説明

コーティング組成物およびその使用

【課題】調製方法が簡単で調製コストが低い、赤外光遮蔽機能およびUV光吸収機能を有する材料の提供。
【解決手段】光触媒コンポジットおよびシリコーン樹脂を含むコーティング組成物であって、光触媒コンポジットの含量がコーティング組成物の全重量に対して約1重量%〜約70重量%であり、光触媒コンポジットが断熱材料および光触媒材料を含むコーティング組成物が提供される。基材および該基材の少なくとも1つの表面に本発明のコーティング組成物から形成されたフィルムを含む省エネルギー材料がさらに提供される。省エネルギー材料は赤外(IR)光を効率的に遮断し、屋内温度を実質的に低下させ、電力消費を低減させることができる。さらに、紫外光を吸収できる光触媒の存在下では、材料はまた、良好な超親水性および自己洗浄性を示し、抗菌効果および脱臭効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にコーティングすることができ、それにより基材の表面に自己洗浄効果および断熱効果を与えることができるコーティング組成物に関する。本発明はさらに、本発明のコーティング組成物から形成されるフィルムを含む省エネルギー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光の熱効果を遮蔽するための多くの材料、たとえば建物のガラスカーテン、自動車のガラス、および断熱紙が市販されている。簡単に言えば、これらの材料は光を供給するために日光を透過させる目的を果たす一方、熱源(即ち赤外光の熱効果)を遮断することが期待される。しかし、たとえば赤外光遮断性を有する現在のガラスについては、製造コストが高すぎ、効果はあまり満足できるものではない。たとえば、赤外光吸収性の極薄の銀箔をガラスに埋め込んで赤外光を遮蔽できることが知られているが、調製コストが高く、銀は酸化されやすく、そのため赤外光遮断効果を失う。
【0003】
さらに、赤外光を遮断できる材料(たとえば高屈折率の二酸化チタンおよび低屈折率のシリカ)を真空蒸着によってガラスまたはレンズに塗布して、赤外光を遮断できるフィルムを形成することができる。しかし、このようにして形成されたフィルムには、コストが高い、製造方法が複雑である、効果が不満足である等の欠点があり、そのため経済的利益の要求に合致しない。
【0004】
上記の2つの方法に加え、顔料または染料をガラスに配合して日光中の赤外光を吸収させるという、代替の低コスト解決策が提案されている。しかし、強い日光または散乱光で照射されると、顔料または染料を含むこの種のガラスには煙のようなヘイズが生じ、そのため赤外光吸収性能が影響され、顔料または染料は長期の使用後には分解し、対応する効果を失うことになる。
【0005】
さらに、光触媒は光(特にUV光)を吸収して電子を励起する機能を有し、そのため光触媒性能を有することが知られている。光触媒材料は、光で励起された後、空気中の水分子または酸素分子を活性化して酸化還元反応のためのヒドロキシルラジカルまたはマイナス酸素イオンを形成し、それにより環境中の汚染物質を分解する。したがって、光触媒材料は空気または廃水中の汚染物質を除去し、表面に付着した細菌を阻害してそれにより抗菌効果を達成するために用いることができる。さらに、光が照射されると、水素分子の存在によって遊離ラジカルまたはマイナス酸素イオンが形成されて光触媒材料の表面から放出され、もともと酸素によって占有されていた位置に空位が形成される。この場合には、もし存在すれば環境中の水分子が空位を占有し、陽子を失ってヒドロキシル基を形成し、そのため光触媒材料は超親水性を示し、したがって自己洗浄性および防曇効果が達成されることになる。
【0006】
一般に赤外光遮蔽機能およびUV光吸収機能を有する断熱フィルムまたは窓ガラスコーティングについては、基材に多層加工を施して複合フィルムを形成することが必要であり、調製方法が複雑で調製コストが高い。したがって、赤外光遮蔽機能およびUV光吸収機能を有する材料を提供することに継続的な努力が現在向けられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は光触媒コンポジットおよびシリコーン樹脂を含むコーティング組成物を提供する。組成物中の光触媒コンポジットの含量は組成物の全重量に対して約1〜70重量%であり、光触媒コンポジットは、
【0008】
(1)アンチモンスズ酸化物(ATO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、およびガリウム亜鉛酸化物(GZO)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される断熱材料;および
【0009】
(2)二酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、および酸化スズ、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される光触媒材料
を含み、光触媒材料の含量は光触媒コンポジットの全重量に対して約10〜90重量%である。
【0010】
本発明はさらに、基材および該基材の少なくとも1つの表面に適用されたフィルムを含む省エネルギー材料を提供する。該材料において該フィルムは本発明のコーティング組成物から形成され、自己洗浄効果および断熱効果を有する。
【0011】
本発明のコーティング組成物は熱を発生する赤外光を効果的に遮断または反射することができ、そのため赤外光の透過率は大きく低減される。光触媒材料はUV光吸収能、自己洗浄機能、ならびに防曇、抗菌、および脱臭効果を示す。さらに、本発明のコーティング組成物は一般的なコーティング法によって基材に適用でき、したがって調製方法は比較的単純で安価である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1による光透過の比較図である。
【図2】本発明のコーティング組成物の、メチレンブルーについての分解速度を示す図であり、これはコーティング組成物の光触媒特性を示す。
【図3】UV光照射時の本発明のコーティング組成物と水との接触角の測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において用語「約」は、指示された値の±10%の変動を意味する。
【0014】
本発明のコーティング組成物は光触媒コンポジットおよびシリコーン樹脂を含み、該組成物中の光触媒コンポジットの含量は組成物の全重量に対して約1%〜約70重量%、好ましくは約40%〜約60重量%である。光触媒コンポジットの含量が1重量%より低い場合は、組成物の赤外光遮蔽効果およびUV光吸収効果が不十分であり、含量が約70重量%より高い場合は、樹脂中の光触媒コンポジットの分散性が大きく低下し、コーティングされた組成物が剥落する可能性がある。
【0015】
光触媒コンポジットは断熱材料および光触媒材料を含み、該コンポジット中の光触媒材料の含量は光触媒コンポジットの全重量に対して約10%〜約90重量%、好ましくは約40%〜約85重量%である。
【0016】
光触媒コンポジットは通常、約2〜約100ナノメートル(nm)、好ましくは約5〜約45nm、より好ましくは10〜35nmの粒径を有する。粒径が2nmより小さい場合は、光触媒コンポジットの製造が容易でなく、実用的でない。粒径が100nmより大きい場合は、全体の表面積が小さくなり、したがって可視光の透過が低下し、断熱効果が乏しくなる。本発明の光触媒コンポジットの粒径は可視光の波長(約380nm〜約780nm)より小さいので、光触媒コンポジットに光を照射した際に透過光は大きくは散乱されず、それにより透過光の質に対する悪影響が避けられる。
【0017】
本発明の光触媒コンポジット中の断熱材料は約70%以上の赤外反射率を有する必要があり、アンチモンスズ酸化物(ATO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、およびガリウム亜鉛酸化物(GZO)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、光触媒コンポジットの断熱材料としてITOまたはATOを用いる場合には、他の材料と比較してより少ない材料使用量で実質的に同じ断熱効果を達成することができ、したがって光触媒コンポジットはコスト効率がより高い。さらに、コーティング組成物がITOを含む場合には、これは赤外光を効率的に反射できるだけでなく、より良い可視光透過性を示し、透明な断熱材料として有利に用いることができることがわかる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、光触媒コンポジットの断熱材料としてITOを用いる場合には、好ましい透過性を達成することができる。さらに、本発明のコーティング組成物においてITOを用いる場合には、赤外光が効率的に反射され、他の材料と比較してより少ない材料使用量で実質的に同じ断熱効果を達成することができ、したがってコスト効率がより高いことがわかる。
【0020】
IR光を遮蔽または反射することができる断熱材料に加えて、本発明のコーティング組成物中の光触媒コンポジットは光触媒材料をさらに含む。該光触媒材料はUV光を吸収して電子を励起する機能を有しており、したがって光触媒特性を有している。光触媒材料は、光で励起されると、空気中の水分子または酸素分子を活性化して酸化還元反応のためのヒドロキシル遊離ラジカルまたはマイナス酸素イオンを形成し、それにより環境中の汚染物質を分解する。したがって、光触媒材料は空気または廃水中の汚染物質を除去し、表面に付着した細菌を阻害してそれにより抗菌効果を達成するために用いることができる。さらに、光触媒材料は超親水性をも示し、水分が汚れと光触媒材料との間に水性フィルムを形成することができ、そのため汚れの付着が低減され、水性フィルム上の汚れが水または雨水で洗浄した後で容易に除去できる。したがって、光触媒材料はUV光吸収能力および自己洗浄機能を有し、防曇、抗菌、および脱臭効果を奏する。
【0021】
本発明の光触媒コンポジットに適した光触媒材料は当業者に周知の任意のものであってよく、たとえば二酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化スズ、またはそれらの混合物でよく、好ましくは環境および人体に比較的害が少ない二酸化チタンである。触媒の性能に関しては、アナターゼ結晶構造の二酸化チタンが好ましい。さらに、光触媒材料の粒径は約100nmより小さいことが、光触媒効果を示すために必要である。たとえば、二酸化チタンの粒径は適切には約1〜約100nm、好ましくは約5〜約30nmである。粒径が1nmより小さい場合は、二酸化チタンの製造が困難で分散が容易でなく、粒径が100nmより大きい場合は、光触媒効果が大きく低下することになる。
【0022】
本発明のコーティング組成物は、たとえば、それだけに限らないが、アクリル樹脂、フッ化炭素樹脂またはシリコーン樹脂であってよいバインダーを含む。光触媒が酸化され分解されることを防ぐために、バインダーはシリコーン樹脂が好ましい。本発明のコーティング組成物中に含まれるシリコーン樹脂は、コーティング組成物の全重量に対して約30重量%〜約99重量%、好ましくは約40重量%〜約60重量%の量で存在する。
【0023】
本発明に有用なシリコーン樹脂は特に限定されず、当業者に周知のもの、即ち反復Si-O結合からなる主鎖を有し、水素原子または有機基がケイ素原子に直接結合している、式[RnSiO4-n/2]m [式中、Rは水素または有機基を表わし、独立に水素、C1〜6アルキル、C2〜5エポキシ、またはC6〜14アリールであり、好ましくは水素、メチル、エチル、
【0024】
【化1】

【0025】
、またはフェニルであり、nはケイ素原子に結合している水素原子または有機基の数であって0〜3の範囲にあり、mは重合度を表わし2以上の整数である]の有機ポリシロキサン樹脂であってよい。ポリシロキサンの化学構造を構築するためのステップには、ポリマー鎖の長さの決定、分枝、および水素または有機基を結合させる場所の位置付けが含まれる。化学構造を考慮し、文字M(単官能基を示す)、D(二官能基)、T(三官能基)、およびQ(四官能基)を用いて、ポリマー分子に導入される構造基を表わすことができる。
【0026】
市販のシリコーン樹脂の例には、これだけに限らないが、信越社製のKBM-1003、KBE-402、KBE-403、KBM-502、KBM-04、KBE-13、およびKBE-103、ならびにDow Corning社製のZ-6018および3037が含まれる。
【0027】
シリコーン樹脂は単一種および2種以上の組合せで用いることができる。本発明に有用なシリコーン樹脂は、式R1O-[SiR2O]w-SiR2(OR1) [式中、wは1〜1000の整数であり、Rは上で定義したものであり、R1は独立にH、C1〜3アルキルまたはC2〜5エポキシであって、好ましくはメチル、エチル、または
【0028】
【化2】

【0029】
である]のオリゴマーであってよい。そのようなオリゴマーによって、より良いフィルム形成性、分散性、および柔軟性、ならびに硬化後の高い表面硬度を有する本発明のコーティング組成物が得られる。
【0030】
本発明において用いられるシリコーン樹脂の適切な調製法は特に限定されない。本発明の好ましい実施形態によれば、シリコーン樹脂はゾル-ゲル法によって形成される。ゾル-ゲル法には、約数百ナノメートルサイズの固体粒子の原料(一般には無機金属塩)を液体中に懸濁するステップが含まれる。典型的なゾル-ゲル法においては、反応物は一連の加水分解反応および重合反応を受けてコロイド状懸濁液を生成し、該コロイド状懸濁液中の得られた物質が凝縮して、溶液を含む固体ポリマーの新しい相、即ちゲルとなる。調製されたゾル-ゲルの性質は原料の種類、触媒の種類および濃度、pH値、温度、溶媒の量、ならびにアルコールおよび塩の種類および濃度に依存する。
【0031】
本発明のコーティング組成物は、場合によりナノサイズの無機微粒子を含んでもよく、そのため光触媒コンポジットの表面は無機微粒子の層で覆われ、それによりコーティング組成物によって基材の表面がコーティングされる際に光触媒と基材との直接接触が避けられ、光触媒の酸化性によって容易に起こり得る基材の劣化が避けられる。存在する場合には、無機微粒子の量はコンポジット材料の全重量に対して約0.1重量%〜約40重量%である。本発明に有用な無機微粒子は特に限定されず、一般にシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、硫化カドミウム(CdS)、ジルコニア(ZrO2)、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、酸化カルシウム(CaO)、およびそれらの組合せから選択され、SiO2が好ましい。本発明の好ましい実施形態によれば、光触媒コンポジットは多孔質無機微粒子の層でコーティングされる。特に、本発明のコンポジット材料における光触媒コンポジットは多孔質無機微粒子の層でコーティングされ、したがって基材と直接接触してこれを破壊することがなく、外部の不純物(たとえば臭気分子および細菌)は拡散によって多孔質無機粒子を浸透し、光触媒材料に到達して吸収され、光触媒的に分解されて、それにより洗浄、抗菌および脱臭の目的が達成される。
【0032】
用途における必要性に応じて、有機溶媒を本発明のコーティング組成物にさらに加えてもよい。有機溶媒を本発明のコーティング組成物に用いる場合には、その量はコーティング組成物の全重量に対して約1重量%〜約95重量%、好ましくは約65重量%〜約90重量%である。有機溶媒は当業者に周知の任意のものでよく、たとえばこれだけに限らないが、アルカン、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、アルコール、またはエーテルアルコールであってよい。本発明に有用なアルカン溶媒は、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。本発明に有用な芳香族炭化水素溶媒は、ベンゼン、トルエン、およびキシレン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。本発明に有用なケトン溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、および4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。本発明に有用なエステル溶媒は、酢酸イソブチル(IBAC)、酢酸エチル(EAC)、酢酸ブチル(BAC)、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エトキシエチル、酢酸エトキシプロピル、イソ酪酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および酢酸ペンチル、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。本発明に有用なアルコール溶媒は、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、およびイソペンタノール、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。本発明に有用なエーテルアルコール溶媒は、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CAC)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、およびプロピレングリコールモノメチルプロピオネート(PMP)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0033】
本発明は、基材および該基材の少なくとも1つの表面に上述のコーティング組成物から形成されたフィルムを含む省エネルギー材料をさらに提供する。本発明のコーティング組成物を基材の少なくとも1つの表面にたとえばコーティング、スプレー、または浸漬である一般的な適用方法によって適用し、次いで乾燥して平滑なフィルムを形成することができる。現在の省エネルギー材料は一般にコーティング硬度が低く、擦り傷がつきやすいという欠点を有しており、そのためコーティングは長期間の後に非常に擦り傷がつきやすく、擦り傷がついたコーティングが今度は窓等の物品の美観に重大な影響を与える。本発明の好ましい実施形態によれば、省エネルギー材料のフィルムはJIS K5400標準方法に従って測定して、H以上、好ましくは3H以上の鉛筆硬度を有しており、上述の欠点を効率的に克服することができる。
【0034】
上述の基材には、これだけに限らないが、ガラス、プラスチック、建物用の断熱プレート、金属、セラミックタイル、木材、皮革、石、コンクリート、壁面、繊維、綿織物、電化製品、照明器具、およびコンピューター筺体が含まれ、ガラスおよび建物用の断熱プレートが好ましい。
【0035】
本発明の特定の実施形態によれば、省エネルギー材料には、ガラスおよび前記のコーティング組成物をガラスの少なくとも1つの表面にコーティング、スプレー、または浸漬によって適用することによって形成されたフィルムが含まれる。フィルムは約0.5〜約50マイクロメーターの厚みを有する。本発明による省エネルギー材料は波長550nm未満の可視光の透過率が約70%以上、好ましくは約90%以上である。本発明の省エネルギー材料は良好な視覚効果および約70%以上の赤外光(熱放射)反射率を有しており、良好な断熱効果を示すので、屋内温度を実質的に低下させ、電力消費を低減させることができ、従来市販の断熱フィルムを取り付けたガラスと比較してより良い省エネルギー効果およびより高い可視光透過率を有し、したがってコストが大きく低減され、適用が簡単であり、建物のガラスカーテンまたは自動車用ガラスにおいて広く応用されるという利点を有している。さらに、市販の省エネルギー材料用のコーティング組成物に含まれる殆ど全ての断熱材料(六ホウ化ランタン等)は日光中の赤外光を反射よりむしろ吸収し、吸収された赤外光は熱エネルギーに変わってガラス中に蓄えられる。そのためガラスの表面温度が上昇し、したがってガラスにひび割れが入る危険がある。
【0036】
さらに、本発明のコーティング組成物中の光触媒コンポジットは超親水性を有しており、そのため空気中の水分が引き付けられて汚れと光触媒コンポジットとの間に極薄の水性フィルムを形成し、汚れの付着が低減される。さらに、光触媒は有機の汚れ粒子を酸化してその構造を分解することもでき、そのため粒子はガラスの表面に付着しないことになる。降雨の際には超親水性の効果によって雨水が汚れと光触媒との間の界面に均一に浸透し、雨水が十分な程度に集積すると、水性フィルム上の汚れは容易に洗い除くことができる。そのため人力によって普通のガラスの表面を清浄に維持する頻度が低減され、自己洗浄効果が達成される。
【0037】
過去には省エネルギー材料を得るために赤外光を遮蔽しUV光を吸収するための処置を基材上に実施する必要があり、そのため赤外光遮蔽とUV光吸収の両方の効果は、基材上に多層加工を施した後にのみ達成できる。しかし、本発明のコーティング組成物を用いることによって、赤外光遮蔽とUV光吸収の効果を有する省エネルギー材料が、基材の表面に1回の適用処置を行なうことだけで得られる。基材上に適用されたフィルムが光触媒材料を含むので、これはUV光を吸収することができ、したがって自己洗浄、防曇、抗菌、および脱臭効率が得られ、断熱材料の存在によってフィルムは赤外光を効率的に反射することもでき、それにより可視光を透過させながら赤外光の透過を低減することができる。さらに、フィルム中に含まれる粒子のサイズが可視光の波長より小さいので、粒子は透過した光を散乱せず、また透過した光の質に影響を与えず、基材の透明性を保つことができる。
【0038】
本発明は、四塩化チタンの加水分解によって硫酸チタンの中間生成物を得るステップ、次に断熱材料を加えて低温で光触媒コンポジット粉末を得るステップ、ならびに得られた光触媒コンポジット粉末とシリコーン樹脂とを次に混合および磨砕して本発明のコーティング組成物を得るステップを含む、コーティング組成物を調製するための方法をさらに提供する。
【0039】
本発明の好ましい特定の実施形態によれば、適切な割合のゾル-ゲルシリコーン樹脂と光触媒コンポジット粉末とを混合して場合により溶媒を加え、次いで磨砕することにより、本発明のコーティング組成物が得られる。上述の光触媒コンポジット粉末は以下のステップを含む方法によって得ることができる。
【0040】
(a)四塩化チタンの加水分解によって白色ゲル水和物を得るステップ、
【0041】
(b)得られた水和物に反応器中で濃硫酸を加えて10〜15分撹拌し、硫酸チタン溶液を得るステップ、
【0042】
(c)硫酸チタン溶液を十分に混合し、通常の温度で0.5〜5時間撹拌するステップ、
【0043】
(d)80〜100℃に加熱して、一定温度で2〜7時間反応させるステップ、および
【0044】
(e)適切な比率でITO粉末を加え、混合のために1〜4時間撹拌し、4〜6Mの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、濾過し、洗浄し、室温で乾燥して光触媒コンポジット粉末(TiO2+ITO)を得るステップ。
【0045】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。実施例は単に本発明を例示するために用いるものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。当業者に明白で本発明の精神および原理から逸脱することなく実施できるいかなる変更または改変も本発明の範囲に含まれるべきである。
【0046】
(実施例)
以下の実施例および比較例において、他に記述がない限り百分率は重量パーセント(wt%)である。
【0047】
(実施例1)
3.9Mの四塩化チタン溶液200mlを水で希釈して全体積2000mlとし、次いで水性アンモニア500ml(5M)を滴下して白色の水酸化チタン沈殿を生成させ、これを濾過し、脱イオン水(200ml×3)で洗浄して残存する水を除去し、白色ゲルとして水酸化チタン[Ti(OH)4]を得た。
【0048】
上述の水酸化チタン250gに濃硫酸(18M)100〜150gを加え、30分撹拌して透明で澄んだ硫酸チタン溶液を得た。硫酸チタン溶液を反応器に入れ、SiO2水溶液(20%)32.2gを加え、通常の温度で4時間撹拌し、次いで100℃に加熱して2時間反応させた。ITO水溶液(10%)100gを加え、反応液を通常の温度で2時間撹拌して混合物を得た。
【0049】
水酸化ナトリウム水溶液600ml(5M)を滴下し、次いで得られた溶液を中性のpHに調整し、得られた沈殿を濾過し、洗浄し、室温で乾燥して灰青色の粉末を得た。XRDによってこれがアナターゼ型光触媒とITOとの光触媒コンポジットであることを検出した。
【0050】
得られた光触媒コンポジットをシリコーン樹脂(固体含量27%)に光触媒コンポジット:樹脂=1:3の重量比で加え、撹拌し、磨砕し、分散させ、ガラスプレートに塗布して、5マイクロメーターの厚みを有するコーティングを形成させた。光透過率測定、有機物(メチレンブルー)分解試験、親水性試験、および断熱試験を実施した。
【0051】
ブランクのガラスプレートおよびコーティングをそれぞれUV/可視/近赤外分光器(JASCO社製、Model V-570)に入れて、UV光から近赤外光の範囲の光透過率を測定した。試験結果を図1に示す(ここで2本の垂直線の間の範囲は可視光を表わす)。ジグザグの線はコーティングしていないガラスプレートの透過率値を表わし(透過率は約100%である)、実線は1つの表面に1回コーティングしたガラスプレートの透過率値を表わし、点線は両方の表面にコーティングしたガラスプレートの透過率値を表わす。試験結果から、本発明のコーティングはUV光および近赤外光の透過率を大幅に低減し、UV光および近赤外光を効率的に遮蔽できることがわかる。
【0052】
内径40mm、高さ30mmの円筒形試験カラムに(35±0.3)mlのメチレンブルーを加え、次いでその上にコーティングを有する側長(60±2)mmの四角形のガラスを載せた。コーティングを(1.00±0.05)mW/cm2のUV光で合計6時間照射し、メチレンブルーの分解速度を1時間ごとに測定した。試験結果を図2に示す。試験結果から、UV光での照射によって本発明のコーティングは有機物(メチレンブルー)を効果的に分解することができ、したがって光触媒特性を有することがわかる。
【0053】
試験プレートとしてコーティングを有する側長(100±2)mmの四角形のガラスを取り、1μlの水を試験プレートに接触させて画像を得て、接触角テスターで接触角を測定した。コーティングを(1.0±0.1)mW/cm2のUV光で照射し、接触角を50時間に1回測定した。試験結果を図3に示す。試験結果から、本発明のコーティングはUV光の照射によって超親水性を有することがわかる。
【0054】
赤外光電球(PHILIPS社製)の約20cm下の位置にコーティングを置き、100gの水を入れたビーカーをガラスコーティングの約15cm下の位置に置いて赤外光電球で照射し、赤外温度計(TESシリーズ、TES Electrical Electronic社製)を用いて表面温度を定期的に5分ごとに測定した。試験結果を下のTable 1(表1)に示し、照射30分後のコーティングの表面温度を下のTable 2(表2)に示す。
【0055】
(実施例2)
3.9Mの四塩化チタン溶液200mlを水で希釈して全体積2000mlとし、次いで水性アンモニア500ml(5M)を滴下して白色の水酸化チタン沈殿を生成させ、これを濾過し、脱イオン水(200ml×3)で洗浄して残存する水を除去し、白色ゲルとして水酸化チタン[Ti(OH)4]を得た。
【0056】
上述の水酸化チタン250gに濃硫酸(18M)100〜150gを加え、30分撹拌して透明で澄んだ硫酸チタン溶液を得た。硫酸チタン溶液を反応器に入れ、SiO2水溶液(20%)32.2gを加え、通常の温度で4時間撹拌し、次いで100℃に加熱して2時間反応させた。ATO水溶液(15%)100gを加え、反応液を通常の温度で2時間撹拌して混合物を得た。
【0057】
水酸化ナトリウム水溶液600ml(5M)を滴下し、次いで得られた溶液を中性のpHに調整し、得られた沈殿を濾過し、洗浄し、室温で乾燥して深青色の粉末を得た。XRDによってこれがアナターゼ型光触媒とATOとの光触媒コンポジットであることを検出した。
【0058】
得られた光触媒コンポジットをシリコーン樹脂(固体含量27%)に光触媒コンポジット:樹脂=1:3の重量比で加え、撹拌し、磨砕し、分散させ、ガラスプレートに塗布して、5マイクロメーターの厚みを有するコーティングを形成させた。断熱試験を実施した。
【0059】
赤外光電球(PHILIPS社製)の約20cm下の位置にコーティングを置き、100gの水を入れたビーカーをガラスコーティングの約15cm下の位置に置いて赤外光電球で照射し、赤外温度計(TESシリーズ、TES Electrical Electronic社製)を用いて表面温度を定期的に5分ごとに測定した。試験結果を下のTable 1(表1)に示し、照射30分後のコーティングの表面温度を下のTable 2(表2)に示す。
【0060】
(比較例1)
3.9Mの四塩化チタン溶液200mlを水で希釈して全体積2000mlとし、次いで水性アンモニア500ml(5M)を滴下して白色の水酸化チタン沈殿を生成させ、これを濾過し、脱イオン水(200ml×3)で洗浄して残存する水を除去し、白色ゲルとして水酸化チタン[Ti(OH)4]を得た。
【0061】
上述の水酸化チタン250gに濃硫酸(18M)100〜150gを加え、30分撹拌して透明で澄んだ硫酸チタン溶液を得た。硫酸チタン溶液を反応器に入れ、SiO2水溶液(20%)32.2gを加え、通常の温度で4時間撹拌し、次いで100℃に加熱して2時間反応させた。六ホウ化ランタンの水溶液(10%)100gを加え、反応液を通常の温度で1時間撹拌して混合物を得た。
【0062】
水酸化ナトリウム水溶液600ml(5M)を滴下し、得られた沈殿を濾過し、洗浄し、室温で乾燥して灰青色の粉末を得た。XRDによってこれがアナターゼ型光触媒と六ホウ化ランタンとの光触媒コンポジットであることを検出した。
【0063】
得られた光触媒コンポジットをシリコーン樹脂(固体含量27%)に光触媒コンポジット:樹脂=1:3の重量比で加え、撹拌し、分散させ、ガラスプレートに塗布して、5マイクロメーターの厚みを有するコーティングを形成させた。断熱試験(PHILIPS社製赤外光電球を用いる)を実施した。
【0064】
赤外光電球の約20cm下の位置にコーティングを置き、100gの水を入れたビーカーをガラスコーティングの約15cm下の位置に置いて赤外光電球で照射し、赤外温度計(TESシリーズ、TES Electrical Electronic社製)を用いて表面温度を定期的に5分ごとに測定した。試験結果を下のTable 1(表1)に示し、照射30分後のコーティングの表面温度を下のTable 2(表2)に示す。
【0065】
(比較例2)
市販の断熱紙(Top Colour Film社製、商品名SDシリーズTop Colour)をガラス表面に取り付けて赤外光電球の約20cm下の位置に置き、100gの水を入れたビーカーをガラスアタッチメントの約15cm下の位置に置いて赤外光電球で照射し、赤外温度計(TESシリーズ、TES Electrical Electronic社製)を用いて表面温度を定期的に5分ごとに測定した。試験結果を下のTable 1(表1)に示し、照射30分後のアタッチメントの表面温度を下のTable 2(表2)に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
Table 1(表1)の結果の比較から、本発明のコーティング組成物を有するコーティングをガラスの表面に適用することによって効果的に断熱できることがわかる。
【0069】
実施例1および2と比較例1との比較から、本発明のコーティング組成物は赤外光を効果的に反射することができ、ガラスの表面温度の低下がもたらされ、それによりガラスのひび割れの危険が避けられることがわかる。
【0070】
実施例1および2と比較例2との比較から、本発明のコーティング組成物は断熱紙に比べてガラスコーティング上の表面温度の低下をもたらすことがわかる。コーティング組成物は断熱紙よりも容易に適用することができ、熱エネルギーの蓄積または熱対流の生成の可能性が低く、それにより、より良い断熱効果をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒コンポジットおよびシリコーン樹脂を含むコーティング組成物であって、光触媒コンポジットの含量が組成物の全重量に対して約1〜70重量%であり、光触媒コンポジットが、
(1)アンチモンスズ酸化物(ATO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、およびガリウム亜鉛酸化物(GZO)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される断熱材料;および
(2)二酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、および酸化スズ、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される光触媒材料
を含み、光触媒材料の含量が光触媒コンポジットの全重量に対して約10〜90重量%であるコーティング組成物。
【請求項2】
シリコーン樹脂がゾル-ゲル法によって調製される、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
有機溶媒をさらに含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
断熱材料がATOまたはITOである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
光触媒材料の含量が光触媒コンポジットの全重量に対して約40〜85重量%である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
光触媒材料が二酸化チタンである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
光触媒コンポジットが約2〜100ナノメートル(nm)の粒径を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、硫化カドミウム(CdS)、ジルコニア(ZrO2)、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、および酸化カルシウム(CaO)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される無機微粒子をさらに含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
基材、および
基材の少なくとも1つの表面に請求項1に記載のコーティング組成物から形成されたフィルム
を含む省エネルギー材料。
【請求項10】
フィルムが、基材の少なくとも1つの表面に請求項1に記載のコーティング組成物をコーティング、スプレー、または浸漬することによって形成された、請求項9に記載の省エネルギー材料。
【請求項11】
フィルムが、JIS K5400標準方法に従って測定してH以上の鉛筆硬度を有する、請求項9に記載の省エネルギー材料。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−140621(P2012−140621A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−288054(P2011−288054)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(500202322)長興化學工業股▲ふん▼有限公司 (30)
【Fターム(参考)】