説明

コーティング剤

【課題】多孔質の連続皮膜であって、極めて優れた調湿性と、良好なガス吸着性を有する皮膜を形成させるコーティング剤の提供。
【解決手段】調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料と、多孔質皮膜形成材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有してなることを特徴とするコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿・ガス吸着性及び防汚性に優れた多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅などの建築物の高気密化は、壁、窓又は収納内部などに結露を生じさせ、この結露がアレルギー疾患を引き起こすカビ、ダニなどのアレルゲンの発生源となるため問題となっている。また、建築物の高気密化は、内装材又は家具などに使用されている化学物質から発生する揮発性有機化合物を室内に滞留させるため、いわゆる化学物質過敏症の一因にもなっている。
【0003】
このような問題に対して、調湿性(吸放湿性)やガス吸着性などの機能が付与された内装材を使用する方法がある。そして、このような内装材の表面を保護しつつ、かつ、上記機能が効率良く発揮されるようにするために、多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤について各種の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、多孔質の連続皮膜を形成させるためのコーティング剤として、特定の皮膜形成水性エマルジョンと特定のコロイダルシリカとを含む多孔質皮膜形成用水分散型組成物が提案されており、そして、特許文献2には、該組成物を、調湿性を有する基材に適用した調湿性内装材についても提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、多孔質の連続皮膜であって、かつ、調湿性・ガス吸着性を有する皮膜を形成させるためのコーティング剤として、15〜65質量%の特定の性質を有する無機多孔質材料と樹脂分で30〜70質量%の特定の樹脂エマルジョンと固形分で5〜40質量%の透湿性付与剤とを配合させてなるコーティング剤が提案されており、また、該コーティング剤が表面に塗布されてなる調湿性内装材についても提案されている。
【0006】
そして、これらのコーティング剤を用いてなる調湿性内装材は、コーティング剤による形成皮膜により表面が保護され、また、この皮膜は透湿性を有することから、基材の持つ調湿性やガス吸着性を効率良く発揮させることができるものである。しかし、これらのコーティング剤により形成される皮膜自体は、調湿性を有しないか、若しくは、十分に満足できるものではないため、上記したような調湿性内装材は、吸湿や放湿に時間がかかるという改善すべき点があった。すなわち、吸湿に時間がかかるため、室内環境の変化に素早く対応できなかったり、また、放湿に時間がかかるため、基材に蓄湿を生じさせたりする場合があった。さらに、このような調湿性を有するコーティング剤を、フィルターなどの他の用途に適用する場合においても、素早い吸湿を可能とするために、皮膜により高い吸湿性能や放湿性能を付与させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平07−110906号公報
【特許文献2】特開2008−132673号公報
【特許文献3】特開2008−138167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、多孔質の連続皮膜であって、十分に満足できる程度の優れた調湿性と、良好なガス吸着性を有する皮膜を形成させるコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討をした結果、以下の本発明により上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は、調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料と、多孔質皮膜形成材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有してなることを特徴とするコーティング剤である。また、本発明のコーティング剤は、さらに、ポリカルボン酸系分散剤を含有してなることが好ましい。
【0010】
また、本発明のコーティング剤は、前記多孔質皮膜形成材料が、樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃である樹脂エマルジョンと、透湿性付与剤とから構成されるものであり、各成分の含有量(固形分換算)が、前記無機多孔質材料15〜90質量%、上記樹脂エマルジョン3〜70質量%、上記透湿性付与剤0.5〜40質量%、前記塩化合物2〜25質量%である形態とすることが好ましい。この形態においては、さらに、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物を含有してなることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコーティング剤は、前記多孔質皮膜形成材料が、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔質の連続皮膜であって、極めて優れた調湿性と、良好なガス吸着性を有する皮膜を形成させるコーティング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コーティング剤による形成皮膜の経時水分吸着量を示す測定結果。
【図2】コーティング剤による形成皮膜の吸放湿性能を示す測定結果。
【図3】吸放湿紙(コーティング剤浸漬含む)の水蒸気吸着等温線。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤である。そして、少なくとも、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料と、多孔質皮膜形成材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有してなることを特徴とする。以下、本発明のコーティング剤を構成する各成分について詳細に説明する。
【0015】
<無機多孔質材料>
本発明のコーティング剤に用いられる無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が1〜10nm、比表面積が80m2/g以上の特性を有するものであり、優れた調湿・ガス吸着性を有するものである。このため、この特性を有する無機多孔質材料を含む本発明のコーティング剤は、形成皮膜に、良好な調湿・ガス吸着性を付与することができる。また、本発明者らの検討によれば、上記特性を有する無機多孔質材料は、湿度60%以上の環境下において、無機多孔質材料の空隙内に凝縮水を発生させ、その後、湿度60%未満の環境下となった際において、該凝縮水がナノ水蒸気として多量に雰囲気中に放出される性質を有する。このため、本発明のコーティング剤は、健康面においても有効であるといえ、特に住環境で使用する材料として有用である。本発明においては、特に、無機多孔質材料の特性が、平均細孔半径2〜8nm、比表面積100m2/g以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に用いる無機多孔質材料は、その平均粒径が80μm以下である。平均粒径が80μmを超える場合は、コーティング剤中で無機多孔質材料が沈殿しやすくなり、コーティング剤を均一に塗布することが困難となる。また、本発明において、無機多孔質材料の平均粒径を20μm以下とすることにより、コーティング剤により形成される皮膜の表面を、ざらつきが抑えられた滑らかな状態とすることができる。無機多孔質材料の平均粒径が20μmを超えて80μm以下である場合は、平均粒径を大きくするにしたがって、コーティング剤による形成皮膜の表面にざらつきが付与されるようになり、皮膜の表面積が増加して、より効果的に吸放湿性能が発揮されるようになる。一方、本発明においては、無機多孔質材料の平均粒径は5μm以上であることが好ましい。
【0017】
以上の特性を有することができる無機多孔質材料の具体例としては、例えば、珪質頁岩、アロフェン、イモゴライト、セピオライト、活性白土、大谷石又はシリカゲルなどを挙げることができ、これらは単独でも組み合わせても用いることができる。本発明においては、その中でも、珪質頁岩を用いることが好ましい。珪質頁岩とは、植物性プランクトンの化石である一般珪藻土(珪藻泥岩)が、地球の続性作用により変質してできた多孔質の変成岩である。この珪質頁岩は、調湿性に優れており、また、水蒸気に溶解可能な、アンモニア、ホルマリン又はアセトアルデヒドなどの水溶性ガス、インドール、スカトール又はイソ吉草酸などの介護臭やペット臭、大気汚染物質であるNOx、SOxなどの有害ガスを吸着する性質を有する、また、改質させることによって、他のガス、例えば、水ガラスなどを用いたアルカリ処理によって硫化水素などの酸性ガスを、疎水化処理によって水蒸気に溶解しないトルエン、キシレンなどの親油性ガスなどを吸着する性質を付与することも可能である。また、珪質頁岩は、上述したようなナノ水蒸気を多量に発生させることでも知られている。また、珪質頁岩は、一般的に、黄土色であることから、シリカゲルや活性白土などの白色の無機多孔質材料と併用することにより、淡色の色彩の皮膜を形成させるコーティング剤とすることもできる。また、高湿度域において優れた調湿性を有する珪質頁岩と、低湿度域においても優れた吸湿性を有するシリカゲルを併用することで広範囲の湿度領域に対応できるコーティング剤とすることも可能である。
【0018】
なお、珪質頁岩の中でも、北海道天北地方で産出され、細孔容量が0.1〜0.4ml/gの範囲内にある稚内層珪質頁岩を用いることが特に好ましい。また、稚内層珪質頁岩を用いた場合、40℃程度の低温で素早く放湿(再生)させることが可能となる。つまり、この場合においては、樹脂皮膜を劣化させずに吸放湿を素早く繰り返しさせることができるため、内装材以外にもフィルターなどの用途に適用することも有効である。
【0019】
また、本発明においては、上記した無機多孔質材料のうち、品質のばらつきが少ない工業製品として生産可能なシリカゲル又は活性白土を用いることも好ましい形態の一つである。さらには、調湿性が特に優れたシリカゲルと、ガス吸着性が優れた活性白土を併用することが、品質のばらつきがなく、優れた調湿性と優れたガス吸着性を併せ持つこととなるため、特に好ましい。なお、上記したこれらの無機多孔質材料は、要求される色彩によっても使い分けることもできる。例えば、白色が要求される場合は、シリカゲル、活性白土などを用いることができ、茶褐色が要求される場合には、珪質頁岩、アロフェンなどを用いることができる。
【0020】
また、本発明において、上記した無機多孔質材料は、特には、その最高吸湿率が10%以上であることが好ましく、特には、上記したようなナノ水蒸気をより多く発生させる目的から、15%以上、さらには、20%以上であることがより好ましい。なお、本発明において、細孔容量は、BJH(Barrett Joyner Halenda)法により測定できる。また、比表面積は、BET(Brunauer Emmett Teller)法により測定できる。また、平均細孔半径は、前記の方法で測定した、細孔容量と比表面積とから、細孔が円柱体と仮定して、下記の式から計算により求めることができる。なお、最高吸湿率は、測定対象物を150℃のオーブンに入れ72時間保持した後に測定した対象物の絶乾質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れて48時間保持した後に再度測定する対象物の質量との質量増加率により得られる。相対湿度に応じての水分吸着量及び水分放湿量の変化は、水蒸気吸着量測定装置で連続して測定することができる。
(式)平均細孔半径=2×細孔容量(ml/g)÷比表面積(m2/g)
【0021】
<塩化合物>
本発明のコーティング剤には、形成皮膜の機能を向上させるために、前記無機多孔質材料とともに、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物が含有されている。本発明のコーティング剤は、このように塩化合物を含有したものであるため、形成皮膜は、その吸湿性能が飛躍的に向上したものとなり、また、これとともに吸湿速度も高いレベルとなる。また、本発明者ら検討した結果、このように吸湿性能が飛躍的に向上するにもかかわらず、皮膜表面が濡れた状態となる表面濡れや、材料の飛散や脱落が生じにくいことがわかった。
【0022】
上記した効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らの検討によれば、以下のことが関係していると考えられる。すなわち、コーティング剤中において、前記塩化合物の一部又は全部が、前記無機多孔質材料の細孔内に入り込んで担持された状態となり、前記無機多孔質材料と前記塩化合物の吸湿性能が相乗的に発揮されるとともに、材料の飛散や脱落が生じにくくなると考えられる。また、吸湿した際、水分が、無機多孔質材料の細孔内やサブミクロンオーダーの無機多孔質材料の粒子間に保持されるようになることも関係していると考えられる。
【0023】
本発明者らが上記のように推定する理由は、以下の通りである。先ず、例えば、塩化ナトリウムは、主に湿度80%以上の高湿度域で吸湿性能を発揮するものであるが、これを含有させたコーティング剤による皮膜は、湿度50%程度の中湿度域でも、従来にない程度に吸湿性能が向上されるようになる。そして、このことは、湿度50%程度の中湿度域において、先ず、前記無機多孔質材料のメソ細孔内に吸着された水蒸気が、さらに、局所的には高湿度域にある前記無機多孔質材料の細孔内付近で前記塩化合物に吸着されるようになるためであると考えられる。つまり、単独では、吸湿しにくい湿度領域においても、前記無機多孔質材料と前記塩化合物の相乗効果により、吸湿性能が向上するようになると考えられる。また、前記無機多孔質材料の細孔内に担持された前記塩化合物が、前記無機多孔質材料の細孔内に閉じ込められるようになることが、脱落などが生じにくくなり、また、前記塩化合物の潮解性による表面濡れなどの影響も防ぐ理由であると考えられる。
【0024】
また、本発明者らがさらに検討した結果、前記塩化合物を含有させることにより、吸湿性能が向上するだけでなく、放湿性能も高い水準で向上することがわかった。すなわち、本発明のコーティング剤は、非常に高い調湿性やガス吸着性を有する皮膜を形成させることができるものである。
【0025】
また、これらの塩化合物の中でも、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムを用いた場合は、低湿度域から高湿度域にかけて幅広く吸湿性能が向上された皮膜を形成させることができる。その中でも、塩化リチウムを用いた場合が最も吸湿性能の向上効果が高い。また、塩化ナトリウムを用いた場合は、低湿度域においては吸湿性能の向上効果が低いものの、中湿度域から高湿度域にかけて急激に吸湿性能が向上された皮膜を形成させることが可能となる。したがって、本発明において、前記塩化合物として塩化ナトリウムを用いた場合、人間が快適に感じるとされる中湿度域の状態を安定的に確保することが望まれる用途、例えば、壁紙などの内装材や、空気浄化装置用フィルターなどの室内空間に使用される用途に好ましく適用することができる。
【0026】
<多孔質皮膜形成材料>
本発明において、多孔質皮膜形成材料は、多孔質の連続皮膜を形成するためのものであり、具体例としては、以下の第1形態及び第2形態が挙げられる。以下、各形態毎に本発明を詳細に説明する。
(第1の形態)
本発明において、多孔質皮膜形成材料の第1形態としては、樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃である樹脂エマルジョンと、透湿性付与剤とから構成される形態が挙げられる。この第1形態の場合、本発明のコーティング剤は、優れた調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成させるために、各成分の含有量(固形分換算)が、前記無機多孔質材料15〜90質量%、上記樹脂エマルジョン3〜70質量%、上記透湿性付与剤0.5〜40質量%、前記塩化合物2〜25質量%となるように調整される。特には、前記無機多孔質材料30〜85質量%、上記樹脂エマルジョン3〜40質量%、上記透湿性付与剤0.5〜20質量%、前記塩化合物3〜10質量%となるように調整されることが好ましい。
【0027】
前記第1形態において、コーティング剤中における無機多孔質材料の含有量が、15質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜の調湿・ガス吸着性が不十分となり、90質量%を超える場合はこの皮膜にクラックが生じ易くなる。また、コーティング剤中における塩化合物の含有量が、2質量%未満の場合は調湿性向上効果が少なく、25質量%を超える場合は吸湿時に皮膜に表面濡れが生じたり、塩化合物の飛散などが生じたりする場合がある。
【0028】
〔樹脂エマルジョン〕
次に、多孔質皮膜形成材料の第1形態を構成する樹脂エマルジョンについて説明する。この第1形態において、樹脂エマルジョン中の樹脂のガラス転移温度は、−50〜30℃の範囲内であることを必要とする。この樹脂のガラス転移温度が、−50℃未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜の表面タックが強くなり過ぎてしまい、防汚性などに問題を生じる場合がある。一方、30℃を超える場合は、この皮膜に生じるクラックを防止することが困難となる。さらに、上記樹脂のガラス転移温度は、−40〜10℃の範囲内であることがより好ましい。樹脂のガラス転移温度をこの範囲内に限定することで、形成される皮膜は、より適度な柔軟性を有した表面が滑らかなものとなる。つまり、コーティング剤中に、上述したような吸水量の非常に高い無機多孔質材料の粒子を多量に含有させた場合であっても、形成される皮膜は、よりクラックの発生が抑えられたものとなり、また、より防汚性に優れたものとなる。また、樹脂のガラス転移温度を−15〜10℃の範囲内に限定することも好ましい形態である。さらには、樹脂のガラス転移温度の範囲を0℃以下に限定することが最も好ましい。つまり、本発明のコーティング剤は、無機多孔質材料を配合することから含有する水分量が多くなる。このため、皮膜形成時などにおいて、収縮歪など内部歪が大きくなり、変形追随性が不足し、クラックが生じやすくなるおそれがある。しかしながら、樹脂のガラス転移温度を0℃以下に限定することでクラックの発生を長期にわたってより確実に防止することが可能となる。
【0029】
また、上記樹脂エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒径は、0.05〜2.0μmの範囲であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒径を、この範囲内に限定することで、本発明のコーティング剤は、その粘度が適度なものとなり、塗布適正に優れたものとなる。また、樹脂粒子間の密着性も良好となることから、形成される皮膜にクラックが生じるのをより有効に防止できる。最も好ましい上記樹脂粒子の平均粒径は、0.25〜1.8μmの範囲内である。
【0030】
上記樹脂の種類としては、特に制限はなく、例えば、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂(EVA系樹脂)、保護コロイド系アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はアクリルシリコーン系樹脂などを挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、アクリル系樹脂、EVA系樹脂である。
【0031】
本発明において、前記第1形態を採用する場合、樹脂エマルジョンの含有量は、コーティング剤全質量(固形分)を基準として、3〜70質量%(固形分)となる範囲内であることが必要である。上記樹脂量が、3質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜は、クラックが生じ易く、また、防汚性が悪いものとなる。一方、70質量%を超える場合は、この皮膜の調湿・ガス吸着性能が不十分となる。
【0032】
〔透湿性付与剤〕
次に、多孔質皮膜形成材料の第1形態を構成する透湿性付与剤について説明する。該透湿性付与剤とは、コーティング剤により形成される連続の樹脂皮膜に透湿性(通気性)を付与するためのものであり、具体的には、上記皮膜を多孔質にし、該皮膜に透湿性(通気性)を付与する材料のことである。つまり、コーティング剤中に、前記樹脂エマルジョンとともに、上記の透湿性付与剤を含有させることで、形成される皮膜を、多孔質の連続皮膜とすることが可能となり、コーティング剤中に樹脂成分を多量に含ませた場合においても、無機多孔質材料の細孔が樹脂によって塞がれるのが抑制される。つまり、前記無機多孔質材料の調湿・ガス吸着効果を有効に発揮させる皮膜形成が可能となる。また、上記コーティング剤を塗布する基材を、調湿性を有するものとした場合においては、この基材が有する調湿効果も損なうことなく発揮させることができる。
【0033】
本発明において、前記第1形態を採用する場合、上記透湿性付与剤の含有量は、コーティング剤全質量(固形分)を基準として、0.5〜40質量%(固形分)の範囲内である必要がある。上記含有量が0.5質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜は、クラックが生じやすくなり、また、透湿性が不十分となる。一方、上記含有量が40質量%を超える場合は、上記皮膜は、内装材の仕上げ層として必要な耐性が不十分となる。
【0034】
上記透湿性付与剤の具体例としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム若しくは珪酸セシウムなどのアルカリ金属珪酸塩を主成分とした水ガラス、ポリビニルアルコールやポリビニルアミンなどの水溶性樹脂、でんぷん糊やミルクカゼインなどの水溶性糊剤、シリコーンエマルジョン、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸アルミニウムなどを挙げることができる。これらは、単独又は組み合わせて用いることができ、コーティング剤が使用される用途や要求される特性に応じて、その種類を適宜選択することができる。好ましくは、水ガラスを挙げることができる。さらには、コーティング剤により形成される皮膜の耐水性が良好である珪酸リチウムを主成分とした水ガラスが特に好ましい。また、これらの透湿性付与剤は、固体状、水溶液又は水分散の形態で使用できる。
【0035】
〔多孔質皮膜形成用水分散型組成物〕
また、多孔質皮膜形成材料を第1形態とする場合には、本発明のコーティング剤には、さらに、特公平07−110906号公報に記載された多孔質皮膜形成用水分散型組成物を含有させることもできる。すなわち、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物を含有させることもできる。この場合、より均一で安定した多孔質の連続皮膜を形成させることが可能となる。多孔質皮膜形成用水分散型組成物の具体例としては、日本合成化学工業(株)社製の「モビニール001−A2」や「モビニール8020」などが挙げられる。前記第1形態において、コーティング剤中における多孔質皮膜形成用水分散型組成物の含有量は、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
(第2の形態)
本発明において、多孔質皮膜形成材料の第2形態としては、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物を適用する形態が挙げられる。該組成物は、前記した通り、特公平07−110906号公報に記載されたものであり、具体例としては、日本合成化学工業(株)社製の「モビニール001−A2」、「モビニール8020」などが挙げられる。
【0037】
この第2形態の場合、本発明のコーティング剤は、各成分の含有量(固形分換算)を、前記無機多孔質材料15〜80質量%、前記多孔質皮膜形成用水分散型組成物10〜80質量%、前記塩化合物2〜25質量%とすることが好ましい。
【0038】
前記第2形態において、コーティング剤中における前記無機多孔質材料の含有量が、15質量%未満の場合はコーティング剤により形成される皮膜の調湿・ガス吸着性が不十分となり、80質量%を超える場合はこの皮膜にクラックが生じ易くなる。上記多孔質皮膜形成用水分散型組成物の固形分含有量が、10質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜は、クラックが生じ易く、また、防汚性が悪いものとなる。一方、80質量%を超える場合は、上記皮膜の調湿・ガス吸着性能が不十分となる。また、コーティング剤中における前記塩化合物の含有量が、2質量%未満の場合は調湿性向上効果が少なくなり、25質量%を超える場合は吸湿時に皮膜表面が濡れる表面濡れが生じたり、塩化合物の飛散などが生じたりする場合がある。
【0039】
<分散剤>
以上の構成を有する本発明のコーティング剤には、さらに、分散剤を含有させることが好ましく、特には、ポリカルボン酸系分散剤を含有させることが好ましい。ポリカルボン酸系分散剤を含有させることにより、前記無機多孔質材料は、コーティング剤中において凝集なく高度に分散されるようになり、また、皮膜形成後には、皮膜中において均一に配置されるようになる。このため、ポリカルボン酸系分散剤を含有させた場合、凹凸やクラックがより生じにくい皮膜を形成させることが可能となるばかりか、より効果的に吸放湿性能を発現させることが可能となる。ポリカルボン酸系分散剤の具体例としては、例えば、EFKA5071(EFKAケミカル製)、フローレンG−700、フローレンTG−750W、フローレンG−700DMEA(共栄社化学製)、ソフタノールEC(日本触媒社製)、セルナD735(中京油脂社製)、ディスコートN−14(第一工業製薬社製)が挙げられる。コーティング剤中におけるポリカルボン酸系分散剤の含有量(固形分換算)は、1〜10質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
<その他の成分>
また、本発明のコーティング剤は、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、粘度調整剤、着色剤、抗菌剤などを配合することができる。また、水酸化アルミニウム又は炭酸カルシウムなどの充填剤や、前記特性以外の無機多孔質材料である粘土鉱物(例えば、セピオライトやベントナイトなど)なども配合することができる。更に、形成される皮膜の隠蔽性を向上させるために、酸化チタンなどの白色無機顔料を配合させてもよい。また、本発明のコーティング剤には、本発明の要旨を損なわない範囲内でカット繊維を配合させてもよい。これにより、形成される皮膜は、変形に対する追随性を有することが可能となり、クラックの発生をより有効に防止できる。用いるカット繊維の素材は、パルプ繊維又はビニロン繊維などの樹脂繊維などを挙げることができる。カット繊維は、用途又は目的に応じて、その種類や配合量を適宜選択できる。
【0041】
また、本発明のコーティング剤は、消泡剤として燐酸アルミニウムを含有させることが好ましい。本発明のコーティング剤においては、前記塩化合物を含有させて混合させた場合に、多量の泡が発生する場合がある。このような場合に、燐酸アルミニウムを含有させることで泡の発生を有効に防止できることが本発明者らの検討によりわかった。つまり、皮膜に気泡などが生じるのを効果的に防止することができる。具体例としては、多木化学社製の「50LH」などが挙げられる。コーティング剤中における燐酸アルミニウムの含有量は、特に制限はないが、0.5〜5.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
<コーティング剤の製造方法>
以上の構成をした本発明のコーティング剤の製造方法は、特に制限はなく、前記した成分を混合させることにより調整することができる。また、前記無機多孔質材料を、前塩化合物などとともに湿式粉砕し、スプレードライヤーにて、乾燥・造粒した後、解砕し、得られた粉末を、樹脂エマルジョンや透湿性付与剤又は分散剤などを含む液体成分に加え、ミキサーで均一に混合させることで調製することもできる。このように無機多孔質材料と塩化合物を湿式混合させた場合は、泡の発生を有効に防止することができる。また、前記調整方法においては、前記無機多孔質材料と前記塩化合物を乾式で混合させてもよいが、この場合には、泡の発生を抑えるため、使用する液体成分に消泡剤を配合させることが好ましい。また、無機多孔質材料を含む粉体物をボールミルにて、均一混合させた後、これに塩化合物や樹脂エマルジョンさらには透湿性付与剤を含有する溶液を投入し、更に混合して、本発明のコーティング剤を得ることもできる。
【0043】
<コーティング剤の使用方法>
本発明のコーティング剤は、紙、パーティクルボード、石膏ボード又は珪酸カルシウムボードなどの基材の表面上に塗布することにより、前記した特性の皮膜を形成する材料として用いることができる。コーティング剤の塗布方法は、特に制限はなく、例えば、高圧エアレス方式などのスプレーコート、ロールコート又はバーコートなどの方法を用いることができる。また、本発明のコーティング剤は、紙などの基材をコーティング剤中に含浸させる方法などを用いてコーティングさせてもよい。本発明のコーティング剤は、全固形分濃度が、10〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0044】
本発明のコーティング剤の塗布量は、特に制限はなく、薄膜〜厚膜まで幅広い膜厚に塗布することが可能である。本発明のコーティング剤を使用する用途や目的により最適な塗布量は異なるが、例えば、コーティング剤により形成される皮膜の厚さが、100〜1500μmとなる程度であることが好ましい。
【0045】
以上説明したように、本発明のコーティング剤は、優れた吸放湿性と、多様なガスに対する優れたガス吸着性を有する皮膜を形成できる。このため、紙や木質材料などの基材に塗布することにより、室内環境のあらゆる用途に適用させることができる。例えば、壁紙用の紙、石膏ボード用の紙、化粧ラミネート用の基材乃至は下地材などに塗布するなどし、建材用途に適用できる。特に、調湿性内装材の仕上げ剤などとして好適に用いることができる。また、ハニカムやコルゲートなどのフィルター材の表面に本発明のコーティング剤を塗布することにより、より効果的に性能を発揮させるフィルター材が得られる。つまり、このフィルター材内を通る空気に対して、より効果的に空気の調湿や浄化が行えるようになる。勿論、これ以外にも、優れた皮膜の吸放湿性やガス吸着性を活かして、あらゆる用途への展開が可能である。また、本発明のコーティング剤は、無機多孔質材料と塩化合物を含有させた、パルプ繊維からなる吸放湿紙に塗布又は含浸させることで、吸放湿紙のより高機能化を実現させることも可能である。具体的には、表面を樹脂皮膜で保護しつつ、より吸放湿性の高い吸放湿紙が得られるようになる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、本実施例において、比表面積の値はBET法により測定したものであり、細孔容量の値はBJH法により測定したものである。また、平均細孔直径は、比表面積と細孔容量とから、前記した式を用いて算出したものである。
【0047】
<無機多孔質材料の作製>
北海道天北地方から産出した稚内層珪質頁岩を、ボールミルにて湿式粉砕し、粉砕時間を調整して、平均粒径が20μmとなるように調整した。得られた稚内層珪質頁岩粒子は、比表面積が129m2/g、平均細孔半径が4.0nm、細孔容量が0.26ml/gであった。
【0048】
<コーティング剤の調製>
(実施例1)
上記で得た稚内層珪質頁岩粒子77質量部、セピオライト粒子(近江鉱業社製、ミラクレーP200VV)4質量部、ベントナイト粒子4質量部、粉粒状塩化リチウム3質量部、及び粉状塩化ナトリウム5質量部を混合させて粉体混合物を作製した。また、アクリル系樹脂エマルジョン(日本合成化学工業(株)社製、モビニールDM−765F、ガラス転移温度−25℃)5質量部(固形分)、通気性アクリル系樹脂エマルジョン(日本合成化学工業(株)社製、モビニール001−A2)0.3質量部(固形分)、珪酸リチウムからなる水ガラス0.7質量部(固形分)、燐酸アルミニウム(多木化学社製、50LH)0.5質量部(固形分)、ポリカルボン酸系分散剤(中京油脂社製、セルナD−735)0.5質量部(固形分)を混合させて液体組成物を調製した。上記で得た粉体混合物と液体組成物とを、さらに水を添加して、ポットミル(アルミナボール使用)を用いて、8時間擦り合わせしながら、混合攪拌することにより、全固形分濃度が30質量%である実施例1のコーティング剤を得た。
【0049】
なお、実施例1のコーティング剤の組成をまとめると、全体を100質量%とした場合、「平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料」が77質量%(固形分)、「樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃である樹脂エマルジョン」が5質量%(固形分)、「透湿性付与剤」が0.7質量%(固形分)、「塩化合物」が8質量%(固形分)、「多孔質皮膜形成用水分散型組成物」が0.3質量%(固形分)、「その他の材料(上記無機多孔質材料以外の粘土鉱物、分散剤、消泡剤)」が9質量%(固形分)である。
【0050】
(比較例1)
前記稚内層珪質頁岩粒子35質量部(固形分)、アクリル系樹脂エマルジョン(日本合成化学工業(株)社製、モビニールDM−765F、ガラス転移温度−25℃)50質量部(固形分)、珪酸リチウムからなる水ガラス15質量部(固形分)を、ポットミル(アルミナボール使用)を用いて、8時間擦り合わせしながら、混合攪拌することにより、比較例1のコーティング剤を得た。
【0051】
<評価試験>
上記で作製した実施例1及び比較例1のコーティング剤を、100mm四方のガラス板上に、それぞれ、50g/m2の塗布量でスプレーコーティングし、110℃のオーブンに入れて絶乾させて、実施例1及び比較例1の皮膜サンプルを作製した。
【0052】
(皮膜評価試験)
・耐クラック性試験
上記で作製した実施例1及び比較例1の皮膜サンプルについて、それぞれ、クラック発生の有無を目視で確認した。その結果、いずれの皮膜サンプルにも、クラックが確認されなかった。
【0053】
・表面濡れ確認試験
上記で作製した実施例1及び比較例1の皮膜サンプルを、それぞれ、温度30℃、相対湿度75%の条件で2時間放置させた後、これらの表面状態を目視で確認した。その結果、いずれの皮膜サンプルにも、表面濡れが確認されなかった。
【0054】
・防汚性試験
上記で作製した実施例1及び比較例1の皮膜サンプルの表面に、それぞれ、水性マジック(黒色)で汚れを付着させて、24時間経過後に水を用いて汚れの拭き取りを行った。その後の状態を目視で確認したところ、いずれの皮膜サンプルにも、汚れがほとんど残っていなかった。
【0055】
(吸湿速度試験)
上記で作製した実施例1及び比較例1の皮膜サンプルを、それぞれ、温度30℃、相対湿度75%の恒温恒湿槽に入れ、経時の水分吸着量を測定した。得られた測定結果を図1に示した。図1に示すとおり、実施例1のコーティング剤による形成皮膜は、優れた吸湿速度と吸湿性能を有することが確認された。
【0056】
(吸湿放湿サイクル試験)
上記で作製した実施例1の皮膜サンプルの作製直後の質量を測定し、基準値とした。次に、この皮膜サンプルを、図2(a)に示す温度及び相対湿度の環境下に放置した。そして、この環境下における経時の質量変化を測定し、図2(b)に示した。図2に示す通り、実施例1のコーティング剤による形成皮膜は、優れた吸湿性能と放湿性能を有することが確認された。また、実施例1のコーティング剤による形成皮膜は、低温(40℃程度)で効率良く放湿(再生)されることが確認された。
【0057】
(透湿性確認試験)
100mm四方の調湿性石膏板の側面と裏面をアルミ箔でシールし、この石膏板を用いて上記と同様の吸湿速度試験を行い、経時の水分吸着量を測定した。次に、実施例1のコーティング剤を、50g/m2の塗布量でスプレーコーティングし、110℃のオーブンに入れて絶乾させることにより、実施例1の板サンプルを作製し、この板サンプルを用いて上記と同様の吸湿速度試験を行い、経時の水分吸着量を測定した。この板サンプルにおける水分吸着量は、上記で測定した実施例1の皮膜サンプルや上記石膏板における水分吸着量を上回っていた。このことから、実施例1のコーティング剤による皮膜は、透湿性を有していることが確認された。
【0058】
<実施例2>
(コーティング剤の調製)
上記で得た実施例1のコーティング剤100質量部に対して、濃度が4質量%の塩化リチウムと濃度が7質量%の塩化ナトリウムとを含む混合水溶液を50質量部混合することにより、全固形分濃度が23.6質量%である実施例2のコーティング剤を得た。
【0059】
なお、実施例2のコーティング剤の組成をまとめると、全体を100質量%とした場合、「平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料」が65.07質量%(固形分)、「樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃である樹脂エマルジョン」が4.23質量%(固形分)、「透湿性付与剤」が0.59質量%(固形分)、「塩化合物」が22.25質量%(固形分)、「多孔質皮膜形成用水分散型組成物」が0.25質量%(固形分)、「その他の材料(上記無機多孔質材料以外の粘土鉱物、分散剤、消泡剤)」が7.61質量%(固形分)である。
【0060】
(吸放湿紙の作製)
稚内層珪質頁岩を45質量%の割合で含有させた針葉樹パルプ繊維からなる吸放湿性を有する吸放湿紙1を作製した。
【0061】
上記で得られた吸放湿紙1に、濃度が10質量%の塩化マグネシウム水溶液を塗布して、乾燥させることで、吸放湿紙2を作製した。
【0062】
上記で得られた吸放湿紙1に、濃度が4質量%の塩化リチウムと濃度が7質量%の塩化ナトリウムとを含む混合水溶液を塗布して、乾燥させることで、吸放湿紙3を作製した。
【0063】
上記で得られた吸放湿紙1を、上記で調製した実施例2のコーティング剤中に浸漬させた後、乾燥させることで、吸放湿紙4を作製した。
【0064】
<評価>
上記で得た吸放湿紙1〜4について、水蒸気吸着量測定装置(商品名:HYDROSORB1000、Quantachrome社製)を用い、相対湿度0〜90%における水分吸着量を測定した。得られた測定結果を図3に示した。図3から、最大吸湿量と、相対湿度30%RHから70%RHに変化させた場合の吸湿変化量とを読み取り、表1に示した。図3及び表1に示す通り、本発明のコーティング剤は、基材の表面を樹脂で保護しつつ、基材の吸放湿性能をさらに向上させるものであることがわかった。
【0065】

【0066】
(第2の形態)
<他の実施例>
前記稚内層珪質頁岩粒子35質量部(固形分)、通気性アクリル系樹脂エマルジョン(日本合成化学工業(株)社製、モビニール001−A2)57質量部(固形分)、粒状塩化ナトリウム8質量部(固形分)を、ポットミル(アルミナボール使用)を用いて、8時間擦り合わせしながら、混合攪拌することにより、実施例3のコーティング剤を得た。次に、実施例3のコーティング剤を用いて、上記と同様の方法でガラス板上に塗布したところ、クラックのない皮膜サンプルが作製できた。また、この皮膜サンプルについても、上記と同様の方法で吸放湿サイクル試験を行ったところ、高い吸放湿性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、多孔質の連続皮膜であって、極めて優れた調湿性と、良好なガス吸着性を有する皮膜を形成させるコーティング剤を提供することができる。したがって、本発明のコーティング剤は、内装材の仕上げ剤や、フィルターや消臭シートのコート剤などの幅広い用途で用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、及び平均粒径80μm以下の特性を有する無機多孔質材料と、多孔質皮膜形成材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有してなることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
さらに、ポリカルボン酸系分散剤を含有してなる請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記多孔質皮膜形成材料が、樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃である樹脂エマルジョンと、透湿性付与剤とから構成されるものであり、各成分の含有量(固形分換算)が、前記無機多孔質材料15〜90質量%、上記樹脂エマルジョン3〜70質量%、上記透湿性付与剤0.5〜40質量%、前記塩化合物2〜25質量%である請求項1又は2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
さらに、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物を含有してなる請求項3に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記多孔質皮膜形成材料が、少なくとも粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなり、皮膜形成水性エマルジョンがα、β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカの粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量が合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成用水分散型組成物である請求項1又は2に記載のコーティング剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−174172(P2010−174172A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19884(P2009−19884)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 エネルギー使用合理化技術戦略的開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(507081430)有限会社稚内グリーンファクトリー (7)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(000237053)富士スレート株式会社 (10)
【Fターム(参考)】