説明

コーティング剤、塗膜および積層体

【課題】塗膜とされた場合に、機械的強度や耐ブロッキング性に優れるとともに、薬品処理や耐湿熱処理がほどこされた後においても亀裂が発現せず、ガスバリアー性が維持されたコーティング剤を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするポリエステル樹脂、ビス(2−オキサゾリン)化合物および有機溶剤を含有し、下記の(i)〜(v)を同時に満足することを特徴とするコーティング剤。
(i)ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000を超え40000以下である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50〜100℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が35〜895当量/トンである。
(iv)ポリエステル樹脂の酸価に対するビス(2−オキサゾリン)化合物のオキサゾリニル残基の当量比が0.8〜2.0倍当量である。
(v)[ポリステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計]/(有機溶剤)の質量比が、5/95〜50/50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤、塗膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムやポリプロピレンフィルムなどは、機械的特性、透明性および耐熱性に優れているため、工業用途や食品包装用途において幅広く使用されている。しかしながら、これらのフィルムが単独で用いられた場合は、酸素や水蒸気などの透過性が高くなるため、ガスバリアー性に劣るという問題があった。そのため、これらのフィルムを食品等の包装に使用した場合は、長時間の保管中に、フィルムを透過したガス(酸素や水蒸気など)により、内容物が変質するという問題があった。
【0003】
上記の問題を解決するために、食品包装などの用途においては、ポリエステルフィルムやポリプロピレンフィルムなどの基材の表面に、ポリ塩化ビニリデンなどのガスバリアー性が高い樹脂がコーティングされた積層体が使用されている。しかしながら、ポリ塩化ビニリデンなどの樹脂は、焼却時に塩素ガスなどの有毒物質を発生し環境を汚染してしまう。そのため、近年、このような基材表面にコーティングされる樹脂として、環境負荷が低減された樹脂が用いられることが強く望まれている。
【0004】
また、基材表面に、アルミニウムやシリカなどの金属、あるいはこれらの金属酸化物が蒸着されることにより蒸着層が設けられたものも広く使用されている。このような蒸着層が設けられた基材は、ガスバリアー性が高く、加えて焼却時に有毒物質を発生することがないため、上記のような問題は解消されている。しかしながら、このような蒸着層には亀裂が入りやすいため、実使用に付されるうちにガスバリアー性が低下するという問題があった。
【0005】
蒸着層の亀裂を防止するための手法として、特許文献1には、ポリエステルフィルムからなる基材上に、金属アンカー蒸着層およびアルミニウム蒸着層が形成され、このアルミニウム蒸着層上に、さらにモンタン酸ワックスやポリオレフィンワックス等のワックスからなる蒸着保護層が設けられたアルミ蒸着フィルムが開示されている。しかしながら、このような蒸着保護層は、機械的強度が不十分であるため破損しやすいものであり、耐ブロッキング性にも劣るという問題がある。その結果、蒸着面に亀裂が入りやすくなるため、ガスバリアー性が十分であるとはいえないものである。
【0006】
また、特許文献2には、ポリエステル樹脂および/またはポリエステルポリウレタン樹脂を含む層が、蒸着保護層として形成された蒸着フィルムが開示されている。特許文献2の場合は、蒸着面に亀裂が入ることは低減されているものの、該蒸着保護層の耐薬品性や耐湿熱性(耐熱水性)が不十分である。そのため、薬品処理や湿熱処理がほどこされた場合は、蒸着保護層とフィルムとの密着性が低下してしまうことにより、蒸着層が腐食され、ガスバリアー性が低下するという問題がある。
【0007】
また、特許文献3および特許文献4には、重量平均分子量が10000以下であり、かつガラス転移温度が50℃以上のポリエステル樹脂からなる蒸着保護層が形成された蒸着フィルムが開示されている。しかしながら、特許文献3および4の場合は、蒸着保護層の機械的強度が不十分であるため、その表面に亀裂が入りやすくなり、ガスバリアー性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−157008号公報
【特許文献2】特開2005−178100号公報
【特許文献3】特開2006−199878号公報
【特許文献4】特開2006−273982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、塗膜とされた場合に、機械的強度や耐ブロッキング性に優れるとともに、薬品処理や耐湿熱処理がほどこされた後においても亀裂が発現せず(つまり、耐薬品性および耐熱水性に優れ)、ガスバリアー性が維持されたコーティング剤を提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするポリエステル樹脂、ビス(2−オキサゾリン)化合物および有機溶剤を含有するコーティング剤であって、下記の(i)〜(v)を同時に満足することを特徴とするコーティング剤。
(i)ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000を超え40000以下である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50〜100℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が35〜895当量/トンである。
(iv)ポリエステル樹脂の酸価に対するビス(2−オキサゾリン)化合物のオキサゾリニル残基の当量比が0.8〜2.0倍当量である。
(v)[ポリステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計]/(有機溶剤)の質量比が、5/95〜50/50である。
(2)ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするものであり、全ジカルボン酸成分に対して、芳香族ジカルボン酸が60モル%以上共重合されたものであることを特徴とする(1)のコーティング剤。
(3)ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするものであり、全グリコール成分に対して、1,2−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物および下記式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれた1種類以上のグリコールが30モル%以上共重合されたものであることを特徴とする(1)または(2)のコーティング剤。
【化1】

(4)(1)〜(3)のいずれかのコーティング剤から形成されてなることを特徴とする塗膜。
(5)基材の少なくとも片面に金属または金属酸化物の蒸着層が設けられ、この蒸着層の表面に(4)の塗膜が形成されていることを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、用いられるポリエステル樹脂の重量平均分子量、ガラス転移温度、酸価およびポリエステル樹脂の酸価に対するビス(2−オキサゾリン)化合物のオキサゾリニル残基の当量比を、同時に特定の範囲とすることにより、塗膜とされた場合の機械的強度および耐ブロッキング性に優れるとともに、薬品処理や湿熱処理がほどこされた後においても亀裂が発現せず(つまり、耐薬品性や耐熱水性に優れ)、加えてガスバリアー性が維持されるという、相乗効果が発現されたコーティング剤を提供することができる。このコーティング剤からなる塗膜は、金属などの蒸着膜を好適に保護することができるため、基材状に設けられた蒸着膜の表面に該塗膜が形成されてなる積層体は、ガスバリアー性が必要とされる用途において、好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするポリエステル樹脂、ビス(2−オキサゾリン)化合物および有機溶剤を含有するコーティング剤であって、下記の(i)〜(v)を同時に満足することを特徴とする。
(i)ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000を超え40000以下である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50〜100℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が35〜895当量/トンである。
(iv)ポリエステル樹脂の酸価に対するビス(2−オキサゾリン)化合物のオキサゾリニル残基の当量比が0.8〜2.0倍当量である。
(v)[ポリステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計]/(有機溶剤)の質量比が、5/95〜50/50である。
上記の(i)〜(v)を同時に満足することにより、塗膜とされた場合の機械的強度および耐ブロッキング性に優れるとともに、薬品処理や湿熱処理がほどこされた後においても亀裂が発現せず、加えてガスバリアー性が維持されるという、顕著な相乗効果が発現する。
【0013】
まず、本発明にて使用されるポリエステル樹脂について説明する。
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分として構成される。なお、主成分とするとは、ポリエステル樹脂中、ジカルボン酸成分およびグリコール成分以外の成分の割合が、20モル%未満であることをいう。
【0014】
ジカルボン酸成分を構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウム−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、パーヒドロナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、シクロブテンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。なお、これらは無水物であってもよい。
【0015】
ジカルボン酸成分としては、得られるコーティング剤の密着性の観点から、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましい。本発明においては、ジカルボン酸成分の全量に対して、芳香族ジカルボン酸の共重合割合が60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸の共重合量が60モル%未満であると、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低下し、コーティング剤の耐熱水性、耐薬品性が低下してしまう場合があり好ましくない。
【0016】
グリコール成分を構成するグリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、スピログリコール、1,4−フェニレングリコール、1,4−フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、1,4−フェニレングリコールのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、下記一般式(1)で示されるトリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
なかでも、グリコール成分としては、耐熱水性の観点から、1,2−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物、および上記式(1)で示されるトリシクロデカンジメタノールから選ばれた少なくとも1種のグリコールであることが好ましい。
【0019】
そして、これらのグリコール成分が、全グリコール成分に対して30モル%以上共重合されることが好ましく、50モル%以上共重合されることがより好ましく、70モル%以上共重合されることがさらに好ましい。これらのモノマーを30モル%以上の割合で共重合することで耐熱水性が向上する。
【0020】
特に、グリコール成分として、1,2−プロパンジオールおよび/または上記式(1)で示されるトリシクロデカンジメタノールを共重合した場合は、さらに耐候性が向上するという利点がある。
【0021】
なお、上記式(1)で示されるトリシクロデカンジメタノールとしては、3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.02.6)デカンなどが挙げられる。これは市販品として入手することができ、例えば、OXEA社製の「TCDアルコール」を用いることができる。
【0022】
ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等が挙げられる。ポリエステル樹脂にヒドロキシカルボン酸が共重合される場合は、過度に大きなブロックポリマーを形成させない観点から、ポリエステル樹脂を構成する全カルボン酸成分に対して、ヒドロキシカルボン酸の共重合量を20モル%以下とすることが好ましい。
【0023】
また、ポリエステル樹脂には、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコール、3官能以上のカルボン酸や3官能以上のアルコールが共重合されていてもよい。
【0024】
モノカルボン酸としては、安息香酸、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、セチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。3官能以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。3官能以上のアルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。これらの共重合割合は、それぞれ、ポリエステル樹脂を構成する全カルボン酸成分、あるいは全アルコール成分に対して、0.2〜20モル%とすることが好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、10000を超え40000以下とすることが必要であり、12000〜38000であることがより好ましく、15000〜35000であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000以下であると、耐薬品性およびガスバリアー性が低下するという問題がある。また、ポリエステル樹脂の重量平均分子量が40000を超えると、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤を得ることができないという問題がある。
【0026】
ポリエステル樹脂の分子量を制御する方法としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。例えば、ポリエステル樹脂の粘度が所定の範囲となった時点(例えば、溶融粘度が10〜1000Pa・s程度となった時点)で重合を終了する方法;分子量の高いポリエステル樹脂を製造した後に解重合剤を添加し分子量を低減させる方法;材料の仕込み時にモノアルコールやモノカルボン酸を添加する方法などが挙げられる。なかでも、効率的な製造の観点から、ポリエステル樹脂の粘度が所定の範囲となった時点で重合を終了する方法が好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂の酸価は35〜895当量/トンであることが必要であり、50〜840当量/トンであることが好ましく、65〜750当量/トンであることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が、35当量/トン未満であると、得られるコーティング剤の密着性が低下する。また、ポリエステル樹脂の酸価が895当量/トンを超えると、耐熱水性、耐薬品性およびガスバリアー性が低下する。
【0028】
ポリエステル樹脂の酸価を制御する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。つまり、ポリエステル樹脂の分子量を所望の範囲を超えるものとするまで重合反応を進めておき、次いで、解重合剤としての多官能カルボン酸を適宜添加して解重合する方法;仕込み時のジカルボン酸成分とグリコール成分のモル比を調整する方法;ポリエステル樹脂を熱分解する方法などが挙げられる。なかでも、分子量と酸価を安定して調整することができるという観点から、ポリエステル樹脂の分子量を所望の範囲を超えるものとするまで重合反応を進めておき、次いで多官能カルボン酸を適宜添加して解重合する方法が好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、50〜100℃であることが必要であり、55〜98℃であることが好ましく、60〜95℃であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50℃未満であると、塗膜とした場合の耐ブロッキング性が低下するとともに、耐熱水性、耐薬品性およびガスバリアー性が低下するという問題がある。一方、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が100℃を超えると、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤を得ることが困難となる。
【0030】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度を制御する方法としては、原料であるモノマーを適宜選択することなどが挙げられる。
【0031】
ポリエステル樹脂の製造方法としては、直接エステル化法、エステル交換法などの公知の製造方法が挙げられる。
【0032】
直接エステル化法は、モノマー原料を反応缶内に注入し、エステル化反応をおこなった後、重縮合反応をおこなう方法である。上記のエステル化反応は、例えば、窒素雰囲気下、180℃以上の温度で4時間以上、加熱溶融して反応させるものである。重縮合反応は、例えば、130Pa以下の減圧下で、220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めるものである。
【0033】
エステル化反応および重縮合反応の際には、反応を容易にさせるために触媒を用いてもよい。触媒としては、テトラブチルチタネート等のチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム等の金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物等が挙げられる。これらの触媒の使用量は、カルボン酸成分1モルに対し、0.1×10−4〜100×10−4モルとすることが好ましい。
【0034】
次に、ビス(2−オキサゾリン)化合物について説明する。
本発明において、ビス(2−オキサゾリン)化合物は、架橋剤として含有されるものである。ビス(2−オキサゾリン)化合物を架橋剤として用いることで、ポリエステルやポリプロピレンなどの基材の材質として汎用的に用いられる樹脂の軟化点よりも低い温度で、得られるコーティング剤を硬化させることができる。そのため、基材を劣化させることなくポリエステル樹脂を架橋させることで強靭な塗膜を得ることができ、機械的強度の弱い蒸着膜に対して好適な保護層を形成することができる。なお、ビス(2−オキサゾリン)化合物以外の架橋剤を用いた場合は、ポリエステル樹脂との架橋が進行せず、得られた塗膜が十分な機械的特性(密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性)を有しないという問題がある。
【0035】
ビス(2−オキサゾリン)化合物は、下記式(II)で表されるものである。
【化2】

【0036】
ここで、R、R、RおよびRはそれぞれ水素、アルキル基又はアリール基を示す。Rは炭素間結合又は2価の炭化水素基を示す。R、R、RまたはRで示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。またRで示される炭化水素基としては、例えば、炭素数が2〜8のアルキレン基、炭素数が3〜8のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基などのアリーレン基などが挙げられる。
【0037】
なかでも、R、R、RまたはRで示される基が、アルキル基あるいはアリール基であることが好ましい。また、Rで示される基が、炭素数が3〜8のアリーレン基であることが好ましい。
【0038】
本発明で使用されるビス(2−オキサゾリン)化合物の具体例としては、たとえば、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(5,5’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’ビス(4,4,4’,4’−テトラメチル−2−オキサゾリン)、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)エタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ブタン、1,6−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ヘキサン、1,8−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)オクタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)シクロヘキサン、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,2−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(2−ベンゾキサゾリル)ナフタレン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェンなどが挙げられる。なかでも、汎用的に入手できる観点から、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(2−ベンゾキサゾリル)ナフタレン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェンが好ましく、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンが特に好ましい。
【0039】
本発明においては、架橋剤であるビス(2−オキサゾリン)化合物とともに、必要に応じて架橋触媒を用いることができる。架橋触媒を用いることで、本発明のコーティング剤から塗膜を得る場合に、より効率よく架橋させることができる。
【0040】
架橋触媒としては、スルホン酸が好ましく、たとえば硫酸、スルホン酸などの無機スルホン酸類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、デカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸類が挙げられる。なかでも、ポットライフを長く保つ観点から、p−トルエンスルホン酸とドデシルベンゼンスルホン酸が好ましく、特にp−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0041】
次に、有機溶剤について説明する。
有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。あるいは、これらの水溶液であってもよい。
【0042】
本発明のコーティング剤の組成について以下に述べる。
本発明のコーティング剤において、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶剤の含有割合は、[ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計量]/(有機溶剤)が、質量比で、5/95〜50/50であることが必要であり、10/90〜40/60であることが好ましい。ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計量が、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶剤との合計量100質量%に対して、5質量%未満であると、得られるコーティング剤の密着性が低下したり、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性に劣ったりするという問題がある。一方、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計量が、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶剤との合計量100質量%に対して、50質量%を超えると、得られるコーティング剤の粘度が高くなり、取扱性やコーティング性に劣るものとなる。または、粘度が高くなり過ぎるため、コーティング剤が得られないこともある。
【0043】
本発明のコーティング剤において、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物の含有割合は、以下のようなものを指標とする。つまり、ビス(2−オキサゾリン)化合物の末端基量が、ポリエステル樹脂の酸価と水酸基価の合計に対して、0.8〜2.0倍当量であることが必要であり、1.1〜1.7倍当量であることが好ましい。ビス(2−オキサゾリン)化合物の末端基量が0.8倍当量未満であると、得られるコーティング剤を塗膜とする場合に十分に硬化せず塗膜強度に劣るものとなったり、密着性、耐熱水性、耐薬品性およびガスバリアー性が低下したりする。一方、2.0倍当量を超えると、コーティング剤の溶液安定性が低下し、コーティング剤が得られなかったり、たとえ得られたとしても取扱性やコーティング性に劣るものとなったりする。
【0044】
本発明のコーティング剤の製造方法について以下に述べる。本発明のコーティング剤は、ポリエステル樹脂およびビス(2−オキサゾリン)化合物を、有機溶剤に対して、公知の方法で溶解または分散させて作製する。
【0045】
ポリエステル樹脂およびビス(2−オキサゾリン)化合物を有機溶剤に溶解する場合、その方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶媒とを混合し、常温あるいは必要に応じて加熱しながら、攪拌して溶解する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明のコーティング剤には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、リン酸、リン酸エステルなどの熱安定剤;ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物などの酸化防止剤、タルクやシリカ、ワックスなどの滑剤;酸化チタンなどの顔料;タッキファイヤーなどの粘着付与剤などの充填材、帯電防止剤、発泡剤などの各種添加剤が含有されていてもよい。
【0047】
本発明のコーティング剤は、公知のコーティング方法で塗布され、その後、乾燥工程に付されることにより本発明の塗膜とされることができる。この塗膜は、各種の基材に直接形成されていてもよい。または、各種の基材に予め蒸着膜を設けておき、この蒸着膜上に塗膜が形成されていてもよい。
【0048】
コーティング方法としては、特に限定されないが、コーターを用いてコーティングする方法などが挙げられる。コーターとしては、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーターなどが挙げられる。
【0049】
コーティングする際に、塗布量を調整することで、乾燥後の塗膜の厚みを制御することができる。乾燥後の塗膜の厚みとしては、0.1〜20μmが好ましい。なお、塗膜を乾燥させる際の温度は、70〜150℃が好ましい。
【0050】
本発明のコーティング剤をコーティングするための基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、アクリルなどからなるフィルムやシート、あるいは無機ガラス板などが挙げられる。なかでも、汎用性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0051】
本発明のコーティング剤から得られた塗膜を、蒸着層が設けられた基材の表面に形成することにより、本発明の積層体とすることができる。該塗膜を形成することで蒸着膜を保護し、蒸着膜における亀裂の発現を抑制することができる。そのため、ガスバリアー性の低下が抑制された積層体を得ることができる。また、蒸着層を設けることで、金属調の光沢を付与することができるという加飾効果も発現する。
【0052】
基材に設けられる蒸着層としては、金属または金属酸化物からなる単層または多層のものが挙げられる。金属としては、酸化ケイ素、アルミニウムなどが挙げられる。金属酸化物としては、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらの蒸着層は、真空蒸着法、プラズマ気相成長法、イオンプレーティング法などの公知の方法によって形成されることができる。
【0053】
蒸着層の厚みは、特に限定されないが、ガスバリアー性の観点から、0.01〜1μmとすることが好ましい。
【0054】
本発明の積層体は、ガスバリアー性を有する各種の包装材料として好適に利用されることができる。さらに、積層体表面の塗膜上に、各種印刷インキやラミネートインキを使用してグラビア印刷することにより、各種印刷面やラミネート接着層などを形成することも可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
なお、各種物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)ポリエステル樹脂の共重合組成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製、商品名「JNM−LA400」)を用いて、以下の条件でH−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度からポリエステル樹脂の組成を求めた。
周波数:400MHz
溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸
温度:25℃
【0057】
(2)ポリエステル樹脂の重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
送液ユニット:島津製作所社製、「LC−10ADvp」
紫外−可視分光光度計:島津製作所社製「SPD−6AV」
検出波長:254nm
カラム:Shodex社製「KF−803」1本と、Shodex社製「KF−804」2本を、直列に接続して使用した。
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
【0058】
(3)ポリエステル樹脂の酸価
JIS K−0070に従って、試料1gをジオキサン50mlに室温で溶解し、溶解液を得た。この溶解液を、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定した。滴定して得られた値を用い、ポリエステル樹脂1トン中に含まれる当量数を計算し、酸価を求めた。
【0059】
(4)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
JIS K−7121に従って、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、商品名「ダイヤモンドDSC」)を用いて、ガラス転移温度を求めた。
【0060】
(5)ポリエステル樹脂の溶解性
トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=5/5、質量比]の混合溶媒と酢酸エチルそれぞれに、溶液濃度が30質量%になるようにポリエステル樹脂を混合した。そして、透明なガラス瓶中2時間静置し、目視で均一性を確認し、以下の基準で評価した。
◎:均一に溶解し、静置後も均一な溶液であった。
○:均一に溶解したが、静置後の溶液は若干増粘した。
△:均一に溶解したが、静置後、溶液の流動性が低下していた。
×:混合しても溶解しなかった。または、均一に溶解したが、静置すると、層分離するかまたは凝固した。
本発明においては、[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=5/5、質量比]の混合溶媒もしくは酢酸エチルのうち少なくとも一方において、△以上の評価が必要であり、いずれか一方が○以上の評価であることが好ましい。
【0061】
(6)コーティング剤の溶液安定性
コーティング剤400g程度を透明なガラス瓶の中で48時間静置した。静値後、目視で均一性を確認し、以下の基準で評価した。
◎:増粘および層分離しておらず、均一であった。
○:若干の増粘が認められたが、層分離しておらず均一であった。
△:溶液の流動性が低下していたが、層分離しておらず均一であった。
×:層分離または凝固していた。
本発明においては、△以上の評価が必要であり、○以上の評価であることが好ましい。
【0062】
(7)塗膜の耐ブロッキング性
積層体を2枚準備し、表面に形成された塗膜同士を重ね合わせ、40℃、70%RHの雰囲気下で0.1MPaの負荷を与えて、24時間放置した。放置後、塗膜におけるブロッキングの状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:塗膜同士が粘着しておらず、容易に剥離した。
○:若干の粘着性が認められたが、軽く持ち上げる程度で容易に剥離した。
△:粘着性が認められ、剥離する際に少し音がした。
×:塗膜同士が付着し、容易には剥離しなかった。
本発明においては、△以上の評価が必要であり、○以上の評価であることが好ましい。
【0063】
(8)コーティング剤の密着性
積層体の塗膜の表面にセロハンテープ(ニチバン社製、「F−12」)を貼付け、すぐに剥離させた。テープを剥離した時の塗膜の剥離の程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:全く剥離しなかった。
○:若干の剥離があったが、剥離面積が塗膜全体の2%未満であった。
△:若干の剥離があったが、剥離面積が塗膜全体の2%以上5%未満であった。
×:剥離面積が塗膜全体の5%以上であった。
本発明においては、△以上の評価が必要であり、○以上の評価であることが好ましい。
【0064】
(9)耐熱水性
積層体を沸騰水にて2時間放置した後、該積層体の塗膜にセロハンテープ(ニチバン社製、「F−12」)を貼付け、すぐに剥離させた。テープを剥離した時の塗膜の剥離の程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:全く剥離しなかった。
○:若干の剥離があったが、剥離面積が塗膜全体の2%未満であった。
△:若干の剥れがあったが、剥離面積が塗膜全体の2%以上5%未満であった。
×:剥離面積が塗膜全体の5%以上であった。
本発明においては、△以上の評価が必要であり、○以上の評価であることが好ましい。
【0065】
(10)耐薬品性
積層体を80質量%エタノール溶液に25℃で96時間浸した。その後、積層体の塗膜にセロハンテープ(ニチバン社製、「F−12」)を貼付け、すぐに剥離させた。テープを剥離した時の塗膜の剥れの程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:全く剥離しなかった。
○:若干の剥離があったが、剥離面積が塗膜全体の2%未満であった。
△:若干の剥離があったが、剥離面積が塗膜全体の2%以上5%未満であった。
×:剥離面積が塗膜全体の5%以上であった。
本発明においては、△以上の評価が必要であり、○以上の評価であることが好ましい。
【0066】
(11)酸素透過度
積層体を60℃の熱水中に24時間放置した。さらに、エタノールと水の混合溶液[(エタノール)/(水)=8/2、質量比]に、25℃で96時間浸漬した。この積層体を、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、「OX−TRAN100型」)を用い、JIS K−7129に従って、20℃×100%RHの条件下の酸素透過度を測定した。
本発明においては、100ml/(m・day・MPa)以下の酸素透過度であることが必要であり、30ml/(m・day・MPa)以下であることが好ましい。
【0067】
(12)水蒸気透過度
積層体を60℃の熱水で24時間放置した。さらに、エタノールと水の混合溶液[(エタノール)/(水)=8/2、質量比]に、25℃で96時間浸漬した。この積層体を、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、「OX−TRAN100型」)を用いて、JIS K−7129に従って、40℃×90%RHの条件下の水蒸気透過度を測定した。
本発明においては、3ml/(m・day)以下が必要であり、1ml/(m・day)以下であることが好ましい。
【0068】
(13)耐候性
WS型促進暴露装置(スガ試験機社製、「サンシャインウェザーメーター」)を用い、積層体の塗膜面に対して、63℃×100時間の条件で紫外線を照射した。照射後の積層体の状態変化を目視で評価した。
◎:外観形状の変化はなく、黄変やくすみも認められなかった。
○:外観形状の変化はなかったが、部分的に黄変やくすみが認められた。
△:外観形状の変化はなかったが、全体的に黄変やくすみが認められた。
×:激しく黄色し、外観形状の変化が見られた。
本発明においては、○以上の評価である場合は、屋外での使用に供されても問題が無いものである。
【0069】
実施例および比較例で用いたポリエステル樹脂は、下記のようにして得られた。
(ポリエステル樹脂A)
テレフタル酸332kg、エチレングリコール38kg、1,2−プロパンジオール212kgからなる混合物(テレフタル酸:エチレングリコール:1,2−プロパンジオール=100:31:139、モル比)を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下、240℃で5時間エステル化をおこなった。
【0070】
その後、得られたエステル化物を重縮合缶へ移送し、重合触媒としてテトラブチルチタネートモノマーを545g(テレフタル酸1モルあたり8.0×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、245℃で重縮合反応をおこなった。重量平均分子量が48700になった時点で減圧を解除して重縮合反応を終了してから、無水トリメリット酸12kg(テレフタル酸1モルあたり0.03モル)を投入し、240℃で2時間解重合反応をおこなった。そして、スチールベルトクーラーに樹脂を払い出して冷却したのち、クラッシャーに導いて粉砕し、フレーク状のポリエステル樹脂Aを得た。ポリエステル樹脂Aの共重合組成および特性値を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
なお、表1および後述の表2における略語は、以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PG:1,2−プロパンジオール
BAEO:ビスフェノールAのエチレンオキシド2付加体
BSED:ビスフェノールSのエチレンオキシド2付加体
BAPO:ビスフェノールAのプロピレンオキシド2付加体
BSPO:ビスフェノールSのプロピレンオキシド2付加体
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
TCD:トリシクロデカンジメタノール(OXEA社製、「TCDアルコール」)
TMP:トリメチロールプロパン
TMA:トリメリット酸
T/M:トルエンおよびメチルエチルケトンの混合溶液[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=5/5、質量比]
EA:酢酸エチル
NDCA:2,6−ナフタレンジカルボン酸
SEA:セバシン酸
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
【0073】
(ポリエステル樹脂D,F,H〜O,Q,R,T,VおよびW)
表1と表2に示すように、原料の仕込み組成を変更した以外は、ポリエステルAと同様の操作をおこなって、ポリエステル樹脂D,F,H〜O,Q,R,T,VおよびWを得た。これらのポリエステル樹脂の共重合組成および特性値を表1および表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
(ポリエステル樹脂B)
テレフタル酸163kg、イソフタル酸169kg、エチレングリコール99kg、ネオペンチルグリコール125kgからなる混合物(テレフタル酸:イソフタル酸:エチレングリコール:ネオペンチルグリコール=49:51:80:60、モル比)を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下、240℃で5時間エステル化をおこなった。
【0076】
その後、得られたエステル化物を重縮合缶へ移送し、重合触媒として酢酸亜鉛(II)・2水和物を263g(テレフタル酸とイソフタル酸の合計1モルあたり6×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、280℃で重縮合反応をおこなった。重量平均分子量が51000になった時点で減圧を解除して重縮合反応を終了してから、イソフタル酸3kg(テレフタル酸とイソフタル酸の合計1モルあたり0.01モル)を投入し、270℃で2時間解重合反応をおこなった。その後、30分かけて1.3hPaまで再減圧し、1.3hPaの減圧状態を5分間保持してから減圧を解除した。そして、クウェンチングバスに樹脂を払い出して冷却したのち、ストランドカッターに導いてカットし、ペレット状のポリエステル樹脂Bを得た。ポリエステル樹脂Bの共重合組成および特性値を表1に示す。
【0077】
(ポリエステル樹脂C,E,GおよびS)
表1と表2に示すように、原料の仕込み組成を変更した以外は、ポリエステルBと同様の操作をおこなって、ポリエステル樹脂C,E,GおよびSを得た。これらのポリエステル樹脂の共重合組成および特性値を表1および表2に示す。
【0078】
(ポリエステル樹脂P)
テレフタル酸332kg、エチレングリコール37kg、1,2−プロパンジオール213kgからなる混合物(テレフタル酸:エチレングリコール:1,2−プロパンジオール=100:30:140、モル比)を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下240℃で5時間エステル化をおこなった。
【0079】
その後、得られたエステル化物を重縮合缶へ移送し、重合触媒としてのテトラブチルチタネートモノマーを545g(テレフタル酸1モルあたり8×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、240℃で重縮合反応をおこなった。その後、重量平均分子量が51000になった時点で減圧を解除して重縮合反応を終了して樹脂を払い出し、ストランドカッターを用いてカッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂Pを得た。ポリエステル樹脂Pの共重合組成および特性値を表2に示す。
【0080】
(ポリエステル樹脂U)
表2に示すように、重縮合反応の終了時点を重量平均分子量が28500と変更した以外は、ポリエステルPと同様の操作をおこなって、ポリエステル樹脂Uを得た。ポリエステル樹脂Uの共重合組成および特性値を表2に示す。
【0081】
(ポリエステル樹脂X)
2,6−ナフタレンジカルボン酸173kg、セバシン酸49kg、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸141kg、エチレングリコール62kg、ネオペンチルグリコール79kg、ビスフェノールSエチレンオキシド2付加物352kgからなる混合物(2,6−ナフタレンジカルボン酸:セバシン酸:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸:エチレングリコール:ネオペンチルグリコール:ビスフェノールSエチレンオキシド2付加物=47:12:41:50:38:52、モル比)を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、50rpmの回転数で攪拌しながら、0.30MPaの制圧下240℃で5時間エステル化をおこなった。
【0082】
その後、得られたエステル化物を重縮合缶へ移送して重合触媒として酢酸亜鉛(II)・2水和物を263g(2,6−ナフタレンジカルボン酸とセバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の合計1モルあたり6×10−4モル)投入し、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、280℃で重縮合反応をおこなった。重量平均分子量が86800になった時点で減圧を解除して重縮合反応を終了してから、無水トリメリット酸3kg(2,6−ナフタレンジカルボン酸とセバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の合計1モルあたり0.03モル)を投入し、270℃で2時間解重合反応をおこなった。その後、30分かけて1.3hPaまで再減圧し、1.3hPaの減圧状態を5分間保持してから減圧を解除した。そして、冷却された回転ロール上に樹脂を払い出して冷却して挟み込んでシート状のポリエステル樹脂Xを得た。ポリエステル樹脂Xの共重合組成および特性値を表2に示す。
【0083】
実施例1
ポリエステル樹脂A100部、ビス(2−オキサゾリン)化合物として1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン(三国製薬工業社製、固形分:100%、オキサゾリニル基量:9260当量/トン)(以下、「1.3PBO」と称する場合がある)8部、架橋触媒としてp−トルエンスルホン酸0.4部を、有機溶剤としての酢酸エチル253部に対して、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製、「PC−1290」)を用いて溶解し、コーティング剤を作製した。
【0084】
厚み12μmのポリエステルフィルム(ユニチカ社製、「エンブレット」)を基材として、その片面に、TMP真空蒸着装置(真空デバイス社製、「VE−2012」)を用いて0.05μmのアルミ蒸着層を形成させた。さらに、アルミ蒸着面上に、バーコーターを用いて、実施例1〜13および比較例1〜7のコーティング剤を塗布した後、110℃で2分間乾燥し、乾燥厚み2μmの塗膜を形成させて積層体を作製した。実施例1の評価結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例2〜26、比較例1〜13
表3〜表5に示すように、ポリエステル樹脂の種類と含有割合、有機溶媒の種類と含有割合、およびビス(2−オキサゾリン)化合物の種類と含有割合を変更した以外は、実施例1と同様にコーティング剤および積層体を作製した。これらの評価結果を、表3〜表5に示す。
なお、比較例2、比較例5、比較例8、および比較例12については、コーティング剤を作製することができなかったため、積層体を作製することができなかった。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
実施例1〜26で得られたコーティング剤は、溶液安定性に優れるものであり、さらに、耐ブロッキング性、密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に優れているものであった。
【0090】
実施例1、3〜14および16〜26のコーティング剤は、グリコール成分として、トリシクロデカンジメタノール、1,2−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキシド付加物または1,4−シクロヘキサンジメタノールを、グリコール成分に対して30モル%以上共重合させたポリエステル樹脂が用いられたものであった。そのため、特に耐熱水性に優れるものであった。
【0091】
実施例1、8〜14および16〜26のコーティング剤から得られたコーティング剤は、グリコール成分として、トリシクロデカンジメタノール、1,2−プロパンジオール、または1,4−シクロヘキサンジメタノールを、グリコール成分に対して30モル%以上共重合させたポリエステル樹脂が用いられたものであったため、耐熱水性に加えて耐候性にも優れるものであった。
【0092】
比較例1で得られたコーティング剤は、酸価が895当量/トンを超えるポリエステル樹脂が用いられたため、耐熱水性、耐薬品性およびガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0093】
比較例2で得られたコーティング剤は、重量平均分子量が40000を超えるポリエステル樹脂を用いたため、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤を作製することができなかった。
【0094】
比較例3で得られたコーティング剤は、重量平均分子量が10000以下であるポリエステル樹脂を用いたため、耐薬品性およびガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0095】
比較例4で得られたコーティング剤は、酸価が35当量/トン未満であるポリエステル樹脂が用いられていたため、該コーティング剤から得られた塗膜が形成された積層体においては、密着性に劣るものであった。
【0096】
比較例5で得られたコーティング剤は、ガラス転移温度が100℃を超えるポリエステル樹脂が用いられていたため、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤を作製することができなかった。
【0097】
比較例6および13で得られたコーティング剤は、ガラス転移温度が50℃未満であるポリエステル樹脂が用いられていたため、該コーティング剤から得られた塗膜が形成された積層体においては、ブロッキング性に劣るものであった。さらに、耐熱水性、耐薬品性およびガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)にも劣るものであった。
【0098】
比較例7で得られたコーティング剤においては、ビス(2−オキサゾリン)以外のオキサゾリン化合物である5,5’−(1,4−フェニレン)ビス(3−オキサゾリン)が、架橋剤として用いられた。そのため、密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0099】
比較例8においては、含有されるビス(2−オキサゾリン)化合物の末端基量が、ポリエステル樹脂の酸価に対して、2.0倍当量を超えていた。そのため、コーティング剤の溶解安定性が低下し、コーティング剤を作製することができなかった。
【0100】
比較例9で得られたコーティング剤においては、含有されるビス(2−オキサゾリン)化合物の末端基量が、ポリエステル樹脂の酸価に対して、0.8倍当量未満であった。そのため、密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0101】
比較例10で得られたコーティング剤においては、ポリエステル樹脂に対して添加されるべきビス(2−オキサゾリン)化合物を添加しなかった。そのため、密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0102】
比較例11で得られたコーティング剤においては、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計が、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶剤との合計量100質量%に対して、5質量%未満であった。そのため、該コーティング剤から得られた塗膜は、密着性、耐熱水性、耐薬品性、ガスバリアー性(酸素透過度、水蒸気透過度)に劣るものであった。
【0103】
比較例12においては、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計が、ポリエステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物と有機溶剤との合計量100質量%に対して、50質量%を超えていた。そのため、コーティング剤の溶解安定性が低下し、コーティング剤を作製することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするポリエステル樹脂、ビス(2−オキサゾリン)化合物および有機溶剤を含有するコーティング剤であって、下記の(i)〜(v)を同時に満足することを特徴とするコーティング剤。
(i)ポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000を超え40000以下である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50〜100℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が35〜895当量/トンである。
(iv)ポリエステル樹脂の酸価に対するビス(2−オキサゾリン)化合物のオキサゾリニル残基の当量比が0.8〜2.0倍当量である。
(v)[ポリステル樹脂とビス(2−オキサゾリン)化合物との合計]/(有機溶剤)の質量比が、5/95〜50/50である。
【請求項2】
ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするものであり、全ジカルボン酸成分に対して、芳香族ジカルボン酸が60モル%以上共重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを主成分とするものであり、全グリコール成分に対して、1,2−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物および下記式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれた1種類以上のグリコールが30モル%以上共重合されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング剤。
【化1】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤から形成されてなることを特徴とする塗膜。
【請求項5】
基材の少なくとも片面に金属または金属酸化物の蒸着層が設けられ、この蒸着層の表面に請求項4に記載の塗膜が形成されていることを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2013−75967(P2013−75967A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215773(P2011−215773)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】