説明

コーティング剤組成物

【課題】保存安定性、均一塗布性、可使時間に優れ、非粘着性、撥水性、滑り性が良好で接着性および耐摩耗性に優れた被膜を形成するコーティング剤を提供する。
【解決手段】このコーティング剤組成物は、(a)自己架橋性を有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサンと(b)塩素化ポリオレフィンと(c)水分散性ポリウレタン樹脂をそれぞれ含有する(A)水系エマルジョンと、この水系エマルジョンに混合・分散された(B)ゴム状弾性体からなる球状微粒子を含む。(A)水系エマルジョンは、(a)アミノ基含有ポリオルガノシロキサンを含む第1のエマルジョンと、(b)塩素化ポリオレフィンを含む第2のエマルジョンと、(c)ポリウレタン樹脂の水分散体とを混合して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤組成物に係わり、特に、ゴム、プラスチックなどの基材の表面を処理することにより、基材に対する接着性に優れ、かつ非粘着性で撥水性および滑り性が良好で耐摩耗性に優れた被膜を形成することができるコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用ウェザーストリップに使用されているエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(以下、EPDMと略記することがある。)ゴムや、熱可塑性オレフィン系エラストマー(以下、TPOと略記することがある。)のような製品の表面には、非粘着性、撥水性、耐摩耗性、滑り性などを付与するため、各種のポリオルガノシロキサン組成物からなるコーティング剤を塗布することが行われている。
【0003】
コーティング剤としては、例えば、末端に水酸基を持つポリジオルガノシロキサンに、ケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノシロキサンおよび/またはオルガノアルコキシシランと硬化触媒とを加えた組成物が知られている。また、硬化性ポリウレタンにポリジオルガノシロキサンを配合した組成物も知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、これらのコーティング剤組成物は有機溶剤を含むため、安全・衛生上や引火性に起因する取扱い上の問題があるばかりでなく、自然環境に与える影響が大きいという問題があった。そのため、有機溶剤を使用しない水系エマルジョンタイプのコーティング剤の開発が進められていた。しかしながら、有機溶剤希釈型のコーティング剤をそのまま水系に適用したのでは、耐久性、密着性などを有する被膜が得られなかった。また、オルガノアルコキシシランを含むものでは、シラン成分がイソシアネート成分や水と反応し、水系化が困難である、あるいは接着性の良好な被膜が得られない、などの問題があった。
【0005】
一方、エマルジョンタイプのシリコーン系コーティング剤として、各種のシロキサン化合物を組み合わせて配合した水性シリコーン組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、被膜の密着性や耐摩耗性を改善するために、脱水素縮合タイプのシリコーン系エマルジョンに、無水マレイン酸基を有する塩素化ポリオレフィン類、および弾性を有する球状微粒子を配合したコーティング剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載されたコーティング剤においては、被膜の密着性や耐摩耗性が十分でなく、またソリッドタイプやそれに近いゴム材料に対して、接着性や強度が十分な被膜が得られないという問題があった。さらに、エマルジョンの保存安定性や各成分配合後のポットライフ(可使時間)が短いという問題があった。
【0007】
特許文献4に記載されたコーティング剤は、均一塗布性、非粘着性、撥水性、滑り性、基材との密着性などに改善が見られるうえに、水濡れ状態でのガラス等との擦れによる鳴き音の発生防止や、金属塗装面への摩擦傷の防止の点でも改善が見られる。しかしながら、耐摩耗性のさらなる向上、および環境面や安全面でのさらなる改善が求められている。
【0008】
さらに、高耐摩耗性を有するコーティング剤として、アミン官能性シリコーンエマルジョンとポリウレタンエマルジョン、およびエポキシ樹脂またはエポキシ官能性シランをそれぞれ配合したコーティング剤が提案されている(例えば、特許文献5参照)。また、シリコーンエマルジョンとポリウレタンエマルジョンとを所定の割合で配合したコーティング剤も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献5に記載されたコーティング剤は、可使時間が短いという問題があり、十分な可使時間を得るためには実質的に有機溶剤の配合を必要としていた。また、特許文献6に記載されたコーティング剤は、耐摩耗性が十分でないうえに、EPDMやTPOからなる基材に対しては十分な接着が得られなかった。さらに、低摩擦などの性能を得るには、超高分子量ポリエチレン粉末およびセラミックビーズの配合を必要とし、特に超高分子量ポリエチレン粉末の配合は耐摩耗性改善には効果的であるものの、粉体そのものが熱軟化点を有しているため、加熱硬化温度や加熱時間により特性が大きく変わるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−25604号公報
【特許文献2】特開平8−225670号公報
【特許文献3】特開平8−245882公報
【特許文献4】特願2005−506896公報
【特許文献5】特許3869878公報
【特許文献6】特表2009−520082公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、基材表面の処理剤として、特にEPDMやTPOなどのモールド成形体への水系コーティング剤として、保存安定性、均一塗布性、非粘着性、撥水性、可使時間、滑り性に優れ、特に基材に対する密着性(接着性)および耐摩耗性が改善されたコーティング剤を提供することを目的とする。また、近年重要視されている金属塗装面への摩擦傷が防止され、さらに水濡れ状態でもガラスとの擦れにより鳴き音を生じないコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン、塩素化ポリオレフィンおよび水分散性ポリウレタン樹脂を含有するエマルジョンに、ゴム状弾性を有する球状微粒子を配合することにより、前記特性を有する水系のコーティング剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のコーティング剤組成物は、(A)(a)自己架橋性を有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサンと、(b)塩素化ポリオレフィンと、(c)水分散性ポリウレタン樹脂をそれぞれ含有する水系エマルジョンと、(B)前記(A)水系エマルジョンに混合・分散されたゴム状弾性体からなる球状微粒子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコーティング剤組成物は、保存安定性、均一塗布性、可使時間に優れ、加熱硬化時の温度や時間に左右されない幅広い硬化条件を有する。そして、このコーティング剤組成物によれば、ゴム、プラスチックから成る基材、特に発泡または非発泡のEPDMゴムやTPOから成る基材に対して、接着性に優れ、かつ凸凹やざらつきのない平滑な表面を有し、良好な滑り性、非粘着性、撥水性などを有する被膜を形成することができる。また、この被膜は、表面から配合成分がブリードアウトすることがなく、摩擦係数が低く耐摩耗性に優れている。さらに、金属塗装面への摩擦傷などの悪影響が改善され、水濡れ状態でもガラスとの擦れにより鳴き音を生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施形態のコーティング剤組成物は、(a)自己架橋性を有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサンと、(b)塩素化ポリオレフィンと、(c)水分散性ポリウレタン樹脂、および(B)ゴム状弾性体からなる球状微粒子をそれぞれ含有する水系エマルジョンである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に使用される(a)成分であるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、それ自体で架橋し得る自己架橋性を有するものであり、(a)成分を単独で含有するエマルジョンを塗布し乾燥硬化させた場合に、ゲル性状を有する被膜を形成する。なお、ゲル性状を有する被膜とは、非流動性を示す被膜を示す。より具体的には、アルミニウム板上に膜厚10μm程度の乾燥硬化膜を形成した場合に、その板を垂直に立てても流れ落ちない被膜を、ゲル性状を有する被膜とする。
【0017】
(a)成分である自己架橋性でゲル状被膜形成性を有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、実施形態のコーティング剤組成物から得られる被膜からブリードアウトすることなく、後述する(b)成分や(c)成分とともに一体化し、良好な非粘着性および撥水性を有し、凸凹やざらつきのない表面平滑な被膜を形成する。この(a)アミノ基含有ポリオルガノシロキサンの配合は、例えば乳化重合などにより得られたエマルジョン状態のものを配合することが好ましい。
【0018】
(a)成分であるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンとしては、平均組成式:[RSi(OR(4−a−b)/2(式中、Rは水素原子および1価の置換または非置換の炭化水素基から選ばれる1価の基を示し、1分子中の全Rのうち少なくとも1個は、1個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換のアミノ基を有する1価の炭化水素基である。Rは水素原子または1価の置換または非置換の炭化水素基を示す。aおよびbは、1≦a≦2.5、1≦a+b≦2.5、0≦b≦0.5の関係を満たす数であり、nは4〜5,000の数を示す。)で示される非水溶性アミノ基含有ポリオルガノシロキサンが例示される。なお、非水溶性とは、水に溶解しない性質を示し、具体的には、25℃の水100重量部に対して、当該アミノ基含有ポリオルガノシロキサン1重量部を配合したとき、均一・透明には溶解しないことを意味する。
【0019】
ここで、少なくとも1個の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換のアミノ基を有する1価の炭化水素基としては、アミノメチル基、β−アミノエチル基、γ−アミノプロピル基、δ−アミノブチル基、γ−(メチルアミノ)プロピル基、γ−(エチルアミノ)プロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−(β−ジメチルアミノエチル)−γ−アミノプロピル基などが例示される。これらのアミノ基含有炭化水素基以外のRとしては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基のようなアルキル基;ビニル基、プロペニル基のようなアルケニル基;フェニル基のようなアリール基;フェネチル基のようなアラルキル基;およびこれら炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子、ニトリル基などで置換されたものが例示される。合成のしやすさ、取扱の容易さから、これらの中でも、水素原子、メチル基、ビニル基、フェニル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0020】
としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが例示される。合成のしやすさ、取扱の容易さから、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0021】
前記平均組成式において、aおよびbは、1≦a≦2.5、1≦a+b≦2.5、0≦b≦0.5の関係を満たす数である。aおよび(a+b)が1未満あるいは2.5を超えるものでは、基材に対する接着性が不十分となる。bはケイ素原子に結合したヒドロキシル基あるいはアルコキシ基の数を示し、0.5以下であれば良いが、0.5を超えるとコーティング剤の保存安定性が低くなる。
【0022】
また、前記平均組成式で表されるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンの重合度nは、合成のしやすさ、硬化前の組成物の粘度が作業に支障をきたさない範囲であること、および硬化後の被膜の接着性の点から、4〜5,000好ましくは4〜1,000の範囲とする。重合度が4より低いと接着性が十分に向上せず、重合度が5,000より高いと、合成しにくいうえ粘度が上昇して取扱いにくくなる。
【0023】
このアミノ基含有ポリシロキサンにおけるアミノ基の量は、アミノ基含有ポリシロキサンが単独で非水溶性を示すような量であれば良く、アミノ当量として100〜15,000(g/mol)、好ましくは150〜1,000(g/mol)とする。アミノ当量が15,000(g/mol)を超えるもの、あるいはアミノ当量が100(g/mol)未満のものは、密着性を向上させる効果が小さいものとなる。
【0024】
このような(a)アミノ基含有ポリシロキサンの好ましい例として、式:
{HN(CH)NH(CH)}Si(OH)[O{(CH)SiO}15H]3−n
(但し、n=1または2)で表される化合物を挙げることができる。
【0025】
本発明の実施形態に使用される(b)成分である塩素化ポリオレフィンは、実施形態のコーティング剤組成物から得られる被膜に、EPDMのようなゴム基材に対する優れた密着性(接着性)と耐摩耗性を付与する。また、各成分配合後の安定性にも優れ、長い可使時間を可能にしている。
【0026】
(b)塩素化ポリオレフィンは、エマルジョンの形態のものを配合することが好ましい。塩素化ポリオレフィンのエマルジョンについて、塩素含有量やベースとなっている塩素化ポリオレフィン樹脂の分子量などに特に制限はないが、入手のし易さから、反応基として無水マレイン酸基を有する変性塩素化ポリプロピレンのエマルジョンを使用することが好ましい。
【0027】
(b)成分である塩素化ポリオレフィンの配合量は、(a)成分であるアミノ基含有ポリシロキサン100重量部に対して、50〜500重量部、より好ましくは100〜250重量部とする。(b)成分の配合量を上記範囲に限定したのは、50重量部未満であると、ゴム基材との接着性および耐摩耗性の向上を十分に達成することができず、一方500重量部を超えて配合しても、ゴム基材との接着性および耐摩耗性付与の効果が飽和し、かえって耐候性など他の特性が低下するためである。なお、(b)塩素化ポリオレフィンの配合量および(a)アミノ基含有ポリシロキサンの配合量は、これらをエマルジョンとして配合した場合は、エマルジョン中の有効成分としての量を示すものとする。
【0028】
本発明の実施形態に使用される(c)成分である水分散性ポリウレタン樹脂は、実施形態のコーティング剤組成物から得られる被膜に、耐水性および耐摩耗性を付与する。(c)成分である水分散性ポリウレタン樹脂の乳化方法やベースとなっている樹脂の構造などに特に制限はないが、耐水性に優れた被膜が得られることから、アイオノマー型ポリウレタン樹脂の水分散体が好ましい。
【0029】
アイオノマー型ポリウレタン樹脂の水分散体は、公知の方法で得ることができる。例えば、(1)親水性基含有化合物と、その他の活性水素含有化合物、およびポリイソシアネートを反応させて得られた親水性基含有ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液または有機溶剤分散液を、水中に乳化してアイオノマー樹脂を得る方法や、(2)親水性基含有化合物と、その他の活性水素含有化合物、およびポリイソシアネートを反応させて得られた親水性基含有末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを、水に分散させポリアミンと反応させてアイオノマー樹脂を得る方法などが挙げられる。
【0030】
ここで、親水性基含有化合物としては、例えば2−オキシエタンスルホン酸、スルホコハク酸、スルファニル酸、2,4−ジアミノトルエンスルホン酸等のスルホン酸含有化合物、2,2−ジメチロールプロピオン酸、ジオキシマレイン酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素を有するポリオキシエチレングリコールまたはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコール等が挙げられる。その他の活性水素含有化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等の高分子量化合物、グリセリン、トリメチロールプロパンに代表されるポリオキシ化合物、エチレンジアミン、ピペラジンに代表されるジアミン化合物等の低分子量化合物等が挙げられる。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。これらの反応は無溶剤下で行うこともできるが、有機溶剤中で行ってもよい。得られた樹脂は、苛性ソーダ、苛性カリ等の不揮発性塩基、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類、またはアンモニア等で中和され、水を添加することによりアイオノマー樹脂が得られる。環境への負荷を低減する観点から、こうして得られたアイオノマー型ポリウレタン樹脂から有機溶剤を蒸留・除去することが好ましい。なお、このようなアイオノマー型ポリウレタン樹脂の水分散体は、副反応を抑制するため、イオン形成性基の対イオンがアンモニウムイオン(NH)であるアニオン性アイオノマー型水分散体が好ましい。
【0032】
(c)成分である水分散性ポリウレタン樹脂(アイオノマー型ポリウレタン樹脂水分散体)の配合量は、有効成分量として、(a)成分であるアミノ基含有ポリシロキサン100重量部に対して、10〜500重量部、より好ましくは50〜300重量部とする。(c)成分の配合量を上記範囲に限定したのは、10重量部未満であると、ゴム基材との耐水性および耐摩耗性の付与の効果を十分に達成することができず、一方500重量部を超えて配合した場合、被膜の柔軟性が失われ、白化・ひび割れが発生するとともに、被膜表面の撥水性や非粘着性など他の特性も低下するためである。
【0033】
本発明の実施形態のコーティング剤組成物は、以上記載した(a)〜(c)の各成分をそれぞれ含有する(A)水系エマルジョンに、(B)成分であるゴム状弾性体からなる球状微粒子を配合して構成される。
【0034】
実施形態に使用される(B)成分であるゴム状弾性体の球状微粒子は、コーティング剤組成物から得られる被膜の摩擦係数を下げ、良好な滑り性を付与する。また、被膜に良好な耐摩耗性を付与するとともに、コーティングが施された成形体が水濡れ状態でのガラス擦り時に鳴き音を生じないうえに、金属塗装面との擦れにより塗装面を傷付けない、という要求特性も満足させる。
【0035】
球状微粒子を構成するゴム状弾性体の種類に特に制限はないが、JIS K 6253のデュロメータタイプA型に拠り測定された硬さ(ゴム硬度)の値が90度未満、より好ましくは60〜80度の範囲にある弾性材料を使用することが好ましい。硬さが90度以上の硬質あるいは半硬質材料の微粒子を使用した場合には、前記した水濡れ状態での鳴き音抑制や金属塗装面の損傷防止の効果が十分に得られない。
【0036】
このような(B)ゴム状弾性体の球状微粒子としては、入手および合成のし易さから、架橋ウレタン系、架橋ポリメタクリル酸メチル系、架橋ポリアクリル酸エステル系、架橋ポリメタクリル酸ブチル系、ポリアミド系などの熱硬化性ポリマーからなる微粒子の使用が好ましい。微粒子の平均粒径は、0.1〜100μmであることが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。平均粒径が0.1μm未満であると被膜の滑り性が悪くなり、反対に平均粒径が100μmを超えると、耐摩耗性が悪くなるので好ましくない。
【0037】
(B)成分であるゴム状弾性体の球状微粒子の配合量は、(a)成分であるアミノ基含有ポリシロキサン100重量部に対して、20〜300重量部とし、より好ましくは50〜200重量部とする。(B)成分の配合量を上記範囲に限定したのは、20重量部未満であると、被膜の滑り性が劣り、反対に300重量部を超えると塗装性が悪化し、被膜がもつ柔軟性が失われるためである。また、(B)成分の配合量が300重量部を超えると、耐摩耗性も悪くなるので好ましくない。
【0038】
このような(B)ゴム状弾性体の球状微粒子の配合にあたっては、水に混合・分散させたものを配合することが好ましい。なお、(B)ゴム状弾性体の球状微粒子が水に均一に分散しにくい場合には、必要に応じて、界面活性剤等の分散剤を用いて分散させることが好ましい。すなわち、本発明の実施形態のコーティング剤組成物は、前記(a)〜(c)の各成分と、(B)ゴム状弾性体の球状微粒子の分散液をそれぞれ混合して得ることができる。(a)〜(c)の各成分および(B)ゴム状弾性体の球状微粒子の水分散液の混合順は特に限定されない。本発明の実施形態のコーティング剤組成物には、さらに以下の各成分を配合してもよい。すなわち、耐候性を向上させる目的で、無機系、有機系の紫外線吸収剤を、艶消し性を向上させる目的で、平均粒径0.01〜50μm程度のシリカ粉などの無機フィラーあるいはポリエチレンのようなポリオレフィンやポリカーボネート樹脂等の有機フィラーを、着色する目的で無機顔料などを、耐摩耗性を向上させる目的でエポキシ系、メラミン系、イミド系、アミン系、イソシアネート系架橋剤を、それぞれ本発明の趣旨を変えない範囲で添加することができる。さらに必要に応じて、レベリング剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤を適宜配合することは任意である。
【0039】
本発明のコーティング剤組成物を塗布するには、紙、ゴム、プラスチック、金属などから成る基材の表面に、ディップコート、スプレーコート、刷毛塗り、ナイフコート、ロールコートなどの方法によって塗布する。次いで、室温で数時間放置するか、あるいは基材の耐熱性の度合いに応じて適宜加熱を行い、塗膜を硬化させる。加熱条件は、基材が紙の場合には120〜180℃の温度で10〜30秒間、基材がゴムの場合には80〜180℃の温度で1〜5分間、プラスチックの場合には70〜150℃の温度で30秒〜2分間とすることが好ましい。
【0040】
本発明の実施形態のコーティング剤組成物によれば、各種基材の表面を処理した場合に、従来のシリコーン組成物による処理方法に比べて、均一塗布性に優れ、基材に対して接着性、耐摩耗性に優れた硬化被膜が形成される。特に、従来の非粘着性被膜形成用シリコーン組成物では十分な接着性が得られなかったゴム、プラスチック基材、特に発泡EPDMゴムやTPOから成る基材に対して、触感、滑り感などシリコーン特有の優れた被膜特性を有し、かつ従来のものにはない優れた接着性、耐摩耗性を持つ硬化被膜を形成することができる。
【0041】
また、本発明の実施形態のコーティング剤組成物は、常温ないし比較的低温で硬化被膜を形成するので、耐熱性の低い基材や大型で加熱処理のしにくい基材に対しても処理が可能であり、他の物質に対する非粘着性が良好で、撥水性を有しかつ優れた耐摩耗性を有する硬化被膜を形成する。さらに、保存安定性に優れ、また各成分配合後の安定性に優れ、可使時間が長い。またさらに、有機溶剤や有機金属系触媒を使用しておらず、また硬化被膜の形成に脱水素縮合反応を利用していないため、環境面や安全性の点で優れている。
【0042】
したがって、本発明の実施形態のコーティング剤組成物は、EPDMゴムなどが使用される用途、例えば、自動車用ウェザーストリップ、プリンターブレード、防振ゴム、建材用ガスケット等のゴム部品の表面処理剤として、好適に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中で「部」とあるのは「重量部」を、「%」とあるのは「重量%」をそれぞれ表す。また、粘度などの物性値は、全て25℃、相対湿度(RH)50%での測定値を示す。
【0044】
実施例1〜5,比較例1〜6
表1に示す各成分を同表に示す組成で配合し、以下に示すようにして均一に撹拌・混合し、コーティング剤組成物を得た。すなわち、まず微粒子状成分(弾性球状微粒子-1、弾性球状微粒子-2、あるいは非弾性球状微粒子)を水と混合して均一に分散させた後、この水分散液を、アミノ基含有シリコーンエマルジョンと塩素化ポリオレフィンエマルジョンおよびポリウレタン樹脂水分散体を混合して得られたエマルジョンに加え、均一に撹拌・混合した。実施例5においては、これにさらにエポキシ系架橋剤を加えて混合した。また比較例6においては、ポリジメチルシロキサンエマルジョンとメチルハイドロジェンシロキサンエマルジョンおよびジブチルスズジラウレートをさらに加えて混合した。
【0045】
表1中、アミノ基含有シリコーンエマルジョン-1は、式:
{HN(CHNH(CH}Si(OH)O{(CH)SiO}15
で表されるゲル状被膜形成性を有するアミノ基含有ポリジメチルシロキサンを、30%の割合で含有する乳化重合エマルジョンであり、アミノ基含有シリコーンエマルジョン-2は、式:
(CHSiO{(CHSiO}200Si(CH){NH(CHNH}OSi(CH
で表されるアミノ基含有ポリジメチルシロキサンを、30%の割合で含有する機械乳化エマルジョンである。
【0046】
塩素化ポリオレフィンエマルジョン-1は、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン(無水マレイン酸含有量1.7%、塩素含有量17%、分子量約60,000)を30%含有するエマルジョンであり、塩素化ポリオレフィンエマルジョン-2は、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン(無水マレイン酸含有量1.4%、塩素含有量15重量%、分子量約100,000)を30%含有するエマルジョンである。
【0047】
ポリウレタン樹脂水分散体-1は、ポリエステル骨格を有するアイオノマー型ポリウレタン樹脂を20%含有する水分散体であり、ポリウレタン樹脂水分散体-2は、ポリエーテル骨格を有するアイオノマー型ポリウレタン樹脂を30%含有する水分散体である。
【0048】
弾性球状微粒子-1は、JIS K 6253に拠りデュロメータタイプA型で測定された硬さ(以下、単にJIS硬さと示す。)が74である架橋ポリウレタンソフトパウダー(平均粒径8μm)であり、弾性球状微粒子-2は、JIS硬さが78である架橋ポリアクリル酸エステルのパウダー(平均粒径15μm)である。非弾性球状微粒子は、前記したJIS硬さが90以上のポリメチルシルセスキオキサンパウダー(平均粒径6μm)である。
【0049】
エポキシ系架橋剤は、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル(粘度5000mPa・s)である。
【0050】
ポリジメチルシロキサンエマルジョンは、粘度1,400,000mPa・sの末端水酸基封鎖のポリジメチルシロキサンを50%の割合で含有する乳化重合エマルジョンであり、メチルハイドロジェンシロキサンエマルジョンは、平均式:
(CHSiO(CHHSiO)50Si(CHで表されるポリメチルハイドロジェンシロキサンを30%の割合で含有する機械乳化エマルジョンである。
【0051】
次に、実施例1〜5および比較例1〜6で得られたコーティング剤組成物を、発泡EPDMゴムおよびTPOから成るシートの表面に、スプレーガンを用いて硬化被膜の膜厚が10μmになるようにそれぞれ塗布した。その後、塗布膜から水を揮散させた後、180℃のオーブンで2分間加熱乾燥させ、硬化被膜を形成した。
【0052】
次いで、表面処理された発泡EPDMゴムシートおよびTPOシートについて、基材に対する硬化被膜の接着性を、それぞれ以下に示す方法で調べた。また、発泡EPDMゴムシート上に形成された硬化被膜について、撥水性、耐水性、摩擦係数、耐摩耗性および鳴き音をそれぞれ以下に示す方法で調べた。さらに、被膜表面からのブリードアウトの有無、コーティング剤組成物の可使時間についても調べた。結果を表1に示す。
【0053】
[接着性]
被膜表面に1mm間隔で縦横に各11本の平行線を入れて100個のマス目をクロスカットし、その上に粘着テープを付着させた後、粘着テープを剥離して、剥離しないマス目の数を測定した。なお、粘着テープとしては、ポリエステルフィルム上にシリコーン粘着剤YR3340(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製)を40μmの厚さになるようにコーティングした後、恒温高湿室に48時間放置したものを使用した。
【0054】
[撥水性]
硬化被膜表面の水滴の接触角を、接触角計を用いて測定した。そして、接触角が100°以上を示すものを撥水性良好とし、接触角が100°未満であるものを撥水性不良と判定した。
【0055】
[耐水性]
表面処理された発泡EPDMゴムシートを70℃の温水中に7日間浸漬した後取り出し、乾燥後の硬化被膜の外観を目視観察した。耐水試験前後で被膜の外観に変化のないものを良好とし、被膜に白化や剥がれなど変化が見られたものを不良とした。
【0056】
[摩擦係数]
硬化被膜の表面に幅10mm、長さ100mmのガラス板を置き、200gの荷重をかけてガラス板を900mm/min.の速度で硬化被膜に沿って移動させ、そのとき得られる引っ張り応力から動摩擦係数を求めた。なお、ガラス板が動き出すときの値である最大静止摩擦係数が2.0を超える場合、安全装置が働き測定不能となる。
【0057】
[耐摩耗性]
JIS K 6404−16に拠りクロックメーター型摩耗試験を行い、硬化被膜が剥離したときの摩擦回数を測定した。
【0058】
[鳴き音]
幅100mm、長さ100mmのガラス板上に0.5mLの水を均一に拡げ、被膜表面をガラス板に擦り付けた際に発生する音を調べた。音が発生しないものを良好とした。
【0059】
[ブリードアウトの有無]
被膜表面を塗装パネルに25℃で24時間押し当て、塗装パネル表面へのブリードアウト物質の移行の有無を、目視により調べた。そして、移行が確認できた場合ブリードアウト有り、移行が確認できなかった場合ブリードアウト無しと判定した。
【0060】
[可使時間]
コーティング剤組成物の調製後、室温(25℃)において液にゲルが生成するまでの時間を調べた。
【0061】
【表1】

【0062】
表1からわかるように、実施例1〜5で得られたコーティング剤組成物は、比較例1〜6で得られた組成物に比べて、可使時間が長く幅広い硬化条件を有する。そして、このコーティング剤組成物によれば、EPDMゴムやTPOから成る基材に対して、接着性に極めて優れ、良好な滑り性、撥水性、耐水性を有する被膜を形成することができる。また、この被膜は、ブリードアウトがなく、かつ摩擦係数が低く耐摩耗性に優れているうえに、水濡れ状態でもガラスとの擦れにより鳴き音を生じることがない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明のコーティング剤組成物によれば、ゴム、プラスチックから成る基材、特に発泡または非発泡のEPDMゴムおよびTPOから成る基材に対して、接着性に優れ、かつ良好な滑り性、非粘着性、撥水性などを有する硬化被膜を形成することができる。また、この被膜は、摩擦係数が低く耐摩耗性に優れている。
【0064】
したがって、本発明のコーティング剤組成物は、自動車用ウェザーストリップ、プリンターブレード、防振ゴム、建材用ガスケットなどのゴム部品の表面処理剤として、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)自己架橋性を有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサンと、(b)塩素化ポリオレフィンと、(c)水分散性ポリウレタン樹脂をそれぞれ含有する水系エマルジョンと、
(B)前記(A)水系エマルジョンに混合・分散されたゴム状弾性体からなる球状微粒子
を含むことを特徴とするコーティング剤組成物。
【請求項2】
前記(A)水系エマルジョンは、前記(a)アミノ基含有ポリオルガノシロキサンを含む第1のエマルジョンと、前記(b)塩素化ポリオレフィンを含む第2のエマルジョンと、前記(c)ポリウレタン樹脂の水分散体を混合してなることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
前記(a)アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、一般式:[RSi(OR(4−a−b)/2
(式中、Rは、水素原子および1価の置換または非置換の炭化水素基から選ばれる1価の基を示し、1分子中の全Rのうち少なくとも1個は、1個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換のアミノ基を有する1価の炭化水素基である。Rは、水素原子および1価の置換または非置換の炭化水素基から選ばれる1価の基を示す。aおよびbは、1≦a≦2.5、1≦a+b≦2.5、0≦b≦0.5の関係を満たす数であり、nは4〜5,000の整数を示す。)で示されることを特徴とする請求項2記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
前記(c)水分散性ポリウレタン樹脂が、アイオノマー型ポリウレタン樹脂を含有する水分散体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項5】
前記アイオノマー型ポリウレタン樹脂を含有する水分散体が、イオン形成性基の対イオンがアンモニウムイオン(NH)であるアニオン性アイオノマー型ポリウレタン樹脂の水分散体であることを特徴とする請求項4記載のコーティング剤組成物。
【請求項6】
前記(B)球状微粒子は、JIS K 6253に拠る硬さが90度未満のゴム状弾性体から構成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項7】
前記(B)球状微粒子は、架橋ウレタン系、架橋ポリメタクリル酸メチル系、架橋ポリアクリル酸エステル系、架橋ポリメタクリル酸ブチル系、ポリアミド系の各ポリマーから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項8】
前記(a)アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100重量部に対して、(b)塩素化ポリオレフィン50〜500重量部と、(c)水分散性ポリウレタン樹脂10〜500重量部と、(B)ゴム状弾性体の球状微粒子20〜300重量部をそれぞれ含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項9】
発泡あるいは非発泡のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体または熱可塑性オレフィン系エラストマーから成る成形体の上に塗布され、被膜を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。

【公開番号】特開2011−42698(P2011−42698A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189727(P2009−189727)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】