説明

コーティング剤組成物

【課題】
耐熱性に優れたコーティング膜を形成できるコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本名発明のコーティング剤組成物は、合成樹脂結合材を含有し、合成樹脂結合材の全量中にポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を2〜20質量%含有することを特徴とする。なお、前記合成樹脂結合材として合成樹脂エマルションを含有し、合成樹脂結合材の全量中に合成樹脂エマルションの不揮発分を70質量%以上含有することが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂結合材としてポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を含有するコーティング剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コーティング剤組成物のバインダーとして使用される合成樹脂エマルションの保護コロイドとしてポリビニルアルコールが用いられていることがある(例えば、特許文献1等)。また、合成樹脂エマルションをバインダーとする水系塗料や水系コーティング剤組成物の硬化性や密着性を向上させる目的で、上記したポリマーエマルションの他にフェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの誘導体等の硬化剤を1種又は2種以上添加されることがある(例えば、特許文献2等)。
【0003】
このようにポリビニルアルコールを含有するコーティング剤組成物においては、ポリビニルアルコールは保護コロイドとしてや、硬化性・密着性の向上を目的として用いられるため、ポリビニルアルコールの含有量はそれほど多くない。
【0004】
【特許文献1】特開2010−280852号公報
【特許文献2】特開2008−101077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、合成樹脂結合材を含有するコーティング剤組成物の耐熱性を向上させる手法を検討するなかで、合成樹脂結合材中にポリビニルアルコール又はその誘導体を適量で含有させることによって、コーティング剤組成物によって形成されるコーティング膜が耐熱性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、耐熱性に優れたコーティング膜を形成できるコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、合成樹脂結合材を含有し、合成樹脂結合材の全量中にポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を2〜20質量%含有することを特徴とするコーティング剤組成物である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコーティング剤組成物において、前記合成樹脂結合材として合成樹脂エマルションを含有し、合成樹脂結合材の全量中に合成樹脂エマルションの不揮発分を70質量%以上含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のコーティング剤組成物において、 前記ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度が70.0mol%以上であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤組成物において、前記ポリビニルアルコール又はその誘導体の重合度が300〜3500であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング剤組成物を用いれば、耐熱性に優れたコーティング膜を得ることができる。
【0012】
また、合成樹脂結合材の全量中の水溶性高分子の含有率を2〜30質量%とすることによって、より耐熱性に優れたコーティング膜が得られる。
【0013】
また、ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度が70.0mol%以上であれば、より耐熱性が特に優れたコーティング膜が得られ、重合度が300〜3500であれば、更に耐熱性が特に優れたコーティング膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のコーティング剤組成物は、合成樹脂結合材を含有し、合成樹脂結合材の全量中にポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を2〜20質量%含有することを特徴とする。
【0015】
前記合成樹脂結合材とは、乾燥や反応硬化することによって皮膜を形成できる合成樹脂成分であって、コーティング剤組成物によって形成される皮膜に残存して、皮膜のバインダーとなる成分である。合成樹脂製の充填材など、皮膜を形成できない固形成分は合成樹脂結合材には含まれない。
合成樹脂結合材としては、具体的には、合成樹脂エマルションや水溶性高分子などが挙げられる。
【0016】
前記合成樹脂エマルションは、通常のコーティング剤組成物や水系塗料に用いられるもののなかから適宜選択して用いることができる。例えば、酢酸ビニル,エチレン酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バーサティック酸ビニル等のビニル樹脂;(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル樹脂;ポリエステル樹脂;フッ素樹脂;エポキシ樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリエーテル樹脂;酢酸ビニル樹脂;シリコーン樹脂等の合成樹脂を水に分散させたもの、或いは2種類以上の合成樹脂を共重合したものを水に分散させたものを用いることができる。また、2種類以上の合成樹脂エマルションを混合して用いてもよい。
【0017】
前記合成樹脂はアクリル樹脂を用いることが好ましい。アクリル樹脂にポリビニルアルコール又はその誘導体を組み合わせて用いることにより、より耐熱性に優れたアクリル樹脂塗膜を得ることができる。
【0018】
前記合成樹脂はエマルションの形態のものを用いることにより、ポリビニルアルコール又はその誘導体との親和性に優れる。また、より耐熱性に優れたコーティング膜を得ることができる。
【0019】
前記水溶性高分子とは、水に可溶な高分子をいい、一般には、分子量が10,000以上で、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基等の水溶性基を有する高分子化合物をいう。例えば、ポリビニルアルコール、澱粉類、水溶性アクリル樹脂、水溶性アポリエステル樹脂、水溶性アポリアミド樹脂、水溶性アポリウレタン樹脂、セルロース誘導体(メチルセルロース 、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)などが挙げられる。
【0020】
前記ポリビニルアルコールは以下の化学式で表わされる。
【0021】
【化1】

【0022】
なお、化1におけるOAcは酢酸基を示す。また、mは1以上の整数であり、nは0以上の整数である。
前記ポリビニルアルコールの誘導体とは、エチレン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変成ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール等の変成ポリビニルアルコールや、カルボニル基、カルボキシル基、アルキル基等の水酸基と酢酸基以外の官能基を有するポリビニルアルコールをいう。
【0023】
また、化1における「m+n」の値を重合度といい、「(m/(m+n))×100」の値をけん化度という。
【0024】
前記ポリビニルアルコール又はその誘導体の重合度は好ましくは300〜3500、より好ましくは400〜2500、最も好ましくは450〜1200である。この範囲にあるとき、コーティング剤組成物による塗膜が耐熱性に優れる。前記ポリビニルアルコール又はその誘導体の重合度が小さすぎる場合には、耐熱性が十分でない。逆に重合度が大きすぎる場合には、合成樹脂エマルションとの親和性が十分でない。
前記ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度は好ましくは70.0mol%以上、より好ましくは75.0〜99.0、最も好ましくは80.0〜90.0である。この範囲にあるとき、コーティング剤組成物による塗膜が耐熱性に優れる。前記ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度が小さすぎる場合には、コーティング塗膜の耐熱性が十分でない。また、塗膜の耐水性も低下する。逆に、けん化度が大きすぎる場合には、合成樹脂エマルジョンとの混和性が十分でないため、コーティング剤組成物の貯蔵安定性(JIS A6909)などが低下する。
【0025】
前記合成樹脂結合材の全量中におけるポリビニルアルコール又はその誘導体の含有率は好ましくは2〜20質量%であり、より好ましくは5〜18質量%であり、特に好ましくは8〜15質量%である。この範囲にあるとき、コーティング剤組成物による塗膜が耐熱性に優る。前記ポリビニルアルコール又はその誘導体の含有率が少なすぎるとコーティング剤組成物による塗膜の耐熱性が十分でない。逆に、含有率が多すぎると塗膜の耐水性が低下するため、多湿条件下での耐熱性が十分でない。
【0026】
また、前記合成樹脂結合材は、合成樹脂エマルションの不揮発分を含んだもので構成されていることが好ましく、更に、合成樹脂結合材の全量中における合成樹脂エマルションの不揮発分の含有率は好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。なお、前記コーティング剤組成物は、合成樹脂結合材の全量中にポリビニルアルコール又はその誘導体を必ず含むので、合成樹脂エマルションの不揮発分の含有率は、実質的には、合成樹脂結合材の全量からポリビニルアルコール又はその誘導体の含有率を差し引いた量が上限となる。合成樹脂エマルションの不揮発分の含有率がこの範囲にあるとき特に耐熱性に優れたコーティング剤組成物が得られる。
【0027】
前記コーティング剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、合成樹脂結合材以外の顔料、充填材、添加剤等を含有させてもよい。これらは、合成樹脂結合材をバインダーとする塗料に通常用いられるものの中から適宜選択して用いればよい。
【0028】
例えば、顔料としては、カドニウム赤、べんがら、トルイジンレッド、黄鉛、鉄黄、チタン黄、ファストイエロー、アントラキノンイエロー、ベンジジンイエロー、酸化クロム、フタロシアニングリーン、紺青、群青、フタロンシアニンブルー、カーボンブラック、鉄墨、黒鉛等の無機顔料や有機顔料を用いることができる。
【0029】
また、充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー、酸化カルシウム、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、珪砂、寒水砂、金属粉などを用いることができる。
【0030】
また、添加剤としては、例えば、増粘剤等の粘性調整剤、湿潤剤や分散剤等の界面活性剤、消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、シランカップリング剤、防腐剤、防藻剤等を用いることができる。
【0031】
これらの充填材や添加剤の中でも、本発明のコーティング剤組成物には、アルミニウム粉末などの金属粉を用いることが好ましい。ポリビニルアルコール又はその誘導体のOH基が金属と架橋して、耐熱性に優れたコーティング剤組成物が得られる。
前記金属としては、最外殻が閉核されておらず、1以上の空軌道があるものが特に好ましい。金属の最外殻が閉核されておらず、1以上の空軌道があることにより、ポリビニルアルコール又はその誘導体のOH基と金属とが配位結合による架橋が生じやすくなる。
【0032】
コーティング剤組成物によるコーティングの方法は特に限定されず、例えば、一般的な塗料の塗装方法によって塗装することができる。例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、フローコーター、ロールコーター、カーテンコーター等の塗装器具や塗装機を用いて塗装できる。また、塗装器具や塗装機を用いないでディッピング等によって塗装してもよい。
【実施例】
【0033】
表1と表2に示す配合のコーティング剤組成物を調整し、これらコーティング剤組成物の耐熱性を以下の方法で確認した。
【0034】
表1と表2に示す配合は、各材料の添加量を質量部で示している。
なお、ポリビニルアルコール(表1では、「PVA」と表記する。)は、以下のものを用いた。
PVA 1:重合度600、けん化度87mol%
PVA 2:重合度2000、けん化度87mol%
PVA 3:重合度600、けん化度95mol%
【0035】
また、ポリビニルアルコールの誘導体として、重合度600、けん化度88mol%のシラノール変性ポリビニルアルコールを用いた。
【0036】
なお、上記のポリビニルアルコール及びポリビニルアルコールの誘導体は、合成樹脂エマルションと混合する前に、予め配合中の「水」に溶解させておいた。
【0037】
また、合成樹脂エマルションとして、不揮発分45質量%のアクリル樹脂エマルションを用いた。
【0038】
また、添加剤として、造膜助剤、消泡剤、増粘剤を用いた。なお、表中の添加剤の中には水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が含まれている。また、充填材として、炭酸カルシウムとアルミニウム粉末を用いた。
【0039】
表1と表2には、「合成樹脂結合材」の含有量を「A」、「ポリビニルアルコール及びその誘導体の含有量」を「B」として表示し、また「Aの全量中におけるBの含有率(少数点以下2桁で四捨五入)」を「(B/A)×100」として表示している。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
(試験体)
基材として、10cm×20cm、厚み0.5mmの銅板を用いた。基材の表面に表1と表2に実施例及び比較例として示すコーティング剤組成物をディッピング塗装して3日間静置したものを試験体とした。なお、ディッピング塗装は各試験体とも複数回行い、コーティング剤組成物によるコーティング層の膜厚は各試験体とも100±5μmとなるようにした。
【0043】
(耐熱性試験)
恒温恒湿器を温度80℃、湿度95%となるように設定して、各実施例及び比較例のコーティング剤組成物を塗装した試験体を恒温恒湿器内で一週間静置した。
一週間後に恒温恒湿器から試験体を取り出して、常温環境下で24時間静置した後に、塗膜の状態を目視及びマイクロスコープ(100倍)により観察した。
【0044】
耐熱性試験では、試験体の塗膜の状態を以下の基準で評価した結果を表3と表4に示す。
○:塗膜に異常なし。
△:塗膜が変色している。
×:塗膜に膨れが発生している。
【0045】
(耐熱水性試験)
耐熱性試験の結果、耐熱性が優れていると分かるコーティング剤組成物の中でも、特に耐熱性が優れているコーティング剤組成物を選定するために、耐熱水性試験を行なった。
温度100℃の熱水中に、各実施例及び比較例のコーティング剤組成物を塗装した試験体を浸漬して、50時間静置した。50時間後に試験体を熱水から取り出して、常温環境下で24時間静置した後に、塗膜の状態を目視及びマイクロスコープ(100倍)により観察した。
【0046】
耐熱水性試験では、試験体の塗膜の状態を以下の基準で評価した結果を表3と表4に示す。
○:塗膜に異常なし。
△:塗膜が変色している。
×:塗膜及び基材(銅板)が変色している。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表3と表4に示す耐熱性試験の結果から以下のことが言える。
合成樹脂結合材の全量中におけるポリビニルアルコール又はその誘導体の割合が一定量以上であると、塗膜の耐熱性が向上する(比較例1,2,実施例1〜9)。ただし、ポリビニルアルコール又はその誘導体の割合が一定量を超えると塗膜に変色が発生しやすくなる(比較例3)。
【0050】
また、耐熱水性試験の結果から以下のことが言える。
合成樹脂結合材の全量中におけるポリビニルアルコール又はその誘導体の割合が実施例2〜5,実施例7〜9程度のものが特に耐熱性に優れている。
充填材としてアルミニウム粉末を用いたものは、充填材に炭酸カルシウムを用いたものに比べて、耐熱性が向上している(実施例11〜12、実施例13〜14)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂結合材を含有し、合成樹脂結合材の全量中にポリビニルアルコール及び/又はその誘導体を2〜20質量%含有することを特徴とするコーティング剤組成物。
【請求項2】
前記合成樹脂結合材として合成樹脂エマルションを含有し、合成樹脂結合材の全量中に合成樹脂エマルションの不揮発分を70質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール又はその誘導体のけん化度が70.0mol%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール又はその誘導体の重合度が300〜3500であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤組成物。

【公開番号】特開2013−18915(P2013−18915A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155123(P2011−155123)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】