説明

コーティング型育苗箱水稲用粒剤およびその製造方法

【課題】農薬殺虫殺菌成分の水中への溶出がコントロールされたコーティング型育苗箱水稲用粒剤およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤に、接着剤として常温で液状の水溶性高分子を介して、20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分、あるいは常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物をコーティングしたコーティング型育苗箱水稲用粒剤は、農薬殺虫殺菌成分の水中への溶出がコントロールされ、農薬殺虫殺菌成分の徐放化および効力において優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング型育苗箱水稲用粒剤に関する。更に詳しくは、農薬殺虫殺菌成分を担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂にコーティングすることにより、農薬殺虫殺菌成分の溶出がコントロールされたコーティング型育苗箱水稲用粒剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、稲作作業者の高齢化や大規模機械化を背景にそれにあわせて農薬の散布方法に関する技術革新が進み、省力散布製剤やその散布方法が検討されるようになっている。その中でも田植えと同時に農薬を処理することが可能となる水稲育苗箱の開発が進められている。水稲育苗箱で使用する農薬製剤は一般に農薬活性成分の徐放化処理が施されたものが用いられ、田植え後、約2ヶ月間にわたって、病害虫の防除が達成できることを目的としている。このために育苗箱処理法は省力的で有効な施用法である。
特に水中溶解性の比較的高い農薬活性成分は、何らかの溶出制御が必要であり、様々な方法が育苗箱処理に限らず農薬製剤で検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、疎水性熱可塑性材料としてモンタン酸エステル等のワックスや脂肪酸エステル等が水溶解度60ppm以上の主にネオニコチノイド系の農薬活性成分の徐放性に優れていることが述べられ、モンタン酸エステル等を用いて農薬活性成分の溶出がコントロールされた農薬製剤が中心に開示されている。
【0004】
特許文献2では、農薬活性成分の徐放性に使用可能な生分解性樹脂組成物の分解速度を安定的に制御する方法として、生分解性促進剤としては植物由来の有機性廃棄物を、また生分解性抑制物質として有機系抗菌剤を混合したものを提案している。
【0005】
特許文献3では、農薬活性成分と脂肪族ポリエステル結合を有する生分解性ポリマーとを、吸油能のある鉱物質に担持させた徐放性農薬製剤が示されているが、製剤中に形成される生分解性ポリマー膜の膜厚が十分でなく、水中への溶出性が高い農薬殺虫殺菌活性成分に関しては薬害抑制効果が十分ではない。また製造上、農薬活性成分と生分解性ポリマーとをクロロホルム等に溶解し吸油性のある鉱物質に担持させる必要があり、ポーラスな鉱物質内で薄い生分解性樹脂樹皮膜が形成される。同手法は水への溶解度が比較的低い農薬活性成分には適しているが、水溶解度の高い農薬活性成分には、製造時の亀裂や溶媒蒸発時に生じる気泡等からの活性成分の溶出が制御されにくい。また、製造法ではクロロホルム等の溶媒除去が必須であり、環境面でも適した技術とはいえなかった。
【0006】
更に特許文献4では、生分解性樹脂に様々な生物活性成分を含有する成型品であって、生物活性成分のスローリリース性を有する各種成形品が示されている。
【0007】
従来、このように様々な技術が開示されているが、簡便な製造方法でしかも水中への農薬殺虫殺菌成分の溶出を制御する技術は十分ではなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−252702号公報
【特許文献2】特許3646193号公報
【特許文献3】特開平5−85902号公報
【特許文献4】特開平8−92006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水中への農薬殺虫殺菌成分の溶出を制御した徐放性に優れたコーティング型育苗箱水稲用粒剤およびその簡便な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく検討した結果、本発明に至ったものである。
即ち、本発明は、以下の組成、(1)、(2)および(3):
(1)(a)20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分、または(b)20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物;
(2)接着剤としての常温で液状の水溶性高分子;および
(3)担体としての、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤;
を含有するコーティング型育苗箱水稲用粒剤であって、(1)(a)の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または(b)の常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物を、(2)の接着剤としての常温で液状の水溶性高分子を介して、(3)の担体としての粒剤にコーティングしたことを特徴とするコーティング型育苗箱水稲用粒剤に関する。
【0011】
更に本発明は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤に、接着剤として常温で液体の水溶性高分子をコーティングし、次いで20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または室温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形吸収剤により固形化した固形組成物をコーティングすることを特徴とするコーティング型育苗箱水稲用粒剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤は、簡便な製造方法により得ることが出来、且つ水中への農薬殺虫殺菌成分の溶出を制御した徐放性およびその効力に優れたコーティング育苗箱水稲用粒剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤およびその製造方法についてより詳しく説明する。
【0014】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤は、20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分、または20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物を、接着剤としての常温で液状の水溶性高分子を介して、担体としての、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤にコーティングしたものである。
【0015】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤に用いる農薬殺虫殺菌成分は、20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上のものであれば、常温で固体または液体のいずれの農薬殺虫殺菌成分でも使用可能である。ここで常温とは、10℃から30℃の範囲の温度を指す。
【0016】
具体的には例えば次のようなものが挙げられるがこれに限定されるものではない。固体の農薬殺虫殺菌成分としては、例えば、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名、ジノテフラン:20℃における水溶解度:約54000ppm)、3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名、チアメトキサム:20℃における水溶解度:約4100ppm)、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリン−2−イリデンアミン(一般名、イミダクロプリド:20℃における水溶解度:約510ppm)、(±)−5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−p−トルイル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール−3−カルボニトリル(一般名、フィプロニル:20℃における水溶解度:約2ppm)、2−セコンダリーブチルフェニル−N−カーバメート(以下、BPMC:20℃における水溶解度:約610ppm)、5−メチル−1,2,4−トリアゾロ[3,4−b]ベンゾチアゾール(一般名、トリシクラゾール:20℃における水溶解度:約1600ppm)、3−アリルオキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−1,1−ジオキシド(一般名、プロベナゾール:20℃における水溶解度:約150ppm)、(E)−4,5−ジヒドロ−6−メチル―4−(3−ピリジルメチレンアミノ)−1,2,4−トリアジン−3(2H)−オン(一般名、ピメトロジン:20℃における水溶解度:約290ppm)が挙げられる。
液体の農薬殺虫殺菌成分としては、例えば、エチル=N−[2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルベンゾフラン−7−イルオキシカルボニル(メチル)アミノチオ]−N−イソプロピル−β−アラニナート(一般名、ベンフラカルブ:20℃における水溶解度:約8ppm)、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾ[b]フラニル=N−ジブチルアミノチオ−N−メチルカルバマート(一般名、カルボスルファン:20℃における水溶解度:約0.03ppm)等が挙げられる。このなかでもイミダクロプリド、チオメトキサム、ピメトロジン、ベンフラカルブ、カルボスルファンが好ましい。
【0017】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤中の農薬殺虫殺菌成分の含有量は、各種活性成分の活性効果および薬害等を考慮した含量設定になるが、通常、1〜15重量%の含有量が好ましく、1.5〜8重量%が更に好ましい。
【0018】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤においては、農薬殺虫殺菌成分が常温で固体の場合には、そのまま使用できるが、常温で液体の場合には、固形化吸収剤に吸収させて固形組成物の形態で使用する。この固形化吸収剤としては、様々な吸油能力のある固形化吸収剤であればいずれも使用できる。固形化吸収剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、酸化鉄、カーボンブラック等が挙げられ、この中でも吸油能力が極めて高い含水二酸化ケイ素が好ましい。固形化吸収剤の使用量は、好ましくは常温で液体の農薬殺虫殺菌成分1重量部に対して0.25〜3重量部の比率で使用することが望ましい。
【0019】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤においては、これらの常温で固体の農薬殺虫殺菌成分あるいは常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物を、接着剤としての常温で液状の水溶性高分子を介して、担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤にコーティングさせる。
【0020】
本発明で使用する接着剤としての常温で液状の水溶性高分子とは、20℃から40℃の温度範囲で液状を示すもので、水溶性の高分子であり、常温で固体の農薬殺虫殺菌成分あるいは常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物を、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤の表面に接着保持させ、剥離させにくいものが使用できる。このような水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、これらの中でも流動性や熱可塑性生分解性プラスチック樹脂との相性からポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。これらの水溶性高分子のより具体的な材料としては、例えば、PEG−200(商品名、第一工業社製、ポリエチレングリコール)、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール)、ポリプロピレングリコール(商品名、シェルケミカル社製)等がある。更にポリエチレングリコールに関しては平均分子量が200〜600のものが好ましい。この水溶性高分子の使用量は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤1重量部に対して、0.006〜0.06重量部の比率が好ましく、更には0.01〜0.04重量部の比率がより好ましい。
【0021】
このような水溶性高分子を介して、農薬殺虫殺菌成分をコーティングさせる担体としての粒剤に用いる熱可塑性生分解性プラスチック樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペートなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトンが好ましい。これらの熱可塑性生分解性プラスチック樹脂として、より具体的には、例えば、ポリエチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ルナーレSE−P、日本触媒社製)、ポリ乳酸(代表的なものとして、商品名レイシアH−280、三井化学社製)、ポリカプロラクトン(代表的なものとしては、商品名CELGREEN PH7、ダイセル化学工業社製)、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート(代表的なものとしては、CELGREEN CBS17X、ダイセル化学工業社製)、ポリブチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ビオノーレ1000、昭和高分子社製))、ポリブチレンサクシネート/アジペート(代表的なものとしては商品名ビオノーレ3000、昭和高分子社製)等が挙げられ、これらは任意に組み合わせて使用することもできる。
これら熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤中の含有量は、使用する農薬殺虫殺菌成分との相性とその水中への溶出量の制御で自由に設定できるが、50〜98重量%が好ましい。更に好ましくはコーティング70〜90重量%である。
【0022】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤においては、担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤表面から特定の農薬殺虫殺菌成分をコーティングさせる以外に、前もって担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤中に農薬殺虫殺菌成分を含有させておく事も可能である。
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤において、担体である熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤内に含有させうる農薬殺虫殺菌成分としては、粒剤にコーティングをする農薬殺虫殺菌成分よりも水への溶解度が高いものが最適であり、粒剤中からの農薬殺虫殺菌成分の溶出と粒剤表面にコーティングした農薬殺虫殺菌成分の溶出のバランスをみて選択することができ、前記したコーティングさせる農薬殺虫殺菌成分、更には下記する農薬殺虫殺菌成分が挙げられる。すなわち、具体例としては、5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアン シュウ酸塩(一般名、チオシクラムシュウ酸塩:20℃における水溶解度約84000ppm)、1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩(以下、カルタップ塩酸塩:25℃における水溶解度約200000ppm)等が挙げられる。この中でも水への溶解度が高い、ジノテフラン、チオシクラムシュウ酸塩やカルタップ塩酸塩が好ましい。農薬殺虫殺菌成分としては任意に設定できるが、水中への溶出を抑えることからコーティング型育苗箱水稲用粒剤中に農薬殺虫殺菌成分を、前記したコーティングされた農薬殺虫殺菌成分含有量と担体中の該農薬殺虫殺菌成分含有量との合計が1〜25重量%となる量で含有することが好ましい。更に好ましくは農薬殺虫殺菌成分を合計3〜20重量%含有することが望ましい。
【0023】
本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤においては、コーティング型育苗箱水稲用粒剤の担体内部に農薬殺虫殺菌成分以外に、粒剤内部の緻密な構造及び表面状態を著しく崩さない範囲で任意の増量剤を含有することができる。この増量剤はまた粒剤内部の緻密構造に入り込むことにより、農薬殺虫殺菌成分の溶出を適度にコントロールをすることができ、このような増量剤としては、例えば、鉱物質である、クレー、珪石、タルク、炭酸カルシウム、軽石、珪藻土、バーミキュライト、アタパルジャイト、アッシュメント、コルク、木粉およびホワイトカーボンなどが挙げられ、また有機物質としてはショ糖、コーンコブ等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等の界面活性剤も使用することができる。ここで粒剤内部の緻密な構造及び表面状態を著しく崩さない範囲としては、コーティング型育苗箱水稲用粒剤中に含有量を通常1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%の添加が好ましい。
【0024】
本発明のコーティング育苗箱水稲用粒剤においては、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤内部には熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の表面状態を崩さない範囲で任意の増量剤も含有することができる。このような増量剤としては、例えば、クレー、タルク、カオリン、ベントナイト、コルク、木粉等のフィラーや、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。ここで熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の表面状態を崩さない範囲で増量剤を用いるためには、増量剤は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤に対して、40重量%以下の添加が好ましい。40%重量以上の増量剤を添加すると表面構造が著しく変化し、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂表面の特徴が失われ、その結果溶出コントロール性能が落ちていく可能性がある。
【0025】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤において使用しうる前記界面活性剤は、粒剤表面が熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の特徴的な被膜を壊さない範囲で使用出来るが、一般的な水和剤や乳剤に使用可能な界面活性剤であるノニオン系イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を粒剤内部に使用することができる。これらの界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン系イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤を使用する場合の使用量は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤に対して、0.5〜5重量%が好ましく、更に1〜3重量%が好ましい。
【0026】
本発明の農薬殺虫殺菌成分の溶出が制御されたコーティング型育苗箱水稲用粒剤は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤に、接着剤として常温で液体の水溶性高分子をコーティングし、次いで20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または室温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤により固形化した固形組成物をコーティングすることにより製造することができる。
具体的には以下の工程により製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
工程1:熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤の調製
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を、所望する粒径に相応したスクリーンを備えた加熱押出造粒の成形機にて押出した後に、整粒・篩別して、適当な粒径を有する粒剤を得ることができる。熱可塑性生分解性プラスチック樹脂には必要に応じて増量剤を加えることができる。増量剤を加える場合には、例えば、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を溶融機にて加熱溶融し、溶融させた熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に増量剤を加えて、溶融機にて混合溶融し、次いで、所望する粒径に相応したスクリーンを備えた加熱押出造粒の成形機にて押出した後に、整粒・篩別して粒剤を得ることができる。熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を有する粒剤の粒径は、通常、0.5mmから3.0mmが好ましい。
【0028】
工程2:粒剤への水溶性高分子のコーティング
工程1で作製した粒剤と、接着剤としての常温で液状の水溶性高分子とを、混合機にて混合して、粒剤の表面に水溶性高分子を均一に塗布することにより粒剤に水溶性高分子をコーティングすることができる。このようなコーティング工程には一般的には粒剤の崩壊を防ぐために混合機に羽を有しないものを使用する必要があるが、本発明では粒剤の崩壊がリボンミキサー等の攪拌羽では崩壊しないことが見出されたため、リボンミキサーで効率よく混合することも可能である。
【0029】
工程3:農薬殺虫殺菌成分のコーティング
工程2で、混合機において接着剤としての常温で液状の水溶性高分子をコーティングした粒剤に、更に、常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または室温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤により固形化した固形組成物を加えて混合して、農薬殺虫殺菌成分をコーティングする。
本発明においては、常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤により固形化した固形組成物をコーティングする際には、粒剤表面に密着させるために、粒子が細かい必要があり、平均粒子径が100μm以下が好ましい。粒子径が大きい場合にはハンマーミル、ピンミル等の粉砕器で微粉化する必要がある。また現状の乾式粉砕では約1μm以上の粒子径の調製が限界であり、従って約1μm以上の粒子径が適している。
【0030】
また、担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤中に農薬殺虫殺菌成分を含有する場合の製造方法としては下記の工程により製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
工程1:熱可塑性生分解性プラスチック樹脂中に農薬殺虫殺菌成分を含有する粒剤の調製
溶融混合:熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を、溶融温度より少し高めに設定した6インチテストロール機(機械名、西村工機社製、溶融機)にてロール状に溶融させ、必要により、農薬殺虫殺菌成分、増量剤を、融点以上になった熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に添加し、十分に均一混練した後、プレス機にてシート化する。尚、溶融加温温度は農薬活性成分の分解温度を考慮し、分解温度以下で溶融する。
成形:溶融混合の後、得られた均一な混合物を、ラボプラストミル(機械名、東洋精機製作所社製、成型機)にて加熱造粒する。造粒機の種類は、目的とする造粒物の形状、粒子径等を考慮して、適宜選択する。具体的には、粒状成型物を得るためには、所望する粒径に相応したスクリーンを備えた押し出し成型部品等が例示される。造粒する温度は、用いる熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が溶融する温度以上で且つ含有する農薬殺虫殺菌成分が分解しない温度で対応する。
冷却・破砕・篩別等:得られた成型物を放冷し、破砕が必要で有れば所望する粒径に相応したスクリーンを備えた破砕機等にて破砕し、必要により篩別して、目的とする形状、粒径の粒剤とする。
【0032】
以下の、粒剤への水溶性高分子のコーティング及び農薬殺虫殺菌成分のコーティングは前記したと同様である。
【0033】
かくして本発明の農薬殺虫殺菌成分の溶出が制御されたコーティング型育苗箱水稲用粒剤が得られる。本発明の粒剤としては、その平均粒径は3.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは2.0mm以下0.5mm以上である。平均粒径が3.0mmを超えると、育苗箱への散布の際に撒きむらが生じやすく、薬効・薬害的に好ましくない。平均粒径が0.5mmより小さい場合には、粉立ちやハンドリングの問題があり好ましくない。
【0034】
本発明の農薬殺虫殺菌成分の溶出が制御されたコーティング型育苗箱水稲用粒剤は、例えば、水稲の育苗箱用粒剤とする際、田植え前の水稲育苗箱に施用する。また、育苗箱用粒剤とする際、その施用量は水稲育苗箱(30cm×60cm)当たり10g〜200g程度であり、通常30〜50g程度であるが、特に限定されるものでなく製剤中の農薬殺虫殺菌成分の含有量、育苗箱枚数等によって決めればよい。
【0035】
次に実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
ルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)95.9重量部を、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒の成形機にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約1.0mmの粒剤を得た(粒剤A)。次いで粒剤Aを900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量400)2.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分(平均粒子径約16マイクロメートル)としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部を加え、蓋を手振りを5分間実施し、イミダクロプリド2重量%のコーティング粒剤を得た。
【0037】
実施例2
DLクレー10重量部(商品名、日東製粉社製、クレー)を、約100℃に熱して溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトン)81.8重量部に加えて溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒の成形機にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約1.0mmの粒剤を得た(粒剤B)。次いで粒剤Bを900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−200(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量200)4.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分としてチアメトキサム(製剤抽出品、純度95%、平均粒子径約25マイクロメートル)4.2重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、チアメトキサム4重量%のコーティング粒剤を得た。
【0038】
実施例3
木粉10量部(商品名、相模セルロシン工業社製)を、約160℃に熱して溶融させたレイシアH280(商品名、三井化学社製、ポリ乳酸)75.9重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒の成形機にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約1.0mmの粒剤を得た(粒剤C)。液体の農薬殺虫殺菌成分であるカルボスルファン原体(製剤抽出品、純度98%)8.1重量部をカープレックス#100(商品名、塩野義製薬社製、ホワイトカーボン)3重量部に吸着させ固体化し、平均粒子径22マイクロメートルの(固体A)微粉末を得た。次いで粒剤Cを900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−600(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール)3.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体A11.1重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、カルボスルファン8重量%のコーティング粒剤を得た。
【0039】
実施例4
木粉10量部(商品名、相模セルロシン工業社製)を、約160℃に熱して溶融させたレイシアH280(商品名、三井化学社製、ポリ乳酸)78.8重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒の成形機にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約1.0mmの粒剤を得た(粒剤D)。液体の農薬殺虫殺菌成分であるベンフラカルブ原体(製剤抽出品、純度97%)6.2重量部をカープレックス#80D(商品名、塩野義製薬社製、ホワイトカーボン)2重量部に吸着させ固体化し、平均粒子径30マイクロメートルの(固体B)微粉末を得た。次いで粒剤Dを900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−600(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量600)3.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体B8.2重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、ベンフラカルブ6重量%のコーティング粒剤を得た。
【0040】
実施例5
CELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトン)92.7重量部を、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒の成形機にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約1.0mmの粒剤を得た(粒剤E)。次いで粒剤Eを900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量400)2.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分(平均粒子径約36マイクロメートル)としてピメトロジン(製剤抽出品、純度95%)5.3重量部を加え、蓋を手振りを5分間実施し、イミダクロプリド5重量%のコーティング粒剤を得た。
【0041】
実施例6
チオシクラムシュウ酸塩(純度87%)12重量部及びDLクレー10重量部(商品名、日東製粉社製、クレー)を約110℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)78重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.4重量%粒剤を得た(粒剤F)。次いで粒剤F95.9重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量400)2.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分(平均粒子径約16マイクロメートル)としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部を加え、蓋を手振りを5分間実施し、イミダクロプリド2重量%、チオシクラムシュウ酸塩10重量%の粒剤を得た。
【0042】
実施例7
チオシクラムシュウ酸塩(純度87%)9.4重量部及び木粉20量部(商品名、相模セルロシン工業社製)をを約90℃に熱して溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトン)70.6重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.2mmのチオシクラムシュウ酸塩8.1重量%の粒剤を得た(粒剤G)。次いで液体の農薬殺虫殺菌成分であるカルボスルファン原体(製剤抽出品、純度98%)8.1重量部をカープレックス#100(商品名、塩野義製薬社製、ホワイトカーボン)3重量部に吸着させ固体化し、平均粒子径22マイクロメートルの(固体A)微粉末を得た。次いで粒剤G 85.9重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−600(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール)3.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体A 11.1重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、カルボスルファン8重量%・チオシクラムシュウ酸塩7重量%の粒剤を得た。
【0043】
実施例8
チオシクラムシュウ酸塩(純度87%)12重量部、ピメトロジン(製剤抽出品、純度96%)5重量部及びDLクレー12重量部(商品名、日東製粉社製、クレー)を約90℃に熱して溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトン)71重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.4%、ピメトロジン4.8重量%の粒剤を得た(粒剤H)。次いで粒剤H 95.9重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量400)2.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分(平均粒子径約16マイクロメートル)としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)3.2重量部を加え、蓋を手振りを5分間実施し、イミダクロプリド3重量%、チオシクラムシュウ酸塩10重量%、ピメトロジン4.6重量%の粒剤を得た。
【0044】
実施例9
チオシクラムシュウ酸塩(純度87%)12重量部、DLクレー12重量部(商品名、日東製粉社製、クレー)を約90℃に熱して溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトン)76重量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.4重量%の粒剤を得た(粒剤I)。次いで粒剤I 89.6重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−400(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量400)3.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分(平均粒子径約16マイクロメートル)としてプロベナゾール(製剤抽出品、純度95%)7.4重量部を加え、蓋を手振りを5分間実施し、チオシクラムシュウ酸塩9.3重量%、プロベナゾール7重量%の粒剤を得た。
【0045】
比較例1
練り込み粒剤の製造
農薬殺虫殺菌成分としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部、クニゲルV1(商品名、クニミネ工業社製、ベントナイト)6重量部、キサンタンガム1重量部、クレー90.9重量部をリボンミキサー(機械名、不二パウダル社製、混合機)で混合し、水道水12部を加えニーダーで混練した。次いでスクリーン径0.8mmのスクリュー式押出機(不二パウダル社製)にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約0.8mmのイミダクロプリド2重量%の練り込み粒剤を得た。
【0046】
比較例2
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を使用しないコーティング型粒剤の製造
炭酸カルシウム(商品名、日東粉化工業社製、16/32mesh:0.5mm〜1.0mm径)95.9重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−200(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量200)2.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、イミダクロプリド2重量%のコーティング粒剤を得た。
【0047】
比較例3
練り込み粒剤の製造
イミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部、チオシクラムシュウ酸塩(純度87%)12重量部、クニゲルV1(商品名、クニミネ工業社製、ベントナイト)6重量部、キサンタンガム1重量部、クレー78.9重量部をリボンミキサー(機械名、不二パウダル社製、混合機)で混合し、水道水12部を加えニーダーで混練した。次いでスクリーン径0.8mmのスクリュー式押出機(不二パウダル社製)にて押出した後、整粒・篩別し、粒径約0.8mmのイミダクロプリド2重量%、チオシクラムシュウ酸塩10.4重量%の粒剤を得た。
【0048】
比較例4
コーティング粒剤の製造
炭酸カルシウム(商品名、日東粉化工業社製、16/32mesh:0.5mm〜1.0mm径)81.9重量部を900mlマヨネーズビンに入れ、PEG−200(商品名、東邦化学社製、ポリエチレングリコール、平均分子量200)4.0重量部を滴下し、蓋をした後2分間手振りすることで粒剤表面に塗布した。次いで、固体の農薬殺虫殺菌成分としてイミダクロプリド(製剤抽出品、純度95%)2.1重量部、チオシクラムシュウ酸塩12重量部を加え、蓋をし、手振りを5分間実施し、イミダクロプリド2重量%、チオシクラムシュウ酸塩10.4重量%のコーティング粒剤を得た。
【0049】
試験例1
水中溶出性試験
上記の実施例1ならびに比較例1〜2で得られた粒剤について、各粒剤から放出される農薬殺虫殺菌成分の水中への溶出率を測定した。
(1)イミダクロプリドの水中溶出率試験
イミダクロプリドが全て水に溶解した場合の濃度が約500ppm設定になるサンプル量を計量し、100mlの三角フラスコに入れ、次いで蒸留水100mlを加え、RECIPRO SHAKER SR−2w(商品名、TAITEC社製、振とう機)にて280回/分の振とうを経時的に実施し、No.5C濾紙(商品名、ADVANTEC社製、濾紙)で濾過後、濾液をHPLCに注入し、水へ溶解したイミダクロプリド濃度を測定した。
(2)結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果より、実施例1の粒剤ではイミダクロプリドが徐放出化されているのに対し、比較例1および2の粒剤ではイミダクロプリドが徐放出化されていない。これは本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤が徐放性に優れていることを示している。
【0052】
試験例2
効力試験
上記の実施例1並びに比較例1および2で得られた粒剤について、トビイロウンカについて効力試験を実施した。
(1)試験方法
稲定植時に、各サンプル、苗箱1箱(60cm×30cm)当たり50g処理し、その稲をポットに10本づつ植えた。処理後42日後にポットにトビイロウンカ10頭(メス成虫)を放虫し、10日後生死を確認した。N=5で実施した。
(2)試験結果
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果より、本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤はトビイロウンカに対して充分な効果を有し、長期間の残効性を保持していることがわかった。
【0055】
試験例3
水中溶出性試験
上記の実施例6ならびに比較例3、4で得られた粒剤について、各粒剤から放出される農薬活性成分の水中への溶出率を測定した。
【0056】
(1)イミダクロプリド及びチオシクラムシュウ酸塩の水中溶出率試験
チオシクラムシュウ酸塩が全て水に溶解した場合の濃度が約500ppm設定、イミダクロプリドは約100ppmになるサンプル量を計量し、100mlの三角フラスコに入れ、次いで蒸留水100mlを加え、RECIPRO SHAKER SR−2w(商品名、TAITEC社製、振とう機)にて280回/分の振とうを経時的に実施し、No.5C濾紙(商品名、ADVANTEC社製、濾紙)で濾過後、濾液をHPLCに注入し、水へ溶解したイミダクロプリド及びチオシクラムシュウ酸塩の濃度を測定した。
結果を表3及び表4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表3及び4より、実施例6の粒剤ではイミダクロプリド及びチオシクラムシュウ酸塩が徐放出化されているのに対し、比較例3及び4の粒剤ではイミダクロプリド及びチオシクラムシュウ酸塩が徐放出化されていない。これは本発明のコーティング型育苗箱水稲用粒剤が徐放性に優れていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成、(1)、(2)および(3):
(1)(a)20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分、または(b)20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物;
(2)接着剤としての常温で液状の水溶性高分子;および
(3)担体としての、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤;
を含有するコーティング型育苗箱水稲用粒剤であって、(1)(a)の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または(b)の常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物を、(2)の接着剤としての常温で液状の水溶性高分子を介して、(3)の担体としての粒剤にコーティングしたことを特徴とするコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項2】
固形化吸収剤が含水二酸化ケイ素である請求項1記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項3】
水溶性高分子がポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである請求項1または2記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項4】
ポリエチレングリコールの平均分子量が200〜600である請求項3記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項5】
常温で固体の農薬殺虫殺菌成分が、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名、ジノテフラン)、3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名、チアメトキサム)、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリン−2−イリデンアミン(一般名、イミダクロプリド)、(±)−5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−p−トルイル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール−3−カルボニトリル(一般名、フィプロニル)、エチル=N−[2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルベンゾフラン−7−イルオキシカルボニル(メチル)アミノチオ]−N−イソプロピル−β−アラニナート(一般名、ベンフラカルブ)、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾ[b]フラニル=N−ジブチルアミノチオ−N−メチルカルバマート(一般名、カルボスルファン)、2−セコンダリーブチルフェニル−N−カーバメート(以下、BPMC)、5−メチル−1,2,4−トリアゾロ[3,4−b]ベンゾチアゾール(一般名、トリシクラゾール)、3−アリルオキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−1,1−ジオキシド(一般名、プロベナゾール)および(E)−4,5−ジヒドロ−6−メチル―4−(3−ピリジルメチレンアミノ)−1,2,4−トリアジン−3(2H)−オン(一般名、ピメトロジン)からなる群から選ばれる1種以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項6】
常温で液体の農薬殺虫殺菌成分が、エチル=N−[2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルベンゾフラン−7−イルオキシカルボニル(メチル)アミノチオ]−N−イソプロピル−β−アラニナート(一般名、ベンフラカルブ)または2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾ[b]フラニル=N−ジブチルアミノチオ−N−メチルカルバマート(一般名、カルボスルファン)である請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項7】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネート/アジペートからなる群から選ばれる1種以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項8】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂がポリエチレンサクシネートまたはポリカプロラクトンである請求項1〜7のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項9】
担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤中に農薬殺虫殺菌成分を含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項10】
担体としての熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤中に含有する農薬殺虫殺菌成分が、5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアン シュウ酸塩(一般名、チオシクラムシュウ酸塩)、1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩(一般名、カルタップ塩酸塩)および(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名、ジノテフラン)から選ばれる1種以上である請求項9記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項11】
農薬殺虫殺菌成分が合計1〜25重量%および熱可塑性生分解性プラスチック樹脂50〜98重量%を含有する請求項1〜10のいずれか一項に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤。
【請求項12】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤に、接着剤として常温で液体の水溶性高分子をコーティングし、次いで20℃における水溶解度が100,000ppm未満0.01ppm以上の常温で固体の農薬殺虫殺菌成分または室温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤により固形化した固形組成物をコーティングすることを特徴とするコーティング型育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項13】
常温で液体の農薬殺虫殺菌成分を固形化吸収剤に吸収させた固形組成物の粒子径が100マイクロメートル以下である請求項12記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項14】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を含有する粒剤中に農薬殺虫殺菌成分を含有する請求項12または13に記載のコーティング型育苗箱水稲用粒剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−284429(P2007−284429A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69825(P2007−69825)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(392029074)日東化成工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】