説明

コーティング剤組成物及びその製造方法、該組成物で被覆又は表面処理されてなる物品

【課題】水溶性が高く、接着性が良好であり、機械的強度、耐水耐煮沸性、耐候性等の改善効果に優れたプライマーあるいは複合材料用改質剤となり得るコーティング剤組成物及びその製造方法、並びにこの組成物が被覆又は表面処理されてなる物品を提供する。
【解決手段】式(1)


(式中、10≦m≦260、1≦n≦100、R1は水素原子、アルキル基又はアセチル基、a及びbは1〜3、Xは置換基を有しても良いアルキレン鎖で、置換基はアルキル基、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基、R2〜R5は水素原子又はアルキル基で、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
で表される繰り返し単位を有する、複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基とを有する含ケイ素水溶性高分子化合物と、有機溶剤及び/又は水とを含むコーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有水溶性高分子化合物を主成分とするコーティング剤組成物及びその製造方法、並びにこの組成物で被覆又は表面処理されてなる物品に関するものである。更に詳しくは、化合物中に複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基を有し、改良された性質を示すプライマーあるいは複合材料用改質剤として有効なケイ素含有水溶性高分子化合物を主成分としたコーティング剤組成物、その製造方法、並びにこの組成物で被覆又は表面処理されてなる物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無機質補強材としてガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品やマイカ製品をエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の有機樹脂で処理した複合材料が各種用途に幅広く用いられている。
【0003】
このような複合材料から作られる積層板については、機械的強度、電気特性、耐水耐煮沸性、耐薬品性、耐候性といった種々の物性を改良するため、上記無機補強材料をγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤で予備処理してから有機樹脂で処理することで、無機質補強剤と樹脂の接着性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
一方、複合材料のうち有機樹脂として、フェノール樹脂を使用したものについては、その耐熱性、寸法安定性、成形性に優れることから、成形材料として自動車、電気、電子等の基幹産業分野において長期にわたり使用されている。特に最近では、コストダウン及び軽量化等を目的に金属部品をガラス繊維で強化した高強度のフェノール樹脂成形品に置換する試みが、積極的に行われている。しかし、今後更に金属代替を進めるためには、従来のガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料にはない高強度を有することがポイントとなってくる。高強度を達成するためには、上記に示すようなガラス繊維をアミン系シランカップリング剤で処理してマトリックス樹脂との密着性を上げる方法が数多く提案されているが、これらカップリング剤単独処理だけによる強度向上効果には限界がある。そこで、ガラス繊維とマトリックス樹脂の密着性を更に改善するための手法について幾つか提案されている。
【0005】
特開昭52−12278号公報(特許文献1)には、熱硬化性樹脂に混合するためのガラス繊維として、該ガラス繊維の表面に該熱硬化性樹脂と互いに相溶性を有する処理用樹脂あるいは該処理用樹脂とシランカップリング剤等の処理剤とを密着したガラス繊維の処理方法が開示されており、この繊維を樹脂に分散することにより高強度化がなされるとの記載がある。しかし、この技術では成形材料の強度向上効果が小さいばかりか、ガラス繊維を処理する段階でオートクレーブ処理をする必要があり経済的でない。また、ジアリルフタレートポリマーマトリックスに対し、ジアリルフタレートポリマーとシランカップリング剤とで処理したガラス繊維を用いており、これらジアリルフタレート樹脂間の反応や相互作用効果による強度向上効果しか示しておらず、フェノール樹脂成形材料に関する記載はない。
【0006】
特開平10−7883号公報(特許文献2)には、ガラス繊維を先ずマトリックスのフェノール樹脂と同じ種類のフェノール樹脂にてサイジングした後、更にカップリング剤処理して得たガラス繊維をフェノール樹脂組成物に配合することにより回転破壊強度を向上させる方法が開示されている。しかし、この方法ではガラス繊維表面を直接フェノール樹脂で処理することになる。一般にフェノール樹脂とガラス繊維間の化学結合力は乏しく、繊維とマトリックス樹脂間の強固な密着性が得られないことから、この方法では十分な成形材料の強度向上効果が得られない。
【0007】
上記に関連して、特開2001−270974号公報(特許文献3)には、ガラス繊維に対してマトリックスのフェノール樹脂と同じ種類のフェノール樹脂とアミン系シランカップリング剤を同時に処理、又はシランカップリング剤を処理した後にマトリックスのフェノール樹脂と同じ種類のフェノール樹脂を処理したものをフェノール樹脂組成物に配合することにより、常温及び熱時において機械的強度を向上させる方法が開示されている。しかしながら、この方法で用いているアミン系シランカップリング剤は加水分解性シリル基1つに対して一級アミノ基及び二級アミノ基を1〜2つ持つものであり、ガラス繊維に処理したカップリング剤とフェノール樹脂間の結合度は十分であるとは言いがたく、樹脂組成物の強度を減少させる要因であると考えられる。
【0008】
【特許文献1】特開昭52−12278号公報
【特許文献2】特開平10−7883号公報
【特許文献3】特開2001−270974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、水溶性が高く、無機材質及び有機樹脂との接着性が良好であり、機械的強度、耐水耐煮沸性、耐候性等の改善効果に優れたプライマーあるいは複合材料用改質剤となり得るコーティング剤組成物及びその製造方法、並びにこの組成物が被覆又は表面処理されてなる物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、かかる目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、無機材質と反応して化学結合を形成するシリル基と、有機樹脂と反応して化学結合を形成するアミノ基を複数有するケイ素含有水溶性高分子化合物を主成分とするコーティング剤組成物が、プライマーあるいは複合材料用樹脂改質剤として用いた場合に、従来のアミン系シランカップリング剤に比べ、有機樹脂との反応点が増加し、それにより有機樹脂との結合力が強まるため、接着性が向上するという優れた結果が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記に示すコーティング剤組成物及びその製造方法、該組成物を被覆又は表面処理してなる物品を提供する。
〔1〕下記一般式(1)
【化1】

(式中、mは10≦m≦260、nは1≦n≦100であり、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a及びbは1〜3の整数であり、Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン鎖であり、置換基は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基を表し、R2、R3、R4及びR5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
で表される繰り返し単位を有する、複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基とを有する含ケイ素水溶性高分子化合物と、有機溶剤及び/又は水とを含むことを特徴とするコーティング剤組成物。
〔2〕一般式(1)のm,nが、0.003≦n/(m+n)≦0.9を満足することを特徴とする〔1〕記載のコーティング剤組成物。
〔3〕含ケイ素水溶性高分子化合物の重量平均分子量が300〜3000である、〔1〕又は〔2〕記載のコーティング剤組成物。
〔4〕下記一般式(3)
【化2】

(式中、mは10≦m≦260、nは1≦n≦100である。)
で示される一級アミノ基を有する水溶性高分子化合物と、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a及びbは1〜3の整数であり、Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン鎖であり、置換基は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基を表し、R2、R3、R4及びR5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
で示されるエポキシ基を有するケイ素化合物とをアルコール及び/又は水中で反応させて、下記一般式(1)
【化4】

(式中、m、n、a、b、X、Y、R1〜R4は上記の通り。)
で表される繰り返し単位を有する、複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基とを有する含ケイ素水溶性高分子化合物と、アルコール及び/又は水とを含むことを特徴とするコーティング剤組成物の製造方法。
〔5〕一般式(1)のm,nが、0.003≦n/(m+n)≦0.9を満足することを特徴とする〔4〕記載のコーティング剤組成物の製造方法。
〔6〕含ケイ素水溶性高分子化合物の重量平均分子量が300〜3000である、〔4〕又は〔5〕記載のコーティング剤組成物の製造方法。
〔7〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のコーティング剤組成物で被覆又は表面処理されてなる物品。
〔8〕コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である〔7〕記載の物品。
〔9〕コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、無機フィラーである〔7〕記載の物品。
〔10〕コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、セラミック又は金属である〔7〕記載の物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング剤組成物は、主成分である含ケイ素水溶性高分子化合物の分子内に加水分解性シリル基一つに対して複数の一級アミノ基を有しており、従来のアミン系シランカップリング剤に比べ、有機樹脂との反応点が増加し、それにより有機樹脂との結合力が強まるため、プライマー、特に複合材料の改質剤として用いた際にその接着性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のコーティング剤組成物の主成分である含ケイ素水溶性高分子化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化5】

(式中、mは10≦m≦260、nは1≦n≦100であり、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a及びbは1〜3の整数であり、Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン鎖であり、置換基は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基を表し、ここにR2、R3、R4及びR5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
【0014】
上記式(1)中、R1は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基である。また、R2〜R5は水素原子、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基であるが、R3又はR4とR5が結合してシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の飽和炭素環を形成しても良い。
【0015】
また、Xは置換基を有しても良いメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、1,4−シクロへキシレン基、1,2−シクロへキシレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,4−シクロオクチレン基、1,4−シクロヘキサンジメチレン基等の炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン鎖であり、置換基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基である。
【0016】
m,nは、10≦m≦260,1≦n≦100であり、好ましくは10≦m≦100,1≦n≦80であり、更に好ましくは10≦m≦75,1≦n≦50である。また、0.003≦n/(m+n)≦0.9、特に0.06≦n/(m+n)≦0.5で、シリル基一つに対してアミノ基を複数有するものが好ましい。
【0017】
このケイ素含有水溶性高分子化合物は、一級アミノ基を複数有しており、その化合物の構造中における一部のアミノ基とシランカップリング剤とが反応し結合を形成している。具体的に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた場合は、エポキシ基が開環してアミノ基の窒素原子に結合した構造となる。ここで、上記に述べたアミノ基とシランカップリング剤との反応は、高分子化合物を形成する前に行っても、また高分子化合物を形成した後に行っても良い。すなわち、一級アミノ基を複数有する水溶性高分子化合物に、シランカップリング剤を反応させることによって、その水溶性高分子化合物に加水分解性シリル基を導入することも可能であるし、また一級アミノ基を有するアミノ化合物とシランカップリング剤を反応させた後、重合又は重縮合反応を行うことにより加水分解性シリル基を導入した水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0018】
本発明のケイ素含有水溶性高分子化合物において、加水分解性シリル基を導入するための一級アミノ基と反応し結合を形成するシランカップリング剤としては、下記一般式(2)で示されるエポキシ基を有するケイ素化合物が例示される。
【0019】
【化6】

(式中、a及びb、R1〜R4、X、Yは上記の通り。)
【0020】
このようなケイ素化合物の具体例としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルジメチルメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、グリシドキシメチルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが特に好ましく、これらのケイ素化合物は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
一方、ケイ素含有水溶性高分子化合物の基体樹脂となる一級アミノ基を有する水溶性高分子化合物としては、一級アミノ基を有する重合性モノマーであるアリルアミンのホモ重合によって得られるポリアリルアミンが挙げられる。また、他に水溶性を妨げない範囲で他のビニルモノマーが重合していても良い。
【0022】
好ましくは、下記一般式(3)
【化7】

(式中、m,nは上記の通り。)
で示される一級アミノ基を有する水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0023】
本発明においては、特に上記式(3)で示される一級アミノ基を有する水溶性高分子化合物と、上記式(2)で示されるエポキシ基を有するケイ素化合物とをアルコール及び/又は水中で反応させることが好ましい。
【0024】
この場合、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールといった炭素数1〜4の低級アルコール等が挙げられ、特にメタノール、エタノールが好ましい。
また、アルコール及び/又は水の仕込み量は、不揮発分が20〜50質量%となる量とすることが好ましい。なお、アルコールと水とを混合使用する場合、水1質量部に対してアルコールが7〜9質量部の割合であることが好ましい。
【0025】
ここで、一般式(1)において、m,nはそれぞれ分子中のアリルアミンユニットと、アリルアミンとシランが反応したユニットの数を示しており、mとnの比率が分子中の一級アミノ基とシリル基の比率を示している。260<m又は100<nである場合には、分子量が大きく、合成の段階で非常に高粘度となるため安定した製造ができない。また、m<10である場合、特にm=0である場合には、十分な水溶性が得られない。n<1である場合には無機材質との密着性が不足する。
【0026】
上記ケイ素含有水溶性高分子化合物は、基体樹脂であるポリアリルアミンと反応させるシランカップリング剤が、いずれの場合も導入されるシリル基の量(n)と残存するアミノ基の量(m)の比率が0.003≦n/(m+n)≦0.9であることが好ましく、より好ましくは0.06≦n/(m+n)≦0.5である。この範囲より小さい場合、無機材質との密着性が不足するおそれがあり、大きい場合は水溶性が不足するおそれがある。
従って、上記式(3)の高分子化合物と式(2)のケイ素化合物とは、上記m,nとなるように選定、使用することが好ましい。
【0027】
上記反応における反応温度は、一般に100℃以下、特に25〜70℃が好ましい。また、反応時間は便宜選定されるが、通常1〜100時間、特に2〜50時間であることが好ましい。
【0028】
コーティング剤組成物の主成分であるケイ素含有水溶性高分子化合物は、化合物の重量平均分子量が300〜3000であることが好ましく、より好ましくは1000〜2000である。分子量が3000を超える場合、化合物がゲル化し易く、製造及び保存が困難である可能性がある。また、分子量が300未満である場合、重合の制御ができず、ポリマー自体の合成が困難である可能性がある。
なお、この分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0029】
本発明のコーティング剤組成物に含有される有機溶剤及び/又は水は、全体の10〜95質量%となるような含有量であり、特に20〜90質量%であることが好ましく、残部はケイ素含有水溶性高分子化合物である。
また、有機溶剤としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが特に好ましい。
【0030】
本発明のコーティング剤組成物は、無機材質と反応して化学結合を形成するシリル基と、有機樹脂と反応して化学結合を形成するアミノ基とを有するため、プライマー、あるいは無機材質と有機樹脂との複合材料の改質剤として好適に用いることができる。
【0031】
本発明のコーティング剤組成物で被覆又は表面処理される基材としては、一般に加水分解性シリル基と反応し、結合を形成する無機材質及びアミノ基と反応して結合する有機樹脂であれば適用可能であり、基材の形状については特に指定されない。その中でも代表的な無機材質としては、シリカ等の無機フィラーやガラス繊維をはじめとしたガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品、セラミック、鉄、アルミニウム、銅、銀、金、マグネシウム等の金属基材等が挙げられる。また、代表的な有機樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。なお、ここに例示したものに限定されるものではない。
【0032】
本発明のコーティング剤組成物の上記基材への被覆又は表面処理方法、硬化条件等としては特に限定されるものではないが、具体的に、被覆又は表面処理方法としては、フローコート(浸漬法)、スピンコート等が挙げられる。また代表的な硬化条件としては、加熱・乾燥が挙げられ、処理後は60℃〜180℃、好ましくは80℃〜150℃で5分〜2時間加熱・乾燥し、溶媒の除去と同時にコーティング組成物中の主剤と基材表面とを化学反応させることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記例中、pH及び粘度は25℃において測定した。また、例中でGCはガスクロマトグラフィーの略であり、NMRは核磁気共鳴分光法の略である。平均分子量は、GPCのポリスチレン換算重量平均分子量であり、粘度はB型回転粘度計(25℃)の測定に基づく。
【0034】
[実施例1]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−01型、平均分子量1000〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン77.9質量部(0.33モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物は水と速やかに混和する黄色透明の溶液で、pH11.7、粘度2.7mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約17であり、平均構造式は
【化8】

であった。
【0035】
[実施例2]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−01型、平均分子量1000〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン40.1質量部(0.17モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物は水と速やかに混和する黄色透明の溶液で、pH11.4、粘度2.1mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約17であり、平均構造式は
【化9】

であった。
【0036】
[実施例3]
20質量%ポリアリルアミン水溶液〔平均分子量700〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン96.8質量部(0.42モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物は水と速やかに混和する黄色透明の溶液で、pH11.8、粘度2.3mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約12であり、平均構造式は
【化10】

であった。
【0037】
[実施例4]
20質量%ポリアリルアミン水溶液〔平均分子量2500〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン96.8質量部(0.42モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物は水と速やかに混和する黄色透明の溶液で、pH12.0、粘度14.8mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約44であり、平均構造式は
【化11】

であった。
【0038】
[実施例5]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−01型、平均分子量1000〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン81.2質量部(0.33モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物は水と速やかに混和する黄色透明の溶液で、pH11.5、粘度3.5mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約17であり、平均構造式は
【化12】

であった。
【0039】
[比較例1]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−15型、平均分子量25000(式(3)においてm+n>360)〕500.0質量部を減圧下で水の溜去を行った。水が減少するにつれて粘度が増加し、ハンドリングが非常に困難な状態になり、これ以上の水分除去が不可能となった。この中にメタノールを加えて固形分を溶解し、15質量%メタノールと水の混合溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン77.9質量部(0.33モル)を加えたところ、シランのゲル化が起こり、これ以上の合成が不可能となった。
【0040】
[比較例2]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−01型、平均分子量1000〕500.0質量部を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とした。この中に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン309.2質量部(1.31モル)を加えて、60℃〜70℃で5時間撹拌した。反応が進行することで原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは消費される。そこで、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのピークは検出されなかった。また、ケイ素のNMRを測定したところ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのシグナルはなく、新たに目的化合物由来と思われるシグナルを確認した。以上より、反応は完了したと判断し、溶液をメタノールで希釈して有効成分が15質量%となるように調整し、プライマー組成物を得た。この組成物はpH11.9、粘度3.5mPa・sであり、基体ポリマー部分の重合度は約17であり、平均構造式は
【化13】

であった。しかし、この溶液を水と混和させると白濁してしまい、水溶性が不十分であった。
【0041】
[比較例3]
3−アミノプロピルトリメトキシシランをメタノールで希釈して15質量%の溶液とし、プライマー組成物を得た。
【0042】
[比較例4]
15質量%ポリアリルアミン水溶液〔日東紡績(株)製、PAA−01型、平均分子量1000〕500.0質量部(0.075モル,分子量1000としてのポリアリルアミンの物質量)を減圧下で水分を除去し、メタノールを加えて溶媒交換し、15質量%メタノール溶液とすることで、プライマー組成物を得た。
【0043】
接着性試験用ポリウレタンエラストマーの調製
分子量1000のポリオキシテトラメチレングリコール150質量部、1,6−キシレングリコール100質量部、水0.5質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート200質量部及びジメチルホルムアミド800質量部を撹拌しつつ混合して90℃に加熱し、そのまま2時間撹拌して反応させた後、ジブチルアミンを3質量部添加して反応を停止させ、次いで過剰量のアミンを無水酢酸で中和してポリウレタンエラストマーを得た。
【0044】
プライマーの接着試験
ガラス板、鉄板、アルミニウム板夫々に対し、本実施例及び比較例で得た前記プライマー組成物を刷毛で塗布し、120℃で5分間乾燥した後、更にポリウレタンエラストマーを刷毛で塗布し、100℃で10分間乾燥した。次いで、得られた塗膜に1mm間隔で縦横に切れ目を入れて100個の碁盤目を形成させた後、セロハンテープで圧着してから剥離させて、剥離した碁盤目の数からプライマーのウレタン樹脂及び無機基材との接着性を評価した。実施例で得たプライマー組成物に関しては、いずれの基材の場合にも剥離した碁盤目はまったくなく、極めて接着性能が良好であった。
【0045】
プライマーの水溶性試験
本実施例及び比較例で得られたプライマー組成物を10質量%の水溶液として約10時間静置した。その後、溶液の不溶分による濁り及び析出物、層分離等の有無を目視で確認した。
【0046】
実施例及び比較例を含めた接着試験及び水溶性試験の結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
以上の実施例及び比較例の結果は、本発明のプライマー組成物が接着性に対して良好な結果を与えることを実証するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、mは10≦m≦260、nは1≦n≦100であり、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a及びbは1〜3の整数であり、Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン鎖であり、置換基は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基を表し、R2、R3、R4及びR5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
で表される繰り返し単位を有する、複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基とを有する含ケイ素水溶性高分子化合物と、有機溶剤及び/又は水とを含むことを特徴とするコーティング剤組成物。
【請求項2】
一般式(1)のm,nが、0.003≦n/(m+n)≦0.9を満足することを特徴とする請求項1記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
含ケイ素水溶性高分子化合物の重量平均分子量が300〜3000である、請求項1又は2記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
下記一般式(3)
【化2】

(式中、mは10≦m≦260、nは1≦n≦100である。)
で示される一級アミノ基を有する水溶性高分子化合物と、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a及びbは1〜3の整数であり、Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン鎖であり、置換基は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは直接結合、酸素原子又はCHR5基を表し、R2、R3、R4及びR5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、R3又はR4とR5が結合して飽和炭素環を形成しても良い。)
で示されるエポキシ基を有するケイ素化合物とをアルコール及び/又は水中で反応させて、下記一般式(1)
【化4】

(式中、m、n、a、b、X、Y、R1〜R4は上記の通り。)
で表される繰り返し単位を有する、複数の一級アミノ基と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基とを有する含ケイ素水溶性高分子化合物と、アルコール及び/又は水とを含むことを特徴とするコーティング剤組成物の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)のm,nが、0.003≦n/(m+n)≦0.9を満足することを特徴とする請求項4記載のコーティング剤組成物の製造方法。
【請求項6】
含ケイ素水溶性高分子化合物の重量平均分子量が300〜3000である、請求項4又は5記載のコーティング剤組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1,2又は3記載のコーティング剤組成物で被覆又は表面処理されてなる物品。
【請求項8】
コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である請求項7記載の物品。
【請求項9】
コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、無機フィラーである請求項7記載の物品。
【請求項10】
コーティング剤組成物により被覆又は表面処理される基材が、セラミック又は金属である請求項7記載の物品。

【公開番号】特開2008−174604(P2008−174604A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7675(P2007−7675)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】