説明

コーティング後の意匠性を改善した艶消しアクリル系樹脂フィルム

【課題】外観が改善されたコーティング層を有する艶消し積層フィルムの提供。
【解決手段】基体フィルムおよび、前記基体フィルムの一方の面に形成された艶消しコーティング層からなる積層フィルムであって、前記基体フィルムが、樹脂組成物(C)100重量部に対して架橋樹脂粒子を0.5〜25重量部含むアクリル系樹脂組成物とすることにより、基体フィルムの巻き取り後の形状を改善し、積層フィルム表面の傷付き時にも透明層が観察されない艶消し積層フィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング層が形成されたアクリル系樹脂フィルムに関する。更に詳しくは、アクリル系樹脂フィルムもしくは多層のフィルムまたはシートが熱可塑性樹脂成形品の表面に積層一体化された積層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装に代わる樹脂成形品の表面に加飾する方法として、印刷等により加飾されたアクリル系樹脂フィルム(以降、「加飾用積層フィルム」と記す)を、射出成形金型内に挿入し、射出成形した後、加飾層のみを成形品表面に転写してからフィルムを剥がす転写法;加飾フィルムを成形品の最表面として成形品に残すインサート成形法、インモールド成形法等の射出成形と同時に加飾を施す方法(例えば、特許文献1)、フィルムを射出成形品表面にラミネーションする方法、等が広く使用されている。
【0003】
加飾用積層フィルムは、アクリル系樹脂フィルム(例えば、特許文献2および3)、ならびにウレタンアクリレート系樹脂を主成分とした組成物からなる艶消しコーティング層を持つアクリル系樹脂フィルム(例えば、特許文献1および4)に、印刷を施すことにより得られるものである。
【0004】
しかしながら、加飾用積層フィルムを、自動車等車両の内外装材料、光学材料、建設材料、パソコン部材、家庭電化製品の保護用フィルムや加飾用フィルムとして使用する場合、アクリル系樹脂フィルムでは、艶消し架橋粒子を樹脂中に練り込みフィルム化することにより、凹凸が目立つために外観意匠性が好まれない場合がある(例えば、特許文献5)。
【0005】
また、艶消しコーティング層を持つアクリル系樹脂フィルムにおいても、基体フィルムを巻き取る際にフィルム同士が密着し、フィルムにシワ、弛み、凹凸等が発生することや、残留応力や膜厚の差による段差により、コーティング時にコーティング層の膜厚を均一にできずに外観が損なわれることがあり、意匠性が劣ることが指摘されている。また、鋭利なもので傷を付けた際には基体のアクリル系樹脂フィルムの透明層が見えることが問題となっていた。
これらのことは、上記加飾用積層フィルムの使用条件を著しく限定することとなっていた。
【特許文献1】特開2006−327173号公報
【特許文献2】特開平8−323934号公報
【特許文献3】特開平10−279766号公報
【特許文献4】特開2003−211598号公報
【特許文献5】特開平11−335511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、艶消し調の外観意匠性に優れ、コーティング層が傷付いた際にも透明層が見えずに意匠性を維持できる、種々の用途に適用し得るアクリル系樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点について鋭意検討の結果、基体フィルムにおいてアクリル系樹脂に架橋樹脂粒子を含有させてフィルム状に成形することにより、フィルムを巻き取った際に表面が密着しなくなり、シワや弛みや凹凸の発生が減少し、巻き取り後の残留応力や膜厚の差による段差が少なくなり、基体フィルムの表面にコーティング層を形成した場合には、ムラの無い外観意匠性が得られることを見出した。さらには、コーティング層が傷付いた際にも基体自体が艶消しであることから、外観意匠性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
基体フィルムおよび、前記基体フィルムの一方の面に形成された艶消しコーティング層からなる艶消し積層フィルムであって、
前記基体フィルムが、樹脂組成物(C)100重量部に対して架橋樹脂粒子を0.5〜25重量部含むアクリル系樹脂フィルムであることを特徴とする艶消し積層フィルム(請求項1)、
前記基体フィルムの表面粗さ(Ra)が0.2〜1.0μmであることを特徴とする、請求項1記載の積層フィルム(請求項2)、
前記基体フィルムに含まれる架橋樹脂粒子の重量平均粒子径が0.5〜10μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の艶消し積層フィルム(請求項3)、
前記架橋樹脂粒子が架橋アクリル系重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項4)、
前記基体フィルムを成形するに際し、Tダイ法により溶融状態の前記基体樹脂の片面を金属ロールまたは金属ベルトに接触させ、反対の面を金属ロール、金属ベルト、ゴムロール、金属スリーブ付きゴムロール、PET系樹脂よりなる群から選ばれる1種に接触させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項5)、
前記基体フィルムが、アクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含有するアクリル系樹脂組成物を成形されてなるアクリル系樹脂フィルムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項6)、
前記アクリル系樹脂組成物が、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなる樹脂組成物(C)に、架橋アクリル系重合体が配合され、かつ、
前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径が50〜200nmであることを特徴とする、請求項6に記載の艶消し積層フィルム(請求項7)、
前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径d(nm)および前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤の量w(重量%)が下記の関係式を満たし、
0.03d≦w≦0.06d
かつ、前記樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2〜0.8dl/gであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項9)、
前記基体フィルムの厚みが30〜400μmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項9)
前記基体フィルムのコーティング層積層面と反対の面に印刷層を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の艶消し積層フィルム(請求項10)、および
請求項1〜10のいずれかに記載の艶消し積層フィルムを積層してなることを特徴とする、艶消し積層成形品(請求項11)
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外観意匠性に優れ、コーティング層が傷付いた後も外観意匠性を維持できるアクリル系樹脂積層フィルムを、並びに、これを用いた積層成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の艶消し積層フィルムは、基体フィルムおよび、前記基体フィルムの一方の面に形成されたコーティング層を具備し、前記基体フィルムが、架橋粒子を含有するアクリル系樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0011】
本発明の基体フィルムは、架橋樹脂粒子を含有することにより、アクリル樹脂フィルムを巻き取った際に表面が密着しにくくなり、シワや弛みや凹凸の発生が減少し、巻き取り後の残留応力や膜厚の差による段差ができにくい点から、また、アクリル樹脂フィルム自体でも艶消し性を有する点から、好ましい。
【0012】
本発明における基体フィルムの表面粗さとしては、中心線平均粗さ(Ra)が0.2〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.8μmであることがより好ましい。基体フィルムの中心線平均粗さ(Ra)が0.2μm以上であれば、フィルムを巻き取った時にフィルムの表面が密着しなくなり、巻き取り後の残留応力や膜厚の差による段差が少なくなり、コーティング層形成後のフィルム外観が良好となることから、好ましい。中心線平均粗さ(Ra)が1.0μm以下であれば、コーティング層や印刷層を形成する際にフィルム表面の凹凸に塗液が入り込み易くなることから、好ましい。
【0013】
本発明に用いられる基体フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物は、フィルムの割れ性を向上させ、トリミングや二次成形時にフィルムが伸ばされた時に白くなりにくいことから、アクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)および前記架橋樹脂粒子を含むことが好ましく、さらには、硬度を高くできる点から、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなる樹脂組成物(C)および前記架橋樹脂粒子からなるものが好ましい。
【0014】
本発明の基体フィルムに含有される架橋樹脂粒子としては、フッ素系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、アクリルフッ素系樹脂粒子、アクリルシリコン系樹脂粒子等を使用することが好ましい。これらの中でも、基体との相溶性の面から、アクリル系樹脂粒子を使用することが更に好ましい。
【0015】
本発明の基体フィルムにおける架橋樹脂粒子の含有量は、樹脂組成物(C)100重量部に対して、0.5〜25重量部が好ましく、1.0〜25重量部がより好ましい。架橋粒子の含有量が0.5重量部以上であれば、艶消し効果が十分であり、フィルム表面に滑り性が付与されることから好ましく、25重量部以下であれば、コストの面やフィルム成形時に発生するブリード物の減少の観点から好ましい。
【0016】
本発明の基体フィルムにおける架橋樹脂粒子の重量平均粒子径は、0.5〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましく、2〜8μmであることがさらに好ましい。架橋樹脂粒子の重量平均粒子径が0.5μm以上であれば、艶消し効果が十分であり好ましく、10μm以下であると、フィルム成形時に、Tダイのリップ先端部にブリードアウトした架橋樹脂粒子が付着しにくくなることから、好ましい。また、架橋樹脂粒子の平均粒子径制御により、基材フィルムの60°光沢度を変化させることができ、意匠性を多様なものにすることができる。
【0017】
なお、架橋樹脂粒子の重量平均粒子径は、ベックマン・コールター社製コールターマルチサイザーIIにより、測定した値である。
【0018】
本発明の基体フィルムにおける樹脂組成物(C)は、アクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)をそれぞれ重合して、これらを混合して得ることができるが、製造に際しては、同一の反応機内でアクリル系グラフト共重合体(A)を製造した後、メタクリル系重合体(B)を続けて製造することもできる。アクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)を混合する方法としては、ラテックス状あるいはパウダー、ビーズ、ペレット等で混合が可能である。
【0019】
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)としては、アクリル酸エステル系ゴム状重合体[アクリル酸エステルを主成分とした架橋ゴム状重合体](A−a)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)を1段以上でグラフト重合して得られるものが、生産性や物性調整の点から好ましい。
【0020】
本発明で用いられるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)は、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体および特定量の共重合可能な架橋剤からなる単量体混合物を、重合させてなるものである。
【0021】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられるアクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることができる。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらの単量体は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類があげられる。これらのうちでは、耐候性、透明性の点から、メタクリル酸エステル類が特に好ましい。これらの単量体は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)におけるアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体との組成比率は、アクリル酸エステル50〜100重量%、および他のビニル系単量体0〜50重量%である[アクリル酸エステル、および他のビニル系単量体の合計量は100重量%]ことが好ましく、アクリル酸エステル60〜100重量%、および他のビニル系単量体0〜40重量%であることがより好ましく、アクリル酸エステル70〜100重量%および他のビニル系単量体0〜30重量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステルの組成比率が50重量%以上であれば、耐衝撃性が向上し、引張破断時の伸びが向上し、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるために好ましい。
【0024】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤としては、例えば、アクリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアクリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などがあげられる。
これらの架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明における共重合可能な架橋剤の添加量wは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径と共に、基体フィルムの応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響するため、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量平均粒子径d(nm)と架橋剤量w(重量%)が次式を満たすことが好ましい。
0.03d≦w≦0.06d
架橋剤の添加量wは、上記式に示される範囲が好ましく、この範囲外では応力白化が生じ、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが生じやすく、透明性が低下し、フィルムの成形性が悪化する傾向がある。
【0026】
なお、本発明におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径dは、50〜200nmが好ましく、50〜180nmがより好ましく、50〜150nmがさらに好ましく、60〜120nmが特に好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径が50nm以上であれば、耐衝撃性および引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましく、200nm以下であれば、応力白化が生じにくく、透明性、特に真空成形後の透明性を確保することができ、好ましい。
【0027】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の製造においては、上記単量体混合物を全部混合して重合してもよく、また、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。
【0028】
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)は、好ましくは、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)5〜75重量部の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)95〜25重量部をグラフト重合させることより得られる。
【0029】
本発明におけるグラフト共重合組成[単量体混合物(A−b)の組成]は、得られるフィルムの耐熱性、耐溶剤性の点から、メタクリル酸エステル50〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜50重量%が好ましく、メタクリル酸エステル60〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜40重量%がより好ましく、得られるフィルムの硬度、剛性の点からは、メタクリル酸エステル80〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜20重量%がさらに好ましく、メタクリル酸エステル85〜100重量およびアクリル酸エステル0〜15重量%が特に好ましい。グラフト共重合に用いられるメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの具体例としては、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体にて例示したものが使用可能である。
【0030】
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)では、(A−b)のグラフト重合において、第1段階でメタクリル酸エステルを86重量%以上含有する単量体混合物をグラフト重合させ、第2段階でメタクリル酸エステルを85重量%以下含有する単量体混合物をグラフト重合させても構わない。第1段階でメタクリル酸エステルを86重量%以上含有する単量体混合物をグラフト重合させ、第2段階でメタクリル酸エステルを85重量%以下含有する単量体混合物をグラフト重合させたものでは、応力白化が生じにくくなるため好ましい。
【0031】
この際、単量体混合物(A−b)のうち、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)にグラフト反応せずに未グラフトの重合体となる成分が生じる。該未グラフト成分は共重合体(B)の一部または全部を構成する。アクリル系グラフト共重合体(A)は、メチルエチルケトンに不溶となる。
【0032】
本発明のアクリル系グラフト共重合体(A)におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に対するグラフト率は、30〜200%が好ましく、50〜200%我より好ましく、80〜200%がさらに好ましい。グラフト率が30%以上であれば透明性が低下せず、引張破断時の伸びが低下せず、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましく、200%以下であればフィルム成形時の溶融粘度が高くならず、フィルムの成形性が低下せず好ましい。
【0033】
なお、本発明におけるグラフト率とは、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A−a)に対するグラフト層の割合を測定した値であり、以下の操作により得られるメチルエチルケトン不溶分を、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびグラフト層(A−bの一部または全部)として、次式により算出する。
グラフト率G(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量)/アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量}×100
すなわち、メタクリル系樹脂組成物(C)1gをメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温で放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行う。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分および可溶分(溶液)に分離する。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことにより、メチルエチルケトン不溶分と可溶分に分離する。
【0034】
本発明で用いられるメタクリル系重合体(B)は、得られるフィルムの耐熱性、耐溶剤性の点から、メタクリル酸エステル50〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜50重量%を含有する単量体混合物を、少なくとも1段以上で共重合させてなるものであるが、より好ましくは、メタクリル酸エステル60〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜40重量%を含有するものである。特に、得られるフィルムの硬度、剛性を重視する場合には、メタクリル系重合体(B)の単量体混合物組成としては、メタクリル酸メチルを80重量%以上含有するものが好ましく、85重量%以上含有するものがより好ましく、90重量%以上含有するものがさらに好ましく、92重量%以上含有するものが特に好ましい。
【0035】
また、本発明のメタクリル系重合体(B)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルに対して共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。これらの共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0036】
本発明で用いられる樹脂組成物(C)中におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量は、樹脂組成物(C)全体を100重量%とした場合、5〜40重量%が好ましく、10〜35重量%がより好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量が5重量%以上であれば、得られる基体フィルムの引張破断時の伸びが低下せず、応力白化が生じにくくなるため、好ましい。含有量が40重量%以下であれば、得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくくなるため、好ましい。
【0037】
本発明で用いられる樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は、0.2〜0.8dl/gが好ましく、0.3〜0.7dl/gがより好ましい。メチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2dl/g以上であれば、得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下せず、耐溶剤性が低下せず好ましく、0.8dl/g以下であればフィルムの成形性が低下しにくく、好ましい。
【0038】
ここで、メタクリル系樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度とは、上記の操作により得られたるメチルエチルケトン可溶分150mgをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた溶液に対して、JIS K6721に従い、30℃での還元粘度を測定した値である。
すなわち、メタクリル系樹脂組成物(C)をメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温で放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行う。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分および可溶分(溶液)に分離する。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことによりメチルエチルケトン不溶分と可溶分とに分離する。さらに、メチルエチルケトン可溶分は、該溶液に対してメタノールを用いて析出させ、真空乾燥機を用いて60℃にて10時間乾燥させて、可溶分サンプルを得る。
【0039】
本発明で用いられる樹脂組成物(C)におけるアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)の製造方法は、特に限定されたものではなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が適用可能である。
【0040】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤が使用される。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物;クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;さらにアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤があげられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0041】
これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0042】
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に制限はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。その具体例としては、例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルスルフォン酸ソーダ、アルキルベンデンスルフォン酸ソーダ、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリン酸ソーダなどの陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類とエチレンオキサイドとの反応生成物などの非イオン性界面活性剤などが示される。これらの界面滑性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0043】
このように得られる共重合体ラテックスから、通常の凝固と洗浄により、または、スプレー乾燥、凍結乾燥などによる処理により、アクリル系グラフト共重合体(A)またはメタクリル系重合体(B)が分離、回収される。
【0044】
本発明のアクリル系樹脂組成物には、艶消し用架橋アクリル系重合体等の架橋樹脂粒子の他、着色のため無機または有機系の顔料、染料、熱や光に対する安定性をさらに向上させるための抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0045】
本発明においては、紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性の優れた成形品とすることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。なかでも、高分子量のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、例えば、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]などが、耐候性が高く、フィルムからの揮発も少ないことから好ましい。
【0046】
本発明においては、アクリル樹脂組成物(C)に紫外線吸収性を示す単量体を共重合することもできる。そのことにより、押出成形時に紫外線吸収剤の一部が揮発することなく、押出成形時のロールおよび金属ベルト、または、射出成形用金型への揮発成分の付着による汚れが少なくなる。
【0047】
紫外線吸収性能を示す単量体としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール類であり、2−(2’−ヒドロキシ−5’−アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチル−3’−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらのうちでも、より好ましくは、コストおよび取り扱い性から、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
【0048】
紫外線吸収性を示す単量体の共重合比率は、樹脂組成物(C)100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.05〜5重量部が特に好ましい。共重合比率が0.01〜5重量部の範囲では、フィルムの耐候性と乳化重合の安定性とのバランスが良好となる。
【0049】
本発明で用いられる基体フィルムは、上記アクリル系樹脂組成物を、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、さらには溶剤キャスト法等により成形加工することにより得られる。これらのなかでは、生産性やフィルム膜厚の均一性の点から、Tダイ押出法が好ましい。
【0050】
Tダイ押出法で成形する場合、ペレット形状とした樹脂を使用することが好ましい。使用する押出機としては、スクリュー径が40mmφ以上の単軸押出機、またはスクリュー径が32mmφ以上の二軸押出機を用いることが好ましく、例えば、シリンダおよび連結管の設定温度を150〜300℃の範囲にて運転し、170〜300℃の範囲に設定したTダイから溶融樹脂吐出させることにより、フィルムを得ることができる。また、必要に応じ、押出機にはベント、ギアポンプ、スクリーンチェンジャー、リーフディスクフィルター等を用いることができる。
【0051】
本発明において、前記基体フィルムをTダイ法により成形するに際し、Tダイにより吐出される溶融状態の前記基体樹脂の片面を金属ロールまたは金属ベルトに接触させ、反対の面を金属ロール、金属ベルト、ゴムロール、金属スリーブ付きゴムロール、ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりなる群より選ばれるいずれか1種に接触させることが、表面の平滑性を向上させることができる点から好ましい。また、基体フィルムにおいては、エンボス柄を賦形しても良い。
【0052】
本発明においては、樹脂組成物(C)および架橋粒子を配合した後、必要に応じて、ペレット化およびフィルム化する際に、ステンレス鋼焼結フィルター等によりろ過することもできる。
【0053】
本発明における基体フィルムの厚みは、30〜400μmが好ましく、30〜200μmがさらに好ましい。基体フィルムの厚みが30μm以上では、絵柄を印刷した場合に深みのある外観が得られ易いことから、好ましい。また、厚みが400μm以下であればコストが高くなり過ぎないことから、より使用し易い。
【0054】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は、B以上が好ましく、HB以上がより好ましい。
【0055】
本発明においては、基材フィルムの片面に艶消しコーティング層を形成させることにより、意匠性を良くすること、表面硬度を高くすること、耐薬品性を向上させることができる。
【0056】
なお、本発明においては、基体フィルムにおいてアクリル系樹脂組成物に架橋樹脂粒子を含有されることにより、基体フィルムの表面にコーティング層を形成する際に、フィルムを巻き取った際に表面が密着しなくなり、シワや弛みや凹凸の発生が減少して、巻き取り後の残留応力や膜厚の差による段差が少なくなり、ムラの無い外観意匠性が得られる。さらには、コーティング層が傷付いた際にも基体フィルム自体が艶消しであることから、外観意匠性を維持できる。
【0057】
本発明における艶消しコーティング層を形成する樹脂組成物としては、公知の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いることが、フィルムの耐擦傷性の観点から好ましく、さらにフィルムの伸び性を高くできることから、熱硬化性樹脂を用いることがより好ましい。熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン−アクリレート系樹脂、シリコーン−アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、フッ素系樹脂、フッ素シリコーン系樹脂を用いることができる。
【0058】
本発明におけるコーティング層を形成する樹脂組成物の水酸基価としては、20〜130mgKOH/gが好ましく、20〜100mgKOH/gがより好ましい。水酸基価が20mgKOH/g以上であれば、耐溶剤性が良く、130mgKOH/g以下であれば成形時に伸び性が良くコーティング層のクラックが発生しにくいことから好ましい。
ここで、水酸基価(OH価)は、架橋度を示す値であり、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0059】
本発明における艶消しコーティング層には、艶消し剤を含有していることが好ましい。
艶消し剤としては、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機系微粒子;アクリル系樹脂架橋樹脂粒子、フッ素系樹脂架橋粒子などの架橋樹脂粒子等が好ましい。
【0060】
コーティング層を形成する組成物には、必要に応じて、アクリル系樹脂等の各種樹脂、顔料、分散安定剤、粘度調節剤、レベリング剤、紫外線吸収剤等を添加することもできる。
【0061】
コーティング層を形成する組成物に使用する溶媒としては、ブタノール等のアルコール類;キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、等があげられる。これらのなかでは、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエンが好ましく、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の沸点が90℃以下の溶媒を使用することが、コーティングフィルムの乾燥温度が低く抑えられることから特に好ましい。
【0062】
本発明における基体フィルムへのコーティング層の形成方法としては、ダイコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、リバースコート法など、公知の各種方法が使用出来る。外観を均一に保つ為、グラビアコート法、またはマイクログラビアコート法が更に好ましい。
【0063】
基体フィルム上に形成された塗膜は、必要に応じて乾燥され、その後、熱硬化性樹脂は加熱硬化させ、また、光硬化性樹脂は紫外線照射により硬化させて、コーティング層を形成することができる。
【0064】
本発明におけるコーティング層の平均厚みは0.5〜6μmであることが好ましく、0.5〜2μmであることがより好ましい。コーティング層の平均厚みが0.5μm以上であれば、基体フィルム原反の厚み精度が悪かった場合でも、影響を受け難く、均一に塗ることができ、好ましい。コーティング層の平均厚みが6μm以下であれば、真空成形や射出成形同時貼合法で成形した場合、深絞り部でフィルムが延伸され薄くなった場合にもコーティング層にクラックが発生しにくいことから、好ましく、2μm以下であることがコストの面からより好ましい。
【0065】
本発明の艶消しアクリル系樹脂フィルムの平均厚みは、30〜400μmであることが好ましく、30〜200μmがさらに好ましい。艶消しアクリル樹脂フィルムの平均厚みが30μm以上であれば、絵柄を印刷した場合に深みのある外観が得られ易いことから好ましい。また、厚みが400μm以下であればコストが高くなり過ぎないことから、より使用し易く好ましい。
【0066】
本発明の艶消し積層フィルムでは、アクリル系樹脂基体フィルムのコーティング層が形成されていない面に印刷層を有することが、自動車用部品やパソコン部品、家電製品として使用する際、意匠性の面で好ましい。
【0067】
本発明の艶消し積層フィルムにおいて、コーティング層が形成されていない面に絵柄を印刷する場合、グラビア印刷、スクリーン印刷あるいはインクジェットプリンター等による印刷などの公知の方法を採用することができる。
【0068】
前記印刷層にはプライマーや接着剤を塗布することができ、コーティング層が形成されていない面に公知の樹脂からなる基材樹脂成形品と積層することができる。また、コーティング層が表層にある積層品は、意匠性の面で好ましい。
【0069】
本発明の艶消し積層フィルムを他のフィルム、シート、射出成形材料等に積層することにより、フィルム単体では表現できない意匠性を持たせることや、耐熱性、硬度、接着性などの特性を変化させることもできる。
【0070】
本発明で得られる積層品の製造方法は特に制限されるものではない。例えば、二次元形状(シート・フィルム状)の積層品で、かつ基材が熱融着できるものの場合は、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また、熱融着しない基材に対しては、プライマー層または接着層を介して貼り合せることが可能である。二次元形状の積層品に関しては、真空成形等を行うことにより、三次元形状とすることができる。
【0071】
三次元形状の積層品の場合には、加飾フィルムを成型品の最表面とするインサート成形法、インモールド成形法、等の公知の方法(射出成形同時貼合法)を用いることができる。射出成形される樹脂としては、種類は問わず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。
【0072】
前記基体フィルムは、共押出法によっても、熱可塑性樹脂に積層することができる。共押出法としては、特に限定されないが、通常の共押出成形、多層押出成形が有用であり、例えば、通常の溶融共押出法である異型押出法やTダイ押出法、あるいはインフレーション法やカレンダー法等により良好に加工される。また、得られる成形品がフィルムやシートの場合は、必要に応じて、両面をロールまたは金属ベルトに同じに接触させることができ、コーティング加工や印刷を施し易くなることから好ましい。また、目的に応じて、二軸延伸による基体シートの改質も可能である。
【0073】
共押出できる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、AS系樹脂、MBS系樹脂、MS系樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸ポリマー、ラクトン環化メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の組成物があげられ、これらの組成物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。相溶性と工業的観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂の組成物が好ましい。
【0074】
なお、ポリ塩化ビニル系樹脂には、塩化ビニル単独重合体だけでなく、塩化ビニルおよび酢酸ビニル等の他の単量体との共重合体、後塩素化した塩素化塩化ビニル樹脂も含まれる。また、軟質塩化ビニル樹脂も含まれる。
【0075】
本発明の積層品の使用方法は特に制限されるものではないが、例えば、自動車内装や自動車外装や携帯電話の部材、AV機器の部材、パソコン機器の部材、家具製品、各種ディスプレイ、レンズ、窓ガラス、小物、雑貨等の外観意匠性の必要となる各種用途等に使用することができる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例、比較例により本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例にある「部」は重量部、「%」は重量%を表す。
【0077】
また、略号は、それぞれ下記の物質を表す。
OSA:ソジウムジオクチルスルホサクネシート
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AlMA:メタクリル酸アリル
CHP:キュメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリードデシルメルカプタン
EA:アクリル酸エチル
得られたフィルムの特性、評価は、次の方法、条件に従った。
【0078】
(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量平均粒子径)
得られたアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)ラテックスを、固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より、重量平均粒子径を求めた。
【0079】
(グラフト率G)
参考例で製造した粉末1gをメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温にて放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行った。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分と可溶分(溶液)とに分離した。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことによりメチルエチルケトン不溶分と可溶分とに分離した。
得られた不溶分を、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびグラフト分(A−bの一部または全部)として、次式により算出した。
グラフト率G(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量)/アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量}×100。
【0080】
(還元粘度)
グラフト率測定の操作に、さらに以下の操作を行い、メチルエチルケトン可溶分を得た。すなわち、メチルエチルケトン可溶分(溶液)に対してメタノールを用いて析出させ、真空乾燥機を用いて60℃にて10時間乾燥させて、可溶分サンプルを得た。
得られたメチルエチルケトン可溶分150mgをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた溶液に対して、JIS K6721に従い、30℃での還元粘度を測定した。
【0081】
(基体フィルムの中心線平均粗さRa)
得られたフィルムを、JIS B0601−2001に基づき、表面粗さ測定機((株)東京精密製、サーフコム110B)を用い、基材フィルムの中心線平均粗さRaを測定した。
【0082】
(表面外観)
(1)コーティング後の表面外観
30cm幅の積層フィルムを流れ方向に10m(長さ33.3m)観察し、コーティングの外観にムラが無いかを観察した。
○:長さ5cm以上の連続的な外観のムラが0箇所
△:長さ5cm以上の連続的な外観のムラが1〜5箇所
×:長さ5cm以上の連続的な外観のムラが6箇所以上
(2)傷付け試験後の表面外観
コーティング層の表面を、2000番の紙ヤスリを用いて、1分間に50往復擦ってコーティング層を取り除き、コーティング層の外観を観察し、透明層の有無を観察した。
○:透明層が観察されない
×:透明層が観察される。
【0083】
(基体フィルムの鉛筆硬度)
コーティング前の基体フィルム表面の鉛筆硬度を、JIS K5400に従って測定した。
【0084】
(基材フィルムの表面光沢)
グロスメーター( ( 株)村上色彩技術研究所製、G M − 26 D型) を用い、60 °でのコーティング前の基材フィルムの表面光沢を測定した。
【0085】
(応力白化)
得られたフィルムを、23℃において180度折り曲げて、白化状態を観察し、次の基準にて評価をした。
○:白化が認められない。
△:白化がわずか認められる。
×:白化が著しい。
【0086】
(製造例1)
撹拌機付き8L重合機に次の物質を仕込んだ。
水 200部
ソジウムオクチルスルホサクシネート 0.2部
エチレンジアミン・2Na 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
ソジウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.15部
脱酸素後、内温を60℃にした後、表1に示した単量体混合物(a)[BA90%、MMA7.6%およびALMA2.4%からなる単量体混合物100重量%に対し、CHP0.2重量%を添加した単量体混合物21部]を10部/時間の割合で連続的に滴下し、その後30分間後重合を行い、アクリル酸エスエル系ゴム状重合体を得た。重合転化率は99.5%であった。その後、ソジウムオクチルスルホサクシネート0.2部を仕込んだ後、表1に示した単量体混合物(b)[BA10%、MMA90%からなる単量体混合物100重量%に対し、CHP0.3%およびtDM0.3%を添加した単量体混合物79部]を12部/時間の割合で連続的に滴下し、その後1時間後重合を行い、アクリル系グラフト共重合体(A)を得た。アクリル系グラフト共重合体(A)の重合転化率は99.0%、グラフト率は135%、メチルエチルケトン可溶分の還元粘度は0.35dl/gであった。
得られたラテックスを酢酸カルシウムで塩析凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末を得た。
還元粘度、グラフト率を測定し表1に示した。
【0087】
(製造例2)
単量体混合物(a)および単量体混合物(b)の組成を、表1に示す処方に変更した以外は、製造例1と同様の操作により、アクリル系グラフト共重合体を得た。
還元粘度、グラフト率を測定し、表1に示した。
【0088】
(製造例3)
懸濁重合で製造したMMA−EA共重合体(住友化学株式会社製、スミペックスEX:MMA約95%、EA約5%からなる共重合体、還元粘度0.30dl/g、ゴム状重合体不含)を用いた。
【0089】
【表1】

【0090】
(実施例1)
[基材フィルムの製造]
製造例1で得られたアクリル系グラフト重合体100部に対し、架橋樹脂粒子として架橋アクリル系重合体GM−0401S(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径4μm)を1部、紫外線吸収剤としてチヌビン234(チバスペシャルケミカル社製)0.2部を混合し、90mmφ単軸ベント式押出機を用い、260℃の樹脂温度にて溶融混練を行い、押出ペレットを得た。
得られたペレットを、Tダイ付き105mmφ押出機を用いて、スクリーンメッシュに400メッシュを使用し、ダイス温度240℃にて押出成形し、その両面を弾性金属ロールに接触させ(金属ロールの温度:一方を90℃、他方を60℃に設定)、75μmのフィルムを成形した。
[コーティング層の積層]
得られたフィルムに、フッ素系熱硬化性樹脂(関東電化工業(株)製、エフクリアKD200)およびイソシアネート系硬化剤(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュールZ4470BA)を含む溶液中にシリカ微粒子(日本板硝子(株)製、質量平均粒子径5μm )を5%の濃度で分散混合することによって作製したコーティング用組成物を、グラビアコーターを用いて塗布し、85℃にて40秒間乾燥した後、40℃にて3日間エージングを行い、膜厚1.5μmのコーティング層を作製した。
作製した積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0091】
(実施例2〜3)
基体フィルムにおける架橋樹脂粒子の含有量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
作製した積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0092】
(実施例4)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0093】
(実施例5〜7)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例1で得られた重合体および製造例3の重合体を表2に示した比率にて混合したものに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0094】
(実施例8)
基体フィルムにおける架橋樹脂粒子種および含有量を、架橋アクリル系重合体GM0630H(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径6μm)6部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
作成した積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0095】
(実施例9)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例8と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0096】
(実施例10)
基体フィルムにおける架橋樹脂粒子種および含有量を、架橋アクリル系重合体GM0806H(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径8μm)6部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
作成した積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0097】
(実施例11)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例10と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0098】
(実施例12)
基体フィルムにおける架橋樹脂粒子種および含有量を、架橋アクリル系重合体GB10S(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径10μm)6部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
作成した積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0099】
(実施例13)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例12と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0100】
(実施例14)
基体フィルムの架橋樹脂粒子種および含有量を、架橋アクリル系重合体GM2020S(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径20μm)6部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0101】
(実施例15)
基体フィルムの樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例14と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0102】
(実施例16)
基体フィルムの架橋樹脂粒子種を、架橋アクリル系重合体GBM55(ガンツ化成(株)製、重量平均粒子径8μm)に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムを用いて種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0103】
(実施例17〜18)
基体フィルムの架橋樹脂粒子の含有量を表2のように変更した以外は、実施例16と同様に、表2に示す処方でフィルムを得た。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0104】
(実施例19)
基体フィルムの樹脂種を、製造例2で得られた重合体に変更した以外は、実施例16と同様に、表2に示す処方でフィルムを得た。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0105】
(実施例20〜21)
基材フィルムにおける樹脂種を、製造例1で得られた重合体および製造例3の重合体を表2に示した比率にて混合したものに変更した以外は、実施例16と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0106】
(比較例1)
基材フィルムにおいて、架橋樹脂粒子を含有させなかった以外は、実施例1と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0107】
(比較例2)
基材フィルムにおいて、架橋樹脂粒子を含有させなかった以外は、実施例4と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0108】
(比較例3)
基材フィルムにおいて、架橋樹脂粒子を含有させなかった以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを作製した。
得られたフィルムを用い、種々の物性を評価した。結果を表2に示した。
【0109】
(比較例4)
基体フィルムにおける架橋樹脂粒子の含有量を、30重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、基材フィルムを作製しようとしたが、フィルムの延伸性が悪く、ダイスリップ部へのブリードアウト物が多量に発生し、フィルムが脆くなったことによりフィルム化できなかった。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に示す結果から、前記基体フィルムの一方の面に形成された艶消しコーティング層からなり、前記基体フィルムが、架橋樹脂粒子を0.5〜25重量部含むアクリル系樹脂フィルムからなる積層フィルムのコーティング後の表面外観が改善され、傷付け試験後の表面外観も改善されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の艶消し積層フィルムは、自動車の内装用部材、外装用部材、家電製品外装部材、携帯電話外装部材、及びバスユニット等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体フィルムおよび、前記基体フィルムの一方の面に形成された艶消しコーティング層からなる艶消し積層フィルムであって、
前記基体フィルムが、樹脂組成物(C)100重量部に対して架橋樹脂粒子を0.5〜25重量部含むアクリル系樹脂フィルムであることを特徴とする艶消し積層フィルム。
【請求項2】
前記基体フィルムの表面粗さ(Ra)が0.2〜1.0μmであることを特徴とする、請求項1記載の積層フィルム
【請求項3】
前記基体フィルムに含まれる架橋樹脂粒子の重量平均粒子径が0.5〜10μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の艶消し積層フィルム。
【請求項4】
前記架橋樹脂粒子が架橋アクリル系重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項5】
前記基体フィルムを成形するに際し、Tダイ法により溶融状態の前記基体樹脂の片面を金属ロールまたは金属ベルトに接触させ、反対の面を金属ロール、金属ベルト、ゴムロール、金属スリーブ付きゴムロール、PET系樹脂よりなる群から選ばれる1種に接触させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項6】
前記基体フィルムが、アクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含有するアクリル系樹脂組成物を成形されてなるアクリル系樹脂フィルムであることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項7】
前記アクリル系樹脂組成物が、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなる樹脂組成物(C)に、架橋アクリル系重合体が配合され、かつ、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径が50〜200nmであることを特徴とする、請求項6に記載の艶消し積層フィルム。
【請求項8】
前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径d(nm)および前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤の量w(重量%)が下記の関係式を満たし、
0.03d≦w≦0.06d
かつ、前記樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2〜0.8dl/gであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項9】
前記基体フィルムの厚みが30〜400μmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項10】
前記基体フィルムのコーティング層積層面と反対の面に印刷層を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の艶消し積層フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の艶消し積層フィルムを積層してなることを特徴とする、艶消し積層成形品。

【公開番号】特開2009−56770(P2009−56770A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227884(P2007−227884)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】