説明

コーティング層を有するプラスチック製品

【課題】 プラスチック製品のコーティング層に要求される疎水性及び耐汚染性を確保し、特に食器類の衛生面や安全面における悪影響要因を排除するとともに、コーティング層に要求される密着性(接着性)及び非剥離性を確保する。
【解決手段】 プラスチック本体2に、第一シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した最外層コーティング液をコーティングした最外層3cと、この最外層3cとプラスチック本体2の表面2f間に介在し、第二シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成し、少なくとも最外層コーティング液よりも有機成分の多い下地層コーティング液をコーティングした下地層3aとを含むコーティング層3を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック本体の表面にコーティングを施した食器類等のコーティング層を有するプラスチック製品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱硬化性樹脂(プラスチック)を用いた製品は熱に弱いため、高温環境下で繰り返し使用した場合、表面の劣化が進行し、外観性や使用感(感触等)の低下を来すのみならず、表面に雑菌や色素等が付着しやすくなる耐汚染性の低下が問題となる。特に、メラミン樹脂等のプラスチックにより製造される食器類は、病院や学校等において大量、かつ頻繁に使用され、しかも、食事後(使用後)は、通常、100〔℃〕前後の高温水蒸気により殺菌洗浄されるため、食器類の表面が劣化しやすいとともに、この劣化による耐汚染性の低下は、衛生面や安全面に直接影響する問題がある。
【0003】
従来、この問題に対処するため、食器類(プラスチック本体)の表面にコーティング層を設けることも行われており、例えば、特許文献1には、容器の内外表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物をコーティングしたグレーズコーティング層を有する熱硬化性樹脂の成形品である蒸気雰囲気下に供される加熱用(保温用)容器が開示され、また、特許文献2には、ポリプロピレン樹脂を成形してなる食器の表面をプラズマ処理した後、樹脂塗料によって塗装した樹脂製食器が開示され、さらに、特許文献3には、主成分がメラミン樹脂からなる基材表面に、主成分がメラミン樹脂からなるコーティング剤が形成されたメラミン樹脂成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−189333号公報
【特許文献2】特開2006−116220号公報
【特許文献3】実用新案登録第3008315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来におけるコーティング層を有するプラスチック製品(食器類等)は、次のような問題点があった。
【0006】
即ち、従来のコーティング層は、プラスチックの表面にコーティングするため、いずれも樹脂系のコーティング液を用いることによりプラスチックの表面とコーティング層間における必要な密着性(接着性)を確保している。したがって、樹脂の物性による密着性はある程度確保されるとしても、望ましい機械的強度(表面硬度),耐熱性及び耐高温水蒸気性、更には耐汚染性を確保するには限界があり、この種のコーティング層に対する要請に十分に応えることができない。
【0007】
一方、機械的強度(表面硬度)や耐熱性を確保するコーティング層として無機系の保護コートも考えらるが、この種の保護コートは、通常、数百度の高温焼結を行うため、常温から百度程度の温度領域では耐久性に問題があり、特に、食器類のように、加熱と非加熱が繰り返される使用環境下では、プラスチックの基材(食器類本体)とコーティング層の熱膨張率の差によりコート層の剥離が発生しやすい。結局、外観性(光沢性)や質感を維持できないのみならず、プラスチック(基材)の劣化を防止する本来の目的を達成することができない。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したコーティング層を有するプラスチック製品の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するため、プラスチック本体2の表面2fにコーティング層3を設けたコーティング層を有するプラスチック製品1において、プラスチック本体2に、第一シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水(H2O)を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した最外層コーティング液をコーティングして設ける最外層3cと、この最外層3cとプラスチック本体2の表面2f間に介在し、第二シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成し、少なくとも最外層コーティング液よりも有機成分の多い下地層コーティング液をコーティングして設ける下地層3aとを含むコーティング層3を設けたことを特徴とする。
【0010】
この場合、最外層コーティング液をコーティングして設ける最外層3cは、無機系のガラスコーティング層として形成される。したがって、コーティング時には、例えば、食器類が晒される使用環境を考慮した硬化温度(例えば、110〔℃〕)により、当該使用環境に十分に耐え得る機械的強度(表面硬度)及び耐久性,耐熱性及び耐高温水蒸気性を得れるとともに、望ましい疎水性及び耐汚染性が確保される。一方、このような物性を有する最外層3cは、プラスチック本体2の表面2fに対し、十分な密着性(接着性)及び非剥離性を確保できないため、この最外層3cとプラスチック本体2の表面2f間に、下地層コーティング液をコーティングして設ける下地層3aを介在させている。下地層3aは、所要の有機成分を含有するため、有機無機複合ガラスコーティング層として形成される。これにより、下地層3aには、必要な粘着性(柔軟性)が得られ、最外層3cと表面2f間の望ましい密着性(接着性)が確保されるとともに、熱膨張率の差が緩和されて非剥離性が確保される。
【0011】
このようなコーティング層3の好適な態様として、第一シリコンアルコキシドは、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることができる。アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖,分岐,環状のいずれでも良く、炭素数は1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6である。シリコンアルコキシドにおけるアルキル基としては、特に限定はされないが、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等を例示でき、各々の分岐状アルキル基も該当する。また、ビニル基,アリル基等のアルケニル基,トリル基,フェニル基等のアリール基,トリクロロメチル基,トリフルオロプロピル基等のハロゲン化炭素基,γ−グリシドキシプロピル基,γ−メルカプトプロピル基,γ−メタクリロキシプロピル基等の炭化水素基も該当する。さらに、アルコキシ基としては、特に限定はされないが、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基及びこれらの分岐状アルコキシ基も該当する。これらに該当するシリコンアルコキシドのうち、好適には一般式におけるaが1である3官能性シリコンアルコキシドを用いることができ、3官能性シリコンアルコキシドにはメチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン,プロピルトリエトキシシラン,イソプロピルトリメトキシシラン,イソプロピルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,フェニルトリメトキシラン,フェニルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のうち、コーティング液の作製における取り扱いが容易で比較的安価であるメチルトリメトキシシラン(MTMS)又はビニルトリメトキシシラン(VTMS)が好適である。なお、これらのシリコンアルコキシドのうちの一種類或いは二種類以上を混合して用いてもよい。
【0012】
第二シリコンアルコキシドも、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることができる。アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖,分岐,環状のいずれでも良く、炭素数は1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6である。シリコンアルコキシドにおけるアルキル基としては、特に限定はされないが、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等を例示でき、各々の分岐状アルキル基も該当する。また、ビニル基,アリル基等のアルケニル基,トリル基,フェニル基等のアリール基,トリクロロメチル基,トリフルオロプロピル基等のハロゲン化炭素基.γ−グリシドキシプロピル基,γ−メルカプトプロピル基,γ−メタクリロキシプロピル基等の炭化水素基も該当する。さらに、アルコキシ基としては、特に限定はされないが、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基及びこれらの分岐状アルコキシ基も該当する。これらに該当するシリコンアルコキシドのうち、好適には一般式におけるaが1の3官能性シリコンアルコキシドであるメチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン,プロピルトリエトキシシラン,イソプロピルトリメトキシシラン,イソプロピルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,フェニルトリメトキシラン,フェニルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等、若しくは一般式におけるaが2となる2官能性シリコンアルコキシドであるジメチルジメトキシシラン,ジエチルジメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,ジエチルジエトキシシラン,ジプロピルジメトキシシラン,ジプロピルジエトキシシラン,ビニルメチルジメトキシラン,ビニルメチルジエトキシシラン,ジフェニルジメトキシラン,ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができ、これらのうち、コーティング液の作製における取り扱いが容易で比較的安価な3官能性シリコンアルコキシドであるMTMS,VTMS,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS),2官能性シリコンアルコキシドであるジメチルジメトキシシラン(DMDMS)及びビニルメチルトリメトキシシラン(VMDMS)が好適である。また、これらのシリコンアルコキシドのうちの一種類或いは二種類以上を混合して用いてもよく、特に、GPTMSとDMDMSの混合原料が好適である。
【0013】
ヒドロキシケトン誘導体には、アセトイン,3−ヒドロキシ−3−メチル−2ブタノン,フルクトース等を使用でき、特に、ヒドロキシアセトン(HA)が好適である。ヒドロキシケトン誘導体も、このようなHAに限定されるものではなく、作用効果おいてHAよりもやや劣るとしても、ヒドロキシケトン誘導体に含まれる他の溶剤を用いることができる。また、第一シリコンアルコキシドのケイ素(Si)とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することが望ましい。混合時の温度は材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜60〔℃〕の範囲、特に、この範囲の40〔℃〕以下が好ましい。また、混合後の温度は、材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜95〔℃〕の範囲、特に、20〜80〔℃〕、更に好ましくは40〜60〔℃〕を選定できる。加温の継続時間は十分な反応を進行させる時間が好ましく、1〜360〔時間〕、特に、12〜240〔時間〕、更には72〜168〔時間〕が好ましい。第二シリコンアルコキシド中のケイ素(Si)とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することが望ましい。混合時の温度は材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜60〔℃〕の範囲、特に、この範囲の40〔℃〕以下が好ましい。さらに、混合後の温度は材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜95〔℃〕の範囲、特に、20〜80〔℃〕、更に好ましくは40〜60〔℃〕を選定することができる。加温の継続時間は十分な反応を進行させる時間が好ましく、1〜360〔時間〕、特に12〜240〔時間〕、更には72〜168〔時間〕が好ましい。
一方、コーティング層3には、最外層3cと下地層3a間に介在し、第三シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成し、少なくとも下地層コーティング液よりも有機成分の少ない中間層コーティング液をコーティングして設ける少なくとも一つの中間層3bを含ませることができる。このような中間層3bを含ませることにより、最外層3cと下地層3a間における密着性をより高めることができるとともに、最外層3cと下地層3a間の熱膨張率の差をより緩和して非剥離性を高めることができる。したがって、このような中間層3bは、少なくとも有機成分を異ならせた複数の層の組合わせを含ませることができる。
【0014】
第三シリコンアルコキシドは、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることができる。アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖,分岐,環状のいずれでも良く、炭素数は1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6である。シリコンアルコキシドにおけるアルキル基としては、特に限定はされないが、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等を例示でき、各々の分岐状アルキル基も該当する。また、ビニル基,アリル基等のアルケニル基,トリル基,フェニル基等のアリール基,トリクロロメチル基,トリフルオロプロピル基等のハロゲン化炭素基,γ−グリシドキシプロピル基,γ−メルカプトプロピル基,γ−メタクリロキシプロピル基等の炭化水素基も該当する。さらに、アルコキシ基としては、特に限定はされないが、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基及びこれらの分岐状アルコキシ基も該当する。これらに該当するシリコンアルコキシドのうち、好適には一般式におけるaが1の3官能性シリコンアルコキシドであるメチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン,プロピルトリエトキシシラン,イソプロピルトリメトキシシラン,イソプロピルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,フェニルトリメトキシラン,フェニルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等、若しくは一般式におけるaが2となる2官能性シリコンアルコキシドであるジメチルジメトキシシラン,ジエチルジメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,ジエチルジエトキシシラン,ジプロピルジメトキシシラン,ジプロピルジエトキシシラン,ビニルメチルジメトキシラン,ビニルメチルジエトキシシラン,ジフェニルジメトキシラン,ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができ、これらのうち、コーティング液の作製における取り扱いが容易で比較的安価な3官能性シリコンアルコキシドであるMTMS,VTMS,GPTMS,2官能性シリコンアルコキシドであるDMDMSやVMDMSが好適である。また、これらのシリコンアルコキシドのうちの一種類或いは二種類以上を混合して用いてもよく、特に、MTMSとDMDMSの混合原料が好適である。ヒドロキシケトン誘導体には、HAを用いることができる。第三シリコンアルコキシドは、このようなMTMSとDMDMSの混合原料に限定されるものではなく、作用効果においてMTMSとDMDMSの混合原料よりもやや劣るとしても、ヒドロキシケトン誘導体に含まれる他の原料を用いることができるとともに、ヒドロキシケトン誘導体も、このようなHAに限定されるものではなく、作用効果においてHAよりもやや劣るとしても、ヒドロキシケトン誘導体に含まれる他の溶剤を用いることができる。また、第三シリコンアルコキシド中のケイ素(Si)とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することが望ましい。混合時の温度は材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜60〔℃〕の範囲、特に、この範囲の40〔℃〕以下が好ましい。さらに、混合後の温度は材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜95〔℃〕の範囲、特に、20〜80〔℃〕、更には40〜60〔℃〕が好ましい。加温の継続時間は十分な反応を進行させる時間が好ましく、1〜360〔時間〕、特に、12〜240〔時間〕、さらには72〜168〔時間〕が好ましい。他方、プラスチック本体2には、少なくとも食器類Dを含ませることができるとともに、プラスチック本体2を形成する素材には、少なくとも、メラミン樹脂,ポリプロピレン樹脂,の一つを含ませることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るコーティング層を有するプラスチック製品1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0016】
(1) プラスチック本体2の表面2fに設けるコーティング層3は、無機系のガラスコーティング層として形成される最外層3cを有するため、食器類D等のプラスチック製品1のコーティング層3に要求される十分な機械的強度(表面硬度)及び耐久性,耐熱性及び耐高温水蒸気性を得ることができるとともに、望ましい疎水性及び耐汚染性を確保することができ、特に、食器類Dの衛生面や安全面における悪影響要因を排除することができる。
【0017】
(2) プラスチック本体2の表面2fに設けるコーティング層3は、有機無機複合ガラスコーティング層として形成される下地層3aを有するため、食器類D等のプラスチック製品1のコーティング層3に要求される十分な密着性(接着性)を確保できるとともに、熱膨張率の差の緩和により非剥離性を確保することができ、特に、食器類D等に適用した場合、その外観性(光沢性)や質感を長期にわたって維持できることにより、長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適実施例に係るコーティング層を設けた食器類の一部抽出拡大断面図を含む一部破断正面図、
【図2】本発明の好適実施例に係るコーティング液の生成方法を示す生成処理工程図、
【図3】同コーティング液の生成条件を示す一覧表、
【図4】同コーティング層(下地層,中間層及び最外層)を設ける際のコーティング工程図、
【図5】同コーティング層を設ける際のコーティング条件を示す一覧表、
【図6】同コーティング層の評価結果を示す一覧表、
【図7】本発明の変更実施例に係るコーティング層(下地層及び最外層)を設ける際のコーティング工程図、
【図8】同コーティング層を設ける際のコーティング条件を示す一覧表、
【図9】同コーティング層の評価結果を示す一覧表、
【実施例】
【0019】
以下、本発明に係るコーティング層を有するプラスチック製品1の好適実施例について、図1〜図6を参照して説明する。
【0020】
コーティング層3を設けるプラスチック、即ち、プラスチック本体2は、メラミン樹脂により成形した図1に示す食器類(茶碗)Dであり、この食器類D(プラスチック本体2)の表面2fに、下地層3a,中間層3b,最外層3cの三つの層を積層したコーティング層3を設ける。
【0021】
〔コーティング液〕
まず、本発明に係るプラスチック製品1に設けるコーティング層3の有効性を検証するため、図3に示すように、生成条件を変えた複数のコーティング液、即ち、下地層3aに用いる下地層コーティング液として四種(溶液番号G1〜G4)、中間層3bに用いる中間層コーティング液として四種(溶液番号M1〜M4)、最外層3cに用いる最外層コーティング液として三種(溶液番号F1〜F3)を生成して用意した。なお、図3中、A1はメチルトリメトキシシラン(MTMS)、B1はジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、B2はγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、HAはヒドロキシアセトンを示す。いずれのコーティング液も生成条件は異なるも基本的な生成方法は同じである。
【0022】
次に、各コーティング液の生成方法について、図2に示す生成処理工程を参照して説明する。
【0023】
最外層3cに用いる最外層コーティング液F1は次のように生成する。まず、調合材料として、MTMS,HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この場合、MTMSは第一シリコンアルコキシドとなり、この第一シリコンアルコキシド中のSi(ケイ素)とHAと水の調合比は、モル比で、1:1.5:3に選定する。そして、反応工程において、MTMS,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS4)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を7〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら蒸発工程(エバポレーション工程)において、不要な水分等を除去する(ステップS5)。即ち、蒸発工程では、反応工程で得られた組成物を60〔℃〕に加温しつつ減圧ポンプ(50〔hPa〕)により30〔分〕間減圧する。蒸発工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、粘性調整工程において、粘性調整される。具体的には、溶液原料に所定量のイソプルピルアルコール(IPA)を添加して粘性調整を行う。これにより、目的とする最外層コーティング液F1を得ることができる(ステップS6,S7)。また、HAをモル比で0.1に変更し、反応工程の日数を3〔日〕に変更するとともに、蒸発工程を行わない条件により、最外層コーティング液F2を同様に生成することができる。さらに、HAをモル比で0.1とし、反応工程の日数を3〔日〕とするとともに、反応工程における撹拌及び蒸発工程を行わない条件により、最外層コーティング液F3を同様に生成することができる。
【0024】
中間層3bに用いる中間層コーティング液M1は次のように生成する。まず、調合材料として、モル比で、MTMSとDMDMSを9:1により調合した第三シリコンアルコキシドを用意するとともに、HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この際、第三シリコンアルコキシド中のSiとHAと水の調合比は、モル比で、1:1.5:3に選定する。そして、反応工程において、第三シリコンアルコキシド,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS4)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を7〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら上述した最外層コーティング液F1の生成と同様の蒸発工程により不要な水分等を除去する(ステップS5)。蒸発工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、上述した最外層コーティング液F1の生成と同様の粘性調整工程により粘性調整を行う。これにより、目的とする中間層コーティング液M1を得ることができる(ステップS6,S7)。また、モル比で、MTMSとDMDMSを8:2に変更した第三シリコンアルコキシドを使用する条件により中間層コーティング液M2を同様に生成することができる。さらに、モル比で、MTMSとDMDMSを7:3に変更した第三シリコンアルコキシドを使用するとともに、HAをモル比で0.1に変更した条件により中間層コーティング液M3を同様に生成することができる。また、モル比で、MTMSとDMDMSを5:5に変更した第三シリコンアルコキシドを使用するとともに、HAをモル比で1.5とした条件により中間層コーティング液M4を同様に生成することができる。
【0025】
下地層3aに用いる下地層コーティング液G1は次のように生成する。まず、調合材料として、モル比で、GPTMSとDMDMSを10:0、即ち、この場合、GPTMSのみを用いた第二シリコンアルコキシドを用意するとともに、HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この際、第二シリコンアルコキシド中のSiとHAと水の調合比は、モル比で、1:1.5:3に選定する。そして、反応工程において、第二シリコンアルコキシド,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS4)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を7〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら上述した最外層コーティング液F1の生成と同様の蒸発工程により不要な水分等を除去する(ステップS5)。蒸発工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、上述した最外層コーティング液F1の生成と同様の粘性調整工程により粘性調整を行う。これにより、目的とする下地層コーティング液G1を得ることができる(ステップS6,S7)。また、モル比で、GPTMSとDMDMSを7:3に変更した第二シリコンアルコキシドを使用する条件により下地層コーティング液G2を同様に生成することができる。さらに、モル比で、GPTMSとDMDMSを5:5に変更した第二シリコンアルコキシドを使用する条件により下地層コーティング液G3を生成することができる。また、モル比で、GPTMSとDMDMSを3:7に変更した第二シリコンアルコキシドを使用する条件により下地層コーティング液G4を同様に生成することができる。
【0026】
〔コーティング方法〕
次に、コーティング方法について説明する。図4は、プラスチック本体2の表面2fにコーティング層3を設ける際のコーティング工程を示すとともに、図5は、コーティング層3を設ける際のコーティング条件を示す。本実施例では、図5に示すように、試料番号X1〜X15の計十五試料を製作した。この場合、各試料番号X1〜X15ではコーティング層3を設けるコーティング条件がそれぞれ異なる。
【0027】
以下、試料番号X1のコーティング方法について、図4に示すコーティング工程に従って説明する。
【0028】
まず、コーティング対象となるメラミン樹脂を用いた茶碗D(図1)は、別途の食器製造工程Poにおける金型を用いて射出成形される。この場合、コーティング対象となる茶碗Dは、成形直後における無地の茶碗Dであってもよいし、着色や模様が付された茶碗Dであってもよい。
【0029】
そして、食器製造工程Poで得られた茶碗Dは、コーティングラインに送られ、茶碗D(プラスチック本体2)の表面2fに対するコーティング処理が行われる。コーティングラインでは、最初に、脱脂工程P1により茶碗Dに対する脱脂処理が行われる。即ち、茶碗Dに対してアルコール等による洗浄処理が行われ、表面2fに付着した油脂成分等が除去される。脱脂工程P1の終了した茶碗Dは、乾燥工程P2により十分な乾燥処理が行われる。具体的には、温度110〜120〔℃〕の加熱環境下で数時間の乾燥処理が行われる。乾燥処理が終了し、常温まで放冷したなら、下地層コーティング工程P3により、茶碗Dに対して、下地層コーティング液G3(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、ディップコーティング等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、下地層コーティング工程P3の終了した茶碗Dに対して、下地層硬化工程P4により硬化処理が行われる。この場合、図5に示すように、硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は1〔時間〕に設定される。下地層硬化工程P4が終了したなら、放冷工程P5により常温まで放冷される。これにより、プラスチック本体2の表面2f上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の下地層3aが設けられる。
【0030】
次いで、下地層3aをコーティングした茶碗Dは、中間層コーティング工程P6において、中間層コーティング液M3(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、上述した下地層コーティング工程P3と同様に、ディップコーティング処理等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、中間層コーティング工程P6の終了した茶碗Dに対して、中間層硬化工程P7により硬化処理が行われる。この場合、図5に示すように、硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は2〔時間〕に設定される。中間層硬化工程P7が終了したなら、80〔℃〕の温水に1〔時間〕浸漬する温水浸漬工程P8を行う。なお、この温水浸漬工程P8は省略することができる。今回の実施例では、試料番号X1〜X12までのコーティング工程における温水浸漬工程P8は省略した。したがって、中間層硬化工程P7が終了したなら、放冷工程P9により常温まで放冷が行われる。これにより、下地層3aの上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の中間層3bが設けられる。なお、温水浸漬工程P8を行った場合には、温水浸漬工程P8の終了後、乾燥処理を含めた乾燥・放冷工程P9が行われる。
【0031】
次いで、下地層3a及び中間層3bをコーティングした茶碗Dは、最外層コーティング工程P10において、最外層コーティング液F1(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、上述した下地層コーティング工程P3と同様に、ディップコーティング処理等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、最外層コーティング工程P10の終了した茶碗Dは、第一硬化工程P11(硬化温度:60〔℃〕,硬化時間1〔時間〕)及び第二硬化工程P12(硬化温度:110〔℃〕,硬化時間1〔時間〕)により硬化処理される。なお、この第一硬化工程P11は省略することができる。今回の実施例では、試料番号X1〜X9までのコーティング工程において、この第一硬化工程P11を省略した。したがって、第二硬化工程P12のみを行い、第二硬化工程P12が終了したなら放冷が行われる。これにより、中間層3bの上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の最外層3cが設けられるとともに、下地層3a,中間層3b及び最外層3cの三層が積層された目的のコーティング層3が得られる。図1に、三層からなるコーティング層3を設けた茶碗Dを示す。
【0032】
以上、試料番号X1について説明したが、他の試料番号X2〜X15についても、図5に示すように一部のコーティング条件を異ならせる点を除き、基本的には同様のコーティング工程を経てコーティングが行われる。各試料番号X2〜X15において、試料番号X2〜X7までは、下地層コーティング液G1〜G4と中間層コーティング液M3,M4の組合わせを異ならせた。この点を除き、他のコーティング条件は試料番号X1と同じである。また、試料番号X8〜X15までは、下地層コーティング液G3と中間層コーティング液M3の組合わせに固定するとともに、下地層3aの硬化温度と中間層3bの硬化温度を60〔℃〕に固定し、他のコーティング条件を異ならせた。即ち、試料番号X8,X9は、下地層3aと中間層3bの硬化時間及びその組合わせを異ならせた。試料番号X10〜X12は、下地層3aと中間層3bの硬化時間をそれぞれ9〔時間〕と3〔時間〕に固定し、最外層コーティング液F1〜F3を異ならせるとともに、前述した第一硬化工程P11と第二硬化工程P12の双方を行った。試料番号X13〜X15は、試料番号X10〜X12と同様のコーティング条件で行うことに加え、前述した温水浸漬工程P8を行った。なお、実施例の温水浸漬工程P8では、各試料を80〔℃〕の温水に1〔時間〕浸漬することに代え、80〔℃〕の蒸気中に1〔時間〕放置した。
【0033】
〔コーティング層の評価〕
図6には、設定されたコーティング条件によりコーティングされた各コーティング層3の評価結果を示す。評価は、耐汚染性、非剥離性、鉛筆硬度について行った。耐汚染性の評価では、試料番号X1〜X15の各試料におけるコーティング層3…の上に、醤油,ケチャップ,カレーの三種類を適量塗布し、120〔℃〕に設定したスピードドライオーブンにより2〔時間〕乾燥させた。そして、自然放置により常温まで放冷し、洗浄を行った後、外観の汚染度合を目視により観察した。また、非剥離性の評価では、試料番号X1〜X15の各試料に対して、放置→熱湯浸漬→洗剤浸漬→洗浄→熱風乾燥、を各30〔分〕行うとともに、このサイクルを50回繰り返した後の剥離の有無を確認した。さらに、鉛筆硬度の評価は、JISK5600−5−4に基づいて行った。
【0034】
評価結果は、試料番号X1〜X15のいずれも良好(○)であった。即ち、耐汚染性の評価では、試料番号X1〜X15のいずれも汚染は確認されなかった。非剥離性の評価では、試料番号X1〜X15のいずれも剥離は確認されなかった。鉛筆硬度の評価では、試料番号X1〜X15のいずれも全ての鉛筆硬度をクリアした。また、コーティング条件を変更したことに基づく効果上の相関はほとんど確認できなかった。
【0035】
〔変更実施例〕
次に、本発明に係るコーティング層3の変更実施例について、図7〜図9を参照して説明する。
【0036】
変更実施例に係るコーティング層3は、中間層3bを省略し、下地層3aと最外層3cの二層の組合わせによるものである。図7は、プラスチック本体2の表面2fにコーティング層3を設ける際のコーティング工程を示すとともに、図8は、コーティング層3を設ける際のコーティング条件を示す。この変更実施例では、図8に示すように、試料番号Y1〜Y8の計八試料を製作した。この場合、各試料番号Y1〜Y8ではコーティング層3を設けるコーティング条件がそれぞれ異なる。
【0037】
以下、試料番号Y1のコーティング方法について、図7に示すコーティング工程に従って説明する。
【0038】
まず、コーティング対象となるメラミン樹脂を用いた茶碗D(図1)は、別途の食器製造工程Poにおける金型を用いて射出成形される。そして、食器製造工程Poで得られた茶碗Dはコーティングラインに送られ、茶碗D(プラスチック本体2)の表面2fに対するコーティング処理が行われる。コーティングラインでは、前述した脱脂工程P1と同様の脱脂工程P21及び乾燥工程P2と同様の乾燥工程P22が行われる。また、乾燥工程P22の終了した茶碗Dに対しては、前述した下地層コーティング工程P3と同様の下地層コーティング工程P23が行われる。下地層コーティング工程P23により、茶碗Dに対して、下地層コーティング液G3(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、前述した下地層コーティング工程P3と同様に、ディップコーティング処理等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。さらに、下地層コーティング工程P23の終了した茶碗Dに対して、下地層硬化工程P24により硬化処理が行われる。この場合、図8に示すように、硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は1〔時間〕に設定される。下地層硬化工程P24が終了したなら、放冷工程P25により常温まで放冷される。これにより、プラスチック本体2の表面2f上に、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の下地層3aが設けられる。
【0039】
次いで、最外層コーティング工程P26により、下地層3aをコーティングした茶碗Dに対して、最外層コーティング液F1(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、前述した下地層コーティング工程P3と同様に、ディップコーティング処理等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。そして、最外層コーティング工程P26の終了した茶碗Dに対して、最外層硬化工程P27による硬化処理が行われる。図8に示すように、このときの硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は3〔時間〕である。最外層硬化工程P27の後には、80〔℃〕の温水に1〔時間〕浸漬する温水浸漬工程P28を行うが、この温水浸漬工程P28は省略可能であり、今回の試料番号Y1を含め、試料番号Y1〜X8までのコーティング工程では省略した。したがって、中間層硬化工程P27が終了したなら、放冷工程P29により常温まで降下させる放冷処理が行われる。これにより、下地層3aの上に、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の最外層3cが設けられるとともに、下地層3a及び最外層3cの二層が積層された目的のコーティング層3が得られる。なお、温水浸漬工程P28を行った場合には、温水浸漬工程P28の終了後、乾燥処理を含めた乾燥・放冷工程P29が行われる。
【0040】
以上、試料番号Y1のコーティング工程を説明したが、試料番号Y2〜Y8も一部のコーティング条件を異ならせるも基本的には同様の工程を経てコーティングが行われる。この場合、図8に示すように、試料番号Y2は、下地層コーティング液G1に変更した点を除き、他のコーティング条件は試料番号Y1と同じである。試料番号Y3〜Y5は、最外層3cとして中間層コーティング液M3,M2,M1を使用し、かつそのときの硬化温度を110〔℃〕、硬化時間を1〔時間〕に変更した点を除き、他のコーティング条件は試料番号Y1と同じである。試料番号Y6〜Y8は、下地層3aの硬化温度を60〔℃〕、硬化時間を9〔時間〕に変更するとともに、最外層3cに最外層コーティング液F1,F2,F3を使用し、最外層3cの硬化温度を110〔℃〕、硬化時間を2〔時間〕に変更した点を除き、他のコーティング条件は試料番号Y1と同じである。
【0041】
図9には、設定されたコーティング条件によりコーティングされた各コーティング層3の評価結果を示す。評価は、耐汚染性、非剥離性、鉛筆硬度について行った。いずれの評価も前述した耐汚染性、非剥離性、鉛筆硬度の各評価と同じである。評価結果は、試料番号Y1〜Y3,Y6,Y7のいずれも良好(○)であった。即ち、耐汚染性の評価では、試料番号Y1〜Y3,Y6,Y7のいずれも汚染は確認されなかった。しかし、試料番号Y4,Y5,Y8については、僅かな汚染(△)が見られたが、実用上は問題にならないと思われる。非剥離性の評価では、試料番号Y1〜Y8のいずれも剥離は確認されなかった。鉛筆硬度の評価では、試料番号Y1〜Y8のいずれも全ての鉛筆硬度をクリアした。また、コーティング条件を変更したことに基づく効果上の相関はほとんど確認できなかった。
【0042】
以上、好適実施例(変更実施例)について詳細に説明したが、本発明は、このような実施例に限定されるものではなく、細部の材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0043】
例えば、第一シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比,第二シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比,第三シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、ヒドロキシケトン誘導体の性質を考慮した場合、例示したモル比に限定されるものではなく、第一〜第三シリコンアルコキシド中のケイ素をモル比で1とした場合、ヒドロキシケトン誘導体をモル比で0.02〜2の範囲に、水を1〜3の範囲に選定可能である。また、中間層3bは、一層の場合を示したが、有機成分を異ならせた複数の層の組合わせも可能である。さらに、食器類Dとして茶碗を例示したが、食器類Dには、皿,スプーン,トレー,食品保管容器等の、食事や食品に関連する様々な物品が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るコーティング層を有するプラスチック製品1は、例示した食器類Dをはじめ、プラスチックにより製造される各種のプラスチック製品に利用できる。また、プラスチック本体2には、例示のメラミン樹脂をはじめ、ポリプロピレン樹脂、更にはシリコンアルコキシドやヒドロキシケトン誘導体の選定等を行うことにより各種プラスチックに利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1:プラスチック製品,2:プラスチック本体,2f:プラスチック本体の表面,3:コーティング層,3a:下地層,3b:中間層,3c:最外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック本体の表面にコーティング層を設けた、コーティング層を有するプラスチック製品において、前記プラスチック本体に、第一シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した最外層コーティング液をコーティングした最外層と、この最外層と前記プラスチック本体の表面間に介在し、第二シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成し、少なくとも前記最外層コーティング液よりも有機成分の多い下地層コーティング液をコーティングした下地層とを含むコーティング層を設けたことを特徴とするコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項2】
前記第一シリコンアルコキシドは、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることを特徴とする請求項1記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項3】
前記第一シリコンアルコキシドは、メチルトリメトキシシランを用いることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項4】
前記第二シリコンアルコキシドは、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることを特徴とする請求項1記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項5】
前記第二シリコンアルコキシドは、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS),GPTMSとジメチルジメトキシシランの混合原料,の一つを用いることを特徴とする請求項1又は4記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項6】
前記ヒドロキシケトン誘導体は、ヒドロキシアセトンを用いることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項7】
前記第一シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項8】
前記第二シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項9】
前記最外層と前記下地層間に介在し、第三シリコンアルコキシドとヒドロキシケトン誘導体と水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成し、少なくとも前記下地層コーティング液よりも有機成分の少ない中間層コーティング液をコーティングして設ける少なくとも一つの中間層を含むことを特徴とする請求項1記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項10】
前記中間層は、少なくとも有機成分を異ならせた複数の層の組合わせを含むことを特徴とする請求項9記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項11】
前記第三シリコンアルコキシドは、一般式RaSiX4-a(ただし、Rはアルキル基、Xはアルコキシ基、aは1〜3の整数)で表わされる1〜3官能性シリコンアルコキシドを用いることを特徴とする請求項9又は10記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項12】
前記第三シリコンアルコキシドには、メチルトリメトキシシランとジメチルジメトキシシランの混合原料を用いることを特徴とする請求項9,10又は11記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項13】
前記ヒドロキシケトン誘導体は、ヒドロキシアセトンを用いることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項14】
前記第三シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、モル比で、[1]:[0.02〜2]:[1〜3]に選定することを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項15】
前記プラスチック本体には、少なくとも食器類を含むことを特徴とする請求項1記載のコーティング層を有するプラスチック製品。
【請求項16】
前記プラスチック本体を形成する素材には、少なくとも、メラミン樹脂,ポリプロピレン樹脂,の一つを含むことを特徴とする請求項1又は15記載のコーティング層を有するプラスチック製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−11527(P2011−11527A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159991(P2009−159991)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(398046024)信濃化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】