説明

コーティング剤とそれを用いた磁気記録媒体

【課題】 炭素系粉末の分散性、充填性、耐摩耗性、耐熱性等が良好な結合剤を使用することでバックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、低摩擦性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 特殊構造のジオール、ダイマー酸、水添ダイマー酸、ダイマージオールおよび水添ダイマージオールからなる群のうち少なくとも一種以上を共重合成分として含有するポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)、及び必要に応じてイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とするポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた特性を有する結合剤を用いることにより得られるコーティング剤に関し、また、これをバックコート層として用いた磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用的磁気記録材料である磁気テープ、フレキシブルディスクは、長軸1μm以下の針状磁性粒子を分散剤、潤滑剤、帯電防止剤等の添加剤とともに結合剤溶液に分散させて磁性塗料をつくり、これを支持体であるポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、また磁性層と反対側の支持体には炭素系粉末を主体とする充填材を分散させたバックコート層を塗布して作られている。
【0003】
磁気記録媒体では、S/N比(シグナル/ノイズ比)の向上、高記録密度化のために、磁性層の表面を平滑にすることや、より微粒子化した磁性粒子を磁性層中に高充填し、高配向することが必要とされ、これらのために磁性粒子の分散が良好な結合剤が求められている。磁性層の表面が平滑になればなる程、摩擦係数が高くなり、磁気テープの走行性、走行耐久性は悪くなる。そのため耐久性、耐摩耗性、耐熱性、非磁性支持体との接着性の良好な結合剤が求められている。
【0004】
一方、磁性層の表面が平滑になるにつれ、バックコート層の凹凸の転写による磁性層の平滑性低下が無視できなくなる。そこでバックコート用の結合剤としては炭素系粉末の分散性を向上させ、平滑なバックコート層を得る事が必須である。しかしながら、バックコート層が平滑になるとテープ化した状態で高温高湿下保存した場合、磁性層とバックコート層が粘着する恐れがある。この粘着現象が発生すると磁性層表面に付着物が残存し、記録再生が妨げられる等の問題が発生する。
【0005】
従って、バックコート層の結合剤に要求される特性としては、炭素系粉末の分散性、充填性、バックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、摩擦が低いこと等があげられ、結合剤は非常に重要な役割を果たしている。このような特性を付与するために結合剤としてはポリウレタン樹脂とニトロセルロースあるいは塩化ビニル系共重合体等の各種結合剤が主に用いられている。
【0006】
例えば特許文献1にはバックコート用の結合剤に第3級アミンを含有する塩化ビニル樹脂を用いることが開示されているが、近年、微粒子化した炭素系粉末の分散性は不足しており、またテープ化した状態で高温高湿下保存した場合、磁性層とバックコート層が粘着する問題があった。
【0007】
また、炭素系粉末の分散性を向上させるために従来よりも磁性粒子の分散性が良好なポリウレタン樹脂バインダー(例えば特許文献2参照)などを使用することも検討したが、磁性粒子分散性が良好なバインダーを用いても炭素系粉末分散性は不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特開平6−195680号公報
【特許文献2】特開平10−320749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は炭素系粉末の分散性、充填性、耐摩耗性、耐熱性等が良好な結合剤を使用することでバックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、低摩擦性に優れた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等はポリウレタン樹脂を鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)、ダイマー酸、水添ダイマー酸、ダイマージオールおよび水添ダイマージオールからなる群のうち少なくとも一種以上を共重合成分として含有するポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)、及び必要に応じてイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とするポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤に関する。
【化1】

(但し、式中
1、R2;どちらか一方あるいは合計の炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
l、n;0〜3の整数
m;1〜3の整数
を表す)
【化2】

(但し、式中
3;炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
4;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
o、q;0〜3の整数
p;1〜3の整数
を表す)
【化3】

(但し、式中
5;炭素数が6以上となる脂肪族基
を表す)
【0011】
また、上記コーティング剤をバックコート層に塗布した磁気記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に用いるポリウレタン樹脂は長鎖の側鎖を有することにより炭素系粉末の分散性に優れ、さらに高いガラス転移温度を有するためにその塗膜は強靱性、耐熱性に優れる。その結果、耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性に優れるコート層が得られるため、磁気記録媒体のバックコート層として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いるポリウレタン樹脂には、そのポリエステルジオール(A)成分に一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)、ダイマー酸、水添ダイマー酸、ダイマージオールおよび水添ダイマージオールからなる群のうち少なくとも一種以上を共重合成分として含有することが必要である。以下、これらを側鎖含有共重合成分とする。
【0014】
【化4】

(但し、式中
1、R2;どちらか一方あるいは合計の炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
l、n;0〜3の整数
m;1〜3の整数
を表す)
【0015】
【化5】

(但し、式中
3;炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
4;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
o、q;0〜3の整数
p;1〜3の整数
を表す)
【0016】
【化6】

(但し、式中
5;炭素数が6以上となる脂肪族基
を表す)
【0017】
側鎖含有共重合成分として、酸成分として共重合する場合、ドデセニル無水コハク酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、オクテニル無水コハク酸等が挙げられる。共重合量としては酸成分100モル%のうち、3モル%〜40モル%が好ましく、特に5モル%〜20モル%が好ましい。3モル%未満の場合は炭素系粉末の分散性が不足することがある。また40モル%を越えるとガラス転移温度が低くなり、耐ブロッキング性が不足する場合がある。
【0018】
側鎖含有共重合成分として、ポリオール成分として共重合する場合、ダイマージオール、水添ダイマージオール、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノリノレート、グリセリンモノラウレート等が挙げられる。共重合量としてはポリオール成分100モル%のうち、3モル%〜40モル%が好ましく、特に5モル%〜20モル%が好ましい。3モル%未満の場合は炭素系粉末の分散性が不足するおそれがある。また40モル%を越えるとガラス転移温度が低くなり、耐ブロッキング性が不足することがある。
【0019】
ポリエステルポリオール(A)を構成するその他の酸成分として芳香族二塩基酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、脂環族二塩基酸成分としては1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。好ましくは芳香族二塩基酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、脂環族二塩基酸成分としては1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また全酸成分中に5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸を共重合しても良い。
【0020】
ポリエステルポリオール(A)を構成するその他のグリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル、2−メチルオクタンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルなどが挙げられる。なかでもエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールAが好ましい。またポリエステルジオールの原料の一部に無水トリメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能以上の化合物をポリエステル樹脂の有機溶剤溶解性、塗布作業性等の特性を損なわない範囲で使用してもよい。
【0021】
本発明で用いるポリウレタン樹脂の構成成分である芳香族ポリイソシアナート(B)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアナート(B)はポリエステルポリオール(A)100重量部に対し、5〜100重量部が好ましい。より好ましくは10〜60重量部である。5重量部未満の場合はバックコート層の耐久性が不足することがある。また100重量部を越えると炭素系粉末の分散性が不足する場合がある。
【0022】
本発明で用いるポリウレタン樹脂にはポリエステルポリオール(A)以外に、必要に応じてイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を鎖延長剤として併用してもよい。具体的に化合物(C)としては、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール、3−フェニル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−3−ナトリウムスルホ−2,5−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中で、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールが分散性の点で特に好ましい。また、化合物(C)として、極性基を有する化合物を用いても良い。特にスルホン酸金属塩基を有する化合物が好ましく、スルホン酸金属塩基含有芳香族二塩基酸と側鎖含有グリコールから得られる数平均分子量1000以下のポリエステルジオールが挙げられる。具体的には5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルと2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートから成るエステル縮合物、あるいは5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルとネオペンチルグリコールから成るエステル縮合物がある。また3級アミノ基を有する化合物としてN−メチルジエタノールアミンを極性基として用いても良い。
【0023】
これら側鎖を有する化合物(C)はポリウレタン樹脂の溶解性向上に寄与し、本発明において、ポリエステルポリオール(A)、芳香族系ポリイソシアナート(B)との組み合わせにおいて高い比率で共重合する事が可能である。化合物(C)成分の共重合比率の増加はウレタン結合基濃度の増加につながり、ウレタン樹脂をより強靱なものにする。すなわち、これらの量比を調節することにより、汎用溶剤に対する高い溶解性と強靱な力学物性を合わせ持ったポリウレタン樹脂が得られる。これらウレタン樹脂としての特性は、磁気テープバックコート用バインダー樹脂としての高い炭素系粉末分散能力とテープ耐久性の向上に寄与するものである。具体的には化合物(C)はポリエステルポリオール(A)100重量部に対し、0〜50重量部が好ましい。より好ましくは0〜30重量部である。50重量部を越えるとバックコート層の耐久性が不足する場合がある。
【0024】
また、化合物(C)としてイソシアネートと反応する官能基を1分子中3個以上有する分岐状化合物を用いると汎用硬化剤との反応性の向上に有効である。具体的な化合物としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスルトール等のポリオールあるいはこれらポリオールのうち一種へのε−カプロラクトン付加物等が挙げられる。
【0025】
これら化合物(C)の共重合量は、本発明のポリウレタン樹脂のウレタン結合基濃度が4000eq/106gを越えない範囲で用いられることが望ましい。ウレタン結合基濃度が4000eq/106gを越えた場合では、ポリウレタン樹脂としての力学物性をさらに向上する事は可能であるものの、汎用溶剤に対する溶解性が低下し、磁気テープバックコート用バインダー樹脂としての高い炭素系粉末分散性能が得られないことがある。ウレタン結合基濃度は分岐状化合物(C)の共重合量、及びポリエステルポリオール(A)の分子量により、調節可能である。ここでウレタン結合基濃度とは、樹脂重量1t当たりウレタン基が何当量存在するかを表す数値である。従って単位はeq/106gで表す。
【0026】
本発明に用いるポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、耐久性、耐ブロッキング性の観点から85℃以上であることが好ましい。特に90℃以上が好ましい。上限は特に限定されないが、塗布性を考慮すると160℃未満が好ましい。
【0027】
本発明においては、ポリウレタン樹脂の可撓性の調節、耐寒性・耐熱性向上等の目的のために他の樹脂を添加するか、または架橋剤を混合することが望ましい。他の樹脂としては、塩化ビニル、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等が挙げられる。一方、架橋剤としてはポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、酸無水物等があり、特にこれらの中でポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としてはイソシアネートに多価アルコールやイソシアヌレート環を付加したものが挙げられる。ここでのイソシアネート化合物はTDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、XDI(キシレンジイソシアネート)、水添XDIなどが挙げられる。
【0028】
本発明により形成される磁気記録媒体の形状はテープ、ディスク、シート、カードなどが挙げられる。
【0029】
本発明により形成される磁気記録媒体の層構成は、非磁性支持体下にバックコート層、支持体上に磁性層または磁性層と下層塗布層を設けた物であることが好ましい。支持体上部の層構造としては磁性層単層、磁性層重層、磁性層と非磁性層との重層が挙げられる。
【0030】
本発明のコーティング剤に使用される充填剤としては、炭素系粉末を用いる。ここで述べる充填剤とは塗料中の全固形成分から結合剤成分、硬化剤成分を除いたものを指す。また、炭素系粉末とは、カーボンブラック、グラファイトであるが、特にカーボンブラックが好ましい。ここで炭素系粉末の平均粒子系は70nm以下であることが好ましい。平均粒子径が70nmを超えるとバックコート剤としての安定性が低下するおそれがある。平均粒子系の下限は分散性の観点から10nm以上である。また、炭素系粉末を充填剤の全量に対して70重量%以上含有することが好ましい。炭素系粉末はポリウレタン樹脂100重量部に対して、20〜200重量部含まれることが好ましい。
【0031】
本発明のコーティング剤にはその他必要に応じてジブチルフタレート、トリフェニルホスフェートのような可塑剤、ジオクチルナトリウムスルホサクシネート、t−ブチルフェノールポリエチレンエーテル、エチルナフタレンスルホン酸ソーダ、ジラ
ウリルサクシネート、ステアリン酸亜鉛、大豆油レシチン、シリコンオイルのような潤滑剤や種々の帯電防止剤を添加することもできる。
【0032】
本発明のコーティング剤にはその他必要に応じて炭酸カルシウム、アルミナ等の無機顔料を添加することも出来る。これら添加により耐ブロッキング性の更なる向上が期待できる。添加量はポリウレタン樹脂100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0033】
一方、磁性層に使用される磁性粉末としては、従来より公知のものが使用可能である。例えば、γ−Fe23、γ−Fe23とFe34の混晶、コバルトを被着したγ−Fe23 またはFe24、バリウムフェライト等の強磁性酸化物、Fe−Co,Fe−Co−Ni等の強磁性合金粉末等を挙げることができる。なお、非磁性層に使用される粒子としては酸化鉄および酸化鉄とカーボンブラックを挙げることができる。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明を具体的に例示する。実施例中単に部とあるのは重量部を示す。
【0035】
表および実施例中の略号は以下の通りである。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
OPA:オルソフタル酸
NDC:ナフタレンジカルボン酸
AA:アジピン酸
HHPA:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸
DA:ダイマー酸
OSA:オクテニル無水コハク酸
DSN:5−ナトリウムスルホイソフタル酸
PG:1,2−プロピレングリコール
NPG:2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール
2MG:2−メチル−1,3−プロパンジオール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
TCD:トリシクロデカンジメタノール
HPN:2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−
3−ヒドロキシプロパネート
GS:グリセリンモノステアレート
AOG:ダイセル化学工業株式会社製 AOG−X68
【化7】

(n=16〜18)
DAD:水添ダイマージオール
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート
【0036】
以下樹脂特性の評価方法について記載する。
(ポリエステルポリオール(A)の水酸基価)
ポリエステルポリオール:50gをMEK:120gの混合溶剤に溶解し、MDI:
70gを加え、70℃で2時間反応させた。ついで、反応液中の残存イソシアネート基濃度を滴定により、定量し、水酸基価を求めた。
【0037】
(ポリエステルポリオール(A)の酸価)
ポリエステルポリオール0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当たりの当量(eq/106g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
【0038】
(数平均分子量)
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶媒として測定した。なお、300以下の低分子のピーク
は分析時には削除し、300以上の高分子のピークをデータ処理することで数平均分子量を求めた。
【0039】
(組成分析)
重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0040】
(ガラス転移温度)
厚み30μmでポリウレタン樹脂フィルムを作成し、4mm×15mmに切断後、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA−220を用いて、周波数10Hz、測定温度範囲30〜180℃、昇温速度4℃/minにて動的粘弾性を測定した。保存弾性率(E’)の屈折点において、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と屈折点以上における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0041】
(極性基濃度)
スルホン酸金属塩基濃度を金属の原子吸光分析により求め、計算式によりスルホン酸金属塩基濃度を求めた。すなわち、試料0.1gを炭化し、酸に溶解した後、原子吸光分析によりNa濃度を求め、下記式より極性基濃度を算出した。
Na濃度(ppm)/23(Na原子量)=極性基濃度(eq/106g)
【0042】
ポリエステルポリオール(A)の合成例1
温度計、攪拌機、ヴィグリュー管、リービッヒ冷却器を具備した反応容器にテレフタル酸146部、5−スルホイソフタル酸ジメチルエステル6部、ダイマー酸56部、プロピレングリコール152部、およびテトラブトキシチタン0.2部を仕込み200〜230℃で4時間エステル交換反応を行なった。次いで10分かけて240℃まで昇温すると同時に徐々に減圧にし30分間反応させ重合を終了した。得られたポリエステルジオール(a)の水酸基価は950eq/106g、酸価は5eq/106gであった。
【0043】
ポリエステルポリオール(A)の合成例2
合成例1と同様の手法により表1に記載された原料を用いて合成したポリエステルポリオール(b)の組成、水酸基価、酸価を表1に示した。
【0044】
ポリエステルポリオール(A)の合成例3
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸116部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル15部、オクテニル無水コハク酸53部、2−メチル−1,3−プロパンジオール108部、1,4−シクロヘキサンジメタノール115部を投入し、触媒としてテトラブトキシチタネート0.3部を添加した。N2気流下220℃で約8時間反応させ、生成する水を溜去した。ついで同温度で約5分間減圧し、反応を終了した。得られたポリエステルポリオール(c)の水酸基価は6400eq/106g、酸価は7eq/106gであった。
【0045】
ポリエステルポリオール(A)の合成例4、5
合成例3と同様の手法により合成したポリエステルポリオール(d)、(e)の組成、水酸基価、酸価を表1に示した。
【0046】
ポリエステルポリオール(A)の比較合成例1
合成例1と同様の反応容器にテレフタル酸83部、イソフタル酸61部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸7部及び2,2−ジメチル1,3−ヒドロキシプロパン83部、エチレングリコール74部を投入し、触媒としてテトラブトキシチタネート0.3部を添加した。N2気流下220℃で約6時間反応させ、生成する水を溜去した。ついで同温度で20分間減圧し、重合反応を終了した。得られたポリエステルポリオール(f)の水酸基価は980eq/106g、酸価は5eq/106gであった。
【0047】
ポリエステルポリオール(A)の比較合成例2
合成例3と同様の反応容器にアジピン酸140部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9部及び2,2−ジメチル1,3−プロパンジオール208部を投入し、触媒としてテトラブトキシチタネート0.3部を添加した。N2気流下220℃で約6時間反応させ、生成する水を溜去した。ついで同温度で約5分間減圧し、反応を終了した。得られたポリエステルポリオール(g)の水酸基価は6000eq/106g、酸価は7eq/106gであった。
【0048】
【表1】

【0049】
極性基を有するポリエステルジオールの合成例5
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却器を具備した反応容器に5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルを888部、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを1836部およびテトラブトキシチタン0.2部を仕込み240℃で5時間エステル交換した。温度を100℃まで低下させ、トルエン633部で希釈しポリエステルジオール(h)溶液(固形分濃度80%)を得た。得られたポリエステルジオール(h)の数平均分子量は620であった(但し未反応のグリコール成分が存在するのでそれを除いて算出した)。組成、その他特性を表2に示した
【0050】
【表2】

【0051】
ポリウレタン樹脂の合成例1
ポリエステルポリオール(a):100部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール3部をMEK(メチルエチルケトン):41部及びトルエン:41部に溶解し、MDI:19部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80℃で5時間反応させた。ついで、MEK:101部、トルエン:101部で溶液を希釈し、ポリウレタン樹脂(i)を得た。ポリウレタン樹脂(i)の分子量、力学特性を表3に示した。
【0052】
ポリウレタン樹脂の合成例2〜4
合成例1と同様の方法でポリウレタン樹脂(ii)〜(iv)を合成し、樹脂組成、分子量、力学特性を表3に示した。
【0053】
ポリウレタン樹脂の合成例5
ポリエステルポリオール(e):100部、ポリエステルポリオール(h):10部をMEK:58部及びトルエン:56部に溶解し、MDI:67部を加え、80℃で1.5時間反応させた。ついで、MEK:146部、トルエン:146部で溶液を希釈し、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.1部添加し、同温度で5時間反応させ、ポリウレタン樹脂(v)を得た。ポリウレタン樹脂(v)の分子量、力学特性を表3に示した。
【0054】
ポリウレタン樹脂の比較合成例6、7
合成例1と同様の方法により、ポリウレタン樹脂(vi)、(vii)を合成し、樹脂組成、分子量、力学特性を表3に示した。この例ではポリエステルポリオール(A)成分の内容が本特許請求の範囲外となる。
【0055】
【表3】

【0056】
(支持体上への磁性塗料の塗布)
始めに磁性粉(メタル粉 2000Oe)と12部とポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績製バイロンUR8200)5部と塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR110)5部とアルミナを混練り分散し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)を加え、磁性塗料を得た。この磁性塗料を厚み8μのポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚みが4μになるように2,000ガウスの磁場を印可しつつ塗布乾燥し、磁性層を形成した。
【0057】
実施例 1
ポリウレタン樹脂溶液4部と炭素系粉末と炭酸カルシウム、アルミナの混合物を固形分70%で混練り分散してから、残りのポリウレタン樹脂溶液6部、シリコンオイル、滑剤としてステアリン酸、ステアリン酸ブチル、溶剤としてシクロヘキサノン、MEK、トルエンを添加し、サンドミルで3時間分散を実施し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製):0.6部を加え、均一混合し、バックコート塗料を得た。これを乾燥後の厚みが0.5μmになるように磁性層とは反対側に塗布し、バックコート層を形成した。
配合
重合例1で得られたポリウレタン樹脂の溶液 10部
(メチルエチルケトン/トルエン=1/1の30%溶液)
炭素系粉末
(平均粒径20nm 商品名 Raven1255) 4.5部
炭酸カルシウム 0.5部
アルミナ(平均粒径0.05μ) 0.5部
シリコンオイル 0.1部
シクロヘキサノン 6部
トルエン 9部
メチルエチルケトン 15部
ミリスチン酸 0.4部
ステアリン酸n−ブチル 0.4部
【0058】
磁性層とバックコート層を形成させた磁気テープにカレンダー加工を施し、1/2インチ幅にスリットし、カセットに組み込み、磁気テープを作成した。この磁気テープを用い、以下の評価項目について評価を行った。得られた磁気テープの特性を表4に示す。
【0059】
磁気テープのバックコート層の光沢;
45度光沢を測定した。表面粗度は光干渉三次元表面粗度計(WYKO製)を用い、測定面積200×200μm2の条件で測定した。
【0060】
走行耐久性;
市販のS−VHSビデオデッキにかけ、走行時の温度40℃で100回走行後のバックコート層傷付きを観察し、その程度を以下の6段階で評価した。
6:傷つきほとんどなし
5:傷つきわずかにあり
4:傷つきやや目立つ
3:傷つき顕著に目立つ、PETフィルムまで達していない
2:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面がわずかに見える
1:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面が多く見える
【0061】
摩擦係数;
40℃の測定条件下で磁気テープに錘をつけ、鏡面仕上げの直径50mmのステンレスロールに抱き角180度で1cm/Sの速度で走行させ、測定した。
【0062】
粘着試験;
ウォーターバスにて蒸留水を80℃に加熱し、カセットに作成した磁気テープを組み込んだものを温水に浸漬して3時間加熱した。3時間後、取り出したカセットを60℃にて2時間減圧乾燥を行い、水分を完全に除去した。その後、カセットから磁気テープを引き出す過程においてスムーズに引き出せる場合は○、少しでも抵抗感がある場合は△、磁性層とバックコート層が粘着し、引き出す際に力が必要な場合は×とした。
【0063】
角形比;
振動試量型磁力計を使用し、垂直方向の角形比を測定した
【0064】
表面粗度;
接触式表面粗さ計で測定した。
【0065】
実施例2〜6、比較例7〜8
表4に記載したポリウレタン樹脂を用いて、実施例1と同様に磁気テープを作成し評価を行った。ただし、実施例3については日本ゼオン(株)製ポリ塩化ビニル樹脂MR110を固形分濃度30%と成るようにMEK/トルエン=50/50(重量比)の混合溶媒に溶解し、ポリウレタン樹脂(iii)/MR110=50/50(固形分比)に混合して用いた。各々の磁気テープの特性を表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
表4より実施例1〜6は比較例7、8に比べて走行耐久性、40℃、100回走行後の摩擦係数、粘着試験の点で優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に用いるポリウレタン樹脂は炭素系粉末の分散性と樹脂の力学物性に優れる。従って、そのポリウレタン樹脂と炭素系粉末からなるコーティング剤を磁気記録媒体のバックコート剤として用いる事により、優れた耐久性、走行性を併せ持った磁気記録媒体を供給する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)、ダイマー酸、水添ダイマー酸、ダイマージオールおよび水添ダイマージオールからなる群のうち少なくとも一種以上を共重合成分として含有するポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)、及び必要に応じてイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とするポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤。
【化1】

(但し、式中
1、R2;どちらか一方あるいは合計の炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
l、n;0〜3の整数
m;1〜3の整数
を表す)
【化2】

(但し、式中
3;炭素数が6以上となる脂肪族基、脂環族基または芳香族基
4;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
R;水素、脂肪族基、脂環族基または芳香族基でありそれぞれ異なっていても良い
o、q;0〜3の整数
p;1〜3の整数
を表す)
【化3】

(但し、式中
5;炭素数が6以上となる脂肪族基
を表す)
【請求項2】
ポリエステルポリオール(A)に、芳香族および/または脂環族二塩基酸成分が共重合されていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が85℃以上である請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
磁気記録媒体における、磁性層と反対側のバックコート層の塗料として用いる請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項5】
請求項4に記載のコーティング剤をバックコート層に塗布した磁気記録媒体。

【公開番号】特開2006−96792(P2006−96792A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281212(P2004−281212)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】