説明

コークス炉及びその運転方法

【課題】大型の脱硝反応器を設ける必要がなく、従来脱硝反応に要していたエネルギーの無駄を解消したコークス炉と、煩雑な触媒の活性復活作業を不要としたコークス炉の運転方法を提供する。
【解決手段】本発明のコークス炉は、蓄熱室1を構成するチェッカーレンガ6に、脱硝触媒を担持させたことを特徴とする。これにより、外部設置の脱硝反応器を小型化或いは設ける必要がなくなる。また本発明のコークス炉の運転方法は、蓄熱室1を構成するチェッカーレンガ6に担持させた脱硝触媒にコークス炉の燃焼排ガスを接触させて脱硝処理を行い、触媒活性が低下したときには燃焼時間を調整してチェッカーレンガ6の温度を定常運転時から変化させ、触媒の空燃処理を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製鉄所のコークス炉及びその運転方法に関するものであり、特に排ガスの脱硝機能を高めたコークス炉及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所のコークス炉から排出される排ガス中にはNOが含まれており、従来からその排出量を低減する工夫がなされている。これまで、多段燃焼や排ガス循環などの燃焼機構の改善によるNO低減が図られてきたが、今後の環境規制の強化に対しては既に限界に近づいている事、更に稼動炉においては燃焼構造を改造する事は大規模な工事となり現実的ではない等の課題があり、最終的には排ガスの脱硝処理が必要となる。この場合には、図4に示すようにコークス炉の排ガスを脱硝設備に導入し、触媒等によって脱硝したうえで煙突から排出することとなる。
【0003】
例えば特許文献1には、コークス炉から排出された排ガスをマンガン鉱石触媒が充填された脱硝反応器に導入して脱硝処理を行う方法が記載されている。また非特許文献1には、排ガス中から窒素酸化物を除去ないし低減する方法として、五酸化バナジウム触媒を用いるアンモニア接触還元法が記載され、非特許文献2には、活性炭を触媒とする100〜150℃の低温のアンモニア接触還元法が記載されている。さらに非特許文献3にも、コークス炉排ガスの窒素酸化物を除去ないし低減する方法として、五酸化バナジウム触媒を用いるアンモニア接触還元法が開示されている。
【0004】
しかし、コークス炉から排出される大量の排ガス(約10〜20万Nm/hr)を脱硝処理するためには、該脱硝反応器は大型の装置構成となり、そのような大型の脱硝反応器を、既設のコークス炉の近傍に設置するスペースを確保することが困難な場合が多い。また、各種触媒は各々最適な使用温度が異なり、該最適温度となるように排ガス温度を調整することは、エネルギー的に無駄が多くなり好ましくないという問題があった。更に、触媒は長期使用により、活性点が被毒して活性低下が生じるため、活性低下が生じた際には、脱硝設備から脱硝触媒を外部に取り出して空燃や洗浄等による活性復活作業を行うことが必要であり、活性復活作業が煩雑であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−272340号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「触媒講座」第7巻248ページ(触媒学会編:講談社 1985.10.10発行)
【非特許文献2】「火力発電所の環境保全技術・整備」126ページ(火力原子力発電技術協会編 1991.6.発行)
【非特許文献3】「燃料転換とSOx・NOx対策技術」(プロジェクトニュース社;安藤淳平著1983.6.25.発行)289ページ付表5−2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記した従来の問題点を解決し、コークス炉排ガスの窒素酸化物を除去ないし低減するために別途大型の脱硝反応器を設ける必要がなく、従来脱硝反応に要していたエネルギーの無駄を解消したコークス炉と、煩雑な触媒の活性復活作業を不要としたコークス炉の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のコークス炉は、蓄熱室を構成するチェッカーレンガに、脱硝触媒を担持させたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のコークス炉において、蓄熱室が内部に複数のチェッカー煉瓦を構築してなるチェッカー煉瓦構造体であって、該チェッカー煉瓦構造体は、ガスの移動方向に沿った排ガス流路壁を複数有することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のコークス炉において、該蓄熱室の上部に位置する高温ゾーンが、該高温ゾーンの温度範囲内に、最適活性温度範囲および空燃温度範囲を有する触媒を担持させたチェッカー煉瓦から構築されることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2記載のコークス炉において、該蓄熱室の下部に位置する低温ゾーンに、該低温ゾーンの温度範囲内に、最適活性温度範囲および空燃温度範囲を有する触媒を担持させたチェッカー煉瓦から構築されることを特徴とするものである。
【0012】
また本発明のコークス炉の運転方法は、コークス炉の燃焼排ガスを蓄熱室を構成するチェッカーレンガに担持させた脱硝触媒に接触させて脱硝処理を行い、触媒活性が低下したときに燃焼時間を調整してチェッカーレンガの温度を定常運転時と変更し、触媒の空燃処理を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るコークス炉は、蓄熱室を構成するチェッカーレンガに、脱硝触媒を担持させたことにより、燃焼排ガスが蓄熱室のチェッカーレンガを通過する間にその表面に担持された脱硝触媒による脱硝処理を行わせることができる。このため、コークス炉排ガスの窒素酸化物を除去ないし低減するための大型の脱硝反応器を別途設ける必要がない。また蓄熱室は高温であるため、従来、脱硝反応器内のガス温度調整に要していたエネルギーの無駄を解消することができる。
【0014】
また本発明のコークス炉の運転方法によれば、触媒の活性低下が生じた際には、燃焼時間を延長してチェッカーレンガの温度を定常運転時よりも高温とし、触媒の空燃処理を行うことができ、従来のように脱硝触媒を外部に取り出して空燃や洗浄等による活性復活作業を行う必要がない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コークス炉の燃焼構造説明図である。
【図2】チェッカーレンガの説明図である。
【図3】蓄熱室の上部および下部における温度挙動のイメージ図である。
【図4】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0017】
図1は、コークス炉の燃焼構造説明図であり、該コークス炉は、蓄熱室1の上部に燃焼室2と炭化室3を有し、炭化室3に装入された石炭を両側の燃焼室2により加熱してコークスを製造する。該コークス炉の運転時には、それぞれ別個の蓄熱室1の下端部より、燃焼用空気4および燃料ガス5が導入されて燃焼室2で混合・燃焼し、燃焼ガスは、隣接する燃焼室2から、その下部の蓄熱室1へ引き落とされた後、煙突へと排出される。
【0018】
蓄熱室1には、図2に示すチェッカーレンガ6が充填されており、排ガスの引き落としの際に燃焼ガスの顕熱を蓄熱する。コークス炉においては、炭化室3に均一な熱を与えるために、一定時間毎にガスの流れ方向を切り替えて運転される。これによりガスの流れ方向を切り替えた際、先に排ガスの引き落としの際にチェッカーレンガ6に蓄熱した顕熱を用いて、該蓄熱室1の下端部より導入される燃焼用空気4および燃料ガス5を予熱し、コークス炉の熱効率を高めることができる。
【0019】
蓄熱室1では、該切り替え運転により、排ガス引き落とし時には蓄熱により温度が上昇し、燃焼用空気4および燃料ガス導入時には抜熱により温度が下降する温度変化が生じる。なお、蓄熱室の上部は下部にくらべて、高温の排ガスが通過するため、蓄熱室の上部は、下部に比べて高温ゾーンとなる。
【0020】
本発明では、蓄熱室を構成するチェッカーレンガ6に、脱硝触媒を担持させる。脱硝触媒としては従来から知られている脱硝触媒、例えば五酸化バナジウム触媒,白金触媒などの貴金属触媒などを用いることができる。このような脱硝触媒は微細な粉末としてスラリー化し、チェッカーレンガ6の表面に含浸させることにより担持させることができる。しかし脱硝触媒の種類はこれらに限定されるものではなく、また担持方法も含浸法に限定されるものではなく、表面に塗布する方法を採用することもできる。
【0021】
なお、触媒の種類によって最適活性温度範囲および空燃温度範囲は異なる。しかし図3に示すように、蓄熱室1の上部と下部では挙動温度が異なり、蓄熱室の上下各位置から、各触媒に最適な温度ゾーンを選択することができる。例えば、蓄熱室1の上部の高温ゾーンの温度範囲内に、最適活性温度範囲および空燃温度範囲を有する触媒を担持させることにより、該温度領域の熱を有効に利用して、脱硝触媒反応と触媒の空燃処理とを、繰り返し連続して行うことができる。なお、触媒ごとに最適活性温度範囲および空燃温度範囲は異なるが、蓄熱室の上下各位置から、各触媒に最適な温度ゾーンを選択することができるため、触媒選択の幅を広げることができる。
【0022】
このように、本発明では燃焼排ガスが蓄熱室1を通過する間に、チェッカーレンガ6に担持させた脱硝触媒によって脱硝処理を行うことができる。このため、従来のようにコークス炉排ガスの窒素酸化物を除去ないし低減するための大型の脱硝反応器を別途設ける必要がない。また蓄熱室1は高温状態にあるため、従来のように脱硝反応器内のガス温度調整を行う必要がなく、エネルギーの無駄を解消したコークス炉を実現できる。
【0023】
なお、チェッカーレンガ6は、燃焼ガスと反応しないこと及び予熱される燃焼用空気に悪影響を及ぼさないものであれば、いかなる材質であっても使用可能であるが、耐熱性、耐蝕性、及び耐熱衝撃性に優れていることが要求される。また、構造面では比表面積が大きく圧力損失の小さいものが望ましい。このため、形状は図2に示した形状に限定されず、ブロックレンガやハニカム状のレンガを採用することもできる。
【0024】
また、図3に示した蓄熱室1の温度変化は通常運転時のものであるが、操業中に切り替え周期を変化させて燃焼時間を調整することによって、チェッカーレンガ6の温度を任意に変化させることができる。このため、チェッカーレンガ6の温度を通常運転時よりも高温にして触媒活性を復活させる場合も空燃処理を行うことができ、従来のように触媒を脱硝設備から取り出して触媒の活性復活作業を行う必要がなくなり、触媒のメンテナンスも簡便に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 蓄熱室
2 燃焼室
3 炭化室
4 燃焼用空気
5 燃料ガス
6 チェッカーレンガ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱室を構成するチェッカーレンガに、脱硝触媒を担持させたことを特徴とするコークス炉。
【請求項2】
蓄熱室が内部に複数のチェッカー煉瓦を構築してなるチェッカー煉瓦構造体であって、該チェッカー煉瓦構造体は、ガスの移動方向に沿った排ガス流路壁を複数有することを特徴とする請求項1記載のコークス炉。
【請求項3】
蓄熱室の上部に位置する高温ゾーンが、該高温ゾーンの温度範囲内に、最適活性温度範囲および空燃温度範囲を有する触媒を担持させたチェッカー煉瓦から構築されることを特徴とする請求項2記載のコークス炉。
【請求項4】
蓄熱室の下部に位置する低温ゾーンが、該低温ゾーンの温度範囲内に、最適活性温度範囲および空燃温度範囲を有する触媒を担持させたチェッカー煉瓦から構築されることを特徴とする請求項2記載のコークス炉。
【請求項5】
コークス炉の燃焼排ガスを蓄熱室を構成するチェッカーレンガに担持させた脱硝触媒に接触させて脱硝処理を行い、触媒活性が低下したときに燃焼時間を調整してチェッカーレンガの温度を定常運転時と変更し、触媒の空燃処理を行うことを特徴とするコークス炉の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127009(P2011−127009A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287331(P2009−287331)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】