説明

コーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法

【課題】帯電防止性が良好な上、光学的な欠陥が抑制されたコーティング膜を与えることができるコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法、及びこれにより得られるコーティング剤組成物用帯電防止剤と、該コーティング剤組成物用帯電防止剤を含有するコーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】酸及び/又はその塩の存在下、中和して得られた特定のアニオン系界面活性剤を含む水系組成物と有機溶媒との混合液を脱水処理し、得られた脱水処理物を吸着剤で吸着処理するコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法であって、前記有機溶媒は、1013hPaにおける沸点が150〜250℃であり、前記吸着剤は、酸化アルミニウムを25〜70重量%含有する、コーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法、及び該製造方法で得られるコーティング剤組成物用帯電防止剤と、該コーティング剤組成物用帯電防止剤を含有するコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装や印刷等の分野でフィルム特性や表面特性を改善するために、コーティング剤によるコーティングが行われている。
【0003】
しかし、いずれの分野においても、コーティングを実施した場合、乾燥後の被膜(コーティング膜)あるいは硬化後のコーティング膜は、帯電防止効果に乏しく、コーティング膜が帯電するため、帯電による種々のトラブルを多く発生させていた。
【0004】
かかる問題を解決するために、下記特許文献1には、有機溶媒系のアニオン系界面活性剤組成物を帯電防止剤としてコーティング剤に添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−191684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたアニオン系界面活性剤は、その未中和物である硫酸化物とトリエタノールアミンなどのアミン類とを水系溶媒中で中和させて得られる。この際、速やかに中和工程を進行させる目的で、通常、酸(無機酸や有機低級酸等)及び/又はその塩が水系溶媒中に添加される。
【0007】
中和工程で添加される前記酸及び/又はその塩は、コーティング膜を形成する際に該膜中で析出し、光学的な欠陥(例えば、光のゆがみなど)の原因となることが、本発明者らの検討により判明した。
【0008】
本発明は、帯電防止性が良好な上、光学的な欠陥が抑制されたコーティング膜を与えることができるコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法、及びこれにより得られるコーティング剤組成物用帯電防止剤と、該コーティング剤組成物用帯電防止剤を含有するコーティング剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法は、酸及び/又はその塩の存在下、中和して得られたアニオン系界面活性剤を含む水系組成物と有機溶媒との混合液を脱水処理し、得られた脱水処理物を吸着剤で吸着処理するコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法であって、
前記アニオン系界面活性剤は、下記式(I)
【化1】

(但し、式中、Rは炭素数8〜22のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜30の数、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である)で表される化合物であり、
前記有機溶媒は、1013hPaにおける沸点が150〜250℃であり、
前記吸着剤は、酸化アルミニウムを25〜70重量%含有する、コーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法である。
【0010】
本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤は、前記本発明の製造方法により得られるコーティング剤組成物用帯電防止剤である。
【0011】
本発明のコーティング剤組成物は、前記本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤と、コーティング樹脂又はコーティング樹脂用単量体と、有機溶剤とを含有するコーティング剤組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法によれば、帯電防止性が良好な上、光学的な欠陥が抑制されたコーティング膜を与えることができるコーティング剤組成物用帯電防止剤を提供できる。また、本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤及びコーティング剤組成物によれば、帯電防止性が良好な上、光学的な欠陥が抑制されたコーティング膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[アニオン系界面活性剤]
本発明のコーティング剤組成物用帯電防止剤(以下、単に「帯電防止剤」ともいう)の製造方法では、前記式(I)で表されるアニオン系界面活性剤(以下、単に「化合物(I)」ともいう)を使用する。
【0014】
前記式(I)において、有機溶媒に対する溶解性の観点から、Rは炭素数8〜22のアルキル基を示すが、炭素数8〜18のアルキル基が好ましく、炭素数8〜14のアルキル基がより好ましい。帯電防止性及び有機溶媒に対する溶解性の観点から、Aは炭素数2〜4のアルキレン基であり、エチレン基が好ましい。帯電防止性及び有機溶媒に対する溶解性の観点から、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜30の数であり、1〜20の数が好ましく、1〜10の数がより好ましく、1〜5の数が更に好ましい。R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を示すが、帯電防止性及び有機溶媒に対する溶解性の観点から、R1、R2、R3の少なくとも1つは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R1、R2、R3の少なくとも1つはヒドロキシエチル基であることがより好ましく、R1、R2、R3の全てがヒドロキシエチル基であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明において、化合物(I)は、単独で使用しても良く、帯電防止性を有する他の化合物と混合して使用しても良い。ただし、帯電防止性能、及びコーティング膜の光学的欠陥抑制の観点から、帯電防止性を有する化合物の合計100重量部に対し、化合物(I)が50重量部以上であることが好ましく、70重量部以上であることがより好ましく、90重量部以上であることが更に好ましい。
【0016】
[化合物(I)の製造方法]
化合物(I)は、酸及び/又はその塩の存在下、下記式(II)で表される化合物(以下、単に「化合物(II)」ともいう)を中和して得られる。なお、下記式(II)中、R、A及びnは前記化合物(I)の場合と同様である。
【0017】
【化2】

【0018】
化合物(II)を得る方法としては、例えば下記式(III)で表される化合物をクロロスルホン酸や無水硫酸(SOガス)と反応させて硫酸化する方法が挙げられる。なお、下記式(III)中、R、A及びnは前記化合物(I)の場合と同様である。
【0019】
【化3】

【0020】
化合物(II)の具体例としては、ポリ(0〜30)オキシエチレンオクチルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンノニルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンミリスチルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンセシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンステアリルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンベヘニルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシプロピレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシプロピレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシプロピレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシエチレンプロピレンミリスチルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシブテンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシプロピレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシブテンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜30)オキシブテンミリスチルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜15)オキシエチレンポリ(0〜15)オキシプロピレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜15)オキシエチレンポリ(0〜15)オキシプロピレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜15)オキシエチレンポリ(0〜15)オキシプロピレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(0〜15)オキシエチレンポリ(0〜15)オキシプロピレンミリスチルエーテル硫酸エステル等が挙げられるが、化合物(I)の帯電防止性及び有機溶媒に対する溶解性の観点から、ポリ(1〜20)オキシエチレンオクチルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンノニルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンミリスチルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンセシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンステアリルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜20)オキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜15)オキシエチレンポリ(1〜15)オキシプロピレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜15)オキシエチレンポリ(1〜15)オキシプロピレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜15)オキシエチレンポリ(1〜15)オキシプロピレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜15)オキシエチレンポリ(1〜15)オキシプロピレンミリスチルエーテル硫酸エステルが好ましく、ポリ(1〜15)オキシエチレンオクチルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜5)オキシエチレンノニルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜5)オキシエチレンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜5)オキシエチレンウンデシルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜5)オキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリ(1〜5)オキシエチレンミリスチルエーテル硫酸エステルがより好ましい。なお、上記括弧内の数値はオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。
【0021】
前記酸及び/又はその塩は、中和促進剤及び/又は減粘剤として用いられる。その具体例としては、得られる化合物(I)を含む水系組成物の粘度上昇や部分ゲル化を抑制する観点から、無機酸及び/又はその塩が好ましく、無機酸がより好ましく、更に好ましくは塩酸、硫酸、リン酸である。前記酸及び/又はその塩の水系組成物への添加量は、水系組成物の粘度上昇や部分ゲル化を抑制する観点から、中和する対象物である化合物(II)100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、0.05〜3重量部がより好ましく、0.05〜2重量部が更に好ましい。
【0022】
化合物(II)を中和するための中和剤としては、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルモノエタノールアミン、及びモノメチルジエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましいが、有機溶媒への溶解性の観点から、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミンがより好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが更に好ましい。前記中和剤の水系組成物への添加量は、コーティング膜の光学的欠陥抑制の観点から、中和する対象物である化合物(II)1molに対して、0.95〜1.4molの割合が好ましく、より好ましくは、0.97〜1.4mol、更に好ましくは0.98〜1.3molであり、更により好ましくは0.98〜1.2molである。
【0023】
化合物(II)を中和する工程は、化合物(II)と、前記酸及び/又はその塩と、前記中和剤とを混合することにより行うことが好ましい。混合方法は、特に限定がなく、例えば、前記中和剤、並びに前記酸及び/又はその塩を含有する水系組成物中に、化合物(II)を添加する方法や、前記酸及び/又はその塩を含有する水系組成物中に、化合物(II)及び前記中和剤を独立に添加する方法が挙げられるが、水系組成物の粘度上昇や部分ゲル化を抑制する観点から、前記中和剤、並びに前記酸及び/又はその塩を含有する水系組成物中に、化合物(II)を添加する方法が好ましい。前記水系組成物に使用される水系溶媒は、水を主成分とするものであり、水系溶媒全体に対する水の含有量が70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、99重量%以上であることが更に好ましく、実質100重量%であることが更により好ましい。なお、前記水系組成物には、水以外に、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等のアルコール類が含有されていてもよい。
【0024】
前記混合の際の、前記中和剤、並びに前記酸及び/又はその塩を含有する水系組成物の温度は、着色を防ぐ観点から、10〜60℃が好ましい。また、前記混合の際の水系組成物全体に対する化合物(II)の配合量は、粘度などの取り扱い性の観点から、10〜60重量%が好ましく、20〜50重量%がより好ましい。
【0025】
[化合物(I)を含む水系組成物と有機溶媒との混合液]
本発明では、前記のようにして得られた化合物(I)を含む水系組成物と、有機溶媒とを混合する。混合に用いる有機溶媒は、後述する脱水時における水との共沸を避ける観点から、1013hPaにおける沸点(以下、単に「沸点」ともいう)が150〜250℃のものを用いる。また、コーティング膜中に有機溶媒が残存した場合、汚染などの悪影響が考えられるため、この観点を加味すると、有機溶媒の沸点は180〜250℃が好ましい。
【0026】
前記有機溶媒としては、入手容易性及び取り扱い性の観点から、アルコール類及びグリコール類から選ばれる1種以上であることが好ましい。具体的にはベンジルアルコール(沸点206℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点250℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点167℃)エチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点245℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点200℃)、エチレングリコール(沸点197℃)などが挙げられる。本発明では、これらの有機溶媒を単独で使用してもよく、複数組み合わせて使用してもよい。中でも、化合物(I)の溶解性の観点から、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルがより好ましく、更に好ましくはベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルである。
【0027】
化合物(I)を含む水系組成物と有機溶媒とを混合して混合液を得る方法は、特に限定されず、化合物(I)を含む水系組成物に有機溶媒を添加しても良いし、その逆でも良いし、共通の容器に同時投入を行っても良い。混合の際、化合物(I)を含む水系組成物及び有機溶媒の温度は、着色を防止する観点から、いずれも60℃以下が好ましく。0〜60℃がより好ましく、10〜60℃が更に好ましい。混合時間は、製造コストの観点から、1〜10分が好ましく、1〜5分がより好ましい。
【0028】
[脱水処理]
本発明では、前記のようにして得られた混合液を脱水処理する。脱水処理としては減圧して水を気化させて除去する方法が挙げられる。脱水処理は、発泡、化合物(I)の熱分解、着色などを避けるため、好ましくは10〜500hPaの圧力下、より好ましくは20〜150hPaの圧力下において、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜95℃、更に好ましくは40〜90℃の温度下で行う。また、脱水処理中は、突沸や発泡抑制のため、撹拌しながら行うことが好ましい。脱水処理後、系内の圧力を常圧(1013hPa程度)に戻し、温度を10〜40℃に戻すことが好ましい。
【0029】
[吸着処理]
本発明では、前記脱水処理で得られた脱水処理物(前記混合液から水が除去されたもの)を吸着剤で吸着処理する。これにより、前記中和工程に由来する不純物(添加した酸及び/又はその塩に由来する塩等)を除去することができる。吸着剤としては、酸化アルミニウムを25〜70重量%含有するものを用いる。吸着処理は、脱水処理物と吸着剤を混合することにより行われるが、その方法に特に制限はなく、脱水処理物に一度に吸着剤を添加する方法や、徐々に吸着剤を添加する方法などが挙げられる。
【0030】
本発明に用いる吸着剤は、コーティング膜の光学的欠陥抑制の観点から、酸化アルミニウム含有量が25〜70重量%であるが、好ましくは40〜65重量%であり、より好ましくは、50〜65重量%である。前記吸着剤は、酸化アルミニウム以外に、二酸化ケイ素、酸化マグネシウムなどを含んでいてもよい。
【0031】
前記吸着剤の具体例としては、協和化学社製キョーワード200S(酸化アルミニウム含有量54重量%)、協和化学社製キョーワード300(酸化アルミニウム含有量26重量%)などが挙げられる。
【0032】
前記吸着剤の添加量は、コーティング膜の光学的欠陥抑制の観点とコスト低減の観点から、前記脱水処理物100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.2〜7重量部であり、更に好ましくは0.3〜5重量部である。
【0033】
吸着処理の際、着色を抑制する観点から、脱水処理物と吸着剤の混合物の温度は30〜100℃が好ましく、より好ましくは40〜90℃である。同様の観点から、特に脱水処理物に吸着剤を添加する場合、脱水処理物の温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは10〜70℃、更に好ましくは10〜50℃である。また、脱水処理物と吸着剤の混合時間は、生産性と吸着除去性の観点から、0.5〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
【0034】
本発明では、前記のようにして得られた吸着処理物から、ろ過工程等により吸着剤を除去して、化合物(I)の有機溶媒溶液(帯電防止剤)を得ることができる。ろ過工程を行う場合は、ろ過効率と着色抑制の観点から、吸着処理物をろ過工程に供する前に、吸着処理物の温度を0〜40℃にすることが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法により得られる帯電防止剤(本発明の帯電防止剤)は、中和工程に由来する不純物が少ないため、コーティング剤組成物に用いた場合、不純物による析出が低減され、コーティング膜の光学的欠陥を抑制できる。本発明の帯電防止剤は、コーティング膜の光学的欠陥抑制の観点から、前記添加した酸及び/又はその塩に由来する塩の濃度が400重量ppm以下であることが好ましく、250重量ppm以下であることがより好ましい。例えば、塩酸及び/又はその塩を添加した場合は、塩化物イオンの濃度が70重量ppm以下であることが好ましく、50重量ppm以下であることがより好ましい。前記添加した酸及び/又はその塩に由来する塩の濃度を前記範囲内に抑制するには、吸着剤中の酸化アルミニウムの含有量や、脱水処理物に対する吸着剤の添加量、あるいは、脱水処理物中の有機溶媒の種類や含有量、吸着工程における処理温度や処理時間等を調整することにより達成できる。
【0036】
本発明の帯電防止剤中の化合物(I)の含有量は、粘度などの取り扱い性の観点から、10〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。また、本発明の帯電防止剤中の水の含有量は、コーティング膜の強度の維持、及び透明性等のコーティング膜物性の低下を抑制する観点から、5重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましい。同様の観点から、本発明の帯電防止剤中の有機溶媒の含有量は、15〜85重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0037】
[コーティング剤組成物]
本発明のコーティング剤組成物は、上述した本発明の帯電防止剤と、コーティング樹脂又はコーティング樹脂用単量体と、有機溶剤とを含有する。前記コーティング剤組成物中の帯電防止剤の含有量は、帯電防止性及び有機溶剤への溶解性の観点から、コーティング樹脂又はコーティング樹脂用単量体100重量部に対し、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。
【0038】
本発明のコーティング剤組成物に用いられるコーティング樹脂は、有機溶剤で溶液状にして、例えばインキ、塗料、バインダー等として、基材へのコーティングに用いるのに好適な樹脂であれば特に限定されないが、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。あるいは、ジイソシアネート化合物でコーティング膜を硬化させる熱硬化型や、紫外線照射によりコーティング膜を硬化させる紫外線硬化型等の樹脂が挙げられる。これらのコーティング樹脂の中では、透明性を保持する観点から、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0039】
また、本発明のコーティング剤組成物には、前記コーティング樹脂の代わりに、コーティング樹脂用単量体を用いてもよい。コーティング樹脂用単量体としては、上述したコーティング樹脂の原料となる単量体等が例示できる。
【0040】
本発明のコーティング剤組成物に用いられる有機溶剤は、特に限定されないが、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。これらの中では、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ノルマルヘキサン、酢酸n−ブチル、酢酸n−エチル、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0041】
本発明のコーティング剤組成物中のコーティング樹脂又はコーティング樹脂用単量体の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは40〜80重量%であり、より好ましくは45〜80重量%であり、さらに好ましくは50〜75重量%である。
【0042】
本発明のコーティング剤組成物中の有機溶剤の含有量は、塗工性の観点から、10〜50重量%が好ましく、15〜40重量%がより好ましく、さらに好ましくは20〜30重量%である。
【0043】
本発明のコーティング剤組成物は水を含有することができるが、コーティング膜の強度や透明性等のコーティング膜物性の低下を抑制する観点から、コーティング剤組成物中の水の含有量は5重量%未満が好ましく、1重量%未満がより好ましく、水を実質的に含まないことが更に好ましい。
【0044】
本発明のコーティング剤組成物には、前記成分以外に、通常使われるジイソシアネート化合物等の硬化剤、顔料・染料、あるいはガラスビーズ、ポリマービーズ、無機ビーズ等のビーズ類や、炭酸カルシウム、タルク等の無機充填材類、潤滑剤、安定剤、紫外線吸収剤、過酸化物等の重合開始剤などの添加剤を配合できる。
【0045】
本発明のコーティング剤組成物は、基材に塗工して種々の機能を発現することができる樹脂組成物であり、例えば、ポリマービーズ、コーティング樹脂及び有機溶剤を組み合わせたものは、光拡散フィルムとして機能し、粘着性のあるコーティング樹脂及び有機溶剤を組み合わせたものは、粘着フィルムとして機能し、顔料、コーティング樹脂及び有機溶剤を組み合わせたものは、塗料として機能を発現する。
【0046】
本発明のコーティング剤組成物により得られたコーティング膜の表面固有抵抗値は、帯電防止性を維持する観点から、好ましくは1×1012Ω以下である。尚、表面固有抵抗値は実施例記載の方法に従って測定することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0048】
[化合物(I)を含む水系組成物及び帯電防止剤の有効分濃度]
化合物(I)を含む水系組成物及び帯電防止剤の有効分濃度(重量%)は、エプトン法(JIS K3306)により測定した。
【0049】
[帯電防止剤の水分含有量]
帯電防止剤の水分含有量(重量%)は、カールフィッシャー法(JIS K6608)により測定した。
【0050】
[帯電防止剤中の塩化物イオンの濃度]
帯電防止剤中の塩化物イオンの濃度(重量ppm)は、硝酸銀電位差滴定法(JIS K3304)により測定した。
【0051】
[析出物の有無]
容量100mlのガラス瓶に調製後の帯電防止剤90gを入れ、0℃で3日間保管し、保管後のガラス瓶の底面に発生した結晶の有無を目視観察した。
【0052】
[コーティング膜の表面固有抵抗値]
コーティング樹脂としてアクリル系樹脂(ダイセル・サイテック社製DPHA)、硬化剤としてイルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、有機溶剤としてイソプロピルアルコール、帯電防止剤として表1に示す組成の帯電防止剤を含むコーティング剤組成物を調製した。各配合量は、表1に示す通りとした。なお、表1に示す各配合量は、コーティング樹脂と硬化剤の合計重量を100重量部としたときの各重量部数を示す。得られた各コーティング剤組成物を、ポリエチレンテレフタレートの二軸延伸フィルム(厚み100μm)にバーコーターを用いて塗布し、100℃で2分間乾燥した。乾燥後のフィルムを、UV照射装置(ハイテック社製HTE−505HA、UVランプはUSH−500MB)にて、窒素気流下、UV照射(200mj)し、コーティング膜(厚み3μm)を得た。得られたコーティング膜について、温度25℃、湿度50%に調整した室内で、A−4329型ハイレジスタンスメータ(横河YHP社製)により、表面固有抵抗値を測定した。
【0053】
[コーティング膜の異物数]
上記と同様の方法で形成したコーティング膜を20cm×20cmに切断し、これを40倍ルーペで観察し、最大径30μm以上の大きさの異物数を数えた。30μm以上か否かは、ルーペの目盛りにより判別した。
【0054】
(実施例1)
[化合物(I)を含む水系組成物の調製]
化合物(I)として、POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩を含む水系組成物を下記方法により調製した。なお、POE(3)とは、上記式(I)において、Aがエチレン基(即ち、AOがオキシエチレン基)であり、オキシエチレン基の平均付加モル数であるnが3であることを意味する。
【0055】
薄膜式硫酸化反応装置によりSOガスを用いてPOE(3)ラウリルエーテルの硫酸化を行い、POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステルを得た。次に、撹拌羽根を設置した容量500mlの四つ口フラスコに水206.2g、トリエタノールアミン41.9g(POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステル1molに対して1.1mol)、中和促進剤として濃塩酸0.5gを仕込み、POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステル101.9gを室温(25℃)下で滴下ロートを用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、10分間撹拌し、POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩を含む水系組成物(POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩の濃度:40重量%)を得た。
【0056】
[帯電防止剤の調製]
脱水管及び攪拌羽根を装着した容量500mlの四つ口フラスコに、前記POE(3)ラウリルエーテル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩を含む水系組成物(250g)を仕込み、攪拌羽根にて100r/minで撹拌を開始し、更に、ベンジルアルコール(67g)及びジエチレングリコールモノエチルエーテル(33g)を順に仕込んだ後、室温(25℃)下、100r/minで1分間混合した。混合後、フラスコ内の圧力を150hPaにして、水温60℃のウォーターバス内に前記フラスコを設置して、水を蒸発させることにより、脱水を開始した。そして、ウォーターバスの水温を20℃/hrで上げ、90℃まで昇温した。昇温後、ウォーターバスの水温を90℃に維持し、前記フラスコ内の圧力を50hPaに維持して更に30分間脱水を続けた。その後、ウォーターバスの温水を25℃の水に置換することで、前記フラスコ内の処理物の温度が40℃(50hPa)になるまで冷却し、更に、前記フラスコ内の圧力を常圧(1013hPa程度)にもどし、脱水処理物を得た。続いて前記フラスコ内の撹拌速度を300r/minに上げ、該脱水処理物に対して吸着剤であるキョーワード200S(酸化アルミニウム含有量54重量%)2gを添加した。そして、窒素気流下、ウォーターバスにて脱水処理物と吸着剤との混合物の温度を80℃にして、1時間吸着処理を行った。処理後、ウォーターバスの温水を25℃の水に置換することで、前記フラスコ内の吸着処理物の温度が30℃になるまで冷却した。得られた吸着処理物をろ紙(東洋ろ紙社製No5)を用いて、150hPaで減圧ろ過を行い、実施例1の帯電防止剤を得た。
【0057】
(実施例2)
[化合物(I)を含む水系組成物の調製]
化合物(I)として、ラウリル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩を含む水系組成物を下記方法により調製した。薄膜式硫酸化反応装置によりSOガスを用いてラウリルアルコールの硫酸化を行い、ラウリル硫酸エステルを得た。次に、撹拌羽根を設置した容量500mlの四つ口フラスコに水205g、トリエタノールアミン55.3g(ラウリル硫酸エステル1molに対して1.1mol)、中和促進剤として濃塩酸0.5gを仕込み、ラウリル硫酸エステル89.8gを室温(25℃)下で滴下ロートを用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、10分間撹拌し、ラウリル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩を含む水系組成物(ラウリル硫酸エステルのトリエタノールアミン塩の濃度:40重量%)を得た。
【0058】
[帯電防止剤の調製]
帯電防止剤の配合成分(配合量)を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の操作で、実施例2の帯電防止剤を得た。
【0059】
(実施例3,4、及び比較例1〜5)
帯電防止剤の配合成分(配合量)、吸着剤の種類及び添加量を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の操作で、実施例3,4、及び比較例1〜5の帯電防止剤を得た。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸及び/又はその塩の存在下、中和して得られたアニオン系界面活性剤を含む水系組成物と有機溶媒との混合液を脱水処理し、得られた脱水処理物を吸着剤で吸着処理するコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法であって、
前記アニオン系界面活性剤は、下記式(I)
【化1】

(但し、式中、Rは炭素数8〜22のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜30の数、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である)で表される化合物であり、
前記有機溶媒は、1013hPaにおける沸点が150〜250℃であり、
前記吸着剤は、酸化アルミニウムを25〜70重量%含有する、コーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、アルコール類及びグリコール類から選ばれる1種以上である請求項1記載のコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、1013hPaにおける沸点が180〜250℃である請求項1又は2記載のコーティング剤組成物用帯電防止剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法により得られるコーティング剤組成物用帯電防止剤。
【請求項5】
請求項4記載のコーティング剤組成物用帯電防止剤と、コーティング樹脂又はコーティング樹脂用単量体と、有機溶剤とを含有するコーティング剤組成物。

【公開番号】特開2011−1403(P2011−1403A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143554(P2009−143554)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】