説明

コーティング溶液の作製並びに制作物

カチオン界面活性剤を含むマイクロエマルションを用いた加水分解反応を介して吸湿性前駆体溶液から製造され、場合によっては金属有機CSD−溶液を、酸化金属に対して50%未満の割合で混合した濃縮酸化ナノ粒子分散液から構成される緻密なメソスコープのセラミックス膜を作製するためのコーティング溶液。混合されたCSD−溶液の課題は、そのために必要な焼結温度も下げ、ナノスケールの不均質性またはドーピングを有する別の金属を組み合わせたセラミックス複合膜を使用することによっても生じ、密度も増大させることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に緻密なセラミックス膜を得るためのコーティング用溶液の作製方法並びにその制作物に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロセラミックス薄膜の、コンデンサを超小型化するためのマイクロエレクトロニクス、メモリビルディングブロック(DRAM、FRAM)およびマイクロ波共振器への使用が増えている。この超小型化傾向は、これまでは膜厚約1〜100μmの「テープキャスティング(Tape Casting)」(箔引き抜き法)などの典型的な厚膜法で作製されてきた離散的多層コンデンサ(MLCC)などでも見られる。コンデンサのこの方式は、例えばチタン酸バリウムから成るセラミックス誘電膜と、交互に接合されたニッケルまたはパラジウムなどから成る金属電極膜とが、順に並んだ層により構成される。これまでに達成された、チタン酸バリウムから成る誘電体の膜厚下限値は、1μmの範囲で上下している。
【0003】
典型的な膜膜および厚膜間の範囲の膜厚を、約50nmから1μmのメソスコープ的な膜厚範囲へさらに減少させることは、追加の費用を要する。これは、特別な方法ではコア・シェル(Core−Shell)構造を有する所謂X7R−材料に関する(X7R:EIA、Electronic Industry Association規定)。この材料では、−55℃から125℃の温度範囲で−15%から+15%のεrの温度係数(Δεmax/εr(25℃))において、粒子内部に強誘電核(「コア」)が存在するために誘電率εrの高い値(例えばεr(25℃)≒3000)が生じ、これは、誘電表面層(「シェル」)を有する構造の非均質性の結果である。0.8〜1μm未満の範囲への、さらなる膜厚減少が要求される場合には、約100nmの小さい粒子の必要なコーティングは特に困難である。現在0.8μmの最も薄い膜が、日本のムラタにより作製されている。使用された100nm直径のチタン酸バリウム粒子は、日本のNCIにより製造されている。
【0004】
これまでの膜厚の減少以外に、誘電特性の温度安定性を保証することは、特別な挑戦である。しかしながら誘電率の、異なる温度経過を有する2つの相が、ナノメートルスケールで並んで存在している(ナノスケール非均質性)ナノ複合体を合目的に製造することによって、この要求を満たすことができるであろう。他方チタン酸バリウム(BT)製の機能性セラミックス薄膜(約3nmから300nm)は、その高い誘電率、その小さい誘電損およびその小さい漏れ電流のために、同時に長期的に安定な場合には好ましい材料であり、異なる方法によって非常に良好な品質で作製されている。R.W.シュバルツ(Schwartz),T.シュネラー(Schneller),およびR.ヴァーゼル(Waser)著、「電子酸化膜の化学溶解沈殿(Chemical Solution Deposition of Electronic Oxide Films)」、シー・アール・チミー(C.R.Chimie)7巻、2004年、p.433-461などから知られている、湿式化学の所謂「化学溶解沈殿(Chemical Solution Deposition)」(CSD)法は、その場合に、化学量論および比較的少ない投資費用に関して高いフレキシビリティを有することなど幾つかの長所を有する。目標とするメソスコープ的な範囲内に進出するためには、スラリー中の粒径を小さくすることによるテープキャスティング(Tape Casting)法での、非常に労を要する膜厚のさらなる減少以外に、CSD−法の使用が原理的には考えられる。後者は、文献R.ヴァーゼル(Waser),T.シュネラー(Schneller),S.ホフマン・エルフェルト(Hoffmann−Elfert),P.エールハルト(Ehrhart)著、「上級化学析出技術−調査から製造まで(Advanced Chemical Deposition Techniques−from Research to Production)」、集積強誘電体(Integrated Ferroelectrics)36巻、2001年、p.3-20から分かるように、ゾル・ゲルプロセスおよび有機金属析出(MOD)として知られている全ての方法を含む。その場合に反応方法は、分子前駆体を化学修飾することによって、2つの極端な事例である「ゾル・ゲル」および「MOD」間の広い限界内に調整することができる。
【0005】
先にすでに記述された長所以外に、CSD−法は他の方法に比較して、比較的小さい労力で大面積を被覆できるという長所を有する。その場合に比較的厚い膜の作製は、一方ではコーティング工程数を明確に増やすことによって達せられるが、これは比較的労を要し〔C.A.オーリー(Ohly)著、「ナノ結晶チタン酸アルカリ土類および酸素環境を変化させた、その電気伝導性(Nanoncrystalline Alkaline Earth Titanates and their Electrical Conductivity Characteristics under Changing Oxygen Ambients)」、IWE論文(Dissertation am IWE)、RWTHアーヘン、D82、2003年;J.バーボロスキ(Baborowski),P.ミューラルト(Muralt),N.リーダーマン(Ledermann),S.プチグランド(Petitgrand),A.ボセビーフ(Bosseboeuf),N.セッター(Setter),Ph.ゴーシェ(Gaucher)著、「微細機械超音波変換器用PZT被膜構造(PZT Coated Membrane Structures for Micromachined Ultrasonic Transducers)」、ISAF2002年、第13回強誘電体の利用のIEEE国際シンポジウム会報、奈良、日本、2002年5月28日〜6月1日*ピスカータウェー,ニュージャージー、USA、IEEE、2002年、p.483-486参照〕、他方では前駆溶液(抽出物および粘度上昇溶媒)を化学修飾することによって達せられる。
【0006】
化学修飾CSD−法は、超音波変換器およびその他の電子機械適用のための、Pb(Zrx,Ti1x)O3(PZT)などの鉛ベース系上に、比較的厚い圧電性セラミックス膜を作製するためにも使用される。
【0007】
そのようにして、例えば1,2−エチレンジオール〔G.イー(Yi),Z.ウー(Wu),M.セイヤー(Sayer)著、「ゾル・ゲルプロセスによるPb(Zr,Ti)O3薄膜の作製;電気的、光学的および電子光学的物性(Preparation of Pb(Zr,Ti)O3 thin films by sol gel processing;Electrical,optical,and electro−optical properties)」、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス64巻、2005年、p.2717-2724参照〕または1,3−プロパンジオール〔Y.L.ツー(Tu),S.J.ミルン(Milne)著、「エアー安定ゾル・ゲルルートにより作製されたフィルムの単層PZT(53/47)の特性(Characterization of single layer PZT(53/47)films prepared from an air−stable sol−gel route)」、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ10巻、1995年、p.3222-3231参照〕などの多価アルコールを、通常使用される単純アルコールに置き換えることによって、1コーティング工程当たり1μmほどの比較的厚い膜を原理的に作製することができる。膜内の焼結有機物の含有量が比較的高いことによって、セラミックス膜の機能性の制限に結びつく比較的高い多孔性がしばしば見られる。さらに亀裂形成に注意しなければならない。
【0008】
その種の溶液を用いた多層コーティングによって、10μmまでの厚みの膜が得られる〔R.クルチャニア(Kurchania),S.J.ミルン(Milne)著、「0.25〜10μmの厚み範囲のゾル・ゲルPb(Zr0.53Ti0.47)O3膜の特性(Characterization of sol−gel Pb(Zr0.53Ti0.47)O3 films in the thickness range 0.25−10μm)」、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ14巻、1999年、p.1852-1858参照〕。主に使用されてきた白金メッキしたシリコン基板以外に、先に挙げられた膜厚範囲のPZT膜は、ハステロイ−金属薄板〔S.ゼルフェルト(Selfert),D.スポルン(Sporn),T.ハウケ(Hauke),G.ミュラー(Mueller),H.ベルゲ(Belge)著、「金属基板上のゾル・ゲル作製PZT薄膜の誘電性および電子機械性(Dielectric and electromecanical properties of sol−gel prepared PZT thin films on metallic substrates)」、ジャーナル・オブ・ジ・ヨーロピアン・セラミック・ソサイアティ24巻、2004年、p.2553-2566参照〕などの比較的安価な卑金属基板上にも塗布された。銅箔上には、さらにドーピング有りまたは無しのPZT膜が0.8〜1.2μmの厚み範囲で置かれた〔T.キム(Kim),A.I.クリンゴン(Klngon),J.−P−マリア(Maria),R.T.クロスウェル(Croswell)著、「銅箔上のニッケルをベースにしたCaドープされたチタン酸ジルコン酸鉛薄膜コンデンサ(Ca−doped lead zirconate titanate thin film capacitors on base nickel on copper foil)」、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ19巻、2004年、p.2841-2848参照〕。
【0009】
チタン酸アルカリ土類膜(SrTiO3,BaTiO3ないし相当する混合結晶)に関しては、同じくニッケル〔R.J.オング(Ong),J.T.ドーレイ(Dawley),P.G.クレム(Clem)著、「〈100〉Ni上の二軸配向[Ba,Sr]TiO3薄膜の化学溶液析出(Chemical solution deposition of biaxially oriented [Ba,Sr]TiO3thin films on〈100〉Ni)」、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ18巻、2003年、p.2310-2317参照〕および銅電極〔J.F.イーレフェルト(Ihlefeld),A.I.クリンゴン(Klngon),W.ボアラント(Borland),J.−P.マリア(Maria)著、「埋め込まれた受動成分用誘電体のCu適合超高誘電率(Cu−compatible ultra−high permittivity dielectrics for embedded passive components)」、マテリアルズ・リサーチ・ソサイアティ・シンポジウム・プロシーディングス783巻、2004年、p.145-150参照〕上へのいくらかの作業が知られている。もっともこの場合に達成された膜厚(0.3〜1.2μm)は、大抵相当する多層コーティング〔J.T.ドーレイ(Dawley),P.G.クレム(Clem)著、「〈100〉ニッケルテープ上に作られた〈100〉にランダムに配向されたSrTiO3および[Ba,Sr]TiO3薄膜の誘電性(Dielectric properties of random an〈100〉oriented SrTiO3 and [Ba,Sr]TiO3 thin films fabricated on〈100〉nickel tapes)」、アプライド・フィジクス・レター81巻、2002年、p.3028-3030−0.8μm用8コーティングで報告〕によって得られる。ニッケル上のCSDに関する主な研究は、その場合YBa2Cu37-δ(YBCO)から成る高温超伝導体の第二世代、所謂「コーティングコンダクタ(coated conductors)」を作製するための、出来るだけ高い特殊加工緩衝膜に関する〔F.F.ランゲ(Lange)著、「化学溶液析出法による超伝導体エピタクシーの微細構造および機構(Microstructure and mechanics of superconductor epitaxy via the chemical solution deposition method)」、米国エネルギー省(U.S.Departments of Energy)の会議「電気系統に関する超伝導性2004年次論文審査(Superconductivity for Electric Systems 2004 Annual PeerReview)」における講演;C.ピタン(Pithan),D.ヘニングス(Hennings),R.ヴァーゼル(Waser)著、「MCLL用ナノ結晶BaTiO3粉末合成における進歩(Progress in the Synthesis of Nano−crystalline BaTiO3 Powders for MCLL)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・アプライド・セラミック・テクノロジー2巻、2005年、p.1-14;S.ホフマン(Hoffmann)およびR.ヴァーゼル(Waser)著、「CSD作製[Ba,Sr]TiO3薄膜の形態制御(Control of the morphology of CSD−prepared [Ba,Sr]TiO3 thin films)」、ジャーナル・オブ・ジ・ヨーロピアン・セラミック・ソサイアティ19巻、1999年、p.1339;T.ケイダノバ(Kaydanova),A.ミーダネル(Miedaner),C.カーティス(Curtis),J.アレマン(Alleman),J.D.パーキンズ(Perkins),D.S.ギンレイ(Ginley),L.センギュプタ(Sengupta),X.チャン(Zhang),S.ヒー(He),L.チュー(Chiu)著、「チタン酸バリウムストロンチウム複合薄膜の直接インクジェット印刷(Direct inkjet printing of composite thin barium strontium titanate films)」、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ18巻、2003年、p.2820;C.カーティス(Curtis),T.リブキン(Rivkin),A.ミーダネル(Miedaner),J.アレマン(Alleman),J.パーキンズ(Perkins),L.スミス(Smith),D.ギンレイ(Ginley)著、「直接書込インクジェット印刷における金属被覆(Metallizations by direct−write inkjet printing)」、プロシーディングス・NCPV・プログラム・リバイズド・ミーティング、レークウッド、CO、2001年、CD ROM参照〕。
【0010】
総じて考えると、半貴金属上へ複合酸化金属膜を作製することで、例えばシートバー上の異なる位置の間に埋め込まれたコンデンサ、所謂「印刷配線盤(printed wiring boards)」(PWB)などの様々な応用に対する興味が増大する。
【0011】
この電極材料をコーティングする場合に、入念に調整すべきパラメータは、常に酸素分圧である。これを高く調整し過ぎると、半貴金属のCuまたはNiが酸化することになり、一方酸素分圧を低くし過ぎると、酸化セラミックス膜の品質が損なわれる。古典的なCSD法以外に、セラミックス薄膜またはメソスコープ薄膜は、米国特許出願公開第2005/0194573号などから知られているように、基本的には100nm未満の分散一次粒径を有する複合ナノ粒子に相当するコロイド溶液を用いても作製することができる。
【0012】
そのような分散液ないしコロイド溶液は、原理的には一連の様々な方法によって製造することができる。非常にエネルギーと費用を要する方法は、例えば高性能粉砕機を用いる、所謂混合酸化物プロセス〔C.ピタン(Pithan),D.ヘニングス(Hennings),R.ヴァーゼル(Waser)著、「MCLL用ナノ結晶BaTiO3粉末合成における進歩(Progress in the Synthesis of Nano−crystalline BaTiO3 Powders for MCLL)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・アプライド・セラミック・テクノロジー2巻、2005年、p.1-14参照〕にしたがって、有機分散媒使用下で得られる粒の粗い(>1μm)酸化セラミックス粉末の粉砕である。例えば高性能撹拌機または高性能粉砕機を用いる熱水ないしオキサレート法にしたがって、同じく有機安定剤添加下でのナノ粉末凝集体の再分散も知られている。この2つの方法では、通常その一次粒子が滅多に50nmより小さくはならない多分散粒度分布を有する懸濁液が得られる。そのような溶液を用いて、マイクロメートル範囲の膜厚のみ有する、使用可能な機能性セラミックス厚膜を作製することができる。
【0013】
しかしながら、50〜1000nmの範囲の調整可能な膜厚を有するメソスコープのセラミックス膜を製造するためには、例えばマイクロエマルションの使用下で吸湿性前駆体を加水分解することによって得られるような、狭い粒度分布と、少なくとも50nm未満、特に好ましくは10nm未満の平均一次粒径を有するコロイド溶液が必要となる。マイクロエマルションとは、透明な、光学等方性の熱力学的に安定な液体−液体分散液である。マイクロエマルションは、典型的には<100nmの液滴またはドメインを有し、極性および無極性溶媒、典型的には水または油含有水性溶液から構成される。マイクロエマルションは、界面活性剤を添加することによって安定化し、この界面活性剤は、その両親媒性の性質(構造;親水基の頭の基に親油性CH−鎖)に基づいて、極性および無極性溶媒間の界面に有利に吸着し、その際界面張力を低下させる。形成されたナノドメインの大きさは、マイクロエマルションの組成以外に、温度および分離される界面活性フィルムの弾性の性質に関連する。それぞれ油と水の相対比率によって3つの型のマイクロエマルションに分けられ、それらは、低い油の含有量のオイル・イン・ウォーター・マイクロエマルション(o/w−マイクロエマルション)、ほぼ等しい割合の水と油の場合の両連続マイクロエマルション、並びに高い油含有量のウォーター・イン・オイル・マイクロエマルション(w/o−マイクロエマルション)である。異なる型の間の境界は流動的であり、系に関係する。オイルマティックス中に分散している、典型的には<50nmの球形ナノスコープの含水逆ミセルを含むw/o−マイクロエマルションの特殊な場合には、この水性液滴は、セラミックスナノ粒子合成の際に吸湿性化合物を加水分解するためのナノ反応器として働く。しかしながら海綿状構造を有し、その中に水がすでに連続媒体として存在する両連続マイクロエマルションもナノ粒子を合成するために使用できる。海綿構造の典型的な大きさは、100nmの範囲にある。
【0014】
そのような隔離された極小空間(ナノ反応器)内に反応を限定することによって、生じる球状ナノ粒子の核生成率を調整することができるので、50nm未満の粒径を有する単分散粒度分布が得られる。
【0015】
例えばチタン酸バリウム・ナノ粒子を製造しようとする場合に、必要な吸湿性バリウム−チタン前駆体は、遊離バリウムをアルコールに溶解させ、化学量論的な量のチタンアルコラートを相応に添加することによって容易に生じ得る。その場合に生じた金属アルコラート分子は、マイクロエマルション液滴の水と反応し、その際チタン酸バリウム粒子が生じ、有機分子の残りがアルコールとして分離される。
【0016】
化学量論的な量の水を添加後に、まず最初に無水分散液、則ちオルガノゾルが得られ、この分散液のナノ粒子は20nm未満の直径を、しかしながらそれどころか10nm未満の直径をも有し、界面活性剤分子から成る覆いで囲まれている。この有機「被覆」は、ナノ粒子の溶液の性質の原因となっていて、使用されたマイクロエマルション中の界面活性剤の組成を選択することによって、一次構造面上に、ほぼ単分散粒度分布を有するほぼ無色透明の分散液が生じるように、溶媒の極性を適合させることができる。例外的な事例でこの適合が不可能な場合には、有機酸、アミンおよびケトンの形の分散媒をマイクロエマルション中または前駆体溶液中に添加することによっても溶媒中のナノ粒子のコロイド溶解性を上昇させることができる。
【0017】
適量の固体含有量の、則ち高含有量のセラミックスナノ粒子を有する分散液の提供に成功した場合には、この溶液を用いて、遠心回転ないし浸漬または吹き付けによるなどの通常の方法によって、1プロセス工程で、原理的にメソスコープの均質で亀裂のない、50nmから1μmの膜厚範囲のフィルムを作製することができる。もっともこれは従来の技術では不可能である。したがって米国特許出願第2005/0194573号による固体含有量は、0.2重量%でしかない。このコロイド溶液の、対応する流動学上の性質を、目的とするコーティングの厚さに適合させることは、従来の技術によると不可能である。
【0018】
従来技術にしたがって使用された溶液の粒子濃度は低いために、所望の膜厚に達するためには複数のコーティング工程が必要となる。そのことによってこのプロセスは、より労を要することになり、それによって費用がさらにかかる。米国特許出願公開第2005/0194573号から知られているように、1.5重量%の酸化ナノ粒子の最大質量比を有するコロイド溶液を使用する場合には、240nmの厚みの誘電膜を生成するために20コーティング工程までを必要とする。そこに記述されているコーティング分散液を製造するためには、同じくマイクロエマルションに依拠する合成が使用され、吸湿性前駆体溶液がマイクロエマルションに添加されたことで、その水滴がアニオンないし非イオン性界面活性剤によって安定化されたマイクロエマルションが用いられた。その場合に、最大1.5重量%の分散チタン酸バリウム−ナノ粒子の質量の割合と、0.11の、不揮発性有機成分(焼き鈍し有機物)に対する酸化ナノ粒子の質量比を有するコロイドコーティング分散液が生じた。
【0019】
C.ベック(Beck),W.ヘルティー(Haerti),R.ヘンペルマン(Hempelmann)著、「供給されたナノ反応器のマイクロエマルション中でゾル・ゲル型加水分解することによるナノ結晶BaTiO3のサイズ調整合成法(Size−Controlled Synthesis of Nano−crystalline BaTiO3 by a Sol−Gel Type Hydrolysis in Microemulsion Provided Nanoreactors)」ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ13巻、1998年、p.3174-3180から、非イオン性界面活性剤としてノニルフェノールエトキシラートを含み、且つ比較的高い水分含有量および比較的有利な水/界面活性剤比のマイクロエマルションを使用することによって、不揮発性有機物質に対する酸化物の比率が比較的有利なナノ粒子分散液が知られている。最も有利な場合には(テルギトールNP−7に関しては)、水/界面活性剤の質量比は1:1で、酸化物/界面活性剤の質量比は4:1である。
【0020】
米国特許出願公開第2005/0194573号、段落[0018]に、高過ぎる界面活性剤含有量の分散液は不安定であることが記述されている。米国特許出願公開第2005/0194573号の実施例に記述されている非イオン性界面活性剤NP−10は、(とりわけ)C.ベック(Beck),W.ヘルティー(Haerti),R.ヘンペルマン(Hempelmann)著、「供給されたナノ反応器のマイクロエマルション中でゾル・ゲル型加水分解することによるナノ結晶BaTiO3のサイズ調整合成法(Size−Controlled Synthesis of Nano−crystalline BaTiO3 by a Sol−Gel Type Hydrolysis in Microemulsion Provided Nanoreactors)」ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ13巻、1998年、p.3174-3180でもマイクロエマルションを形成するために使用された。したがって米国特許出願公開第2005/0194573号では、記述されている界面活性剤を用いて、酸化物/界面活性剤比が0.11より大きく、チタン酸バリウム−ナノ粒子含有量が1.5重量%より大きい、加工に対して十分に安定な分散液を製造することができなかった。
【0021】
この技術的な短所を取り除くために、米国特許出願公開第2005/0194573号から同じく、そのようなコーティング分散液中の金属の質量濃度を、相応に合成されたCSD−溶液を用いて上昇させることが知られている。実施したコーティング試験と、それに続く10分間の700℃での焼き戻しから、(チタン酸バリウム質量に対して)1部の分散液と1部のCSD−溶液の混合比では、240nmのチタン酸バリウム膜厚を生成するために10コーティング工程が必要であることが判明した。6コーティング工程という最も少ない数は、生成した膜厚が等しい場合には、1部の分散液と30部のCSD−溶液の質量比で達せられた。1:30以上では、CSD−溶液が大過剰であるために、生成膜の結晶化度の欠如がセラミックス膜の機能性障害をおこすので、使用できる誘電セラミックス膜は得られなかった。1:1の比率以下では、結晶化度が十分な場合にはこの膜は、なるほど比較的高い誘電率を示した。しかしながら溶液の貯蔵安定性の欠如は、必要なコーティング工程数(20)と同様に技術プロセスには使用できなかった。
【0022】
したがって1:1〜1:30の組成範囲は、生成セラミックス膜の機能性が十分な場合に、コーティング工程数を最小にするための妥協点を表している。しかしながら、報告された最も有利な1:30の混合比でも、まだ6プロセス工程が240nmのセラミックス膜を作製するために必要であることが判明した。
【0023】
C.ベック(Beck),W.ヘルティー(Haerti),R.ヘンペルマン(Hempelmann)著、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ13巻、11号、1998年、p.3174-3180から、金属アルコキシドを、シクロヘキサン、水、ノニルフェノールエトキシラートの型の非イオン性界面活性剤および共同界面活性剤としての1−オクタノールから構成されるw/o−マイクロエマルションで加水分解することによって製造されたナノ粒子分散液が知られている。この分散液の安定性は、この物質が沈殿したために試験されなかった。酸化物/界面活性剤の質量比は、最大で4.1であった。
【0024】
米国特許出願公開第2005/0194573号には、アルコキシドを、水および界面活性剤の含有量が高過ぎるマイクロエマルションで加水分解する場合には、十分に安定な分散液は得られないことが記述されている。この印刷物に記述されている溶液は、最大1.5重量%のナノ粒子含有量と、最大0.11の酸化物/界面活性剤比を有する。
【0025】
米国特許出願公開第2005/0194573号から、同じくナノ粒子分散液とCSD−溶液から成るハイブリッド溶液が知られている。その場合に全金属酸化物量におけるナノ粒子の割合は、最大50重量%で、最も少ないコーティング工程数でコーティングした場合には3.2重量%となる。
【0026】
独国特許出願公開第10237915号は、コーティング分散液の製造方法を開示していて、それによると、溶媒としてアルコールを含む溶液が準備され、該溶液中には吸湿性金属化合物が少なくとも一部溶解していて、その場合にこの溶液は、分散液を製造するためのマイクロエマルションに混ぜ合わせられる。界面活性剤を残渣無しに熱分解によって取り除くことができるように、非イオン性界面活性剤を使用すべきである。この印刷物には、カチオン界面活性剤も考慮に入れられるであろうことが推測で述べられている。もっともこの印刷物は、そのような界面活性剤を用いて、5重量%を超える高い固体割合を有する十分に安定な分散液を得る方法は開示していない。またこれは、コーティング溶液の製造に関するものでもなく、高圧下で緻密なセラミックスへ焼結することができるナノ粒子粉末の製造に関するものである。
【0027】
米国特許出願第5703002号は、ナノ粒子粉末の製造に携わっている。なるほどこの印刷物ではマイクロエマルションという概念が使用されている。もっともこの印刷物には、「マイクロエマルション」を製造するためには、超音波下で激しく撹拌すべきであると指示されている。これは、混合物が熱力学的に安定ではなく、したがって本発明の意味でのマイクロエマルションではないことへの第1の暗示を表している。第4欄、62〜67行に挙げられている水/界面活性剤の30:1の質量比も、これが本発明の意味でのマイクロエマルションではないことを示している。なぜならそのような比率は、極端に有効な界面活性剤を必要とするからである。しかしながら、この印刷物内で具体的に開示された界面活性剤は、むしろ有効でない。したがって米国特許出願第5703002号は、本出願の意味でのマイクロエマルションに実際に係わっているのではなく、所謂ミニエマルションに係わっている。ミニエマルションは、エネルギー供給下でのみ粒子合成での使用に対して運動力学上十分安定している。それに応じて水分含有量は少なく、0.5%未満である。カチオン界面活性剤は、このものから知られているエマルションを製造するための考えられ得る界面活性剤として挙げられている。もっともそれを用いて安定な分散液が得られる可能性は、実施例がないのでこの印刷物から読み取ることはできない。
【0028】
米国特許第5770172号は、ナノ粒子の製造に携わっている。そのために実施例にしたがって使用されたマイクロエマルションは、アニオン界面活性剤を含む。吸湿性金属化合物も少なくとも部分的にも溶解しておらず、ここに記述されている合成は常に金属塩溶液からの沈殿に基づくものである。常に明らかに水溶性金属化合物の話である。しかしながらこのプロセス方式は、出発化合物の溶解性が制限されるために、粒子に対して、水相(水+金属塩)の質量の一部分のみが置換されることになるので、一般に固体含有量の少ない分散液を招くものである。実施例にしたがって得られる粒子分散液が、コーティング溶液として使用できるほど十分に安定か否かは、この印刷物からは読み取ることができず、疑わしいと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】チタン酸バリウム膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
金属化合物は、これを水と反応させる場合には吸湿性である。したがって溶解した金属化合物は、水を含むマイクロエマルションを添加することによって反応する。この溶液は基本的には水を含まないので、金属化合物は含水マイクロエマルションを添加後に初めて反応する。
【0033】
ある専門家は、非イオン性界面活性剤から製造されたマイクロエマルションを、これが炭素、酸素および水素から構成されるので、コーティング溶液を準備するために使用した。望まれる膜を作製するために、これを600℃を超える温度で焼結する。炭素、酸素および水素は、この温度で空気を流入させると、残渣無しに二酸化炭素および水の形でセラミックス膜から取り除かれる。それに対してカチオン界面活性剤は、例えば臭化物または塩化物を対イオンとして含む。例えば塩素は、十分には取り除かれないので、膜は汚染されて機能が損なわれる。したがってこの専門家は、十分な固体含有量の十分に安定な分散液を手に入れるためにカチオン界面活性剤を考慮できるとは期待しなかった。
仮にある専門家がカチオン界面活性剤を本気で考慮したとしても、いずれにしてもこの専門家には、カチオン界面活性剤を含むマイクロエマルションを用いて5重量%を超える高濃度の十分に安定なコーティング分散液を手に入れる方法はわからない。
【0034】
カチオン界面活性剤としては、組成R1234+-のアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩またはテトラアルキルアンモニウム塩を使用することができ、その場合にR1はアルキル残基を、およびR2、R3、R4はアルキル残基またはプロトンを、およびX-はアニオンを表す。このアニオンは多価でもあり得る。
【0035】
市販で大量に使用可能なセチルトリメチルアンモニウムブロミド(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド;CTAB)が、水分含有量の高いマイクロエマルション製造に関して特に有利な界面活性剤として立証された。適用事例では、チタン酸バリウム膜作製の際に、界面活性剤に臭素イオンが含まれるにもかかわらず、焼結セラミックスの十分に低い導電率が得られるので、誘電率が高いことが重要な機能性セラミックスを手に入れられる。その他の有利な界面活性剤は、ハロゲン化物イオンが所望の機能性をそれほど損なわない場合には、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリドおよびヘキサデシルピリジニウムクロリドである。H,C,NおよびO以外の元素を含まない界面活性剤に関しては、酢酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、酢酸ヘキサデシルアンモニウム、プロピオン酸ヘキサデシルアンモニウムおよびサリチル酸ヘキサデシルピリジニウムがマイクロエマルションの製造に特に良好に適する。しかしながらカチオン界面活性剤の選択は、挙げられた化合物に限定されるものではない。
【0036】
メタノールは、十分に安定な所望の分散液を製造するのに特に良好に適する。専門家は、これらの金属ないし金属化合物の溶解性が、N.Y.タローヴァ(Turova),E.P.タレフスカヤ(Turevskaya) V.G.ケスラー(Kessler),M.I.ヤノフスカヤ(Yanovskaya)著、「金属アルコキシドの化学(The Chemistry of Metal Alkoxides)」クリューファー・アカデミック出版社、ドルドレヒト、オランダ、2002年などから知られているように、少なくともマイクロエマルションに依拠するナノ粒子合成が不可能であると思われるほど激しく制限されるので、メタノールは金属アルコキシド、特にアルカリ土類金属およびアルカリ土類アルコキシドに適した溶媒でなないと考えて、メタノールの使用を不可能だと判断した。
【0037】
したがって専門家は、例えば前駆体、則ち吸湿性金属化合物が完全に溶解している溶液から出発すべきであると考えた。このことから、例えば米国特許出願公開第2005/0194573号は、段落[0056]および[0057]で、バリウム−チタン前駆体の溶解性を向上させるために、溶媒にベンゼンを混合することを開示している。必要とされた説の基になる知識は、溶解性の度合は、目標とされる成果を損なう能力がないことにある。
【0038】
これまでに行った試験から判断すると、高級アルコールは、十分に安定な分散液を獲得するのに適さない。行った試験から判断するならば、イソプロパノールはすでに適さない。それに反してメタノールに溶解させると、膜の作製に必要となるような安定な分散液が生じる。多くの場合にエタノールも安定な分散液を獲得するのにまだ適している。
【0039】
このプロセスによって、例えばメソスコープのAl23−膜が使用に適するように作製され、その場合にそれから吸湿性アルミニウム化合物が溶解している溶液から出発する。
【0040】
2種またはそれ以上の吸湿性金属化合物が溶解している溶液が準備される場合に、化学量論的な組成は、後のセラミックス内で望まれるように選択される。例えばメソスコープのBaTiO3−膜を作製しようとする場合には、溶液中に等しいモルの割合のバリウムとチタンが調整される。
【0041】
この溶液を準備するために、元素金属を好ましくは直接または金属アルコラートの形でアルコールに溶解させる。この方法で、望まれない物質が溶液内に達しないことが確証される。したがって、例えば元素バリウム並びにチタンアルコラートをアルコールに溶解させると、メソスコープのBaTiO3−膜が手に入る。
【0042】
製造した膜の磁気的、電気的または光学的性質を利用するために機能性セラミックス膜を作製しようとする場合には、特にカチオン界面活性剤の選択を顧慮すべきである。カチオン界面活性剤を、ハロゲン化物などの、水素、炭素、窒素および酸素以外の元素を含むアニオンと共に使用する場合には、作製した膜内にヘテロ元素が残ってしまうことになり、膜の機能性が損なわれ得る。そのようにして、電子セラミックス膜内の微量のハロゲン化物イオンでも、機能性が著しく損なわれるほど導電性を激しく上昇させ得る。しかしながら、実施例で挙げられたヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(セチルトリメチルアンモニウムブロミド、CTAB)に関しては驚くべきことに、導電性が許容し得る範囲にあることが判明した。したがって誘電膜も請求された方法にしたがって作製できる。
【0043】
ヘテロ元素が膜内に残ることによる、そのような機能性の侵害は、ある実施形態では、膜をか焼および焼結する際に気体の形で取り除かれる元素の水素、炭素、窒素および酸素のみ含むアニオンをカチオン界面活性剤内で使用することによって対処される。対応するカチオン界面活性剤は、第四級アンモニウム塩の場合には、適切な合成方法またはイオン交換によって製造することができる。アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩およびトリアルキルアンモニウム塩の場合には、この化合物は、アミンを相当する酸と混合するだけで製造することができる。その種のハロゲンを含まないカチオン界面活性剤の例は、アルキルアンモニウムイオン、ジアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオンまたはテトラアルキルアンモニウムイオンを含む硝酸塩およびカルボン酸塩である。しかしながら、考えられ得る選択は、挙げられた例に限定されるものではない。塩としては一般に、アジド、シアン化物、シアン酸塩、イソシアン酸塩、水酸化物などの、そのアニオンがH、C、NおよびOとは異なる元素を含まない全てのアルキルアンモニウム化合物、ジアルキルアンモニウム化合物、トリアルキルアンモニウム化合物またはテトラアルキルアンモニウム化合物が考えられ得る。アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩およびトリアルキルアンモニウム塩を酸と正確な混合比で混合することによって、マイクロエマルション中のpH−値を調整することができる。それによって粒子合成の際の加水分解速度を変えることができ、そのことで、粒度分布、組成および形態に関して変更された生成物を作ることができる。
【0044】
個々のアルキル鎖の鎖長は、使用されたカチオン界面活性剤に関しては通常C1とC20の間にある。アルキルアンモニウムイオン、ジアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオンまたは第四級アンモニウムイオンの全炭素数は、典型的にはC8(オクチルアンモニウム塩)とC38(ジステアリルジメチルアンモニウム塩)の間にある。前述のアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩またはテトラアルキルアンモニウム塩の、非イオン性界面活性剤との混合物を使用することによって、マイクロエマルション中の液滴の大きさを合目的に変更することができる。カチオン界面活性剤CTABの10ないし25%を、非イオン性界面活性剤ルテンソル ON 110およびルテンソル ON 50(ルテンソルはBASF社の商標)に換えることによって、いくらか大きい液滴のマイクロエマルションとなる。
【0045】
実施形態におけるマイクロエマルションは、好ましくは前駆体溶液に滴下される。前駆体溶液がマイクロエマルション中に滴下される、米国特許出願公開第2005/0194573号から周知の方法に対して、逆の順序は、合成の間前駆体溶液中に常に水が過少に存在しているので、金属水酸化物の形成に対抗するという長所を有する。この水酸化物は、コーティング後に生じたセラミックス膜の機能性を低下させるおそれがある。
【0046】
ナノ粒子の完全な分散は、本発明のある実施形態では確実に改良され、その場合に、加水分解反応の実施後に、生じたナノ粒子表面に界面活性剤分子が吸着して、溶液の性質に重大な影響を及ぼすので、使用されたマイクロエマルション中のカチオン界面活性剤の種類および組成は、溶媒の極性に適合される。例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド CTABの使用が、安定なチタン酸バリウム分散液を製造する際の適切なカチオン界面活性剤であると実証された。この場合、一次構造面上に、その粒径最大値が50nm未満の単分散粒度分布を有する、分散されたナノ粒子を含む直接濃縮されたコロイド溶液が生じる。そのようにして、金属酸化物の質量濃度が5重量%を超えるコロイド溶液ないし分散液を容易に作ることができる。粘性が低い場合には、貯蔵安定性は少なくとも6ヶ月となる。米国特許出願公開第2005/0194573号に濃縮分散液に関して開示されているように、形成されたナノ粒子の凝集およびそれによる、例えば製造プロセス中または貯蔵期間内のチタン酸バリウム粉末の沈殿は起こらない。
【0047】
例外的な場合に濃縮コロイド溶液ないし分散液の十分な貯蔵安定性が達成されない場合には、最初に得られる分散液に、低分子の揮発性の有機酸、アミンまたはケトンの形の別の分散剤を添加することによって、この貯蔵安定性を保証することができるであろう。
【0048】
マイクロエマルションは、好ましくはマイクロエマルション中に含まれる水が完全に置換されるまで、中に前駆体を含むアルコールに添加される。その後カチオン界面活性剤の割合を出来る限り少なく抑えて、それだけ一層改良されて、緻密なセラミックス膜が作製されることが保証されるように、マイクロエマルションのさらなる添加は停止される。
【0049】
界面活性剤の割合をさらに減らすために、米国特許出願公開第2005/0194573号から周知の従来技術とは異なって、水分の割合が多い、特に水分含有量が少なくとも5重量パーセントのマイクロエマルションが有利に使用される。それに対して米国特許出願公開第2005/0194573号による水分含有量は2〜3重量パーセントに過ぎない。10重量パーセントを超える水分含有量が適することが実証された。プロセスの機能性を保証するためには、水分含有量は15重量パーセントを超えるべきではない。
【0050】
界面活性剤含有量が少ないことで、ナノ粒子分散液中の、標準状態で無視できる蒸気圧を有する(揮発性有機物ではない)有機分子の割合も非常に低くなるという結果になる。酸化ナノ粒子の、カチオン界面活性剤に対する質量比は問題なく4.2より大きくなる。それどころか通常10より大きい。分散液を基板上に塗布し、続いて700℃以上で焼結すると、すぐに緻密で均質な厚みのメソスコープ膜が生じる。
【0051】
焼結温度が700℃未満の場合には、分散液から作製された膜にまだ残留多孔度が備わっていて、これがセラミックス膜の機能性を損なうという危険が生じる。
【0052】
700℃未満の焼結温度でも、直接緻密なメソスコープ膜を確実に得るためには、コロイド溶液に分子有機金属CSD−溶液を混ぜ合わせることが好ましいと立証された。この所謂ハイブリッド溶液は、1相の純粋な酸化金属膜を作製する場合に、金属酸化物全質量に対して50重量%未満の、等しい化学量論的な金属イオン組成のCSD−溶液の割合を含む。焼結温度の低下は、様々な長所につながる。とりわけ費用を節約することができる。
【0053】
1相の純粋な酸化金属膜を作製する場合には、等しい化学量論的な金属イオン組成を有する、50重量%未満のCSD−溶液から成る金属酸化物の割合を使用することが好ましい。
【0054】
このハイブリッド溶液を用いて、その物理的性質を制御しながら調整するためのナノスケール不均質性(コア−シェル状構造)を有する多相複合フィルムも、ナノ粒子分散液中とは異なる金属組成を有するCSD−溶液を使用することによって得られる。その場合にCSD−溶液の割合は、生じる酸化物の全金属質量に対して50重量%未満、好ましくは20重量%未満、特に好ましくは10重量%未満となり得る。しかしながらメソスコープ膜を作製するためにハイブリッド溶液を使用する場合には、特に容易な方法でドーピングすることも可能であり、その際混ぜ合わせられたCSD−溶液に関して1つまたは多数のドーピング剤が取り入れられる。このドーピングの割合は、酸化物の全質量に対して好ましくは5%未満で、特に好ましくは1%未満である。粒子と同じ金属および粒子とは異なる金属を含むCSD−溶液を同時に使用することも可能である。ドープされた均質または不均質な膜は、任意の前述のハイブリッド溶液にドーピング物質を添加することによっても生成することができる。
【0055】
このハイブリッド溶液を用いて、700℃の焼結温度以下でも、異なる基板上に緻密なメソスコープセラミックス薄膜を得ることができる。その場合にそれぞれ使用された、このハイブリッド溶液中の金属酸化物濃度は、生じる薄膜の目標とされた膜厚および優遇されたコーティング方法に適合される。例えば濃縮溶液を用いて、比較的容易な遠心技術を使用することによって、1プロセス工程で250nm未満のセラミックス薄膜を直接手に入れることができる。
【0056】
適切なCSD−溶液を製造するためには、カルボン酸塩、単純アルコキシド、メトキシエトキシドおよびアミノエトキシドを出発物質として使用することができる。これらは、単純アルコール、エーテルアルコール、アミノアルコールおよびカルボン酸ないし適切な混合物に単純に溶解させることによって、または還流および蒸留工程によって安定なCSD−前駆体溶液に変わる。さらに溶媒は、最適なコーティング挙動が結果として生じるように選択される。最適なコーティング挙動は、溶液が基板上の均質な分散を可能にする良好な湿潤挙動と、溶媒の急速過ぎない揮発挙動を有する場合に達成される。さらにマイクロエマルションとの化学適合性が保証される場合が好ましい。使用された金属アルコキシドを予定時点以前の加水分解および縮合に対して保護するために、β−ジケトン酸塩、多価アルコールまたはアミノエタノールなどのキレート錯化剤を安定剤として添加する。その場合に調整可能な溶液濃度は、それぞれ与えられた前駆物質の組合せに関する溶解度積によって上限が決められ、典型的には0.05〜1.5mol/lである。好ましくは0.1〜0.5mol/lの範囲の濃度の溶液が使用される。S.ホフマン(Hoffmann)およびR.ヴァーゼル(Waser)著、「CSD作製[Ba,Sr]TiO3薄膜の形態制御(Control of the morphology of CSD−prepared [Ba,Sr]TiO3 thin films)」、ジャーナル・オブ・ジ・ヨーロピアン・セラミック・ソサイアティ19巻、1999年、p.1339に示されているように、濃度を変えると、個々のコーティング工程あたりの膜厚の制御と同時に形態の調整がしばしば可能となる。
【0057】
コーティングのためには、遠心、浸漬および様々な形の吹き付けなどのCDS−技術で知られている全ての方法が基本的に適する。目標とされた用途ないし基板の形に関連して、この方法は選択される。単純な遠心法の場合には、決められた量の溶液を、場合によっては予定時点前の加水分解および遠心工程中の縮合反応を回避するために乾燥保護ガス環境下で、基板上に塗布し、1000〜6000U/minの回転速度で膜厚が一定になるまで遠心回転させる。その場合に達成可能な膜厚は、溶液の濃度、溶液の粘性、使用された溶媒の蒸気圧および回転速度に関連する。浸漬法の場合には、被覆すべき基板を溶液中に浸漬し、速度を調整しながら引き上げる。その場合に膜厚は、粘性および浸漬速度によって調整することができ、速度が比較的速いと一般に比較的厚い膜となり、一方ゆっくり浸漬することによって比較的薄い膜が得られる。吹き付けでは様々な方法が知られている。超音波噴霧器によって、溶液からマイクロメートル領域の小さい液滴を生成させて、続いて乾燥アルゴン流と共に基板上に導いてこの上に堆積させるか、または微細ノズルを介して溶液をエアロゾルに移行させるか、またはC.カーティス(Curtis),T.リブキン(Rivkin),A.ミーダネル(Miedaner),J.アレマン(Alleman),J.パーキンズ(Perkins),L.スミス(Smith),D.ギンレイ(Ginley)著、「直接書込インクジェット印刷における金属被覆(Metallizations by direct−write inkjet printing)」、プロシーディングス・NCPV・プログラム・リバイズド・ミーティング、レークウッド、CO、2001年、CD ROM)で公開されているように、溶液をインクジェット印刷法によって基板上に塗布する。後者の方法は、溶媒の粘性および蒸気圧を相応にした場合には、同時に膜の構造化を可能にする。メソスコープ膜をMCLL−技術に関して経済的に作製するためには、好ましくは原理的には中間金属化のためにも使用可能なインクジェット印刷法が適する〔C.カーティス(Curtis),T.リブキン(Rivkin),A.ミーダネル(Miedaner),J.アレマン(Alleman),J.パーキンズ(Perkins),L.スミス(Smith),D.ギンレイ(Ginley)著、「直接書込インクジェット印刷における金属被覆(Metallizations by direct−write inkjet printing)」、プロシーディングス・NCPV・プログラム・リバイズド・ミーティング、レークウッド、CO、2001年、CD ROM参照〕。
【実施例】
【0058】
実施例1
メソスコープのチタン酸バリウム膜を作製するための、6.25重量%の分散酸化ナノ粒子の質量濃度を有する本発明のコーティング溶液160gは、以下のようにして容易に合成することができる。
【0059】
5.888gの金属バリウムを、保護ガス下および室温で153mlのメタノールに溶解させ、12.187gのチタンイソプロポキシドを滴下して混合する。続く化学量論的な量の水での加水分解は、12.21重量%の1−ペンタノール、3.74重量%のCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、11.23重量%の水および72.82重量%のシクロヘキサンから構成されるカチオンマイクロエマルション20.634gをゆっくり滴下することによって行われる。マイクロエマルションを完全に添加後すぐに光学的に等方性のほぼ無色透明なチタン酸バリウム分散液が得られ、これは、実用的な単分散粒度分布および5nm±0.5nmの平均粒径(モールバーンゼータ分粒機を用いた動的光散乱により測定)、1.5mPa sの粘性および0.48重量%の不揮発性有機物の割合を有している。これは、カチオン界面活性剤に対するチタン酸バリウムナノ粒子の質量比13に相当する。
【0060】
このコーティング溶液を用いて、白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心させ、および続いて700℃を超える温度で堆積させることによって、直接約200nmの厚さの緻密な結晶性チタン酸バリウム膜を得ることができる。
【0061】
実施例2
分子ZirO2−前駆体溶液およびチタン酸バリウムナノ粒子分散液から構成される本発明のハイブリッドコーティング溶液150mlは、以下のように製造できる。
【0062】
まず1.9487gのジルコニウムテトラブトキシドを保護ガス下で5mlのn−ブタノールに溶解させ、撹拌下で1.0158gに相当する2倍の物質量のアセチルアセトンをゆっくり滴下することによって透明な黄色溶液が形成されるまで混合する。続いて5%溶液となるまでブタノールで補充する。その後この20体積%に相当する30mlのCSD−溶液を、実施例1にしたがって製造された溶液120mlに混ぜ合わせると、全固体含有量5%の無色透明の光学的に等方性のハイブリッドコーティング溶液が生じる。このハイブリッド溶液を用いて、白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心させ、および続いて700℃を超える温度で堆積させることによって、約570nmの厚さの結晶性の緻密なメソスコープ膜を作製することができる。
【0063】
実施例3
メソスコープの圧電セラミックスカリウム−ニオブ酸ナトリウム膜を作製するための、5重量%の分散酸化KNaNb26−ナノ粒子の質量濃度を有する本発明のコーティング溶液200gは、以下のようにして容易に合成することができる。
【0064】
18.507gのニオブエトキシド、2.065gのカリウムメトキシドおよび1.570gのナトリウムメトキシドを、保護ガス下および室温で撹拌しながら137gのメタノールに溶解させる。続く化学量論的な量の水での加水分解は、12.21重量%の1−ペンタノール、3.74重量%のCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、11.23重量%の水および72.82重量%のシクロヘキサンから構成されるカチオンマイクロエマルション27.967gをゆっくり滴下することによって行われる。マイクロエマルションを完全に添加後すぐに光学的に等方性のオレンジ色のカリウム−ニオブ酸ナトリウム分散液が得られ、5.82gのアセチルアセトンと6.98gの無水酢酸を混合することによって、その貯蔵安定性を6ヶ月以上に向上させることができた。この分散液に関して、0.52重量%の不揮発性有機物の割合では、平均粒径が7nm±0.8nmの単分散粒度分布が算出された(モールバーンゼータ分粒機を用いた動的光散乱によって測定
)。これはカチオン界面活性剤に対するカリウム−ニオブ酸ナトリウムナノ粒子の質量比9.56に相当する。
【0065】
このコーティング溶液を用いて、例えば白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心し、および続いて700℃を超える温度で堆積させることによって、直接約180nmの厚さの緻密な結晶性カリウム−ニオブ酸ナトリウム膜を得ることができる。
【0066】
実施例4
メソスコープの二酸化ジルコニウム膜を作製するための、2.5重量%の分散二酸化ジルコニウム−ナノ粒子の質量濃度を有する本発明のハロゲンを含まないコーティング溶液100gは、以下のようにして容易に合成することができる。
【0067】
6.551gのジルコニウムテトライソプロポキシドを、保護ガス下および室温で78.815gの無水エタノールに溶解させ、加水分解のために、5.09%のオクタン酸セチルトリメチルアンモニウム(CTAO)、1.17%の酢酸、4.92%の水、77.06%のシクロヘキサンおよび11.76%のペンタノールから構成される、ハロゲンを含まないマイクロエマルション14.634gをゆっくり滴下することによって混合する。マイクロエマルションを完全に添加後すぐに、実用的な単分散粒度分布および4nm±0.8nmの平均粒径を有する、光学的に等方性のほぼ無色透明な二酸化ジルコニウム分散液が得られた(モールバーンゼータ分粒機を用いた動的光散乱によって測定)。
【0068】
このコーティング溶液を用いて、例えば白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心させ、および続いて700℃を超える温度で堆積させることによって、直接約70nmの厚さの緻密な結晶性酸化ジルコニウム膜を得ることができる。
【0069】
ハロゲンを含まない界面活性剤(CTAO)は、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)の臭素イオンを、イオン交換を用いてオクタン酸イオンで置換することによって容易に製造された。
これに関しては、塩化物形で1.2meq/mlのイオン交換容量を有するイオン交換体DOWEX(商標)1×8の100mlが入ったカラムに水をたっぷり入れた。2Mの苛性ソーダ溶液(266mmol)および38.4gのオクタン酸(266mmol)の混合物133mlをこのカラムに入れて、塩化物を定量的にオクタン酸塩に交換した。その後このカラムを、200mlの水および続いて200mlのメタノールで洗浄した。最後に14.3gのCTAB(39.2mmol)の100mlメタノール溶液をカラムに加えた。溶離液をフラクションで採取して、硝酸酸性の硝酸銀溶液を用いて臭素分析をした。採取した全てのフラクションで、臭素は検出されなかった。オクタン酸−N−セチル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(CTAO)は、溶媒除去後に粘性ペーストとして沈殿した。臭素の残留量は、10ppmの検出限界未満であった。
【0070】
ハインツ・レハーゲ(Heinz Rehage)の論文[「粘弾性界面活性溶液のレオロジー試験(Rheologische Untersuchungen an viskoelastischen Tensidloesungen)」バイロイト大学、1982年]によると、そのような有機酸の第四級アンモニウム塩は、ハロゲン化第四級アンモニウムを酸化銀で置換して、水酸化物を対応する有機酸で置換することによっても製造できる。このようにして、例えばヘキサデシルピリジニウムブロミドとサリチル酸からサリチル酸ヘキサデシルピリジニウム(CPySal)が製造された。
【0071】
酸化ナノ粒子の質量の割合は、この実施例では5重量%未満である。使用された界面活性剤(CTAO)は、その他の実施例のもの(CTAB)とは区別されるので有利である。これは、好ましくは(主または副成分として)ハロゲンを含まない界面活性剤である。コーティング溶液は、ハロゲンを含まない。使用されたCTAOは、カルボン酸塩である。その製造は、記述されたイオン交換によって行う。
【0072】
実施例5
固体質量比が1:4のメソスコープのBi23/SrTiO3−結合材料膜を作製するための、分子ビスマス前駆体溶液とチタン酸ストロンチウムナノ粒子分散液から構成される、本発明のハイブリッドコーティング溶液100gは、以下のように合成することができる。
【0073】
5重量%のチタン酸ストロンチウムナノ粒子分散液80gを製造するために、まず1.909gのストロンチウム金属を、保護ガス下および室温で61.422gのメタノールに溶解させ、6.188gのチタンイソプロポキシドを滴下して混合する。続く化学量論的な量の水での加水分解は、12.21重量%の1−ペンタノール、3.74重量%のCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、11.23重量%の水および72.82重量%のシクロヘキサンから構成されるカチオンマイクロエマルション10.481gをゆっくり滴下することによって行われる。マイクロエマルションを完全に添加後すぐに、実用的な単分散粒度分布および5nmの平均粒径を有する、光学的に等方性のほぼ無色透明なチタン酸ストロンチウム分散液が得られる。
【0074】
この分散液に、無色の分子ビスマス前駆体溶液20gを添加する(含有量1gBi23当量)が、これは、予め0.828の酢酸ビスマスを撹拌しながら19.172gのプロピオン酸に溶解させ、穏やかに加熱することによって製造できる。
【0075】
このハイブリッド溶液を用いて、特に白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心させ、続いて600℃を超える温度で堆積させることによって、約240nmの厚さの緻密な結晶性Bi23/SrTiO3−結合材料膜が得られる。
【0076】
実施例6
メソスコープのBaTiO3/PbTiO3−結合材料膜を作製するための、混合比60:40の、0.2モルのチタン酸鉛ナノ粒子分散液と0.2モルの分子チタン酸バリウム前駆体溶液から構成される、本発明のその他のハイブリッドコーティング溶液100mlは、以下のように合成することができる。
【0077】
0.2モルのチタン酸鉛分散液の、必要とされる60mlを製造するために、まず3.9033gの無水酢酸鉛と3.3107gのチタンイソプロポキシドを、保護ガス下でブタノールに溶解させる。続いて酢酸イソプロピルの形の生じる反応生成物を連続分留し、この反応混合物を乾燥するまで蒸発させる。そのようにして得られる白色固体を、53mlのメタノールに吸収させ、完全に加水分解させるために、12.21重量%の1−ペンタノール、3.74重量%のCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、11.23重量%の水および72.82重量%のシクロヘキサンから構成されるカチオンマイクロエマルション3.846gを滴下して混合する。添加終了後に、約4nmの平均粒径を有する光学的に等方性の黄色チタン酸鉛分散液が得られる。
【0078】
この分散液に、分子の0.2モルチタン酸バリウム溶液40mlを添加する。
【0079】
まず1.5786gの高純度炭酸バリウムを、8mlのプロピオン酸に数時間還流沸騰させることによって溶解させる。遊離した水を捕獲するために、1.0416gの無水プロピオン酸(反応後に遊離したプロピオン酸1.19mlに相当)を混合する。第2フラスコ内では、2.7189gのチタンテトラブトキシドを保護ガス下で5mlのn−ブタノールに溶解させ、撹拌しながら1.6019gに相当する2倍の物質量のアセチルアセトンを、透明な淡黄色溶液が形成されるまでゆっくり滴下することによって混合する。プロピオン酸およびn−ブタノールで相応に満たして40mlにした後に、完成したチタン酸バリウム前駆体溶液中のプロピオン酸/n−ブタノールに関する溶媒比が1:1.5となるように、予め製造されたプロピオン酸バリウム溶液を安定化されたチタンテトラブトキシド溶液に定量的に混合する。
【0080】
このコーティング溶液を用いて、例えば白金ケイ素基板上に3000U/minで単純遠心させ、続いて700℃を超える温度で堆積させることによって、すぐに約320nmの厚さの緻密な結晶性BaTiO3/PbTiO3−膜が得られる。
【0081】
「分散液」、「溶液」および「懸濁液」という概念を定義するために、レンプ化学事典、第9版、編集者:J.ファルベ(Falbe),M.レギッツ(Regitz),ゲオルクティーメ出版、シュトゥットガルト、1989年、ISBN:3−13−734609−6を参照にする。
【0082】
分散液
DIN53900(1972年7月)によると、1つが持続して(分散媒)、および少なくとも1つがさらに細かく分散している(分散相、分散質)複数の相から成る1つの系(分散系)を表す名称
【0083】
溶液
最も広範な意味において溶液は、異なる物質の均一な混合物であり、その場合にこの溶液の最も小さい部分容積も同様の組成を有している。狭い意味での溶液に関しては、少なくとも2つの成分から成る液体混合物と理解され、その中でパートナーは、異なる量比で分子的に分散して存在している。ゾル、懸濁液およびエマルションなどのコロイド溶液は、この真の溶液とは区別される。
【0084】
懸濁液
液体中のコロイドの寸法(<10-5cm)までの粒径を有する不溶性の固体粒子の分散を表す名称…比較的粒の粗い懸濁液の場合、懸濁している粒子は遅かれ早かれ底に沈殿するが(沈積)、それに対して粒子がコロイド粒子の寸法に達している場合には、これは液中に漂っている。
【0085】
基本的に懸濁液は、熱力学的に不安定である。しかしながら適当な解こう剤によって動力学的安定性を向上させることができるので、そのようなコロイド溶液は処理に対しては十分に安定である。マイクロエマルションでの合成の際に反応混合物中に存在する界面活性剤は、生じるナノ粒子の凝集またはアグロメレーションに対する安定化を引き起こす。したがってこの界面活性剤は、処理に対する十分な動力学的安定性を可能にし、この動力学的安定性は、場合によっては解こう剤を添加することによってさらに改良することができる。
【0086】
したがってマイクロエマルションを使用して十分に安定なコーティング分散液を得ることが可能である。この、場合によってCSD−溶液を添加して製造された(コロイド)コーティング溶液は、緻密なメソスコープ膜の製造に適している。
【0087】
本発明の意味における安定な分散液は、特にそのようなコロイド溶液中の粒度分布が、少なくとも3日間、好ましくは少なくとも10日間、特に好ましくは少なくとも30日間変化しない場合に達成される。実施例にしたがって得られる分散液は、通常数ヶ月間保持される。
【0088】
ナノ粒子を製造するための非常に多くの方法がある。実際の問題は、この粒子を用いて高い固体の割合の安定な分散液を作ることにある。このことは、本発明で成功した。かろうじて1工程で経済的にサブミクロン膜を作製することができる。
【0089】
安定な分散液から成る純粋なコーティング溶液以外に、本発明によってハイブリッドコーティング溶液も製造することができ、これは、有機金属化合物の分散液への混入により構成される。このハイブリッド溶液の多大な長所は、それによってナノスケールの不均質性を有するメソスコープの結合材料膜が作製でき、セラミックスの機械的性質(膨張率など)および電気的性質(誘電率の温度経過など)を合目的に調整できることである。
【0090】
ナノスケールの不均質性とは、分離膜を加熱(焼結)後に混入された有機金属化合物から形成されるものとは異なるセラミックス基質にナノ粒子が埋め込まれていることを意味する。
【0091】
図は、プロセスにしたがって製造された、1000を超える誘電率を有するメソスコープのチタン酸バリウム膜の電子顕微鏡写真を示す。この膜は、唯1つの塗布工程でのみ作製されたので、この膜は焼結によって生じた境界がない。そのような膜が複数の塗布および焼結工程によって製造される場合には、電子顕微鏡で見ることができる境界が生じる。本発明の方法で1000を超える誘電率が達成された。比較可能な膜厚に関しては、米国特許出願公開第2005/0194573号から周知の方法では760の誘電率しか達成されなかった。したがって本発明によって作製された膜のみならず、この観点においても明らかに改良された。
【0092】
明細書冒頭で挙げられた、注目すべき膜の様々な適用例および単独での材料または互いに組合せた材料が本発明に属する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒としてアルコールを含み、吸湿性金属化合物を少なくとも一部溶解している溶液を準備し、該溶液を、分散液を製造するためのマイクロエマルションと混合する、コーティング分散液の製造方法において、
マイクロエマルションがカチオン界面活性剤を含むことを特徴とする、コーティング分散液の製造方法。
【請求項2】
少なくとも5重量%の固体の割合を有する分散液が生じるように、吸湿性金属化合物の割合が選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶媒としてメタノールが使用される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
溶液がアルカリ土類金属を含む、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項5】
溶液を製造するために、金属を直接アルコールに溶解させるか、または金属アルコラートの形で溶解させる、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項6】
溶液を準備するために、バリウム並びにチタンアルコラートをメタノールに溶解させる、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項7】
ハロゲンを含まないカチオン界面活性剤のみを使用するか、または臭素を含むカチオン界面活性剤を使用する、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項8】
使用されたマイクロエマルション中のカチオン界面活性剤の種類および組成を溶媒の極性に適合させる、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項9】
マイクロエマルション中に存在する水が完全に置換されるまで、マイクロエマルションを吸湿性前駆体に滴下する、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項10】
マイクロエマルションが、少なくとも5重量%の水分の割合を有する、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項11】
カチオン界面活性剤として、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが選択される、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項12】
CSD−溶液が分散液に添加される、前述の請求項の一項記載の方法。
【請求項13】
添加されるCSD−溶液が、ナノ粒子と同じ化学量論的な金属組成を有し、その場合にこの分子有機金属化合物の金属質量の割合は、ハイブリッド溶液中の全金属質量の50重量%未満であるか、
または添加されるCSD−溶液が、ナノ粒子とは異なる金属組成を有し、その場合にこの金属有機化合物の金属質量の割合は、同じくハイブリッド溶液中の全金属質量の50重量%未満であるか、
または添加されるCSD−溶液が、金属有機化合物の形の1つまたは多数の金属を含み、その場合にドーピングのために考慮された金属の金属質量の割合は、ハイブリッド溶液中の全金属質量の5重量%未満である、前述の請求項記載の方法。
【請求項14】
前述の請求項の一項記載のコーティング分散液が製造され、このコーティング分散液が基板上に塗布され、続いて焼結される、膜の作製方法。
【請求項15】
コーティング分散液が、印刷によって、好ましくはインクジェットプリンタを用いて基板上に塗布される、前述の請求項記載の方法。
【請求項16】
50nmから1μmの厚さの膜が、唯1つの塗布工程で作製される、前述の2つの請求項の一項記載の方法。
【請求項17】
不揮発性有機部分の燃焼およびメソスコープのセラミックス膜の圧縮を拡散−または高速焼き鈍し炉を用いて行う、前述の3つの請求項の一項記載の方法。
【請求項18】
−有機溶媒中に分散した酸化金属ナノ粒子を有し、
−安定化のための分散液が、1つまたは多数のカチオン界面活性剤を含み、
−酸化ナノ粒子の質量の割合が5重量%を超える、且つ/またはコーティング溶液がハロゲンを含まない―以上の特徴を有する緻密なセラミックス膜、特に機能性セラミックス膜を作製するためのコーティング溶液。
【請求項19】
酸化ナノ粒子の、カチオン界面活性剤に対する質量比が4.2より大きい、前述の請求項記載の溶液。
【請求項20】
粒度分布の最大値が、少なくとも50nm未満、好ましくは10nm未満である、前述の2つの請求項の一項記載の溶液。
【請求項21】
焼結によって生じ、電子顕微鏡で見ることができる境界を含まない、50nmから1μmの膜厚および1000を超える誘電率を有するチタン酸バリウム膜。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538948(P2009−538948A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512593(P2009−512593)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055277
【国際公開番号】WO2007/138088
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(506138258)
【氏名又は名称原語表記】RHEINISCH−WESTFALISCHE TECHNISCHE HOCHSCHULE AACHEN
【出願人】(508285075)
【出願人】(508285086)
【出願人】(508285156)
【Fターム(参考)】