説明

コーティング組成物及びその製造方法、並びに撥水性部材

【課題】本発明は、長期に渡って撥水性能を維持することが可能な撥水膜を与えるコーティング組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、フッ素樹脂、疎水性シリカ粒子、水溶性無機塩及び有機溶剤を含むことを特徴とするコーティング組成物である。このコーティング組成物は、フッ素樹脂及び疎水性シリカ粒子を有機溶媒に配合して高圧分散処理を行った後、水溶性無機塩をさらに配合して高圧分散処理を行うことによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物及びその製造方法、並びに撥水性部材に関するものであり、特に、各種物品の表面に撥水性を与えるコーティング組成物及びその製造方法、並びに当該コーティング組成物及びその製造方法を用いて得られた撥水性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラス、サイドガラス、ドアミラー及びフェンダーミラーや、道路鏡は、降雨や水しぶきなどによって多数の水滴が付着し、可視性が失われることがある。
また、送電線は、水滴が付着すると、水滴が円錐状に垂れ下がることによって放電し易くなり、送電ロスに繋がることがある。特に、冬季には水滴がツララ状に垂れ下がり、その先端が尖るため、放電量が多くなる。
【0003】
また、空気調和機に使用されているヒートポンプ型の熱交換器においては、夏期には、室内器が蒸発器となり、室外器が凝縮器となるが、冬期には、室内器が凝縮器となり、室外器が蒸発器となる。このような冷暖房兼用の空気調和機において、外気温が低い場合に室内で暖房運転を行うと、室外器に設けられた熱交換器のフィン表面で凝縮した水分が氷結して霜が発生し易くなる。特に、親水性が付与されたフィン材が使用されている場合は、フィン表面の水濡れ性が良好であるため、フィン表面に霜が発生し易い。そして、室外器のフィン表面に霜が発生すると、霜によりフィン間が塞がれてしまうため、通風抵抗が増加し、暖房能力が低下してしまう。
さらに、降雪地域の屋根は、多量の着雪による重みによって屋根の変形が生じることがある。また、降雪地域のアンテナについても、着氷雪が電界強度の低下などの通信障害の原因となることがある。
【0004】
そこで、各種物品の様々な性能の低下を防止するために、物品の表面に撥水膜を形成することによって水滴、霜、雪、氷などの付着を防止する必要がある。
物品の表面に撥水膜を形成する方法としては、例えば、特許文献1では、フッ素樹脂中に、平均粒径0.005μm以上0.1μm未満のシリカ微粒子が分散されたコーティング組成物を用いて撥水膜を形成する方法が提案されている。この方法によれば、着水防止効果及び着霜防止効果に優れた撥水膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−287867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のコーティング組成物から形成される撥水膜は、図2(A)に示すように表面に微細な凹凸構造を有しており、この凹凸構造及びフッ素樹脂による撥水効果によって良好な撥水性能を与えることができるものの、摩擦などの応力がかかった場合、図2(B)に示すように表面の微細な凹凸構造が消失してしまい、撥水性能が徐々に低下してしまうという問題がある。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、長期に渡って撥水性能を維持することが可能な撥水膜を与えるコーティング組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、長期に渡る撥水性能に優れた撥水性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、フッ素樹脂、疎水性シリカ粒子及び有機溶剤を含むコーティング組成物に水溶性無機塩を配合することにより、摩擦などの応力がかかって被膜の表面の微細な凹凸構造が消失した場合でも、被膜中に分散させた水溶性無機塩が被膜の表面に露出し、この露出した水溶性無機塩に水が接触することによって水溶性無機塩が溶解して被膜の表面に微細な凹凸構造を容易に再形成させ得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、フッ素樹脂、疎水性シリカ粒子、水溶性無機塩及び有機溶剤を含むことを特徴とするコーティング組成物である。
また、本発明は、フッ素樹脂及び疎水性シリカ粒子を有機溶媒に配合して分散処理を行った後、水溶性無機塩をさらに配合して分散処理を行うことを特徴とするコーティング組成物の製造方法である。
さらに、本発明は、基材と、前記基材の表面を被覆する撥水膜とを有する撥水性部材であって、前記撥水膜は、疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂からなる被膜中に水溶性無機塩が分散されていることを特徴とする撥水性部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期に渡って撥水性能を維持することが可能な撥水膜を与えるコーティング組成物及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、長期に渡る撥水性能に優れた撥水性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態2の撥水性部材の断面図である。
【図2】従来の撥水性部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態のコーティング組成物は、フッ素樹脂、疎水性シリカ粒子、水溶性無機塩及び有機溶剤を含む。ここで、本明細書において「疎水性シリカ粒子」とは、表面が疎水処理されたシリカ粒子を意味する。
本実施の形態のコーティング組成物に用いられるフッ素樹脂は、被膜に撥水性を付与すると共に、基材と被膜との密着性を付与するためのバインダーとしての作用を有する成分である。使用されるフッ素樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。フッ素樹脂の例としては、FEVE(フルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体)、FEVES(フルオロエチレンビニルエステル)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、これらの共重合体及び混合物、又はこれらのフッ素樹脂に他の樹脂を混合したものなどが挙げられる。これらのフッ素樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
本実施の形態のコーティング組成物中のフッ素樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは2質量%以上8質量%以下である。フッ素樹脂の含有量が0.5質量%未満であると、基材と撥水膜との密着性が十分に得られないと共に、フッ素樹脂による撥水性能も十分に得られないことがある。一方、フッ素樹脂の含有量が10質量%を超えると、撥水膜の膜厚が大きくなりすぎてしまい、基材と撥水膜との密着性も低下してしまうこともある。
【0013】
本実施の形態のコーティング組成物に用いられる疎水性シリカ粒子は、撥水膜の表面に凹凸構造を付与し、水滴との接触面積を低下させることによって撥水性能を向上させる成分である。使用される疎水性シリカ粒子としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。具体的には、疎水性シリカ粒子として、シリカ粒子を疎水処理したものを用いることができる。
疎水処理が行われるシリカ粒子としては、特に限定されず、乾式法(例えば、燃焼法)、湿式法(例えば、ゾルゲル法や沈降法)などにより製造される各種シリカ粒子を用いることができる。また、シリカ粒子は、一部又は全部が溶融したシリカ粒子であってもよい。
【0014】
ここで、乾式法シリカは、四塩化ケイ素などのケイ素化合物を酸水素炎中で燃焼させることによって一般的に製造することができ、フュームドシリカとも称されている。乾式法シリカは製造条件を変えることによって約50〜500m/gの範囲の比表面積を有する粒子を得ることができる。比表面積から計算されるシリカ粒子の平均粒径は、約5〜200nmの範囲であるが、通常は1μm以上の凝集体として存在している。
湿式法シリカは、ケイ酸ソーダを鉱酸で中和することによって溶液中でシリカを析出させることによって一般に製造することができ、ホワイトカーボンとも称されている。また、鉱酸の代わりにケイ酸ソーダを酸で中和するゾルゲル法を用いて製造することもできる。湿式法シリカもまた、製造条件を変えることによって約50〜1000m/gの範囲の比表面積を有する粒子を得ることができる。この湿式法シリカ粒子は、平均粒径が約3〜50nmの粒子が合成途中で凝集した凝集粒子であると考えられている。湿式法シリカ粒子は、通常、中和反応後に濾過や洗浄を行い、乾燥後、必要により粉砕することによって得ることができる。一般的に、入手可能な湿式法シリカ粒子の平均粒子径は1μm〜数百μmである。
【0015】
疎水処理が行われるシリカ微粒子としては、上記の各種シリカ粒子の中から、用途に応じて適切な平均粒径を有するものを選択して用いればよい。入手容易性の観点からは、乾式法シリカ粒子を用いることが好ましい。
【0016】
シリカ粒子の疎水処理は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に従って行うことができるが、トリメチルシリル化剤を用いて疎水処理を行うことが好ましい。トリメチルシリル化剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。トリメチルシリル化剤の例としては、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、アミノメチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシランが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチルジシラザンを用いることが好ましい。これらのトリメチルシリル化剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
疎水性シリカ粒子の平均粒径は、特に限定されないが、5nm以上30nm以下であることが好ましい。ここで、本明細書における「疎水性シリカ微粒子の平均粒径」とは、レーザー光散乱式又は動的光散乱式の粒度分布計で測定した時の疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径の値を意味する。疎水性シリカ粒子の平均粒径が5nm未満であると、撥水膜の表面に微細な凹凸構造を十分に形成することができず、所望の撥水性能が得られないことがある。一方、疎水性シリカ粒子の平均粒径が30nmを超えると、表面の凹凸構造が大きくなりすぎてしまい、撥水膜の耐久性が低下してしまうことがある。また、撥水膜の光散乱が大きくなって基材の意匠性が低下することもある。
【0018】
本実施の形態のコーティング組成物中の疎水性シリカ粒子の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上25質量%以下である。疎水性シリカ粒子の含有量が0.5質量%未満であると、撥水膜の表面に凹凸構造を十分に形成することができず、所望の撥水性能が得られない。一方、疎水性シリカ粒子の含有量が30質量%を超えると、撥水膜の耐久性が低下してしまうと共に、撥水膜の光散乱が大きくなって基材の意匠性が低下することもある。
【0019】
本実施の形態のコーティング組成物中のフッ素樹脂と疎水性シリカ粒子との質量比は、特に限定されないが、好ましくは10:90〜50:50、より好ましくは25:75である。このような質量比であれば、疎水性シリカ粒子による凹凸構造と、フッ素樹脂のバインダー効果をバランス良く得ることができる。
【0020】
本実施の形態のコーティング組成物に用いられる水溶性無機塩は、撥水膜の表面に摩擦などの応力がかかって微細な凹凸構造が消失した場合に、撥水膜の表面に微細な凹凸構造を再形成させる効果を与える成分である。ここで、本明細書において「水溶性無機塩」とは、20℃において水100gに対して5g以上溶解する無機塩を意味する。使用される水溶性無機塩としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。水溶性無機塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、過マンガン酸カリウム、硝酸亜鉛、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
水溶性無機塩の配合量は、特に限定されないが、フッ素樹脂100質量部に対して0.5質量部以上30質量部以下であることが好ましい。水溶性無機塩の配合量が0.5質量部未満であると、撥水膜の表面に摩擦などの応力がかかって微細な凹凸構造が消失した場合に露出する水溶性無機塩の量が少なくなり、撥水膜の表面に微細な凹凸構造を十分に再形成することができない場合がある。一方、水溶性無機塩の配合量が30質量部を超えると、所望の撥水性能が得られないことがある。
【0022】
本実施の形態のコーティング組成物に用いられる有機溶剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。有機溶剤の例としては、ゴム揮発油、ミネラルスピリット、ソルベント灯油、芳香族石油ナフサ、トルオール、キシロール、ソルベントナフサ、ガムテレピン油、パインオイルなどの炭化水素系溶剤;エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソアミルアルコール、n−アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルブチルアルコール、メチルアミルアルコール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸n−プロピル、プロピオン酸エチル、酢酸イソブチル、ラク酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸t−ペンチル、酢酸アミル、酢酸メチルアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエステル系又はエーテル系溶剤;ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシド、メチルn−アミルケトン、シクロヘキサノン、エチルn−アミルケトン、メトキシメチルペンタノン、ジイソブチルケトン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本実施の形態のコーティング組成物中の有機溶剤の含有量は、特に限定ないが、好ましくは0.01質量%以上10.0質量%以下である。有機溶剤の含有量が0.01質量%未満であると、所望の厚さの撥水膜を形成することが困難になる場合がある。一方、有機溶剤の含有量が10.0質量%を超えると、均一な撥水膜を形成することが困難になる場合がある。
【0024】
本実施の形態のコーティング組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、公知の添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、分散剤、レベリング剤、蒸発抑制剤、付着性改良剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量は、使用する添加剤の種類に応じて適宜調整する必要がある。
【0025】
本実施の形態のコーティング組成物は、上記の成分を混合することによって調製することができる。特に、フッ素樹脂及び疎水性シリカ粒子及び水溶性無機塩を有機溶剤中で均一に混合する観点からは、フッ素樹脂及び疎水性シリカ粒子を有機溶媒に配合して分散処理を行った後、水溶性無機塩をさらに配合して分散処理を行うことが好ましい。水溶性無機塩を後から配合して分散処理を行うことにより、コーティング組成物中に水溶性無機塩を、より一層均一に混合させることができる。
【0026】
分散処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、市販の高圧式分散機を用いた高圧分散処理が挙げられる。市販の高圧式分散機としては、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社)、マイクロフルイダイザー(MFICコーポレーション)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン)、音レス高圧乳化分散装置(株式会社美粒)が挙げられる。これらの高圧式分散機は、吸入した処理対象物を高圧で微細な流路内に通したときに流路内で生じる高い剪断力、流路の工夫により生じる流体と壁面との衝突や流体同士の衝突による衝撃力、微細な流路から吐出されるときに生じるキャビテーションなどによって微細化処理を行うことができる。
【0027】
高圧分散処理を行う場合、その圧力としては、特に限定されないが、好ましくは10MPa以上400MPa以下、より好ましくは20MPa以上350MPa以下、最も好ましくは30MPa以上300MPa以下である。
また、高圧分散処理は、1〜100回繰り返して処理することができる。ここで、本明細書において、1回以上の処理は、高圧分散処理を行ったものを再度処理することを意味し、1回処理することを1パス、2回処理することを2パス、3回処理することを3パスという。パスの回数は、生産性の観点から、好ましくは1パス以上20パス以下、より好ましくは1パス以上10パス以下である。なお、高圧分散処理の方法として、高圧式分散機で処理されて吐出された分散液を原料槽に直接戻して、循環処理を行うことも可能である。
【0028】
また、分散処理の方法として、市販の高速回転式分散機を用いた分散処理を行ってもよい。市販の高圧式分散機としては、TKロボミックス(プライミクス株式会社)などが挙げられる。この市販の高圧式分散機を用いる際の回転数、翼周速、及び回転体と固定部との間の空隙などの条件は、使用する装置に応じて適宜設定すればよい。
【0029】
また、コーティング組成物中に水溶性無機塩を、より一層均一に混合させる観点からは。水溶性無機塩をアルコールに溶解してから配合することが好ましい。アルコールとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。アルコールの例としては、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコールなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記のようにして調製される本実施の形態のコーティング組成物は、長期に渡って撥水性能を維持することが可能な撥水膜を与えることができる。
【0031】
実施の形態2.
本実施の形態の撥水性部材は、基材と、基材の表面を被覆する撥水膜とを有する。撥水性膜は、上記のコーティング組成物を用いて形成することができる。
以下、本実施の形態の撥水性部材について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の撥水性部材の断面図である。図1中、(a)は、上記のコーティング組成物を用いて形成した直後の撥水性部材の断面図であり、(b)は、撥水膜の表面に摩擦などの応力がかかった際に微細な凹凸構造が消失してしまった撥水性部材の断面図であり、(c)は、水との接触によって水溶性無機塩が溶解して撥水膜の表面に微細な凹凸構造が再形成された撥水性部材の断面図である。
【0032】
図1(a)において、撥水性部材は、基材1と基材1の表面を被覆する撥水膜とを有する。撥水膜は、疎水性シリカ粒子2及びフッ素樹脂3からなる被膜中に水溶性無機塩4が分散されている。また、撥水膜の表面には疎水性シリカ微粒子2に起因する微細な凹凸構造が形成されている。
撥水性被膜において、水溶性無機塩4は粒子の形態で存在していることが好ましい。水溶性無機塩4の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは60nm以上150nm以下である。ここで、本明細書において「水溶性無機塩4の平均粒径」とは、撥水膜の断面をSEMによって撮影し、その画像から測定した粒径の平均値を意味する。水溶性無機塩4の平均粒径が60nm未満であると、初期段階で形成される撥水膜の表面に存在する水溶性無機塩4の量が多くなりすぎ、初期段階の撥水性能が十分でないことがある。一方、水溶性無機塩4の平均粒径が150nmを超えると、撥水膜の表面に凹凸構造を再形成する際に、凹凸構造が大きくなりすぎてしまい、所望の撥水性能が得られないことがある。
【0033】
また、撥水膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは3μm以上8μm以下である。撥水膜の膜厚が3μm未満であると、基材との密着性が十分に得られないことがある。一方、撥水膜の膜厚が8μmを超えると、撥水膜にクラックなどの欠陥が生じてしまい、所望の撥水性能が得られないことがある。また、欠陥を起点として撥水膜が剥れることもある。
【0034】
撥水膜が形成される基材1としては、特に限定されず、撥水性能が要求される各種製品の部品を用いることができる。かかる部品の例としては、空調機の熱交換器や換気扇羽根などが挙げられる。また、かかる部品の基材1としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ASG樹脂などのプラスチック基材、ステンレス、アルミニウムなどの金属基材、ガラス基材などが挙げられる。
【0035】
このような構成を有する撥水性部材は、上記のコーティング組成物を基材1に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。
塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。塗布方法の例としては、刷毛塗り、スプレー塗布、浸漬などが挙げられる。特に、ムラのない撥水膜を形成するためには、コーティング組成物に基材1を浸漬することよって塗布した後、気流を用いて余分なコーティング組成物を除去することが好ましい。また、気流の代わりに、基材1を回転させることによって余分なコーティング組成物を除去してもよい。このような方法を用いることで、塗りムラも抑制することが可能である。
乾燥方法としては、特に限定されず、室温で乾燥させても、加熱して乾燥させてもよい。室温で乾燥させる場合には、気流下で乾燥させることにより、乾燥時間を短縮することができる。また、加熱して乾燥させる場合には、温風を吹き付けても、加熱炉中で加温してもよい。
なお、撥水膜の膜厚を厚くする場合には、上記の塗布工程及び乾燥工程を繰り返せばよい。
【0036】
上記のようにして形成される撥水性部材の撥水膜の表面に摩擦などの応力がかかると、微細な凹凸構造が消失してしまう(図1(b))。これにより、微細な凹凸構造に起因する撥水性能が低下するのが通常である。
しかし、本実施の形態の撥水性部材では、撥水膜中に分散していた水溶性無機塩4の一部が表面に露出し、この表面に露出した水溶性無機塩が水との接触によって溶解し、撥水膜の表面に微細な凹凸構造が再形成される(図1(c))。これにより、長期に渡って撥水性能を維持することが可能になる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.0質量%及び3.0質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して3.0質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0038】
(実施例2)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエーテル系フッ素樹脂(旭硝子株式会社製ルミフロンFE−4400)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.5質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0039】
(実施例3)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ0.4質量%及び2.6質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.6質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0040】
(実施例4)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ35質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.5質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0041】
(実施例5)
疎水性シリカ粒子(平均粒径32nm、日本アエロジル株式会社製RX50)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.5質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0042】
(実施例6)
疎水性シリカ粒子(平均粒径7nm、日本アエロジル株式会社製RY200)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.5質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0043】
(実施例7)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して0.05質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0044】
(実施例8)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して8.8質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0045】
(実施例9)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ0.6質量%及び0.4質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して0.4質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0046】
(実施例10)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ30.0質量%及び15.0質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して15.0質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0047】
(実施例11)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高速回転式分散機(プライミクス株式会社製TKロボミックス)を用い、回転数10000rpm、翼周速13m/s、回転体と固定部との間の空隙を0.5mmとして10分間高圧分散処理行った。この混合物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して2.5質量部配合して混合した後、上記と同じ高速回転式分散機を用い、回転数10000rpm、翼周速13m/s、回転体と固定部との間の空隙を0.5mmとして10分間高圧分散処理を行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0048】
(比較例1)
フルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行った。この混合物においてフッ素樹脂の配合量は5.0質量%とした。
次に、10質量%の塩化カルシウム(ナカライテスク株式会社製)をエタノール(ナカライテスク株式会社製)に溶解した溶液を、上記の混合物100質量部に対して5.0質量部配合して混合した後、上記と同じ高圧式分散機を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を1パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。
【0049】
(比較例2)
疎水性シリカ粒子(平均粒径12nm、日本アエロジル株式会社製R974)及びフルオロエチレン/ビニルエステル系フッ素樹脂(大日本インキ工業株式会社製フルオネートFEM−600)をミネラルスピリットに配合して混合した後、高圧式分散機(吉田機械興業株式会社製ナノマイザー、YSNM−1500AR)を用い、150MPaの圧力下で高圧分散処理を2パス行うことによって、コーティング組成物を調製した。このコーティング組成物において疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂の配合量は、それぞれ7.5質量%及び2.5質量%とした。
【0050】
上記の実施例1〜11及び比較例1〜2で調製したコーティング組成物の組成を、以下の表1にまとめる。
【0051】
【表1】

【0052】
基材として、100mm×30mm×1mmのステンレス基材を用い、実施例1〜11及び比較例1〜2のコーティング組成物に基材を浸漬することによって塗布した後、気流を用いて余分なコーティング組成物を除去することによって撥水膜を形成した。得られた撥水膜について、膜厚、初期接触角θ、耐久性、及び30日間水中暴露後の接触角を評価した。
【0053】
撥水膜の膜厚は、撥水膜の断面をSEMによって観察し、その画像から膜厚を求めた。
撥水膜中の水溶性無機塩の平均粒径は、撥水膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影し、その画像から粒径を測定して平均値を算出した。
撥水膜の初期接触角は、室温(25℃)にて3日間放置した被膜について、接触角計(共和界面科学株式会社製CX−150型)を用い、内径0.1mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コートされた針の先端から約5μLの水滴を被膜の表面に滴下し、その接触角を測定することによって評価した。この初期接触角の結果は、下記の基準で表す。
1:接触角が160°以上のもの
2:接触角が140°以上160°未満のもの
3:接触角が120°以上140°未満のもの
4:接触角が100°以上120°未満のもの
5:接触角が100°未満のもの
【0054】
撥水膜の耐久性は、応力をかけた後の接触角を測定することによって評価した。具体的には、折り畳んで水で湿らせたガーゼを、5cm角の押し付け面で撥水膜に押し付け、100g重/cmの加重をかけながら10cmの往復運動を行い、20回往復後の接触角を上記の初期接触角の評価と同様にして行った。なお、この接触角の評価基準は、上記の初期接触角の評価基準と同じである。
撥水膜の30日間水中暴露後の接触角は、撥水膜を形成した基材を25℃水中に30日間静置した後、乾燥させ、その接触角を評価した。この接触角の評価方法及び評価基準は、上記の初期接触角のものと同じである。
上記の各評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示されているように、実施例1〜11のコーティング組成物から形成された撥水膜は、初期の撥水性能が良好であると共に、摩擦や水などに曝された後も撥水性能を維持することができた。中でも、実施例6のコーティング組成物から形成された撥水膜は、この撥水性能が最も良好であった。これは、疎水性シリカ粒子の平均粒径を小さくするほど、撥水膜の表面に微細な凹凸構造を形成できたためであると考えられる。また、実施例10のコーティング組成物のようにフッ素樹脂の含有量を多くした場合は、膜厚が大きくなり、基材と撥水膜との密着性が低下する傾向にあり、30日間水中暴露後の接触角が僅かに低くなった。
これに対して、比較例1のコーティング組成物から形成される撥水膜は、疎水性シリカ微粒子を含有していないため、撥水膜の表面に微細な凹凸構造が形成されず、フッ素樹脂のみによる撥水効果しか得られないため、十分な撥水性能が得られなかった。また、比較例2のコーティング組成物から形成される撥水膜は、水溶性無機微粒子を含有していないため、摩擦などの応力によって微細な凹凸構造が消失した後には撥水性能が低下してしまった。
【0057】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、長期に渡って撥水性能を維持することが可能な撥水膜を与えるコーティング組成物及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、長期に渡る撥水性能に優れた撥水性部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 基材、2 疎水性シリカ粒子、3 フッ素樹脂、4 水溶性無機塩。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂、疎水性シリカ粒子、水溶性無機塩及び有機溶剤を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記疎水性シリカ粒子は、トリメチルシリル化剤によって疎水処理が行われたシリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂と前記疎水性シリカ粒子との質量比が10:90〜50:50であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記疎水性シリカ粒子の平均粒径が5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂100質量部に対して前記水溶性無機塩を0.5質量部以上30質量部以下含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
フッ素樹脂及び疎水性シリカ粒子を有機溶媒に配合して分散処理を行った後、水溶性無機塩をさらに配合して分散処理を行うことを特徴とするコーティング組成物の製造方法。
【請求項7】
前記分散処理は、10MPa以上400MPa以下の圧力下で行われることを特徴とする請求項6に記載のコーティング組成物の製造方法。
【請求項8】
基材と、前記基材の表面を被覆する撥水膜とを有する撥水性部材であって、
前記撥水膜は、疎水性シリカ粒子及びフッ素樹脂からなる被膜中に水溶性無機塩が分散されていることを特徴とする撥水性部材。
【請求項9】
前記水溶性無機塩は、平均粒径が60nm以上150nm以下の粒子であることを特徴とする請求項8に記載の撥水性部材。
【請求項10】
前記撥水膜の膜厚は、3μm以上8μm以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の撥水性部材。
【請求項11】
前記疎水性シリカ粒子は、トリメチルシリル化剤によって疎水処理が行われたシリカ粒子であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の撥水性部材。
【請求項12】
前記フッ素樹脂と前記疎水性シリカ粒子との質量比が10:90〜50:50であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の撥水性部材。
【請求項13】
前記疎水性シリカ粒子の平均粒径が5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の撥水性部材。
【請求項14】
前記フッ素樹脂100質量部に対して前記水溶性無機塩を0.5質量部以上30質量部以下含むことを特徴とする請求項8〜13のいずれか一項に記載の撥水性部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188565(P2012−188565A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53925(P2011−53925)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】