説明

コーティング剤

【課題】固着防止、粘着防止、ブロッキング防止および耐摩耗性向上といったゴム状弾性体用などのコーティング剤に要求される性能を満足させるとともに、高温圧縮時の粘着や高面圧での摩擦摩耗による塗膜の剥がれを生じない加硫ゴム用表面処理剤を提供する。
【解決手段】セルロース誘導体、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン、軟化点100〜150℃の合成ワックス、軟化点60〜170℃の脂肪酸アミドおよびグラファイトを含有してなるコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤に関する。更に詳しくは、シール材などとして用いられる弾性体用のコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム被覆金属製ガスケットやベアリングシール、オイルシール、Oリング等のゴム弾性体の表面には、固着防止、ブロッキング防止、耐摩耗性向上などという目的で、グラファイトのコーティング膜や、脂肪酸の金属塩またはアミド、パラフィン等のワックス、シリコーンオイルなどのコーティング膜を形成させており、あるいはバインダーとしてエチルセルロース、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などを含むコーティング膜を形成させることが行われているが、これらのコーティング膜を形成してもエンジンガスケットなどの高面圧、高温度使用条件下でさらにエンジンの振動が加わると、ガスケット表面のゴム被覆層が摩耗し、ガス洩れを発生させることがある。また、ベアリングシールやオイルシール等のゴム弾性体摺動部のゴム被覆層が、くり返しの摺動により摩耗し、オイル洩れを発生させることがある。
【0003】
かかる問題に鑑みて、本出願人は先にエンジンヘッドガスケットの使用環境である高面圧、高温度にさらに振動が加わるような過酷な使用条件下においても、ガスケット表面のゴム被覆層に摩耗や破壊を生ずるといった現象が殆どみられず、シール性の保持に有効なガスケットなどを形成させ得るゴム状弾性体コーティング剤として、液状1,2-ポリブタジエンの水酸基含有物およびその硬化剤としての1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物に、ポリオレフィン樹脂を添加したゴム状弾性体用コーティング剤(特許文献1,2)およびイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン樹脂、ワックスおよびフッ素系樹脂からなるコーティング剤(特許文献3)を提案している。
【特許文献1】特許2,827,402号公報
【特許文献2】特許3,316,993号公報
【特許文献3】特許3,893,985号公報
【0004】
しかるに、これらのゴム状弾性体用コーティング剤は、コーティング剤の一成分であるポリブタジエン誘導体樹脂が高温で粘着し、耐摩擦・摩耗特性が低下する現象がみられることがあり、このコーティング剤層の高温での耐性に問題がみられる場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固着防止、粘着防止、ブロッキング防止および耐摩耗性向上といったゴム状弾性体用などのコーティング剤に要求される性能を満足させるとともに、高温圧縮時の粘着や高面圧での摩擦摩耗による塗膜の剥がれを生じない加硫ゴム用表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、セルロース誘導体、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン、軟化点100〜150℃の合成ワックス、軟化点60〜170℃の脂肪酸アミドおよびグラファイトを含有してなるコーティング剤によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るコーティング剤は、これをゴムの表面処理に用いた場合、次のような効果がある。
(1) コーティング剤の塗布性に優れている
(2) 表面処理したゴム同士のブロッキングがない
(3) 表面処理したゴムの表面は、低摩擦、低摺動となり、装着作業性に優れている
(4) コーティング剤とゴムの官能基との間に化学的結合が多く形成され、その結果低摩擦、低摺動といった所望性能に持続性があり、またゴムの摩耗を低減できるばかりではなく、表面処理したゴムの耐久性や高温での非粘着性が発揮されることにより、金属との粘着性や固着性が少なくなり、高温時においても同様の効果がみられる
(5) 塗布厚みを薄くしても(10μm以下)、塗布ムラがなく、低コストで処理が可能であるばかりではなく、ゴム特性、滑り性、非粘着性を低下させることなく、柔軟性があり、特にシール部品の場合にはシール性に優れている
(6) シリコーン樹脂、シリコーンゴム、シリコーンオイルなどを含まないため、電気接点不具合の恐れがある部位にも使用可能である
(7) ポリブタジエン誘導体、セルロース誘導体とワックスおよびグラファイトからなるため、アウトガス性や汚染性の心配がなく、IT関連部品に使用が可能である
(8) 従来のフッ素樹脂を含有する処理皮膜は硬く、シール部品ではシール性能低下や圧縮-解放繰り返しによる皮膜のクラックや剥がれがみられたが、本発明のポリブタジエン誘導体(およびワックス)を含有することにより、皮膜に柔軟性が付与され、これら問題が解消される
(9) セルロース誘導体の含有により、塗布性が向上し、またセルロース誘導体およびイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンの反応により、皮膜の強度が向上し、ポリブタジエンの粘着を防止することができ、高温での耐摩擦・摩耗特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースなどが、好ましくはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースが用いられ、これはコーティング剤を用いて形成した皮膜中の各固形物成分中5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%となるような割合で用いられる。皮膜を形成する固形物成分中のセルロースの割合がこれより少ない場合には、高温での耐摩擦・摩耗特性の低下や粘着性が高くなり、さらに全く用いられない場合には、高温での低粘着性能および高温摩耗性が低下するようになる。一方、これより多く用いた場合には、ゴムとの密着性は満足されるものの、滑り性が悪くなるため、耐摩擦・摩耗特性が低下し、粘着力が高くなるようになる。セルロース誘導体は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとの反応により、皮膜の強度を向上させ、ポリブタジエンの粘着を防止することを可能とし、高温での耐摩擦・摩耗特性を向上させる。
【0009】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとしては、末端基としてイソシアネート基が付加された分子量1,000〜3,000程度のものが用いられ、これは市販品、例えば日本曹達製品日曹TP-1001(50重量%酢酸ブチル溶液)などをそのまま用いることが出来る。このポリブタジエン樹脂は、同様のイソシアネート基で反応高分子化するポリウレタン樹脂よりも、ゴムとの相性、相溶性が良いため、ゴムとの密着性が良く、特に耐摩擦・摩耗特性が良いのが特徴である。
【0010】
なお、1,2-ポリブタジエンにイソシアネートを導入するために用いられるイソシアネート化合物としては、トリジンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、トリデンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、フェニルイソシアネート、p-クロルフェニルイソシアネート、o-クロルフェニルイソシアネート、m-クロルフェニルイソシアネート、3,4-ジクロルフェニルイソシアネート、2,5-ジクロルフェニルイソシアネート、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n-プロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トランスビニレンジイソシアネート等が用いられ、市販品である例えばDesmodur(バイエル製品)、コロネート(日本ポリウレタン製品)、タケネート(武田薬品製品)等をそのまま用いることができる。
【0011】
また、このイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンは、末端基にイソシアネート基が付加されているため、加硫ゴム表面の官能基や水酸基、カルボキシル基等の活性水素基含有1,2-ポリブタジエンと反応させることで高分子化する。この際用いられる末端活性水素基として水酸基が付加された水酸基含有1,2-ポリブタジエンとしては、分子量l,000〜3,000程度ものが用いられ、市販品、例えば日本曹達製品日曹G-1000、C-1000、GQ-1000、GQ-2000などをそのまま用いることが出来る。
【0012】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンと活性水素基含有1,2-ポリブタジエンが混合して用いられる場合には、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンが50重量%以上、好ましくは60〜100重量%、活性水素基含有1,2-ポリブタジエンが50重量%以下、好ましくは0〜40重量%の割合で用いられる。イソシアネート基含有1,2−ポリブタジエンがこれより少ない場合には、ゴムとの密着性が低下することになり、ひいては滑り性、非粘着性能が低下し、耐摩擦・摩耗特性が低下するようになる。
【0013】
さらに、これらの活性水素基含有1,2-ポリブタジエンと前記の如きイソシアネート化合物とを混合した混合物(反応生成物)も、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとして用いることができる。この場合には、活性水素基に対して当量以上のイソシアネート基となるような割合でイソシアネート化合物が用いられる。
【0014】
このイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンは、コーティング剤を用いて形成した皮膜中の各固形物成分中、20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%となるような割合で用いられる。皮膜を形成する固形物成分中のイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンの割合が、これより少ない場合には、グラファイトの脱落が多くなり、さらに全く用いられない場合には、ゴムとの密着性が低下し、耐摩耗性および低粘着性能が低下するようになる。またゴムとの密着性が低下することになり、耐摩擦・摩耗特性が低下するようになる。一方、これより多く用いられた場合には、ゴムとの密着性は満足されるものの、滑り性が悪いため、耐摩擦・摩耗特性が低下し、粘着力が高くなる。
【0015】
ワックスとしては、合成ワックスおよび脂肪酸アミドが併用される。合成ワックスとしては、軟化点100〜150℃のものが用いられ、具体的にはマイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、サゾールワックス(フィッシャー・トロプシュワックス)が、好ましくはマイクロクリスタリンワックスの滑り性、潤滑性およびポリエチレンと同様の高い融点と耐摩擦・摩耗特性を併せ持つサゾールワックスが用いられる。サゾールワックスは、パラフィンワックスと比べて軟化点が高いため、高温でのコーティング膜の強度が高く、高温摩耗性に優れている。またポリエチレンと比べて分子量が低く、高温でのコーティング膜強度は若干劣るものの潤滑性が満足されるため、所望の高温摩耗性を得ることができる。
【0016】
サゾールワックスは、石炭を原料とし、一酸化炭素の水素化反応で炭化水素を合成する方法により製造され、飽和の直鎖状につながった炭化水素からなり、そのほとんど分枝をもたないほぼ完全な直鎖分子構造を有しているといった特徴をもつワックスであり、高融点、硬質、低粘度といった特徴を有する。
【0017】
合成ワックスは、高温ではさらに潤滑性が増すため、高温での耐摩耗性が向上するものの、ワックス量が多い場合に高温で軟化して粘着し、被膜強度が低下するため、熱間耐摩耗性が低下するようになる。従って、合成ワックスとして軟化点がこれより高いものを用いた場合には、高温での滑り性、非粘着性能が低下するようになる。一方、これより軟化点の低いものを用いると、ゴムと処理剤との密着性や高温での耐摩擦・摩耗特性が低下するようになる。
【0018】
脂肪酸アミドとしては、軟化点60〜170℃、好ましくは70〜120℃のものが用いられ、具体的にはオレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、キシリレンビスステアリン酸アミドなどのN-置換脂肪酸アミドまたはN-置換芳香族系アミドが、好ましくはオレイン酸アミド、ステアリン酸アミドが用いられる。脂肪酸アミドは、軟化点が低いものほど、滑り性、潤滑性に優れるようになるが、軟化点がこれより低いものを用いた場合には、常温でべとつきが発生し、低粘着性が低下するようになる。一方、これより軟化点の高いものを用いると、滑り性、潤滑性が損なわれるようになる。
【0019】
合成ワックスと脂肪酸アミドとは、2:8〜8:2となるような重量割合でワックス成分を構成する。合成ワックスがこれより少ない割合で用いられると、高温での粘着力は低くなるものの、高温摩耗性が低下するようになり、一方これより多い割合で用いられると、高温摩耗性は向上するものの、摩耗係数が上がり粘着力が高くなるようになる。例えば、ワックス成分としてサゾールワックスを単独で用いた場合には、高温で粘着し、また脂肪酸アミドを単独で用いた場合には、高温での摩耗性が良くなく、両者を併用することにより、高温の粘着防止と摩耗性が両立することとなる。
【0020】
これらのワックスは、市販品をそのまま用いることができ、コーティング剤を用いて形成した皮膜中の各固形物成分中、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%となるような割合で用いられる。皮膜を形成する固形物成分中のワックスの割合がこれより多い場合には、ゴムとの密着性が低下し、耐摩擦・摩耗特性が低下するようになり、一方これより少ない場合にはすべり性や粘着防止性能が劣るようになる。
【0021】
グラファイトとしては、鱗状黒鉛、土壌黒鉛、人造黒鉛等が用いられ、これらは市販品をそのまま用いることができ、これはコーティング剤を用いて形成した皮膜中の各固形物成分中、5〜50重量%、好ましくは7〜40重量%となるような割合で用いられる。皮膜を形成する固形物成分中のグラファイトの割合がこれより多い場合には、コーティング膜からのグラファイトの脱落が生じ易く、コーティング膜が相手金属面と接触または加圧された場合に相手面がグラファイトで汚染され易くなり、少ない場合にはコーティング膜が摩耗し易くなり、さらに全く用いられない場合には、コーティング膜強度が低下し、グラファイトの潤滑性がないため、高温での耐摩耗性が良くない。
【0022】
これらの各必須成分は、有機溶剤中に分散され、コーティング剤として調製される。有機溶剤としては、芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類などが用いられ、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、イソホロン、エチルセルソルブ、メチルセルソルブなどが用いられる。有機溶剤による希釈量は、塗布厚み、塗布方法に応じて適宜選択されるが、一般には約3〜20重量%程度の固形分濃度で調製される。なお、塗布厚みは、通常1〜10μm、好ましくは2〜6μmであり、塗布厚みがこれより小さい場合には、ゴム表面をすべて被覆することが出来ず、滑り性、非粘着性を損なうことがある。一方、塗布厚みがこれより大きいと、塗布表面外観が悪化するとともに、剛性が高くなり、シール性、柔軟性を損なうことがある。シール部品などの使用用途では、2〜6μm程度が好ましい。
【0023】
かかるコーティング剤により処理が可能な弾性体としては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレン-プロピレン(-ジエン)ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴムなどの一般的なゴム材料が挙げられ、この内好ましくは、ゴムに配合している老化防止剤、オイルなどのゴム表面層へのブルームミングが少ないゴム材料が用いられる。なお、ゴム材質、目的に応じて、上記各成分の配合比率および有機溶剤の種類、溶媒量、溶媒混合比率は適宜選択される。
【0024】
コーティング剤のゴム表面への塗布方法としては、浸せき、スプレー、ロールコータ、フローコータ、インクジェットなどの塗布方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。この際、あらかじめ表面処理剤塗布前にゴム表面の汚れ等を洗浄などにより除去することが好ましい。特に、ゴムからブルーム物、ブリード物が表面に析出している場合には、水、洗剤、有機溶剤などによる洗浄および乾燥が行われる。
【0025】
コーティング剤をゴム表面へ塗布した後、例えば約150〜250℃で約1分〜24時間程度熱処理される。熱処理温度がこれより低い場合には、皮膜の硬化およびゴムとの密着性が不十分で、非粘着性、滑り性が悪くなる。一方、熱処理温度がこれより高い場合には、ゴムの熱老化が起こるようになる。従って、各種ゴムの耐熱性に応じて、加熱温度を加熱時間に応じて適宜設定する必要がある。
【0026】
また、アウトガス量の低減が要求される品目の場合には、加熱処理、減圧処理、抽出処理などを単独または組み合わせて行うことができるが、経済的には加熱処理が最も良く、アウトガス量を減らすには、約150〜250℃で1〜24時間程度加熱処理することが好ましく、ゴム中の低分子量成分および皮膜中のワックス、ポリブタジエンに含まれる低分子量成分をガス化させるために、温度は高いほど、また時間は長い程有効である。
【0027】
本発明にかかるコーティング剤は、例えば金属板上に、接着剤層およびゴム層を形成したゴム金属積層体のゴム表面の粘着防止を目的としたコーティング剤として用いられる。
【0028】
金属板としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、亜鉛メッキ鋼板、SPCC鋼板、銅板、マグネシウム板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。これらは、一般に脱脂した状態で用いられ、必要に応じて金属表面をショットブラスト、スコッチブライド、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化することが行われる。また、その板厚は、一般に約0.1〜1mm程度のものが用いられる。
【0029】
これらの金属板上には、好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層は、ゴム金属積層体のゴム接着に係る耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであり、特にゴム金属積層体をシール材として使用する場合には、それを形成させることが望ましい。
【0030】
プライマー層としては、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、塗布型クロメート皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系皮膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系皮膜など、一般に市販されている薬液あるいは公知技術をそのまま用いることができるが、好ましくは少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含んだプライマー層や、さらにこれに金属酸化物またはシリカを添加したプライマー層、さらに好ましくはこれらのプライマー層形成成分にアミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を加えたプライマー層が用いられる。この加水分解縮合生成物は、単独でも用いられる。
【0031】
以上の各成分よりなるプライマーは、その固形分濃度が約0.2〜5重量%となるように有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等の溶液として調製される。
【0032】
得られたプライマー溶液は、金属板上にスプレー、浸せき、刷毛、ロールコータ等を用いて、約50〜200mg/m2量の目付量で塗布され、室温または温風にて乾燥させた後、約100〜250℃、約0.5〜20分間焼付け処理され、プライマー層が形成される。
【0033】
プライマー層上には、加硫接着されるゴムの種類に応じた加硫接着剤が塗布される。例えばNBR用の接着剤としては、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなど各種樹脂皮膜として一般に市販されている接着剤をそのまま使用することができるが、好ましくはノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂の2種類のフェノール樹脂と未加硫NBRからなる接着剤が使用できる。
【0034】
これらの各成分を含有する接着剤は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの有機溶剤単独またはこれらの混合溶剤に溶解され、液状として使用される。
【0035】
金属板上への接着剤層の形成は、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に、上記接着剤を塗布し、室温下で風乾させた後、約100〜250℃で約5〜30分間程度の加熱を行うことにより行われる。
【0036】
このようにして形成された加硫接着剤層上には、フッ素ゴム、NBR、水素化NBR、アクリルゴム、EPDM、クロロプレンゴム等に加硫剤、補強剤、その他必要な各種配合剤を配合した未加硫のゴムコンパウンドを適用し、約150〜220℃で約5〜20分間という成形条件での圧縮成形や射出成形等の加圧成形法によりゴム層が形成される。あるいは、ゴム組成物を沸点250℃以下の有機溶剤、例えばケトン類、芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶剤などに溶解または分散させることにより、ゴムコーティング剤とした上で加硫接着剤層上に塗布、乾燥、さらに約120〜250℃で約1分間乃至約15時間という皮膜形成条件で熱処理されてゴム金属積層体のゴム層が形成される。このゴム層には、前記の如くにしてコーティング剤層が形成される。
【実施例】
【0037】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0038】
実施例1
メチルセルロース(信越化学製品) 10%トルエン溶液 130(13)重量部
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン 65(32.5) 〃
(日本曹達製品TP1001;50%酢酸ブチル溶液)
サゾールワックス 73(10.95) 〃
(サゾール社製品、軟化点110℃、粒子径2μm以下;15%トルエン溶液)
オレイン酸アミド(日本化成製品ダイヤミッドO-200、 73(10.95) 〃
軟化点75℃、粒子径2μm以下;15%トルエン溶液)
グラファイト(日電カーボン製品C-1) 7.8(7.8) 〃
トルエン 653 〃
以上のコーティング剤各成分(溶液濃度は重量%であり、カッコ内の値は固形分重量部である)を混合し、このトルエン溶液(固形分濃度7.5重量%)を圧縮成形したシート(60×25×2mm)、Oリング(内径119.6mm、太さ7mm径、呼び番号P120)およびオイルシール(内径85mm、外径105mm、幅13mm)の各加硫フッ素ゴム部材に、スプレーを用いてコーティング剤を約5μmの厚さで塗布し、200℃で2分間加熱処理した後、動摩擦測定試験、ゴムシート同士の室温下における粘着試験、Oリングのリーク試験、オイルシール回転試験を行った。
ゴムシート同士の室温粘着試験:加硫フッ素ゴム製シート貼り合わせ部分15mm角に、上記表面加工を施し、貼り合わせ部分のゴム同士を40℃、湿度95%の恒温恒湿槽において、面圧0.15kg/cm2で24時間圧着した後、室温下でJIS K6850の引張せん断接着強さ試験法に従い、引張せん断接着強さ試験片の引張強さを測定し、表面の粘着力を評価
Oリングのリーク試験:加硫フッ素ゴム製Oリングに、上記表面処理を施し、Oリングを5%圧縮し、ヘリウムリークディテクタにて、ヘリウムガス注入3分後のヘリウム漏れ量を測定
オイルシール回転試験:加硫フッ素ゴム製オイルシールのリップ面に、上記コーティング処理を施し、試験温度100℃、回転数2000rpmの条件下に、油密封状態で試験開始1時間後の油漏れがあるか、コーティング膜の剥がれがあるか否かを確認した。
【0039】
〔ゴム金属積層体の作製〕
アルカリ脱脂した厚さ0.2mmのステンレス鋼板(日新製鋼製品SUS301)の表面に、チタンテトラ(アセチルアセトネート)1.0重量部、アルコキシシラン加水分解縮合物2.5重量部、水10.0重量部およびメタノール86.5重量部を混合し、数分間撹拌することにより得られるシラン系プライマーを用い、浸せき法で塗布し、加熱空気で乾燥させた後、約200℃で5分間焼付け処理され、プライマー層(目付量:250mg/m2)が形成された。なお、ここで用いられたアルコキシシラン加水分解縮合物は、次のようにして製造された。
【0040】
攪拌機、加温ジャケットおよび滴下ロートを備えた三口フラスコに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン40重量部および水20重量部を仕込み、pHが4〜5になるように酢酸を加えて調製し、数分間攪拌した。さらに攪拌を続けながら、ビニルトリエトキシシラン40重量部を滴下ロートを使って徐々に滴下した。滴下終了後、約60℃の温度で5時間加熱還流を行い、室温迄冷却してアルコキシシラン加水分解縮合物を得た。
【0041】
このプライマー層上に、メチルエチルケトン90重量部に未加硫NBR(日本合成ゴム製品N-237;中高ニトリル)2重量部を添加した後、レゾール型フェノール樹脂(ロードファーイースト社製品ケムロックTS1677)5重量部および塩素化ポリエチレン(ダイソー製品SE-200Z)3重量部を添加して調製した接着剤組成物溶液を塗布し、室温下で風乾させた後、約200℃で約5分間加熱して接着剤層を形成させた後、下記NBR組成物を、固形分濃度25重量%となるようにトルエン:メチルエチルケトン=9:1混合溶剤に溶解したものを、塗布、乾燥して約20μmの厚みの未加硫ゴム層を形成し、次いで180℃、6分間の条件下でプレス加硫を行い、形成された加硫ゴム層表面に、前記各コーティング剤を浸漬塗布した後、200℃、2分間の加熱空気による加熱処理を行い、厚さ5μmの粘着防止層を形成させて、60×25mmの大きさのゴム金属積層体を作製した。
(NBR組成物)
NBR(JSR製品N235S;ニトリル含量36%) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
ホワイトカーボン(日本シリカ製品ニップシールLP) 40 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 2 〃
老化防止剤(大内新興化学製品Nocrac 224) 2 〃
(N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン)
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイク) 2 〃
1,3-ビス第3ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン 7.5 〃
(三建化工製品サンペロックスTY-13)
【0042】
得られたゴム積層金属板について、動摩擦測定試験、アルミニウム板との高温粘着試験および高温摩擦・摩耗試験を行った。
動摩擦測定試験:上記の如く表面処理されたゴム金属積層体について、JIS K7125、P8147に準じ、新東科学製表面性試験機を用いて、相手材として直径10mmのクロム鋼球摩擦子を用い、移動速度50mm/分、荷重50gの条件下で動摩擦係数を測定
アルミニウム板との高温粘着試験:ゴム金属積層体のゴム層の貼り合わせ部分となる25mm角の貼り合わせ部分を、200℃、72時間、200kgf/cm2(19.6MPa)の条件下でアルミニウム板(厚さ20mm)と圧着し、室温下でJIS K6850の引張せん断接着強さ試験法に従い、引張せん断接着強さ試験片の引張強さを測定し、表面の粘着力を評価
高温摩擦・摩耗試験:JIS K7125、P8147に準じ、新東科学製表面性試験機を用い、相手材として直径10mmの硬質クロムめっき製鋼球摩擦子を用い、移動速度400mm/分、往復動移動幅30mm、150℃、荷重2.5kgの条件下における往復動試験により、摩擦摩耗評価を行い、ゴムが摩耗して接着層が露出するまでの回数を測定
【0043】
実施例2
実施例1において、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンの代わりに水酸基含有1,2-ポリブタジエン(日本曹達製品G-1000)19.5(19.5)重量部およびイソシアネート(バイエル製品Desmodur R)13(13)重量部が、またトルエン量が685重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0044】
実施例3
実施例1において、グラファイト量が21.7重量部に、またトルエン量が825重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0045】
実施例4
実施例1において、サゾールワックス量が44重量部に、オレイン酸アミド量が102重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0046】
以上の各実施例で得られた結果は、各成分の皮膜を形成する固形物成分の計算上の重量比率と共に次の表1に示される。
表1
実施例

〔皮膜中の固形物成分重量比率(%)〕
メチルセルロース 17.3 17.3 14.6 17.3
NCO基含有ポリブタジエン 43.2 43.3 36.5 43.2
ポリエチレンワックス 29.1 29.0 24.6 29.1
グラファイト 10.4 10.4 24.4 10.4
〔評価結果〕
室温粘着試験
引張強さ (kgf) <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Oリングリーク試験
He漏れ量(×10-11 Pa・m3/秒) 5 10 10 5
オイルシール回転試験
漏れの有無 無 無 無 無
コーティング膜剥がれの有無 無 無 無 無

動摩擦測定試験
動摩擦係数 0.2 0.1 0.1 0.1
アルミ板との高温粘着試験
表面粘着力 (kgf) 40 <0.1 <0.1 10
高温摩擦・摩耗試験
接着層が露出するまでの回数 300 350 500 250
注) <0.1は検出限界以下を示している(0.1は測定可)
【0047】
比較例1
実施例1において、サゾールワックスおよびオレイン酸アミドが用いられず、パラフィンワックス(精工化成製品、軟化点60℃、粒子径2μm以下;15%トルエン溶液)145(21.75)重量部が用いられた。
【0048】
比較例2
実施例1において、サゾールワックスおよびオレイン酸アミドが用いられず、ポリエチレンワックス(三井化学製品、分子量2000、軟化点110℃、粒子径1μm;15%トルエン溶液)145(21.75)重量部が用いられた。
【0049】
比較例3
実施例1において、サゾールワックス量が145(21.75)重量部に変更され、またオレイン酸アミドが用いられなかった。
【0050】
比較例4
実施例1において、サゾールワックスが用いられず、オレイン酸アミド量が145(21.75)重量部に変更されて用いられた。
【0051】
比較例5
実施例1において、サゾールワックスおよびオレイン酸アミドが用いられず、エチレンビスステアリン酸アミド(日本化成製品スリッパクスE、軟化点140℃、粒子径2μm以下;15%トルエン溶液)145(21.75)重量部が用いられた。
【0052】
比較例6
実施例1において、サゾールワックスおよびオレイン酸アミドが用いられず、グラファイト量が21.7(21.7)重量部に、またトルエン量が679重量部に変更されて用いられた。
【0053】
比較例7
実施例1において、グラファイトが用いられず、トルエン量が558重量部に変更されて用いられた。
【0054】
比較例8
実施例1において、メチルセルロースが用いられず、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン量が88(44)重量部に、グラファイト量が7.5(7.5)重量部に、またトルエン量が737重量部に変更されて用いられた。
【0055】
比較例9
実施例1において、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンが用いられず、メチルセルロース量が441(44.1)重量部に、グラファイト量が7.5(7.5)重量部に、またトルエン量が385重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0056】
以上の各比較例で得られた結果は、各成分の皮膜を形成する固形物成分の計算上の重量比率と共に次の表2に示される。
表2
比較例

〔皮膜中の固形物成分重量比率(%)〕
メチルセルロース 17.3 17.3 17.3 17.3 17.3 19.3 19.3 − 60.0
NCO基含有ポリブタジエン 43.3 43.3 43.3 43.3 43.3 48.4 48.2 59.9 −
ポリエチレンワックス 29.0 29.0 29.0 29.0 29.0 − 32.5 29.8 29.8
グラファイト 10.4 10.4 10.4 10.4 10.4 32.3 − 10.2 10.2
〔評価結果〕
室温粘着試験
引張強さ (kgf) <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 50 120 <0.1
Oリングリーク試験
He漏れ量(×10-11 Pa・m3/秒) 5 5 100 5 500 104 5 5 10
オイルシール回転試験
漏れの有無 無 無 無 無 無 有 無 無 無
コーティング膜剥がれの有無 有 無 無 有 無 有 無 有 有

動摩擦測定試験
動摩擦係数 0.2 0.2 0.2 0.1 0.4 0.5 0.4 0.4 0.3
アルミ板との高温粘着試験
表面粘着力 (kgf) 100 10 200 <0.1 10 170 150 250 300
高温摩擦・摩耗試験
接着層が露出するまでの回数 70 100 350 60 80 20 90 70 2
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明にかかるコーティング剤は、Oリング、Vパッキン、オイルシール、ガスケット、パッキン、角リング、Dリング、各種バルブなどのゴム製シール材、等速ジョイントなどのダストブーツ、ダイアフラム、ワイパーブレードなどのゴム製品、エンジン、モーター、ハードディスクなどの記憶装置、光ディスクなどの各種防振ゴム、ハードディスクなどの記録装置用ヘッド、プリンターヘッドなどの衝撃吸収ストッパー部品などに対して有効に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン、軟化点100〜150℃の合成ワックス、軟化点60〜170℃の脂肪酸アミドおよびグラファイトを含有してなるコーティング剤。
【請求項2】
形成した皮膜中の各固形物成分が、セルロース誘導体が5〜40重量%、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンが20〜70重量%、合成ワックスおよび脂肪酸アミドの合計量が5〜50重量%、またグラファイトが5〜50重量%である請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
合成ワックスが、サゾールワックスである請求項1または2記載のコーティング剤。
【請求項4】
弾性体の表面に適用して用いられる請求項1、2または3記載のコーティング剤。
【請求項5】
請求項4記載のコーティング剤で表面処理された弾性体。
【請求項6】
表面処理された弾性体がシール材である請求項5記載の弾性体。
【請求項7】
ゴム金属積層体のゴム表面に適用して用いられる請求項1、2または3記載のコーティング剤。
【請求項8】
請求項7記載のコーティング剤でゴム表面が被覆処理されたゴム金属積層体。

【公開番号】特開2008−260809(P2008−260809A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102955(P2007−102955)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】