説明

コーティング組成物、コーティング膜、熱交換器および空気調和機

【課題】空気調和機の熱交換器のように水に曝される物品を被覆するための、防汚性能、防臭性能、初期の親水性および持続親水性に優れたコーティング膜、ならびに、該コーティング膜を形成するために使用されるコーティング組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、シルクパウダーとフッ素樹脂粒子とを含有することを特徴とする、物品の表面にコーティング膜を形成するためのコーティング組成物に関する。また、本発明は、上記コーティング組成物を用いて物品の表面に形成され、フッ素樹脂粒子が部分的に露出しており、該フッ素樹脂粒子が露出した部分の表面積の合計がコーティング膜の総表面積の50%未満であることを特徴とする、コーティング膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面にコーティング膜を形成するために用いられるコーティング組成物に関し、例えば、空気調和機に用いられる熱交換器の表面をコーティングするのに適したコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気調和機などの熱交換器は、多数枚のフィンと、伝熱管とを有している。フィンは、所定のピッチで互いに平行に配列されている。伝熱管は、この多数枚のフィンを貫通してこのフィンと一体になるように形成されている。伝熱管の内部に冷媒が流動することで、たとえばフィンが冷却される。冷却されたフィンの間に空気を送ることにより、この空気が冷却される。このとき、冷却された空気中の水分が凝縮して液化すると、水滴がフィンの表面に付着する。フィンの表面上の水滴が多くなり、特にフィン間に水滴のブリッジが形成されると、通風抵抗が大きくなるという問題があった。さらに、この水滴は、空気調和機から水滴が飛び出す現象(露飛び)も生じさせる。
【0003】
そこで、水ガラス、親水性ポリマー、または親水性ポリマーと無機化合物とを含む組成物を塗布することにより、フィンの表面を親水化して、水滴のブリッジを形成させないようにする処理が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、分散粒子径5〜100nmのコロイダルシリカ、およびカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーを含有し、pH値1〜5である水性の親水性付与剤、および、この親水性付与剤を使用した熱交換器用プレコートフィン材の製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、空気調和機の熱交換器では、粉塵、油煙およびタバコのヤニ等の様々な汚れが付着した場合、見た目が悪いだけでなく、これらの汚れがもとでカビや菌が繁殖するという衛生上の問題も生じる。特に、これらの汚れは、親水化処理されたフィン表面の親水性を低下させ、フィン表面に水滴を生じさせる要因ともなり、露飛びや冷房・暖房性能の低下をもたらす。
【0006】
これら衛生上の問題や性能低下を防止するためには、熱交換器のフィン表面を親水化するだけでは不十分で、様々な汚れの付着も抑制しなければならない。
【0007】
例えば、特許文献2には、建築外装材料や熱交換器用のフィン等の様々な汚れの付着を抑制する方法として、光触媒性酸化物を含む無機酸化物と、疎水性樹脂とを含むコーティング組成物をフィン表面に塗布することで、無機酸化物および疎水性樹脂が最表面に微視的に分散し且つ露出した膜を形成する方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献2に示されるコーティング組成物は、光触媒性酸化物への光照射により生じる光励起によって、部分的に親水性が付与されるものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという問題があった。また、水との接触角が90°以上のコーティング膜であるため、熱交換器のフィン間に溜まる前の微小な状態で除去された水滴が霧状となって空気調和機から噴出したり、場合によっては露飛びが生じたりする等の問題があった。
【0009】
また、上記特許文献1に記載された熱交換器用プレコートフィン材では、水溶性樹脂あるいは水分散性樹脂と、コロイダルシリカあるいは微粒子シリカとが併用されているため、シリカの凹凸により親水性には優れるものの、このフィン材を用いて組み立てられた熱交換器は、シリカ微粒子の露出によりその使用時、特に冷房運転開始初期に、シリカ独特の埃臭や、シリカに吸着された臭気物質の離脱促進による悪臭が発生するという問題点もあった。さらに、冷房と暖房の繰り返し運転によって、フィン表面に付着した凝縮水にフィン材中の親水基ならびに界面活性剤が溶出し、長期にわたってフィン材の親水性を持続することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−30069号公報
【特許文献2】特開2001−88247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するためになされたものであり、空気調和機の熱交換器等のように水に曝される物品を被覆するための、防汚性能、防臭性能、初期の親水性および持続親水性に優れたコーティング膜、ならびに、該コーティング膜の形成に使用されるコーティング組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、物品の表面にコーティング膜を形成するためのコーティング組成物であって、シルクパウダーとフッ素樹脂粒子とを含有することを特徴とする、コーティング組成物に関する。
【0013】
上記コーティング組成物は、高分子凝集剤をさらに含むことが好ましい。また、上記シルクパウダーの含有量は0.1〜5重量%であることが好ましい。また、上記シルクパウダーと上記フッ素樹脂粒子との重量比は、60:40〜95:5であることが好ましい。さらに、上記高分子凝集剤の含有量は0.1〜20重量%であることが好ましい。
【0014】
上記シルクパウダーは、1μm以下の体積平均粒子径を有することが好ましい。また、上記フッ素樹脂粒子は、1〜3μmの体積平均粒子径を有することが好ましい。ぞれぞれの平均粒径は、例えば動的光散乱法粒子系分布解析装置として、サブミクロン粒子アナライザー DelsaNano S(ベックマン・コールター社製)を使用し、粒径分布を測定する際に、累積分布図における50%の粒度である。
【0015】
また、本発明は、上記コーティング組成物を用いて、物品の表面に形成されるコーティング膜であって、フッ素樹脂粒子が部分的に露出しており、該フッ素樹脂粒子が露出した部分の表面積の合計がコーティング膜の総表面積の50%未満であることを特徴とする、コーティング膜に関する。
【0016】
また、本発明は、上記コーティング膜を有することを特徴とする熱交換器にも関する。
さらに、本発明は、上記コーティング膜を有する部品を備えることを特徴とする空気調和機にも関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面にシルクパウダーとフッ素樹脂との両方が存在し、親水性の部分と疎水性の部分とが混在したコーティング膜が形成される。このようなコーティング膜は、親水性の汚れが付着しやすい状態の親水性の部分のみ、または、疎水性の汚れが付着しやすい状態の疎水性の部分のみが表面に存在するコーティング膜に比べて、塵埃や油煙等の親水性汚損物質および疎水性汚損物質の両方に対して優れた防汚性能を発揮する。したがって、本発明のコーティング膜で被覆された物品の表面の汚れを防止することができる。
【0018】
また、コーティング膜を形成するためのコーティング組成物のベース材料として、シリカではなくシルクパウダーを使用することで、シリカ独特の埃臭がなく、臭気物質の吸着を抑制することにより悪臭発生が抑制される。また、耐光性の向上も期待できる。
【0019】
さらに、コーティング組成物中に高分子凝集剤を含む場合、コーティング膜におけるシルクパウダー等の凝結・凝集作用が付与される。このため、水に曝される物品の表面にコーティング膜を形成する場合においても、コーティング膜の溶け出しが抑制され、長期にわたり物品表面の親水性を確保することができる。
【0020】
また、本発明の熱交換器および空気調和機は、防汚性能と耐久性に優れるため、汚れによる見た目の悪化や、汚れに起因する衛生上の問題(カビや細菌の繁殖等)、熱交換器の性能低下を防止することができる。さらに、本発明のコーティング膜は、膜全体としては親水性であるため、フィン間に水滴のブリッジが形成されることを防止し、露飛びを防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のコーティング組成物を用いて物品の表面にコーティング膜が形成された状態を示す断面模式図である。
【図2】高分子凝集剤13によりシルクパウダー11の間が架橋された構造を示す概念図である。
【図3】本発明のコーティング膜を有する熱交換器を示す模式図である。
【図4】本発明のコーティング膜を有する部品を具備する空気調和機を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1) コーティング組成物およびコーティング膜
以下、本発明のコーティング組成物の一実施形態(実施形態1)について、図面に基づいて具体的に説明する。
【0023】
実施形態1において、本発明のコーティング組成物を用いたコーティング膜により被覆される物品としては、例えば、空気調和機に使用される熱交換器(特に金属フィンなど)が挙げられる。ただし、本発明のコーティング膜によって被覆される物品は、熱交換器に限定されるものではなく、水に曝される可能性のある種々の物品などである。
【0024】
図1は、本実施形態のコーティング組成物を用いて、物品2の表面にコーティング膜1が形成された状態での断面を示している。
【0025】
本実施形態のコーティング膜は、物品2上に塗布されたコーティング組成物を乾燥することにより形成される。図1に示すコーティング膜1においては、シルクパウダー11の間に疎水性を示すフッ素樹脂粒子12が点在している。さらに、該コーティング膜1は、図2に示されるように、水溶性高分子である高分子凝集剤13によりシルクパウダー11の間が架橋された構造を有しており、安定化されたコーティング膜となっている。本実施形態のコーティング膜は多孔膜であるが、本発明のコーティング膜の形状は、このような形状に限定されない。
【0026】
本実施形態のコーティング組成物は、シルクパウダーが分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子が分散された水(分散液)とを混合し、さらに、高分子凝集剤が分散された水(分散液)を混合することによって得られる。
【0027】
<シルクパウダー>
シルクパウダー11とは、絹繊維を粉末化したものである。絹繊維を加水分解し、中和・脱塩した後、乾燥させ粉砕することによって得ることができる。
【0028】
シルクパウダー11の体積平均粒子径は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5〜0.8μmである。この範囲の体積平均粒子径を有するシルクパウダー11を使用することで、コーティング組成物を乾燥させた後にシルクパウダー11同士が凝集しやすくなるため、コーティング組成物の固化が容易になる。シルクパウダー11の体積平均粒子径が1μmを超える場合は、得られるコーティング膜が十分な強度を有さない。また、シルクパウダー11の体積平均粒子径が0.5μm未満の場合は、コーティング組成物の安定性が低下したり、得られるコーティング膜1の所望の強度や防汚性能が得られなくなる場合がある。
【0029】
溶媒を含むコーティング組成物中のシルクパウダーの含有量は、好ましくは0.1〜5重量%であり、より好ましくは0.3〜2.5重量%である。シルクパウダーの含有量がこの範囲内であれば、物品表面の色調を損なうことなく、均一なコーティング膜1を形成することができる。シルクパウダーの含有量が0.1重量%未満であると、得られるコーティング膜1が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、所望の防汚特性が得難くなる。一方、シルクパウダーの含有量が5重量%を超えると、コーティング膜1が厚くなりすぎて着色(黄色)膜となり、物品表面の色調や風合いを損なうことになる。さらに、コーティング膜1にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりするため、コーティング膜1が強度的に劣るようになる。
【0030】
<フッ素樹脂粒子>
フッ素樹脂粒子12とはフッ素樹脂からなる粒子である。該フッ素樹脂は、フッ素を含有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、および、これらの共重合体、ならびに、これらのフッ素樹脂を混合した樹脂を用いることができる。これらの中でも、安定性に優れ、且つ疎水性が大きなPTFEまたはFEPを用いることが好ましい。
【0031】
フッ素樹脂粒子12の体積平均粒子径は、特に制限されることはないが、好ましくは1〜3μmである。フッ素樹脂粒子12の体積平均粒子径がこの範囲内である場合、フッ素樹脂粒子12がコーティング膜1中に適度に分散するとともに、コーティング膜1の表面に(全部ではなく)部分的に露出し易くなるため、コーティング膜1に良好な防汚性能を付与することができる。
【0032】
体積平均粒子径が1μm未満のフッ素樹脂粒子であると、コーティング組成物溶液において粒子同士の凝集により安定性が得られなかったり、フッ素樹脂粒子がコーティング膜の表面に露出し難くなって所望の防汚性能が得られなかったりすることがある。
【0033】
一方、体積平均粒子径3μmを超えるフッ素樹脂粒子であると、形成されるコーティング膜1において、疎水性部分の領域が大きくなったり、表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質が引っ掛り易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0034】
溶媒を含むコーティング組成物中のシルクパウダーの含有量は、好ましくは0.1〜5重量%であり、より好ましくは0.3〜2.5重量%である。
【0035】
コーティング組成物中のシルクパウダー11とフッ素樹脂粒子12との重量比は、好ましくは60:40〜95:5であり、より好ましくは75:25である。このような範囲の重量比であれば、シルクパウダー粒子に起因する親水性領域と、フッ素樹脂粒子に起因する疎水性領域とがバランスよく混在したコーティング膜1が、常温での乾燥により得られ、良好な防汚性能を得ることができる。
【0036】
シルクパウダー11とフッ素樹脂粒子12との重量比が95:5より多い場合、コーティング膜1におけるフッ素樹脂粒子12の間隔が大きくなり、コーティング膜1の表面において、大きさが数μm〜数十μmの微小な砂塵などの親水性汚損物質が固着し易い部分の面積が大きくなってしまうため、親水性汚損物質が有機微粒子膜4に固着する可能性が高くなる。
【0037】
シルクパウダー11とフッ素樹脂粒子12との重量比が60:40よりも少なくなれば、有機微粒子膜4中にフッ素樹脂粒子12が点在する間隔が狭くなり、静電気に由来する汚れ防止が得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0038】
<高分子凝集剤>
高分子凝集剤13としては、特に限定されることはなく、添加する分散液のpHなどの各種条件に応じて適切なものを選択すればよい。本発明のコーティング組成物が高分子凝集剤13を含む場合、溶媒を含むコーティング組成物中の高分子凝集剤13の含有量が、0.1〜20重量%であることが好ましい。高分子凝集剤13の含有量がこの範囲である場合、コーティング膜におけるシルクパウダー等の凝結・凝集作用が付与されるため、コーティング膜の親水性を長期間維持することができる。高分子凝集剤13の含有量が0.1重量%未満である場合、コーティング膜の親水性を長期間維持する効果が得られないことがある。一方、高分子凝集剤13の含有量が20重量%を超える場合、コーティング膜の強度が低下することがある。
【0039】
高分子凝集剤の例としては、ノニオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などが挙げられる。これらの高分子凝集剤は、単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
ノニオン性高分子凝集剤は、ノニオン性モノマーの重合体であれば特に限定されず、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアセトアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。ノニオン性モノマーとしては、アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド;スチレン;アクリロニトリル;酢酸ビニル;アルキル(メタ)アクリレート;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルピリジン;ビニルイミダゾール;アリルアミンなどが挙げられる。これらのノニオン性モノマーは、単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
アニオン性高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アニオン性モノマーの重合体、アニオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合体などが挙げられる。アニオン性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミドエタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、および、これらの金属塩(アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩など)またはアンモニウム塩などが挙げられる。これらのアニオン性モノマーは、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0042】
カチオン性高分子凝集剤としては、カチオン性モノマーの重合体や、カチオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合体などが挙げられる。カチオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートまたはこれらの中和塩や4級塩などが挙げられる。また、分子内にアミジン単位を含有するものも使用可能である。
【0043】
両性高分子凝集剤の例としては、アクリルアミド・アクリル酸アルキルアミノ(メタ)アクリレート4級塩共重合物などが挙げられる。
【0044】
なお、ノニオン性高分子凝集剤以外の高分子凝集剤が、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物、硫酸塩などのイオン対を有している場合、コーティング組成物の安定性を低下させる原因となる場合がある。そのため、高分子凝集剤は、ノニオン性高分子凝集剤であることがより好ましい。
【0045】
なお、上記の各高分子凝集剤は一般に市販されているので、市販品を使用することも可能である。また、高分子凝集剤の形態は、特に限定されず、粉末、分散液、ペースト、エマルジョン、溶液などのいずれの形態であってもよい。
【0046】
本発明のコーティング組成物は、コーティング組成物の濡れ性やコーティング膜の密着性を向上させる観点から、界面活性剤、有機溶剤などをさらに含むこともできる。界面活性剤としては、たとえば各種のアニオン系またはノニオン系の界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤として、たとえばポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマー、ポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤などの起泡性の低い界面活性剤が、使用しやすいため好適に用いられる。有機溶剤としては、たとえばアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系などの各種のものが挙げられる。
【0047】
また、本発明のコーティング組成物は、カップリング剤およびシラン化合物の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。この場合には、上記の効果の他に、コーティング膜1の透明性および強度を向上することができる。さらに、コーティング膜1の親水性の調整ができるなどの効果も得られる。
【0048】
カップリング剤としては、たとえば3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどのメタクリロキシ系、メルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系などが挙げられる。
【0049】
シラン化合物としては、たとえば、トリフルオロプロピルトリメトキシラン、メチルトリクロロシランなどのハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどのアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン化合物、メチルメトキシシロキサンなどのオリゴマーなどが挙げられる。
【0050】
なお、界面活性剤、有機溶剤、カップリング剤、シラン化合物などの含有量は、特に制限されないが、本実施形態のコーティング膜1の特性を損なわないような範囲内で、選択した成分にあわせて調整される。
【0051】
<コーティング組成物の調製方法>
本発明のコーティング組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、シルクパウダーの分散液とフッ素樹脂粒子の分散液を混合することによって、発明のコーティング組成物を調製することができる。
【0052】
ここで、シルクパウダー11の分散液の溶媒は、好ましくは水などの極性溶媒である。極性溶媒を用いることにより、粒子の凝集による沈殿やコーティング膜の強度や透明性の低下を抑制し、分散安定性を確保することができる。
【0053】
上記分散液中のシルクパウダー11の含有量は、20重量%以下であることが好ましい。シルクパウダー11の含有量が20重量%以下の場合、分散液の安定性が向上する。
【0054】
また、フッ素樹脂粒子の分散液の溶媒は、好ましくは水などの極性溶媒である。極性溶媒を用いることにより、、粒子の凝集による沈殿やコーティング膜の強度や透明性の低下を抑制し、分散安定性を確保することができる。また、該分散液中には、フッ素樹脂粒子を均一に分散させるために界面活性剤などが配合されてもよい。
【0055】
また、シルクパウダー11の分散液とフッ素樹脂粒子12の分散液とを混合する際に、シルクパウダー11の粒子が凝集するのを防止するために、両者の分散液のpHを同程度に調整することが好ましい。
【0056】
さらに、高分子凝集剤13の分散液の溶媒は、好ましくは水などの極性溶媒である。極性溶媒を用いることにより、粒子の凝集による沈殿を抑制し、分散安定性を確保できる。より好ましくは、高分子凝集剤13の分散液は、ノニオン性高分子凝集剤を水に分散させた分散液である。
【0057】
<コーティング膜の作製方法>
上記の方法で調製されたコーティング組成物を用いて、様々な物品の表面にコーティング膜1を作製することができる。コーティング膜1の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を用いることが可能である。たとえば、スプレー塗布、浸漬などにより、物品の表面にコーティング膜1を作製することができる。
【0058】
コーティング膜1を乾燥する方法は、特に限定されず、常温で乾燥してもよく、加熱して乾燥してもよい。加熱する場合の温度の上限は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。温度が100℃を超える場合、シルクパウダー11が変質したり、コーティング膜1の疎水性が高くなりすぎる等の問題が生じることがある。また、加熱温度の下限は、好ましくは15℃以上である。温度が15℃未満である場合、乾燥時間が長くなったり、コーティング膜1の疎水性が高くなって所望の防汚性能が得られなかったりすることがある。
【0059】
以上のように、上記コーティング組成物を用いて物品の表面に形成されたコーティング膜1は、フッ素樹脂粒子が部分的に露出しており、該フッ素樹脂粒子が露出した部分の表面積の合計がコーティング膜の総表面積の50%未満である。このため、該コーティング膜は、親水性汚損物質と疎水性汚損物質の両方とも付着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能を発揮し、コーティングされた物品表面の汚れを防止することができる。また、シルクパウダー11を使用することで、臭気物質の吸着を抑止して悪臭の発生を抑制する効果や、耐光性の向上効果も期待できる。
【0060】
ここで、本発明のコーティング組成物が適用される物品としては、特に限定されることはなく、粉塵、油煙およびタバコのヤニ等の様々な親水性および疎水性の汚れが付着する、室内または室外で使用される各種物品が挙げられる。
【0061】
また、コーティングを施す物品によっては、本発明のコーティング組成物の濡れ性やコーティング膜1の密着性を向上させる観点から、コロナ処理、UV処理等の前処理を物品表面に施すこともできる。
【0062】
(実施形態2) 熱交換器
図3に、本実施形態における熱交換器3の斜視図を示す。本実施形態の熱交換器3は、上記実施形態1のコーティング組成物により形成されたコーティング膜1を有する。
【0063】
図3において、熱交換器3は、互いが平行となるように配列された複数のフィン13と、それらのフィン13を貫通しながら複数列をなして挿設された冷媒が通る金属の配管14により構成されている。フィン13は平行に配列されることが一般的であるが、コルゲート型に配列されてもよい。フィン13は金属製であり、その素材としてアルミニウムが多く使用されている。また、配管14は、ここでは銅パイプとしている。
【0064】
そして、このフィン13および/または配管14の表面に、実施形態1のコーティング組成物を用いてコーティング膜1が形成されている。コーティング膜1は、防汚性能および耐久性に優れるため、汚れによる見た目の悪化や汚れに起因するカビや細菌の繁殖等の衛生上の問題や熱交換器3の性能低下を防止することができる。さらに、このコーティング膜は、膜全体として見れば親水性であるため、水滴によるフィン13の間のブリッジを防止し、露飛びや熱交換器3の性能劣化を防止することもできる。
【0065】
また、空気調和機の熱交換器3は、長期間使用された場合、シルクパウダー11が、コーティング膜1の表面に付着した結露水に少なからず溶け出していく可能性がある。このことを考慮すれば、初期の親水性を確保しただけでは十分ではない。そこで、高分子凝集剤13をコーティング組成物中に混合することにより、空気調和機が10年間使用された場合に相当する水に曝される流水試験を行っても、シルクパウダーの溶け出しを抑制し、コーティング膜の親水性を維持することができる。
【0066】
(実施形態3) 空気調和機
本実施形態の空気調和機は、実施形態1のコーティング組成物により形成されたコーティング膜1を有する部品を具備する。ここで、部品とは、特に限定されることはなく、汚れや水滴等が付着する空気調和機の各部品が挙げられる。かかる部品としては、熱交換器3、ファン、ベーン、フラップ等の空気調和機の風路に存在する部品等が挙げられる。
【0067】
図4に本実施形態における空気調和機4(室内機のみを示す)の断面模式図を示す。図4において、空気調和機4は、筐体41の内部に収納された熱交換器3と、送風機であるクロスフローファン42と、ベーン43と、フラップ44とを具備する。本発明のコーティング膜1は、熱交換器3、クロスフローファン42、ベーン43、フラップ44の少なくとも一つの表面に形成されている。
【0068】
このコーティング膜1は、塵埃や油煙等の親水性・疎水性の多様な汚れ物質に対する防汚性能および耐久性に優れているため、汚れによる見た目の悪化や、汚れを起因とする衛生上の問題(カビや細菌の繁殖など)や、熱交換器3の性能低下を防止することができる。さらに、このコーティング膜は、膜全体として見れば親水性であるため、水滴が付着した場合であっても露飛びを防ぐことができる。
【実施例】
【0069】
以下、具体的な実施例を示すことにより、本発明のコーティング組成物の詳細な評価結果を説明するが、これらによって本発明の範囲を限定するものではない。コーティング膜は、アルミニウム製のフィンで形成された熱交換器を使用している。
【0070】
〔実施例1〜8〕
体積平均粒子径が1μmのシルクパウダーおよび純水からなるシルクパウダー分散液と、体積平均粒子径2μmのPTFE粒子を含むPTFEディスパージョンとを攪拌混合した。その後、得られた混合液に、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)およびノニオン性高分子凝集剤(ポリアクリルアミド系)を加えて攪拌混合することにより、表1の組成を有するコーティング組成物(実施例1〜8)を調製した。なお、コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。
【0071】
【表1】

【0072】
次に、上記コーティング組成物に熱交換器を浸漬し、熱交換器の全表面を覆うようにコーティング組成物を形成した。その後、常温でコーティング組成物を乾燥することにより、コーティング膜を形成した。
【0073】
〔比較例1〕
比較例1では、従来から空気調和機の熱交換器に使用されているシリカを含む親水性コーティング膜を熱交換器に施した。該親水性コーティング膜の組成は、アクリル系樹脂にシリカが分散したものである。
【0074】
〔比較例2〕
比較例2では、同様に従来から空気調和機の熱交換器に使用されているポリビニルアルコール(PVA)を用いた親水性コーティング膜を熱交換器に施した。該親水性コーティング膜の組成は、ポリビニル系樹脂にシリカが分散したものである。
【0075】
(評価試験)
実施例1〜8および比較例1、2の熱交換器について、コーティング膜の性状、臭い官能試験、防汚性、持続親水性を評価した。
【0076】
(1) 性状
コーティング膜の性状は、目視観察により評価した。
【0077】
(2) 臭い官能試験
熱交換器を同じ大きさに切出し、数種類の臭い物質を注入した3Lのポリ容器に入れて、60℃の温度条件下で1時間放置した後、この熱交換器が入るガラス瓶に水を添加し、8人の試験者が熱交換器の臭いを官能評価した。評価は、最も臭わないものを1とし、最も臭うものを5とした5段階で評価した。表2には、8人の評価の合計値を示した。
【0078】
(3) 防汚性評価
防汚性評価としては、疎水性汚損物質(カーボンブラック粉塵)と親水性汚損物質(関東ローム砂塵)の熱交換器への付着性を評価した。上記実施例および比較例で作製した熱交換器のフィンの表面(混合層)に、所定量のカーボンブラック粉塵または関東ローム砂塵を、エアーで所定時間吹きつけて、カーボンブラック粉塵または関東ローム砂塵の付着によるフィンの着色を目視で観察し、着色の程度を5段階で評価した。この評価では、カーボンブラック粉塵または関東ローム砂塵の付着による着色がほとんどないものを1とし、カーボンブラック粉塵または関東ローム砂塵の付着による着色の程度が最も高いものを5とした。
【0079】
(4) 持続親水性評価
コーティングされた熱交換器を切出し、2L/分のイオン交換水の流水中に浸漬して放置し、所定時間後に取り出して乾燥した後に、水に対する接触角を測定した。接触角は、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。
【0080】
以上の評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示されるように、いずれの実施例も疎水性汚損物質および親水性汚損物質の付着性が比較例よりも低いことが分かる。また、いずれの実施例も臭い官能試験のおいて比較例1よりも良好な結果を示した。なお、コーティング組成物における高分子凝集剤の含有量が0.1重量%以下である実施例1、2に比べて、高分子凝集剤の含有量が10重量%以上である実施例3〜8の方が、持続親水性に優れることが分かる。また、実施例4、5ではコーティング膜に微白濁が生じているが、これはシルクパウダーあるいは高分子凝集剤の添加量が多いことに起因し分散安定性が劣るためであると考えられる。
【0083】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 コーティング膜、11 シルクパウダー、12 フッ素樹脂粒子、13 高分子凝集剤、2 物品、3 熱交換器、31 フィン、32 配管、4 空気調和機、41 筐体、42 クロスフローファン、43 ベーン、44 フラップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面にコーティング膜を形成するためのコーティング組成物であって、シルクパウダーとフッ素樹脂粒子とを含有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
高分子凝集剤をさらに含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記シルクパウダーの含有量が0.1〜5重量%である、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記シルクパウダーと前記フッ素樹脂粒子との重量比が60:40〜95:5である、請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記高分子凝集剤の含有量が0.1〜20重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記シルクパウダーが、1μm以下の体積平均粒子径を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記フッ素樹脂粒子が、1〜3μmの体積平均粒子径を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のコーティング組成物を用いて物品の表面に形成され、フッ素樹脂粒子が部分的に露出しており、該フッ素樹脂粒子が露出した部分の表面積の合計がコーティング膜の総表面積の50%未満であることを特徴とする、コーティング膜。
【請求項9】
請求項8に記載のコーティング膜を有することを特徴とする熱交換器。
【請求項10】
請求項8に記載のコーティング膜を有する部品を備えることを特徴とする空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184606(P2011−184606A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52719(P2010−52719)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】