。したがって、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定圧浸透距離の加重平均値を17mm以下にすることによって、高強度のコークスの製造が可能になる。
【0073】
次に、各配合炭について、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定積浸透距離(実施例1で測定した、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した測定で得られた浸透距離)の加重平均値と、各配合炭の乾留後コークスのドラム強度との関係を図10に示す。
【0074】
図10においても図9よりもやや弱いながら同様の傾向が認められ、本測定で得られた浸透距離の値は、一定容積で加熱した測定で得られた場合にも、一定荷重を負荷して加熱した測定で得られた場合にも、コークス強度に対して影響を及ぼしていることが分かる。なお、定積浸透距離を指標とする場合、配合炭中に含まれるギーセラー最高流動度の対数値logMF≧3.0の石炭の定積浸透距離の加重平均値は15mm以下とすることが好ましいと判断される。浸透距離の測定結果は、同じ石炭であっても用いる測定条件によって異なるため、各石炭の評価は実質的に同一の条件で行なう必要がある。試料の層厚と充填密度の積が±20%の範囲であり、貫通孔を有する材料の形式(球形粒子充填層または円柱充填層等)は同一として球形または円柱の径が±20%の範囲であり、加熱速度が±20%の範囲であれば実用上は問題なく使用できるので、その範囲を実質的に同一であるとする。このような条件で測定した値を用いて、図9、10のように、配合炭に含まれる高MF炭の浸透距離と、その配合炭を乾留して得られるコークス強度の相関を予め得ておけば、所望のコークス強度を得るために高MF炭の浸透距離をどの程度に調製すればよいかを知ることができる。なお、配合炭FGおよび、配合炭FGKから製造したコークスについてはCSRの測定も行なった。その結果、配合炭FGからのコークスではCSR=55.4(反応性CRI=29.7)、配合炭FGKから製造したコークスではCSR=59.5(反応性CRI=29.5)となり、JISドラム強度と同様の傾向が確認された。一般にコークスの反応性CRIが同程度であれば、CSRはJISドラム強度と良好な相関を示すことが知られており、この傾向は実施例における試料でも確認できた。なお、マイクロ強度、間接引張強度においてもJISドラム強度と同様の傾向が確認された。
【0075】
以上のように、高MF炭の浸透距離がコークス強度に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。特に高MF炭で浸透距離の影響が顕著な理由としては、図6、図7に示すように、高MF炭ほど浸透距離の差が大きくなることが考えられる。低MF炭では浸透距離の銘柄差はあまり大きくなく、浸透距離の影響が現れにくかった可能性がある。また、高MF炭では前述のWeissenberg効果や測定可能上限の存在によって、ギーセラープラストメーター法では軟化溶融特性が十分に評価できていなかった可能性がある。本発明の方法により、従来法の欠点を改善することができたため、軟化溶融特性のコークス強度への影響に関する新たな知見を得ることが可能になったものと考えられる。
【0076】
次に、浸透距離がコークス強度に影響する理由を確認するために、光学顕微鏡を用い、浸透距離が好適であると考えられる石炭Aを20mass%配合した配合炭Aを乾留したコークスと、浸透距離が長すぎると考えられる石炭Fを20mass%配合した配合炭Fを乾留したコークスの組織観察を行った。倍率100倍で撮影した石炭Aの写真を図11に、石炭Fの写真を図12に示す。
【0077】
図11及び図12に示す写真を比較すると、浸透距離が長すぎる石炭Fを配合した配合炭Fを乾留したコークスは、浸透距離が好適な石炭Aを配合した配合炭Aを乾留したコークスに比べて気孔壁20が薄く、また、気孔同士が連結し、歪な形状の粗大な気孔21を形成していることがわかった。コークス強度は、気孔壁が厚いほど、気孔の真円度が高いほど高くなることが報告されている(例えば、非特許文献5参照。)。従って、石炭の浸透距離が、乾留時のコークス構造の形成に影響を及ぼし、その結果、コークス強度に影響することが確認できた。
【0078】
本実施例から、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷して石炭試料を加熱した測定および石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した測定で得られた浸透距離は、生成するコークスの強度に影響を及ぼす因子であり、かつ、従来因子では説明できない因子であることから、従来のコークス強度推定に組み合わせることで、高精度の強度推定が可能となることが分かる。さらに好ましい条件において測定された浸透距離に基づいて石炭の配合を行うことで、高強度コークスの製造が可能になることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 試料
2 上下面に貫通孔を有する材料
3 容器
4 圧力検出棒
5 スリーブ
6 ロードセル
7 温度計
8 発熱体
9 温度検出器
10 温度調節器
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 膨張率検出棒
14 錘
15 変位計
16 円形貫通孔
17 充填粒子
18 充填円柱
20 気孔壁
21 気孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス製造に用いる配合炭中に含まれる石炭又は粘結材の銘柄と配合炭中に占めるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を予め決定し、
コークス製造用配合炭に含まれる石炭のうち、ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の浸透距離を測定し、
配合炭に含まれるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を一定とした条件下で個々銘柄の石炭又は粘結材の配合率を変化させることでその時の配合炭に含まれるlogMFが3.0以上の石炭又は粘結材の加重平均浸透距離と前記個々銘柄の石炭の配合率を変化させて調製した配合炭から得られるコークス強度の関係を求め、
コークス強度が所望の値以上になるようにlogMFが3.0以上の石炭の銘柄と配合率を調整して加重平均浸透距離を調整する、
コークスの製造方法。
【請求項2】
前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる請求項1に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【請求項3】
前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる請求項1に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、ガラスビーズの上部から圧力5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【請求項1】
コークス製造に用いる配合炭中に含まれる石炭又は粘結材の銘柄と配合炭中に占めるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を予め決定し、
コークス製造用配合炭に含まれる石炭のうち、ギーセラー最高流動度の対数値logMFが3.0以上の石炭の浸透距離を測定し、
配合炭に含まれるlogMFが3.0未満の石炭の合計配合率を一定とした条件下で個々銘柄の石炭又は粘結材の配合率を変化させることでその時の配合炭に含まれるlogMFが3.0以上の石炭又は粘結材の加重平均浸透距離と前記個々銘柄の石炭の配合率を変化させて調製した配合炭から得られるコークス強度の関係を求め、
コークス強度が所望の値以上になるようにlogMFが3.0以上の石炭の銘柄と配合率を調整して加重平均浸透距離を調整する、
コークスの製造方法。
【請求項2】
前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる請求項1に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、前記試料とガラスビーズ層を一定容積に保ちつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【請求項3】
前記浸透距離の測定が、以下の範囲から選ばれる条件で行なわれる請求項1に記載のコークスの製造方法。
石炭又は粘結材を粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕し、該粉砕物を充填密度0.7〜0.9g/cm3で、層厚が5〜20mmとなるように容器に充填して試料とし、該試料の上に直径0.2〜3.5mmのガラスビーズを層厚20〜100mmとなるように配置し、ガラスビーズの上部から圧力5〜80kPaとなるように荷重を負荷しつつ、昇温速度2〜10℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱する。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−211332(P2012−211332A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−136476(P2012−136476)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2011−187108(P2011−187108)の分割
【原出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2011−187108(P2011−187108)の分割
【原出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]