説明

コーティング組成物、及びシリカ−エポキシ樹脂複合材料

【課題】基材との密着性が高く、高い透明性と高い硬度を共に有する透明性保護膜が得られる新規のコーティング組成物、また、そのコーティング組成物を用いた透明性保護膜となるシリカ−エポキシ樹脂複合材料を提供する。
【解決手段】本発明のコーティング組成物は、特定のエポキシ化合物とポリシラザンと、ポリシラザンを溶解する乾燥溶媒と、の混合物からなる。乾燥溶媒に溶解された状態のポリシラザンは、特定のエポキシ化合物が有する脂環に直接結合したエポキシ基と反応が起こり、発生する水酸基との間で結合する。ポリシラザン分子は、エポキシ樹脂に固定され、エポキシ樹脂とポリシラザンとの巨視的な相分離が抑制される。その結果、本発明のコーティング組成物から得られる透明性保護膜は、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成し透明なシリカ−エポキシ樹脂複合材料となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料、および各種部材の表面を保護する耐熱性を有する透明性保護膜に関するものであり、該シリカ−エポキシ樹脂複合材料、該透明性保護膜などを形成するためのコーティング組成物、該コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法、および透明性保護膜を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系の被膜は、耐熱性、耐摩耗性、絶縁性などに優れているため、各種部材の表面を保護する保護膜として広く用いられている。特許文献1〜3には、アクリル系樹脂、シリル基を有する高分子を用いたものが報告されている。シリコン系の被膜の成膜方法には、たとえば、ポリシラザン等の前駆体ポリマーが用いられる。ポリシラザンは、常温でもシリカへの転化反応が進み、その結果、石英ガラスと同じ物性のシリカが得られるため、耐熱温度の低い樹脂製の部材にも被膜を形成できる。ところが、シリカの被膜は非常に硬いため、クラックが生じやすく、成膜が難しいという問題がある。また、シリカの被膜は、表面に水酸基を有しない樹脂材料からなる基材の表面に形成されると、基材との密着性が低いという問題もある。
【0003】
特許文献4には、ポリシラザン修飾ポリアミンをエポキシ樹脂の硬化剤としてボイド(気泡)の発生しにくい硬化物になることを特徴とするエポキシ樹脂用ポリシラザン修飾ポリアミン硬化剤が開示されている。しかしながら、本文詳細説明中に脂環エポキシ化合物に関する記載はあるが、ミクロ相分離構造、特に連続ラメラを形成することに関しては言及されていない。
【0004】
特許文献5には、エポキシ樹脂とポリシラザンとの反応硬化物に関する記載があるが、実施例では、エポキシ化合物としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテル(芳香族ジエポキシド)のみが示され、脂環エポキシ化合物を用いた実施例はない。さらに、硬化物について、ミクロ相分離構造、特に連続ラメラを形成することについては言及されていない。
【0005】
非特許文献1〜3には、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)は焼結によりシリカへと転化する無機オリゴマーであり、ペルヒドロポリシラザンは分子内にアミンを有するために、グリシジル基を有するエポキシ化合物に対してエポキシ硬化剤として機能し、ミクロ相分離構造を発現した複合体となることが開示されている。しかしながら、1分子当り複数以上のグリシジル基を持つエポキシ化合物とPHPSの反応性は常温で進行し、反応制御が困難であった。非特許文献1〜3に記載のシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、ポリシラザンの配合により、ミクロ分離構造を発現し耐熱性が向上するが、ポリシラザンとエポキシ化合物の反応性が著しく速いためにコーティング材料として活用することが困難であった。
また、従来のエポキシ化合物とポリシラザンからなるシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、ポリシラザンの分解(アンモニア、水素)によりボイドなどの発生により、透明性が損なわれるだけでなく、ボイドの発生により本来シリカ−エポキシ樹脂複合材料が有する機械的特性などを損なうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328220号公報
【特許文献2】特開2006−328217号公報
【特許文献3】特開2005−232275号公報
【特許文献4】特開2008−7788号公報
【特許文献5】米国特許第5,616,650号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reiko Saito, Tohru Kumagai. Morphology control of epoxy-silica nanocomposites synthesized with perhydropolysilazane. 11th Pacific Polymer Conference 2009. 11th Pacific Polymer Conference 2009. pp. T1.3.1. 2009. Dec
【非特許文献2】斎藤礼子,熊谷徹、ペルヒドロポリシラザンを用いたエポキシ−シリカナノ複合体の構築、第58回高分子討論会、高分子学会予稿集、Vol.58. No.2. pp.4525-4526. 2009. Sep
【非特許文献3】熊谷徹,斎藤礼子、ペルヒドロポリシラザンを用いたエポキシ−シリカ複合体の合成、第58回高分子年次大会、高分子学会予稿集、Vol.58. No.1. p.666. 2009. May
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シリカとエポキシ樹脂が連続ラメラを形成し、主としてエポキシ樹脂を含む有機部と主としてシリカを含む無機部とがナノオーダーでそれぞれ層を形成し、これらの層が交互に配置され、シリカがシリカ−エポキシ樹脂複合材料中にナノメーターレベルで分散することにより、シリカによる光の散乱が低減され、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の透明度が向上した有機無機ハイブリッド材料であるシリカ−エポキシ樹脂複合材料、ならびに該シリカ−エポキシ樹脂複合材料を製造しうるコーティング組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、シリカがシリカ−エポキシ樹脂複合材料中にナノメーターレベルで分散することにより、シリカによる光の散乱が低減され、透明度が向上した透明性保護膜の製造方法および透明性保護膜を有する複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリシラザン由来のシリカと特定のエポキシ樹脂とからなるシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を有し、シリカが材料中にナノメーターレベルで分散し、シリカによる光の散乱が低減され、透明度が向上したシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られることを見出し、本発明に至った。
また、本発明者らは、ポリシラザンのアミンは、例えばグリシジル基や脂環に直接単結合で結合したエポキシ基などとは反応するが、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基とは反応しないか又は反応性が非常に低いこと、およびエポキシ基が開環することにより発生する水酸基がポリシラザンのSiH2基と適当な反応速度で結合することを見出し、ある特定のエポキシ化合物と、ポリシラザンと、ポリシラザンを溶解する有機溶媒とを含むコーティング組成物およびそれを用いて形成されるシリカ−エポキシ樹脂複合材料、ならびに透明性保護膜の製造方法、及び透明性保護膜を有する複合材料を発明するに至った。
【0010】
ポリシラザンは、グリシジル基や脂環に直接単結合で結合したエポキシ基など、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基以外のエポキシ基と反応して加水分解されるという性質をもつ。そのため、ポリシラザンの分子は、例えばエポキシ化合物中の脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基以外のエポキシ基と結合して透明性高分子に固定され得る。その結果、エポキシ樹脂とポリシラザンとの巨視的な相分離を抑制することができる。透明性高分子とポリシラザンの分子とは微視的に相分離して存在するため、透明性保護膜とした際に、ポリシラザンの分子から転化したシリカの粒子による光の散乱が低減される。その結果、透明性保護膜の透明度が向上する。また、シリカ−エポキシ樹脂複合材料をつくるためにアミン化合物を配合し、未反応である脂環エポキシ基の開環速度を調整することができる。
【0011】
さらに、本発明者らは、好ましくは、反応性の異なる脂環に直接単結合で結合したエポキシ基と脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物を用いることにより、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂がより明確な連続ラメラ相となる有機無機ハイブリッド材料を形成する新規のコーティング組成物を発明するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)由来のモノマー単位を有するエポキシ樹脂とポリシラザン由来のシリカとが連続ラメラ構造を有することを特徴とするシリカ−エポキシ樹脂複合材料を提供する。
上記シリカ−エポキシ樹脂複合材料において、上記エポキシ化合物(A)が、さらに、上記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)を1分子当りに少なくとも1個有することが好ましい。
上記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)は、脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基であることがさらに好ましい。
また、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、上記エポキシ樹脂100重量部に対し、上記シリカを5〜300重量部含んでいるのが好ましい。
また、本発明は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物であって、該ポリシラザン(B)由来のシリカと該エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成しうることを特徴とするコーティング組成物を提供する。
上記コーティング組成物において、上記エポキシ化合物(A)が、さらに、上記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)を1分子当りに少なくとも1個有することが好ましい。
上記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)は、脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基であることがさらに好ましい。
本発明のコーティング組成物は、さらにアミン化合物(D)を含有していてもよい。
さらに、本発明のコーティング組成物は、上記エポキシ化合物100重量部に対し、上記ポリシラザン(B)5〜300重量部を混合して製造されたコーティング組成物であることが好ましい。
また、本発明は、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法であって、該コーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて該コーティング組成物を硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とするコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法を提供する。
上記塗布工程は、ディップコート法またはフローコート法で塗布する工程であることが好ましい。
また、本発明は、透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の表面に塗布された、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物が硬化されてなり、上記エポキシ化合物が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、上記ポリシラザンが転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜と、を備えることを特徴とする透明性保護膜を有する複合材料を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコーティング組成物においては、当該エポキシ化合物とポリシラザンとが微視的に相分離を形成する。その結果、本発明のコーティング組成物から得られる透明性保護膜は、ポリシラザンの分子から転化したシリカの粒子による光の散乱が低減される。さらに、透明度が高く、得られたシリカ−エポキシ樹脂複合材料からなる膜は耐熱性、透明性、高硬度、耐汚れ性、バリア性(水蒸気バリア性等)を兼ね備え、基材となる各種材料との密着性も良好なものとすることができる。また、当該エポキシ化合物とポリシラザン分子と、乾燥溶媒からなるコーティング組成物はコーティング材料としての保存安定性も良好なものとなる。
【0014】
また、ポリシラザンはシリカに転化するため、高硬度の透明性保護膜を得ることができる。さらに、ポリシラザンからシリカへの転化反応は常温でも進むため、高温で処理する必要がない。また、本発明のコーティング組成物によれば、耐熱性が低く高温で処理できない材質からなる基材、移動が困難であったり組み立て後で分解が困難であったりして熱処理し難い装置、等に透明性保護膜を形成することも可能となる。
【0015】
上述のように、本発明のコーティング組成物において、ポリシラザンの分子は、例えば、エポキシ化合物のグリシジル基などのエポキシ基と反応し、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する形態をとることができる。好ましくは、この残存する脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を硬化させて形成される透明性保護膜は、ポリシラザンの分子がシリカに転化することで、主としてエポキシ化合物などの硬化による透明性高分子からなる有機部と、主としてシリル基の周囲に位置するシリカなどからなる無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる。このとき、無機部は透明性保護膜中にナノメーターレベルで分散するため、無機部による光の散乱が低減され、透明性保護膜の透明度が向上する。有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜は、有機と無機の性質を合わせもつため、高硬度でありながら、割れや剥がれが生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られたコーティング剤1を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られたコーティング剤2を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【図3】実施例6で得られたコーティング剤6を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【図4】実施例7で得られたコーティング剤7を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。(a)(b)は、異なる倍率の写真である。
【図5】比較例1で得られたコーティング剤11を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【図6】比較例2で得られたコーティング剤12を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【図7】比較例3で得られたコーティング剤13を用いて作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[シリカ−エポキシ樹脂複合材料]
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)由来のモノマー単位を有するエポキシ樹脂とポリシラザン由来のシリカとが連続ラメラ構造を有することを特徴とする。すなわち、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、主としてエポキシ樹脂を含む有機部と主としてシリカを含む無機部とが、それぞれ、ナノオーダー(例えば1〜100nm幅)の帯状の形状を有する領域を形成し、これらの領域が交互に形成された連続ラメラ構造を有し、有機部と無機部とが微視的に相分離して存在する。そのため、シリカの粒子による光の散乱が低減され、結果として透明度の向上したシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0018】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料が有する連続ラメラ構造は、TEM顕微鏡写真により確認することができる。主としてシリカを含む無機部の幅は、例えば1〜100nmであり、好ましくは10〜90nmである。また、主としてエポキシ樹脂を含む有機部の幅は、例えば1〜100nmであり、好ましくは10〜90nmである。
【0019】
なお、本明細書において無機部とは、主としてシリカを含む部分をいい、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、シリカの面積が、例えば60%以上、好ましくは70%以上の領域である。また、有機部とは、シリカの含有量が少なく、主として有機相からなる部分をいい、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、上記無機部以外の領域である。上記TEM写真は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の表面の写真または断面の写真のいずれも利用でき、どちらか一方の写真で確認できればよい。
【0020】
<エポキシ樹脂>
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中に含まれるエポキシ樹脂は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を、1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)由来のモノマー単位を有する。
【0021】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中における上記エポキシ樹脂の含有量は、例えば10〜96重量%、好ましくは35〜70重量%である。エポキシ樹脂の含有量が、これらの範囲にあると、より明確な連続ラメラ構造が形成される。
【0022】
<エポキシ化合物(A)>
脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)としては、2:8,9−diepoxylimonen(商品名 セロキサイド3000、ダイセル化学工業(株))、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン(商品名 セロキサイド2000、ダイセル化学工業(株))、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートなどが挙げられる。エポキシ基(i)としては、シクロヘキセンオキシド基が好ましい。これにより、シリカとエポキシ樹脂とがより明確な連続ラメラ構造を有することができる。
【0023】
エポキシ樹脂中における、上記モノマー単位の含有量は、例えば5〜100重量%、好ましくは10〜90重量%である。上記モノマー単位の含有量が、これらの範囲にあると、より明確な連続ラメラ構造が形成される。
【0024】
エポキシ化合物(A)としては、下記式(1)で表される化合物1、または下記式(2)で表される化合物2が好ましく使用できる。化合物1としては、例えば、2:8,9−diepoxylimonen(商品名 セロキサイド3000、ダイセル化学工業(株))が使用できる。
【0025】
【化1】

【化2】

【0026】
上記エポキシ化合物(A)は、さらに、上記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)を1分子当りに少なくとも1個有することが好ましい。エポキシ基(ii)としては、脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基が好ましい。これにより、シリカとエポキシ樹脂とがさらにより明確な連続ラメラ構造を有することができ、シリカの散乱による透明性の低下を効果的に防止できる。エポキシ化合物(A)としては、上記例示のなかでも、化合物1が特に好ましい。
【0027】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料が有するエポキシ樹脂中に含まれているエポキシ化合物(A)由来のモノマー単位としては、エポキシ化合物(A)のエポキシ基が開環されているものも含まれる。上記モノマー単位としては、例えば、下記式で表されるモノマー単位が挙げられる。
【化3】

【0028】
上記モノマー単位の含有量は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料を100重量%として、例えば10〜96重量%、好ましくは35〜70重量%である。また、エポキシ樹脂成分に対する上記モノマー単位の含有量は、例えば5〜100重量%、好ましくは30〜100重量%とすることができる。上記モノマー単位の含有量をこのような範囲にすることで、シリカとエポキシ樹脂とがミクロ相分離構造となりやすく、より明確な連続ラメラ構造を有することができる。
【0029】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中の全樹脂成分に対するエポキシ樹脂の含有量は、例えば5〜100重量%、好ましくは30〜100重量%とすることができる。また、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中の全樹脂成分の含有量は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料を100重量%として、例えば10〜96重量%、好ましくは35〜70重量%である。このような範囲にすることで、シリカからなる無機部が微視的に相分離して分散し、透明性に優れたシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0030】
<ポリシラザン(B)>
本発明のコーティング組成物において用いられるポリシラザン(B)としては、(−Si−N−)nで表される重合体からなり、通常、Si(珪素原子:4価)の2つの結合手およびN(窒素原子:3価)の1つの結合手に水素原子や有機基が結合している化合物が挙げられる。また、珪素原子や窒素原子の結合手に他の珪素原子や窒素原子が結合した環状構造や架橋構造を有するポリシラザンも使用できる。そして、ポリシラザンは、水および酸素の存在下で分解して窒素原子と酸素原子とが置換する転化反応により硬化し、シリカとなる。本明細書において、シリカとはケイ素の酸化物を意味し、ケイ素原子に対する酸素の結合比率は2に限定されない。
【0031】
原料高分子として用いられるポリシラザン(B)は、通常、シリカの被膜の形成に用いられているポリシラザンであれば特に限定はない。特に好ましいのは、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)である。PHPSは、硬化温度が低いため、本発明に適したポリシラザンである。また、部分メチル化ペルヒドロポリシラザンを用いてもよい。なお、2種以上のポリシラザンを混合して用いてもよい。
【0032】
なお、使用されるポリシラザンの分子量に特に限定はないが、ポリシラザンの乾燥溶媒への溶解し易さや成膜性の点、また、透明性保護膜の透明性の点から、その数平均分子量が、50〜10,000、さらには、500〜2,000であるのが好ましい。
【0033】
ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂との複合体が連続ラメラ相(連続ラメラ構造)を形成するためには、上記エポキシ樹脂100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)由来のシリカを5〜300重量部含んでいることが好ましく、さらに好ましくは10〜50重量部である。シリカ含量がこのような範囲にあると、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂との複合体が連続ラメラ相(連続ラメラ構造)を形成しやすく、透明度を向上させることができる。また、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れている。そのため、有機ガラス用のコーティング剤をはじめ、表面保護膜として広範に利用できる。
【0034】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中のポリシラザン由来のシリカ含有量(シリカ重量分率:%)は、20℃でのシリカの比重(y)とエポキシ樹脂硬化物の比重(z)を測定しておき、20℃での複合材料の比重(x)を測定することにより、下記式(3)を用いて算出できる。
シリカ重量分率(%)={(xy−yz)/(xy−xz)}×100 (3)
【0035】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中のポリシラザン由来のシリカ含有量は、例えば4〜50重量%、好ましくは10〜50重量%である。シリカ−エポキシ樹脂複合材料中のシリカ含有量をこのような範囲にすることで、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れ、かつ透明性も優れたシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0036】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、以下に記載の本発明のコーティング組成物を用いて製造することができる。
【0037】
[コーティング組成物]
本発明のコーティング組成物は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物であって、該ポリシラザン(B)由来のシリカと該エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成しうることを特徴とする。本発明のコーティング組成物において、ポリシラザン(B)の分子は、エポキシ化合物(A)をポリシラザン(B)と混合することにより生じる、エポキシ樹脂を含む透明性高分子が有するシリル基に物理的に結合して存在する。エポキシ化合物(A)、ポリシラザン(B)は、上記例示のものが使用できる。
【0038】
エポキシ化合物(A)の配合量としては、コーティング組成物を100重量%としたとき、エポキシ化合物(A)を例えば10〜90重量%、さらには30〜65重量%含むのがよい。エポキシ化合物(A)の配合量がこの範囲であれば、コーティング組成物は基材に塗布しやすく、成膜性も特に優れる。
【0039】
本発明のコーティング組成物は、上記エポキシ化合物(A)100重量部に対し、上記ポリシラザン(B)5〜300重量部を混合して製造することが好ましく、10〜90重量部を混合して製造することがさらに好ましい。エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)の配合比をこの範囲にすることにより、エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)が微視的に相分離しやすく、より明確なラメラ構造を有し、透明性が向上した複合材料や塗膜を形成することができる。
【0040】
<乾燥溶媒(C)>
本発明のコーティング組成物に含まれる「乾燥溶媒(C)」は、脱水された溶媒であって、ポリシラザンが加水分解されない程度まで脱水された溶媒を意味する。乾燥溶媒(C)は、上記エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)とを含む原料高分子を溶解する乾燥溶媒であることが好ましい。
【0041】
乾燥溶媒(C)は、原料高分子を溶解し、ポリシラザン(B)が加水分解されてゲル化しない程度まで脱水された溶媒であれば特に限定はない。溶媒が水を含むと、水との反応によりコーティング組成物のゲル化が進み好ましくないため、乾燥剤を用いるなどの方法により溶媒から水分を除去する。また、ポリシラザン(B)は、水酸基と反応し易いため、水酸基を含まない溶媒を用いるほうがよい。
【0042】
本発明のコーティング組成物に用いられる乾燥溶媒(C)としては、具体的には、芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレンなど、エステルとしては酢酸エチル、酢酸n−ブチルなど、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトンなど、エーテル類としてはジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなど、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカリン、灯油、石油など、また、クロロホルム等が挙げられる。上記溶媒のうち、1種または2種以上を混合して用いることができる。コーティング組成物が塗布される基材が樹脂であれば、酢酸エチルを用いるのが好ましい。また、エポキシ化合物として上記化合物1を使用する場合には、化合物1は液状であるため、たとえば、化合物1よりも沸点の低い乾燥溶媒を除去した形態でコーティング組成物として用いることも可能である。
【0043】
乾燥溶媒(C)の割合は、コーティング組成物の調製方法、溶媒の種類にもよるが、コーティング組成物を塗装する基材の劣化にあわせて使用すればよい。乾燥溶媒(C)の割合は、例えば、ポリシラザン(B)100重量部に対して、例えば300〜2000重量部、好ましくは400〜1000重量部とすることができる。
【0044】
ただし、基材が樹脂からなる樹脂基材である場合には、乾燥溶媒(C)は、ポリシラザン(B)に対して良溶媒である主溶媒と、樹脂基材に対して貧溶媒である第二乾燥溶媒と、からなる混合乾燥溶媒であるのが望ましい。主溶媒および第二乾燥溶媒として用いられる有機溶媒は以下に例示のものが使用でき、第二乾燥溶媒に関しては、樹脂基材の種類に応じて選択すればよい。
【0045】
乾燥溶媒(C)としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなど、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸n-ブチルなど、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトンなど、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランを好ましく用いることができる。
【0046】
これらを主溶媒とし、さらにシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなど、炭化水素類を第二乾燥溶媒として添加することが可能である。
【0047】
<アミン化合物>
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、さらにアミン化合物を含有していてもよい。シリカ−エポキシ樹脂複合材料をつくるためにアミン化合物を配合することにより、未反応である脂環エポキシ基の開環速度を調整することができる。
【0048】
アミン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミンなどのアミン化合物;トリエチルベンジルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウム塩化合物;ジメチルアミンなどのブロックイソシアネート化合物;イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール誘導体二環式アミジン化合物及びその塩;トリフェニルホスフィンなどのリン化合物;メラミン、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどのグアナミン化合物;2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン、2−ビニル−2,4−ジアミノ−s−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物などのs−トリアジン誘導体が挙げられる。
【0049】
これらのアミン化合物は味の素ファインテクノ株式会社製のアミキュアシリーズや、富士化成工業株式会社製のフジキュアシリーズや旭化成ケミカルズ株式会社製のノバキュアシリーズなどとして入手することができる。
【0050】
アミン化合物は、全エポキシ化合物100重量部に対し、0.01〜150重量部、好ましくは0.1〜100重量部、より好ましくは0.1〜75重量部程度配合することが適当である。0.01重量部以下では熱硬化性が著しく低下し、150重量部を超えて配合した場合には、増量効果が認められず不経済であるとともに、硬化物の物性低下を来すので好ましくない。
【0051】
なお、本発明のコーティング組成物は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、他の機能を追加するために、必要に応じて、乾燥促進剤や紫外線吸収剤、帯電防止剤などの別の物質を混合してもよい。
【0052】
例えば、エポキシ化合物(A)として化合物1を、ポリシラザン(B)としてPHPSを使用し、アミン化合物が存在しないときは、PHPSと化合物1との反応機構は、以下の反応1〜3によると考えられる。
反応1:PHPSのアミンと、とエポキシ化合物の脂環に直接単結合で結合したエポキシ基とが反応して結合し、PHPSとエポキシ化合物1が結合する。この反応により、水酸基が発生する。このとき、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基はポリシラザン分子とは反応せずに残留する。
反応2:次に、発生した水酸基とPHPSのSiH2基とが反応して結合する。この反応により、水素が発生する。
反応3:焼結などによりPHPSはシリカに転化する。このとき、PHPSとエポキシを結合していた二級アミンが開裂しシリカとの結合が切断される。ただしSiを介した結合は切断されず保持される。脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基は、例えば、70〜90℃で10〜90分程度の焼結により、開環重合する。
【化4】

【0053】
例えば、エポキシ化合物(A)として化合物1を、ポリシラザン(B)としてPHPSを使用し、アミン化合物が存在するときは、以下の反応1〜3が考えられる。
反応1:有機ジアミンなどのアミン化合物のアミンにより、例えば、化合物1の脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)と、脂環に直接単結合で結合したエポキシ基とがともに開裂し、有機ジアミンなどのアミン化合物と結合する。この反応により水酸基が発生する。この時、PHPSのアミンは反応性に劣るため、エポキシ基とは反応しない。
反応2:発生した水酸基とPHPSのSiH2基とが反応して結合し、PHPSとエポキシ化合物1が化学的に結合する。この反応により水素が発生する。
反応3:焼結などによりPHPSはシリカに転化する。この時、Siを介した結合は切断されず保持される。
【化5】

【0054】
[コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法]
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法は、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて該コーティング組成物を硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とする。なお、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料も、透明性保護膜と同様に製造できる。ただし、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料の製造では、塗布工程を設けずに、該コーティング組成物を型に注入する工程を設けて、成形体を製造してもよい。
【0055】
<調製工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法に含まれる調製工程では、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する。エポキシ化合物としては特に限定されないが、上記エポキシ化合物(A)で例示されたエポキシ化合物を好ましく使用できる。また、コーティング組成物としては、該ポリシラザン(B)由来のシリカと該エポキシ化合物由来のエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成しうるコーティング組成物を使用することが好ましい。前述したように、ポリシラザンは、水蒸気や酸素が存在する空気中で、ゲル化や転化が進行する。そのため、ポリシラザンの反応性が低い不活性な雰囲気下で、コーティング組成物を調製する必要がある。たとえば、水を含まない窒素ガスや希ガスなどの不活性ガス雰囲気中で調製するのが望ましい。エポキシ化合物(A)、及びポリシラザン(B)は、上記例示のものが使用できる。
【0056】
なお、乾燥溶媒(C)として上記例示の溶媒を使用できるが、主溶媒に対して第二乾燥溶媒を用いる場合には、調製工程において主溶媒に原料高分子を溶解して混合物を調製し、その後さらに第二乾燥溶媒を添加するとよい。第二乾燥溶媒の添加は、不活性な雰囲気下で行うのが望ましいが、第二乾燥溶媒中への水の溶解性は低いため、大気中で行ってもよい。第二乾燥溶媒を添加する方法に特に限定はなく、たとえば、所定の量の第二乾燥溶媒を一度に添加してもよいし、少量ずつ分割して添加してもよい。ただし、第二乾燥溶媒を溶液に添加すると、原料高分子に対して良溶媒である主溶媒の濃度が低下して原料高分子が析出することがあるが、析出物を除去すればコーティング組成物として良好に用いることができる。
【0057】
<塗布工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法は、上記コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程を含んでいる。塗布工程において、コーティング組成物が塗布される基材の種類に限定はなく、たとえば、銅、ステンレス等の金属製の基材の他、樹脂基材にも塗布することができる。特に、樹脂基材は、透明性を有する樹脂からなるのが望ましい。樹脂基材としては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及び、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、シクロオレフィン樹脂などのエンジニアリングプラスチックなどが望ましい。
【0058】
また、塗布工程は、通常用いられる塗工法であればスプレー法、スピンコート法などが適用可能であるが、ディップコート法またはフローコート法によりコーティング組成物を塗布する工程であるのが望ましい。ディップコート法やフローコート法は、基材の表面がコーティング組成物(乾燥溶媒)に長時間さらされないので、溶媒による基材の劣化が抑制される。
【0059】
<硬化工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法に含まれる硬化工程は、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させてコーティング組成物を硬化させ、透明性保護膜とする工程である。コーティング組成物中では、透明性高分子とポリシラザンとが溶媒中に微視的に相分離した状態で存在する。硬化工程では、水と酸素の存在下において、乾燥溶媒が揮発すると共にポリシラザンの分子がシリカへと転化することにより、透明性保護膜が形成される。
【0060】
さらに、コーティング組成物中の透明性高分子や基材を劣化させない程度の温度であれば、硬化工程において焼成することによりポリシラザンの転化を促進させることも可能であり、より短時間でコーティング組成物が硬化する。なお、ポリシラザンのガラス転移温度以下での焼結であれば、コーティング組成物がもつ微視的な構造が失われることはない。焼成は、例えば、70〜90℃で10〜90分で行うことができる。
【0061】
<透明性保護膜>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法により製造される透明性保護膜は、透明樹脂基材の表面に塗布された、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物が硬化されてなり、上記エポキシ化合物が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、上記ポリシラザンが転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる。有機部、ならびに無機部は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料のところで記載したと同様の意味で用いられる。透明性保護膜は、好ましくは本発明のコーティング組成物を硬化してなることにより、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を有することができる。このような透明性保護膜は、透明度が高く、また、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れている。そのため、有機ガラス用のコーティング剤をはじめ、表面保護膜、封止膜として広範に利用できる。
【0062】
また、透明性保護膜は、その膜厚が10μm以下(例えば、0.5〜10μm)であっても、優れた耐擦傷性を示す。したがって、透明性保護膜の膜厚を増加させる必要がないため、仮に透明性保護膜の透明度よりも樹脂基板の透明度が高い場合でも、樹脂基板の透明性を保持することができ、高透明度かつ表面硬度の高い有機ガラスとなる。透明性保護膜の膜厚に特に限定はないが、0.5μm以上(例えば、0.5〜30μm)であれば、保護膜として充分な機能を発揮するため好ましい。さらに好ましい透明性保護膜の膜厚は、1〜30μmである。膜厚が0.5μm未満では所望の硬度および耐摩耗性が得られないことがあり、30μmを超えると硬化時に発生する応力によりクラックが発生したり密着性が低下したりすることがある。
【0063】
透明性保護膜は、好ましくは、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と;ポリシラザン(B)と;該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)とを含み、該ポリシラザン(B)由来のシリカと該エポキシ化合物由来のエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成しうる、本発明のコーティング組成物を用いて製造することができる。
【0064】
[透明性保護膜を有する複合材料]
本発明の透明性保護膜を有する複合材料は、透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の表面に塗布された、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物が硬化されてなり、上記エポキシ樹脂を含む有機部と、上記ポリシラザンが転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜と、を備えることを特徴とする。本発明の透明性保護膜を有する複合材料に含まれる透明性保護膜は、上記のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法で製造できる。
【0065】
上記透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材としては、特に限定されないが、上記例示の樹脂基材のうち、透明性を有する樹脂からなるものを使用でき、例えば、PETフィルム、透明ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコール基板などが使用できる。
【0066】
本発明の透明性保護膜を有する複合材料は、例えば、上記透明性保護膜を有する有機ガラスとして使用できる。この有機ガラスは、透明度が高く、また、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れ、軽量で無機ガラスと同等な特性を有する。そのため、バックウィンドウガラスやサンルーフ等の自動車用ガラスなどとして好適である。
【0067】
以上、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料、コーティング組成物、コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法および透明性保護膜を有する複合材料の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0068】
[コーティング組成物(コーティング剤)の調製(1)]
実施例1
[コーティング剤1]
化学式(1)からなるエポキシモノマーとしてセロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)3.1gに、窒素雰囲気下、室温(20〜30℃、以下同じ)にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を3.3g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて、10分間撹拌し、コーティング剤1を調製した。
【0069】
実施例2
[コーティング剤2]
セロキサイド3000 2.6gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を6.4g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて、10分間撹拌し、コーティング剤2を調製した。
【0070】
実施例3
[コーティング剤3]
セロキサイド3000 1.5gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を5.5g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて、10分間撹拌し、コーティング剤3を調製した。
【0071】
実施例4
[コーティング剤4]
化学式(1)からなるエポキシモノマー0.26gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を0.92g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて1,4−ジアミノブタン0.018gを加え、10分間撹拌し、コーティング剤4を調製した。
【0072】
実施例5
[コーティング剤5]
化学式(1)からなるエポキシモノマー0.26gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を0.64g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて1,4−ジアミノブタン0.035gを加え、10分間撹拌し、コーティング剤5を調製した。
【0073】
実施例6
[コーティング剤6]
化学式(1)からなるエポキシモノマー0.26gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を0.27g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて1,4−ジアミノブタン0.061gを加え、10分間撹拌し、コーティング剤6を調製した。
【0074】
実施例7
[コーティング剤7]
セロキサイド2000からなるエポキシモノマー2.4gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を8.0g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて、10分間撹拌し、コーティング剤7を調製した。
【0075】
比較例1
[コーティング剤11]
2,2−ビス(4−グリシジルオキシ−フェニル)プロパン[DGEBA] 0.315gに窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を0.46g加え、24時間撹拌した。次に、窒素雰囲気下、室温にて、10分間撹拌し、コーティング剤11を調製した。
【0076】
比較例2
[コーティング剤12]
DGEBAの使用量を0.420gに変更した以外は比較例1と同様にして、コーティング剤12を調製した。
【0077】
比較例3
[コーティング剤13]
DGEBAの使用量を0.890gに変更した以外は比較例1と同様にして、コーティング剤13を調製した。
【0078】
実施例8〜13、17、18
[金属基板上への保護膜の製造]
実施例1〜3、7で調製されたコーティング剤1〜3、7を用いて、透明性保護膜が形成された複合材料1C〜4C、1F〜4Fを以下に示すように調製した。
すなわち、実施例1〜3、7で調製されたコーティング剤1〜3、7を、調製後直ちに、大気中にて、銅基板、ステンレス基板(ステンレス、または銅:150mm×100mm×1.0mm、以下「金属基板」と記載)の両表面にフローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、室温で24時間乾燥した。その後、コート膜を乾燥した基板を水蒸気雰囲気下(85〜100%RHの空気中)、80℃で1時間加熱し、各基板の表面にシリカ−エポキシ樹脂複合体(シリカ−エポキシ樹脂複合材料)からなる透明性保護膜を有する複合材料(複合体)1C〜4C,1F〜4Fを得た。各複合材料において、それぞれの透明性保護膜を100重量%としたときのシリカの割合(シリカ重量分率(%)、上記式(3)による計算値)を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例14〜16、19
[樹脂基板(樹脂基材)上への保護膜の製造]
実施例1〜3、7で調製されたコーティング剤1〜3、7から、それぞれ以下に示すように、複合材料1P〜4Pを調製した。
【0081】
<透明ポリエステルフィルム基材の作成>
透明ポリエステルフィルム基材(297mm×210mm×1mm、以下PETフィルムと記載)は、透明フィルム(3M社製OHPフィルムPP2500)を300mlのアセトンで洗浄し、乾燥して作成した。
【0082】
<PETフィルム上への保護膜の製造>
実施例1〜3、7で調製されたコーティング剤1〜3、7を、調製後直ちに(10〜30分以内)、大気中にて、PETフィルムの両表面にフローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、室温で24時間乾燥した。その後、コート膜を乾燥したフィルムを水蒸気雰囲気下(85〜100%RHの空気中)、80℃で1時間加熱し、PETフィルムの表面にシリカ−エポキシ樹脂複合体(シリカ−エポキシ樹脂複合材料)からなる透明性保護膜を有する複合材料1P〜4Pを得た。複合材料1P〜4Pにおいて、それぞれの透明性保護膜を100重量%としたときのシリカの割合(シリカ重量分率(%)、上記式(3)による計算値)を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
[試料の評価]
<ラメラ構造の観察>
実施例1〜7、及び比較例1〜3で得られたコーティング剤1〜7、及び11〜13から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料について、表面構造を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察した。TEM観察用の試料としては、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の超薄切片(膜厚80マイクロメートル)を用い、マイクロトーム(Nissei Sangyo Leica Ultracut: ダイヤモンドナイフ)により作製した。
観察は透過型電子顕微鏡(日立製作所、H7100型透過型電子顕微鏡)を用い、75kVで行った。
このうち、実施例1,2,6,7及び比較例1〜3で得られたコーティング剤1,2,6,7、及び11〜13から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料についてのTEM顕微鏡写真をそれぞれ図1〜7に示す。なお、実施例1,2,6,7で得られたコーティング剤1,2,6,7から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のシリカの重量分率は、それぞれ、75重量%、50重量%、25重量%、50重量%であった。また、比較例1〜3で得られたコーティング剤11〜13から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のシリカの含有量は、それぞれ、16.9重量%、13.7重量%、7.2重量%であった。TEM写真において、黒〜灰色に見える部分がシリカである。
図1〜4に示すように、実施例1,2,6,7で得られたコーティング剤1,2,6,7から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を有していた。同様に、実施例3〜5で得られたコーティング剤3〜5から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料についても連続ラメラ構造が観察された。
【0085】
<ガラス転移温度(Tg)>
実施例1、3、及び7で得られたコーティング剤1、3、及び7を用い、PETフィルム基材への塗膜形成(保護膜作成)条件と同じ条件で複合体を作製し、ガラス転移温度(Tg)をDSC測定装置で測定した。
Tgの測定方法としては、SII(セイコー電子)製DSC200を使用し、昇華温度20℃/min(測定温度範囲30〜300℃、N2雰囲気下)でガラス転移温度を求めた。
その結果、コーティング剤1、3、及び7から作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料のTgは、それぞれ、225℃、228℃、205℃であった。
【0086】
<透明性>
透過率
複合材料1P〜4Pについて、試料の透明性を測定した。各試料の透明性は、紫外可視分光光度計(日本分光製JascoV−530)を用い、400nm及び500〜1100nmの測定波長範囲で透過率測定を行った。測定結果を表2に示す。
ヘイズ
表2において、ヘイズとして、複合材料1P〜4Pについて、○はPETフィルムと同等の透明性、△は僅かに不透明、×は不透明、をそれぞれ示した。また、表1において、基材が金属の場合、複合材料1C〜4C,1F〜4Fについて、ヘイズとして、○は金属材料がクリアーに見える、△は僅かに不透明、×は不透明をそれぞれ示した。
【0087】
また、PETフィルムに塗布した膜は180°に折り曲げても透明性保護膜に割れや剥がれも見られない良好なものであった。一方、ポリシラザン溶液を単独でPETフィルムに塗布した膜はフィルムを曲げることで透明性保護膜は割れ剥がれた。
【0088】
<碁盤目試験>
金属基材を有する複合材料1C〜4C,及び1F〜4Fの透明性保護膜について、JIS−K5400に従い、碁盤目試験を行い、以下の基準で判断した。碁盤目は1mm幅とした。測定結果を表1に示す。
○剥がれなし、△部分的に剥がれる、×全て剥がれる
【0089】
<鉛筆硬度>
複合材料1C〜4C,1F〜4F、及び1P〜4Pの透明性保護膜について、鉛筆硬度をASTM D3363に準拠して測定した。測定結果を表1,2に示す。
【0090】
<耐汚染性>
複合材料1C〜4C,1F〜4F、及び1P〜4Pの透明性保護膜にホワイトボードマーカーを塗り、24hrs後紙でふきとり試験をおこなったところ、複合材料1C〜4C,1F〜4F、及び1P〜4Pの全ての透明性保護膜(コーティング剤1〜4で基材(鋼板、銅板、PETフィルム)をコートした膜)について、ホワイトボードマーカーは全部消えた。
【0091】
[コーティング組成物(コーティング剤)の調製(2)]
実施例20
[コーティング剤8]
ペルヒドロポリシラザン―キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)2.40mlを、室温にて窒素雰囲気下でセロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)2.00mlと混合し、コーティング剤8を調製した。
【0092】
実施例21
[コーティング剤9]
ペルヒドロポリシラザン―キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)2.80mlを、室温にて窒素雰囲気下でセロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)1.00mlと混合し、コーティング剤9を調製した。
【0093】
実施例22
[コーティング剤10]
ペルヒドロポリシラザン―キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)3.00mlを、室温にて窒素雰囲気下でセロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)0.80mlと混合し、コーティング剤10を調製した。
【0094】
実施例23〜25
ポリビニルアルコール(PVA)2000(関東化学製、ケン化度78〜82%)を水に溶解させ、ポリプロピレンフィルムにキャストコートをおこない、真空条件のもとで80℃、48時間乾燥させた。さらに、ポリビニルアルコールコート層の上に、実施例20〜22で調製したコーティング剤8、コーティング剤9、またはコーティング剤10を、大気中にて、フローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、室温で24時間乾燥した。その後、コート膜を乾燥したフィルムを水蒸気雰囲気下(85〜100%RHの空気中)、80℃で1時間加熱し、シリカ−エポキシ樹脂複合体層/PVAフィルム層/ポリプロピレンフィルムの層構成を有する複合材料を得た。
【0095】
<水蒸気バリア性試験>
ポリビニルアルコール(PVA)2000(関東化学製、ケン化度78〜82%)を水に溶解させ、ポリプロピレンフィルムにキャストコートをおこない、真空条件のもとで80℃、48時間乾燥させた。このようにして作製したPVAフィルムの水蒸気透過性QPVAについてJIS Z0208に準拠したカップ法により25℃、湿度60%の条件で測定した結果、68.0(g・μm/m2・day・mmHg)であった。
また、実施例23〜25で得られた複合材料から、シリカ−エポキシ樹脂複合体層/PVAフィルム層の積層体を剥がし、この積層体の水蒸気透過性についてJIS Z0208に準拠したカップ法により25℃、湿度60%の条件で測定した。その結果を表3に示す。積層体全体の水蒸気透過性に関する測定値J(g/m2・day)、およびPVAフィルム層とシリカ−エポキシ樹脂複合体層の膜厚をもとに、下記計算式(1)で膜全体のバリア性Qtotal(g・μm/m2・day・mmHg)を数値化し、さらに下記計算式(2)に基づきシリカ−エポキシ樹脂複合体層のバリア性Qcoat(g・μm/m2・day・mmHg)を数値化した。これらの値が小さいほど、バリア性が高いことを示す。下記式において、LtotalはPVAフィルム層とシリカ−エポキシ樹脂複合体層の総厚み(μm)、LPVAはPVAフィルム層の厚み(μm)、Lcoatはシリカ−エポキシ樹脂複合体層の厚み(μm)を示す。なお、表3には、シリカ−エポキシ樹脂複合体中のシリカ体積分率(%)も載せている。
計算式(1): Qtotal=J×Ltotal/(水蒸気圧)
ただし 水蒸気圧は11.9mmHgとした。
計算式(2): Ltotal/Qtotal=(LPVA/QPVA)+(Lcoat/Qcoat
【0096】
【表3】

【0097】
この結果からエポキシ樹脂とシリカからなる複合体層はバリア性の良好な材料であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)由来のモノマー単位を有するエポキシ樹脂とポリシラザン由来のシリカとが連続ラメラ構造を有することを特徴とするシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項2】
前記エポキシ化合物(A)が、さらに、前記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)を1分子当りに少なくとも1個有する、請求項1記載のシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項3】
前記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)が、脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基である、請求項2記載のシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂100重量部に対し、前記シリカを5〜300重量部含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項5】
脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物であって、該ポリシラザン(B)由来のシリカと該エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を形成しうることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項6】
前記エポキシ化合物(A)が、さらに、前記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)を1分子当りに少なくとも1個有する、請求項5記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記エポキシ基(i)以外のエポキシ基(ii)が、脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基である、請求項6記載のコーティング組成物。
【請求項8】
さらにアミン化合物(D)を含有する、請求項5〜7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記エポキシ化合物100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)5〜300重量部を混合して製造された、請求項5〜8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法であって、該コーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて該コーティング組成物を硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とするコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法。
【請求項11】
前記塗布工程は、ディップコート法またはフローコート法で塗布する工程である、請求項10記載のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法。
【請求項12】
透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、
該透明樹脂基材の表面に塗布された、エポキシ化合物と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、を含むコーティング組成物が硬化されてなり、前記エポキシ化合物が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、前記ポリシラザンが転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜と、
を備えることを特徴とする透明性保護膜を有する複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256369(P2011−256369A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98378(P2011−98378)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】