説明

コーティング剤およびコーティングされた物品

本発明は、ポリマーと、1個または複数の潜在的反応性基と、1個または複数の非共有結合基とを含む、新規なコーティング剤であって、非共有結合基が、このコーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択されるコーティング剤について記述する。コーティング剤は、さらに官能基化することができる(例えば、追加のコーティング層を塗布することによって)コーティングを提供するのに、または所望の性質を表面に提供するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年12月21日に出願された米国仮特許出願第61/288,803号(発明の名称「SURFACE PRIMERS」、代理人管理番号16420.0001USP1)に対して、米国特許法§119(e)の下、利益を主張する。この出願の内容はすべての目的のためにその全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
発明の分野
シリコーン、ステンレス鋼、およびポリエチレンなどの材料で製作された基材に塗布するのに有用なコーティング剤が記述される。いくつかの態様では、コーティング剤は、表面プライマー剤として有用であり、追加のコーティング層を塗布することができるベースコーティングを提供することができる。その他の態様では、コーティング剤は、それ自体が所望の特徴を基材表面に提供することができる。表面にコーティング剤を含む物品についても記述される。
【背景技術】
【0003】
背景
医療用物品は、いくつかの材料から製作することができる。例えば、医療用物品を製作するのに利用されるいくつかの一般的な材料には、金属および合金、セラミック、ガラス、ガラス−セラミック、ポリマー材料、複合体、セメント、不織布および織布が含まれる。人体の環境は驚くほど過酷で攻撃的であり、したがって、人体で使用される材料の選択では、材料の性質、医療用物品の用途、および体内に滞留する持続時間などの要因が考慮される。人体に使用される一般的なポリマー材料には、シリコーンおよびその他のプラスチックが含まれ、一方、金属には、ステンレス鋼、コバルト−クロム合金、チタンおよびチタン合金、形状記憶合金、およびタンタルが含まれる。
【0004】
望ましい性質を表面に与えるために(潤滑性、生体適合性、および抗菌活性など)、経時的に生物活性(薬物など)を放出するために、および撮像システムで医療品物品をより良く見ることができるようにするなどのために、医療用物品の表面を改質することが望ましいと考えられる。
【0005】
ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)は、シリコーンと一般に呼ばれるポリマー有機ケイ素化合物の群に属する。シリコーンのいくつかの用途には、コンタクトレンズ、医療用デバイス、エラストマー、コーキング、潤滑油、および耐熱タイルが含まれる。シリコーンは、優れた柔軟性、耐久性、および生体不活性などの材料の性質により、生物医学の用途で広く使用されてきた。しかし、様々な用途に望ましい表面の性質を実現するために、シリコーンの表面改質がしばしば必要とされる。シリコーン表面の改質は、材料の極めて低い表面反応性および表面エネルギーによって困難であることがわかっていた。問題をより複雑にしているのは、シリコーンが通常、ポリマーバルク中での高い移動度と表面に移行する高い傾向とを有する低分子量成分を多量に含有することである。これは、わずか数時間の一時的な改質作用しかもたらすことができない(疎水性回復)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の簡単な要旨
第1の一般的な態様では、材料表面上にプライミングまたはベースコーティング層を提供するためのコーティング剤について記述する。そのようなコーティング剤を調製する方法と、移植可能な医療用物品の表面などの表面をコーティングするのにそのようなコーティング剤を使用する方法とについても記述する。別の態様では、この開示は、そのようなコーティング剤でコーティングされた材料表面、ならびにそのような材料表面を作製し使用する方法と、得られる物品について記述する。そのような「プライマー」組成物は、組成が同じおよび/または異なるいずれかの追加のコーティング「層」の使用を容易にすることができる。
【0007】
したがって、少なくとも3種の主な成分、すなわちポリマー、1個または複数の潜在的反応性基、および1個または複数の非共有結合基を含むコーティング剤であって、この非共有結合基は、コーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択されるものであるコーティング剤について記述される。潜在的反応性基は、ポリマー主鎖からペンダント状態にあり得る。非共有結合基は、ポリマー主鎖からペンダント状態にあり得る、および/またはポリマー主鎖に含めることができる。いくつかの態様では、潜在的反応性基と非共有結合基とは互いに異なる。
【0008】
いくつかの実施形態では、コーティング剤は:(a)ポリマレイン酸誘導体を含むポリマーと、(b)1個または複数の潜在的反応性基と、(c)1個または複数の非共有結合基とを含むことができ、この非共有結合基は、コーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択されるものである。いくつかの態様では、ポリマーはコポリマーである。潜在的反応性基は、ポリマー主鎖からペンダント状態にあり得る。非共有結合基は、ポリマー主鎖からペンダント状態にあり得、および/またはポリマー主鎖内に含めることができる。
【0009】
コーティング剤は、コーティングされた表面が提供されるように単独で、または追加のコーティング層と組み合わせて使用することができる。いくつかの実施形態では、コーティング剤は表面プライマー剤を含む。1種または複数の追加のコーティング組成物を、表面プライマー剤に塗布することができ、それによって、最終的なコーティングされた生成物が提供される。あるいは、コーティング剤は、それ自体が材料表面に所望の性質を提供することができる。これらの実施形態では、同じおよび/または異なる組成物の後続のコーティング層は、最終的な所望の特徴または性質を表面に提供するのに必要とされない。代わりに、所望の特徴または性質は、コーティング剤自体の成分によって提供される。
【0010】
コーティングされた物品についても、本明細書に記述される。いくつかの態様では、物品は、ケイ素を含む基材と、この基材の表面に配置されたコーティングとを含むことができ、このコーティングは:(a)ポリマーと、(b)ポリマーからペンダント状態にある1個または複数の潜在的反応性基と、(c)1個または複数の非共有結合基とを含むものであり、この非共有結合基は、基材と相互に作用するように選択される。その他の態様では、基材は、その他の材料(例えば、ポリエチレンなどのポリマー材料;ステンレス鋼もしくはアルミニウムなどの金属;またはその他の材料)で製作することができ、非共有結合基は、基材材料と相互に作用するように選択することができる。ポリマーは、誘導体化されたポリ(アルケン−co−無水マレイン酸)などのポリマレイン酸誘導体を含むことができる。いくつかの実施形態では、ポリマーはコポリマーである。非共有結合基は、シロキサン、C〜C20アルキル基、ポリアミド、フェノール樹脂(phenolics)、カテコール、1種または複数のポリエチレングリコール、アクリレート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリエーテル、またはこれらのいずれかの組合せから選択することができる。
【0011】
コーティング剤を作製する方法、ならびにコーティング剤を使用して基材の表面を改質する方法についても記述される。別の実施形態は、この開示を検討することによって明らかにされよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、シリコーンカテーテルのコーティング層の共焦点Raman顕微鏡法を示す図である。
【図2】図2は、コーティング剤でコーティングされ、その後潤滑性オーバーコートでコーティングされたシリコーンカテーテルに対する摩擦試験の結果を示す図である。
【図3】図3Aは、プライマー処理されていないカテーテルに塗布された超疎水性オーバーコートを示す図である。図3Bは、表面プライマー剤を含むカテーテルに塗布された超疎水性オーバーコートを示す図である。
【図4】図4は、コーティング剤で処理された、およびコーティング剤で処理されていない、シリコーンサンプルに関する細胞毒性研究の結果を示す図である。
【図5】図5は、表面プライマー剤を含有するシリコーン表面に塗布した親水性オーバーコートの光パターニングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本明細書に記述される本発明の実施形態は、余すところのないものではなく、または開示された厳密な形に本発明を限定するものではない。むしろ実施形態は、当業者が本発明の原理および実施を認めることができ理解することができるように選択され記述される。本出願は、本発明の対象の適応例または変形例を包含するものである。
【0014】
本明細書で言及される全ての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許出願のそれぞれが参照により具体的にかつ個別に示されるかのように、それと同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に開示される刊行物および特許は、それらの開示のためだけに提示される。本明細書において、本明細書で引用される任意の刊行物および/または特許を含めた任意の刊行物および/または特許に先行する権利を本発明者らが持たないことを認めるとして解釈されるものは、何もない。
【0015】
本明細書においてかつ特許請求の範囲において、「含む(including)」および「含む(comprising)」という用語は非限定的な用語であり、「…を含むがこれらに限定されない」ことを意味すると解釈されるべきである。これらの用語は、より制限的な用語である「本質的に…からなる(consisting essentially of)」および「…からなる(consisting of)」よりも広く、したがってこれらの制限的な用語を包含する。
【0016】
本明細書および添付される特許請求の範囲で使用される、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が他に明示しない限り、複数表現を含む。したがって、「a」(または「an」)、「1種または複数」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では同義に使用することができる。
【0017】
本明細書で使用される「層」または「コーティングされた層」という用語は、物品表面の全体にわたる、または全体より少ない、部分に関する意図されるその使用のために、十分な寸法(例えば、厚さおよび面積)の1種または複数のコーティングされた材料の層を指す。本明細書に記述される「コーティング」は、1つまたは複数の「コーティングされた層」を含むことができ、コーティングされた層のそれぞれは、1種または複数のコーティング成分を含む。いくつかの態様では、本発明のコーティングは、例えばコーティング剤など、ポリマー材料の単一の、コーティングされた層からなるものとすることができる。
【0018】
いくつかの態様では、本発明のコーティング剤は、通常なら基材表面の低い表面エネルギーおよび/または不十分な反応性基が原因でコーティングすることが困難になる可能性がある、耐久性があり剛性であるコーティングを基材上に生成することができる。いくつかの実施形態では、耐久性があり剛性であるコーティングは、何週間または何カ月間にわたり持続することができる。さらに、本発明の実施形態は、基材にコーティング剤を塗布した後に耐久性となる表面処理も含む。
【0019】
本明細書で使用される「耐久性」という用語は、コーティングの耐摩耗性、または、使用中に典型的に遭遇する力(例えば、垂直力および剪断力など)に曝されたときに基材表面上に維持されるコーティングの能力を指す。より耐久性のあるコーティングは、摩耗によって基材から容易に除去されにくい。コーティングの耐久性は、使用条件をシミュレートする条件に、基材(医療用デバイスなど)を曝すことによって評価することができる。本発明の概念によれば、コーティングは、コーティングされた物品の使用中に本発明のいくつかの態様で遭遇する可能性のある垂直力または剪断力の作用に対して持ちこたえるように、デバイス表面上に形成することができる。これらの場合、そのような力は、通常なら基材表面からコーティングを離層する可能性があるものである。
【0020】
対照的に、プラズマ処理、コロナ放電、および/またはUV照射などの従来の前処理を介したポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)などのシリコーンの表面コーティングは、瞬間的および一時的なものになる可能性がある。これらの従来の前処理は、疎水性回復と呼ばれる現象に典型的には関連付けられており、これは、表面からバルク相への極性基の再配向によって、バルクから表面への非極性基の再配向によって、またはバルクから表面への低分子量シリコーン流体の拡散によって、引き起こされる可能性がある。シリコーン鎖の高い移動度は、短時間の規模(例えば、何分から何日)で疎水性回復を引き起こす可能性がある。
【0021】
本明細書に記述される本発明のコーティング剤でコーティングされた基材は、従来の表面プライマーまたはコーティング剤でコーティングされた同等の基材よりも長く、物理的、化学的、または生物学的特性を保持できることが有利である。一般に、潜在的反応性基および非共有結合基を含むポリマー組成物を、基材に塗布することができる。非共有結合基は、基材の表面に関連付けることができる。ポリマー組成物の潜在的反応性基は、化学線または熱エネルギーなどの外部エネルギー源で活性化させて、コーティング剤と基材との間、およびコーティング剤のポリマー鎖の中に、共有結合を形成することができる。いくつかの実施形態では、潜在的反応性基がポリマーに共有結合しているポリマー組成物は、「遊離」潜在的反応性基がコーティング調合物と混合される場合、より剛性のあるかつより耐久性のあるコーティング層を提供する。
【0022】
その他の実施形態では、ケイ素含有基材は、ケイ素基材の前処理を必要とすることなく、本発明の概念によるコーティング剤でコーティングすることができる。潜在的反応性基および非共有結合基であってシロキサン基を含むものを含むポリマー組成物は、ケイ素材料の表面に関連付けることができる。非共有結合基は、ケイ素基材の表面に関連付けることができる。コーティング試薬上の潜在的反応性基は、化学線エネルギーまたは熱エネルギーで活性化することができ、したがって、コーティング剤と基材と間、およびコーティング剤のポリマー鎖の中に、共有結合が形成される。この結果、剛性および耐久性のあるコーティングされた層を、ケイ素基材上にもたらすことができる。次いで任意選択で、コーティングされた層を別のコーティング層にまたはオーバーコート層にさらに反応させて、所望の特性、例えば潤滑性または湿潤性などを基材に与えることができる。
【0023】
塗布すると、本発明のコーティング剤は、支持材料の表面上にコーティングされた層を形成することができる。この層は、表面に安定に保持することができ、追加の組成物(ポリマー調合物および活性剤など)を表面に結合するための結合部位として働くことができる。本明細書で使用される「層」という用語は、支持材料表面の意図される使用(全体にわたる、または一部における)に十分な寸法(厚さおよび被覆領域など)のコーティングを指すことになる。
【0024】
任意選択で、コーティング剤は、表面プライミング剤として機能することができる。これらの実施形態では、後続のコーティング組成物は、例えば親水性および疎水性などの所望の表面特性が実現するように塗布することができる。そのような最終コーティングは、所望の特性を基材に提供することができる。例えば、超疎水性コーティングは、不活性化コーティングを提供することができ、BSAおよび血清などのタンパク質に対して不活性化をもたらし、かつHeLa細胞および全血を含む細胞接着、または微生物吸着(Staphylococcus aureusなど)をもたらすことができる。
【0025】
本明細書で使用される「不活性化(passivation)」は、表面を「不活性(passive)」にするプロセスであり、すなわち、生物学的材料に曝露されたときの生物学的応答の低減(例えば、タンパク質吸着の低減または炎症を媒介する細胞応答の低減)をもたらす、表面の被膜またはコーティングが生成されるプロセスである。不活性化コーティングは、使用条件(例えば、人体内)に曝露されたときに、コーティングされていない材料に比べて改善された生物学的不活性化を有する表面を形成する。
【0026】
任意選択で、コーティング剤は、1種または複数の活性剤をさらに含むことができる。そのような活性剤は、最終的なコーティングされた物品に不活性化表面または抗菌的性質などの所望の性質を提供するために含めることができる。そのような実施形態では、本発明によるコーティングされた層は、追加のコーティング層を塗布することなく、基材に不活性化の特徴を提供することができる。いくつかのそのような実施形態では、コーティング剤は、ポリマー、1個または複数の潜在的反応性基、1個または複数の非共有結合基、および1個または複数の不活性化基を含むことができる。非共有結合基は、コーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択することができる。
【0027】
さらに別の態様では、活性剤は、開始剤を含むことができる。これらの態様によれば、コーティング剤は、ポリマー、1個または複数の潜在的反応性基、1個または複数の非共有結合基、および開始剤基を含むことができる。開始剤基は、コーティングされた表面から重合を開始するように選択することができる。開始剤基は、技法「からグラフト化する」ことによって、共有結合されたポリマー単位が生成されるようにモノマーと反応するための部位を、あるいは事前に製作されたポリマーと反応するための部位を、提供する。
【0028】
次に、コーティング剤の様々な特徴について、より詳細に記述する。
【0029】
本発明のコーティング剤は、広く様々な基材に提供することができる。いくつかの態様では、コーティング剤は、通常ならコーティングするのが難しい基材に関連して利用することができる。
【0030】
基材の特定の形は重要ではない。本発明の態様によれば、基材は、いくつかの異なるフォーマットで提供することができる。例示的な基材は、例えば、固体有形表面、粒子、溶液ポリマー、エマルジョン、または懸濁液を含む。
【0031】
例示的な固体有形表面は、移植可能な医療用デバイス、患者の体内に一時的に挿入するための医療用デバイス、および医療用チューブなどの、医療用デバイスの表面を含む。本発明のコーティング剤は、本発明のコーティング剤でコーティングすることができる材料の多様性から明らかにされるように、移植可能な医療用デバイスの分野以外の基材にも塗布することができる。
【0032】
固体有形表面を製作するための適切な材料には、移植可能な医療用物品を製作するのに一般に使用される材料が含まれる。固体有形表面は、身体の組織および/または流体に接触して機能することが、任意選択で意図される。適切な支持材料の例には、金属、鉱物またはセラミック、炭素ベースの材料、およびポリマーなど、移植可能な医療用物品を製作するのに一般に使用されるような材料が含まれる。
【0033】
適切な金属には、例えば、アルミニウム、クロム、コバルト、鉄、タンタル、チタン、およびこれらの合金、ならびにニチノールおよびその他のニッケル−チタン合金、およびステンレス鋼が含まれる。適切な鉱物またはセラミックの例には、アルミナ、ヒドロキシアパタイト、石英、サファイア、シリカ、およびガラスが含まれる。例示的な炭素ベースの材料には、熱分解炭素、ならびに熱による分解(加熱分解、熱分解)によって得られた炭素材料、または有機化合物、ならびに物理気相成長(PVD)技法によって得られた材料が含まれる。
【0034】
この開示に照らして明らかにされるように、本発明のコーティング剤は、シリコーン(ポリ(ジメチルシロキサン))で製作された固体有機表面に関連して特に役立てることができる。しかし、本発明の概念は、いくつかのその他のポリマー材料に適用することもできる。いくつかの態様では、コーティング剤は、合成または天然ポリマーで製作された物質に関連して役立てることができる。例えば、基材は、Parylene(商標)(様々な化学気相成長されたポリ(p−キシレン)ポリマーに関する商標名)、ポリアミド(PEBAX(商標)などのポリエーテルブロックアミドなど)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアセテート、ポリビニルアセテート、スルホン酸置換ポリマー、ポリアクリルアミドポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、第4級アミン置換ポリマー、導電性ポリマー(例えば、ポリビニルピリジン、ポリアセチレン、ポリピロール)、ポリ−(p−フェニレンテレフタルアミド)、ポリホスファゼン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサン、無機合成エラストマー、有機ポリマー、またはこれらのコポリマー、またはこれらの任意の組合せなどの合成ポリマーから製作することができる。その他の実施形態では、基材は、多糖、タンパク質、核酸、または有機ポリマーなどの天然ポリマーから形成することができる。
【0035】
いくつかの態様では、適切な基材は、プラスチック材料で製作することができる。例示的なプラスチックには、シリコーン、ポリオレフィン、ビニルポリマー、ポリスチレン、ポリアクリレート(ポリメタクリレートを含む。)、ポリ(メチル)メタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ塩化(ビニル)などの塩素含有ポリマー、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、フェノール樹脂、アミノ−エポキシ樹脂、ポリエステル、セルロース系プラスチック、およびゴム状プラスチックであって、本明細書に記述されるように改質することができる表面を提供するものが含まれる。一般に、「Plastics」、462〜464頁、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、Kroschwitz編、John Wiley and Sons、1990年を参照されたい。例示的なポリオレフィンには、高密度ポリエチレン(HDPE)およびポリテトラフルオロエチレンなどのポリエチレン、ならびにポリプロピレンなどが含まれる。
【0036】
コーティング剤および方法は、ガラス、セラミック、および金属、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、および貴金属などの無機基材上にコーティングを設けるのに使用することもできる。そのような実施形態では、潜在的反応性基または潜在的反応性基とカップリングするのに適した標的が得られるように、直接または中間コーティングを介して表面自体を誘導体化することができる。
【0037】
任意選択で、コーティング剤は、前処理がなされた基材に設けることができる。基材の前処理は、通常なら前処理されていない基材上に存在することのできない基を、処理された基材の表面に作製するために、基材の1つまたは複数の表面の処理を含むことができる。基は、例えば限定するものではないがコーティング剤層上の基に対して反応性になることができる基を基材上に生成するなどの、基材の表面の特定の要求に応えるように、処理された基材の表面に生成される。その他の実施形態では、その他の特定の要求に、生物学的に活性な分子の結合が含まれる。これらの特定の態様では、そのような前処理に、化学的前処理、生物学的前処理、物理学的前処理(エッチングなど)、またはこれらの組合せを含めることができるが、これらに限定するものではない。
【0038】
いくつかの実施形態では、基材の化学的前処理に、例えば強酸での洗浄を含めることができる。その他の実施形態では、化学的前処理に、強塩基による基材の表面の洗浄を含めることができる。その他の実施形態では、物理学的前処理を使用することができる。物理学的前処理には、フレーム前処理、プラズマ前処理、コロナ前処理、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0039】
その他の前処理された表面は、ガラス、セラミック、または金属の、Parylene(商標)でコーティングされた表面およびシリル化された表面を含むことができる。
【0040】
さらにその他の実施形態では、基材表面は、コーティング剤でコーティングする前に前処理を必要としないことが可能である。前処理がないことは、有利であるとすることができる。本発明の態様によれば、前処理の前に、基材表面を疎水性にすることができ、前処理なしでプライマー処理することができる。その他の態様では、前処理の前に、基材表面を親水性にすることができ、前処理なしで本発明のコーティング剤でコーティングすることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、基材の前処理していない表面を、潜在的反応性基、非共有結合基、およびポリマーを含有するコーティング剤でコーティングすることができる。非共有結合基は、基材に関連付けられるように作用することができ、化学線エネルギーを、コーティングされた基材に当てて、潜在的反応性基を活性化することができる。ある場合には、潜在的反応性基は、コーティング剤と基材との間に共有結合を形成することができる。
【0042】
その他の実施形態は、そこに共有結合された1個または複数の潜在的反応性基を含む基材を、含むことができる。非共有結合基およびポリマーを含有するコーティング剤は、1個または複数の潜在的反応性基を有する基材上にコーティングすることができる。非共有結合基は、潜在的反応性基を含有する基材に関連付けられるように作用することができる。外部エネルギーを、コーティングされた基材に当てて、潜在的反応性基を活性化することができ、またある場合には、コーティング剤と基材との間に共有結合を形成することができる。
【0043】
さらにその他の実施形態では、コーティング剤および基材は、独立して選択された潜在的反応性基を含むことができる。これらの潜在的反応性基は、化学線エネルギーで活性化することができ、したがって、基材とコーティング剤との間に共有結合が形成される。
【0044】
コーティング剤は、1個または複数の非共有結合基を含むことができる。ある実施形態では、非共有結合基は、基材との有利な相互作用、会合、誘引、または親和性をもたらすように選択することができる。「非共有結合基」という用語は、コーティング剤の実施形態の上または中での、基材および分子との相互作用、誘引、または親和性の出現を特徴付ける文言である。非共有結合基、相互作用基、誘引基、または親和性基という用語または文言は、同義に使用することができる。非共有結合基は、基材と非共有結合基との接触中に、または非共有結合基が基材に十分近付いた状態となったときに、基材と相互に作用することができる。任意選択で、非共有結合基と相互に作用する基材は、前処理した基材とすることができる。しかし、本開示の検討から明らかにされるように、そのような基材の前処理は必要ではない。いくつかの態様では、非共有結合基は、例えば可逆的非共有相互作用を通して、基材と可逆的に相互作用することができる、官能基を含むこともできる。
【0045】
ある実施形態では、非共有結合基を、非共有相互作用で基材に係合させることができる部分で官能基化させることができる。例えば、非共有結合基は、イオン性基、水素結合することができる基、またはファンデルワールスもしくはその他の疎水的相互作用で係合することができる基などの官能基を含むことができる。そのような官能基は、シラン基、シロキサン基、カチオン基、アニオン基、親油性基、および両親媒性基などを含むことができる。
【0046】
本発明の方法および組成物は、帯電部分を含む非共有結合基を用いることができる。適切な帯電部分には、正に帯電した部分および負に帯電した部分が含まれる。適切な、正に帯電した部分は、アミン、第4級アンモニウム部分、スルホニウム、ホスホニウム、およびフェロセンなどを含む。適切な、負に帯電した部分(例えば、水性組成物中で中性pH)は、カルボキシレート、強力な電子求引基で置換されたフェノール(例えば、テトラクロロフェノール)、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、スルフェート、スルホネート、チオカルボキシレート、およびヒドロキサム酸を含む。
【0047】
本発明の方法および組成物は、供与体または受容体のどちらかとして水素結合できる基(例えば、第2の水素結合基)を含む、非共有結合基を用いることができる。例えば、非共有結合基は、1個または複数のカルボキシル基、アミン基、ヒドロキシル基、またはカルボニル基などを含むことができる。イオン性基は、水素結合に寄与することもできる。
【0048】
いくつかの態様では、非共有結合基は、表面と相互に作用することが可能なカテコール系の基を含むことができる。例えば、非共有結合基は、カテコールアミン(すなわち、ドーパミン、または4−(2−アミノエチル)ベンゼン−1,2−ジオール)を含むことができる。
【0049】
本発明の方法および組成物は、親油性部分(例えば、第2の親油性基)を含む非共有結合基を用いることができる。適切な親油性部分には、1つまたは複数の分岐または直鎖C6〜36アルキル、C8〜24アルキル、C12〜24アルキル、またはC12〜18アルキルなど;C6〜36アルケニル、C8〜24アルケニル、C12〜24アルケニル、またはC12〜18アルケニルなどであって、例えば1から4個の二重結合を有するもの;C6〜36アルキニル、C8〜24アルキニル、C12〜24アルキニル、またはC12〜18アルキニルなどであって、例えば1から4個の三重結合を有するもの;1〜4個の二重または三重結合を有する鎖;アリールまたは置換アリール部分を含む鎖(例えば、鎖の端部または中間にフェニルまたはナフチル部分);ポリ芳香族炭化水素部分;鎖に関して記述された数の炭素を含む、シクロアルカンまたは置換アルカン部分;またはこれらの組合せもしくは混合物などが含まれる。アルキル、アルケニル、またはアルキニル基は、分岐;鎖内でエーテル基のような官能基内;またはアルコール、アミド、もしくはカルボキシレートのような末端官能基などを含むことができる。ある実施形態では、非共有結合基は、リン脂質などを含みまたはリン脂質などの脂質である。
【0050】
非共有結合基は、基材上に存在するアルコール、フェノール、チオール、アミン、カルボニル、または同様の基などとの相互作用の結果、形成することができる。非共有結合基と基材との相互作用は、可逆的な相互作用によって形成することができる。非共有結合基は、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、複素環、置換複素環、アリールアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、エトキシ、またはプロポキシオリゴマー、グリコシド、または同様の部分を含むことができる。
【0051】
例えば、適切な非共有結合基は、基材との可逆的相互作用に関与しまたはそのような作用によって形成される、1個または複数の官能基と、非共有結合基部分とを含むことができる。非共有結合基は、約4から約48個の炭素またはヘテロ原子、約8から約14個の炭素またはヘテロ原子、約12から約24個の炭素またはヘテロ原子、約16から約18個の炭素またはヘテロ原子、約4から約12個の炭素またはヘテロ原子、または約4から約8個の炭素またはヘテロ原子などを含むことができる。ある実施形態では、非共有結合基は、16個の炭素のアルキル鎖、または炭素のヘキサデシル鎖または基とすることができる。非共有結合基は、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、複素環、置換複素環、アリールアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、エトキシもしくはプロポキシオリゴマー、グリコシド、これらの混合物、または同様の部分を含むことができる。
【0052】
いくつかの態様では、非共有結合基は、親油性部分と、任意選択で水素結合またはイオン性相互作用を形成するための1個または複数の部分とを含むことができる。そのような実施形態では、親油性部分は、約4から約48個の炭素、約8から約14個の炭素、約12から約24個の炭素、または約16から約18個の炭素などを有することができる。そのような実施形態では、非共有結合基は、約1から約8個の可逆的結合/相互作用部分、または2から4個の可逆的結合/相互作用部分を含むことができる。適切な非共有結合基は、(CHCOOH(式中、n=12〜24、n=17〜24、またはn=16〜18)などの構造を有する。
【0053】
コーティング剤の非共有結合基は、コーティング剤が塗布される1つまたは複数の基材に関連付けられまたはその基材と相互に作用するように選択することができる。したがって、特定のコーティング剤に関する非共有結合基の選択は、コーティングされる基材、利用されるコーティング剤のその他の成分(コーティング剤に含まれるポリマーおよび(1個または複数の)潜在的反応性基など)、溶媒系、および反応条件などの因子を考慮に入れることができる。コーティングされる基材について考える場合、考慮される典型的な因子には、基材のデザイン(基材が、平面状の表面を有しているか、または医療用デバイスの用途に典型的な多面構造として設けられているかなど)、および基材を製作するのに使用される材料(本明細書に記述されるポリマーおよび金属など)などが含まれる。コーティング剤に含まれる(1個または複数の)潜在的反応性基について考える場合、潜在的反応性基を活性化状態に変換するのに使用される外部刺激のタイプ(光または熱エネルギーなど)を考慮することができる。
【0054】
例示的な非共有結合基には、シロキサン基、ポリアミド、C〜C20アルキル基、1種または複数のポリエチレングリコール、アクリレート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエーテルが含まれる。さらにその他の実施形態では、非共有結合基は、下記の式I
【0055】
【化1】

(式中、波線はポリマーを表す。)
により表されるペンダントアミドシロキサン基を形成するための、3−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シランと、ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデゼン)の無水基との反応生成物とすることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、コーティング剤の非共有結合基は、ポリマーの主鎖に対してペンダント状態にあり(is pendent to)、基材と相互に作用し、関連付けられ、または親和性を有するが、非共有結合基は、基材と共有結合しない。ペンダント基は、例えば、ポリマーから分岐した基とすることができる。ペンダント基の例には、シロキサン基、カルボキシル基、および第4級アミン基などが含まれる。
【0057】
コーティング剤と基材との共有結合は、コーティング剤の潜在的反応性基の活性化を通して行うことができる。コーティング剤の非共有結合基および潜在的反応性基は、プライマー処理されるまたはコーティングされる基材に適合するように選択することができる。適合性には、活性化エネルギーに曝されたときに基材に反応する潜在的反応性基が含まれるが、これに限定するものではない。適合性には、コーティング剤の湿潤性および疎水性/親水性の考慮事項などの態様が、さらに含まれる。したがって、非共有結合基および共有結合基は、1つの基材システムに適合することができる。
【0058】
その他の実施形態では、非共有結合基は、コーティング剤のポリマー成分の一部にすることができまたはこのポリマー成分に組み込むことができる。非共有結合基は、例えば、非共有結合基がコーティング剤のポリマー成分からペンダント状態にはならなかったであろうポリマーの主鎖の一部とすることができる。例えば、非ペンダント非共有結合基は、ポリマーのアルキル鎖を含むことができる。例えばポリマー主鎖においてポリマーの一部であるアルキル鎖非共有結合基の例は、オクタデセンなどのアルケンである。
【0059】
いくつかの実施形態では、非共有結合基と基材との相互作用は、多くの異なる因子に独立して寄与することができる。例として、非共有結合基と基材との相互作用に独立して寄与する因子のいくつかには、(i)電荷間相互作用、(ii)水素結合相互作用、(iii)双極子相互作用、(iv)変動双極子相互作用、(v)対イオン効果、および(vi)疎水性/親水性相互作用が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0060】
電荷間相互作用は、カチオン基とアニオン基との間にすることができ、非常に強力にすることができる。電荷間相互作用は、電荷中心間の距離が増加するにつれてゆっくり低下することが公知である。電荷間相互作用の例は、アミン基とスルホネート基との間である。
【0061】
双極子相互作用は、異なる原子がそれらの構造内にあり、異なる原子が異なる電気陰性度を有する分子から生じる可能性がある。双極子相互作用の例は、カルボニル基同士の相互作用である。
【0062】
変動双極子相互作用は、互いの近くに位置して、振動子カップリングを可能にする分子から生じる可能性がある。生じる引力相互作用は、分散性相互作用として公知であり、非極性分子間でも生じる可能性がある。相互作用の強度は、2つの分子の分極性に大きく依存する可能性がある。変動双極子相互作用の一例は、芳香族基同士の相互作用とすることができる。その他の実施形態では、変動双極子相互作用の一例は、炭化水素基同士とすることができる。
【0063】
水素結合相互作用は、水素原子が2個の他の原子に同時に結合するときに引き起こされる可能性がある。水素結合は、酸−塩基反応ではない。水素結合相互作用では、水素は酸−塩基反応中にあるので、水素は2個の他の結合原子の1つに移されず、むしろ水素は2個の原子と結合する。水素結合相互作用の例は、式IIのように表すことができる。
【0064】
【化2】

上述の様々な相互作用のより完全な詳細は、MarchのAdvanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure、Jerry Marchらに記載されている。
【0065】
本発明の原理によれば、コーティング剤は、ポリマー、1個または複数の潜在的反応性基、および1個または複数の非共有結合基を含む。次に(1個または複数の)潜在的反応性基の特徴について述べる。潜在的反応性基は、適切な化学線エネルギー源に曝露されたときに、化学的に反応性になることができる光反応性基とすることができる。本明細書で使用される「潜在的光反応性基」および「光反応性基」という文言は同義に使用され、周囲貯蔵条件下で不活性状態(基底状態)のままになるよう十分安定にすることができるが適切な反応条件下にある場合に不活性状態から活性化状態への変換を受けることができる、化学的部分を指す。同様に、「潜在的熱反応性」および「熱反応性基」という文言は、同義にかつ同じ意味で使用することができる。そのような潜在的反応性基の場合、適切な反応条件には、外部エネルギー源への曝露を含めてもよい。適切な外部エネルギー源には、光源(UVまたは紫外線)または熱源が含まれる。その他の例示的な反応条件には、化学反応条件、例えば酸化剤および還元剤(酸化還元対)の存在を含めてもよい。
【0066】
一般に、光反応性基は、特定の与えられた外部刺激に応答して活性種を発生させ、その結果、例えば同じまたは異なる分子によって提供された隣接する化学構造に共有結合する。適切な光反応性基は、例えば米国特許第5,002,582号(Guireら)に記載されている。
【0067】
光反応性基は、様々なタイプの化学線エネルギーに応答するように選択することができる。典型的には、紫外線または可視光線のいずれかを使用して光活性化することができる基が、選択される。適切な光反応性基には、例えば、アジド、ジアゾ、ジアジリン、ケトン、およびキノンが含まれる。光反応性基は、電磁エネルギーの吸収後に、例えばニトレン、カルベン、および励起状態のケトンを含むフリーラジカルなどの活性種を発生させる。
【0068】
ある実施形態では、各光反応性基は、非共有結合基、基材、またはこれらの組合せのいずれかにあるアルキル基から水素原子を抽出することができる。共有結合は、光反応性基と非共有結合基との間、光反応性基と基材との間、光反応性基とその他の分子内および分子間ポリマー基との間で形成することができる。両方の基に共有結合することによって、光反応性基は接着を促進させることができ、そして/またはコーティング剤のカップリング強度を増大させることができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、光反応性基は、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントロン、およびアントロン様複素環(10位にN、O、またはSを有するようなアントロンの複素環類似体)、またはこれらの置換(例えば、環置換)誘導体などのアリールケトンとすることができる。アリールケトンの例には、アクリドン、キサントン、およびチオキサントンを含めたアントロンの複素環誘導体、およびこれらの環置換誘導体が含まれる。その他の適切な光反応性基には、例えばアントラキノンなどのキノンが含まれる。
【0070】
そのようなアリールケトンの官能基は、多数の活性化/不活性化/再活性化サイクルを受けることができる。例えば、ベンゾフェノンは、三重項状態への項間交差を受ける励起一重項状態の初期形成により光化学励起することが可能である。励起三重項状態は、水素原子(例えば、ポリマーコーティング層からの)の引抜きによって、例えば限定するものではないが基材の炭素−水素結合に挿入することができ、したがってラジカル対が生成される。その後に生じるラジカル対の崩壊は、新しい炭素間結合の形成をもたらす。反応性結合(例えば、炭素/水素)が結合に利用できない場合、ベンゾフェノン基の紫外線誘発型励起を可逆的にすることができ、分子は、エネルギー源の除去によって基底状態のエネルギーレベルに戻る。ベンゾフェノンおよびアセトフェノンなどの光反応性アリールケトンは、水中で多数の再活性化を受けることができ、したがって高いコーティング効率が提供される。
【0071】
アジドは、別の種類の光反応性基を構成し、フェニルアジドおよび4−フルオロ−3−ニトロフェニルアジドなどのアリールアジド;ベンゾイルアジドおよびp−メチルベンゾイルアジドなどのアシルアジド(−CO−N);エチルアジドホルメートおよびフェニルアジドホルメートなどのアジドホルメート(−O−CO−N);ベンゼンスルホニルアジドなどのスルホニルアジド(−SO−N);およびジフェニルホスホリルアジドおよびジエチルホスホリルアジドなどのホスホリルアジド(RO)PONを含む。
【0072】
ジアゾ化合物は、別の種類の光反応性基を構成し、ジアゾメタンおよびジフェニルジアゾメタンなどのジアゾアルカン(−CHN);ジアゾアセトフェノンおよび1−トリフルオロメチル−1−ジアゾ−2−ペンタノンなどのジアゾケトン(−CO−CHN);t−ブチルジアゾアセテートおよびフェニルジアゾアセテートなどのジアゾアセテート(−O−CO−CHN);およびt−ブチルαジアゾアセトアセテートなどのβ−ケト−α−ジアゾアセテート(−CO−CN−CO−O−)を含む。ジアゾ化合物も、熱反応性基である。
【0073】
その他の光反応性基には、3−トリフルオロメチル−3−フェニルジアジリンなどのジアジリン(−CHN)と;ケテンおよびジフェニルケテンなどのケテン(CH=C=O)が含まれる。
【0074】
ある実施形態では、光反応性基を非イオン性とすることができる。一実施形態では、非イオン性光反応性基には、ペンタエリスリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)またはテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエステル)が含まれる。これらの態様では、光反応性基の1個または複数を、基材と反応させることができる。したがって光反応性基は、コーティング剤を基材に結合させる。
【0075】
いくつかの実施形態では、光反応性基をイオン性にすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも1個のイオン性光反応性をコーティング剤に含めることができる。任意の適切なイオン性光反応性基を使用することができる。いくつかの実施形態では、イオン性光反応性基は、式IIIの化合物にすることができ:
−Y−X (III)
式中、Yは、少なくとも1個の酸性基、塩基性基、またはこれらの塩を含有するラジカルであり、XおよびXはそれぞれ独立して、潜在的光反応性基を含有するラジカルである。
【0076】
光反応性基は、非イオン性光反応性基に関して既に記述されたものと同じにすることができる。非イオン性光反応性基に関して記述されたようなスペーサは、潜在的光反応性基と共にXおよびXの一部にすることができる。いくつかの実施形態では、潜在的光反応性基には、アリールケトンまたはキノンが含まれる。
【0077】
式IIIのいくつかの実施形態において、Yは、少なくとも1個の酸性基またはその塩を含有するラジカルとすることができる。そのような光反応性基は、コーティング組成物のpHに応じてアニオン性にすることができる。適切な酸性基には、例えば、スルホン酸、カルボン酸、およびホスホン酸などが含まれる。そのような基の適切な塩には、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩、およびリン酸塩が含まれる。いくつかの実施形態では、イオン性基にはスルホン酸またはスルホネート基が含まれる。適切な対イオンには、アルカリ、アルカリ土類、アンモニウム、およびプロトン化アミンなどが含まれる。
【0078】
例えば、式IIIの化合物は、スルホン酸またはスルホネート基を含有するラジカルYを有することができ;XおよびXは、アリールケトンなどの光反応性基を含有する。そのような化合物には、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−ジスルホン酸または塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸または塩;N,N−ビス[2−(4−ベンゾイルベンジルオキシ)エチル]−2−アミノエタンスルホン酸または塩などが含まれる。米国特許第6,278,018号(Swan)を参照されたい。塩の対イオンは、例えば、アンモニウム、またはナトリウム、カリウム、もしくはリチウムなどのアルカリ金属とすることができる。
【0079】
式IIIのその他の実施形態では、Yは、塩基性基またはその塩を含有するラジカルとすることができる。そのようなYラジカルには、例えば、アンモニウム、ホスホニウム、またはスルホニウム基を含めることができる。基は、コーティング組成物のpHに応じて中性またはカチオン性にすることができる。いくつかの実施形態では、ラジカルYは、アンモニウム基を含む。適切な対イオンには、例えば、カルボキシレート、ハロゲン化物、スルフェート、およびホスフェートが含まれる。
【0080】
例えば、式IIIの化合物は、アンモニウム基を含有するYラジカルを有することができ;XおよびXは、アリールケトンを含む光反応性基を含有する。そのような光反応性基には、エチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)塩、ヘキサメチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)塩、1,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)−1,4−ジメチルピペラジンジウム)塩、ビス(4−ベンゾイルベンジル)ヘキサメチレンテトラミンジウム塩、ビス[2−(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル]−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム塩、4,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)モルホリニウム塩、エチレンビス[(2−(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル)−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム]塩、および1,1,4,4−テトラキス(4−ベンゾイルベンジル)ピペラジンジウム塩が含まれる。米国特許第5,714,360号を参照されたい。対イオンは、典型的にはカルボキシレートイオンまたはハロゲン化物とすることができる。一実施形態では、ハロゲン化物を臭化物にすることができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、潜在的反応性基は、熱反応性基を含むことができる。熱活性化は、UV光への曝露が実用的ではない場合(例えば、管状デバイスの内部管腔)または望ましくない場合(例えば、UV光感受性成分を含有するコーティング材料)に有利と考えられる。熱反応性基は、UV光の低い透過率を示すコーティングにおいても有利と考えられる。熱反応性基は、原子間に熱感受性(不安定)結合を有する原子対を含むことができる。そのような原子対の例には、酸素−酸素(過酸エステル)、窒素−酸素、および窒素−窒素が含まれる。本発明の実施形態に有用な熱反応性基の例には、4,4’アゾビス(4−シアノペンタン酸)および過酸化ベンゾイルの類似体が含まれる。熱エネルギーを生成するための外部エネルギー源は、熱反応性基を活性化するのに使用することができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、潜在的反応性基は、1個または複数のニトレン原性基を含むことができる。例えば、潜在的反応性基は、パーフルオロフェニルアジド(PFPA)などのパーハロフェニルアジド(PHPA)を含むことができる。「ニトレン原性基」は、反応エネルギー源に曝露されたときにニトレン基になる化学的部分である。アジド基は、ニトレン原性基の例である。代わって「ニトレン基」(一般に「ニトレン」または「ニトレン中間体」とも呼ばれる。)は、カルベンの窒素類似体と見なされる窒素基の特定の形である。カルベンのように、ニトレンは、反応性が高くかつ通常の条件下では単離可能でないと考えられる、中間体であると一般に見なされる。重要なニトレン反応には、C−H、N−H、O−H、およびC−C結合(単結合および二重結合)への付加または挿入が含まれる(しかし、これらに限定するものではない。)。
【0083】
パーフルオロフェニルアジドは、光化学反応性または熱反応性基として振る舞うことができ、C−H/N−H挿入およびアルケン付加反応を受けるパーフルオロフェニルニトレンを発生させる。フェニル基フッ素原子は、ニトレンの寿命を延ばし、望ましくない環拡大の代わりに中程度の効率から高い効率の所望の架橋挿入に有利である。挿入反応は、典型的には130℃以上の温度で生じると報告されている。パーフルオロフェニルアジドは、典型的には4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸から得ることができる。
【0084】
潜在的反応性基が、1個または複数の光化学反応性または熱反応性基を含む場合、コーティング剤を、光または熱エネルギーなどの反応エネルギー源に曝露して、潜在的反応性基を活性化させ、それによって基材上でのコーティングの生成を促進させることができる。「反応エネルギー源」は、例えばコーティング剤分子上のニトレン原性基をニトレンに変換し、このニトレンが次いで基材の表面と反応できることによって、基材への分子の接着を促進させるエネルギー源である。適切な反応エネルギー源には:UV光子などの光子、および熱エネルギー(赤外線および伝導加熱)が含まれる(しかし、これらに限定するものではない。)。反応エネルギー源は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。反応エネルギー源は、リソグラフィー、走査型顕微鏡法、またUVおよび可視光子の場合には光下学反応の有効化および蛍光分子の励起などの作業で従来から使用されている。UV光を含む反応エネルギー源は、例えば水銀またはキセノンランプを使用して供給することができる。中圧水銀ランプは、約220nmから約1,000nmの間であって最大強度が約360nmの光子の供給源である。フォトマスクを使用して、光子がサンプルのある部分に到達するのを防止すると共に光子をその他の部分に到達させてもよい。
【0085】
熱エネルギー反応−エネルギー源は、例えば、サンプルを炉内で加熱することによって、典型的には予め選択された作業温度まで所望の速度で上昇させた炉内で、または指示された温度まで予熱された炉内で加熱することによって、供給することができる。いくつかの実施形態では、指示された温度は、コーティング組成物のポリマー鎖移動度を増大させるのに十分な温度にすることができる。指示された温度は、所与のポリマータイプに応じて変えることができる。例えば、温度は、約120℃から約190℃など、基材上に固定化されているポリマーのガラス転移温度よりも高いがポリマーの発火温度よりも低くすることができる。加熱時間は、約5分から約40分の間など、分子を基材に結合するのに必要なエネルギーを与えるのに十分な時間にすることができる。
【0086】
さらにその他の実施形態では、潜在的反応性基は化学反応性基を含むことができる。適切な化学反応性基は、酸化還元開始剤、酸化還元触媒剤、または酸化還元活性化剤と呼ぶことができる。一般に、有機および無機酸化剤と、有機および無機還元剤との組合せを使用して、重合用にラジカルを発生させる。酸化還元開始剤に関する記述は、その部分が参照により本明細書に組み込まれるPrinciples of Polymerization、第2版、Odian G.、John Wiley and Sons、201〜204頁、(1981年)に見出すことができる。生体系に損傷を与えない酸化還元開始剤を、いくつかの実施形態で使用することができる。
【0087】
生体系に損傷を与えないエネルギーを利用する光開始剤基および熱活性化開始剤基を使用することもできる。ある実施形態では、長波長UVおよび可視光活性化周波数を有する光開始剤基を、ポリマーの主鎖にカップリングさせる。その他の実施形態では、可視光活性化光開始剤は、ポリマーに対してペンダント状態にあり得る。
【0088】
その他の実施形態では、組成物の潜在的反応性基は、光反応性基、化学活性化基、熱反応性基、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0089】
コーティング剤を基材表面に塗布した後、コーティング剤を、適切な供給源からの活性化に曝すことができる。これは、基材表面に共有結合コーティングを形成し、このコーティングは、ペンダント「反応化」基(光「反応化」または熱「反応化」基など)を有するポリマーを含んでおり、光反応性および/または熱反応性基が活性化を受けて共有結合を形成し、それによってポリマーが基材表面に固定化されることを意味する。コーティングを基材表面に共有結合させるために潜在的反応性基の全てを活性化する必要はなく;いくつかの潜在的反応性基は、活性化エネルギーの除去によって不活性状態に戻ってもよい。
【0090】
本発明の態様によれば、コーティング剤は、ポリマー、1個または複数の潜在的反応性基、および1個または複数の非共有結合基を含む。次にポリマー成分の特徴について記述する。
【0091】
本明細書で使用される「ポリマー」は、「モノマー」と呼ばれるより小さい分子を共有結合することによって形成された化合物である。ポリマー分子中に存在するモノマーは、同じにすることができまたは異ならせることができる。モノマーが異なる場合、ポリマーはコポリマーと呼んでもよい。
【0092】
コーティング組成物のポリマー成分は、非共有結合基、潜在的反応性基、または非共有結合基および潜在的反応性基の両方を結合するための主鎖として働くことができる。これらの態様では、非共有結合基、潜在的反応性基、または非共有結合基および潜在的反応性基の両方を、ポリマーから「ペンダント状態」にあると記述することができる。任意選択で、ポリマーは、本明細書の他の箇所でより詳細に記述されることになる活性剤の結合のための主鎖として働くことができる。
【0093】
一般に、ポリマーから「ペンダント状態」にある非共有結合基は、基材表面と相互に作用しまたは関連付けることができるような手法でポリマー状に並べられる。非共有結合基は、ポリマーの長さに沿ったペンダント状態にあり得、かつランダムにまたは規則正しくポリマーの長さに沿って間隔を開けて配置することができる。これらの態様によれば、ポリマーは、1個または複数のペンダント非共有結合基を有するポリマーの形成をもたらすことになる、任意のタイプの合成プロセスを使用して形成することができる。例えば、ポリマーは、非共有結合基を「プリフォーム」ポリマーに結合することによって合成することができる。プリフォームポリマーは、商用の供給源から得ることができ、または所望のモノマーの重合もしくは異なるモノマーの組合せから合成することができる。これらの実施形態による、ポリマーを調製する一実施例では、非共有結合基および第1の反応性基を含む化合物を、この第1の反応性基に対して反応性のあるポリマーの一部に反応させ、その結果、ペンダント非共有結合基を有するポリマーの形成がもたらされる。反応は、好ましくは、コーティングされる基材と相互に作用するその能力を妨げる可能性がある、非共有結合基に対するいかなる改質も引き起こさない。非共有結合基のそのような結合は、例えば、置換または付加反応によって実現することができる。あるいは、まず非共有結合基を含むモノマーを調製し、次いでモノマーを重合して最終的なポリマーコーティング剤を形成することによって、ペンダント非共有結合基を有するポリマーを形成することができる。当業者なら、特定の合成スキームは、コーティング剤の成分および最終的な所望の生成物に応じて選択できることを、容易に理解するであろう。両方の概略的な合成スキームを、本明細書の実施例に示す。
【0094】
同様に、ポリマーから「ペンダント状態」にある潜在的反応性基は、選択された活性化エネルギー(光、熱、またはその他の反応条件など)を使用して活性化できるように、ポリマー上に並べられ、コーティングされる基材材料に結合される。潜在的反応性基は、ポリマーの長さに沿ったペンダント状態にあり得、ランダムなまたは規則正しくポリマーの長さに沿って間隔を空けて配置することができる。これらの実施形態によるポリマーは、1個または複数のペンダント潜在的反応性基を有するポリマーの形成をもたらすことになる、任意のタイプの合成プロセスを使用して形成することができる。例えば、ポリマーは、潜在的反応性基を「プリフォーム」ポリマーに結合することによって、合成することができる。プリフォームポリマーは、商用の供給源から得ることができ、または所望のモノマーの重合もしくは異なるモノマーの組合せから合成することができる。ペンダント潜在的反応性基を有するポリマーを調製する一例では、光反応性基および第1の反応性基を含む化合物を、この第1の反応性基に対して反応性のあるポリマーの一部に反応させて、ペンダント光反応性基を有するポリマーの形成をもたらす。反応は、好ましくは、潜在的反応性基の活性化をもたらさず;したがって、潜在的反応性基は「潜在的」であり続け、コーティングプロセス中に適切な活性化エネルギーによって活性化することが可能である。潜在的反応性基のそのような結合は、例えば、置換または付加反応によって実現することができる。あるいは、まず潜在的反応性基を含むモノマーを調製し、次いでこのモノマーを重合して最終的なポリマーコーティング剤を形成することにより、ペンダント潜在的反応性基を有するポリマーを形成することができる。当業者なら、特定の合成スキームは、コーティング剤の成分および最終的な所望の生成物に応じて選択できることを、容易に理解するであろう。
【0095】
いくつかの実施形態では、本明細書の他の箇所でより詳細に記述されるように、非共有結合基の1個または複数をポリマー組成物および主鎖内に含めることができる。
【0096】
適切なポリマーは、オリゴマー部分、無機合成エラストマー、ブロックコポリマー、線状ポリマー、線状コポリマー、分岐状ポリマー、分岐状コポリマー、ホモポリマー、天然ポリマー、位置異性体ポリマー、立体異性体ポリマー、および幾何異性体ポリマーなどのポリマーの実体を含んでいてもよい。
【0097】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ビニルポリマー、ポリオレフィン、スルホン酸置換ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、第4級アミン置換ポリマー、シリコーン、シリコーンゴム、導電性ポリマー(ポリビニルピリジン、ポリアセチレン、ポリピロールなど)、ならびにこれらのいずれかの誘導体、コポリマー、または組合せなどの合成ポリマーとすることができる。
【0098】
その他の実施形態では、ポリマーは、アルギン酸、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、ペクチン、単糖、二糖、デンプン、キチン、デキストラン硫酸、タンパク質、抗血栓剤(抗トロンビンIIIおよび抗血栓性表面など)、アルブミン、結合タンパク質/ペプチド(コラーゲンなど)、酵素、細胞外基質タンパク質/ペプチド、成長因子、ヒルジン、血栓溶解タンパク質(ストレプトキナーゼ、プラスミン、ウロキナーゼなど)、ならびにこれらのいずれかのコポリマー、組合せ、および誘導体とすることができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、ポリマーには、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、開環重合、縮合重合、またはこれらの組合せによって調製されたポリマーが含まれる。
【0100】
いくつか態様では、ポリマーは、反応性基を含むことができる。そのような反応性基は、非共有結合基、潜在的反応性基、および/または活性基結合するために、ポリマー主鎖上に反応性部位を提供することができる。そのような適切な反応性基には、限定するものではないが、カルボン酸基、グリシジル基、無水物基、アミン基、酸塩化物基、アクリレート基、ハロゲン、アルケン基、アルキン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、アジド基、およびこれらの混合物が含まれる。ある例示的な実施形態では、ポリマーは、ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)とすることができる。その他の適切な反応性基には、ベンゾフェノンおよびアゾ基が含まれる。ポリマーが反応性基を含む実施形態によれば、そのような反応性基は、成分がポリマー主鎖に結合するための反応性部位を提供することができる(非共有結合基、潜在的反応性基、および活性基など)。得られるポリマーは、本明細書に記述されるように、ポリマー主鎖からのペンダント基としてそのような成分を含む可能性がある。
【0101】
ポリマーは、上述の様々なポリマー部分を含むことができるが、いくつかの実施形態は、数平均分子量(M)が約500から約2,000,000の範囲にあるポリマーを含む。その他の実施形態は、数平均分子量(M)が約1,000から約20,000、約10,000から約20,000、約20,000から約30,000、約30,000から約80,000、約80,000から約100,000、約100,000から約200,000、約200,000から約500,000、約500,000から約1,000,000の範囲にあるポリマー、さらに数平均分子量(M)が約500,000から約2,000,000の範囲にあるポリマーも含む。
【0102】
さらに、コーティング剤の溶液が基材に塗布される実施形態の場合、溶解度の範囲が約0.01mg/mlから約2,000mg/mlにあるポリマーを、役立てることができる。その他の用途では、溶解度の範囲が約0.10mg/mlから約2,000mg/ml、約1.0mg/mlから約1,000mg/ml、約10mg/mlから約2,000mg/ml、約100mg/mlから約2,000mg/mlにあるポリマー、またはさらに約1,000mg/mlから約2,000mg/mlの範囲にあるポリマーも役立てることができる。
【0103】
当業者なら、本明細書に記述されるコーティング剤を、望みに応じて追加の成分を含むように改質できることを容易に理解するであろう。例えば、コーティング剤は、任意選択で1種または複数の活性剤を含むことができる。そのような活性剤は、コーティング剤および/またはコーティング剤が塗布される表面に追加の特徴または性質が提供されるように、選択することができる。1種または複数の活性剤は、ポリマーからペンダント状態にあり得る。ポリマーからペンダント状態にある場合、活性剤は、本明細書の他の箇所に記述されるように、反応性基を介してポリマー主鎖に結合することができる。
【0104】
例示的な活性剤には、開始剤基、不活性化基、および1つまたは複数の所望の特徴、例えば抗菌、防汚、抗血管形成、抗線維形成、線維形成、抗血栓、および/またはタンパク質耐性の特徴などをコーティング剤に提供する化学的部分が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0105】
いくつかの実施形態では、活性剤は、開始剤基を含むことができる。これらの態様において、開始剤基は、基材の表面から重合を開始するのに使用することができる。開始剤基が含まれる場合、重合は、コーティング組成物でコーティングされた基材の表面から行うことができる。いくつかの態様では、開始剤基は、基材表面にポリマーブラシコーティングを形成するのに使用することができる。
【0106】
このように、いくつかの態様では、(a)ポリマーと、(b)1個または複数の潜在的反応性基と、(c)1個または複数の非共有結合基と、(d)1個または複数の活性剤とを含むコーティング剤を、基材表面に塗布するステップを含む、基材の表面にコーティングを形成するための方法が提供さる。活性剤は、開始剤基を含むことができる。コーティング剤を塗布した後、基材表面を反応条件に曝して、ブラシポリマーを表面に形成する。したがって、モノマー組成物は、コーティングされた組成物に塗布され、重合が表面で実施され、その結果、ポリマーブラシコーティングが表面に設けられる。
【0107】
本明細書で使用される「ポリマーブラシコーティング」は、ラジカル発生基(コーティング組成物の開始剤基)を有する重合性基材から形成されるポリマー鎖を指し、この重合性基材とは、基材上にコーティングされた組成物である。それによってポリマーブラシコーティングは、基材表面にコーティングされた組成物の形を実質的にとる。ポリマーブラシは、本明細書に記述されたラジカル重合によって形成される。ブラシは、第1の方向、すなわちその「長さ」における重合度に関係した一方向に、特定サイズの細長い形状を有し、断面直径または厚さは、第1の方向に直角な第2の方向、すなわちその「幅」における重合度に関係する。ブラシは、コイル状のもしくは圧密化された形態、または細長い形態をとることができる。ブラシの幅は、その長さに沿って変化させることができる。さらに、重合反応は、分岐状ポリマーブラシ構造が生成されるように、ならびにブラシ密度、すなわちベース材料の表面積当たりまたは重量当たりのブラシの数が増減されるように、制御することができる。本発明の原理によるポリマーブラシの長さ、幅、分岐、および全体的な形態は、本明細書に記述される所望の最終用途または目的に応じて変えることができ、また当技術分野で公知の方法により変えることができる。
【0108】
開始剤基の選択は、行われる重合のタイプを考慮することができる。例えば、ベンゾフェノンまたはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、重合開始剤として使用されるコーティング剤に含めることができる。これらの場合、重合は、適切な活性化エネルギー(ベンゾフェノンの場合は光エネルギー、AIBNの場合は熱エネルギー−加熱)を適用して開始剤がフリーラジカルに分解したときに開始される。
【0109】
フリーラジカル、アニオン、カチオン、開環、および開環複分解重合に基づいて制御された重合技法は、ブラシタイプのポリマーを生成する重合を開始するのに使用されてきた。さらに、ベンゾフェノンまたはアジドなどのフリーラジカル発生体は、モノマーの重合を開始して、化学線活性化により(ベンゾフェノンの場合)または熱活性化により(アジドの場合)ブラシポリマーを形成する。これら方策の全ては、専用の開始剤基を含み、これらの基はコーティング剤に組み込むことができる。開始剤基は、「被グラフト化(grafting from)」技法により共有結合されたポリマー単位が生成されるようにモノマーと反応させるための部位を、あるいは、「グラフト化(grafting to)」技法により予め製作されたポリマーと反応させるための部位を、提供する。制御された重合技法を通したポリマーとコーティング剤との結合は、コーティング剤のさらなる官能基化を可能にして、様々な表面の性質を実現する。例えば、表面は、この目的の役割を果たすことが公知である化学的部分との官能基化によって、抗菌、防汚、抗血管形成、血管形成、抗線維形成、線維形成、抗血栓、およびタンパク質耐性にすることができる。開始剤基により活性化されたコーティング剤の官能基化は、基材にコーティング剤を塗布する前または後のいずれかに終了することができる。
【0110】
ラジカルをベースにした方策は、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)、ニトロキシド媒介重合(NMP)、および光イニファーター媒介重合を含む(表面開始型の制御されたラジカル重合の検討では、Chem. Rev. 2009年、109巻、5437〜5527頁参照)。ATRPは、ブロモイソブチレートなど、休止アルキルハロゲン化物開始剤基の可逆的酸化還元活性化に依拠し、ポリマー鎖の生長は、可逆的終止をベースにする。RAFTは、可逆的連鎖移動をベースにし、2−フェニルプロパ−2−イル−ジチオベンゾエートなどの連鎖移動剤またはジチオベンゾエートやトリチオカルボネートなどのRAFT剤の存在下での従来のフリーラジカル開始剤の活性化に依拠する。NMPは、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(TEMPO)により活性化することができるニトロキシドラジカルによって成長するポリマー鎖の可逆的活性化/非活性化に依拠する。
【0111】
「重合性モノマー」は、重合性アリル、ビニル、メタクリル、またはアクリル化合物を指す。いくつかの態様では、モノマーは両性イオンである。「両性イオンモノマー」は、カチオンおよびアニオン(帯電)官能基を等しい割合で含有する重合性分子であって、その全体が正味の中性である分子を意味する。
【0112】
代表的な両性イオンモノマーには、N,N−ジメチル−N−アクリロイルオキシエチル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−メタクリロイルオキシエチル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−アクリルアミドプロピル−N−(2−カルボキシメチル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(2−カルボキシメチル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−アクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン(SBMAM)、N,N−ジメチル−N−アクリルアミドプロピル−N−(2−カルボキシメチル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(2−カルボキシメチル)−アンモニウムベタイン、2−(メチルチオ)エチルメタクリロイル−S−(スルホプロピル)−スルホニウムベタイン、2−[(2−アクリロイルエチル)ジメチルアンモニオ]エチル2−メチルホスフェート、2−(アクリロイルオキシエチル)−2’−(トリメチルアンモニウム)エチルホスフェート、[(2−アクリロイルエチル)ジメチルアンモニオ]メチルホスホン酸、2−[(3−アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]エチル2’−イソプロピルホスフェート(AAPI)、1−ビニル−3−(3−スルホプロピル)イミダゾリウムヒドロキシド、(2−アクリロキシエチル)カルボキシメチルメチルスルホニウムクロリド、1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタイン、N−(4−スルホブチル)−N−メチル−N,N−ジアリルアミンアンモニウムベタイン(MDABS)、またはNN−ジアリル−N−メチル−N−(2−スルホエチル)アンモニウムベタイン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどが含まれる。
【0113】
本発明の原理によれば、ATRPを使用することができる。上記にて論じたように、ATRPは、モノマーをポリマーに変換するラジカル重合の使用に基づいて制御されたまたは「生きている」重合である。炭素間結合は、遷移金属を通して形成される。
【0114】
例としてATRPを使用すると、適切な開始剤基には、生長ラジカルとしての有機フレームワークと同様の有機ハロゲン化物が含まれる。例示的な開始剤基は、アルキルハロゲン化物である。いくつかの実施形態では、開始剤基はアルキル臭化物を含む。例示的な開始剤基は、ブロモイソブチレートを含む。その他のATRP開始剤は、例えばATRP Solutions(Pittsburgh、PA)から市販されている。重合触媒は、適切な金属触媒とすることができる。いくつかの態様では、触媒は、下記の有益な組合せ、すなわち:1個の電子によって分離された2つの利用可能な酸化状態、ハロゲンに対する金属中心の適切な親和性、金属がハロゲンを収容できるように酸化されたときの金属の配位圏の拡張性、および強力なリガンド錯体化を提供することができる。例示的な触媒は、銅をベースにしている。ATRPで典型的に使用されるモノマーは、生長ラジカルを安定化することができる置換基を有する分子であり、例えば、スチレン、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、およびアクリロニトリルである。原子移動ラジカル重合用の例示的な溶媒には、トルエン、1,4−ジオキサン、キシレン、アニソール、および水が含まれる。
【0115】
これらの態様では、基材にコーティング剤を設けることができ、原子移動ラジカル重合を、コーティングされた基材から開始することができ、それによってブラシポリマーコーティングが基材表面に形成される。基材を、コーティング剤(ポリマー、潜在的反応性基、非共有結合基、および開始剤)を含有するコーティング組成物に適切な時間浸漬し、次いで乾燥することにより残りの溶媒を除去する。その後、コーティングされた基材を、両性イオンモノマー(SBMAmなど)を含有するコーティング組成物中に浸漬し、アルゴン中で脱気する。
【0116】
コーティング剤に含めるための開始剤の選択は、コーティング剤の(1個または複数の)非共有結合基を考慮してもよいことが理解されよう。開始剤は、選択された非共有結合基と同じにすることができ、または異ならせることができる。例えばベンゾフェノンは、コーティング剤の一部として含めることができ、開始剤および潜在的反応性基の両方として働くことができる。これらの場合、コーティング剤を表面に塗布することができ、活性化エネルギーを、必ずしも全てではないベンゾフェノン基が活性化されるような条件下で、コーティング剤と表面とをカップリングするように加えることができる。次いで未反応のベンゾフェノン基を潜在的状態に戻し、その後、重合のための開始剤として使用することができる。
【0117】
その他の場合、非共有結合基と開始剤とは、異ならせることができる。例えば、ベンゾフェノンが非共有結合基として使用される場合、その他のフリーラジカル発生部分は、重合が開始されるようフリーラジカルを提供するのに使用してもよい。例えば、ベンゾフェノンがコーティング剤の非共有結合基として含まれる場合、ジアゾ化合物などのベンゾフェノンではない開始剤の選択を、望ましいとすることができる。これは、例えば、化学線活性化によりコーティングとベンゾフェノンとの架橋を実現するのに光が利用可能であるが、ジアゾ化合物によって暗所での重合を熱により開始可能な条件で、有利なものにすることができる。
【0118】
その他の適切な活性剤は、タンパク質および微生物不活性化の性質が提供されるように選択することができる。これらの態様によれば、例示的な活性剤は、カルボキシレート(COO)、スルフェート(SO)、ヒドロキシ(OH)、アミン(NH)、メチル(CH)、ポリエチレングリコール(PEG)、シロキシル(SiO)、またはパーフルオロ[(CF−CF)]基から選択することができる。一実施形態では、PEG活性剤は、メトキシポリエチレングリコールアミン(Aldrich Chemical Company、WI)を含むことができる。例示的なパーフルオロ剤は、1H,1H−ペンタデカフルオロエチルアミン(Oakwood Chemical、CAから入手可能)。
【0119】
コーティングは、本明細書に記述されるように塗布される。望みに応じて、コーティングされた基材を、適切な温度に適切な時間加熱して(例えば、140℃で5から30分間)、コーティングを架橋することができる。
【0120】
本明細書で論じられるように、コーティング剤は、ポリマーに関連した下記の成分、すなわち:非共有結合基、潜在的反応性基、および/または活性剤の組合せを含むことができる。コーティング剤のこれら成分のそれぞれは、ポリマーが形成される前または後のいずれかで提供することができる。例えば、モノマーは、所望の成分を含むように改質することができる。次いでこれらの改質されたモノマーを重合して、選択された成分を含有する最終的なポリマーを形成することができる。あるいは、ポリマーを最初に形成することができ(「プリフォーム」ポリマー)、その後、所望の成分をポリマーにカップリングすることができる。
【0121】
本発明の原理によれば、成分((1個または複数の)非共有結合基、(1個または複数の)潜在的反応性基、および/または(1個または複数の)活性剤)を、適切な反応条件を使用してポリマーにカップリングすることができる。実施例で示されるように、活性剤は、無水マレイン酸モノマーと反応して、安定なアミド結合を形成することができる。得られる改質モノマーは、各無水マレイン酸単位と活性剤との反応が遊離カルボキシレート基を発生させるので、負に帯電している。あるいは、実施例にも示されるように、プリフォームポリマーは、反応性基(無水マレイン酸など)を含むことができ、成分((1個または複数の)非共有結合基、(1個または複数の)潜在的反応性基、および/または(1個または複数の)活性剤)を、ポリマー上で無水マレイン酸基と反応させて、安定なアミド結合を形成することができる。当業者なら、本発明の教示に従って、その他の反応性基で無水マレイン酸を置換することができることが、容易に理解されよう。
【0122】
本発明の実施形態は、コーティング剤を堆積し、かつ基材上にコーティングを形成するための方法を含む。本発明のいくつかの実施形態では、コーティングは、ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基を含むコーティング剤を含む。潜在的反応性基および非共有結合基は、互いに異ならせることができる。非共有結合基は、コーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択される。
【0123】
予備的なステップとして、基材表面は、任意選択で清浄化することができ、コーティング剤が基材に適正に結合できるように調製することができる。例として、コーティング剤の結合を妨げる可能性のある汚染物質は、溶媒(例えば、イソプロピルアルコールなど)による基材の拭い取り、浸漬、またはこれらの組合せによって除去することができる。任意選択で、基材表面が、その上に配置された酸化物または水酸化物基を有することになるように、基材表面を薬剤で処理してもよい。例えば、基材は、水酸化ナトリウムおよび水酸化アンモニウムなどの強塩基で処理することができる。金属の場合、金属は、この金属の表面に酸化物または水酸化物部位が発生するように酸化電位に供することができる。
【0124】
コーティング剤を、ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基で形成することができる実施形態では、組成物の個々の成分を、適切な溶媒中で一緒に混合して、コーティング組成物を形成することができる。これらの実施形態では、ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基のコーティング組成物は、同じ組成物の一部として同時に基材に塗布することができる。あるいは、ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基を別々に調製し、コーティングされる基材に塗布することができる。異なるタイプのポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基は、コーティングされた基材表面の所望の終点に到達するように組み合わせることができることが理解されよう。そのような所望の終点には、潤滑性、親水性、疎水性、接着、耐久性、生体適合性、質感、およびこれらの組合せが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0125】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、オリゴマー部分、無機合成エラストマー、ブロックコポリマー、線状ポリマー、線状コポリマー、分岐状ポリマー、分岐状コポリマー、ホモポリマー、天然ポリマー、位置異性体ポリマー、立体異性体ポリマー、および幾何異性体ポリマーを、組み合わせてまたはブレンドして含むことができる。ある実施形態では、ポリマーは、コポリマーを含むことができる。ある実施形態では、コポリマーは、オクタデセンおよびマレイン酸誘導体を含む。
【0126】
ある実施形態では、潜在的反応性基は、光反応性または熱反応性部分を含むことができる。適切な光反応性部分には、アジド、ジアゾ、ジアジリン、ケトン、およびキノンが含まれる。適切な熱反応性部分は、4,4’アゾビス(4−シアノペンタン酸)と、過酸化ベンゾイルの類似体とを含むことができる。ある実施形態では、光反応性基は、アセトフェノン、アクリドンを含むアントロン、ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、またはこれらの環置換誘導体、または例えばアントラキノンなどのキノンを含むことができる。ある実施形態では、光反応性部分はベンゾフェノンを含むことができる。
【0127】
いくつかの実施形態では、非共有結合基は、シロキサン基、ドーパミン、C〜C20アルキル基、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコール、アクリレート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエーテル、または同様のものを含むことができる。その他の実施形態では、コーティング層は、ケイ素含有基材に塗布するためのコーティング剤を生成するために、ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基の成分を反応させることから形成することができる。ある実施形態では、非共有結合基はシロキサンを含む。ある実施形態では、非共有結合基は、3−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シランを含む反応生成物である。
【0128】
ある実施形態では、ポリマーおよび潜在的反応性基を、成分に適切な反応条件および溶媒を使用して一緒に混合する。ポリマーと潜在的反応性成分とを反応させた後、非共有結合基成分を反応混合物に添加して、ペンダント(1個または複数の)非共有結合基および(1個または複数の)潜在的反応性基を含むコーティング剤を生成する。適切な組成物は、式(I)および(IV)で表されるペンダントシロキサン基を有するポリマーコーティング剤を作製するために、反応する3−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)、およびベンゾフェノンを含む。得られるコーティング剤は、PDMS表面に塗布してもよく、UV光などの化学線エネルギーによる処理が行われ、表面コーティング組成物はPDMS表面に共有結合する。化学線エネルギーによる処理の後、追加のコーティング層を、任意選択でコーティング層に塗布して、追加の表面改質を行ってもよい。
【0129】
いくつかの実施形態では、コーティング組成物を形成することができる。コーティング組成物は、溶媒から基材に塗布することができる。適切な溶媒には、イソプロピルアルコール、ケトン、アルカン、クロロホルム、アルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸メチル、水、ジオキサン、エーテル、トルエン、石油エーテル、およびこれらの混合物が含まれる。異なるタイプの塗布技法を使用して、コーティング組成物を基材の表面に塗布することができる。例として、しかしそれに限定しようとするものではないが、コーティング組成物は、基材の表面に噴霧することができ、基材の表面に浸漬コーティングすることができ、基材の表面に擦り付けることができ、基材の表面にブレードコーティングすることができ、基材の表面のスポンジでコーティングすることができ、またはこれらの組合せにすることができると理解することができる。コーティング組成物を有する基材は、化学線エネルギー、例えばUV光に曝露して、潜在的反応性基と基材との反応を誘導することができる。化学線に曝露した後、コーティングされた基材を洗浄して、任意の未反応の(例えば、非共有結合された)材料を除去することができる。
【0130】
あるいは、非共有結合基、ポリマー、および潜在的反応性基を個別の組成物として、コーティングされる基材に塗布することができることが理解されよう。したがって、組成物を反応させる十分な時間が過ぎた後、外部エネルギーを加えて層と基材とを結合することができる。洗浄ステップは、結合していない材料を除去するために行うことができる。この実施形態では、次いで潜在的反応性薬剤を、基材に個別に塗布することができる。しかし、いずれの実施形態においても、潜在的反応性薬剤は、さらなる反応に利用可能な反応性基、例えば必要に応じて疎水性ポリマー層にまたはその他の部分にカップリングするための反応性基を保持することになる。
【0131】
任意選択で、コーティング剤がプライマーとして働くことが意図されるような場合、活性剤層を、表面プライマーがコーティングされた層上に配置することができる。例として、活性剤層組成物は、1種または複数のポリマーを、適切な溶媒中で活性剤と混合することによって調製することができる。次いで活性剤層を、噴霧コーティング、浸漬コーティング、およびブレードコーティングなどを含む任意の適切な技法を通して、表面プライマーがコーティングされた層に塗布することができる。
【0132】
さらにその他の実施形態では、不活性化コーティングを、オーバーコートとして塗布することができる。例えば、コーティング剤(ポリマー、潜在的反応性基、および非共有結合基を含む。)は、プライマーとして基材に塗布することができる。いくつかの実施形態では、プライマーコーティング剤の潜在的反応性基は、熱反応性基を含むことができる。プライマーコーティング剤の塗布に続き、不活性化剤オーバーコート組成物を塗布することができる。不活性化剤オーバーコート組成物は、ポリマーおよび潜在的反応性基を含むことができる。いくつかの実施形態では、非共有結合基は、不活性化剤オーバーコート組成物に含まれない。
【0133】
いくつかの実施形態では、表面が改質された物品には、哺乳類の体内に挿入することができるデバイスが含まれる。そのような物品には、ガイドワイヤ、ステント、ステントグラフト、カバー付きステント、カテーテル、弁、遠位保護デバイス、動脈瘤閉塞デバイス、中隔欠損クロージャ、および人工心臓などの血管デバイス;除細動器、ペースメーカー、およびペーシングリードなどの心臓補助デバイス;関節移植および骨折修復デバイスなどの整形外科用デバイス;歯科用インプラントおよび骨折修復デバイスなどの歯科用デバイス;眼科用デバイスおよび緑内障排出用シャント;陰茎、括約筋、尿道、膀胱、および腎臓用デバイスなどの泌尿器科用デバイス;乳房プロテアーゼおよび人工器官などの合成プロテアーゼが含まれるが、これらに限定するものではない。医療用デバイス表面のコーティング層は耐久性があり、患者に挿入している間および/または患者の内部にデバイスが滞留している間に医療用デバイスが捻りおよび曲げに曝される用途に十分適している。
【0134】
無機基材のその他の実施形態には、遺伝子チップ、DNAチップアレイ、マイクロアレイ、タンパク質チップ、および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)スライドなどの診断用スライド;cDNAアレイおよびオリゴヌクレオチドアレイを含むアレイ;クロマトグラフィー支持材料、細胞培養デバイス、およびバイオセンサなどであるがこれらに限定されない非移植生物医学デバイスが含まれる。
【0135】
代替の実施形態では、上述の表面改質物品は、基材;(a)ポリマーと、(b)少なくとも1個の潜在的反応性基と、(c)少なくとも1個の非共有結合基と、(d)少なくとも1つのオーバーコート層とを含むコーティングされた層を含むことができる。
【0136】
オーバーコート層は、親水性ポリマーとすることができる。親水性ポリマーには、合成ポリマー、天然ポリマー、ポリイオンポリマー、またはこれらの組合せを含めることができる。親水性ポリマーは、コポリマーまたはホモポリマーとすることができる。適切な天然親水性ポリマーには、アルギン酸、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロン酸、ヒアルロネート、ポリリジン、糖、キトサン、デキストラン、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、ケラチン、ポリペプチド、ヌクレオチド、およびタンパク質などが含まれる。適切な合成親水性ポリマーは、アクリルモノマー、ビニルモノマー、エーテルモノマー、またはこれらの組合せから調製することができる。アクリルモノマーには、例えば、メタクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびこれらの誘導体が含まれる。ビニルモノマーには、例えば、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、およびこれらの誘導体が含まれる。エーテルモノマーには、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、およびこれらの誘導体が含まれる。ポリイオンモノマーには、例えば、第4級アンモニウム、エチレンイミン、またはこれらの組合せが含まれる。
【0137】
適切な親水性ポリマーには、例えば、ポリメチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン/ポリメタクリルアミドコポリマー、およびポリビニルピロリドン/ポリアクリルアミドコポリマーなどのコポリマーを含めることができる。
【0138】
いくつかの態様では、オーバーコート層は疎水性ポリマーとすることができる。任意選択で、オーバーコート層は、超疎水性ポリマーまたは極疎水性ポリマーとすることができる。例示的な超疎水性および極疎水性ポリマーは、共通所有の米国特許公開第2010/0081750A1号(2010年4月1日公開;Guireら、「Nanotextured Surfaces」)および第2008/0268233号(2008年10月30日公開;Lawinら、「Nanotextured Super or Ultra Hydrophobic Coatings」)に記載されている。
【0139】
複数のオーバーコート層を、コーティングされたプライマー層上に有することを、望ましいものにすることができる。例えば、潤滑性コーティング層を薬物放出層と組み合わせて、潤滑性表面および特異的薬物放出プロファイルを有する表面改質物品を提供することができる。さらのその他の例では、表面改質物品は、耐久性ある抗菌活性を提供することができる。
【0140】
本発明のいくつかの実施形態では、オーバーコートされた物品(例えば、基材、プライマー層、およびオーバーコートを含む物品)を化学線エネルギーに曝し、この物品にさらに有益な表面改質をもたらすことができる。例えば、オーバーコートされた物品を化学放射線に曝すことにより、ある場合には、使用中の表面改質物品の耐久性を増大させることができる。
【0141】
当業者なら、通常であれば従来の技法でコーティングすることが難しいと考えられる様々な基材に対して、改善された特徴が提供されるように、本発明の概念を適用できることが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態では、ポリオレフィンを含む基材と、この基材の表面に配置されたコーティングとを含む物品であって、このコーティングが:(a)ポリマー主鎖と、(b)ポリマー主鎖からペンダント状態にある1個または複数の潜在的反応性基と、(c)基材と相互に作用するように選択された1個または複数の非共有結合基とを含むものである物品が記述されている。基材は、ポリエチレン(polyethyelene)を含むことができる。非共有結合基は、カテコールとすることができる。
【0142】
さらにその他の態様では、金属で製作された基材と、この基材の表面に配置されたコーティングとを含む物品であって、このコーティングが:(a)ポリマー主鎖と、(b)ポリマー主鎖からペンダント状態にある1個または複数の潜在的反応性基と、(c)基材と相互に作用するように選択された1個または複数の非共有結合基とを含むものである物品が提供される。金属は、ステンレス鋼、アルミニウム、ニチノール、またはコバルト−クロムの1種または複数とすることができる。非共有結合基は、シロキサンを含むことができる。
【0143】
下記の実施例は、本発明の実施形態の代表例であり、余すところのないものではない。実施例は、本発明の範囲を限定すると解釈するものではなく、むしろ当業者が本発明の実施を理解できるようなものである。他に指示しない限り、全てのパーセンテージは重量による。
【実施例】
【0144】
以下の試薬を実施例で使用した。
Lubricent(商標):イソプロピルアルコールに溶解した光反応性化合物と組み合わせたヒドロゲル形成ポリマーのブレンドからなる親水性コーティングであって、Harland Medical、Eden Prairie、MNからLubricent(商標)460という製品名で市販されているもの。
【0145】
(実施例1)
フォト−ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)シラン−(フォト−POMAS)の合成。
【0146】
ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)(MW30,000〜50,000、Aldrich、Milwaukee、WI)5グラム、4−アミノベンゾフェノン(Aldrich)0.5g、および4−ジメチルアミノピリジン(Aldrich)0.08gを、クロロホルム100mL中に溶解し、アルゴン中で2時間還流した。次いで5ml分のアミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シランを反応混合物に添加し、さらに2時間還流した。得られた溶液を、2N HClで3回洗浄し、その後、脱イオン水で3回洗浄した。サンプルを、無水NaSO上で乾燥した。真空濾過後、濾液をロータバップで濃縮乾固することにより、固体材料7.5gが得られた。
【0147】
ポリマー生成物は、1H NMR (δ 0.0 ppm, CH3-Si; δ 0.8 - 1.5 ppm, アルキルプロトン; δ 2.5 - 3.5 ppm, CH-C=O; δ 7.4 - 7.6 ppm, 芳香族プロトン)およびFT-IR (C=O: 1710 cm-1; ベンゾフェノン: 1593 cm-1; Si-CH3: 1258 cm-1, 843 cm-1, 755 cm-1; Si-O-Si: 1052 cm-1)によって特徴付けられた。ポリマー生成物は、イソプロパノール(IPA)、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、および酢酸エチルを含む共通溶媒に可溶であったが、水中には不溶であった。ポリマー生成物は、下記の式IVによって表された構造を有しており、式中、「非共有結合基」はシロキサンである。
【0148】
【化3】

(実施例2)
フォト−POMASによるシリコーンチューブのコーティング。
【0149】
実施例1で既に述べたように調製されたフォトPOMASポリマー7.5g量を、IPA 100mlに溶解した。10cmのシリコーンチューブ(DOVER(商標)シリコーンカテーテル、Covidien)の5つの小片を、イソプロパノールを簡単に手で擦り付けて清浄化することにより、ポリマーでコーティングするために調製した。シリコーンチューブの小片を、フォト−POMAS/IPA溶液を用いて、この溶液に30秒間浸漬し、次いでこのコーティング溶液から0.5cm/秒でチューブの小片を引き出すことにより、コーティングした。これらの小片を、室温で3分空気乾燥し、次いで紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300から400nm)を1分間、光源から15cmの距離で照射した。
【0150】
シリコーンチューブ上のフォト−POMASコーティングは、SEMおよび共焦点Raman顕微鏡によって特性決定した(図1)。均一なコーティングが確認された。図1では、共焦点Raman顕微鏡法により、シリコーンカテーテル上の均一なコーティングが明らかにされた(赤、シリコーン;緑、プライマーコーティング;青、シリコーンゴム中の添加剤)。
【0151】
(実施例3)
潤滑性コーティング。
【0152】
実施例2で調製された、フォト−POMASがコーティングされたチューブの小片を、このフォト−POMASがコーティングされた小片をLubricent(商標)溶液中に30秒間浸漬し、次いでフォト−POMASおよびLubricent(商標)でコーティングされたシリコーンチューブを0.5cm/秒で引き出すことによって、Lubricent(商標)460でコーティングした。コーティングされたシリコーン小片を、室温で3分間空気乾燥し、次いで15cmの位置で紫外線(300から400nm)で3分間照射した。フォト−POMASポリマープライマーコーティング層がない状態でLubricent(商標)でコーティングされたシリコーンチューブは、対照として使用した。
【0153】
(実施例4)
コンゴレッド染色。
【0154】
コンゴレッドを使用して、実施例3に記述されるように調製されたシリコーンチューブの表面の、Lubricent(商標)コーティングの存在を検出した。フォト−POMASポリマープライマーコーティング層を有しており、またフォト−POMASポリマープライマーコーティング層を有していない、Lubricent(商標)コーティングを、脱イオン水で大規模に濯ぎ、次いで50mg/mlのコンゴレッド溶液(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)中に浸漬した。コンゴレッド溶液中に浸してから1分後、サンプルを取り出し、脱イオン水で3回濯いだ。
【0155】
フォト−POMASポリマープライマー層を含有するシリコーンチューブサンプルのコーティングは、目に見える赤で染色され、一方、フォト−POMASコーティングプライマー層を持たないコーティングは、目に見える赤色染色を示さなかった。コーティング層におけるコンゴレッドの目に見える指標は、フォト−POMASポリマープライマーコーティング層を含むシリコーンチューブだけがLubricent(商標)のコーティングを保持することを示した。結果は、コーティングされたシリコーンカテーテル上の均一なコーティングも実証した。
【0156】
(実施例5)
摩擦試験。
【0157】
上記実施例3に記述されるように調製された、コーティングされたシリコーン小片(フォト−POMASおよびLubricent(商標)を含むコーティング)を、その潤滑性に関し、商用の摩擦試験機(Harland Medical、FTS 5000、Eden Prairie、MN)で試験した。この試験では、コーティングされたチューブの小片を脱イオン水中で2分間水和させ、次いでチューブを水中に浸漬しながら、摩擦試験機のシリコーンパッドをチューブに対して圧縮した。チューブの小片を、1.0cm/秒で6.0cmの距離にわたり、上向きに引き上げた。試験後、クランプを解放し、チューブの小片を2.0cm/秒で、下向きに6.0cm自由に移動させた。この摩擦試験サイクルを、15回繰り返した。
【0158】
チューブの小片に300gの力をかけて、シリコーンパッドを通して、フォト−POMASおよびLubricent(商標)でコーティングされたシリコーンチューブを引っ張るのに必要とされる平均摩擦力は、約10gであった。プライマーコーティングを持たないがLubricent(商標)コーティングを持つチューブを、シリコーンパッドを通して引っ張る平均摩擦力は、250gを超えた。フォト−POMASおよびLubricent(商標)でコーティングされたシリコーンチューブに必要とされる力10gからの有意な変化は、摩擦試験の15回のサイクル全体を通して見られなかった。摩擦試験は、室温で70日間貯蔵した後の、コーティングされたサンプルに対して再び行った(図2)。
【0159】
(実施例6)
超疎水性コーティング。
【0160】
シリコーンチューブの小片を、実施例2に記述されるようにフォト−POMASでコーティングした。40日間の経過後、シリコーンチューブの小片を、下記の通り超疎水性コーティング組成物でコーティングした。
【0161】
16mg/mlのフュームドシリカ粒子(CAB−O−SIL TS720という製品名で、Cabot Corporation、Boston MAから市販されている。)および13.3mg/mlのポリイソブチレン(PIB)(BASF、Florham Park、NJ、MW 2000K)をヘキサンに加えたものからなる超疎水性コーティング組成物を、調製した。シリコーンチューブの小片は、フォト−POMASでコーティングされた小片を超疎水性コーティング組成物中に30秒間浸漬し、次いで0.5cm/秒で引き出すことにより、超疎水性コーティング組成物でコーティングした。コーティングされたシリコーン小片を、室温で空気乾燥した。水湿潤性を、コーティングされた小片を水中に浸漬することによって調査した。
【0162】
結果を図3に示すが、この図は、超疎水性コーティングだけが、フォト−POMASコーティング層を含むシリコーン小片に接着し、それに対してプライマー処理されていない小片(フォト−POMASコーティングを含まないような小片)は、超疎水性調合物が塗布されていても超疎水性ではなかったことを示している。図3Aでは、プライマー処理されていないカテーテルに塗布した超疎水性コーティングは、水中で超疎水性作用を示さない。対照的に、図3Bでは、プライマー処理されたカテーテルに塗布した超疎水性コーティングは、湿潤性ではなく、捕捉された空気の層を保持している。
【0163】
(実施例7)
細胞毒性。
【0164】
シリコーンチューブのサンプル(直径0.9cm、長さ8cm)を、イソプロパノールを簡単に手で擦って清浄化し、30mg/mlのフォト−POMAS/IPA溶液(実施例1で記述されたように調製された。)を用いて、この溶液に小片を30秒間浸漬し、次いでこの小片を0.5cm/秒でコーティング溶液から引き出すことにより、コーティングした。小片を、室温で3分間空気乾燥し、次いで紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300から400nm)を2分間、光源から15cmの距離で照射した。
【0165】
次いで、細胞毒性研究では、長さ3.5cmのコーティングされた、またコーティングされていないサンプルを、10分間UV滅菌した。各サンプルを、Pen−Strep(Invitrogen、Carlsbad、CA)を含有する6.5mlのDMEM−10%FBSで、37℃で一晩インキュベートした。抽出培地1mlを、HeLaまたはBAEC細胞を事前に播種した24ウェルプレートの各ウェルに添加した。細胞成長および形態を顕微鏡下で観察することによってモニタし、3日目に生存/死滅アッセイを行った。結果は、図4に示されるように、フォト−POMASコーティングが非細胞毒性であることを示した。
【0166】
(実施例8)
光パターニング
基材上へのコーティング剤の選択的な塗布は、フォト−POMASコーティングを塗布させ、その後このコーティングを、下記の通りマスクと併せて活性化エネルギーに曝露することによって実証された。この実施例での基材は、シリコーンディスクを含んでいた(1.2cm、実施例16に記述されるように調製された。)。コーティングの塗布前に、シリコーンディスクをイソプロピルアルコール(IPA)に浸漬し、その後、15分間超音波処理することによって、清浄化した。次いでディスクを、ロッカー上に5分間配置した。
【0167】
次に、各シリコーンディスクの全表面に、実施例2に記述されたようにフォト−POMASコーティングをコーティングし、室温で3分間空気乾燥した。次いでシリコーンディスクに、紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300から400nm)を、マスクを通して1分間、図5に示されるように光源から15cmの距離で照射した。次に、コーティングされたサンプルを、IPA中で2分間超音波処理した。次いで超音波処理に続き、親水性コーティングを、実施例3に記述されるように各ディスクの全表面に塗布した。コーティングされたサンプルを、穏やかに擦ることにより水で大規模に濯ぎ、コンゴレッドで染色した。図5は、親水性コーティングのみが、UV曝露された領域に接着したことを示す(赤に染色されることによって示されるように)。
【0168】
(実施例9)
フォト−POMASによるステンレス鋼のコーティング。
【0169】
フォト−POMASをイソプロパノールに溶かした30mg/mL溶液を、前述のように調製した。ステンレス鋼基材を、イソプロパノールで清浄化することにより、ポリマーでコーティングするために調製した。次いで清浄化した基材に、フォト−POMAS/IPA溶液を用いて、この基材を溶液に30秒間浸漬し、次いでこの基材を0.5cm/秒でコーティング溶液から引き出すことにより、コーティングした。次いでサンプルを室温で空気乾燥し、次いで紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300〜400nm)を1分間、光源から15cmの距離で照射した。
【0170】
フォト−POMASでコーティングされたステンレス鋼の小片を、このフォト−POMASでコーティングされた小片をLubricent(商標)溶液中に30秒間浸漬し、次いでLubricent(商標)でコーティングされた基材を1cm/秒で引き出すことにより、Lubricent(商標)でコーティングした。コーティングされた基材を室温で10分間空気乾燥し、次いで紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300〜400nm)で5分間、光源から15cmの距離で照射した。サンプルを、脱イオン水で穏やかに擦ることにより濯いだ。
【0171】
コーティングされたサンプルを、実施例4で既に記述されたように、コーティングの存在を目標にコンゴレッド染色液中に浸漬した。コーティング層にコンゴレッド染色がスポット状に存在することは、Lubricent(商標)のコーティングを部分的に保持するフォト−POMASでプライマー処理されたステンレス鋼であることを示した。
【0172】
(実施例10)
ポリ(1−オクタデセン−alt−無水マレイン酸)ベンゾフェノン(POMA−BP)の合成。
【0173】
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(POMA)5.0173g量を、撹拌棒および還流冷却器を備えた250丸底一つ口フラスコに添加した。次いで4−アミノベンゾフェノン(BP)4.0720g量、4−(ジメチルアミノピリジン)0.0896g、およびクロロホルム(Fisher Chemicals、Pittsburgh、PA)100mlを、フラスコに添加し撹拌した。反応混合物を撹拌し、アルゴンにより油浴中で2時間、83℃で還流し、溶媒をロータリーエバポレータで除去した。
【0174】
残留物をクロロホルム50mL中に溶解し、1N塩酸50mlで3回、および脱イオン水50mlで3回洗浄した。有機層を、実施例1で記述したように、硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、濃縮乾固した。乾燥した固体は、明るい黄色を有していた。
【0175】
(実施例11)
POMA−BPによるシリコーンのコーティング。
【0176】
シリコーンチューブの10cmの小片を、イソプロパノールで清浄化し、乾燥した。シリコーンチューブの小片を、イソプロパノールに溶かした60mg/mLのPOMA−BP(実施例10で記述したように調製された。)を含むコーティング溶液中に、1cm/秒の速度で、30秒のドウェル時間で浸した。チューブをコーティング溶液から引き出し、乾燥し、UVM400紫外線ランプの下で1分間、15cmの距離で照明した。
【0177】
POMA−BPでコーティングされたシリコーンチューブの小片を、Lubricent(商標)のコーティング溶液中に1cm/秒の速度で30秒のドウェル時間で浸し、次いでUVM400紫外線ランプの下で5分間、15cmの距離で照明した。チューブを、脱イオン水で、穏やかに擦りながら濯いだ。
【0178】
チューブの小片の潤滑性および湿潤性を、シリコーンチューブを手で擦ることにより試験した。チューブは潤滑性であるように見えた。次に、シリコーンチューブの小片を、実施例4で既に述べたように、コーティングの存在を目的としてコンゴレッド染色液中に浸した。コーティング層におけるコンゴレッドの目に見える指標は、POMA−BPポリマープライマーコーティング層でコーティングされたシリコーンチューブが、Lubricent(商標)のコーティングを保持することを示した。
【0179】
(実施例12)
比較例。ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)シラン(POMA−S)の合成。
【0180】
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(POMA)(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)5.0174g量を、撹拌棒、還流冷却器、および乾燥チューブを備えた250丸底一つ口フラスコに添加した。次いで3−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン(S)(Gelest Inc.、Morrisville、PA)6ml、および4−(ジメチルアミノピリジン)0.0871g、およびクロロホルム100mlをフラスコに添加し、撹拌した。反応混合物を撹拌し、油浴中で2時間、83℃で還流し、溶媒をロータリーエバポレータで除去した。
【0181】
残留物をクロロホルム50mlに溶解し、1N塩酸水溶液50mlで3回、および脱イオン水50mlで3回洗浄した。有機層を、実施例1に記述されるように、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、濃縮乾固した。固体は白色を有していた。
【0182】
(実施例13)
比較例。POMA−Sによるシリコーンのコーティング。
【0183】
10cmのシリコーンチューブの小片を、イソプロパノールで清浄化し、乾燥した。シリコーンチューブの小片を、イソプロパノールに溶かした60mg/mLのPOMA−S(上記実施例12で記述したように調製された。)を含むコーティング溶液中に、1cm/秒の速度で、30秒のドウェル時間で浸した。チューブをコーティング溶液から引き出し、乾燥し、UVM400紫外線ランプの下で1分間、15cmの距離で照明した。
【0184】
POMA−Sでコーティングされたシリコーンチューブの小片を、Lubricent(商標)のコーティング溶液中に1cm/秒の速度で30秒のドウェル時間で浸し、次いでUVM400紫外線ランプの下で5分間、照明した。チューブを、脱イオン水で、穏やかに擦りながら濯いだ。
【0185】
チューブの小片の潤滑性および湿潤性を、シリコーンチューブを手で擦ることにより試験した。チューブは潤滑性ではなかった。次に、小片を、実施例4で既に述べたように、コーティングの存在を目的としてコンゴレッド染色液(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)中に浸した。コーティング層にコンゴレッド染色が存在しないことは、POMA−Sでプライマー処理されたシリコーンチューブがLubricent(商標)のコーティングを保持しないことを示した。
【0186】
(実施例14)
比較例。ポリ(メチルビニルエーテル−alt−無水マレイン酸)(PMVEMA−BP)の合成。
【0187】
ポリ(メチルビニルエーテル−alt−無水マレイン酸)(PMVEMA)(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)5.0185g量を、撹拌棒、還流冷却器、および乾燥チューブを備えた1L丸底一つ口フラスコに添加した。次いで4−(アミノベンゾフェノン)(BP)10.5127g量および4−(ジメチルアミノピリジン)0.0875g、クロロホルム250mlおよびアセトン(Fisher Chemicals、Pittsburgh、PA)650mlをフラスコに添加し、撹拌した。反応混合物を撹拌し、アルゴンを用いて油浴中で3時間、83℃で還流し、溶媒をロータリーエバポレータで除去した。
【0188】
残留物をアセトン50mLに溶解し、Teflon(登録商標)シャフト(Arrow Engineering、Hillside、NJ)およびプロペラ(Arrow Engineering、Hillside、NJ)を備えたエレクトリックオーバーヘッドスターラ(Arrow Engineering、Hillside、NJ)を使用して、1N塩酸水溶液600mL中に沈殿させた。固体を濾過し、Teflonシャフトおよびプロペラを備えたエレクトリックオーバーヘッドスターラを使用して10分間、脱イオン水600mlで3回洗浄した。生成物を一晩凍結乾燥し、この生成物は黄色を有していた。
【0189】
(実施例15)
比較例。PMVEMA−BPによるシリコーンのコーティング。
【0190】
10cmのシリコーンチューブの小片を、イソプロパノールで清浄化し、乾燥した。シリコーンチューブの小片を、イソプロパノールに溶かした60mg/mLのPMVEMA−BP(上記実施例14で記述したように調製された。)を含むコーティング溶液中に、1cm/秒の速度で、30秒のドウェル時間で浸した。チューブをコーティング溶液から引き出し、乾燥し、UVM400紫外線ランプの下で1分間、15cmの距離で照明した。
【0191】
PMVEMA−BPでコーティングされたシリコーンチューブの小片を、Lubricent(商標)のコーティング溶液中に1cm/秒の速度で30秒のドウェル時間で浸漬し、次いでUVM400紫外線ランプの下で5分間、照明した。チューブを、脱イオン水で、穏やかに擦りながら濯いだ。
【0192】
チューブの小片の潤滑性および湿潤性を、シリコーンチューブを手で擦ることにより試験した。チューブは潤滑性ではなかった。次に、小片を、実施例4で既に述べたように、コーティングの存在を目的としてコンゴレッド染色液中に浸した。コーティング層にコンゴレッド染色が存在することは、PMVEMA−BPでプライマー処理されたシリコーンチューブがLubricent(商標)のコーティングを保持するが、このコーティングは潤滑性ではないことを示した。
【0193】
(実施例16)
ポリ両性イオンブラシコーティングに基づいたコーティングの不活性化。
【0194】
この実施例では、12mmのガラスカバースリップをポリジメチルシロキサン(PDMS)でコーティングし、硬化し、次いでBP−POMASでコーティングし、その後、不活性化コーティング、ポリSBMA両性イオングラフトを塗布した。細胞結合および増殖に対する不活性化を、E18ラット脳皮質培養(混合培養)を使用して試験した。
【0195】
コーティングの塗布の前に、基材を下記の通り清浄化した。12mmのガラスカバースリップ(VWRマイクロカバーガラス、12mmサークル、No.2)をイソプロピルアルコール(IPA)中に浸漬し、15分間超音波処理した。次いでカバースリップをロッカー上に5分間配置した。
【0196】
シリコーンの表面を、下記の通り清浄化されたカバースリップに提供した。Sylgard 184エラストマー(Dow Corning)とPDMSとを、10:1の比が得られるように組み合わせた(エラストマー100μLを、PDMS 1gごとに使用した。)。エラストマーを混合し、10〜15分間真空にした。エラストマーを、その50μLの液滴をカバースリップの中心にピペット分取することにより、カバースリップ上に配置した。さらに10分間真空にした。
【0197】
コーティングされたカバースリップを、60℃のホットプレート上に1時間配置した。硬化後、コーティングされた基材を周囲条件で一晩インキュベートした。
【0198】
シリコーン処理したカバースリップを、下記の通りプライマー組成物でコーティングした。シリコーン処理したカバースリップを、IPAに溶かしたフォト−POMASの溶液中(20g/L、実施例1で既に述べたように調製された。)に30秒間浸漬し、次いで引き出し、約650rpmの速度で10秒間スピン乾燥して、均等なコーティングを生成した。フォト−POMAS溶液から取り出した後、基材をさらに5分間空気乾燥させた。その後、基材に紫外線(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)(300から400nm)を3分間、光源から12cmの距離で照明した。照明後、コーティングされた基材を放冷した。
【0199】
次いで光POMASでコーティングされたカバースリップを、米国特許第7,772,393号の実施例1に記載されるように調製された光化学架橋剤で処理した。処理は、各ディスクに、架橋剤をアセトンに溶かした10mg/mL溶液20マイクロリットルを堆積することによって実現した。処理したカバースリップを暗所で30分間空気乾燥した後、表を下にして、先端がカットオフされかつ底部に切欠きが切り抜かれた改質した15mLポリプロピレン試験管内に配置した。改質した試験管を使用して、両性イオンモノマーが充填された石英チャンバ内に、プライマー処理されたディスクを確実に保持し沈めた。
【0200】
次に、両性イオンポリマーを、下記の通り、コーティングされた基材の表面からグラフト化した。[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、分子内塩(Aldrich)のモノマー溶液を、脱イオン水中0.5Mの濃度で調製し(SBMAAmモノマー13.642g、および脱イオン水93.3mL)、アルゴンガスを20分間散布した。次いで0.5M SBMAAmモノマー溶液10mLを、基材が入っている試験管に添加した。石英チャンバをアルゴンガスで5分間パージした後、黒色ビニルテープ(3M)で密封した。プライマー処理したサンプルが入っている、密封された石英チャンバを、紫外線源(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)の上方10cmに配置し、30分間照明した。ポストグラフト重合サンプルを取り出し、大量の脱イオン水で洗浄した後、イソプロパノールで濯ぎ、空気乾燥した。グラフト重合の成功は、観察された低い水接触角によって確認された。
【0201】
コーティングされたサンプルのその後の評価は、そのままのシリコーンと対比して解離ラット脳培養(細胞結合および増殖)の優れた不活性化を実証した。
【0202】
(実施例17)
パーフルオロフェニルアジド−ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)シランの合成と、シリコーンチューブのコーティング(パーフルオロフェニルアジド−POMAS)。
【0203】
ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)(MW 30Kから50K)、(Aldrich Chemical Company、WI)5グラム、パーフルオロアニリン(Aldrich Chemical Company、WI)0.20g、および4−ジメチルアミノピリジン(Aldrich)0.08gを、クロロホルムに溶解し、アルゴン中で2時間還流し、反応混合物を室温まで冷却することになる。アミノプロピルメチルビス(トリメチル−シロキシ)シランの5mL分を添加し、反応混合物をさらに2時間還流することになる。得られた溶液を、2N HClで3回洗浄し、その後、脱イオン水で3回洗浄する。サンプルを、NaSO上で乾燥する。真空濾過後、濾液をロータバップ上で濃縮乾固する。次いでサンプルを、0.33gのNaN、水/アセトン混合物の混合物中で8時間還流することにより、以下に示す生成物が得られる。Keana,John F.Wら、「New Reagents for Photoaffinity Labeling: Synthesis and Photolysis of Functionalized Perfluorophenyl azides」、J.Org.Chem. 55巻: 3640〜3647頁(1990年)を参照されたい。
【0204】
コーティングは、基材をコーティング溶液中に浸漬し、この溶液から基材を取り出し、乾燥後に、コーティングされた基材を140℃に5から30分間加熱してコーティングを架橋させることにより、基材に塗布する。
【0205】
【化4】

Rは、16個の炭素の炭化水素鎖を表す。
【0206】
(実施例18)
パーフルオロフェニルアジド−POMASによるコーティング。
【0207】
パーフルオロフェニルアジドは、C−H/N−H挿入およびアルケン付加反応を受けるパーフルオロフェニルニトレンを発生させる潜在的反応性基である。パーフルオロフェニルアジドは、UV照明または加熱のいずれかによって活性化することができる。熱により開始された挿入反応は、典型的には≧130℃の温度で生じることが報告されている。シリコーンの表面にコーティングを設けるために、シリコーン基材を、適切な溶媒に溶かしたパーフルオロフェニルアジド−POMASポリマー中に、適切な時間浸漬する。次いで基材をコーティング溶液から、適切な速度(例えば、0.5cm/秒)で引き出し、次いで空気乾燥する。乾燥に続き、基材を、パーフルオロフェニルアジド潜在的反応性基を活性化させるのに適した温度に加熱する。パターニングは、UV光で(例えば、マスクを利用して)、コーティングされた基材上の潜在的反応性基の一部を最初に選択的に活性化し、その後、実質的に異なる条件下で残りの潜在的反応性基とUV光または熱とを反応させることによって、実現することができる。
【0208】
(実施例19)
ポリマー組成物の一部としての、不活性化PEG基の組込み。
【0209】
ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)(MW 30Kから50K)、(Aldrich Chemical Company、WI)5グラム、パーフルオロアニリン(Aldrich Chemical Company、WI)0.12g、および4−ジメチルアミノピリジン(Aldrich)0.08gをクロロホルムに溶解し、アルゴン中で2時間還流する。反応混合物を室温まで冷却し、次いでメトキシポリエチレングリコールアミン(MW 2000 Aldrich)14gを添加する。次いで反応混合物を、アルゴン中で2時間還流し、室温まで冷却する。その後、アミノプロピルメチルビス(トリメチル−シロキシ)シラン2.5mL分を添加し、次いで反応混合物さらに2時間還流する。
【0210】
得られた溶液を、2N HClで3回洗浄し、その後、脱イオン水で3回洗浄する。サンプルを、NaSO上で乾燥する。真空濾過後、濾液をロータバップ上で濃縮乾固する。サンプルを、0.33gのNaN、水/アセトン混合物の混合物中で8時間還流することにより、以下に示す生成物が得られる。
【0211】
コーティングは、基材をコーティング溶液中に浸漬し、この溶液から基材を取り出し、乾燥後に、コーティングされた基材を140℃に5から30分間加熱してコーティングを架橋させることにより、基材に塗布する。
【0212】
【化5】

Rは、16個の炭素の炭化水素鎖を表す。
【0213】
(実施例20)
非共有結合基、パーフルオロフェニルアジド−POMAS、および開始剤(ATRP開始剤)を含むポリマー。
【0214】
ポリ(オクタデセン−alt−無水マレイン酸)(MW 30Kから50K)、(Aldrich Chemical Company、WI)5グラム、パーフルオロアニリン(Aldrich Chemical Company、WI)0.12g、および4−ジメチルアミノピリジン(Aldrich)0.08gを、クロロホルムに溶解し、アルゴン中で2時間還流する。反応混合物を室温まで冷却し、N−Boc−1,4−ブタンジアミン(Aldrich Chemical Company、WI)1.32gを添加する。反応混合物をアルゴン中で2時間還流し、室温まで冷却し、トリフルオロ酢酸2.7mLを添加する。次いで反応混合物を2時間還流し、それによってアミンの脱保護を実現する。次いでサンプルを0.5N NaOHで洗浄し、その後、脱イオン水で洗浄し、ロータリーエバポレータ上で乾燥する。次いでサンプルをクロロホルムに溶解し、0℃まで冷却し、α−ブロモイソブチリルブロミド(Aldrich Chemical Company、WI)0.9mLおよびトリエチルアミン1mLを添加する。反応を2時間行う。その後、アミノプロピルメチルビス(トリメチル−シロキシ)生理食塩水2.5mL分を添加し、反応混合物を2時間加還流する。得られた溶液を2N HClで3回洗浄し、その後、脱イオン水で3回洗浄する。次いでサンプルをNaSO上で乾燥する。真空濾過後、濾液をロータバップ上で濃縮乾固する。サンプルを、0.33gのNaN、水/アセトン混合物の混合物中で8時間還流することにより、以下に示す生成物が得られる。
【0215】
コーティングは、基材をコーティング溶液中に浸漬し、この溶液から基材を取り出し、乾燥後に、コーティングされた基材を140℃に5から30分間加熱してコーティングを架橋させることにより、基材に塗布する。
【0216】
【化6】

(実施例21)
ポリ両性イオングラフト。
【0217】
実施例20のポリマーを、イソプロパノールまたはその他の適切な溶媒にこのポリマーを溶解することによって、コーティング溶液として調製する。シリコーンクーポンをコーティング溶液中に浸漬し、引き出すことにより、シリコーンクーポンの表面にポリマーの薄層が実現される。
【0218】
両性イオンモノマーの表面開始重合は、下記の通り行われる。ビピリジン(0.039g)を水(18mL)に溶解し、アルゴンを散布し、CuCl(0.002g)およびCuCl(0.015g)が入っているアルゴンパージがなされたチューブに移す。混合物を、微量の銅粉末も観察されないようになるまで撹拌する。次に、[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、分子内塩(Aldrich)を添加し、全ての成分を、コーティングされたシリコーンクーポンが入っているアルゴンパージ済みチューブに即座に移す。重合を、30℃で4時間実施する。次いで基材を水で3回、およびIPAで3回濯ぐ。コーティングの熱架橋は、140℃に5から30分間加熱することによって実現され、またはコーティングの光架橋は、UV光源(Harland Medical UVM400、Eden Prairie、MN)に曝露することによって実現される。Ohno,K.ら、「A Versatile Method of Initiator Fixation for Surface-Initiated Living Radical Polymerization on Polymeric Substrates」、Macromolecules 43巻: 5569〜5574頁(2010年)も参照されたい。
【0219】
(実施例22)
アセトニドで保護されたドーパミンの合成。
【0220】
ドーパミンを合成し、ポリマーに非共有結合基としてドーパミンを添加するのに備えて保護を行った。
【0221】
A.ドーパミンのN−保護。
【0222】
3−ヒドロキシチラミン塩酸塩(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)10.48gを、10mMのホウ砂緩衝液100mlに溶解し、次いでTHF 30mlを添加した。THFの添加後、ベンジルクロロホルメート(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)9mlをTHF 70mlに溶かした溶液を、1滴ずつ添加した。ホウ砂約30gを添加して、pHを7よりも高く維持した。ベンジルクロロホルメートの添加が終了した後、反応混合物を一晩還流した。冷却後、反応混合物を、クロロホルム200ml、1MのNaCl水溶液200ml、および脱イオン水100mlに添加した。有機相を分離し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、次いで溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した結果、粗製材料9.83gが得られた。生成物を、90:10のジクロロメタン:アセトンを用いたカラム精製によってさらに精製することにより、N−カルボキシベンジルドーパミン9.16gが得られた。
【0223】
生成物は、1H NMR(DMSO-d6): 8.70 ppm (s, br, 2H), 7.32 ppm (m, 5H), 6.60ppm (m, 2H), 6.42 ppm (m, 1H), 5.01 ppm (s, 2H), 3.12 ppm (m, 2H), 2.50 ppm (m, 2H)によって特徴付けられた。反応スキームは下記の通りであった:
【0224】
【化7】

B.カテコール部分のアセトニド保護。
【0225】
上述のように合成されたN−カルボキシベンゾイルドーパミン4.68gを、THF 250mlに溶解した。p−トルエンスルホン酸(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.2410gを添加し、その後、2,2−ジメトキシプロパン(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)41mlを添加した。反応容器は、ソックスレー抽出器と、ソックスレー抽出フィルタカップ内の乾燥剤としての4Aモレキュラーシーブとを備えていた。反応混合物を、ソックスレー抽出器で一晩還流した。冷却後、反応混合物をロータリーエバポレーションにより濃縮し、次いでクロロホルム100mlで希釈し、100mlアリコートの脱イオン水で2回洗浄した。次いで有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーションにより濃縮することによって、粗製生成物8.31gが得られた。これを、80:20のヘキサン:酢酸エチルを溶離液として使用したカラムクロマトグラフィーによってさらに精製した。収量:2.12g。
【0226】
生成物は、1H NMR(DMSO-d6): 7.32ppm (m, 5H), 6.66 (d, 2H), 6.58 ppm (d, 1H), 5.01 ppm (s, 2H), 3.18 ppm (m, 2H), 2.58 ppm(m, 2H), 1.57 ppm (s, 6H)によって特徴付けられた。反応スキームは下記の通りであった:
【0227】
【化8】

C.N−カルボキシベンゾイル基の脱保護。
【0228】
250mlの丸底フラスコに、上記にて合成されたアセトニドで保護されたN−カルボキシベンゾイルドーパミン3.1061g、および無水エタノール20mlを充填した。フラスコをアルゴンガスで完全にパージし、次いで10重量%の活性炭担持Pd(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.1997gを添加して、懸濁液を形成した。最後に、1,4−シクロヘキサジエン(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)4.5mlを、シリンジを介して添加した。反応を、室温のアルゴン中で6時間継続させ、その時点で、80:20のヘキサン:酢酸エチルを使用したTLCによりモニタすることによって、出発材料が生成物に完全に変換されたことが示された。炭素を濾過によって除去し、残りの溶媒をロータリーエバポレーションにより除去することによって、アセトニドで保護されたドーパミン1.7515gが得られた。
【0229】
生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 6.65 ppm (m, 3H), 3.30 ppm (m, 2H), 2.65 ppm (m, 2H), 1.58 ppm (s, 6H)によって特徴付けられた。反応スキームは、下記の通りであった:
【0230】
【化9】

(実施例23)
アセトニドで保護されたドーパミンの、6−マレイミド−ヘキサノイルクロリドへの添加。
【0231】
6−マレイミドヘキサン酸を、米国特許第6,456,178号の実施例4に記載される手順により合成した。250mlの丸底フラスコに、6−マレイミドヘキサン酸1.0297gおよび無水クロロホルム25mlを、アルゴン雰囲気中で充填した。このフラスコに、シュウ酸塩化物(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)1mlを、シリンジを介して添加した。反応混合物を、アルゴン中で、室温で一晩撹拌した。24時間後、溶媒を真空除去し、得られた6−マレイミドヘキサノイルクロリドをヘキサンで2回洗浄し、ヘキサンを真空除去した。次いで酸塩化物を、アルゴン雰囲気中で無水クロロホルム15mlに溶解し、アセトニドで保護されたドーパミン(上記実施例22より合成された。)0.9678gを無水クロロホルム10mlおよびトリエチルアミン0.75mlに溶かした溶液に、1滴ずつ添加した。反応混合物を、アルゴン雰囲気中で一晩、0℃で撹拌した。次いで得られた白色沈殿物を濾別し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去することによって、2.7249gの2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル,6−マレイミドヘキサノアミドが得られた。
【0232】
生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 7.82 ppm (m, 1H), 6.98 ppm (s, 2H), 6.64 ppm (m, 2H), 6.57 ppm (m, 1H),3.35 ppm (m, 2H), 3.15 ppm (m, 2H), 2.55 ppm (m, 2H), 1. 99 ppm (m, 2H), 1.58 ppm (s, 6H), 1.43 ppm (m, 6H)によって特徴付けられた。反応スキームは下記の通りであった:
【0233】
【化10】

(実施例24)
Mal−Hex−ドーパミン−アセトニドと無水マレイン酸との共重合。
【0234】
Mal−Hex−ドーパミン−アセトニドと無水マレイン酸との共重合は、下記の通り実現された。上記実施例23で合成された0.2481gの2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル,6−マレイミドヘキサノアミドを、20mlの琥珀色の瓶に入っているテトラヒドロフラン3mlに溶解した。ここに、再結晶した無水マレイン酸(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.3529gおよびAIBN 0.0166gを添加した。反応混合物に5分間アルゴンを散布し、次いで密封し、65℃に一晩加熱した。反応混合物を室温まで冷却した。90:10のクロロホルム:アセトンを用いたTLCは、出発時の無水マレイン酸および2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル,6−マレイミドヘキサノアミドが残っていないことを明らかにした。残りのTHFを空気流によって除去し、次いで粗製コポリマーを95:5のトリクロロ酢酸:水に溶解して、カテコールの脱保護を行った。コポリマーを、TCA:水の混合物中で一晩室温で撹拌し、次いで室温で、ジエチルエーテル中に沈殿させた。褐色粘性材料が得られ、収量:0.4216gであった。
【0235】
ポリマー生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 7.82 ppm (m), 6.67 ppm (s), 6.50 ppm (m), 3.70 (s, 広幅), 2.05 (s), 1.40 ppm (m, 広幅)によって特徴付けられた。
【0236】
(実施例25)
HDPEおよびシリコーンに対するドーパミン−官能基化無水マレイン酸コポリマーによるコーティング。
【0237】
3インチの長さのセグメントであるHDPE(Minnesota Medtec、棒材1/16インチOD)およびシリコーンチューブ(Dow Silastic 80、医薬級0.375インチOD、0.250インチID)を、イソプロパノールで拭き取ることにより清浄化した。次いで小片に、上記実施例24で合成したドーパミン−官能基化無水マレイン酸コポリマーをイソプロパノールに10mg/mlで溶かした溶液をコーティングした。小片を溶液に30秒間浸漬し、次いで0.5cm/秒の速度で引き出し、1時間空気乾燥した。
【0238】
コーティングを、0.3%クリスタルバイオレットグラム染色剤で10秒間染色し、その後、水流中で濯いだ。小片の全ては、紫色で明らかなようにコーティングが塗布されている、コーティングのラインを示した。コーティングされていないシリコーンおよびHDPEは、いかなる紫の染色も発色しなかった。結果は、HDPEおよびシリコーン基材上のコーティングの親和性を実証した。
【0239】
(実施例26)
ベンゾフェノン官能基化マレイミドヘキサンアミドの合成。
【0240】
250mlの丸底フラスコに、4−アミノベンゾフェノン(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)6.0291gおよび無水クロロホルム25mlを、アルゴン雰囲気中で充填した。ここに、トリエチルアミン4mlを添加した。反応混合物を氷浴で0℃に冷却し、上記実施例23で調製した6−マレイミドヘキサノイルクロリド5.4370gを無水クロロホルム25mlに溶かした溶液を、1滴ずつ添加した。反応混合物を、0℃のアルゴン中で一晩撹拌した。白色の沈殿物が形成され、重力濾過により除去し、次いで溶媒をロータリーエバポレーションにより除去した。
【0241】
生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 7.53 ppm (m, 9H),6.98 ppm (s, 2H), 2.33 ppm (m, 2H), 1.55 ppm (m, 4H), 1.27 (m, 2H)によって特徴付けられた。反応スキームは下記の通りであった:
【0242】
【化11】

(実施例27)
潜在的反応性基を含有するモノマーと、結合基およびビニルピロリドンを含有するモノマーとの共重合。
【0243】
上記実施例23で合成した2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル,6−マレイミドヘキサノアミド0.5110gを、20mlの琥珀色の瓶に入っているテトラヒドロフラン3mlに溶解した。ここに、上記実施例26で合成した4−ベンゾフェノン6−マレイミドヘキサンアミド0.1100gおよびビニルピロリドン(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.752mlを、アルゴン雰囲気中で添加した。最後に、AIBN 0.0435gおよびN,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.010mlを添加した。反応混合物に、アルゴンを5分間散布し、次いで密封し、65℃に一晩加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、次いで酢酸エチル中に沈殿させ、より多くの酢酸エチルで2回洗浄することにより、黄色のポリマーが得られ、収量:0.6987gであった。
【0244】
ポリマー生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 7.5-7.8 ppm (m, 広幅), 6.65-6.75 ppm (s, 広幅), 2.8-3.8 ppm (m, 広幅), 2.4-0.8 ppm (m, 広幅), 1.58 ppm (s, 広幅)によって特徴付けられた。
【0245】
(実施例28)
ペンダントドーパミン、ペンダントベンゾフェノンVPコポリマーにおけるアセトニドの脱保護。
【0246】
実施例27で合成した、アセトニドで保護されたドーパミン、ベンゾフェノンビニルピロリドンコポリマー0.6987gを、95:5のトリクロロ酢酸:脱イオン水 20mlに溶解し、室温で一晩撹拌した。24時間後、反応混合物を冷脱イオン水中に沈殿させ、次いで冷脱イオン水で洗浄し、濾紙上で乾燥させ、収量:ポリマー0.2316gであった。
【0247】
ポリマー生成物は、1H NMR (DMSO-d6): 8.7 ppm (d, 広幅) 7.4-7.8 ppm (m, 広幅), 6.5-6.7 ppm (m, 広幅), 6.3-6.45 ppm (m, 広幅), 2.8-3.8 ppm (m, 広幅), 2.4-0.8 ppm (m, 広幅)によって特徴付けられた。
【0248】
(実施例29)
非共有結合基および潜在的反応性基を含有する無水マレイン酸コポリマーの合成。
【0249】
ポリマレイン酸誘導体、ペンダント非共有結合基、およびペンダント潜在的反応性基を含むポリマーからなるコーティング剤は、下記の通り合成される。実施例24で合成した2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル、6−マレイミドヘキサノアミド0.25gを、20mlの琥珀色の瓶に入れたテトラヒドロフラン3mlに溶解する。同様に、実施例27で合成したベンゾフェノン官能基化マレイミドヘキサンアミド0.15gを、テトラヒドロフラン2mlに溶解し、次いで2,2−ジメチル(1,3)ベンゾジオキソール−エチル,6−マレイミドヘキサノアミド溶液に添加する。ここに、再結晶した無水マレイン酸(Aldrich Chemicals、Milwaukee、WI)0.35gおよびAIBN 0.02gを添加する。反応混合物に、アルゴンを5分間散布し、次いで密封し、65℃に一晩加熱する。反応混合物を、室温まで冷却する。残りのTHFを空気流により除去し、次いで粗製コポリマーを、95:5のトリクロロ酢酸:水に溶解して、カテコールの脱保護を行う。コポリマーを、TCA:水の混合物中で一晩、室温で撹拌し、次いで室温でジエチルエーテル中に沈殿させることにより、ペンダントベンゾフェノンおよびドーパミン基を有するポリマレイン酸誘導体を含むコポリマーが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む基材と、前記基材の表面に配置されたコーティングとを含む物品であって、前記コーティングが:(a)ポリマーと、(b)前記ポリマーからペンダント状態にある1個または複数の潜在的反応性基と、(c)前記基材と相互に作用するように選択された1個または複数の非共有結合基とを含む物品。
【請求項2】
前記基材がシリコーンを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記非共有結合基がシロキサン基である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記非共有結合基が、C〜C20アルキル基、ポリアミド、フェノール樹脂、カテコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリエーテル、またはこれらのいずれかの組合せから選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記ポリマーが、ポリオレフィン、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリブチレン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ(メチル)メタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ塩化(ビニル)などの塩素含有ポリマー、ポリオキシメチレン、ポリイミド、フェノール樹脂、アミノ−エポキシ樹脂、またはこれらのいずれかのコポリマーもしくは組合せから選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリマレイン酸誘導体を含むポリマーである、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記非共有結合基が、ポリマー主鎖の一部である、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記ポリマーがアルキルを含む、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記非共有結合基が、前記ポリマー主鎖からペンダント状態にある、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記潜在的反応性基が光反応性基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記光反応性基が、アントラキノン、アリールアジド、アリールケトン、アリールケトン誘導体、またはこれらのいずれか1種もしくは複数の混合物から選択される、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記潜在的反応性基が熱反応性基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記潜在的反応性基がハロフェニルアジドである、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
活性剤をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
前記活性剤が開始剤基である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記開始剤基が、有機ハロゲン化物またはベンゾフェノンを含む、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記活性剤が不活性化基である、請求項14に記載の物品。
【請求項18】
前記不活性化基が、カルボキシレート、スルフェート、ヒドロキシ、アミン、メチル、ポリエチレングリコール、シロキシル、もしくはパーフルオロ基、またはこれらの任意の組合せから選択される、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
オーバーコート層をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項20】
前記オーバーコートが、ビニルピロリドン、ビニルアルキレン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、アクリルアミド、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロン酸、ポリリジン、糖、キトサン、デキストラン、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、ケラチン、ポリペプチド、ヌクレオチド、タンパク質、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、メタクリルアミド、アルキレンオキシド、第4級アンモニウムエチレンイミン、もしくはこれらのコポリマーまたは組合せを含む、請求項19に記載の物品。
【請求項21】
(a)ポリマレイン酸誘導体を含むポリマーと、(b)1個または複数の潜在的反応性基と、(c)1個または複数の非共有結合基とを含むコーティング剤であって、前記非共有結合基が、前記コーティング剤が塗布される基材と相互に作用するように選択される、コーティング剤。
【請求項22】
前記ポリマレイン酸誘導体が、誘導体化ポリ(アルケン−co−無水マレイン酸)である、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項23】
前記非共有結合基が、前記ポリマーからペンダント状態にある、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項24】
前記非共有結合基が、前記ポリマー主鎖の一部である、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項25】
前記非共有結合基が、シロキサン、C〜C20アルキル基、ポリアミド、フェノール樹脂、カテコール、1種または複数のポリエチレングリコール、アクリレート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリエーテル、またはこれらの任意の組合せから選択される、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項26】
前記潜在的反応性基が、前記ポリマーからペンダント状態にある、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項27】
前記潜在的反応性基が光反応性基を含む、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項28】
前記光反応性基が、アントラキノン、アリールアジド、アリールケトン、アリールケトン誘導体、またはこれらのいずれか1種もしくは複数の混合物から選択される、請求項27に記載のコーティング剤。
【請求項29】
前記潜在的反応性基が熱反応性基を含む、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項30】
前記潜在的反応性基がハロフェニルアジドである、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項31】
活性剤をさらに含む、請求項21に記載のコーティング剤。
【請求項32】
前記活性剤が開始剤基である、請求項31に記載のコーティング剤。
【請求項33】
前記開始剤基が、有機ハロゲン化物またはベンゾフェノンを含む、請求項32に記載のコーティング剤。
【請求項34】
前記活性剤が不活性化基である、請求項31に記載のコーティング剤。
【請求項35】
前記不活性化基が、カルボキシレート、スルフェート、ヒドロキシ、アミン、メチル、ポリエチレングリコール、シロキシル、またはパーフルオロ基、またはこれらの任意の組合せから選択される、請求項34に記載のコーティング剤。
【請求項36】
基材と、前記基材の表面に配置されたコーティングとを含む物品であって、前記コーティングが、請求項21に記載のコーティング剤を含む物品。
【請求項37】
前記基材が、ケイ素、ポリオレフィン、ビニルポリマー、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ(メチル)メタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、塩素含有ポリマー、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、フェノール樹脂、アミノ−エポキシ樹脂、ポリエステル、セルロース系プラスチック、ゴム状プラスチック、またはこれらの任意の組合せから選択された材料から製作される、請求項36に記載の物品。
【請求項38】
基材の表面を改質する方法であって:
(a)前記基材の表面と、請求項32に記載の前記コーティング剤とを接触させるステップ、
(b)前記コーティング試薬を処理して、前記コーティング試薬の潜在的反応性基を活性化することにより、コーティングされた表面を形成するステップ、
(c)前記表面と、両性イオンモノマーおよび触媒とを接触させるステップ、
(d)前記両性イオンモノマーを重合して、ブラシポリマーコーティングを形成するステップ
を含む方法。
【請求項39】
前記両性イオンモノマーが、カルボキシベタイン、スルホベタイン、またはホスホベタインを含む、請求項38に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−514841(P2013−514841A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544957(P2012−544957)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/061602
【国際公開番号】WO2011/084811
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(509351650)イノベイティブ サーフェイス テクノロジーズ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】