説明

コーティング液

【課題】本発明は、二酸化チタンの沈殿が生じない安定な可食性コーティング液、及び高い皮膜強度と均一な着色のコーティング物を提供することを目的とする。
【解決手段】
還元パラチノース3〜25重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜20重量%、二酸化チタン、及び含水量が5〜30重量%である含水エタノールを含有する系において、還元パラチノースを個体粒子として分散させてコーティング液を製造する。本発明のコーティング液は二酸化チタンの沈殿が生じず、高い皮膜強度と均一な着色のコーティング物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や食品等に用いるコーティング液、及び当該コーティング液を用いて表面を被覆したコーティング物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の錠剤やガム、チョコレート等の食品においては、可食性の芯材の色を隠蔽して商品価値を高めるべく、着色フィルムコーティングが施される場合が多い。日本では白色又は明度の高い着色が好まれる傾向があり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を皮膜剤、白色顔料として二酸化チタンを用いたコーティング液が一般に用いられている。
【0003】
二酸化チタンは高い屈折率を有し、隠蔽力の優れた白色顔料であるが、比重が高いので分散液において沈降しやすい。この為、二酸化チタンを配合したコーティング液は、作業中や保存中に二酸化チタンが沈降し、着色が不均一になるという問題がある。
【0004】
係る問題を解決すべく、二酸化チタン等の無機微粒子の水系分散相において、合成ハイドロタルサイト類似化合物を添加する方法が提案されている(特許文献1)。
しかし、合成ハイドロタルサイト類似化合物は、ホウ素やニッケル等からなる化合物の為、安全性の観点から医薬品や食品には使用できない。
【0005】
又、二酸化チタンを含有する多糖類フィルムの製造において、多糖類溶液に大豆レシチン等の乳化剤を添加する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、この方法は二酸化チタンの分散を改良できるが、その沈降は防止できない。
【0006】
従来、着色フィルムコーティングの皮膜剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースが主に用いられてきた。近年、ヒドロキシプロピルメチルセルロースより透湿性の小さいヒドロキシプロピルセルロースが注目され、医薬品のみならず食品の添加物としても認可されている。しかし、ヒドロキシプロピルセルロースは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースより皮膜強度が弱いという欠点を有している。
【0007】
二酸化チタン、ヒドロキシプロピルセルロース、及び還元パラチノースを含有するコーティング液による、板ガムのコーティング方法も開示されている(特許文献3)。しかし、還元パラチノースは極めて水に溶解しにくい糖アルコールであり、微妙な温度変化で急激に結晶が析出する性質を有する。
従って、水溶液で使用するとコーティング工程において還元パラチノースの結晶化の速度を任意に制御することができず、又、室温で放置すると還元パラチノースの結晶が成長して結晶粒子の大きさがバラつき、最終製品の表面に大きな凸凹が生じて外観が著しく悪くなる虞がある。更に、水に溶解した還元パラチノースは、二酸化チタンの沈降を防止する効果がなく、着色が不均一になるという問題は解決できない。
【0008】
【特許文献1】特開第2008−201984号公報
【特許文献2】特開平5−146271号公報
【特許文献3】国際公開第97/08958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コーティング工程において二酸化チタンの沈殿が生じない安定な可食性コーティング液、及び高い皮膜強度と均一な着色のコーティング物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、還元パラチノース、ヒドロキシプロピルセルロース、二酸化チタン、及び含水エタノールを含有する系において、還元パラチノースを固体粒子として分散することにより、安定なコーティング液と外観の良好なコーティング物が得られること見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係る還元パラチノースとは、パラチノースの水素添加により得られる二糖類糖アルコールで、α−glucopyranosyl−1,6−D−sorbitolとα−glucopyranosyl−1,6−D−mannitolの等モル混合物である。
還元パラチノースは低カロリーであり、耐吸湿性、耐熱性、及び耐酸性に優れ、さわやかな甘味を有する為、医薬品や食品原料としてきわめて有用である。反面、糖アルコール中で最も水に溶けにくく、溶解度が温度により急激に変化する為、従来のコーティング液の調製方法では結晶化を制御しにくいという欠点がある。
【0012】
本発明のコーティング液における還元パラチノースの配合量は3〜25重量%、好ましくは3〜20重量%である。固体粒子の還元パラチノースは、コーティング液中で分散させる必要がある為、その粒子径は小さいほうが望ましい。具体的には150μm以下が好ましく、特に好ましくは100μm以下である。
【0013】
本発明に係るヒドロキシプロピルセルロースとは、セルロースにプロピレンオキサイド等を反応させて得られる非イオン性のセルロースエーテルである。我が国においては医薬品と食品に使用が認められており、錠剤の皮膜剤や結合剤、シロップの安定剤、ゼリーの基材等に用いられている。
【0014】
ヒドロキシプロピルセルロースは、重合度や置換度の異なるものが各種市販されており、必要に応じて適宜選択して用いることができる。ヒドロキシプロピルセルロースの配合量は0.1〜20重量%、より好ましくは1〜16重量%である。
【0015】
二酸化チタンはルチル型及びアナターゼ型の何れも使用できるが、本発明のコーティング液は経口摂取するものに用いる為、医薬品又は食品に使用が認められている高純度品を用いるのが望ましい。
【0016】
二酸化チタンの配合量は、コーティングする芯材の色調や最終製品の外観色等によって適宜調整するが、多くの場合0.1〜10重量%程度である。又、二酸化チタンの粒子径は特に限定されないが、隠蔽力を考慮すると0.2〜0.4μm程度の粒子径が好ましい。
【0017】
本発明に係るコーティング液には含水エタノールを用いる。含水エタノール中の水分量は5〜30重量%である。尚、含水エタノールの配合量は、還元パラチノース、ヒドロキシプロピルセルロース、二酸化チタン、及びその他成分の配合量により適宜調整する。
【0018】
本発明に係るコーティング液には、必要に応じて他の成分を配合することもできる。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、シェラック、及びツェイン等の皮膜剤、オレイン酸、大豆脂肪酸、グリセリン、プロピレングリコール等の可塑剤、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール、及び還元デンプン糖化物等の糖アルコール、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、及びタルク等の顔料、各種タール系色素、コチニール色素、カラメル色素、及びカカオ色素等の色素、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、及びソーマチン等の甘味料、ハッカ油、ケイヒ油、オレンジ油、及びレモン油等の香料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン等の界面活性剤、アスコルビン酸、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、及びトコフェロール等のビタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、グリシン、グルタミン等のアミノ酸等である。
【0019】
本発明に係るコーティング液は、ヒドロキシプロピルセルロース、還元パラチノース、及び二酸化チタンを含有する含水エタノールにおいて、個体粒子の還元パラチノースと二酸化チタンを分散させることにより製造することができる。
還元パラチノースをハンマーミル、ピンミル等で粉砕して微粉末としたものを、ヒドロキシプロピルセルロースが溶解した含水エタノールに加えて二酸化チタンと共に攪拌分散する方法、還元パラチノースと二酸化チタンをヒドロキシプロピルセルロースが溶解した含水エタノールに加えてホモミキサー、コロイドミル、ハイスピードミキサー、サンドミル等で粉砕分散する方法等、既存の分散方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコーティング液は、二酸化チタンが均一に分散し、常温に静置しても二酸化チタンの沈殿が生じない。又、当該コーティング液を用いると皮膜強度が高く、均一な着色のコーティング物を得ることができる。
本発明のコーティング液において二酸化チタンの沈殿が生じない理由は定かではないが、還元パラチノースの固体粒子同士が含水エタノール中で緩やかな三次元構造を形成し、二酸化チタンの沈降を抑制していると推定される。
尚、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、及びキシリトール等の他の糖アルコールは、含水エタノールに溶解しやすく、固体粒子として分散しても直ちに沈降するので、二酸化チタンの沈降を防止することはできない。
【実施例】
【0021】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1〜5)
ヒドロキシプロピルセルロース4重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース3〜25重量%、含水量が15重量%の含水エタノール70〜92重量%の範囲において、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解した50℃の含水エタノールに還元パラチノース及び二酸化チタンを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間撹拌して実施例1〜5のコーティング液を200g調製した。
【0023】
同様の方法で、ヒドロキシプロピルセルロース4重量%、二酸化チタン1重量%、及び含水量が15重量%の含水エタノールを95重量%含有する比較例1、ヒドロキシプロピルセルロース4重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース1重量%、及び含水量が15重量%の含水エタノールを94重量%含有する比較例2、並びにヒドロキシプロピルセルロース4重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース33重量%、及び含水量が15重量%の含水エタノールを62重量%含有する比較例3のコーティング液を200g調製した。
【0024】
各コーティング液の組成、二酸化チタンの沈殿の有無、皮膜硬度、及びコーティング液の流動性を表1に示す。沈殿は、コーティング液を室温にて2時間静置した状態を目視で観察した。皮膜は、各コーティング液を厚さ200μmのドクターブレードを用いて薄膜とし、室温で24時間自然乾燥して作成した。皮膜硬度はJIS鉛筆引っかき試験で判定し、皮膜に傷がつかない最も硬い鉛筆の硬度を皮膜硬度とした。
【0025】
比較例1及び2のコーティング液は、室温で2時間静置すると二酸化チタンの沈殿が認められた。比較例3のコーティング液は流動性が悪く、コーティング液としては不適格であった。又、還元パラチノースを含有しない比較例1の皮膜は、硬度が低いものであった。
【0026】
これに対し、還元パラチノースの含有量が3〜25重量%である実施例1〜5のコーティング液は、二酸化チタンの沈殿が無く、皮膜硬度及びコーティング液の流動性が良好であった。特に、還元パラチノースの含有量が3〜20重量%である実施例1〜4のコーティング液は、皮膜硬度及びコーティング液の流動性に優れていた。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例6〜9)
ヒドロキシプロピルセルロース8重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース5重量%、含水量が5〜30重量%の含水エタノール86重量%の範囲において、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解した50℃の含水エタノールに還元パラチノース及び二酸化チタンを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間撹拌して実施例6〜9のコーティング液を200g調製した。
【0029】
ヒドロキシプロピルセルロース、二酸化チタン、及び還元パラチノースを同量とし、同様の方法で、水を含まないエタノール及び含水量が35重量%である含水エタノールを86重量%用いて比較例4及び5のコーティング液を200g調製した。
【0030】
各コーティング液の組成、二酸化チタンの沈殿の有無、皮膜硬度を表2に示す。比較例4及び5のコーティング液は、室温で2時間静置すると二酸化チタンの沈殿が認められた。これに対し、含水エタノールの含水量が5〜30重量%である実施例6〜9のコーティング液は二酸化チタンの沈殿が無く、皮膜硬度も良好であった。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例10〜14)
ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜20重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース5重量%、含水量が15重量%の含水エタノール74〜93.9重量%の範囲において、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解した50℃の含水エタノールに還元パラチノース及び二酸化チタンを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間撹拌して実施例10〜14のコーティング液を200g調製した。
【0033】
同様の方法で、ヒドロキシプロピルセルロース30重量%、二酸化チタン1重量%、還元パラチノース5重量%、含水量が15重量%の含水エタノール64重量%の比較例6のコーティング液を200g調製した。
【0034】
各コーティング液の組成、二酸化チタンの沈殿の有無、皮膜硬度、及びコーティング液の流動性を表3に示す。比較例6のコーティング液は流動性が悪く、コーティング液としては不適格であった。
【0035】
これに対し、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が0.1〜20重量%の実施例10〜14のコーティング液は、二酸化チタンの沈殿が無く、皮膜硬度、及びコーティング液の流動性の何れにおいても良好であった。特に、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が1〜16重量%の実施例11〜14のコーティング液は、皮膜硬度及びコーティング液の流動性が優れていた。
【0036】
【表3】

【0037】
(実施例15及び16)
ヒドロキシプロピルセルロース8重量%、二酸化チタン0.5重量%、還元パラチノース5重量%、含水量が20重量%の含水エタノール86.5重量%の組成において、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解した50℃の含水エタノールに還元パラチノース及び二酸化チタンを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間撹拌し、140メッシュ(目開き106μm)で篩過して実施例15のコーティング液を200g調製した。得られたコーティング液は、室温で2時間静置しても二酸化チタンの沈殿は認められなかった。
【0038】
ヒドロキシプロピルセルロース8重量%、二酸化チタン0.5重量%、含水量が20重量%の含水エタノール91.5重量%の組成において、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解した50℃の含水エタノールに二酸化チタンを加え、ホモミキサーで回転数5000rpm5分間撹拌し、140メッシュ(目開き106μm)で篩過して比較例7のコーティング液を200g調製した。得られたコーティング液は、室温で2時間静置すると二酸化チタンの沈殿が認められた。
【0039】
実施例15及び比較例7のコーティング液を用いて錠剤をコーティングし、実施例16及び比較例8のコーティング錠を作成してその外観及び落下強度を比較した。
落下強度は、直径1.5cm、長さ100cmのアクリル管を厚さ5mmの鉄板上に垂直に設置し、コーティング錠を円筒上部から鉄板上に落下させる試験により判定した。実施例16及び比較例8のコーティング錠各10錠について各5回ずつ落下し、皮膜の剥離の有無を目視にて観察した。
用いた錠剤の処方及びコーティング条件を以下に、得られたコーティング錠のコーティング量及び落下強度等を表4に示す。
【0040】
錠剤
[処方] 配合量(重量%)
(1)霊芝エキス 20.0
(2)還元パラチノース 50.0
(3)コーンスターチ 29.0
(4)ステアリン酸マグネシウム 1.0
[製造方法]成分1〜3を混合して造粒し、成分4を加えて混合した後、打錠機で成形して300mg/錠、直径9mm、錠厚4.5mmの錠剤を得る。
【0041】
コーティング条件
(1)コーティングパン :直径15cm
(2)錠剤仕込み量 :50g
(3)コーティング方法 :噴霧
(4)パン回転数 :50rpm
(5)送風温度 :60℃
【0042】
比較例8のコーティング錠は、二酸化チタンによる白色の被覆が弱く、下地色が浮き出ていた。又、落下試験において皮膜の剥離が見られた。一方、実施例16のコーティング錠は白色で均一に被覆され、落下試験においても皮膜の剥離は認められなかった。
【0043】
【表4】

【0044】
以上のように、本発明に係るコーティング液は、静置しても比較例のように二酸化チタンの沈殿が生じず、又、高い皮膜強度の均一な着色のコーティング物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元パラチノース3〜25重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜20重量%、二酸化チタン、及び含水量が5〜30重量%である含水エタノールを含有する可食性コーティング液において、還元パラチノースが固体粒子として分散していることを特徴とする可食性コーティング液。
【請求項2】
還元パラチノースが3〜20重量、ヒドロキシプロピルセルロースが1〜16重量%である請求項1記載の可食性コーティング液。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載の可食性コーティング液で被覆されたコーティング物。
【請求項4】
還元パラチノース3〜25重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜20重量%、二酸化チタン、及び含水量が5〜30重量%である含水エタノールを含有する可食性コーティング液において、還元パラチノースを個体粒子として分散させることを特徴とする可食性コーティング液の製造方法。

【公開番号】特開2011−190417(P2011−190417A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60040(P2010−60040)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】