説明

コーティング用共重合ポリエステルおよびそれを用いた共重合ポリエステル水分散体

【課題】有機溶剤に対する膨潤性が低く、優れた製膜性を有し、しかも耐ブロッキング性および易接着性に優れたコーティング用共重合ポリエステルおよび水分散体の提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなり、芳香族ジカルボン酸成分は、60〜80モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1〜10モル%がスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分および10〜35モル%が他の芳香族ジカルボン酸成分であり、グリコール成分は、20〜70モル%がエチレングルコール成分、10〜30モル%がエチレンオキサイドの付加したビスフェノールA成分、20〜50モル%が炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および0〜20モル%の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分であるコーティング用共重合ポリエステルおよびそれを用いた水分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング用共重合ポリエステルおよびそれを用いた共重合ポリエステル水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム上にハードコート層などの機能層を積層してディスプレイなどの光学用に用いる場合、機能層と高分子フィルムとの屈折率の差が大きいと、高分子フィルムと機能層との間で界面反射による干渉斑が生じる問題がある。
【0003】
そこで、ハードコート層などの機能層と高分子フィルム間で発生する界面反射を低減し、かつそれらの密着性を高めるために、屈折率が1.50〜1.60の易接着層を設けることが特許文献1などで提案されている。特に、ポリエステルフィルムを高分子基材フィルムとして用いた場合、ハードコート層の屈折率に比べてポリエステルフィルムの屈折率が相対的に高いため、ビス(4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンやナフタレンジカルボン酸を共重合成分とする共重合ポリエステルを用いた易接着層が特許文献2〜3で提案されている。また、特許文献4では、易接着層に平均粒径の大きな粒子を含有させて、ハードコート層を塗布する際の膨潤による界面反射の乱れによる影響を少なくすること、またそのような大きな粒子を含有させたときの削れなどを抑制するために、炭素数が4以上の脂肪族ジカルボン酸またはグリコール成分を共重合することが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2や3に記載されているような共重合ポリエステル樹脂はもろく、製膜工程で易接着層を塗布した後の延伸工程での造膜性に乏しいため、塗布層の割れによる表面ヘイズ低下が生じ、その改善が求められているのが現状である。また、干渉斑の原因となりうる別の要因として易接着層の耐溶剤性の低さが挙げられる。具体的には、屈折率を適度に合わせることができたとしても、ハードコート層を塗設した際に易接着層がハードコートの溶剤によって膨張してしまうと界面が荒れてしまい反射によって干渉斑が生じてしまうという問題がある。また、特許文献4は、そのようなあれによる影響を無くすために、比較的大きな粒子を含有させるというものであり、膨潤自体を抑制するような根本的な解決にはなっていない。
【0005】
ところで、特許文献5では干渉斑を低減するポリマー構成としてジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸とアニオン性基を有する芳香族ジカルボン酸を、グリコール成分として実質的にビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物で構成されたポリエステル樹脂を含有する塗布層が報告されている。これは、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を高濃度に共重合することで接着性を向上させ、結果、干渉斑を抑制するというものであるが、接着性は向上するものの、耐溶剤性が悪化し、ハードコート層塗設時に使用する溶媒の種類によっては層の膨潤が大きく、干渉斑が生じる場合があり、溶媒を選ぶために汎用性に欠けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−284331号公報
【特許文献2】特開平10−110091号公報
【特許文献3】特開2009−242461号公報
【特許文献4】特開2009−202463号公報
【特許文献5】特許第4547644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の欠点を解消し、ハードコート液など機能層の塗液に使用される有機溶剤に対する膨潤性が低く、優れた製膜性を有し、しかも耐ブロッキング性および易接着性に優れたコーティング用共重合ポリエステルおよび共重合ポリエステル水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を鋭意研究した結果、本発明に到達した。本発明のかかる目的は、本発明によれば、以下の(1)〜(5)が提供される。
(1)芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる共重合ポリエステルであって、
芳香族ジカルボン酸成分は、60〜80モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1〜10モル%がスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分および10〜35モル%が他の芳香族ジカルボン酸成分であり、
グリコール成分は、20〜70モル%がエチレングルコール成分、10〜30モル%が下記式(1)
【化1】

(上記式(1)中のmとnは、1または2である。)
で示されるビスフェノールA成分、20〜50モル%が炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および0〜20モル%の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分であるコーティング用共重合ポリエステル。
(2)他の芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分またはイソフタル酸成分である上記(1)記載のコーティング用共重合ポリエステル。
(3)炭素数3から10の脂肪族グリコール成分がテトラメチレングリコール成分である上記(1)記載のコーティング用共重合ポリエステル。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のコーティング用共重合ポリエステルを水に分散させた共重合ポリエステル水分散体。
(5)平均粒子径が20〜500nmの不活性粒子を、共重合ポリエステルの質量を基準として、1〜10質量%含有する上記(4)記載の共重合ポリエステル水分散体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング用共重合ポリエステルおよびそれを水に分散させた共重合ポリエステル水分散体を用いれば、ハードコート液など機能層の塗液に使用されうる種々の有機溶剤に対する膨潤性が低く、優れた製膜性を有し、しかも耐ブロッキング性および易接着性に優れたプライマー層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における耐ブロッキング性の評価方法を示す該略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコーティング用共重合ポリエステルは、ポリマーを構成する酸成分の60〜80モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1〜10モル%がスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分および10〜35モル%が他の芳香族ジカルボン酸成分からなり、かつグリコール成分の20〜70モル%がエチレングリコール成分、10〜30モル%の前記式(1)ビスフェノールA成分、20〜50モル%が炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および0〜20モル%の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分である。
【0012】
なお、上記、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分、他の芳香族ジカルボン酸成分、エチレングリコール成分、前記式(1)ビスフェノールA成分、炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の割合は、それぞれ得られる共重合ポリエステルの全酸成分のモル数を基準としたときの割合である。また、上記エチレングリコール成分の割合は、前記式(1)ビスフェノールA成分および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分に含まれるエチレングリコールを除いた割合である。
【0013】
前記共重合ポリエステルの酸成分において、2,6−ナフタレンジカルボン酸の割合が下限未満になると、耐溶剤性が悪化する為、有機溶剤と接触した際にポリマーがふやけてしまい、膨潤が大きくなり、またフィルムの耐ブロッキング性も低下する。他方、上限を越えると、共重合ポリエステルの水分散化が難しくなる。また、共重合ポリエステルのガラス転移温度(Tg)が高くなり過ぎるため、フィルムに塗布した後の熱固定において造膜性が悪くなり、結果、フィルムの透明性を落としたり、接着しにくくなったりする。好ましい2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合の下限は、62モル%、さらに64モル%、他方上限は75モル%、さらに70モル%である。
【0014】
また、前記スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合が下限未満になると、ポリマーがより親油性になるため共重合ポリエステルに有機溶剤が入り込みやすく、ふやけてしまい、また水分散化が難しくなる。他方、上限を越えると、フィルムとしたときの耐ブロッキング性が低下する。好ましいスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合の下限は、より有機溶剤に対する膨潤を抑制する点からは、2モル%、さらに3モル%、特に5.5モル%、他方上限はブロッキングを抑える観点から9モル%、さらに8モル%である。特に耐ブロッキング性が要求される場合は、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合は、1〜5モル%が好ましく、他方、有機溶剤に対する耐性を上げる要求がある場合は、5.5〜8モル%が好ましい。
【0015】
このスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、5−カリウムスルホイソフタル酸成分、5−リチウムスルホイソフタル酸成分、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸成分等が好ましく挙げられるが、水分散性良化には、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、5−カリウムスルホイソフタル酸成分、5−リチウムスルホイソフタル酸成分がより好ましく、なかでも5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分が最も好ましい。
【0016】
前記共重合ポリエステルの酸成分は、上述した割合の2,6−ナフタレンジカルボン酸成分およびスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分を有するが、これらといっしょに有機溶媒との親和性を調節したり、Tgを低くするために他の芳香族ジカルボン酸成分を使用する。この他の芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸成分、テレフタル酸成分、ビフェニルジカルボン酸成分等を挙げることができる。これらのなかでもイソフタル酸成分とテレフタル酸成分が好ましく、イソフタル酸成分が特に好ましい。
【0017】
つぎに、前記共重合ポリエステルのグリコール成分について説明する。
前記エチレングリコール成分の割合が下限未満になると、フィルムの耐ブロッキング性が低下する。他方、上限を超えると、Tgが高くなりすぎ、フィルムに塗布した後の熱固定において造膜性が悪くなり、結果、フィルムの透明性を落としたり、接着しにくくなったりする。好ましいエチレングリコール成分の割合の下限は、25モル%、さらに30モル%、他方上限は65モル%、さらに60モル%である。
【0018】
本発明の特徴の一つは、前記式(1)のビスフェノールA成分を、前記範囲で含有させたことにあり、それによって水分散性と接着性とを高度に維持しつつ、有機溶剤に対する膨潤を抑制できることを見出したことにある。そのような観点から、前記式(1)のビスフェノールA成分の好ましい割合の下限は12モル%、さらに14モル%、他方上限は25モル%、さらに21モル%である。前記式(1)におけるn+mとしては2〜8、さらに2〜4が好ましい。例えば側鎖をもつプロピレンオキサイド付加体を使用すると、確かに接着性、親水性溶媒への溶解性はエチレンオキサイド対比向上するが、耐溶剤性が悪化してしまう。
【0019】
前記炭素数3から10の脂肪族グリコール成分は、その割合が下限未満になると、Tgが高くなり、造膜性や接着性などが低下し、他方上限を超えると、親水性溶媒への溶解性が下がったり、ブロッキングが発生しやすくなる。好ましい炭素数3から10の脂肪族グリコール成分の割合は、下限が23モル%、さらに25モル%、他方上限が45モル%、さらに40モル%である。炭素数3から10の脂肪族グリコール成分としては、トリメチレングリコール成分、テトラメチレングリコール成分、ヘキサングリコール成分などが挙げられ、本発明の効果の点からはテトラメチレングリコール成分が特に好ましい。
【0020】
ところで、本発明の共重合ポリエステルは、さらにグリコール成分のモル数を基準として、20モル%以下の範囲で、有機溶剤に対する膨潤を抑制しつつ、より屈折率を高くするためにビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン成分を共重合してもよい。好ましいビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン成分の共重合量の下限は2モル%、さらに4モル%、他方上限は17モル%、さらに15モル%である。なお、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を共重合するとTgが高くなりやすい。そのため、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の割合と前記2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合との合計は、80モル%以下であることが好ましく、他方下限は、膨潤を抑える観点から、65モル%以上が好ましい。
【0021】
また、膨潤を抑える観点から、エチレングリコール成分と炭素数3から10の脂肪族グリコール成分の割合の合計は、70モル%以上であることが好ましく、他方上限は80モル%以下であることが好ましい。また、耐ブロッキング性と製膜性との観点から、エチレングリコール成分の割合と炭素数3から10の脂肪族グリコール成分の割合とは、1:3〜3:1の範囲にあることが好ましい。
【0022】
なお、本発明の共重合ポリエステルは、そのグリコール成分として、上述したエチレングリコール成分、前記式(1)ビスフェノールA成分、炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を有するが、これらと一緒に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の脂肪族または脂環族グリコールを含有してもよい。この他の脂肪族または脂環族グリコールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を好ましく挙げることができる。
【0023】
つぎに、本発明のコーティング用共重合ポリエステルの好ましい態様について、説明する。
本発明の共重合ポリエステルの固有粘度は、0.2〜0.8dl/gが好ましい。ここで固有粘度とはオルトクロロフェノールを用いて35℃において測定した値である。好ましい固有粘度は、下限が0.3dl/g、さらに0.4dl/g、上限が0.7dl/g、さらに0.6dl/gである。
また、本発明の共重合ポリエステルのガラス転移温度は、耐ブロッキング性などの点から、40〜75℃の範囲にあることが好ましく、さらに45〜70℃の範囲にあることが好ましい。
【0024】
本発明のコーティング用共重合ポリエステルは、従来からのポリエステルの製造技術によって製造することができる。例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体および5−ナトリウムスルホイソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体をエチレングリコールおよびテトラメチレングリコール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加体と反応せしめてモノマーもしくはオリゴマーを形成し、その後真空下で重縮合せしめることによって所定の固有粘度の共重合ポリエステルとする方法で製造できる。その際、反応を促進する触媒、例えばエステル化もしくはエステル交換触媒、重縮合触媒を用いることができ、また種々の添加剤、例えば安定剤等を添加することもできる。
【0025】
本発明の共重合ポリエステル水分散体、特にポリエステルフィルムに塗布するための共重合ポリエステル水分散体は、以下の方法で製造することができる。
まず、共重合ポリエステルを、20℃で1リットルの水に対する溶解度が20g以上でかつ沸点が100℃以下、また100℃以下で水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解する。この有機溶媒としてはジオキサン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等を例示することができる。かかる溶液にさらに小量の界面活性剤を添加することもできる。
【0026】
共重合ポリエステルを溶解した有機溶媒には次いで、攪拌下好ましくは加温高速攪拌下で水を添加し、青白色から乳白色の分散体とする。また攪拌下の水に前記有機溶液を添加する方法によっても青白色から乳白色の分散体とすることもできる。
【0027】
得られた分散体について、さらに常圧または減圧下にて親水性の有機溶媒を蒸発留去すると、目的の共重合ポリエステル水分散体が得られる。共重合ポリエステルを水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解した場合には、該有機溶媒留去時に水が共沸するので水の減量分を考慮し、前もって多めの水に分散しておくことが望ましい。加えて、留去後の固形分濃度が40質量%を越えると、水に分散する共重合ポリエステルの微粒子の再凝集が起こり易くなり、水分散体の安定性が低下するため、親水性の有機溶媒を留去後の固形分濃度は、40質量%以下とすることが好ましい。一方、固形分濃度の下限はとくにないが、濃度が低すぎると乾燥に要する時間が長くなるため、0.1質量%以上とするのが好ましい。前記共重合ポリエステル水分散体中における共重合ポリエステルの微粒子の平均粒径は、通常1μm以下であり、好ましくは0.8μm以下である。
【0028】
かくして得られる共重合ポリエステル水分散体は、後述するポリエステルフィルムの片面または両面に塗布し、乾燥することによって該フィルムに易接着性を付与することができる。
【0029】
ポリエステル水分散体は、塗布に際してアニオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤等の界面活性剤を必要量添加して用いることができる。有効な界面活性剤としては、ポリエステルの表面張力を40dyne/cm以下に降下でき、ポリエステルフィルムへの濡れを促進するものであり、公知の多くの界面活性剤を使用することができる。その一例としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、第4級アンモニウムクロリド、アルキルアミン塩酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ塩等をあげることができる。
【0030】
ポリエステル水分散体には、必要に応じて帯電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤等を添加してもよい。
またポリエステル水分散体に添加するフィラーとしてはシリカ、シリコーン、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。粒子の平均粒子径は20〜500nmが好ましく、共重合ポリエステルの質量を基準として、1〜10質量%含有することが望ましい。粒子の含有量が下限未満の場合は、粒子による耐ブロッキング効果が十分に発揮されず、他方上限を超えると、得られるフィルムのへーズが悪化しやすくなる。
【0031】
本発明において、本発明の共重合ポリエステル水分散体を塗布する高分子フィルムとしては、ポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート、またはこれらに他の共重合成分を共重合させたコポリマーからなるフィルムが好ましく挙げられる。ポリエステルフィルムは未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、ニ軸延伸フィルムのいずれでもよいが、ニ軸延伸フィルムが好適である。
【0032】
このようなポリエステルフィルムは、それ自体公知の方法を適用して製造できる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートを溶融し、シート状に押し出し、冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムを得、次いで該未延伸フィルムを二軸方向に延伸し、熱固定し、必要であれば熱弛緩処理することによって製造することができる。その際のフィルムの表面特性、密度、熱収縮率の性質は、延伸条件その他の製造条件により変わるので、必要に応じて適宜条件を選択することができる。たとえば、上記の製造方法においてポリエチレンテレフタレートを、Tm+10℃ないしTm+30℃(ただし、Tmはポリエチレンテレフタレートの融点)の温度で溶融し、押し出して未延伸フィルムを得、該未延伸フィルムを一軸方向(縦方向または横方向)にTg−10℃ないしはTg+50℃の温度(ただし、Tgはポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度)で2〜5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向(1段目延伸が縦方向の場合には、2段目は横方向となる)にTg〜Tg+50℃の温度で2〜5倍の倍率で延伸することで二軸延伸フィルムとすることができる。この場合、面積延伸倍率は9〜22倍、さらには12〜22倍にするのが好ましい。その後、さらに、得られたフィルムは、(Tg+60)〜Tm℃の温度で熱固定することができる。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては、200〜240℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は例えば1〜60秒である。
【0033】
本発明の共重合ポリエステル水分散体をポリエステルフィルムに塗布する工程は特に制限されず、任意に選定しうる。例えば、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムに共重合ポリエステル水分散体を塗布した後、加熱乾燥してからさらに延伸するか、ニ軸延伸フィルムに塗布し乾燥する。これらのうち、一軸延伸フィルムに塗布するのが好ましい。
【0034】
塗布は常法により可能であり、例えばキスコート、リバースコート、グラビアコート、ダイコート等を用いて塗布することができる。塗布量は、乾燥後の最終的層厚で0.01〜5μm(dry)が好ましく、さらに好ましくは0.01〜2μm(dry)、最も好ましくは0.01〜0.3μm(dry)である。
【0035】
かくして得られる易接着性ポリエステルフィルムは、接着力が高く、耐熱性、耐水性、耐ブロッキング性に優れ、しかもハードコート層など有機溶剤を用いた塗液を塗布した際の膨潤も抑えられており、例えば包装材料、磁気カード、磁気テープ、磁気ディスク、光学材料、印刷材料、グラフィック材料、感光材料、加飾材料等に有用である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は重量部を意味する。また、各特性値は下記の方法によって測定した。
【0037】
(1)耐溶剤性(膨潤率の測定)
共重合ポリエステルをチップの状態で、5メッシュ(目開き4000μm)の金網のふるい1と9メッシュ(目開き2000μm)の金網のふるい2とにこの順でかけて、ふるい1を通過し、ふるい2を通過しなかったチップ40gをサンプリングした。そして、サンプリングしたチップを入れたビーカーに酢酸エチル100mLを注ぎ、1時間静置した。その後、チップを前記ふるい2の上に取り出し、取り出してから23℃、50%RHの雰囲気下で2時間静置後、質量を測定し、以下の式により膨潤率を算出した。
膨潤率(%)=(浸漬後の質量−浸漬前の質量)/浸漬前の質量×100
【0038】
(2)親水性溶媒への溶解性
冷却還流管を接続したフラスコに共重合ポリエステルをチップの状態で2g入れ、THF20mLを注ぎ、3時間加熱還流した。その後、室温まで冷却し、12時間静置した後、目視にてチップの溶け残りがないか確認し、チップの溶け残りがない場合を溶解性○、チップの溶け残りがある場合を溶解性×とした。
【0039】
(3)ガラス転移温度(Tg)
TA Instrument社製、商品名:DSC 2920 Modulated DSCにて測定した。なお、測定は昇温速度20℃/分にて行った。
【0040】
(4)易接着層付きポリエステルフィルム
35℃のオルトクロロフェノール中で測定した固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを溶融押出して厚み158μmの未延伸フィルムを得、次いでこれを機械軸方向に85℃で3.5倍延伸した後、前記で調製した塗布液を一軸延伸フィルムの片面に、乾燥後の塗布量が20mg/mとなるように塗布した。その後、105℃で3.9倍に横方向(機械軸方向及び厚み方向に直交する方向)に延伸し、200℃で4.2秒間熱処理を施し、厚さ12.2μmの易接着層付きのニ軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0041】
(5)接着性
上記(4)で作成した片面に易接着層を設けたポリエステルフィルムの易接着層側の表面に、下記の組成からなるUV硬化組成物をマイヤーバーを用いて塗付し、直ちに70℃1分で乾燥し、強度80W/cmの高圧水銀灯で30s紫外線照射して硬化させ、膜厚5μmのハードコート層を形成した。ハードコート層の上にスコッチテープNo.600(3M社製)巾19.4mm、長さ8cmを気泡の入らないように貼着し、この上をJIS.C2701(1975)記載の手動式荷重ロールでならし、貼着積層部5cm間を東洋ボールドウィン社製テンシロンUM−11を使用してヘッド速度300mm/分で、この試料をT字剥離した。そして、剥離後のポリエステルフィルムの表面を観察し、ハードコート層が剥離していないものを○、剥離が見られるものを×として、評価した。なお、T字剥離において、積層体はスコッチテープ側を下にして引き取り、チャック間を5cmとする。
<UV硬化組成物>
ペンタエリスリトールアクリレート :45質量%
N−メチロールアクリルアミド :40質量%
N−ビニルピロリドン :10質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン: 5質量%
【0042】
(6)耐ブロッキング性
上記(4)で作成した片面に易接着層を設けたポリエステルフィルムを機械軸方向に10cm、横方向に20cmとなるように裁断したものを2枚用意し、易接着層の設けられた表面と、易接着層の設けられていない表面とを重ねあわせ、これに0.6kg/cmの圧力をサンプル全面に60℃×80%RHの雰囲気下17時間かけた後、フィルムの横方向におけるサンプルの一端において、端から1cmをT字型になるように折り返し、上記テンシロンUM−11のチャックにはさみ、T字方向に10cm/分の速度でフィルムの横方向に沿って完全に剥離したときにかかる積算応力を剥離長さで除して幅10cmあたりの平均剥離力を算出し、以下の基準で評価した。
○:平均剥離力が380mN/10cm未満
×:平均剥離力が380mN/10cm以上
【0043】
[実施例1]
<共重合ポリエステルの製造>
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、イソフタル酸ジメチル34部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル13部、エチレングリコール43部、テトラメチレングリコール40部、ビスフェノールAエチレンオキシド付加体(前記式(1)におけるn+m=4)51部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.1部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。
次いで、この反応系に、イルガノックス1010(チバガイギー社製)0.5部を添加した後、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を1mmHgまで減圧して重縮合反応を行ない、固有粘度0.558dl/gの共重合ポリエステルを得た。
得られた共重合ポリエステルの組成を表1に示す。
【0044】
<共重合ポリエステル水分散体の調製>
得られた共重合ポリエステル20部をテトラヒドロフラン80部に溶解し、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水180部を滴下して青みがかった乳白色の分散体を得た。次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。かくして固形分濃度10質量%のポリエステル水分散体を得た。島津製作所製SA−CP4Lを用いて、この水分散体中の共重合ポリエステルの微粒子の平均粒径を測定したところ、0.12μmであった。
さらに、該ポリエステル水分散体180部にノニオン系界面活性剤:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12.8)2部、フィラーとして平均粒径0.03μmのシリカを27部加え、さらに水618部を加えて塗布液を調製した。
得られた共重合ポリエステル水分散体、塗布液およびそれを用いた易接着層付きポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例2〜10および比較例1〜13]
共重合成分の種類および仕込み量を、表1の組成になるように変える以外は実施例1と同様に行なって、表1に示す割合の共重合ポリエステルを得た。次いで、これら共重合ポリエステルを用いる以外は、実施例1と同様に行なって共重合ポリエステル水分散体、さらには塗布液を調製した。
さらにこれらの塗布液を用いる以外は実施例1と同様に行なって、易接着層付きポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステル、共重合ポリエステル水分散体、塗布液およびそれを用いた易接着層付きポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、親水性溶媒への溶解性が×だった共重合ポリエステルは、それ以上の評価は行わなかった。
【0046】
【表1】

【0047】
表1中のNDAは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、IAはイソフタル酸成分、TAはテレフタル酸成分、NSIAは5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、BPA−2はビスフェノールAのエチレンオキシド2付加体成分、BPA−4はビスフェノールAのエチレンオキシド4付加体成分、BPA−23はビスフェノールAのプロピレンオキシド2付加体成分、EGはエチレングリコール成分、TMGは1,4−ブタンジオール成分、BPEFはビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン成分を意味する。
【符号の説明】
【0048】
1 塗布層
2 フィルム
3 剥離力を測定する際の、チャックの進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる共重合芳香族ポリエステルであって、
芳香族ジカルボン酸成分は、60〜80モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1〜10モル%がスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸成分および10〜35モル%が他の芳香族ジカルボン酸成分であり、
グリコール成分は、20〜70モル%がエチレングルコール成分、10〜30モル%が下記式(1)で示されるビスフェノールA成分、20〜50モル%が炭素数3から10の脂肪族グリコール成分および0〜20モル%の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分であるコーティング用共重合ポリエステル。
【化1】

(上記式(1)中のmとnは、1または2である。)
【請求項2】
他の芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分またはイソフタル酸成分である請求項1記載のコーティング用共重合ポリエステル。
【請求項3】
炭素数3から10の脂肪族グリコール成分がテトラメチレングリコール成分である請求項1記載のコーティング用共重合ポリエステル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング用共重合ポリエステルを水に分散させた共重合ポリエステル水分散体。
【請求項5】
平均粒子径が20〜500nmの不活性粒子を、共重合ポリエステルの質量を基準として、1〜10質量%含有する請求項4記載の共重合ポリエステル水分散体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23531(P2013−23531A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158100(P2011−158100)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】