説明

コーティング剤とそれを用いた磁気記録媒体

【課題】 耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、摩擦係数の低いバックコート層を有する磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 ハイパーブランチポリマーと炭素系粉末を含むコーティング剤である。また、少なくとも基材層の両側に磁性層とバックコート層を有する磁気記録媒体において、バックコート層の塗料として上記に記載のコーティング剤を塗布した磁気記録媒体である。好ましくはハイパーブランチポリマーが、ABX型の分子の重縮合物により形成された蒸気に記載のコーティング剤および磁気記録媒体である(ただしA、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能である、Xは2以上の整数を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた特性を有する結合剤を用いることにより得られるコーティング剤を塗布した磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録媒体に関し、特にバックコート層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用的磁気記録材料である磁気テープ、フレキシブルディスクは、長軸1μm以下の針状磁性粒子を分散剤、潤滑剤、帯電防止剤等の添加剤とともに結合剤溶液に分散させて磁性塗料をつくり、これを支持体であるポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、また磁性層と反対側の支持体には炭素系粉末を主体とする充填材を分散させたバックコート剤を塗布して作られている。
【0003】
バックコート層の結合剤に要求される特性としては、炭素系粉末の分散性、充填性、バックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐熱性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、摩擦が低いこと等が挙げられ、結合剤は非常に重要な役割を果たしている。このような特性を付与するために結合剤としてはポリウレタン樹脂とニトロセルロースあるいは塩化ビニル系共重合体等の各種結合剤が主に用いられている。
【0004】
塗布型磁気記録媒体における非磁性支持体上に設けた磁性層では耐摩耗性の向上、耐熱性の改良、接着性の改良、耐溶剤性付与等の目的のために、硬化剤を併用する二液タイプが用いられている。硬化剤としてはポリイソシアネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が知られている。特に反応性、作業性、性能面からポリイソシアネートが汎用的に使用されている。
【0005】
磁気記録媒体では、S/N比(シグナル/ノイズ比)の向上、高記録密度化のために、磁性層の表面を平滑にすることや、より微粒子化した磁性粒子を磁性層中に高充填し、高配向することが必要とされ、これらのために磁性粒子の分散が良好な結合剤が求められている。磁性層の表面が平滑になればなる程、摩擦係数が高くなり、磁気テープの走行性、走行耐久性は悪くなる。そのため耐久性、耐摩耗性、耐熱性、非磁性支持体との接着性の良好な結合剤が求められている。
【0006】
一方、磁性層の表面が平滑になるにつれ、バックコート層の凹凸の転写による磁性層の平滑性低下が無視できなくなる。そこでバックコート用の結合剤としては炭素系粉末の分散性を向上させ、平滑なバックコート層を得る事が必須である。最近ではバックコート層に用いる炭素系粉末は50nm以下になっており、従来の結合剤では分散性が不足している。
【0007】
例えば特許文献1にはバックコート用の結合剤に第3級アミンを含有する塩化ビニル樹脂を用いることが開示されているが、近年、微粒子化した炭素系粉末の分散性は不足している。
【0008】
また、炭素系粉末の分散性を向上させるために従来よりも磁性粒子の分散性が良好なポリウレタン樹脂バインダー(例えば特許文献2参照)などを使用することも検討したが、磁性粒子分散性が良好なバインダーを用いても炭素系粉末分散性は不十分であった。
【0009】
【特許文献1】特開平6−195680号公報
【特許文献2】特開平10−320749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は炭素系粉末の分散性、充填性、耐摩耗性が良好な結合剤を使用することでバックコート層の耐久性、耐摩耗性、耐ブロッキング性、非磁性支持体との接着性、導電性、摩擦係数の低いバックコート層を有する磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は結合剤を鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明はハイパーブランチポリマーと炭素系粉末を含むコーティング剤である。また、少なくとも基材層の両側に磁性層とバックコート層を有する磁気記録媒体において、バックコート層の塗料として上記に記載のコーティング剤を塗布した磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に用いる樹脂はハイパーブランチ構造を有しており、放射状に広がった分子末端に多量の水酸基を導入出来る事から、硬化反応による架橋密度が極めて高くなり、強靱な硬化塗膜が得られる。炭素系粉末が高濃度で配合された系においても従来型の結合剤樹脂では得られなかったような優れた物性を有した硬化塗膜を形成する事ができ、結果として優れた耐久性、耐摩耗性を有するバックコート層が形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本来ハイパーブランチポリマーという用語はKimとWebsterが、繰り返し単位の規則性を有する多分岐ポリマーに対して名付けた言葉であり(Polym.Prepr.,29(1988)310)、1分子中に互いに反応出来る2種類の置換基を合計3個以上持つ化合物の自己縮合により合成される多分基高分子と定義される。本発明において述べるハイパーブランチポリマーは、上記KimとWebsterが提唱した用語に当てはまるものである。この様な多分岐ポリマーとしては従来、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート系など、種々のタイプが合成されている。
【0014】
これらハイパーブランチポリマーの樹状に伸びた分子末端には多量の官能基が密集して存在している構造を採っており、これら反応性官能基と硬化剤を用いて架橋させると極めて強靭な塗膜を得る事が可能である。
【0015】
本発明で言うハイパーブランチポリマーはその構造において特に限定されないがABX型化合物の重縮合反応或いは重付加反応により得られるものが好ましい。ここでAとBは異なる官能基を有する有機基を示し、ABX型化合物とは一分子中に2種の異なる官能基a、bを合わせ持った化合物を意味するものである。これら化合物は分子内縮合、分子内付加はしないが官能基aと官能基bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こさせる事が可能な官能基である。これら官能基a、bの組み合わせとしては水酸基とカルボン酸基やカルボン酸アルキルエステル基等のカルボン酸誘導体、アミノ基とカルボン酸基、ハロゲン化アルキル基とフェノール性水酸基、アセトキシ基とカルボン酸基、アセチル基と水酸基、イソシアネート基と水酸基等が挙げられ、反応工程の簡便さ、反応制御の面からカルボン酸基或いはその誘導体と水酸基或いはその誘導体の組み合わせが好ましい。
【0016】
ABX型化合物の具体的な例としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸、5−(2ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチルエステル、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、5−ヒドロキシシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−ジヒドロキシ−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(ブロモメチル)−1,3−ジヒドロキシベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、フェノール−3,5−ジグリシジルエーテル、イソホロンジイソシアネートとジイソプロパノールアミンとの1対1反応生成物、イソホロンジイソシアネートとジエタノールアミンの1対1反応生成物、3,5−ビス(4−アミノフェノキシ)安息香酸等が挙げられる。
【0017】
これらの内、反応によりエステル結合が生成するタイプは得られたハイパーブランチポリマーの耐熱性、他樹脂成分や添加物成分との相溶性の観点から特に好ましく、それら化合物の構造を表す一般式は化学式1で表される。
化学式1) KR’[(R)mL]n
R:炭素数20未満の2価の有機基。
R’:炭素数20未満の(b+1)価の有機基、或いは−NR”(R”:炭素数20未満の2価の有機基)で示される基
K、L:互いに異なるエステル結合形成性官能基
m:0又は1
n:2以上の整数
【0018】
上記化学式1で示される化合物としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸、5−(2ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチルエステル、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、5−ヒドロキシシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−ジヒドロキシ−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(ブロモメチル)−1,3−ジヒドロキシベンゼン、N,N−ビス(メチルプロピオネート)モノエタノールアミン、N−(メチルプロピオネート)ジエタノールアミン、N,N−ビス(メチルプロピオネート)−2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン等が挙げられるが、これら原料化合物としての汎用性及び重合反応工程の簡便さからは、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0019】
上記反応は上記KR’[(R)mL]n型化合物を単独で縮合反応触媒の存在下に反応させても良いし、多価ヒドロキシ化合物や多価カルボン酸化合物、或いはそれらを合わせ持つ化合物をハイパーブランチポリマー分子の分岐点として用いても良い。上記多価ヒドロキシ化合物としてはポリエステル樹脂原料として汎用の種々グリコール化合物やトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の水酸基含有化合物が挙げられる。また、多価カルボン酸化合物としては同様にポリエステル樹脂原料として汎用の種々二塩基酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の3官能以上のカルボン酸化合物が挙げられる。更には水酸基とカルボン酸基を合わせ持った化合物例として、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸、
3−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。
【0020】
本発明に用いられるハイパーブランチポリマー分子の分岐点となる化合物としては上記以外に、二塩基酸成分とグリコール成分の縮合反応で得られる線状のポリエステルオリゴマーやこれらに3官能以上の多価カルボン酸や多価ヒドロキシ化合物を共重合した分岐型ポリエステルオリゴマーを用いても良い。
【0021】
上記分岐点となりうる線状、或いは分岐型ポリエステルオリゴマーの構成原料としては汎用の種々二塩基酸やグリコール化合物、或いは3官能以上の多価カルボン酸や多価アルコール化合物を用いる事ができる。二塩基酸化合物としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族系二塩基酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族系ニ塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸が挙げられるが、耐熱特性から、好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、特に好ましくはテレフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0022】
また、グリコール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−nブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族系ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族系グリコール類、或いはビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物等の芳香族系グリコール類が挙げられるがこれらのうち、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、およびビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物が得られるポリエステル樹脂の耐熱特性と原料としての汎用性から好ましい。
【0023】
更に上記3官能以上の多価カルボン酸や多価アルコール化合物としては、トリメリット酸やピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0024】
上記反応は縮合反応で生成する縮合水をトルエンやキシレンにより共沸脱水させる事で、或いは反応系内に不活性ガスを吹き込み不活性ガスと共に縮合反応で生成した水やモノアルコールを反応系外に吹き出す又は減圧下に溜去する事で進められる。反応に用いられる触媒としては通常のポリエステル樹脂重合触媒同様、チタン系、錫系、アンチモン系、亜鉛系、ゲルマニウム系等の種々金属化合物やp−トルエンスルホン酸や硫酸等の強酸化合物を用いる事が出来る。
【0025】
本発明に用いるハイパーブランチポリマーの数平均分子量は500〜20,000が好ましく、更に好ましくは2,000〜10,000である。数平均分子量が500未満では硬化塗膜の耐久性が不足する場合があり、20,000を越えると汎用溶剤への溶解性が低下すると共に溶液粘度も高くなり、ハイパーブランチ構造を有する事の本来の利点が損なわれるおそれがある。さらには炭素系粉末の分散性が低下する恐れがある。
【0026】
本発明のコーティング剤は通常有機溶剤を用いて使用される。非常に良好な安定性を示し、経時的に炭素系粉末が凝集し、塗料粘度が上昇するといった現象を発生しにくいため、使用可使時間が長いという点で極めて有用である。有機溶剤の含有量は総量に対して好ましくは30〜97重量%の範囲で設定することができる。
【0027】
本発明に用いる溶剤としては特に限定されないが、例えばトルエン、キシレン、炭素数7〜20の炭化水素、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサン、シクロペンタン、n−ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、酢酸プロピル、イソホロン、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0028】
本発明においては、ハイパーブランチポリマーの可撓性の調節、耐寒性・耐熱性向上等の目的のために他の樹脂を添加するか、または架橋剤を混合することが望ましい。他の樹脂としては、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル樹脂、ニトロセルロース樹脂等が挙げられる。一方、架橋剤としてはポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、酸無水物等があり、特にこれらの中でポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としてはイソシアネートに多価アルコールやイソシアヌレート環を付加したものが挙げられる。ここでのイソシアネート化合物はTDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、XDI(キシレンジイソシアネート)、水添XDIなどが挙げられる。
【0029】
本発明に形成される磁気記録媒体の形状はテープ、ディスク、シート、カードなどが挙げられる。
【0030】
本発明により形成される磁気記録媒体の層構成は、PETフィルム等の基材(支持体)下にバックコート層、基材上に磁性層または磁性層と下層塗布層を設けた物であることが好ましい。支持体上部の層構造としては磁性層単層、磁性層重層、磁性層と非磁性層との重層が挙げられる。
【0031】
本発明のコーティング剤に使用される充填剤としては、炭素系粉末を用いる。ここで述べる充填剤とは塗料中の全固形成分から結合剤成分、硬化剤成分を除いたものを指す。また、炭素系粉末とは、カーボンブラック、グラファイトであるが、特にカーボンブラックが好ましい。ここで炭素系粉末の平均粒子系は70nm以下であることが好ましい。平均粒子径が70nmを超えるとバックコート剤としての安定性が低下するおそれがある。平均粒子系の下限は分散性の観点から10nm以上である。また、炭素系粉末を充填剤の全量に対して70重量%以上含有することが好ましい。炭素系粉末はハイパーブランチポリマー100重量部に対して、20〜200重量部含まれることが好ましい。
【0032】
本発明のバックコート剤にはその他必要に応じてジブチルフタレート、トリフェニルホスフェートのような可塑剤、ジオクチルナトリウムスルホサクシネート、t−ブチルフェノールポリエチレンエーテル、エチルナフタレンスルホン酸ソーダ、ジラウリルサクシネート、ステアリン酸亜鉛、大豆油レシチン、シリコーンオイルのような潤滑剤や種々の帯電防止剤を添加することもできる。
【0033】
一方、磁性層に使用される磁性粉末としては、従来より公知のものが使用可能である。例えば、γ−Fe23、γ−Fe23とFe34の混晶、コバルトを被着したγ−Fe23 またはFe24、バリウムフェライト等の強磁性酸化物、Fe−Co,Fe−Co−Ni等の強磁性合金粉末等を挙げることができる。なお、非磁性層に使用される粒子としては酸化鉄および酸化鉄とカーボンブラックを挙げることができる。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明を具体的に例示する。実施例中に単に部とあるのは重量部を示す。得られた樹脂の分析評価は次の方法により実施した。
【0035】
(数平均分子量)
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶媒として測定した。
【0036】
(組成分析)
DMSO−d6溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0037】
(ガラス転移温度)
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0038】
(酸価)
樹脂0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当たりの当量(eq/106g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
【0039】
以下、表中及び本文中で用いる略号を示す。
PETH:ペンタエリスリトール
DMBA:ジメチロールブタン酸
DMPA:ジメチロールプロピオン酸
TCD:トリシクロデカンジメタノール
HPN:2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート
NDC:1,6−ナフタレンジカルボン酸
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
T:テレフタル酸
I:イソフタル酸
GCM:5−ナトリウムスルホイソフタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
【0040】
合成例(1)
ハイパーブランチポリマー(A)の合成
パーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にペンタエリスリトール100部、ジメチロールブタン酸3000部、触媒としてパラトルエンスルホン酸15部を仕込み、100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン100部を注入後140℃に昇温し、トルエンを還溜しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。同条件で5時間継続後反応を終了し、得られた重縮合物の酸価及び分子量を測定した。酸価は250eq/ton、ガラス転移温度は36℃、数平均分子量は2200であった。
【0041】
合成例(2)
ハイパーブランチポリマー(B)の合成
パーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にジメチロールブタン酸4000部、触媒としてパラトルエンスルホン酸20部を仕込み100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン100部を注入後140℃に昇温し、トルエンを還溜しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。同条件で5時間継続後反応を終了し、反応釜からサンプリングし、得られた重縮合物の酸価及び分子量を測定した。酸価は320eq/ton、ガラス転移温度は36℃、数平均分子量は1600であった。
【0042】
合成例(3)
ハイパーブランチポリマー(C)の合成
リービッヒ冷却管、温度計、攪拌棒を具備した反応釜に2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート816部、1,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル854部、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.4を仕込み、265℃でN2ガス封入しつつ、発生するメタノールを系外に溜去した。6時間で反応を終了させ、得られた重縮合物の酸価及び分子量を測定した。酸価は10eq/ton、数平均分子量は2900であった。
【0043】
次いでパーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜に上記ポリオールの樹脂固形分重量で1200部、ジメチロールブタン酸3600部、触媒としてパラトルエンスルホン酸26部を仕込み100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン120部を注入後140℃下に攪拌し、トルエンを還溜しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。得られたハイパーブランチポリマーの数平均分子量は5500、ガラス転移温度は40℃、酸価は800eq/tonであった。
【0044】
合成例(4)
ハイパーブランチポリマー(D)の合成
リービッヒ冷却管、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にトリシクロデカンジメタノール1372部、テレフタル酸ジメチルエステル1164部、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.4部を仕込み250℃でN2ガス封入しつつ、発生するメタノールを系外に溜去した。8時間で反応を終了させ、得られた重縮合物の酸価及び分子量を測定した。酸価は10eq/ton、数平均分子量は1800であった。
【0045】
次いでパーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜に上記ポリオール1000部、ジメチロールプロピオン酸4000部、触媒としてパラトルエンスルホン酸25部、トルエン100部を仕込み140℃下に攪拌し、トルエンを還溜しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。得られたハイパーブランチポリマーの数平均分子量は4500、ガラス転移温度は42℃、酸価は800eq/tonであった。
【0046】
比較合成例(1)
リービッヒ冷却管、温度計、攪拌棒を具備したフラスコにテレフタル酸ジメチル194部イソフタル酸ジメチル189部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル7.4部、ネオペンチルグリコール146部、エチレングリコール160部、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.2部を仕込み200〜225℃で3時間エステル交換反応を進めた後、250℃、減圧下に45分間重合反応を行なった。得られたポリエステルの数平均分子量は2万、ガラス転移温度は60℃であった。
【0047】
比較合成例(2)
リービッヒ冷却管、温度計、攪拌棒を具備したフラスコにテレフタル酸ジメチル194部、イソフタル酸ジメチル189部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル7.4部、ネオペンチルグリコール146部、エチレングリコール160部、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.2部を仕込み200〜225℃で3時間エステル交換反応を進めた後、250℃、減圧下に20分間重合反応を行ない、生成物を取り出した。得られたポリエステルジオールの数平均分子量は2000、酸価は5eq/tonであった。
【0048】
ついで上記ポリエステルジオール100部をMEK(メチルエチルケトン):37部及びトルエン:37部に溶解し、MDI:12部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80℃で5時間反応させた。ついで、MEK:94部、トルエン:94部で溶液を希釈し、生成物を取り出した。得られたポリウレタン樹脂の数平均分子量は2万1千、ガラス転移温度は60℃であった。
【0049】
上記比較合成例(1)、(2)はハイパーブランチ構造を有さない例である。
【0050】
上記合成例、比較合成例で得られた各々ポリマーの組成、分子量、Tg、酸価を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
磁性粉(メタル粉 2000Oe)と12部とポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績製UR8200)5部と塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR110)5部とアルミナを混練り分散し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)を加え、磁性塗料を得た。この磁性塗料を厚み8μのポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚みが4μになるように2,000ガウスの磁場を印可しつつ塗布乾燥し、磁性層を形成した。
【0053】
実施例 1
下記、シクロヘキサノンで溶解し、固形分30%にしたハイパーブランチポリエステル5部と炭素系粉末と炭酸カルシウム、アルミナの混合物を固形分65%で混練り分散してから、同上のハイパーブランチポリエステル5部、シリコーンオイル、滑剤としてステアリン酸n−ブチル、ミリスチン酸、溶剤としてシクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、トルエンを添加し、サンドミルで3時間分散を実施し、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製):0.6部を加え、均一混合し、バックコート塗料を得た。これを乾燥後の厚みが0.5μmになるように磁性層とは反対側に塗布して乾燥し、バックコート層を形成した。
配合
合成例1で得られたハイパーブランチポリエステル樹脂の溶液 10部
(シクロヘキサノンに溶解した30%溶液)
炭素系粉末
(平均粒径20nm 商品名 Raven1255) 4.5部
炭酸カルシウム 0.5部
アルミナ(平均粒径0.05μ) 0.5部
シリコーンオイル 0.1部
シクロヘキサノン 6部
トルエン 9部
メチルエチルケトン 15部
ミリスチン酸 0.4部
ステアリン酸n−ブチル 0.4部
コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製) 0.6部
【0054】
磁性層とバックコート層を形成させた磁気テープにカレンダー加工を施し、1/2インチ幅にスリットし、カセットに組み込み、磁気テープを作成した。得られた磁気テープの特性を表4に示す。
【0055】
実施例2〜5
表1に示した結合剤を用いて実施例1と同様にして磁気テープを得た。各々の磁気テープの特性を表2に示した。但し、ニトロセルロースは旭化成製HI−2000を固形分濃度30%となるようにMEK/トルエン=50/50の混合溶媒に溶解して用いた。
【0056】
比較例1、2
表1に示した結合剤を用いて実施例1と同様にして磁気テープを得た。各々の磁気テープの特性を表2に示した。
【0057】
磁性層とバックコート層を形成させた磁気テープにカレンダー加工を施し、1/2インチ幅にスリットし、カセットに組み込み、磁気テープを作成した。この磁気テープを用い、以下の評価項目について評価を行った。得られた磁気テープの特性を表2に示す。
【0058】
磁気テープのバックコート層の光沢;
45度光沢を測定した。表面粗度は光干渉三次元表面粗度計(WYKO製)を用い、測定面積200×200μm2の条件で測定した。
【0059】
走行耐久性;
市販のS−VHSビデオデッキにかけ、走行時の温度40℃で100回走行後のバックコート層傷付きを観察し、その程度を以下の6段階で評価した。
6:傷つきほとんどなし
5:傷つきわずかにあり
4:傷つきやや目立つ
3:傷つき顕著に目立つ、PETフィルムまで達していない
2:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面がわずかに見える
1:傷つき顕著に目立つ、PETフィルム面が多く見える
【0060】
摩擦係数;
40℃の測定条件下で磁気テープに錘をつけ、鏡面仕上げの直径50mmのステンレスロールに抱き角180度で1cm/Sの速度で走行させ、測定した。
【0061】
角形比;振動試量型磁力計を使用し、垂直方向の角形比を測定した
【0062】
表面粗度;表面粗さは触針接触表面粗さ計を用いて測定し評価した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より実施例1〜5は比較例1、2に比べて炭素系粉末の分散性に優れ、40℃、100回走行後の摩擦係数が低く、さらに走行耐久性が良好であるなどの優れた特性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に用いるハイパーブランチポリマーは炭素系粉末の分散性物性に優れ、その結果として、優れた耐久性、走行性を併せ持った磁気記録媒体を供給することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイパーブランチポリマーと炭素系粉末を含むコーティング剤。
【請求項2】
ハイパーブランチポリマーが、ABX型の分子の重縮合物により形成された請求項1に記載のコーティング剤(ただしA、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能である、Xは2以上の整数を示す)。
【請求項3】
ハイパーブランチポリマーが、下記化学式1)で表される分子の重縮合物により形成された請求項1に記載のコーティング剤。
化学式1) KR’[(R)mL]n
R:炭素数20未満の2価の有機基。
R’:炭素数20未満の(n+1)価の有機基、或いはR”N(R”:炭素数20未満の2価の有機基)で示される基
K、L:互いに異なるエステル結合形成性官能基
m:0又は1
n:2以上の整数
【請求項4】
少なくとも基材層の両側に磁性層とバックコート層を有する磁気記録媒体におけるバックコート層の塗料として用いる請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項5】
少なくとも基材層の両側に磁性層とバックコート層を有する磁気記録媒体において、バックコート層の塗料として請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤を塗布した磁気記録媒体。

【公開番号】特開2007−39559(P2007−39559A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225500(P2005−225500)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】