説明

コーティング組成物及び光学部材

【課題】 形成した被覆物が耐温水性、耐候性、耐光性及び光沢性に優れ、特に紫外線による変色がほぼ完全に抑制され、且つ光活性によるクラックの発生がほぼ完全に抑制されたコーティング組成物及び光学部材を提供する。
【解決手段】2〜50nmの1次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子、又は酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子及びオキシカルボン酸を含有するコーティング組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コーティングによって得られる被膜が耐温水性、耐候性及び耐光性に優れ、特にこの被膜上に無機酸化物の蒸着膜(反射防止膜など)を施さない場合でも、紫外線によるクラックの発生がほぼ完全に抑制されたコーティング組成物及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形物は、軽量、易加工性、耐衝撃性等の長所を生かして多量に使用されているが、反面、硬度が不十分で傷が付きやすい、溶媒に侵されやすい、帯電して埃を吸着する、耐熱性が不十分等であるため、眼鏡レンズ、窓材等として使用するには、無機ガラス成形体に比べて実用上の欠点があった。そこでプラスチック成形体に保護コートを施すことが提案されている。コートに使用されるコーティング組成物は、実に多数の種類が提案されている。
【0003】
無機系に近い硬い被膜を与えるものとして、有機珪素化合物又はその加水分解物を主成分(樹脂成分又は塗膜形成成分)とするコーティング組成物が眼鏡レンズ用として使用されている(特許文献1を参照。)。
【0004】
上記コーティング組成物も未だ耐擦傷性が不満足であるため、更にこれにコロイド状に分散した二酸化珪素ゾルを添加したものが提案され、これも眼鏡レンズ用として実用化されている(特許文献2を参照。)。
【0005】
ところで、従来プラスチック製眼鏡レンズは、大半がジエチレングリコールビスアリルカーボネートというモノマーを注型重合することによって製造されていた。このレンズは、屈折率が約1.50であり、ガラスレンズの屈折率約1.52に比べ低いことから、近視用レンズの場合、縁の厚さが厚くなるという欠点を有している。そのため近年、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートより屈折率の高いモノマーの開発が進められ、高屈折率樹脂材料が提案されている(特許文献3〜4を参照。)。
【0006】
このような高屈折率樹脂レンズに対して、Sb、Tiの金属酸化物微粒子のコロイド分散体をコーティング材料に用いる方法も提案されている(特許文献5〜6を参照。)。
【0007】
また、シランカップリング剤と、2〜60nmの一次粒子径を有する金属酸化物のコロイド粒子(A)を核として、その表面を酸性酸化物のコロイド粒子からなる被覆物(B)で被覆して得られた粒子(C)を含有し、且つ(C)を金属酸化物に換算して2〜50質量%の割合で含み、そして2〜100nmの一次粒子径を有する安定な変性金属酸化物ゾルからなるコーティング組成物が開示されている。そして、用いられるコロイド粒子の具体例としては、アルキルアミン含有五酸化アンチモンで被覆された変性酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド等が開示されている(特許文献7を参照。)。また、アルキルアミン、オキシカルボン酸で安定化された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド等が開示されている(特許文献8を参照。)。
【特許文献1】特開昭52−11261号公報
【特許文献2】特開昭53−111336号公報
【特許文献3】特開昭55−13747号公報
【特許文献4】特開昭64−54021号公報
【特許文献5】特開昭62−151801号公報
【特許文献6】特開昭63−275682号公報
【特許文献7】特開2001−123115号公報
【特許文献8】特開平10−306258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、二酸化珪素ゾルを添加したコーティング組成物は、塗膜に干渉縞が生じ、レンズの見栄えが悪いという問題点があった。
【0009】
更に、酸化チタンゾルを使用したコーティング組成物の場合、酸化チタンゾルのシランカップリング剤やその加水分解物に対する相溶性に問題があり、安定性が悪く、またこのコーティング組成物により形成したコーティング層は耐水性に劣り、紫外線照射により酸化チタンが光励起されて青色に着色する問題があった。また反射防止膜をコートしない場合、紫外線による酸化チタンの光活性のため、クラックが入りやすいという問題点があった。
【0010】
従って、本願発明はnd=1.54〜1.76の中〜高屈折率プラスチック成形物に対して、塗膜に干渉縞が生じず光沢性を維持し、紫外線照射による変色がほぼ完全に抑制し、且つ光活性によるクラックの発生をほぼ完全に抑制した塗膜を与えるコーティング組成物及び光学部材を提供することにある。
【0011】
また、本願発明は、耐擦傷性、耐クラック性、表面硬度、耐摩耗性、可とう性、透明性、帯電防止性、染色性、耐熱性、耐水性、耐薬品性等に優れたプラスチックス成形物用コーティング組成物及びそれを用いた光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の第1観点は、下記(S)成分、(T1)成分及び(U)成分:
(S)成分:一般式(I)、
(R1(R3Si(OR24−(a+b) (I)
(但し、R1及びR3は、それぞれアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、アミノ基若しくはシアノ基を有する有機基で且つSi−C結合により珪素原子と結合しているものであり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり、a及びbはそれぞれ0、1又は2の整数であり、a+bは0、1又は2の整数である。)及び、一般式(II)、
〔(R4Si(OX)3−c2Y (II)
(但し、R4は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示し、Yはメチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基を示し、cは0又は1の整数である。)で表される有機珪素化合物、並びにその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の珪素含有物質、
(T1)成分:2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子、
(U)成分:オキシカルボン酸、
を含むコーティング組成物であって、(S)成分は(T1)成分の質量に対して9〜80質量%含有し、(U)成分は(T1)成分の質量に対して5〜20質量%含有してなるコーティング組成物である。
【0013】
第2観点は、下記(S)成分、(T2)成分、(U)成分:
(S)成分:一般式(I)、
(R1(R3Si(OR24−(a+b) (I)
(但し、R1及びR3は、それぞれアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、アミノ基若しくはシアノ基を有する有機基で且つSi−C結合により珪素原子と結合しているものであり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシアルキル基、又はアシル基であり、a及びbはそれぞれ0、1又は2の整数であり、a+bは0、1又は2の整数である。)及び、一般式(II)、
〔(R4Si(OX)3−c2Y (II)
(但し、R4は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示し、Yはメチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基を示し、cは0又は1の整数である。)で表される有機珪素化合物、並びにその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の珪素含有物質、
(T2)成分:2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの1次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子、
(U)成分:オキシカルボン酸、
を含むコーティング組成物であって、(S)成分は(T2)成分の質量に対して9〜80質量%含有し、(U)成分は(T2)成分の質量に対して5〜20質量%含有してなるコーティング組成物である。
【0014】
第3観点は、前記オキシカルボン酸がオキシモノカルボン酸である第1観点又は第2観点に記載のコーティング組成物である。
【0015】
第4観点は、前記オキシモノカルボン酸がグリコール酸又はグルコン酸である第3観点に記載のコーティング組成物である。
【0016】
第5観点は、前記(T1)成分における酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/SnO2モル比が0.55〜55である第1観点に記載のコーティング組成物である。
【0017】
第6観点は、前記(T1)成分における五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/Sb25モル比が0.55〜55である第1観点に記載のコーティング組成物である。
【0018】
第7観点は、前記(T2)成分における酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/SnO2モル比が0.55〜55である第2観点に記載のコーティング組成物である。
【0019】
第8観点は、前記(T2)成分における五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/Sb25モル比が0.55〜55である第2観点に記載のコーティング組成物である。
【0020】
第9観点は、金属塩、金属アルコキシド及び金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の硬化触媒を含有してなる第1観点〜第8観点のいずれか1つに記載のコーティング組成物である。
【0021】
第10観点は、光学基材表面に、第1観点〜第9観点のいずれか1つに記載のコーティング組成物より形成される硬化膜を有する光学部材である。
【0022】
第11観点は、前記光学部材の表面に、更に反射防止膜を有する第10観点に記載の光学部材である。
【発明の効果】
【0023】
本願発明のコーティング組成物によって得られる硬化膜は、耐擦傷性、表面硬度、耐摩耗性、透明性、耐熱性、耐光性、耐候性や、特に紫外線照射による変色がほぼ完全に抑制されたコーティング層となる。更に、このコーティング層の上に反射防止膜(無機酸化物やフッ化物など)が無い場合でも、紫外線によるクラックの発生がほぼ完全に抑制されたコーティング層となる。
【0024】
本願発明の光学部材は、耐擦傷性、表面硬度、耐摩耗性、透明性、耐熱性、耐光性、耐候性や、特に耐水性に優れたものであり、しかも屈折率が1.54以上の高屈折率の部材に塗工しても干渉縞の見られない高透明性で外観良好の光学部材となる。
【0025】
本願発明のコーティング組成物よりなる硬化膜を有する光学部材は、眼鏡レンズのほか、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどに付設する光学フィルターなどに使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分中の一般式(I)、
(R1(R3Si(OR24−(a+b) (I)
においては、R1とR3が同一の有機基又は異なる有機基である場合や、aとbが同一の整数又は異なる整数である場合の有機珪素化合物を含む。
【0027】
上記(S)成分中の一般式(I)で示される有機珪素化合物は、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセチキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、αーグリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
また、本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分中の一般式(I)の有機珪素化合物の加水分解物は、上記一般式(I)の有機珪素化合物が加水分解されることにより、上記R2の一部又は全部が水素原子に置換された化合物となる。これらの一般式(I)の有機珪素化合物の加水分解物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用する事ができる。加水分解は、上記の有機珪素化合物中に、塩酸水溶液、硫酸水溶液、酢酸水溶液等の酸性水溶液を添加し攪拌することにより行われる。
【0029】
本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分中の一般式(II)、
〔(R4cSi(OX)3-c2Y (II)
で表される有機珪素化合物は、例えば、メチレンビスメチルジメトキシシラン、エチレンビスエチルジメトキシシラン、プロピレンビスエチルジエトキシシラン、ブチレンビスメチルジエトキシシラン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分中の一般式(II)の有機珪素化合物の加水分解物は、上記一般式(II)の有機珪素化合物が加水分解されることにより、上記Xの一部又は全部が水素原子に置換された化合物となる。これらの一般式(II)の有機珪素化合物の加水分解物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。加水分解は、上記の有機珪素化合物中に、塩酸水溶液、硫酸水溶液、酢酸水溶液等の酸性水溶液を添加し攪拌することにより行われる。
【0031】
本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分は、一般式(I)及び一般式(II)で表される有機珪素化合物、並びにその加水分解物から成る群より選ばれた少なくとも1種の珪素含有物質である。
【0032】
本願発明のコーティング組成物に使用される(S)成分は、好ましくは一般式(I)で表される有機珪素化合物、及びその加水分解物から成る群より選ばれた少なくとも1種の珪素含有物質である。特に、R1及びR3のいずれか一方がエポキシ基を有する有機基であり、R2がアルキル基であり、且つa及びbがそれぞれ0又は1であり、a+bが1又は2の条件を満たす一般式(I)の有機珪素化合物及びその加水分解物が好ましい。その好ましい有機珪素化合物の例としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、αーグリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシランである。
【0033】
更に、好ましくはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン及びこれらの加水分解物であり、これらを単独で又は混合物として使用することができる。また、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン又はこれらの加水分解物は、更に、一般式(I)においてa+b=0に相当する4官能の化合物を併用することができる。4官能に相当する化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラtert−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分である複合コロイド粒子は、以下に示す複合コロイド粒子を利用することができる。
【0035】
本願発明の(T1)成分は、2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素の複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子である。
【0036】
本願発明の(T1)成分に用いられる2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の一次粒子径は2〜50nmであり、好ましくは2〜30nmである。この変性された複合コロイドの一次粒子径が2nm未満であると、基材上に前記変性された複合コロイド粒子を含む被膜を形成した際に被膜の硬さが不十分となり、耐擦傷性や耐摩耗性が劣るため好ましくない。また、一次粒子径が50nmを超えると、得られる被膜の透明性が低下するため好ましくない。
【0037】
前記2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子において、変性に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、1〜7nmの一次粒子径を有し、pHがほぼ3〜11の広い範囲で表面電荷は負電荷である。このため、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子は該酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性されることにより、その表面電荷はpHがほぼ3〜11の広い範囲で負電荷となる。このため、該変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子は、水及び/又は有機溶媒に分散した際に安定なゾルを得ることができるため、本願発明のコーティング組成物に有効に用いることができる。
【0038】
前記酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子に対する質量比は0.01〜0.5である。この比が0.01未満では被覆による変性が十分ではないため、該変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の有機溶媒への分散性が十分に向上されない。また、該質量比が0.5を超えても更なる有機溶媒への分散性向上の効果は期待できないため、効率的ではない。
【0039】
尚、本願発明において一次粒子径とは、特に記載がない限り透過型電子顕微鏡により観察されるコロイド粒子の単一粒子における粒子直径を指す。
【0040】
本願発明の(T1)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイドで変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子において、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の表面に、単なる物理的吸着ではなく、化学的に強固に結合しているため、強い攪拌、溶媒置換、限外濾過、洗浄等によって、酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子から脱離することはない。
【0041】
前記酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子の酸化第二スズと二酸化珪素のモル比はSiO2/SnO2として0.55〜55が好ましい。
【0042】
前記五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の五酸化アンチモンと二酸化珪素のモル比はSiO2/Sb25として0.55〜55が好ましい。
【0043】
また、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイドで変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子がプラスチック基材に施される被膜に用いられた場合、プラスチック基材と被膜との密着性、被膜の耐候性、耐光性、耐湿性、耐水性、耐摩耗性、長期安定性等が向上する。
【0044】
本願発明の(T2)は、2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子である。
【0045】
酸化チタン、酸化スズ及び酸化ジルコニウムの複合酸化物コロイド粒子に特定の割合で酸化タングステンを複合させることにより、酸化チタンに由来する光励起によるコロイド粒子の変色がほぼ完全に抑制することができる。複合させる酸化タングステンの割合は、酸化チタンに対するモル比で表すことができ、WO3/TiO2モル比として0.01〜0.15である。WO3/TiO2モル比が0.01未満や0.15を超えると、酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は紫外線による光励起によって黄色〜橙色に変色するため好ましくない。酸化スズ及び酸化ジルコニウムは、それぞれ酸化チタンの紫外線による光励起を抑制する効果を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4の割合で複合される。SnO2/TiO2モル比が0.01未満であると酸化チタンの紫外線による光励起の抑制効果が不足し、また、1.0を超えると複合コロイド粒子の有する屈折率が低下するため好ましくない。ZrO2/TiO2モル比が0.1未満であると酸化チタンの紫外線による光励起の抑制効果が不足し、また、0.4を超えると複合コロイド粒子の有する屈折率が低下するため好ましくない。
【0046】
前記酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性することにより、特に有機溶媒に対する複合コロイド粒子の分散性を向上させることができ、安定な有機溶媒分散ゾルを得ることができる。このため、該変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は本発明のコーティング組成物に有効に用いることができる。
【0047】
前記酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子に対する質量比は0.01〜0.5である。この比が0.01未満では、被覆による変性が十分ではないため、該変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の有機溶媒への分散性が十分に向上されない。また、0.5を超えても更なる有機溶媒への分散性向上の効果は期待できないため、効率的ではない。
【0048】
前記2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの1次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の一次粒子径は2〜50nmであり、好ましくは2〜30nmである。この変性された複合コロイドの一次粒子径が2nm未満であると、基材上に前記変性された複合コロイド粒子を含む被膜を形成した際に、該被膜の硬さが不十分となり、耐擦傷性や耐摩耗性が劣るため好ましくない。また、前記変性された複合コロイド粒子の一次粒子径が50nmを超えると、得られる被膜の透明性が低下するため好ましくない。
【0049】
前記2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの1次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子において、変性に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、1〜7nmの一次粒子径を有し、pHがほぼ3〜11の広い範囲で表面電荷が負電荷である。このため、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は該酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性されることにより、その表面電荷はpHがほぼ3〜11の広い範囲で負電荷となる。このため、該変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は水及び/又は有機溶媒に分散した際に安定なゾルを得ることができるため、本発明のコーティング組成物に有効に用いることができる。
【0050】
本願発明の(T2)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子において、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、核となる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の表面に単なる物理的吸着ではなく、化学的に強固に結合しているため、強い攪拌、溶媒置換、限外濾過、洗浄等によって、酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子から脱離することはない。
【0051】
前記酸化第二スズ−二酸化珪素複合酸化物コロイド粒子の酸化第二スズと二酸化珪素のモル比はSiO2/SnO2として0.55〜55が好ましい。
【0052】
前記五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の五酸化アンチモンと二酸化珪素のモル比はSiO2/Sb25として0.55〜55が好ましい。
【0053】
また、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイドで変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子がプラスチック基材に施される被膜に用いられた場合、プラスチック基材と被膜との密着性、被膜の耐候性、耐光性、耐湿性、耐水性、耐摩耗性、長期安定性等が向上する。
【0054】
前記酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、特に被膜の耐湿性、耐摩耗性、長期安定性を向上させ、且つ紫外線による変色、光活性によるクラックの発生を抑制することができる。
【0055】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子及び(T2)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の屈折率は、概ね1.9〜2.4の範囲である。
【0056】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子、(T2)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子はそれぞれ、水及び/又は有機溶媒に分散したゾルとして用いることができる。
【0057】
前記(T1)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子、(T2)成分に用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の溶媒に対する全金属酸化物濃度はそれぞれ0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%の範囲である。全金属酸化物濃度が0.1質量%未満であると、本発明のコーティング組成物の濃度が低くなりすぎるため好ましくない。また、全金属酸化物濃度が50質量%を超えるとゾルの安定性が低下することがある。
【0058】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分又は(T2)成分に用いられる複合コロイド粒子が有機溶媒又は水と有機溶媒との混合溶媒に分散される場合、用いられる有機溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の直鎖アミド類、N−メチル−2−ピロリドン等の環状アミド類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0059】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分又は(T2)成分に用いられる複合コロイド粒子が、有機溶媒ゾル又は水と有機溶媒との混合溶媒ゾルとして用いられる場合、該有機溶媒ゾル又は混合溶媒ゾルは、前記複合コロイド粒子の水性ゾル分散媒である水を通常の方法、例えば蒸発法、限外濾過法等によって溶媒置換を行うことによって得ることができる。
【0060】
用いられる有機溶媒が前記エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類等の疎水性溶媒の場合には、溶媒置換の前に予め該複合コロイド粒子の表面をシランカップリング剤、シリル化剤、各種界面活性剤等で処理して疎水化すると容易に溶媒置換を行うことができる。
【0061】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分において核として用いられる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子、又は(T2)成分において核として用いられる酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は、公知の方法、例えば、イオン交換法、解膠法、加水分解法、反応法により製造することができる。原料としては、チタン、スズ、ジルコニウム、タングステンの水溶性塩、金属アルコキシド又は金属粉末を用いることができる。酸化チタン成分の原料としては、四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、チタンイソプロポキシドが挙げられる。酸化スズ成分の原料としては、塩化第二スズ、スズ酸ナトリウム、金属スズ、テトラブトキシスズ、ジブトキシジブチルスズが挙げられる。酸化ジルコニウム成分の原料としては、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニル、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドが挙げられる。酸化タングステン成分の原料としては、六塩化タングステン、オキシ塩化タングステン、タングステン酸ナトリウム、ヘキサエトキシタングステンが挙げられる。
【0062】
例えば、純水に四塩化チタン、塩化第二スズ、炭酸ジルコニルをSnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4の割合で添加して70〜100℃程度で加熱することにより、酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾルが生成する。
【0063】
上記方法により得られた酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾルにイソプロピルアミン等のアルカリ成分を添加し、陰イオン交換することによりアルカリ安定型水性ゾルを得ることができる。この水性ゾルに、別途タングステン酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換し、アルキルアミンを添加して調製したアルキルアミン含有タングステン酸オリゴマーを添加し、150〜300℃程度で水熱処理することにより、酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を含む水性ゾルを得ることができる。
【0064】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分に用いられる2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子は、前記酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を含む水性ゾルに一次粒子径1〜7nmの酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子を添加して変性することにより得ることができる。
【0065】
本願発明のコーティング組成物の(T2)成分に用いられる2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子は、前記酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を含む水性ゾルに一次粒子径1〜7nmの酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子を添加して変性することにより得ることができる。
【0066】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分及び(T2)成分において、変性成分として用いられる酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子は、珪酸アルカリ水溶液又は珪酸ゾル液とスズ酸塩粉末又は水溶液とを混合した後、陽イオン交換樹脂により脱カチオンし、アミンを添加することにより得ることができる。アミンの例としては、アンモニウム、第四級アンモニウム又は水溶性のアミンが挙げられる。これらの好ましい例としては、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−プロピルアミン、ジイソブチルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の第4級アンモニウムが挙げられる。特にジイソプロピルアミン又はジイソブチルアミンが好ましい。
【0067】
スズ原料としては、好ましくはスズ酸ナトリウム水溶液を用いることができる。二酸化珪素原料としては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム及びこれらをカチオン交換して得られる活性珪酸を用いることができる。SiO2/SnO2モル比は0.55〜55である。
【0068】
酸化第二スズと二酸化珪素との複合酸化物は、微小な酸化第二スズと二酸化珪素の複合コロイド粒子である。コロイド粒子は透過型電子顕微鏡により観察することができ、一次粒子径が1〜7nmのコロイド粒子である。
【0069】
本願発明のコーティング組成物の(T1)成分及び(T2)成分において、変性成分として用いられる五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子は、下記に示す公知の方法(例えば、特公昭50−40119号公報)で得ることができる。即ち珪酸アルカリ水溶液又は珪酸ゾル液とアンチモン酸アルカリ水溶液とを混合した後、陽イオン交換樹脂により脱カチオンすることにより得ることができる。
【0070】
アンチモン原料としては、好ましくはアンチモン酸カリウム水溶液を用いることができる。二酸化珪素原料としては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム及びこれらをカチオン交換して得られる活性珪酸を用いることができる。SiO2/Sb25モル比は0.55〜55である。
【0071】
五酸化アンチモンと二酸化珪素との複合酸化物は、微小な五酸化アンチモンと二酸化珪素の複合コロイド粒子である。コロイド粒子は透過型電子顕微鏡により観察することができ、一次粒子径が1〜7nmのコロイド粒子である。
【0072】
また、本願発明のコーティング組成物の(T1)成分又は(T2)成分に用いられる複合コロイド粒子分散ゾルは、アルカリ成分を含有することができ、該ゾルに含まれる全金属酸化物の合計の質量に対して約30質量%以下に含有させることができる。例えばLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属水酸化物、NH4、エチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルノールアミンである。
【0073】
また、本願発明のコーティング組成物の(T1)成分又は(T2)成分に用いられる複合コロイド粒子分散ゾルの固形分濃度を更に高めたいときには、最大約50質量%まで常法、例えば蒸発法、限外濾過法等により濃縮することができる。またこのゾルのpHを調整したい時には、濃縮後に、前記アルカリ金属、有機塩基(アミン)、オキシカルボン酸等をゾルに加えることによって行うことができる。特に、金属酸化物の合計濃度が10〜40質量%であるゾルは実用的に好ましい。濃縮法として限外濾過法を用いると、ゾル中に共存しているポリアニオン、極微小粒子等が水と一緒に限外濾過膜を通過するので、ゾルの不安定化の原因であるこれらポリアニオン、極微小粒子等をゾルから除去することができる。
【0074】
本願発明のコーティング組成物は、(T1)成分100質量部に対して、(S)成分を9〜80質量部の割合で配合させるものである。酸化スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子変性酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子変性酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子が、9質量部未満では硬化膜の屈折率が低くなり、基材への応用範囲が著しく限定される。また、80質量部を越えると硬化膜と基板との間にクラック等が生じやすくなり、更に透明性の低下をきたす可能性が大きくなる。
【0075】
本願発明のコーティング組成物は、(T2)成分100質量部に対して、(S)成分を9〜80質量部の割合で配合させるものである。酸化スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子変性酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子、又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子変性酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子が、9質量部未満では硬化膜の屈折率が低くなり、基材への応用範囲が著しく限定される。また、80質量部を越えると硬化膜と基板との間にクラック等が生じやすくなり、更に透明性の低下をきたす可能性が大きくなる。
【0076】
本願発明のコーティング組成物には、コーティング組成物の硬化膜の光活性によるクラックの発生を抑制させるために、オキシカルボン酸を全金属酸化物に対し5〜20質量%添加させることが可能である。
【0077】
前記オキシカルボン酸としては、脂肪族オキシモノカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、オキシ吉草酸、グルコン酸、オキシカプロン酸、グリセリン酸、メバロン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、グリココール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、アポコール酸、タウロコール酸などのC2-50脂肪族オキシモノカルボン酸、好ましくはC2-15脂肪族オキシモノカルボン酸、さらに好ましくはC2-10脂肪族オキシモノカルボン酸)、芳香族オキシモノカルボン酸(例えば、サリチル酸、オキシ安息香酸、没食子酸などのC7-12芳香族オキシモノカルボン酸)、脂肪族オキシポリカルボン酸(例えばタルトロン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等のC2-10脂肪族オキシポリカルボン酸)が挙げられる。また、本願発明のコーティング組成物に添加するオキシカルボン酸類は、上記に例示した化合物に限定されず、また2種以上を含有してもよい。
【0078】
前記オキシカルボン酸の配合量は、コーティング組成物の構成成分である(T1)成分又は(T2)成分の質量に対して、5〜20質量%である。このオキシカルボン酸の配合量が5%未満であると、基板上にコーティング組成物を硬化膜として形成した際に、光活性によるクラック発生の抑制効果が十分に発揮されず、また20質量%を超えると(T1)成分又は(T2)成分の安定性が保てず、硬化膜とした際に、透明性が低下するため好ましくない。
【0079】
また、コーティング組成物の安定性を損なわない限り、その他の成分を添加してもかまわない。例えば、アニオン性、ノニオン性界面活性剤等を含有してもよい。例えば、アルキルスルフェートタイプとしてn−ドデシル硫酸、n−テトラデシル硫酸、n−ヘキサデシル硫酸、n−オクタデシル硫酸ナトリウム、n−オクタデシル硫酸カリウム、n−オクタデシル硫酸マグネシウム、例えば、アルキルエーテルスルフェートタイプとしてn−ドデシルオキシエチル硫酸、n−テトラデシルオキシエチル硫酸、n−ヘキサデシルオキシエチル硫酸、n−オクタデシルオキシエチル硫酸ナトリウム、n−オクタデシルオキシエチル硫酸カリウム、n−オクタデシルオキシエチル硫酸マグネシウム、例えばアルカンスルホネートタイプとして、n−ドデカンスルホン酸、n−テトラデカンスルホン酸、n−ヘキサデカンスルホン酸、n−オクタデカンスルホン酸ナトリウム、n−オクタデカンスルホン酸カリウム、n−オクタデカンスルホン酸マグネシウム等のアニオン性界面活性剤、ソルビタンモノラウレート、モノオレエート、モノステアレート又はモノパルミテート、ソルビタントリステアレート若しくはトリオレエート等の脂肪酸ポリヒドロキシアルコールエステルタイプ、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、モノオレエート、モノステアレート、モノパルミテート、トリステアレート又はトリオレエート等の脂肪酸ポリヒドロキシアルコールエステルのポリエチレン付加物、ポリオキシエチレンステアレート、ポリエチレングリコール400ステアレート、ポリエチレングリコール2000ステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステルのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0080】
本願発明のコーティング組成物には、反応を促進するために硬化剤を含有させることができる。また基板となるレンズとの屈折率を合わせるために微粒子状金属酸化物を有させることができる。更に塗布時における濡れ性を向上させ、硬化膜の平滑性を向上させる目的で各種の界面活性剤を含有させることができる。更に紫外線吸収剤、酸化防止剤等を硬化膜の物性に影響を与えない限り添加することが可能である。
【0081】
前記硬化剤の例としては、アリルアミン、エチルアミン等のアミン類、またルイス酸、ルイス塩基を含む各種酸及び塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ほう酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルト珪酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸等を有する塩又は金属塩、更にアルミニウム、ジルコニウム、チタンを有する金属アルコキシド又はこれらの金属キレート化合物が挙げられる。
【0082】
また、前記微粒子状金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、二酸化珪素、酸化セリウム等の微粒子が挙げられる。
【0083】
本願発明のコーティング組成物は、基材上に塗布し硬化させることにより、硬化膜とすることができる。コーティング組成物の硬化は、加熱又は活性エネルギー線照射によって行うことができる。加熱による硬化条件としては、70〜200℃が好ましく、特に好ましくは90〜150℃である。
【0084】
また活性エネルギー線としては遠赤外線があり、熱による損傷を低く抑えることができる。
【0085】
本願発明では、光学基材表面に本願発明のコーティング組成物より得られる硬化膜を形成させることにより光学部材を得ることができる。得られる光学部材は、硬化膜の他、衝撃吸収膜、反射防止膜が積層された光学部材とすることができる。
【0086】
本願発明のコーティング組成物より得られる硬化膜を基材上に形成する方法としては、前記コーティング組成物を基材に塗布する方法が挙げられる。塗布方法としてはディップコート法、スピンコート法、スプレー法等、通常行われる方法が適用できるが、ディップコート法又はスピンコート法が特に好ましい。
【0087】
更に本願発明のコーティング組成物を基材に塗布する前に、基材に対して酸、アルカリ、各種有機溶媒による化学処理、又はプラズマ、紫外線等による物理的処理、若しくは各種洗剤を用いる洗剤処理、若しくは各種樹脂を用いたプライマー処理を用いることによって、基材と硬化膜との密着性を向上させることができる。
【0088】
前記プライマー用各種樹脂には、屈折率調整材として(T1)成分又は(T2)成分の複合コロイド粒子を添加することも可能である。
【0089】
また、本願発明のコーティング組成物から形成される硬化膜の上に設けられる反射防止膜は、従来より知られている無機酸化物の単層又は多層の反射防止膜を使用できる。反射防止膜の例としては、例えば特開平2−262104号公報、特開昭56−116003号公報に開示されている反射防止膜等が挙げられる。
【0090】
衝撃吸収膜は、耐衝撃性を向上させる。この衝撃吸収膜は、ポリアクリル酸系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニールアルコール系樹脂等で構成される。
【0091】
また、本願発明のコーティング組成物から形成される硬化膜は、高屈折率膜として反射膜に使用でき、更に防曇、フォトクロミック、防汚等の機能成分を加えることにより、多機能膜として使用することもできる。
【0092】
本願発明のコーティング組成物から形成される硬化膜を有する光学部材は、眼鏡レンズ、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどに付設する光学フィルターなどに使用することができる。
【実施例】
【0093】
参考例1 (タングステン酸オリゴマーの調製)
200Lのステンレス製容器にタングステン酸ナトリウム5.7kg(WO3として69.2%含有、第一稀元素化学工業(株)製)を純水125kgに希釈し、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR−120B、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液した。陽イオン交換後、得られたタングステン酸水溶液に純水570kgを添加して希釈した後、イソプロピルアミンを攪拌下で852g添加し、タングステン酸オリゴマーを得た。得られたタングステン酸オリゴマーは、WO3として0.56質量%、イソプロピルアミン/WO3モル比は0.86であった。
【0094】
参考例2 (五酸化アンチモンコロイド粒子の調製)
100リットルのステンレス製容器に三酸化アンチモン8.5kg(広東三国製、Sb23として99.5%含有)、純水41.0kg及び水酸化カリウム6.9kg(KOHとして95%含有)を添加し、攪拌下に、35質量%過酸化水素5.7kgを徐々に添加した。得られたアンチモン酸カリウム水溶液は、Sb25として15.1質量%、KOHとして10.56質量%、K2O/Sb25のモル比は2.4であった。得られたアンチモン酸カリウム水溶液62.1kgをSb25として2.5質量%に純水で希釈し、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR−120B、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液した。陽イオン交換後、得られたアンチモン酸水溶液にジイソプロピルアミンを攪拌下で4.5kg添加し、五酸化アンチモンコロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた五酸化アンチモンコロイド粒子の水性ゾルは、Sb25として1.2質量%、ジイソプロピルアミンとして0.7質量%を含有し、ジイソプロピルアミン/Sb25のモル比は1.89、透過型電子顕微鏡による観察で一次粒子径は1〜7nmであった。
【0095】
参考例3 (五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の調製)
珪酸カリウム水溶液(SiO2として20.0質量%含有、日産化学工業(株)製)171.0gを純水1422gにて希釈を行った後、攪拌下に参考例2と同様の方法で得られたアンチモン酸カリウム水溶液117.1g(Sb25として14.6質量%含有)を混合して1時間攪拌を続け、珪酸カリウムとアンチモン酸カリウムとの混合水溶液を得た。得られた珪酸カリウムとアンチモン酸カリウムとの混合水溶液1540gを、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液することにより、五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子の水性ゾル2703gを得た。得られた五酸化アンチモン−二酸化珪素の複合コロイド粒子は、全金属酸化物(Sb25+SiO2)濃度1.9質量%、SiO2/Sb25質量比で2/1、透過型電子顕微鏡による観察で一次粒子径は1〜7nmであった。
【0096】
参考例4 (酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子の調製)
珪酸ナトリウム水溶液(SiO2として15.0質量%含有、日産化学工業(株)製)55.7gを純水354.8gにて希釈を行った後、攪拌下にスズ酸ナトリウム粉末(SnOとして55.7質量%含有、昭和化工(株)製)7.5gを混合して1時間攪拌を続け、珪酸ナトリウムとスズ酸ナトリウムとの混合溶液を得た。得られた珪酸ナトリウムとスズ酸ナトリウムとの混合水溶液730gを、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液した。陽イオン交換後、得られたスズ酸−珪酸水溶液にジイソプロピルアミンを攪拌下で2.5g添加し、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子の水性ゾル733gを得た。得られた酸化第二スズ−二酸化珪素の複合コロイド粒子は、全金属酸化物(SnO2+SiO2)濃度2.0%、SiO2/SnO2質量比で2/1、透過型電子顕微鏡による観察で一次粒子径は1〜7nmであった。
【0097】
参考例5
次の(a)〜(d)工程を行った。
(a)工程:オキシ塩化チタン150.0g(TiO2として28.0質量%含有、住友チタニウム(株)製)、炭酸ジルコニウム12g(ZrO2として40.8質量%含有、第一稀元素化学工業(株)製)及び純水357gを3Lのガラス製容器に投入し、オキシ塩化チタンとオキシ塩化ジルコニウムとの混合水溶液531g(TiO27.91質量%、ZrO20.92質量%)を調製した。この混合水溶液を攪拌下で60℃まで加熱した後、液温を60〜70℃に保持しながら35質量%過酸化水素水(工業用)5.25gと金属スズ粉末(山石金属(株)製AT−Sn、No.200)3.15gを均等に10回に分けて添加した。過酸化水素水と金属スズ粉末の添加は、始めに過酸化水素水を、次いで金属スズ粉末を徐々に加え、金属スズの溶解反応が終了してから(5〜10分)、引き続き過酸化水素水と金属スズの添加を繰り返す方法で行った。この反応は発熱反応のため、容器を冷却しながら行い、液温を60〜70℃に保持した。添加の際、過酸化水素水と金属スズの割合は、H22/Snモル比2.0で行った。過酸化水素水と金属スズ粉末の添加に要した時間は1時間であった。反応終了後、得られた水溶液に更に炭酸ジルコニウムを12g(ZrO2として40.8質量%含有、第一稀元素化学工業(株)製)を溶解し、85℃で2時間熟成して、淡黄色透明の塩基性塩化チタン−ジルコニウム−スズ複合塩水溶液557.4gを得た。得られた塩基性塩化チタン−ジルコニウム−スズ複合塩水溶液中の酸化チタン濃度は7.5質量%、酸化ジルコニウム濃度は1.8質量%、酸化スズ濃度は0.7質量%であり、SnO2/TiO2モル比0.05、ZrO2/TiO2モル比0.15であった。
(b)工程:(a)工程で得られた塩基性塩化チタン−ジルコニウム−スズ複合塩水溶液557.4gに純水2227gを添加し、TiO2、ZrO2及びSnO2の合計で2.0質量%の水溶液とした。この水溶液を95〜98℃で10時間加水分解を行い、酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の凝集体スラリーを得た。
(c)工程:(b)工程で得られた酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の凝集体スラリーを限外濾過装置により純水で洗浄を行い、過剰な電解質を除去して解膠させて、酸性の酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル1102gを得た。得られた水性ゾルのpHは2.9、電導度は1740μS/cm、固形分(TiO2、ZrO2及びSnO2の合計)濃度は5.04質量%であった。
(d)工程:(c)工程で得られ酸性の酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル1398kgを、参考例2で調製した五酸化アンチモンコロイド粒子の水性ゾル644kgの攪拌下に添加した後、水酸基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液し、五酸化アンチモン被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル2582kgを得た。得られた水性ゾルのpHは10.67、全金属酸化物濃度は2.92%であった。
【0098】
製造例1
参考例5の(c)工程で得られた酸性の酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル2000gにイソプロピルアミン2.8gとジイソプロピルアミン1.8gとを添加し、混合した後、水酸基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液し、アルカリ性の酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル3750gを得た。次いでこの水性ゾルに参考例1で調製したタングステン酸オリゴマーを820g添加し、95℃で2hr熟成を行った。WO3/TiO2モル比は0.04であった。得られた水性ゾル4570gをほぼ同質量の加熱した純水とともに、300℃、圧力20MPa(メガパスカル)、平均流速1.03L/min、滞留時間7.7分で水熱処理して、9180gの酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた水性ゾルは、比重1.010、粘度2.8mPa・s、pH11.04、全金属酸化物濃度1.0質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)42nm、であった。
【0099】
製造例2
参考例3の(d)工程で得られた五酸化アンチモン被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル2120kgに、参考例1で調製した酸化タングステンコロイドオリゴマーを483kg添加し、95℃で2hr熟成を行った。WO3/TiO2モル比は0.04であった。熟成後、得られた水性ゾル2447kgをほぼ同質量の加熱した純水とともに、300℃、圧力20MPa(メガパスカル)、平均流速1.03L/min、滞留時間7.7分で水熱処理して、4682kgの酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ−酸化タングステン−五酸化アンチモン複合コロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた水性ゾル4000g(全金属酸化物濃度1.25%)に対して35質量%過酸化水素水を1.4g添加し、次いで参考例3で得られた五酸化アンチモン−二酸化珪素複合体コロイド粒子の水性ゾル526g(全金属酸化物濃度1.9質量%)を攪拌下に添加し、95℃で2時間熟成を行った。更に得られたゾルを限外濾過装置にて濃縮を行った。得られたゾルは、比重1.152、粘度2.2mPa・s、pH7.6、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)50nm、全金属酸化物濃度17.2質量%であった。上記濃縮された水性ゾル280gを、ナス型フラスコ付きエバポレータを用いて600torrでメタノールを添加しながら水を留去することにより、水性ゾルの水をメタノールで置換して、五酸化アンチモン−二酸化珪素複合体コロイド被覆酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−五酸化アンチモン複合コロイド粒子のメタノールゾルを得た。得られたメタノールゾルは、比重1.052、粘度2.6、pH6.7(同質量の水で希釈)、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)42nm、水分0.3%、透過率18%、全金属酸化物濃度29.8%のゾルであった。
【0100】
製造例3
参考例4の(d)工程で得られた五酸化アンチモン被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル40.0kgに、参考例1で調製したタングステン酸オリゴマー22.5kgを添加し、95℃で2hr熟成を行った。WO3/TiO2モル比は0.10であった。熟成後、得られた水性ゾル61.9kgをほぼ同質量の加熱した純水とともに300℃、圧力20MPa(メガパスカル)、平均流速1.03L/min、滞留時間7.7分で水熱処理して、126.0kgの酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−五酸化アンチモン複合コロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた水性ゾル5500g(全金属酸化物濃度1.0%)に対して35質量%過酸化水素水を1.6g添加し、次いで参考例3で得られた五酸化アンチモン−二酸化珪素複合体コロイド粒子の水性ゾル579g(全金属酸化物濃度1.9%)を攪拌下に添加し、95℃で2時間熟成を行った。更に得られたゾルを限外濾過装置にて濃縮を行った。得られたゾルは、比重1.140、粘度2.1mPa・s、pH7.4、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)45nm、全金属酸化物濃度15.5質量%であった。上記濃縮された水性ゾル350gをナス型フラスコ付きエバポレータを用いて600torrでメタノールを添加しながら水を留去することにより水性ゾルの水をメタノールで置換して、五酸化アンチモン−二酸化珪素複合体コロイドで変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−五酸化アンチモン複合コロイド粒子のメタノールゾルを得た。得られたゾルは比重1.062、粘度2.5、pH6.8(同重量の水で希釈)、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)41nm、水分0.8%、透過率26%、全金属酸化物濃度29.7%であった。
【0101】
製造例4
参考例4で得られた酸化第二スズ−二酸化珪素複合酸化物コロイド粒子733gに純水2433g、ジイソプロピルアミン2.0gを添加した後、攪拌下で参考例5の(c)工程で得られた酸性の酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾル1002gを添加した後、1時間攪拌し、濃度1.5質量%の酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾル4170gを、水酸基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液し、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾル5100gを得た。得られた水性ゾルのpHは10.36、全金属酸化物濃度は1.2%であった。上記で得られた酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子の水性ゾル4100gを、SUS容器にて、攪拌下で150℃、圧力0.3MPaで5時間、水熱処理し、4100gの水性ゾルを得た。得られたゾルを限外濾過装置にて濃縮を行った。得られたゾルは、比重1.184、粘度10.8mPa・s、pH10.1、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜8nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N5)73nm、全金属酸化物濃度20.3%であった。上記濃縮された水性ゾル324gを、ナス型フラスコ付きエバポレータを用いて600torrでメタノールを添加しながら水を留去することにより水性ゾルの水をメタノールで置換して、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子のメタノールゾルを得た。得られたゾルは比重1.065、粘度2.5mPa・s、pH6.7(同質量の水で希釈)、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N4)47nm、水分1.0%、透過率46%、固形分濃度30.6%であった。
【0102】
製造例5
参考例4で得られた酸化第二スズ−二酸化珪素複合酸化物コロイド粒子503gに純水1323g、ジイソプロピルアミン2.4gを添加した後、攪拌下で参考例5の(c)工程で得られた酸性の酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル1190g添加した後、0.5時間攪拌し、濃度2.5質量%の酸化第二スズ−二酸化珪素被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾルを得た。得られた酸化第二スズ−二酸化珪素被覆酸化チタン酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル3018gを、水酸基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ(株)製)を充填したカラムに通液し、酸化第二スズ−二酸化珪素被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル3620gを得た。得られた水性ゾルのpHは10.20、全金属酸化物濃度は2.1%であった。上記で得られた酸化第二スズ−二酸化珪素被覆酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子の水性ゾル3620gを、SUS容器にて、攪拌下で150℃、圧力0.3MPaで5時間、水熱処理し、3620gの水性ゾルを得た。得られたゾルを限外濾過装置にて濃縮を行った。得られたゾルは、比重1.193、粘度3,7mPa・s、pH7.8、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N4plus)64nm、全金属酸化物濃度21.5%であった。上記濃縮された水性ゾル349gを、ナス型フラスコ付きエバポレータを用いて600torrでメタノールを添加しながら水を留去することにより水性ゾルの水をメタノールで置換して、酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズ複合コロイド粒子のメタノールゾルを得た。得られたゾルは比重1.058、粘度2.5mPa・s、pH6.9(同質量の水で希釈)、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5〜6nm、動的光散乱法粒子径(コールター社N4)51nm、水分1.0%、透過率45%、固形分濃度30.5%であった。
(コーティング組成物の作製)
実施例1
マグネチックスターラーを備えたガラス製容器に、前述したA成分に該当するγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン105.3質量部を加え、撹拌しながら0.01規定の塩酸36.8質量部を3時間で滴下した。滴下終了後、0.5時間撹拌を行い、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物を得た。つぎに前述の製造例4で得た酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子で変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子のメタノールゾル(全金属酸化物に換算して30.6質量%を含有する)286質量部、イソプロピルアルコール65質量部、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート1.7質量部を前述したγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物142.1質量部に加え、且つオキシカルボン酸であるグリコール酸14.3質量部を加え、十分に撹拌した後、ろ過を行ってハードコート用コーティング組成物を作製した。
(硬化膜の形成)
市販の屈折率nD=1.59のポリカーボネート基板又はガラス基板を用意し、これにスピンコート法でハードコート用コーティング組成物を塗布し、120℃で2時間加熱処理をして、塗膜を硬化させた。評価結果を表1に示した。
【0103】
実施例2
実施例1で用いたオキシカルボン酸であるグリコール酸の添加量を144質量部にした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0104】
実施例3
グリコール酸の代わりに、グルコン酸36質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0105】
実施例4
グリコール酸の代わりに、酒石酸28.3質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0106】
実施例5
グリコール酸の代わりに、クエン酸36質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0107】
比較例1
実施例1で用いたオキシカルボン酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0108】
比較例2
グリコール酸の添加量を2.9質量部にした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0109】
比較例3
酒石酸の添加量を12.9質量部にした以外は実施例4と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0110】
比較例4
実施例1で用いたオキシカルボン酸の代わりに、モノカルボン酸であるプロピオン酸を用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0111】
比較例5
実施例1で用いたオキシカルボン酸の代わりに、ジカルボン酸であるシュウ酸を用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0112】
なお、本実施例及び比較例で得られた硬化膜を有する光学部材は、以下に示す測定方法により諸物性を測定した。
(1)透明性試験
暗室内、蛍光灯下で硬化膜にくもりがあるかどうか目視で調べた。判断基準は次の通りである。くもりの発生がほとんど無いものがAであり、以下B、Cの順に発生し易くなった。
(2)耐候性試験
得られた光学部材を紫外線強度80mW/cm2の紫外線照射機((株)オーク製作所製QRU−2161−Z01−05)で紫外線を照射し、クラックが入るまでの時間を計測した。比較例1のサンプルではクラックが入るまでの時間が6時間であり、この場合を「×」とした。クラックが入るまでの時間が6〜8時間を「△」、8〜12時間を「○」、12〜24時間を「◎」とした。尚、クラックの有無は目視により判断した。
【0113】
【表1】

【0114】
本願発明の実施例1〜5は透明性及び耐候性に優れるものであった。比較例1〜5は耐候性において不十分であり、比較例4、5では透明性においても劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本願発明のコーティング組成物よりなる硬化膜を有する光学部材は、眼鏡レンズのほか、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどに付設する光学フィルターなどに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(S)成分、(T1)成分及び(U)成分:
(S)成分:一般式(I)、
(R1(R3Si(OR24−(a+b) (I)
(但し、R1及びR3は、それぞれアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、アミノ基若しくはシアノ基を有する有機基で且つSi−C結合により珪素原子と結合しているものであり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり、a及びbはそれぞれ0、1又は2の整数であり、a+bは0、1又は2の整数である。)及び、一般式(II)、
〔(R4Si(OX)3−c2Y (II)
(但し、R4は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示し、Yはメチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基を示し、cは0又は1の整数である。)で表される有機珪素化合物、並びにその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の珪素含有物質、
(T1)成分:2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの一次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム複合コロイド粒子、
(U)成分:オキシカルボン酸、
を含むコーティング組成物であって、(S)成分は(T1)成分の質量に対して9〜80質量%含有し、(U)成分は(T1)成分の質量に対して5〜20質量%含有してなるコーティング組成物。
【請求項2】
下記(S)成分、(T2)成分、(U)成分:
(S)成分:一般式(I)、
(R1(R3Si(OR24−(a+b) (I)
(但し、R及びR3は、それぞれアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、アミノ基若しくはシアノ基を有する有機基で且つSi−C結合により珪素原子と結合しているものであり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり、a及びbはそれぞれ0、1又は2の整数であり、a+bは0、1又は2の整数である。)及び、一般式(II)、
〔(R4Si(OX)3−c2Y (II)
(但し、R4は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示し、Yはメチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基を示し、cは0又は1の整数である。)で表される有機珪素化合物、並びにその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の珪素含有物質、
(T2)成分:2〜50nmの一次粒子径を有し、SnO2/TiO2モル比として0.01〜1.0、ZrO2/TiO2モル比として0.1〜0.4、及びWO3/TiO2モル比として0.03〜0.15である酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子を核として、1〜7nmの1次粒子径を有する酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子又は五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子により粒子表面が変性された酸化チタン−酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン複合コロイド粒子、
(U)成分:オキシカルボン酸、
を含むコーティング組成物であって、(S)成分は(T2)成分の質量に対して9〜80質量%含有し、(U)成分は(T2)成分の質量に対して5〜20質量%含有してなるコーティング組成物。
【請求項3】
前記オキシカルボン酸がオキシモノカルボン酸である請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記オキシモノカルボン酸がグリコール酸又はグルコン酸である請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記(T1)成分における酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/SnO2モル比が0.55〜55である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記(T1)成分における五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/Sb25モル比が0.55〜55である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記(T2)成分における酸化第二スズ−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/SnO2モル比が0.55〜55である請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記(T2)成分における五酸化アンチモン−二酸化珪素複合コロイド粒子のSiO2/Sb25モル比が0.55〜55である請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
金属塩、金属アルコキシド及び金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の硬化触媒を含有してなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
光学基材表面に、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコーティング組成物より形成される硬化膜を有する光学部材。
【請求項11】
前記光学部材の表面に、更に反射防止膜を有する請求項10に記載の光学部材。

【公開番号】特開2012−31353(P2012−31353A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174131(P2010−174131)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】