説明

コークス強度の推定方法及び推定プログラム

【課題】コークス強度を精度よく簡単に推定することができるコークス強度の推定方法及び推定プログラムを提供する。
【解決手段】コークスの強度を表すDIを推定するための方法であって、前記コークスの気孔率Pに基づいて、下記式1を満たす強度基準値y1を算出する工程と、前記コークスの真比重Dtに基づいて、下記式2を満たす差分基準値y2を算出する工程と、強度基準値y1と差分基準値y2を加算することにより、DIの推定値を算出する工程とを含むことを特徴とするコークス強度の推定方法。(式1)y1=−a×P2+b×P−c。(式2)y2=d×Dt−e。a、b、c、d、eは定数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの強度を表すDIを推定するためのコークス強度の推定方法及び推定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス強度は、高炉の操業に大きな影響を与える要因の1つである。すなわち、石炭をコークス炉で乾留することにより製造されるコークスは、その後の高炉への搬送や高炉内での衝撃に耐える必要があるため、高い強度が求められている。
【0003】
コークス強度は、例えばJIS規格「JIS K2151」に準拠したドラム強度指数(DI)により評価することができる。このDIの測定においては、試料を規定のドラム試験機に挿入し、規定速度で規定数だけ回転させた後にふるい分け、各区分ごとにその重量を求めることにより、試料に対する加算分率(%)をDIとして表わすことができる。
【0004】
実操業においては、操業管理のためにコークス強度の推定が行われるが、その推定方法は、原料となる石炭の性状を用いた推定方法(例えば、特許文献1〜4参照)と、石炭から製造されるコークスの性状を用いた推定方法(例えば、特許文献5〜7参照)とに大別することができる。
【0005】
石炭の性状を用いてコークス強度を推定する方法としては、ギーセラー最高流動度(MF)、ディラートメータ(全膨張率)、ビトリニット平均反射率(Ro)、全イナート分(TI)などから推定する方法を例示することができる。
【0006】
一方、コークスの性状を用いてコークス強度を推定する方法は、コークス自体の性状からDIを推定する点で、より本質的な推定方法である。この推定方法としては、例えばコークスを多孔質物質として評価し、基質部分と気孔部分とに分けて、それぞれからコークス強度を推定する方法を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−279206号公報
【特許文献2】特開2000−63846号公報
【特許文献3】特開平9−263764号公報
【特許文献4】特開平9−72869号公報
【特許文献5】特開2004−251850号公報
【特許文献6】特開2004−26902号公報
【特許文献7】特開2007−291262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、石炭の性状を用いてコークス強度を推定する方法では、原料となる石炭の性状からの推定であるため、製造条件によって変化するコークス強度を精度よく推定することが困難である。また、原料に関する情報がない場合には、コークス強度を推定すること自体が不可能となる。
【0009】
コークスの性状を用いてコークス強度を推定する方法においても、上記のようにコークスを多孔質物質として評価する方法では、基質部分と気孔部分の性状をそれぞれ別々の試験で測定し破壊強度の測定等を行うため、手間や時間がかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、コークス強度を精度よく簡単に推定することができるコークス強度の推定方法及び推定プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、少量のコークスを用いて精度よくコークス強度を推定することができるコークス強度の推定方法及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、コークスの気孔率Pと真比重Dに着目し、これらのパラメータとDIの実測値との関係を研究した結果、一定の関係が成り立つことを見出した。具体的には、コークスの気孔率Pを変数とする二次関数により、DIの実測値に近似した強度基準値yを表すことができ、当該強度基準値yとDIの実測値との差分を、コークスの真比重Dを変数とする一次関数により表わされる差分基準値yに近似することができることを見出した。下記(式1)、(式2)及び(式3)は、本願発明者の研究によって見出された式である。また、下記(式4)は、JIS規格「JIS K2151」に規定された式に基づくものである。
【0012】
本発明に係るコークス強度の推定方法は、コークスの強度を表すDIを推定するための方法であって、前記コークスの気孔率Pに基づいて、下記式1を満たす強度基準値yを算出する工程と、前記コークスの真比重Dに基づいて、下記式2を満たす差分基準値yを算出する工程と、強度基準値yと差分基準値yを加算することにより、DIの推定値を算出する工程とを含むことを特徴とする。
(式1)y=−a×P2+b×P−c
(式2)y=d×D−e
a、b、c、d、eは定数を示す。
【0013】
このような構成によれば、コークスの気孔率Pと真比重Dを用いて、コークスの強度を表すDIの推定値を算出することができる。したがって、簡単に測定可能なコークスの気孔率Pと真比重Dを用いて、コークス強度を精度よく簡単に推定することができる。
【0014】
また、コークスの気孔率Pと真比重Dは、少量のコークスを用いて測定可能である。したがって、少量のコークスを用いて精度よくコークス強度を推定することができる。
【0015】
前記コークス強度の推定方法は、少量法により測定された前記コークスの見かけ比重Da1に基づいて、下記式3を満たす体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出する工程と、推定値Da2及び真比重Dに基づいて、下記式4を満たす気孔率Pを算出する工程とを含むことが好ましい。
(式3)Da2=f×Da1−g
(式4)P=(1−Da2/D)×100
f、gは定数を示す。
【0016】
このような構成によれば、少量のコークスを用いた少量法によりコークスの見かけ比重Da1を測定するだけで、体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出し、当該推定値Da2を用いてコークスの気孔率Pを算出することができる。このようにして算出したコークスの気孔率Pを用いてDIの推定値を算出することにより、少量のコークスを用いて精度よくコークス強度を推定することができる。
【0017】
本発明に係るコークス強度の推定プログラムは、コークスの強度を表すDIを推定するためのプログラムであって、前記コークスの気孔率Pに基づいて、下記式1を満たす強度基準値yを算出する工程と、前記コークスの真比重Dに基づいて、下記式2を満たす差分基準値yを算出する工程と、強度基準値yと差分基準値yを加算することにより、DIの推定値を算出する工程とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
(式1)y=−a×P2+b×P−c
(式2)y=d×D−e
a、b、c、d、eは定数を示す。
【0018】
前記コークス強度の推定プログラムは、少量法により測定された前記コークスの見かけ比重Da1に基づいて、下記式3を満たす体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出する工程と、推定値Da2及び真比重Dに基づいて、下記式4を満たす気孔率Pを算出する工程とをコンピュータに実行させることが好ましい。
(式3)Da2=f×Da1−g
(式4)P=(1−Da2/D)×100
f、gは定数を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るコークス強度の推定方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】表1の結果から導き出されたDIの実測値と気孔率との関係を示すグラフである。
【図3】強度基準値yとDIの実測値との差分に対する真比重の関係を示すグラフである。
【図4】算出されたDIの推定値とDIの実測値との関係を示すグラフである。
【図5】気孔率の算出方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】少量法による見かけ比重の実測値と体積法による見かけ比重の実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るコークス強度の推定方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、コークスの強度を表す指数としてJIS規格「JIS K2151」に規定されたDI(ドラム強度指数)を推定する方法について説明する。
【0021】
コークス強度を推定する際には、まず、コークスの真比重Dを測定する(ステップS101)。真比重Dは、空隙を含まない比重を意味しており、少量のコークスをサンプルとして用いて、周知の方法により容易に測定することができる。真比重Dの測定は、JIS規格「JIS K2151」に準拠して行うことが可能である。ただし、コークスの真比重Dを測定する工程(ステップS101)を行うことなく、予め定められた真比重Dの値を用いてコークス強度を推定してもよい。
【0022】
その後、コークスの真比重Dに基づいてコークスの気孔率Pを算出する(ステップS102)。気孔率Pは、P=(1−D/D)×100で表すことができる。ここで、Dはコークスの見かけ比重である。見かけ比重Dは、空隙を含む比重を意味しており、少量のコークスをサンプルとして用いて、周知の方法により容易に測定することができる。JIS規格「JIS K2151」に規定された見かけ比重Dの測定方法としては、体積法と少量法とがある。体積法では約8kgのコークスが必要となるが、少量法では約250gのコークスで測定が可能である。
【0023】
本実施形態では、コークスの気孔率Pに基づいて、DIの推定値の基準となる強度基準値yを算出するとともに(ステップS103)、コークスの真比重Dに基づいて、強度基準値yとDIの実測値との差分の基準となる差分基準値yを算出する(ステップS104)。これらの工程(ステップS103、S104)は、どちらを先に行ってもよい。
【0024】
強度基準値yとしては、下記式1を満たす値を算出する。また、差分基準値yとしては、下記式2を満たす値を算出する。
(式1)y=−a×P2+b×P−c
(式2)y=d×D−e
a、b、c、d、eは定数を示す。
【0025】
上記式1及び式2について、表及び図面を用いて説明する。下記表1は、複数種類のコークスのサンプルを用いて、DIの実測値(DI15015)、体積法による見かけ比重、真比重及び気孔率などを測定した結果を示している。
【表1】

【0026】
図2は、表1の結果から導き出されたDIの実測値と気孔率との関係を示すグラフである。表1における各サンプルのDIの実測値(平均値)と気孔率との関係は、図2のようにプロットすることができる。
【0027】
この結果から、図2に実線で示すように、気孔率を変数とする二次関数により、DIの実測値に対する近似値を表すことができる。この近似値が、上記式1に示した強度基準値yとなる。この例では、上記式1における各定数a、b、cの値が、a=3.9249、b=345.15、c=7500.4となっている。
【0028】
図3は、強度基準値yとDIの実測値との差分に対する真比重の関係を示すグラフである。表1における各サンプルの真比重と上記差分との関係は、図3のようにプロットすることができる。
【0029】
この結果から、図3に実線で示すように、真比重を変数とする一次関数により、強度基準値yとDIの実測値との差分に対する近似値を表すことができる。この近似値が、上記式2に示した差分基準値yとなる。この例では、上記式2における各定数d、eの値が、d=67.946、e=128.44となっている。
【0030】
各定数a、b、c、d、eの値は、複数種類のコークスのサンプルを用いて予め求めることができるが、上記値に限定されるものではない。
【0031】
算出された強度基準値yと差分基準値yは加算され、これによりDIの推定値が算出される(図1のステップS105)。
【0032】
図4は、算出されたDIの推定値とDIの実測値との関係を示すグラフである。表1における各サンプルについて、上記のようにして算出されたDIの推定値とDIの実測値(平均値)との関係は、図4のようにプロットすることができる。
【0033】
この結果から、図4に実線で示すように、算出されたDIの推定値とDIの実測値とがほぼ同等であることが分かる。このように、本実施形態では、コークスの気孔率Pと真比重Dを用いて、コークスの強度を表すDIの推定値を算出することができる。したがって、簡単に測定可能なコークスの気孔率Pと真比重Dを用いて、コークス強度を精度よく簡単に推定することができる。
【0034】
また、コークスの気孔率Pと真比重Dは、少量のコークスを用いて測定可能である。したがって、少量のコークスを用いて精度よくコークス強度を推定することができる。
【0035】
図5は、気孔率Pの算出方法の一例を示すフローチャートである。この例では、少量法によりコークスの見かけ比重Da1を測定し(ステップS201)、測定した見かけ比重Da1に基づいて、気孔率Pを算出する方法について説明する。
【0036】
まず、測定した見かけ比重Da1に基づいて、体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出する(ステップS202)。このとき、体積法による見かけ比重の推定値Da2としては、下記式3を満たす値を算出する。
(式3)Da2=f×Da1−g
f、gは定数を示す。
【0037】
その後、コークスの真比重Dと、算出された体積法による見かけ比重の推定値Da2とに基づいて、下記式4を満たす気孔率Pを算出する(ステップS203)。
(式4)P=(1−Da2/D)×100
【0038】
上記式3について、表及び図面を用いて説明する。下記表2は、2つのサンプルを用いて、一方のサンプルの見かけ比重を少量法により測定するとともに、他方のサンプルの見かけ比重を体積法により測定し、それらの値から算出されたDIの推定値とDIの実測値との関係を比較した結果を示している。
【表2】

【0039】
図6は、少量法による見かけ比重の実測値と体積法による見かけ比重の実測値との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、少量法による見かけ比重の実測値を変数とする一次関数により、体積法による見かけ比重の実測値に対する近似値を表すことができる。この近似値が、上記式3に示した体積法による見かけ比重の推定値Da2となる。この例では、上記式3における各定数f、gの値が、f=1.1519、g=0.1022となっている。
【0040】
各定数f、gの値は、複数種類のコークスのサンプルを用いて予め求めることができるが、上記値に限定されるものではない。
【0041】
上記表2のサンプルLについては、少量法により測定した見かけ比重Da1の値(1.036)に基づいて、上記式3を満たす値(1.09)を体積法による見かけ比重の推定値Da2として算出した。このようにして算出した推定値Da2と、予め測定された真比重Dとに基づいて、上記式4を満たす気孔率Pを算出し、当該気孔率Pを用いてDIの推定値を算出した。その結果、上記表2の通り、算出されたDIの推定値は、DIの実測値とほぼ同等であった。
【0042】
上記表2のサンプルMについては、体積法により見かけ比重Dを測定し、その見かけ比重と、予め測定された真比重Dとに基づいて、P=(1−D/D)×100の式により気孔率Pを算出した。当該気孔率Pを用いてDIの推定値を算出した結果、上記表2の通り、算出されたDIの推定値は、DIの実測値とほぼ同等であった。
【0043】
上述の式3及び式4を用いれば、少量のコークスを用いた少量法によりコークスの見かけ比重Da1を測定するだけで、体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出し、当該推定値Da2を用いてコークスの気孔率Pを算出することができる。このようにして算出したコークスの気孔率Pを用いてDIの推定値を算出することにより、少量のコークスを用いて精度よくコークス強度を推定することができる。
【0044】
図1におけるステップS102〜S105、及び、図5におけるステップS202、S203の各工程は、それぞれコンピュータがプログラムを実行することにより行うことができる。この場合、プログラムを実行するコンピュータは、コークス強度の推定装置として機能することとなる。ただし、上記工程の少なくとも一部を作業者が行うこともできる。また、図1及び図5に示す全ての工程を自動化することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスの強度を表すDIを推定するための方法であって、
前記コークスの気孔率Pに基づいて、下記式1を満たす強度基準値yを算出する工程と、
前記コークスの真比重Dに基づいて、下記式2を満たす差分基準値yを算出する工程と、
強度基準値yと差分基準値yを加算することにより、DIの推定値を算出する工程とを含むことを特徴とするコークス強度の推定方法。
(式1)y=−a×P2+b×P−c
(式2)y=d×D−e
a、b、c、d、eは定数を示す。
【請求項2】
少量法により測定された前記コークスの見かけ比重Da1に基づいて、下記式3を満たす体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出する工程と、
推定値Da2及び真比重Dに基づいて、下記式4を満たす気孔率Pを算出する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載のコークス強度の推定方法。
(式3)Da2=f×Da1−g
(式4)P=(1−Da2/D)×100
f、gは定数を示す。
【請求項3】
コークスの強度を表すDIを推定するためのプログラムであって、
前記コークスの気孔率Pに基づいて、下記式1を満たす強度基準値yを算出する工程と、
前記コークスの真比重Dに基づいて、下記式2を満たす差分基準値yを算出する工程と、
強度基準値yと差分基準値yを加算することにより、DIの推定値を算出する工程とをコンピュータに実行させることを特徴とするコークス強度の推定プログラム。
(式1)y=−a×P2+b×P−c
(式2)y=d×D−e
a、b、c、d、eは定数を示す。
【請求項4】
少量法により測定された前記コークスの見かけ比重Da1に基づいて、下記式3を満たす体積法による見かけ比重の推定値Da2を算出する工程と、
推定値Da2及び真比重Dに基づいて、下記式4を満たす気孔率Pを算出する工程とをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3に記載のコークス強度の推定プログラム。
(式3)Da2=f×Da1−g
(式4)P=(1−Da2/D)×100
f、gは定数を示す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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