説明

コーティング剤とそれを用いた磁気記録媒体

【課題】耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、導電性、テープを構成する部品、例えばガイドロール等との摩擦係数が低いバックコート層を有する磁気記録媒体を提供する。【解決手段】 ポリカルボン酸成分の80モル%以上が芳香族二塩基酸および/または脂環族二塩基酸であり、ポリオール成分の50モル%以上が側鎖を有し炭素数が3以上のグリコールであるポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)およびイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とし、ウレタン基濃度が2800〜4200eq/tであるポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた特性を有する結合剤を用いることにより得られるコーティング剤に関し、また、これをバックコート層として用いた磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用的磁気記録材料である磁気テープ、フレキシブルディスクは、長軸1μm以下の針状磁性粒子を分散剤、潤滑剤、帯電防止剤等の添加剤とともに結合剤溶液に分散させて磁性塗料をつくり、これを支持体であるポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、また磁性層と反対側の支持体には炭素系粉末を主体とする充填材を分散させたバックコート層を塗布して作られている。
【0003】
バックコート層の結合剤に要求される特性としては、炭素系粉末の分散性、充填性、非磁性支持体との接着性、さらに磁気記録媒体にした際のバックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、導電性、テープを構成する部品、例えばガイドロール等との摩擦係数が低いこと等があげられ、結合剤は非常に重要な役割を果たしている。このような特性を付与するために結合剤としてはポリウレタン樹脂とニトロセルロースあるいは塩化ビニル系共重合体等の各種結合剤が主に用いられている。
【0004】
塗布型磁気記録媒体における非磁性支持体上に設けた磁性層では耐摩耗性の向上、耐熱性の改良、接着性の改良、耐溶剤性付与等の目的のために、硬化剤を併用する二液タイプが用いられている。硬化剤としてはポリイソシアネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が知られている。特に反応性、作業性、性能面からポリイソシアネートが汎用的に使用されている。
【0005】
磁気記録媒体では、S/N比(シグナル/ノイズ比)の向上、高記録密度化のために、磁性層の表面を平滑にすることや、より微粒子化した磁性粒子を磁性層中に高充填し、高配向することが必要とされ、これらのために磁性粒子の分散が良好な結合剤が求められている。磁性層の表面が平滑になればなる程、摩擦係数が高くなり、磁気テープの走行性、走行耐久性は悪くなる。そのため耐久性、耐摩耗性、耐熱性、非磁性支持体との接着性の良好な結合剤が求められている。
【0006】
一方、磁性層の表面が平滑になるにつれ、バックコート層の凹凸の転写による磁性層の平滑性低下が無視できなくなる。そこでバックコート用の結合剤としては炭素系粉末の分散性を向上させ、平滑なバックコート層を得る事が必須である。しかしながら、バックコート層が平滑になるとテープ化した状態で高温高湿下保存した場合、磁性層とバックコート層が粘着する恐れがある。この粘着現象が発生すると磁性層表面に付着物が残存し、記録再生が妨げられる等の問題が発生する。
【0007】
例えば特許文献1にはバックコート用の結合剤に第3級アミンを含有する塩化ビニル樹脂を用いることが開示されているが、近年、微粒子化した炭素系粉末の分散性は不足しており、またテープ化した状態で高温高湿下保存した場合、磁性層とバックコート層が粘着する問題があった。
【0008】
また、炭素系粉末の分散性を向上させるために従来よりも磁性粒子の分散性が良好なポリウレタン樹脂バインダー(例えば特許文献2参照)などを使用することも検討したが、磁性粒子分散性が良好なバインダーを用いても炭素系粉末分散性は不十分であった。
【0009】
【特許文献1】特開平6−195680号公報
【特許文献2】特開平10−320749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は炭素系粉末の分散性、充填性、耐摩耗性、耐熱性、非磁性支持体との接着性等が良好な結合剤を使用することで耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、導電性、テープを構成する部品、例えばガイドロール等との摩擦係数が低いバックコート層を有する磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等はポリウレタン樹脂を鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下のものである。
【0012】
ポリカルボン酸成分の80モル%以上が芳香族二塩基酸および/または脂環族二塩基酸であり、ポリオール成分の50モル%以上が側鎖を有し炭素数が3以上のグリコールであるポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)およびイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とし、ウレタン基濃度が2800〜4200eq/tであるポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤である。
【0013】
また、上記コーティング剤をバックコート層として塗布・乾燥した磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に用いるポリウレタン樹脂は炭素系粉末の分散性に優れ、またこのポリウレタン樹脂は高いウレタン基濃度、ガラス転移温度を有するため、このポリウレタン樹脂を用いて作成したバックコート塗料を塗布した磁気記録媒体は優れた耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、ポリカルボン酸成分の80モル%以上が芳香族二塩基酸および/または脂環族二塩基酸であり、ポリオール成分の50モル%以上が側鎖を有し炭素数が3以上のグリコールであるポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)およびイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とするポリウレタン樹脂を用いる。
【0016】
ポリエステルポリオール(A)を構成する酸成分としては、ポリカルボン酸成分、ポリオール成分それぞれの合計量を100モル%としたときに、芳香族二塩基酸成分および/または脂環族二塩基酸成分の合計が全酸成分の80モル%以上である。80モル%未満になると高温高湿下保存した場合、磁性層とバックコート層が粘着する恐れがある。芳香族二塩基酸成分はテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、脂環族二塩基酸は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス−(4−カルボキシシクロヘキシル)プロパンが挙げられる。好ましくは芳香族二塩基酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、脂環族二塩基酸としては1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また全酸成分中に5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸を共重合しても良い。その他酸成分としては脂肪族二塩基酸を20モル%未満使用しても良い。脂肪族二塩基酸としてはコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ドデシニルコハク酸等が挙げられ、これらの中では、特にアジピン酸、セバシン酸、ドデシニルコハク酸が分散性の点で好ましい。
【0017】
ポリエステルポリオール(A)を構成するポリオール成分としては、側鎖を有し炭素数3以上のグリコール成分が全ポリオール成分に対し50モル%以上必要である。側鎖を有するグリコール成分を含有することにより炭素系粉末の分散性が向上する。側鎖を有する炭素数3以上のグリコール成としてはプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル、2−メチルオクタンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルなどが挙げられる。なかでも2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールAが好ましい。
【0018】
ポリエステルポリオール(A)を構成するその他のグリコール成分としては1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルなどが挙げられる。またポリエステルジオールの原料の一部に無水トリメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能以上の化合物をポリエステル樹脂の有機溶剤溶解性、塗布作業性等の特性を損なわない範囲で使用してもよい。
【0019】
芳香族ポリイソシアナート(B)として、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアナート(B)はポリエステルポリオール(A)100重量部に対し、5〜100重量部が好ましい。より好ましくは10〜60重量部である。5重量部未満の場合はバックコート層の耐久性が不足することがある。また100重量部を越えると炭素系粉末の分散性が不足する場合がある。
【0020】
本発明で用いるポリウレタン樹脂に共重合される、イソシアネート基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)としては、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール、3−フェニル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−3−ナトリウムスルホ−2,5−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中で、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールが分散性の点で特に好ましい。また、化合物(C)として、極性基を有する化合物を用いても良い。特にスルホン酸金属塩基を有する化合物が好ましく、スルホン酸金属塩基含有芳香族二塩基酸と側鎖含有グリコールから得られる数平均分子量1000以下のポリエステルジオールが挙げられる。具体的には5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルと2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートから成るエステル縮合物、あるいは5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルとネオペンチルグリコールから成るエステル縮合物がある。
【0021】
これら側鎖を有する化合物(C)はポリウレタン樹脂の溶解性向上に寄与し、本発明においてポリエステルポリオール(A)、芳香族系ポリイソシアナート(B)との組み合わせにおいて高い比率で共重合する事が可能である。化合物(C)成分の共重合比率の増加はウレタン結合基濃度の増加につながり、ウレタン樹脂をより強靱なものにする。すなわち、これらの量比を調節することにより、汎用溶剤に対する高い溶解性と強靱な力学物性を合わせ持ったポリウレタン樹脂が得られる。これらウレタン樹脂としての特性は、磁気テープバックコート用結合剤としての高い炭素系粉末分散能力とテープ耐久性の向上に寄与するものである。具体的には化合物(C)はポリエステルポリオール(A)100重量部に対し、1〜50重量部が好ましい。より好ましくは2〜40重量部である。50重量部を越えるとバックコート層の耐久性が不足する場合がある。
【0022】
また、化合物(C)としてイソシアネートと反応する官能基を1分子中3個以上有する分岐状化合物を用いると汎用硬化剤との反応性の向上に有効である。具体的な化合物としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスルトール等のポリオールあるいはこれらポリオールのうち一種へのε−カプロラクトン付加物等が挙げられる。
【0023】
これら化合物(C)の共重合量は、本発明のポリウレタン樹脂のウレタン結合基濃度が2800eq/106gから4000eq/106gを越えない範囲で用いられるように調整することが出来る。好ましい範囲としては3000eq/106gから4000eq/106gである。ウレタン結合基濃度が2800eq/106g未満の場合は機械的強度が低下し、走行耐久性が劣る。また、ウレタン結合基濃度が4000eq/106gを越えた場合では、ポリウレタン樹脂としての力学物性をさらに向上する事は可能であるものの、汎用溶剤に対する溶解性が低下し、磁気テープバックコート用結合剤としての高い炭素系粉末分散性能が得られないことがある。ウレタン結合基濃度は側鎖を有する化合物(C)の共重合量、及びポリエステルポリオール(A)の分子量により、調節可能である。単位は樹脂重量1t当たりの当量数(eq/t)を表す。
【0024】
本発明に用いるポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、耐久性、耐ブロッキング性の観点から85℃以上であることが好ましい。特に90℃以上が好ましい。上限は特に限定されないが、塗布性を考慮すると160℃未満が好ましい。
【0025】
本発明においては、ポリウレタン樹脂の可撓性の調節、耐寒性・耐熱性向上等の目的のために他の樹脂を添加するか、または架橋剤を併用することが望ましい。他の樹脂としては、塩化ビニル、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等が挙げられる。一方、架橋剤としてはポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、酸無水物等があり、特にこれらの中でポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としてはイソシアネートに多価アルコールやイソシアヌレート環を付加したものが挙げられる。ここでのイソシアネート化合物はTDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、XDI(キシレンジイソシアネート)、水添XDIなどが挙げられる。
【0026】
本発明により形成される磁気記録媒体の形状はテープ、ディスクなどが挙げられる。
【0027】
本発明により形成される磁気記録媒体の層構成は、非磁性支持体下にバックコート層、支持体上に磁性層または磁性層と下層塗布層を設けた物である。支持体上部の層構造としては磁性層単層、磁性層重層、磁性層と非磁性層との重層が挙げられる。
【0028】
本発明のコーティング剤に使用される充填剤としては、炭素系粉末を用いる。ここで述べる充填剤とは塗料中の全固形成分から結合剤成分、硬化剤成分を除いたものを指す。また、炭素系粉末とは、カーボンブラック、グラファイトであるが、特にカーボンブラックが好ましい。ここで炭素系粉末の平均粒子系は70nm以下であることが好ましい。平均粒子径が70nmを超えるとバックコート剤としての安定性が低下するおそれがある。平均粒子系の下限は分散性の観点から10nm以上である。また、炭素系粉末を充填剤の全量に対して70重量%以上含有することが好ましい。炭素系粉末はポリウレタン樹脂100重量部に対して、20〜200重量部含まれることが好ましい。
【0029】
本発明のコーティング剤にはその他必要に応じてジブチルフタレート、トリフェニルホスフェートのような可塑剤、ジオクチルナトリウムスルホサクシネート、t−ブチルフェノールポリエチレンエーテル、エチルナフタレンスルホン酸ソーダ、ジラウリルサクシネート、ステアリン酸亜鉛、大豆油レシチン、シリコーンオイルのような潤滑剤や種々の帯電防止剤を添加することもできる。
【0030】
本発明のコーティング剤にはその他必要に応じて炭酸カルシウム、アルミナ等の無機顔料を添加することも出来る。これら添加により耐ブロッキング性の更なる向上が期待できる。添加量はポリウレタン樹脂100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0031】
一方、磁性層に使用される磁性粉末としては、従来より公知のものが使用可能である。例えば、γ−Fe23、γ−Fe23とFe34の混晶、コバルトを被着したγ−Fe23 またはFe24、バリウムフェライト等の強磁性酸化物、Fe−Co,Fe−Co−Ni等の強磁性合金粉末等を挙げることができる。なお、非磁性層に使用される粒子としては酸化鉄および酸化鉄とカーボンブラックを挙げることができる。
【実施例】
【0032】
以下実施例により本発明を具体的に例示する。実施例中単に部とあるのは重量部を示す。表および実施例中の略号は以下の通りである。
【0033】
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
OPA:オルソフタル酸
DMT:テレフタル酸ジメチルエステル
DMI:イソフタル酸ジメチルエステル
HHPA:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸
AA:アジピン酸
DSN:5−スルホイソフタル酸ジメチルエステル
EG:エチレングリコール
NPG:2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール
2MG:2−メチル−1,3−プロパンジオール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
DMH:2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール
HPN:2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル− 3−ヒドロキシプロパネート
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート
MEK:メチルエチルケトン
【0034】
以下樹脂特性の評価方法について記載する。
(ポリエステルポリオール(A)の水酸基価)
ポリエステルポリオール:50gをMEK:120gの混合溶剤に溶解し、MDI:
70gを加え、70℃で2時間反応させた。ついで、反応液中の残存イソシアネート基濃度を滴定により、定量し、水酸基価を求めた。
【0035】
(数平均分子量)
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶媒として測定した。なお、分子量300以下の低分子のピークは分析時には削除し、分子量300以上の高分子のピークをデータ処理することで数平均分子量を求めた。
【0036】
(組成分析)
重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0037】
(ガラス転移温度)
厚み30μmでポリウレタン樹脂フィルムを作成し、4mm×15mmに切断後、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置DVA−220を用いて、周波数10Hz、測定温度範囲30〜180℃、昇温速度4℃/minにて動的粘弾性を測定した。保存弾性率(E’)の屈折点において、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と屈折点以上における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0038】
(ウレタン基濃度)
ウレタン基濃度はポリウレタン樹脂を合成するのに用いた芳香族ポリイソシアナート(B)の量から算出する。以下に計算式を記す。下記の(A)〜(B)はいずれも重量とする。
(A):ポリエステルポリオール
(B):芳香族ポリイソシアネート
(C):側鎖を有する化合物
[(B)/{(A)+(B)+(C)}]×(2/(B)の分子量)×106
=ウレタン基濃度(eq/t)
【0039】
(極性基濃度)
スルホン酸金属塩基濃度を金属の原子吸光分析により求め、計算式によりスルホン酸金属塩基濃度を求めた。すなわち、試料0.1gを炭化し、酸に溶解した後、原子吸光分析によりNa濃度を求め、下記式より極性基濃度を算出した。
Na濃度(ppm)/23(Na原子量)=極性基濃度(eq/106g)
【0040】
磁気テープの磁性層の光沢は45度光沢を測定した。表面粗度は光干渉三次元表面粗度計(WYKO製)を用い、測定面積200×200μm2の条件で測定した。
【0041】
バックコート層走行耐久性は、後述する実施例にのっとって作成した磁気テープを市販のS−VHSビデオデッキにかけ、走行時の温度40℃で100回走行後のバックコート層傷付きを観察し、その程度を以下の6段階で評価した。
6:傷つきほとんどなし
5:傷つきわずかにあり
4:傷つきやや目だつ
3:傷つき顕著に目だつ、PETフィルムまで達していない
2:傷つき顕著に目だつ、PETフィルム面がわずかに見える
1:傷つき顕著に目だつ、PETフィルム面が多く見える
【0042】
摩擦係数の測定は40℃の測定条件下で磁気テープに錘をつけ、鏡面仕上げの直径50mmのステンレスロールに抱き角180度で1cm/Sの速度で走行させ、測定した。
【0043】
粘着試験はウォーターバスにて蒸留水を80℃に加熱し、カセットに作成した磁気テープを組み込んだものを温水に浸漬して3時間加熱した。3時間後、取り出したカセットを60℃にて2時間減圧乾燥を行い、水分を完全に除去した。その後、カセットから磁気テープを引き出す過程においてスムーズに引き出せる場合は○、少しでも抵抗感がある場合は△、磁性層とバックコート層が粘着し、引き出す際に力が必要な場合は×とする。
【0044】
ポリエステルポリオール(A)の合成例1
温度計、攪拌機、ヴィグリュー管、リービッヒ冷却器を具備した反応容器にイソフタル酸149部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル29部、2−メチル−1,3−プロパンジオール90部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール104部およびテトラブトキシチタン0.3部を仕込みN2気流下、230℃で8時間反応させ生成する水を除去した。ついで同温度で約5分間減圧して反応を終了した。得られたポリエステルジオール(a)の水酸基価は5000eq/106g、酸価は5eq/106gであった。
【0045】
ポリエステルポリオール(A)の合成例2〜4
合成例1と同様の手法により合成したポリエステルポリオール(b)〜(d)の組成、水酸基価を表1に示した。
【0046】
ポリエステルポリオール(A)の合成例5
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸50部、オルソフタル酸104部、1,4−シクロヘキサンジメタノール144部、2−メチル−1,3−プロパンジオール90部を投入し、触媒としてテトラブトキシチタネート0.3部を添加した。N2気流下230℃で約8時間反応させ、生成する水を溜去した。ついで同温度で約5分間減圧し、反応を終了した。得られたポリエステルジオール(e)の水酸基価は5200eq/106g、酸価は9eq/106gであった。
【0047】
ポリエステルポリオール(A)の比較合成例6
合成例1と同様の反応容器にアジピン酸141部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸
ジメチルエステル14.8部及び2−メチル−1,3−プロパンジオール180部を投入し、触媒としてテトラブトキシチタネート0.3部を添加した。N2気流下220℃で約6時間反応させ、生成する水を溜去した。ついで同温度で5分間減圧し、重合反応を終了した。得られたポリエステルポリオール(f)の水酸基価は5000eq/106g、酸価は5eq/106gであった。
【0048】
ポリエステルポリオール(A)の比較合成例7
温度計、攪拌機、ヴィグリュー管、リービッヒ冷却器を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチルエステル92.2部、イソフタル酸ジメチルエステル92.9部、5−スルホイソフタル酸ジメチルエステル14.8部、エチレングリコール93部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール45部およびテトラブトキシチタネート0.2部を仕込み200〜230℃で8時間エステル化反応を行なった。次いで10分かけて240℃まで昇温すると同時に徐々に減圧し20分間反応させ重合を終了した。得られたポリエステルジオール(g)の水酸基価は1000eq/106g、酸価は7eq/106gであった。
【0049】
【表1】

【0050】
極性基を有するポリエステルジオールの合成例8
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却器を具備した反応容器に5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルを888部、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを1836部およびテトラブトキシチタン0.2部を仕込み240℃で5時間エステル交換した。温度を100℃まで低下させ、トルエン633部で希釈しポリエステルジオール(h)溶液(固形分濃度80%)を得た。
上記反応では未反応のグリコール(2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート)が残存するため、大過剰のトルエンで再沈殿させ、沈降した部位を抽出し、前述した方法で数平均分子量を測定すると得られたポリエステルジオール(h)の抽出成分の数平均分子量は前述した方法で測定した分子量は640であった(但し未反応のグリコール成分が存在するのでそれを除いて算出した)。組成、その他特性を表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
ポリウレタン樹脂の合成例1
ポリエステルポリオール(a):100部と2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール:10部をMEK(メチルエチルケトン):62部、TOL(トルエン):62部に溶解し、MDI:75部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80度で5時間反応させた。ついで、MEK:154部、トルエン:154部で溶液を希釈し、ポリウレタン樹脂1を得た。ポリウレタン樹脂1の分子量、力学特性を表3に示した。
【0053】
ポリウレタン樹脂の合成例2〜4
合成例1と同様の方法でポリウレタン樹脂2〜4を合成し、樹脂組成、分子量、力学特性を表3に示した。
【0054】
ポリウレタン樹脂の合成例5
ポリエステルポリオール(e):100部とポリエステルポリオール(h):5部を
MEK(メチルエチルケトン):57部、TOL(トルエン):50部に溶解し、MDI:75部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80度で5時間反応させた。ついで、MEK:142部、トルエン:142部で溶液を希釈し、ポリウレタン樹脂5を得た。ポリウレタン樹脂5の分子量、力学特性を表3に示した。
【0055】
ポリウレタン樹脂の比較合成例6
ポリエステルポリオール(f):100部と2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール:30部をMEK(メチルエチルケトン):79部及びTOL(トルエン):79部に溶解し、MDI:106部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80度で5時間反応させた。ついで、MEK:197部、トルエン:197部で溶液を希釈し、ポリウレタン樹脂6を得た。ポリウレタン樹脂6の分子量、力学特性を表3に示した。この例ではポリエステルの成分が本特許請求の範囲外となる。
【0056】
ポリウレタン樹脂の比較合成例7
比較合成例1と同様の方法により、ポリウレタン樹脂7を合成し、樹脂組成、分子量、力学特性を表3に示した。この例ではウレタン基濃度が本特許請求の範囲外となる。
【0057】
ポリウレタン樹脂の比較合成例8
比較合成例1と同様の方法により、ポリウレタン樹脂8を合成し、樹脂組成、分子量、力学特性を表3に示した。この例ではウレタン基濃度が本特許請求の範囲外となる。
【0058】
【表3】

【0059】
(支持体上への磁性塗料の塗布)
始めに磁性粉(メタル粉 2000Oe)と12部とポリエステルポリウレタン樹脂5部(東洋紡績(株)製UR8200)と塩化ビニル共重合体(日本ゼオン(株)製MR110)5部とアルミナを混練り分散し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)を加え、磁性塗料を得た。この磁性塗料を厚み8μのポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚みが4μになるように2,000ガウスの磁場を印可しつつ塗布乾燥し、磁性層を形成した。
【0060】
実施例 1
ポリウレタン樹脂溶液4部と炭素系粉末と炭酸カルシウム、アルミナの混合物を固形分70%で混練り分散してから、残りのポリウレタン樹脂溶液6部、シリコンオイル、滑剤としてステアリン酸、ステアリン酸ブチル、溶剤としてシクロヘキサノン、MEK、トルエンを添加し、サンドミルで3時間分散を実施し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製):0.6部を加え、均一混合し、バックコート塗料を得た。これを乾燥後の厚みが0.5μmになるように磁性層とは反対側に塗布し、バックコート層を形成した。
配合
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の溶液 10部
(メチルエチルケトン/トルエン=1/1の30%溶液)
炭素系粉末
(平均粒径20nm 商品名 Raven1255) 4.5部
炭酸カルシウム 0.5部
アルミナ(平均粒径0.05μ) 0.5部
シリコンオイル 0.1部
シクロヘキサノン 6部
トルエン 9部
メチルエチルケトン 15部
ミリスチン酸 0.4部
ステアリン酸n−ブチル 0.4部
【0061】
磁性層とバックコート層を形成させた磁気テープにカレンダー加工を施し、1/2インチ幅にスリットし、カセットに組み込み、磁気テープを作成した。この磁気テープを用い、以下の評価項目について評価を行った。得られた磁気テープの特性を表4に示す。
【0062】
磁気テープのバックコート層の光沢;
45度光沢を測定した。表面粗度は光干渉三次元表面粗度計(WYKO製)を用い、測定面積200×200μm2の条件で測定した。
【0063】
走行耐久性;
市販のS−VHSビデオデッキにかけ、走行時の温度40℃で100回走行後のバックコート層傷付きを観察し、その程度を以下の6段階で評価した。
6:傷つきほとんどなし
5:傷つきわずかにあり
4:傷つきやや目立つ
3:傷つき顕著に目立つ、PETフィルムまで達していない
2:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面がわずかに見える
1:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面が多く見える
【0064】
摩擦係数;
40℃の測定条件下で磁気テープに錘をつけ、鏡面仕上げの直径50mmのステンレスロールに抱き角180度で1cm/Sの速度で走行させ、測定した。
【0065】
粘着試験;
ウォーターバスにて蒸留水を80℃に加熱し、カセットに作成した磁気テープを組み込んだものを温水に浸漬して3時間加熱した。3時間後、取り出したカセットを60℃にて2時間減圧乾燥を行い、水分を完全に除去した。その後、カセットから磁気テープを引き出す過程においてスムーズに引き出せる場合は○、少しでも抵抗感がある場合は△、磁性層とバックコート層が粘着し、引き出す際に力が必要な場合は×とした。
【0066】
角形比;
振動試量型磁力計を使用し、垂直方向の角形比を測定した
【0067】
表面粗度;
接触式表面粗さ計で測定した。
【0068】
実施例2〜5
表3に示した結合剤を用いて実施例1と同様にして磁気テープを得た。各々の磁気テープの特性を表4に示した。
【0069】
比較例6〜8
表3に示した結合剤を用いて実施例1と同様にして磁気テープを得た。各々の磁気テープの特性を表4に示した。
【0070】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明におけるポリウレタン樹脂は炭素系粉末の分散性と樹脂の力学物性に優れ、その結果として当該ポリウレタン樹脂を用いる事により、優れた耐久性、走行性を併せ持った磁気記録媒体を供給する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸成分の80モル%以上が芳香族二塩基酸および/または脂環族二塩基酸であり、ポリオール成分の50モル%以上が側鎖を有し炭素数が3以上のグリコールであるポリエステルポリオール(A)、芳香族ポリイソシアネート(B)およびイソシアネートと反応する官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の側鎖を有する化合物(C)を構成成分とし、ウレタン基濃度が2800〜4200eq/tであるポリウレタン樹脂と炭素系粉末を含むコーティング剤。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が85℃以上である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
磁気記録媒体における、磁性層と反対側のバックコート層の塗料として用いる請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
請求項3に記載のコーティング剤をバックコート層として塗布した磁気記録媒体。

【公開番号】特開2006−96850(P2006−96850A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283830(P2004−283830)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】