説明

コーティング組成物、及びシリカ−エポキシ樹脂複合材料

【課題】基材との密着性が高く、高い透明性と高い硬度を共に有する透明性保護膜が、50℃を超える温度での焼結工程を経ないでも得られる新規のコーティング組成物、また、そのコーティング組成物を用いた透明性保護膜となるシリカ−エポキシ樹脂複合体を提供する。
【解決手段】本発明のコーティング組成物は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、カチオン触媒(D)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料、および各種部材の表面を保護する耐熱性を有する透明性保護膜に関するものであり、該シリカ−エポキシ樹脂複合材料、該透明性保護膜などを形成するためのコーティング組成物、該コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法、および透明性保護膜を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系の被膜は、耐熱性、耐摩耗性、絶縁性などに優れているため、各種部材の表面を保護する保護膜として広く用いられている。特許文献1〜3には、アクリル系樹脂、シリル基を有する高分子を用いたものが報告されている。シリコン系の被膜の成膜方法には、たとえば、ポリシラザン等の前駆体ポリマーが用いられる。ポリシラザンは、常温でもシリカへの転化反応が進み、その結果、石英ガラスと同じ物性のシリカが得られるため、耐熱温度の低い樹脂製の部材にも被膜を形成できる。ところが、シリカの被膜は非常に硬いため、クラックが生じやすく、成膜が難しいという問題がある。また、シリカの被膜は、表面に水酸基を有しない樹脂材料からなる基材の表面に形成されると、基材との密着性が低いという問題もある。
【0003】
特許文献4には、ポリシラザン修飾ポリアミンをエポキシ樹脂の硬化剤としてボイド(気泡)の発生しにくい硬化物になることを特徴とするエポキシ樹脂用ポリシラザン修飾ポリアミン硬化剤が開示されている。
【0004】
特許文献5には、エポキシ樹脂とポリシラザンとの反応硬化物に関する記載があるが、実施例では、エポキシ化合物としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテル(芳香族ジエポキシド)のみが示され、脂環エポキシ化合物を用いた実施例はない。
【0005】
非特許文献1〜3には、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)は焼結によりシリカへと転化する無機オリゴマーであり、ペルヒドロポリシラザンは分子内にアミンを有するために、グリシジル基を有するエポキシ化合物に対してエポキシ硬化剤として機能し、ミクロ相分離構造を発現した複合体となることが開示されている。しかしながら、1分子当り複数以上のグリシジル基を持つエポキシ化合物とPHPSの反応性は常温で進行し、反応制御が困難であった。非特許文献1〜3に記載のシリカ-エポキシ樹脂複合体では、ポリシラザンの配合により、ミクロ分離構造を発現し耐熱性が向上するが、ポリシラザンとエポキシ化合物の反応性が著しく速いためにコーティング材料として活用することが困難であった。
また、従来のエポキシ化合物とポリシラザンからなるシリカ−エポキシ複合体では、ポリシラザンの分解(アンモニア、水素)によりボイドなどの発生により、透明性が損なわれるだけでなく、ボイドの発生により本来シリカ−エポキシ複合体が有する機械的特性などを損なうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328220号公報
【特許文献2】特開2006−328217号公報
【特許文献3】特開2005−232275号公報
【特許文献4】特開2008−7788号公報
【特許文献5】米国特許第5,616,650号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reiko Saito, Tohru Kumagai. Morphology control of epoxy-silica nanocomposites synthesized with perhydropolysilazane. 11th Pacific Polymer Conference 2009. 11th Pacific Polymer Conference 2009. pp. T1.3.1. 2009. Dec
【非特許文献2】斎藤礼子,熊谷徹、ペルヒドロポリシラザンを用いたエポキシ−シリカナノ複合体の構築、第58回高分子討論会、高分子学会予稿集、Vol.58. No.2. pp.4525-4526. 2009. Sep
【非特許文献3】熊谷徹,斎藤礼子、ペルヒドロポリシラザンを用いたエポキシ−シリカ複合体の合成、第58回高分子年次大会、高分子学会予稿集、Vol.58. No.1. p.666. 2009. May
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シリカがシリカ−エポキシ樹脂複合材料中にナノメーターレベルで分散することにより、シリカによる光の散乱が低減され、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の透明度が向上した有機無機ハイブリッド材料であるシリカ−エポキシ樹脂複合材料、ならびに該シリカ−エポキシ樹脂複合材料を50℃を超える温度での焼結工程を経ないで製造しうるコーティング組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法および透明性保護膜を有する複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリシラザン由来のシリカと特定のエポキシ樹脂とからなるシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、シリカが材料中にナノメーターレベルで分散し、シリカによる光の散乱が低減され、透明度が向上したシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られることを見出し、本発明に至った。
また、本発明者らは、ポリシラザンのアミンは、例えばグリシジル基や脂環に直接単結合で結合したエポキシ基などとは反応するが、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基とは反応しないか又は反応性が非常に低いこと、およびエポキシ基が開環することにより発生する水酸基がポリシラザンのSiH2基と適当な反応速度で結合することを見出した。
さらに、ある特定のカチオン触媒がポリシラザンのアミンとは反応せず、かつ上記脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基とポリシラザンのアミンとの反応性を高めることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、カチオン触媒(D)と、を含むコーティング組成物を提供する。
カチオン触媒(D)としてはルイス酸が好ましい。
ルイス酸としては、BF3OEt2(Etはエチル基を示す)、AlCl3、FeCl3、ZnCl2、TiCl2、TiCl4、SnCl2、SnCl4、MgCl2からなる群より選択される1種以上であることがさらに好ましい。
また好ましくは、(A)が下記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される1種以上である。
【化1】

[上記式(1)中、mは0〜30の整数を示す]
【化2】

【化3】

さらに、本発明のコーティング組成物は、前記エポキシ化合物(A)100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)5〜250重量部を混合して製造されることが好ましい。
また、本発明は、上記記載のコーティング組成物を硬化してなるシリカ−エポキシ樹脂複合材料を提供する。
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、前記エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)由来のシリカを5〜250重量部含むことが好ましい。
また、本発明は、上記記載のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法であって、該コーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とするコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法を提供する。
前記塗布工程は、ディップコート法またはフローコート法で塗布する工程であることが好ましい。
また、本発明は、透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の表面に塗布された、上記記載のコーティング組成物が硬化されてなり、前記エポキシ化合物(A)が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、前記ポリシラザン(B)が転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜とを備えることを特徴とする透明性保護膜を有する複合材料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング組成物によれば、カチオン触媒(D)が脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基とポリシラザンのアミンとの反応性を高めるため、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂とポリシラザン(B)由来のシリカとを含むシリカ−エポキシ複合材料や透明性保護膜を、50℃を超える温度での焼結工程を経ることなく製造することができる。
【0012】
また、本発明のコーティング組成物においては、当該エポキシ化合物とポリシラザンとが微視的に相分離を形成できる。その結果、本発明のコーティング組成物から得られるシリカ−エポキシ複合材料や透明性保護膜では、ポリシラザンの分子から転化したシリカの粒子による光の散乱が低減される。さらに、本発明の透明性保護膜を有する複合材料では、透明度が高く、得られたシリカ−エポキシ複合材料からなる膜は耐熱性、透明性、高硬度、耐汚れ性、バリア性(水蒸気バリア性等)を兼ね備え、基材となる各種材料との密着性も良好なものとすることができる。また、当該エポキシ化合物とポリシラザン分子と、乾燥溶媒からなるコーティング組成物はコーティング材料としての保存安定性も良好なものとなる。
【0013】
また、ポリシラザンはシリカに転化するため、高硬度の透明性保護膜を得ることができる。さらに、ポリシラザンからシリカへの転化反応は常温でも進むため、高温で処理する必要がない。また、本発明のコーティング組成物によれば、耐熱性が低く高温で処理できない材質からなる基材、移動が困難であったり組み立て後で分解が困難であったりして熱処理し難い装置、等に透明性保護膜を形成することも可能となる。
【0014】
好ましくは、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を硬化させて形成される透明性保護膜は、ポリシラザンの分子がシリカに転化することで、主としてエポキシ化合物などの硬化による透明性高分子からなる有機部と、主としてシリル基の周囲に位置するシリカなどからなる無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる。このとき、無機部は透明性保護膜中にナノメーターレベルで分散するため、無機部による光の散乱が低減され、透明性保護膜の透明度が向上する。有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜は、有機と無機の性質を合わせもつため、高硬度でありながら、割れや剥がれが生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】比較例4のコーティング組成物14の、NMRピーク比の経時変化を示す図である。
【図2】比較例5のコーティング組成物15の、NMRピーク比の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[コーティング組成物]
本発明のコーティング組成物は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、カチオン触媒(D)と、を含むコーティング組成物であり、50℃以下で硬化可能である。本発明のコーティング組成物において、ポリシラザン(B)の分子は、エポキシ化合物(A)をポリシラザン(B)と混合することにより生じる、エポキシ樹脂を含む透明性高分子が有するシリル基に物理的に結合して存在する。
【0017】
本発明のコーティング組成物は50℃以下で硬化可能であるため、50℃を超える温度での焼結の必要がない。また、本発明のコーティング組成物は、焼成することによりポリシラザンの転化を促進させることも可能であり、50℃超の温度で硬化しても差し支えない。硬化温度を高くすることでより短時間でコーティング組成物が硬化する。なお、「50℃以下で硬化可能」とは、50℃以下で例えば3〜100分、好ましくは5〜60分で硬化することを意味する。なお、本明細書において「硬化する(硬化した)」とは、コーティング組成物が、ポリシラザンがシリカに転化し、かつ、エポキシ化合物が環開反応によりポリマー化、または架橋して、25℃において均一相の固体となった状態を指す。また、本明細書においては、ポリシラザンをシリカに転化するためにおこなう処理工程を「焼結」という。
【0018】
本発明のコーティング組成物は、エポキシ化合物(A)に、窒素雰囲気下、室温(例えば20〜30℃;以下、同じ)にて、所定量のポリシラザン(B)を加え、窒素雰囲気下で2〜40時間、好ましくは2〜24時間撹拌し、次に、カチオン触媒(D)を、窒素雰囲気下、室温にて加え、1〜30分間、好ましくは3〜10分間撹拌することにより調製できる。
【0019】
<エポキシ化合物(A)>
本発明のコーティング組成物に含まれるエポキシ化合物(A)は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有する。具体例としては、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−1,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸)エステル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアルコール、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、下記式(1)〜(4)で表される化合物等を挙げることができる。なお、式(1)中のmは0〜30の整数を示す。
【化4】

【化5】

【化6】

【0020】
エポキシ化合物(A)としては、CEL−2021P[ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021P」(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)]、CEL−2081[ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2081」(イプシロン−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)]、3,4,3’,4’−ジエポキシビシクロヘキシルも使用できる。
【0021】
また、2:8,9−diepoxylimonen(商品名 セロキサイド3000、ダイセル化学工業(株))、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン(商品名 セロキサイド2000、ダイセル化学工業(株))、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートなども使用できる。
【0022】
上記例示の化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアルコール、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、上記式(1)〜(4)で表される化合物が好ましい。エポキシ化合物(A)としては、上記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される1種以上であることがさらに好ましい。特に、上記式(1)でm=0の化合物が好ましい。
【0023】
エポキシ化合物(A)の配合量としては、コーティング組成物を100重量%としたとき、エポキシ化合物(A)を例えば10〜90重量%、さらには30〜65重量%含むのがよい。エポキシ化合物(A)の配合量がこの範囲であれば、コーティング組成物は基材に塗布しやすく、成膜性も特に優れる。
【0024】
<ポリシラザン(B)>
本発明のコーティング組成物において用いられるポリシラザン(B)としては、(−Si−N−)nで表される重合体からなり、通常、Si(珪素原子:4価)の2つの結合手およびN(窒素原子:3価)の1つの結合手に水素原子や有機基が結合している化合物が挙げられる。また、珪素原子や窒素原子の結合手に他の珪素原子や窒素原子が結合した環状構造や架橋構造を有するポリシラザンも使用できる。そして、ポリシラザンは、水および酸素の存在下で分解して窒素原子と酸素原子とが置換する転化反応により硬化し、シリカとなる。本明細書において、シリカとはケイ素の酸化物を意味し、ケイ素原子に対する酸素の結合比率は2に限定されない。
【0025】
原料高分子として用いられるポリシラザン(B)は、通常、シリカの被膜の形成に用いられているポリシラザンであれば特に限定はない。特に好ましいのは、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)である。PHPSは、硬化温度が低いため、本発明に適したポリシラザンである。また、部分メチル化ペルヒドロポリシラザンを用いてもよい。なお、2種以上のポリシラザンを混合して用いてもよい。
【0026】
なお、使用されるポリシラザンの分子量に特に限定はないが、ポリシラザンの乾燥溶媒への溶解し易さや成膜性の点、また、透明性保護膜の透明性の点から、その数平均分子量が、50〜10,000、さらには、500〜2,000であるのが好ましい。
【0027】
本発明のコーティング組成物は、上記エポキシ化合物(A)100重量部に対し、上記ポリシラザン(B)5〜250重量部を混合して製造することが好ましく、10〜90重量部を混合して製造することがさらに好ましい。エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)の配合比をこの範囲にすることにより、エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)が微視的に相分離しやすく、より明確なラメラ構造を有し、透明性が向上した複合材料や塗膜を形成することができる。
【0028】
<乾燥溶媒(C)>
本発明のコーティング組成物に含まれる「乾燥溶媒(C)」は、脱水された溶媒であって、ポリシラザンが加水分解されない程度まで脱水された溶媒を意味する。乾燥溶媒(C)は、上記エポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)とを含む原料高分子を溶解する乾燥溶媒であることが好ましい。
【0029】
乾燥溶媒(C)は、原料高分子を溶解し、ポリシラザン(B)が加水分解されてゲル化しない程度まで脱水された溶媒であれば特に限定はない。溶媒が水を含むと、水との反応によりコーティング組成物のゲル化が進み好ましくないため、乾燥剤を用いるなどの方法により溶媒から水分を除去する。また、ポリシラザン(B)は、水酸基と反応し易いため、水酸基を含まない溶媒を用いるほうがよい。
【0030】
本発明のコーティング組成物に用いられる乾燥溶媒(C)としては、具体的には、芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレンなど、エステルとしては酢酸エチル、酢酸n−ブチルなど、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトンなど、エーテル類としてはジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなど、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカリン、灯油、石油など、また、クロロホルム等が挙げられる。上記溶媒のうち、1種または2種以上を混合して用いることができる。コーティング組成物が塗布される基材が樹脂であれば、酢酸エチルを用いるのが好ましい。また、エポキシ化合物として液状の化合物を使用する場合には、たとえば、上記エポキシ化合物よりも沸点の低い乾燥溶媒を除去した形態でコーティング組成物として用いることも可能である。
【0031】
乾燥溶媒(C)の割合は、コーティング組成物の調製方法、溶媒の種類にもよるが、コーティング組成物を塗装する基材の劣化にあわせて使用すればよい。乾燥溶媒(C)の割合は、例えば、ポリシラザン(B)100重量部に対して、例えば300〜2000重量部、好ましくは400〜1000重量部とすることができる。
【0032】
乾燥溶媒(C)は、ポリシラザン(B)に対して良溶媒である主溶媒と、樹脂基材に対して貧溶媒である第二乾燥溶媒と、からなる混合乾燥溶媒であるのが望ましい。主溶媒および第二乾燥溶媒として用いられる有機溶媒は以下に例示のものが使用でき、第二乾燥溶媒に関しては、樹脂基材の種類に応じて選択すればよい。
【0033】
乾燥溶媒(C)としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなど、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸n-ブチルなど、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトンなど、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランを好ましく用いることができる。
【0034】
これらを主溶媒とし、さらにシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなど、炭化水素類を第二乾燥溶媒として添加することが可能である。
【0035】
<カチオン触媒(D)>
本発明のコーティング組成物に含まれるカチオン触媒(D)としては、3−ベンジルベンゾチアゾリウム塩としては3−ベンジルベンゾチアゾリウムヘキサフルオロアンチモネート、3−ベンジルベンゾチアゾリウムヘキサフルオロホスフェート、3−ベンジルベンゾチアゾリウムテトラフルオロボレート、3−(p−メトキシベンジル)ベンゾチアゾリウムヘキサフルオロアンチモネート、3−ベンジル−2−メチルチオベンゾチアゾリウムヘキサフルオロアンチモネート、3−ベンジル−2−メチルチオベンゾチアゾリウムヘキサフルオロホスフェート、3−ベンジル−5−クロロベンゾチアゾリウムヘキサフルオロアンチモネート等を例示することが出来、これらの1種または2種以上を用いることが出来る。
【0036】
また、カチオン触媒(D)としては、例えば、下記一般式[I]で表されるアルコキシ基を有するスルホニウム塩として、好ましくはR1およびR3がメチル基であり、R2が水素原子であるスルホニウムのヘキサフルオロアンチモネートまたはヘキサフルオロホスフェートが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、下記一般式[II]で表されるスルホニウム塩として、ベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、ベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−メトキシベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−メトキシベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、p−メトキシベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−ニトロベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、o−ニトロベンジルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、ベンジルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジルジエチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどを例示することができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【化7】

【化8】

【0037】
さらに、カチオン触媒(D)としては、例えば、BF3、BF3OEt2(Etはエチル基を示す)、AlCl3、FeCl3、ZnCl2、TiCl2、TiCl4、SnCl2、SnCl4、MgCl2等のルイス酸も使用でき、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
カチオン触媒(D)はルイス酸であることが好ましく、BF3、BF3OEt2(Etはエチル基を示す)、AlCl3、FeCl3、ZnCl2、TiCl2、TiCl4、SnCl2、SnCl4、MgCl2からなる群より選択される1種以上であることがさらに好ましい。
【0039】
カチオン触媒(D)の含有量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対し、例えば、0.02〜5.0重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部とすることができる。カチオン触媒の含有量が上記範囲にあると、コーティング組成物が50℃以下でも効果的に硬化できる。
【0040】
なお、本発明のコーティング組成物は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、他の機能を追加するために、必要に応じて、乾燥促進剤や紫外線吸収剤、帯電防止剤などの別の物質を混合してもよい。
【0041】
[シリカ−エポキシ樹脂複合材料]
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、本発明のコーティング組成物を硬化して製造することができる。
【0042】
本発明のコーティング組成物は50℃以下で硬化可能であるため、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の製造時に50℃を超える温度での焼結の必要がない。また、本発明のコーティング組成物は、焼成することによりポリシラザンの転化を促進させることも可能であり、50℃超の温度で硬化してシリカ−エポキシ樹脂複合材料を製造しても差し支えない。硬化温度を高くすることでより短時間でコーティング組成物を硬化させてシリカ−エポキシ樹脂複合材料を製造できる。
【0043】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂とポリシラザン(B)由来のシリカとが連続ラメラ構造を有していてもよい。すなわち、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料では、好ましくは、主としてエポキシ樹脂を含む有機部と主としてシリカを含む無機部とが、それぞれ、ナノオーダー(例えば1〜100nm幅)の帯状の形状を有する領域を形成し、これらの領域が交互に形成された連続ラメラ構造を有し、有機部と無機部とが微視的に相分離して存在する。そのため、シリカの粒子による光の散乱が低減され、結果として透明度の向上したシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0044】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料が有する連続ラメラ構造は、TEM顕微鏡写真により確認することができる。主としてシリカを含む無機部の幅は、例えば1〜100nmであり、好ましくは10〜90nmである。また、主としてエポキシ樹脂を含む有機部の幅は、例えば1〜100nmであり、好ましくは10〜90nmである。
【0045】
なお、本明細書において無機部とは、主としてシリカを含む部分をいい、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、シリカの面積が、例えば60%以上、好ましくは70%以上の領域である。また、有機部とは、シリカの含有量が少なく、主として有機相からなる部分をいい、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、上記無機部以外の領域である。上記TEM写真は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料の表面の写真または断面の写真のいずれも利用でき、どちらか一方の写真で確認できればよい。
【0046】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中に含まれるエポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂の量は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料を100重量%として、例えば10〜96重量%、好ましくは35〜70重量%である。エポキシ樹脂の含有量が、これらの範囲にあると、より透明性に優れたシリカ−エポキシ樹脂複合材料を得ることができる。
【0047】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。シリカ−エポキシ樹脂複合材料中の全樹脂成分の含有量は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料を100重量%として、例えば10〜96重量%、好ましくは35〜70重量%である。また、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中の全樹脂成分に対するエポキシ樹脂の含有量は、例えば5〜100重量%、好ましくは30〜100重量%とすることができる。このような範囲にすることで、シリカからなる無機部が微視的に相分離して分散し、透明性に優れたシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0048】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、前記エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)由来のシリカを5〜250重量部含んでいることが好ましく、さらに好ましくは10〜50重量部である。シリカ含量がこのような範囲にあると、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂との複合体が連続ラメラ相(連続ラメラ構造)を形成しやすく、透明度を向上させることができる。また、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料は、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れている。そのため、有機ガラス用のコーティング剤をはじめ、表面保護膜として広範に利用できる。
【0049】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中のポリシラザン由来のシリカ含有量(シリカ重量分率:%)は、20℃でのシリカの比重(y)とエポキシ樹脂硬化物の比重(z)を測定しておき、20℃での複合材料の比重(x)を測定し、下記式(5)を用いて算出できる。
シリカ重量分率(%)={(xy−yz)/(xy−xz)}×100 (5)
【0050】
本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料中のポリシラザン由来のシリカ含有量は、例えば4〜50重量%、好ましくは10〜50重量%である。シリカ−エポキシ樹脂複合材料中のシリカ含有量をこのような範囲にすることで、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れ、かつ透明性も優れたシリカ−エポキシ樹脂複合材料が得られる。
【0051】
[コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法]
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法は、本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法であって、該コーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とする。
【0052】
<調製工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法に含まれる調製工程は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、カチオン触媒(D)と、を含むコーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する工程である。前述したように、ポリシラザンは、水蒸気や酸素が存在する空気中で、ゲル化や転化が進行する。そのため、ポリシラザンの反応性が低い不活性な雰囲気下で、コーティング組成物を調製する必要がある。たとえば、水を含まない窒素ガスや希ガスなどの不活性ガス雰囲気中で調製するのが望ましい。エポキシ化合物(A)、及びポリシラザン(B)は、前記例示のものが使用できる。
【0053】
なお、乾燥溶媒(C)として前記例示の溶媒を使用できるが、主溶媒に対して第二乾燥溶媒を用いる場合には、調製工程において主溶媒に原料高分子を溶解して混合物を調製し、その後さらに第二乾燥溶媒を添加するとよい。第二乾燥溶媒の添加は、不活性な雰囲気下で行うのが望ましいが、第二乾燥溶媒中への水の溶解性は低いため、大気中で行ってもよい。第二乾燥溶媒を添加する方法に特に限定はなく、たとえば、所定の量の第二乾燥溶媒を一度に添加してもよいし、少量ずつ分割して添加してもよい。ただし、第二乾燥溶媒を溶液に添加すると、原料高分子に対して良溶媒である主溶媒の濃度が低下して原料高分子が析出することがあるが、析出物を除去すればコーティング組成物として良好に用いることができる。
【0054】
<塗布工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法は、上記コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程を含んでいる。塗布工程において、コーティング組成物が塗布される基材の種類に限定はなく、たとえば、銅、ステンレス等の金属製の基材の他、樹脂基材にも塗布することができる。特に、樹脂基材は、透明性を有する樹脂からなるのが望ましい。樹脂基材としては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及び、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、シクロオレフィン樹脂などのエンジニアリングプラスチックなどが望ましい。
【0055】
また、塗布工程は、通常用いられる塗工法であればスプレー法、スピンコート法などが適用可能であるが、ディップコート法またはフローコート法によりコーティング組成物を塗布する工程であるのが望ましい。ディップコート法やフローコート法は、基材の表面がコーティング組成物(乾燥溶媒)に長時間さらされないので、溶媒による基材の劣化が抑制される。
【0056】
<硬化工程>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法に含まれる硬化工程は、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させてコーティング組成物を硬化させ、透明性保護膜とする工程であり、50℃以下で行うことができる。硬化工程は、さらには40℃以下で行うこともでき、特に好ましくは30℃以下の室温(例えば15〜30℃)において行うことができる。コーティング組成物中では、透明性高分子とポリシラザンとが溶媒中に微視的に相分離した状態で存在する。本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の硬化では、水と酸素の非存在下においても、カチオン触媒(D)によりエポキシ化合物(A)とポリシラザン(B)とが反応できる。硬化工程では、水と酸素の存在下において、乾燥溶媒が揮発すると共にポリシラザンの分子がシリカへと転化することにより、透明性保護膜が形成されてもよい。
【0057】
さらに、コーティング組成物中の透明性高分子や基材を劣化させない程度の温度であれば、硬化工程において焼成することによりポリシラザンの転化を促進させることも可能であり、より短時間でコーティング組成物が硬化する。なお、ポリシラザンのガラス転移温度以下での焼結であれば、コーティング組成物がもつ微視的な構造が失われることはない。
【0058】
<透明性保護膜>
本発明のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法により製造される透明性保護膜は、前記エポキシ化合物が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、前記ポリシラザンが転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる。有機部、ならびに無機部は、シリカ−エポキシ樹脂複合材料のところで記載したと同様の意味で用いられる。透明性保護膜は、好ましくは本発明のコーティング組成物を硬化してなることにより、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂とが連続ラメラ構造を有することができる。透明性保護膜は、好ましくは本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料で形成される。
【0059】
透明性保護膜において、エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂を100重量部としたときに、前記ポリシラザン由来のシリカが5〜250重量部であると、ポリシラザン由来のシリカとエポキシ樹脂を含む透明性保護膜が連続ラメラ相(連続ラメラ構造)を形成しやすい。このような透明性保護膜は、透明度が高く、また、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れている。そのため、有機ガラス用のコーティング剤をはじめ、表面保護膜、封止膜として広範に利用できる。
【0060】
また、透明性保護膜は、その膜厚が10μm以下(例えば、0.5〜10μm)であっても、優れた耐擦傷性を示す。したがって、透明性保護膜の膜厚を増加させる必要がないため、仮に透明性保護膜の透明度よりも樹脂基板の透明度が高い場合でも、樹脂基板の透明性を保持することができ、高透明度かつ表面硬度の高い有機ガラスとなる。透明性保護膜の膜厚に特に限定はないが、0.5μm以上(例えば、0.5〜30μm)であれば、保護膜として充分な機能を発揮するため好ましい。さらに好ましい透明性保護膜の膜厚は、1〜30μmである。膜厚が0.5μm未満では所望の硬度および耐摩耗性が得られないことがあり、30μmを超えると硬化時に発生する応力によりクラックが発生したり密着性が低下したりすることがある。
【0061】
[透明性保護膜を有する複合材料]
本発明の透明性保護膜を有する複合材料は、透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の表面に塗布された、本発明のコーティング組成物が硬化されてなり、前記エポキシ化合物(A)が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、前記ポリシラザン(B)が転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜と、を備えることを特徴とする。
【0062】
上記透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材としては、特に限定されないが、前記例示の樹脂基材のうち、透明性を有する樹脂からなるものを使用でき、例えば、PETフィルム、透明ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコール基板などが使用できる。
【0063】
本発明の透明性保護膜を有する複合材料は、例えば、上記透明性保護膜を有する有機ガラスとして使用できる。この有機ガラスは、透明度が高く、また、シリカからなる無機部により表面の硬度が高く耐擦傷性に優れ、軽量で無機ガラスと同等な特性を有する。そのため、バックウィンドウガラスやサンルーフ等の自動車用ガラスなどとして好適である。
【0064】
以上、本発明のシリカ−エポキシ樹脂複合材料、コーティング組成物、コーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法および透明性保護膜を有する複合材料の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0065】
[コーティング組成物の調製]
実施例1
[コーティング組成物1]
セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製)1.2ml(0.011mol)に窒素雰囲気下、室温(20〜30℃;以下、同じ)にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を4.3ml(PHPS中のNH基のmol数0.010mol)加え、24時間撹拌した。次に、カチオン触媒としてBF3OEt2 0.016mlを、窒素雰囲気下、室温にて加え、10分間撹拌し、コーティング組成物1を調製した。
【0066】
実施例2
[コーティング組成物2]
セロキサイド2000(ダイセル化学工業(株)製)1.3ml(0.011mol)に窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を4.3ml(PHPS中のNH基のmol数 0.010mol)加え、24時間撹拌した。次に、カチオン触媒としてBF3OEt2 0.016mlを、窒素雰囲気下、室温にて加え、10分間撹拌し、コーティング組成物2を調製した。
【0067】
実施例3
[コーティング組成物3]
セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製)1.0ml(0.0092mol)とセロキサイド2081(ダイセル化学工業(株)製)0.3ml(0.0008mol)に窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を4.3ml(PHPS中のNH基のmol数 0.010mol)加え、24時間撹拌した。次に、カチオン触媒としてBF3OEt2 0.016mlを、窒素雰囲気下、室温にて加え、10分間撹拌し、コーティング組成物3を調製した。
【0068】
比較例1
[コーティング組成物11]
セロキサイド2021P 0.25ml(0.0023mol)に窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)1.0ml(PHPS分 0.18g;PHPS中のNH基のmol数 0.0023mol)を加え、24時間撹拌し、コーティング組成物11を調製した。
【0069】
比較例2
[コーティング組成物12]
セロキサイド2021Pの使用量を0.5ml(0.0046mol)に変更した以外は比較例1と同様にして、コーティング組成物12を調製した。
【0070】
比較例3
[コーティング組成物13]
セロキサイド2021Pの使用量を0.12ml(0.0012mol)に変更した以外は比較例1と同様にして、コーティング組成物13を調製した。
【0071】
比較例4
[コーティング組成物14]
セロキサイド2021P 0.50ml(0.0046mol)に窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)2.0ml(PHPS分 0.37g;PHPS中のNH基のmol数 0.0046mol)を加え、24時間撹拌し、コーティング組成物14を調製した。
【0072】
比較例5
[コーティング組成物15]
セロキサイド2000(ダイセル化学工業(株)製) 0.60ml(0.0046mol)に窒素雰囲気下、室温にて、ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)2.0ml(PHPS分 0.37g;PHPS中のNH基のmol数 0.0046mol)を加え、24時間撹拌し、コーティング組成物15を調製した。
【0073】
[コーティング組成物の硬化]
実施例1〜3で得られたコーティング組成物1〜3は50℃を超える温度での焼結の必要がなく、大気中、25℃で5分間保持することにより硬化し、25℃において完全に均一相の固体となった。
これに対し、比較例1〜3のカチオン触媒を添加しなかったコーティング組成物11〜13は、硬化に、過酸化水素水が共存した条件で80℃、1時間の焼結を必要とし、得られた複合体はべたつきがあり、完全に硬化したシリカ−エポキシ樹脂複合材料には至らなかった。また、大気中、20℃で5分間の保持では硬化しなかった。
【0074】
[金属基板上への保護膜の製造]
実施例1〜3、比較例1〜3で調製されたコーティング剤1〜3、11〜13を用いて、金属基板上への保護膜の製造を行った。
すなわち、実施例1〜3、比較例1〜3で調製されたコーティング剤1〜3、11〜13を、調製後直ちに、大気中にて、銅基板、ステンレス基板(ステンレス、または銅:150mm×100mm×1.0mm、以下「金属基板」と記載)の両表面にフローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、25℃で5分間保持することにより基板の表面にシリカ−エポキシ樹脂複合体(シリカ−エポキシ樹脂複合材料)からなる透明性保護膜を有する複合材料を作製した。なお、比較例1〜3で調製されたコーティング剤11〜13を使用したものからは、完全に硬化した保護膜は得られなかった。
【0075】
[樹脂基板上への保護膜の製造]
実施例1〜3、比較例1〜3で調製されたコーティング剤1〜3、11〜13を用いて、以下に示すように、樹脂基板上への保護膜の製造を行った。
【0076】
<透明ポリエステルフィルムの作成>
透明ポリエステルフィルム(297mm×210mm×1mm、以下PETフィルムと記載)は、透明フィルム(3M社製OHPフィルムPP2500)を300mlのアセトンで洗浄し、乾燥して作成した。
【0077】
<PETフィルム上への保護膜の製造>
実施例1〜3、比較例1〜3で調製されたコーティング剤1〜3、11〜13を、調製後直ちに(10〜30分以内)、大気中にて、PETフィルムの両表面にフローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、25℃で5分間保持することにより基板の表面にシリカ−エポキシ樹脂複合体(シリカ−エポキシ樹脂複合材料)からなる透明性保護膜を有する複合材料を作製した。なお、比較例1〜3で調製されたコーティング剤11〜13を使用したものからは、完全に硬化した保護膜は得られなかった。
【0078】
[NMRスペクトル測定]
比較例4〜5の、カチオン触媒を添加しなかったコーティング組成物14〜15を、40℃、窒素パージ下に保持し、それぞれ、0,3,9,24時間後(比較例14)、0,3,9,15,35時間後(比較例15)のNMRスペクトルを測定した。なお、NMRスペクトルは核磁気共鳴装置(商品名「GSX」、JEOL社製)を使用し、400MHz(1H−NMR)にて測定した。
NH基、エポキシ基などのピーク比は、図1,2に示すように、ほとんど変化せず、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基及びPHPSは、安定に存在し、コーティング組成物は硬化しなかった。すなわち、比較例4〜5のコーティング組成物からシリカ−エポキシ樹脂複合材料を得ることはできなかった。
【0079】
[試料の評価]
【0080】
実施例1〜3のコーティング組成物1〜3を室温で硬化して得られたシリカ−エポキシ樹脂複合材料1〜3,比較例1〜3のコーティング組成物11〜13を過酸化水素水が共存した条件で80℃、1時間焼結して得られたシリカ−エポキシ樹脂複合材料11〜13について、以下の評価を行った。なお、比較例1〜3で得られたコーティング組成物11〜13を使用して作製したシリカ−エポキシ樹脂複合材料11〜13はべたつきを持った材料となっており、完全に硬化した複合材料とはなっていない。そこで、参考値として比較例1の複合材料に関する測定のみおこなった。また、各複合材料において、シリカ重量分率(%)[上記式(5)による計算値]を表1に示す。
【0081】
<鉛筆硬度>
鉛筆硬度をASTM D3363に準拠して測定した。測定結果を表1に示す。
【0082】
<Tg>
Tgの測定方法:SII(セイコー電子)製DSC200、昇華温度 20℃/min(測定温度範囲30〜300℃、N2雰囲気下)で測定をおこないガラス転移温度Tg(℃)を求めた。測定結果を表1に示す。
【0083】
<透明性>
PETフィルム上に保護膜を形成した複合材料の透明性を目視にて観察した。○はPETフィルムと同等の透明性、△は僅かに不透明、×は不透明、をそれぞれ示す。測定結果を表1に示す。
【0084】
<ヘイズ>
表1において、基材上に保護膜を形成した複合材料のヘイズとして、○はPETフィルムと同等の透明性、△は僅かに不透明、×は不透明、をそれぞれ示した。また、表1において、基材が金属の場合、ヘイズとして、○は金属材料がクリアーに見える、△は僅かに不透明、×は不透明をそれぞれ示した。
【0085】
また、PETフィルムに塗布した膜は180°に折り曲げても透明性保護膜に割れや剥がれも見られない良好なものであった。一方、ポリシラザン溶液を単独でPETフィルムに塗布した膜はフィルムを曲げることで透明性保護膜は割れ剥がれた。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1により得られた複合膜はべたつきのないものであるが、比較例1〜3により得られた膜は完全に硬化しておらずべたつきがあり、参考値として比較例1のみ該当項目の測定を実施した。
【0088】
実施例4
[コーティング組成物4]
ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)4.02mlを、室温にて真空乾燥してキシレン溶媒を除去し、これに脱水乾燥したセロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製)1.03mlを溶媒として加え、ペルヒドロポリシラザン−セロキサイド2021P溶液を作製した。次いで、カチオン触媒(商品名「サンエイドSI−60L」、三新化学工業(株)製)0.0136gを上記ペルヒドロポリシラザン−セロキサイド2021P溶液と混合し、コーテイング組成物4を調製した。
【0089】
実施例5
[コーティング組成物5]
ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)4.04 mlを、室温にて真空乾燥してキシレン溶媒を除去し、これに脱水乾燥したセロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製)0.23mlを溶媒として加え、ペルヒドロポリシラザン−セロキサイド2021P溶液を作製した。一方、カチオン触媒(商品名「サンエイドSI−60L」、三新化学工業(株)製)0.0133gをセロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)0.84mlに溶解させたカチオン触媒配合セロキサイド3000溶液を調製した。上記ペルヒドロポリシラザン−セロキサイド2021P溶液とカチオン触媒配合セロキサイド3000溶液を混合し、コーテイング組成物5を調製した。
【0090】
実施例6
[コーティング組成物6]
セロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)0.40mlにカチオン触媒(商品名「サンエイドSI−60L」、三新化学工業(株)製)0.0661gを溶解させたカチオン触媒配合セロキサイド3000溶液を調製した。ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)を室温にて真空乾燥してキシレン溶媒を除去し、上記カチオン触媒配合セロキサイド3000溶液と混合し、コーティング組成物6を調製した。
【0091】
比較例6
[コーティング組成物16]
セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)製)1.19mlにカチオン触媒(商品名「サンエイドSI−60L」、三新化学工業(株)製)0.0233gを溶解させたカチオン触媒配合セロキサイド2021P溶液を調製し、コーティング組成物16とした。
【0092】
比較例7
[コーティング組成物17]
ペルヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ製NN−110;PHPS濃度20重量%、数平均分子量700)をコーティング組成物17とした。
【0093】
評価試験
実施例4〜6で調製されたコーティング組成物4〜6を、調製後直ちに(10〜30分以内)、大気中にて、ポリカーボネート板(30mm×70mm×厚み1mm)の表面にフローコート法により塗布しコート膜を形成した。塗布後、大気中、25℃で5分間保持することにより、基板(ポリカーボネート板)の表面にシリカ−エポキシ樹脂複合体(シリカ−エポキシ樹脂複合材料)からなる透明性保護膜(塗膜)を有する複合材料を作製した。また、比較例6、7のコーティング組成物16、17を用い、同様にして、ポリカーボネート板の表面に塗膜を形成して複合材料を得た。得られた各複合材料について以下の試験を行った。結果を表2に示す。また、各複合材料において、シリカ重量分率(%)[上記式(5)による計算値]を表2に示す。
【0094】
<鉛筆硬度>
塗膜の鉛筆硬度をASTM D3363に準拠して測定した。
【0095】
<透明性>
ポリカーボネート板上に保護膜を形成した複合材料の透明性を目視にて観察した。○はポリカーボネート板と同等の透明性、△は僅かに不透明、×は不透明、をそれぞれ示す。
【0096】
<透過率(T%)>
ポリカーボネート板上に保護膜を形成した複合材料の600nmにおける透過率を、可視−紫外分光光度計(日本分光社製、「V530」)を用い、波長範囲200nm〜1100nm、走査速度200nm/min、データ取り込み間隔1.0nmの測定条件にて測定した。リファランスを空気とした。
【0097】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(i)を1分子当りに少なくとも1個有するエポキシ化合物(A)と、ポリシラザン(B)と、該ポリシラザン(B)を溶解する乾燥溶媒(C)と、カチオン触媒(D)と、を含むコーティング組成物であることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
カチオン触媒(D)がルイス酸である、請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
ルイス酸がBF3、BF3OEt2(Etはエチル基を示す)、AlCl3、FeCl3、ZnCl2、TiCl2、TiCl4、SnCl2、SnCl4、MgCl2からなる群より選択される1種以上である、請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
エポキシ化合物(A)が下記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【化1】

[上記式(1)中、mは0〜30の整数を示す]
【化2】

【化3】

【請求項5】
前記エポキシ化合物(A)100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)5〜250重量部を混合して製造される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物を硬化してなるシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項7】
前記エポキシ化合物(A)由来のエポキシ樹脂100重量部に対し、前記ポリシラザン(B)由来のシリカを5〜250重量部含む、請求項6記載のシリカ−エポキシ樹脂複合材料。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法であって、該コーティング組成物を不活性雰囲気下で調製する調製工程と、該コーティング組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面でポリシラザンをシリカに転化させて硬化させ、透明性保護膜とする硬化工程と、を含むことを特徴とするコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法。
【請求項9】
前記塗布工程は、ディップコート法またはフローコート法で塗布する工程である、請求項8記載のコーティング組成物を用いた透明性保護膜の製造方法。
【請求項10】
透明性を有する樹脂からなる透明樹脂基材と、
該透明樹脂基材の表面に塗布された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物が硬化されてなり、前記エポキシ化合物(A)が重合したエポキシ樹脂を含む有機部と、前記ポリシラザン(B)が転化したシリカを含む無機部と、をもつ有機−無機ナノコンポジットからなる透明性保護膜と、
を備えることを特徴とする透明性保護膜を有する複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256370(P2011−256370A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98379(P2011−98379)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】