説明

コーティング組成物及び当該コーティング組成物からなるフィルム

【課題】優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムをより確実に得ることのできるコーティング組成物、並びに当該コーティング組成物からなる優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを提供する。
【解決手段】優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムをより確実に得ることのできるコーティング組成物を得るために、ポリビニルアルコール中に少量のナノダイヤモンド粒子を分散させたコーティング組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子とを含むコーティング組成物及び当該コーティング組成物からなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーボンナノチューブやフラーレンを代表とする、いわゆるナノ炭素材料は、優れた強度及び弾性率を有し、ポリマーと組み合せることにより優れた複合材料が得られることが期待されており、活発に研究開発が実施されている。
【0003】
しかし、カーボンナノチューブとポリマーとを混合した場合、得られた混合物においては、カーボンナノチューブの特性を充分には引き出すことができず、具体的には、強度及び弾性率が期待する程には上昇しない。また、カーボンナノチューブに起因してポリマーが黒色化してしまい、透明性に劣ることから用途が限定され、特にコーティング組成物及び当該コーティング組成物からなるフィルムに用いることは困難である。
【0004】
これに対し、ナノ炭素材料の一つとして、ナノダイヤモンド(粒子)を用いる技術が研究されており、例えば特許文献1には、色をほとんど呈さず、経時的な色の変化も充分に抑制され、消臭性や抗菌性にも優れた消臭抗菌剤を提供することを意図して、ナノダイヤが凝集しているナノダイヤ凝集物を含む消臭抗菌剤であって、上記ナノダイヤ凝集物は、金属含有量が1質量%以下である消臭抗菌剤が開示されており、ポリビニルアルコールをバインダーとして添加することが開示されている(例えば特許文献1、段落番号[0036]参照)。
【0005】
また、特許文献2においては、電気絶縁性でかつ熱伝導性に優れた無機物含有熱可塑性樹脂組成物を提供することを意図して、熱可塑性樹脂(A)、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の高熱伝導性無機化合物(B)、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)、を少なくとも含有し、1.5W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする、電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物が開示されており、高熱伝導性無機化合物(B)としてダイヤモンドが例示されている(例えば特許文献2、段落番号[0034]参照)。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の消臭抗菌剤は、コーティング組成物や当該コーティング組成物からなるフィルムに用いられるものではなく、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを得られるものではなかった。また、上記特許文献2に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物においては、高熱伝導性無機化合物(B)の含有量が多く(例えば特許文献2、段落番号[0039]参照)、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを得られるものではなかった。
【0007】
一方、特許文献3においては、耐熱性及び弾性率の優れた高分子複合材料及びその製造方法を提供することを意図して、ナノダイヤモンドがポリマー中に分散してなる高分子複合材料が開示されており、ポリマーとしてポリビニルアルコールが例示されている(例えば特許文献3、段落番号[0009]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−45287号公報
【特許文献2】特開2008−169265号公報
【特許文献3】特開2004−51937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3においては、高分子複合材料について、「ポリマー100重量部に対して、ナノダイヤモンドを1〜20重量部配合することがよく」(同文献、段落番号[0011])との記載はあるものの、ポリマーとしては有機溶可溶のアクリル樹脂を用いられているだけであって、弾性率上昇効果も十分ではない。また、ポリマーとしてポリビニルアルコールが例示されているが、ポリビニルアルコールを用いた実施例やポリビニルアルコールを採用することによる効果については何ら記載されていない。即ち、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルム並びにかかるフィルムを得られるコーティング組成物を得るという観点からは、未だ改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムをより確実に得ることのできるコーティング組成物、並びに当該コーティング組成物からなる優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来に比べて優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムをより確実に得ることのできるコーティング組成物を得るためには、ポリビニルアルコール(PVA)中に少量のナノダイヤモンド粒子を分散させることが極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリビニルアルコール(PVA)とナノダイヤモンド(ND)粒子とを含むコーティング組成物を提供する。
【0013】
本発明のコーティング組成物は、水に対する親和性に優れるポリビニルアルコールを有するため、当該ポリビニルアルコールが、ナノダイヤモンド粒子の表面と相互作用をし、分散媒中におけるナノダイヤモンド粒子を略均一にかつ長期間に亘って分散させることができ、これによって分散性が向上するものと考えられる。
【0014】
そして、本発明のコーティング組成物は、ナノダイヤモンド粒子の分散状態を良好に保ちつつ対象物(基材等)に塗布することができ、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムが得られるものと考えられる。なお、本発明における「分散性」とは、本発明のコーティング組成物を調製した直後において、当該コーティング組成物中でのナノダイヤモンド粒子の分散状態が優れているか否か(均一か否か)を示すものである。
【0015】
本発明のコーティング組成物は、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、4.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、のが好ましい。即ち、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコール:ナノダイヤモンド粒子=96.0:4.0以下であるのが好ましい。本発明のコーティング組成物において、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、4.0質量%以下であると、コーティング組成物からなるフィルムの力学物性を十分なものとすることができ、好ましい。下限値としては、0.1質量%程度であればよい。
【0016】
さらに本発明のコーティング組成物は、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、1.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、のが好ましい。即ち、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコール:ナノダイヤモンド粒子=99.0:1.0以下であるのが好ましい。本発明のコーティング組成物において、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、1.0質量%以下であると、コーティング組成物からなるフィルムの光学物性を十分なものとすることができ、好ましい。
【0017】
ここで、「ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)」の「乾燥状態」とは、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との混合物から揮発成分を除去して得られる固形分の状態のことをいい、シリカゲル等を用いてコーティング組成物から分散媒を取り除いた後、例えば、30℃以下の常温(例えば25℃)で24時間乾燥させたときに残存する固形分の状態のことをいう。
【0018】
なお、シリカゲルを用いてコーティング組成物から分散媒を取り除く方法としては、種々の方法を採用することが可能であるが、例えばガラス基板上にコーティング組成物を塗布し、シリカゲルを入れた密閉容器に塗膜付ガラス基板を24時間以上放置することにより分散媒を取り除けばよい。
【0019】
また、本発明は、上記本発明のコーティング組成物からなるフィルムをも提供する。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、前記本発明のコーティング組成物を用いてフィルムを形成すれば、得られるフィルムが優れた透明性、高強度及び高弾性率を有することを見出した。
【0020】
また、本発明のフィルムは、380nmの可視光に対して、50〜90%/100μmの透過率を有し得る。
このように、本発明のコーティング組成物を用いてフィルムを形成すれば、得られるフィルムが優れた透明性を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムをより確実に得ることのできるコーティング組成物、並びに当該コーティング組成物からなる優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例における破断強度の測定結果を示す図である。
【図2】実施例におけるヤング率の測定結果を示す図である。
【図3】実施例における吸光度(透過率)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のコーティング組成物の好適な一実施形態、及び、本発明のコーティング組成物を用いたフィルムの好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では重複する説明は省略することがある。
【0024】
[コーティング組成物]
まず、本発明のコーティング組成物の好適な実施形態について説明する。本実施形態のコーティング組成物は、主として、ポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコール用溶媒(任意成分)と、ナノダイヤモンド粒子と、ナノダイヤモンド粒子用分散媒と、を含む構成を有している。
【0025】
このような構成を有することにより、本実施形態のコーティング組成物は、水に対する親和性に優れるポリビニルアルコールを有するため、当該ポリビニルアルコールが、ナノダイヤモンド粒子の表面と相互作用をし、コーティング組成物中におけるナノダイヤモンド粒子を略均一にかつ長期間に亘って分散させることができ、これによって分散性が向上するものと考えられる。そして、本発明のコーティング組成物は、ナノダイヤモンド粒子の分散状態を良好に保ちつつ対象物(基材等)に塗布することができ、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムが得られるものと考えられる。
【0026】
ここで、本発明者らは、(株)日立製作所製のUV/V is spectrometer U−2000を用いた可視吸光法による吸光度の測定、及び(株)島津製作所製のオートグラフAGS−1kNDを用いた引張試験により、本実施形態のコーティング組成物(より具体的には、後述する実施例のコーティング組成物)を用いて得られるフィルムが、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有することを確認している。
【0027】
(1)ポリビニルアルコール
ポリビニルアルコールとしては、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを用いることができるが、例えば(−CH2CH(OH)−)nで示されるポリビニルアルコール(式中、nは重合度で例えば200〜2,400)を用いることができる。
【0028】
単量体であるビニルアルコールは、不安定な構造を有し、すぐにホルムアルデヒドに変化してしまうため、一般的な製造方法としては、ポリ酢酸ビニルを加水分解(ケン化)してポリビニルアルコールを得る。エステル基の加水分解の処理度合いには、様々な水準があり、一般的には70モル%程度の低ケン化度のものから100モル%の完全ケン化のものまで市販されているが、これらに限定されることなく、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを用いることができる。
【0029】
なお、ポリビニルアルコールの特徴の一つとして、水に対する高い親和性が挙げられるが、逆に耐水性が低いともいえる。この点について、ホルマリンを用いたアセタール化などの手法により水酸基をホルマール化することで耐水性を付与する方法が確立されている。本発明においても、アセタール化したポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0030】
(2)ポリビニルアルコール用溶媒
ポリビニルアルコールを溶解させて溶液化するために用いる溶媒は、ポリビニルアルコールを溶解することができれば特に制限はなく、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エチレンオキサイド、メチルアセテート、N−メチルアセトアミド、ジメトキシメタン、メチルエチルケトン、1,1−ジメトキシエタン、フェノール、アニリン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、低分子量アルコール類(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン)等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は混合して用いることができる。消防上の危険性、環境負荷及び人体に対する有害性の面からは、水が最も好適に用いられる。
【0031】
なお、ポリビニルアルコールは、分子間の水素結合が強いため、溶解時には一般的に加温を併用する。本実施形態においてもポリビニルアルコールの溶解時に加温することができる。
【0032】
(3)ナノダイヤモンド粒子
本実施形態において用いることのできるナノダイヤモンド粒子は、平均一次粒子径が1nm以上11nm以下、好ましくは3nm以上7nm以下のサイズを有するものである。
また、一次粒子は通常二次凝集体として数十nm〜数百nmの大きさ(凝集粒径)で存在し、本実施形態のコーティング組成物も、ナノダイヤモンド粒子も二次凝集体として含んでいてもよい。
【0033】
ここで、コーティング組成物におけるナノダイヤモンド粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡によって測定することができ、ナノダイヤモンド粒子の凝集粒径は、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)によるもので、例えば、(株)堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550で測定した体積基準のメディアン径(D50)で表すことができる。
【0034】
具体的には、純水10ミリリットル中にナノダイヤモンド粒子分散液を数滴滴下し、手で振動し分散させて測定用試料を調製する。ついで、測定用試料3ミリリットルを、(株)堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550のセル内に投入し、下記の条件にて測定する。
【0035】
・測定条件
データ読み込み回数:100回
セルホルダー内温度:25℃
・表示条件
分布形態:標準
反復回数:50回
粒子径基準:体積基準
分散媒の屈折率:1.33(水が主成分の場合)
・システム条件設定
強度基準:Dynamic
散乱強度レンジ上限:10000.00
散乱強度レンジ下限:1.00
【0036】
合成ダイヤモンドの製造方法としては種々のものがあり、例えば、化学蒸着法(CVD)等に代表される気相(低圧)合成法によって膜状ダイヤモンドを合成する方法のほか、自然界のダイヤモンド生成を模した方法として、衝撃法、爆発法、爆射法、爆轟法、フラックス法及び高温高圧法等が実施されている。
【0037】
衝撃法は、例えば爆薬を爆発させる等によってグラファイト構造の原料物質に動的な衝撃を加え、グラファイト構造の原料物質をダイヤモンド構造の粒子に直接変換し、顆粒状のダイヤモンドを得る方法であり、フラックス法は、例えば鉄やコバルト等の金属触媒を使用するものであり、原料粉末材料であるグラファイトを、4〜6GPaの静圧および1500〜2000℃の温度で金属触媒中に溶解させた後、ダイヤモンドを析出させる方法である。
【0038】
また、高温高圧法は、例えば密閉された高圧容器内で、13〜16GPaの高い静圧、及び3000〜4000℃の高温の雰囲気下に原料グラファイト粉末を保持し、ダイヤモンドに対する安定条件を実現することによって、グラファイト粉末をダイヤモンドへ直接相転移させる方法である(例えば特開2002−66302号公報参照)。
【0039】
近年、火薬を水、氷、窒素又は炭酸ガスなどの酸素欠如不活性雰囲気中で爆発させ、不完全燃焼によって残存した炭素原子をダイヤモンド結晶へと成長させる方法が盛んに行われており、この方法は爆轟法又は爆発法と呼ばれる。この方法では、衝撃波が急速に減衰するため、得られるダイヤモンド粒子の粒径はナノオーダーに留まり、しかも粒径が4.3±0.4nmと大きさの揃った単結晶が得られる。
【0040】
原料火薬としては、トリニトロトルエン(TNT)及びヘキソーゲン(RDX)が用いられることが多いが、ヘキソーゲン成分をオクトーゲン(HMX)等の他の火薬で置き換えることもある(例えば、A.Kruger,F.Kataoka,M.Ozawa,T.Fujino,Y.Suzuki,A.E.Aleksenskii,A.Ya.Vul’,E.Osawa,“Unusually tight aggregation in detonation nanodiamond: Identification and disintegration”Carbon,43,1722−1730(2005)又はダイヤモンド工業協会編、ダイヤモンド技術総覧参照)。
【0041】
このようにして得られるナノダイヤモンド粒子には、非ダイヤモンド炭素成分及び触媒金属等の不純物が多量に含まれるため、加熱又は触媒金属存在下での王水、発煙硝酸又は濃硝酸等の強酸又は強アルカリを用いた洗浄により、不純物を除去する処理が施される(例えば、特開昭63−303806号公報、特開2003−146637号公報及び特開2004−238256号公報参照)。
【0042】
本実施形態におけるナノダイヤモンド粒子の製造方法は特に制限されるものではないが、上記のような爆轟法又は爆発法によって得られるナノダイヤモンド粒子が、供給量、価格及び品質の観点から好適に用いることができる。
【0043】
(3)ナノダイヤモンド粒子用分散媒
ナノダイヤモンド粒子用分散液を調製するために用いるナノダイヤモンド粒子用分散媒は、ポリビニルアルコールの溶解に用いる上記の溶媒と相溶するものであれば特に制限はなく、先に述べたポリビニルアルコール用溶媒を用いることができる。
【0044】
(4)組成
本実施形態のコーティング組成物は、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、4.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、のが好ましい。即ち、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコール:ナノダイヤモンド粒子=96.0:4.0以下であるのが好ましい。本発明のコーティング組成物において、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、4.0質量%以下であると、コーティング組成物からなるフィルムの力学物性を十分なものとすることができ、好ましい。下限値としては、0.1質量%程度であればよい。
【0045】
また、本実施形態のコーティング組成物は、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、1.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、のが好ましい。即ち、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコール:ナノダイヤモンド粒子=99.0:1.0以下であるのが好ましい。本発明のコーティング組成物において、ナノダイヤモンド粒子の含有量が、ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、1.0質量%以下であると、コーティング組成物からなるフィルムの光学物性を十分なものとすることができ、好ましい。光学物性の観点からも、下限値としては、0.1質量%程度であればよい。
【0046】
本実施形態のコーティング組成物におけるその他の成分の含有量については、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整すればよい。
【0047】
[コーティング組成物の製造方法]
本実施形態のコーティング組成物は、あらかじめポリビニルアルコールとポリビニルアルコール用溶媒とを混合してポリビニルアルコールを溶解したポリビニルアルコール溶液と、別途、ナノダイヤモンド粒子とナノダイヤモンド粒子用分散媒とを混合して調製したナノダイヤモンド粒子分散液と、を、上記組成を満たすように混合して得ることができる。
【0048】
ポリビニルアルコール溶液は、ポリビニルアルコールとポリビニルアルコール用溶媒とを常法により混合・攪拌等して得ることができる。なお、かかるポリビニルアルコール溶液を調製せず、後述のように調製したナノダイヤモンド粒子分散液にポリビニルアルコール粉末を投入し、加熱・攪拌して本実施形態のコーティング組成物を得ることもできる。
【0049】
ナノダイヤモンド粒子分散液の調製には、ナノダイヤモンド粒子とナノダイヤモンド粒子用分散媒とを常法により混合・攪拌等して得ることができる。ナノダイヤモンド粒子分散液の調製に使用する装置としては、一般に知られる分散機を用いることができ、例えば、超音波照射機、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、アトライター、サンドミル、ビーズミル、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル及びパールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
[フィルム(フィルム付基材)及びその製造方法]
本実施形態のフィルムは、上記本実施形態のコーティング組成物を用いて形成されるものであり、主成分として、ポリビニルアルコールと、ナノダイヤモンド粒子と、を含み、乾燥及び必要に応じた加熱後に残留する溶媒及び分散媒並びにその他の任意成分も含み得る。
【0051】
次に、本実施形態のフィルム(フィルム付基材)の製造方法は、主として、(a)コーティング組成物調製工程と、(b)コーティング組成物塗布工程と、(c)フィルム形成工程と、を含んでいる。そして、本実施形態のフィルム(フィルム付基材)の製造方法は、コーティング組成物塗布工程において先に述べた本実施形態のコーティング組成物を用い、かつ、フィルム形成工程において、塗布後のコーティング組成物を所定の温度に乾燥及び、必要に応じて加熱してフィルムを形成する。これにより、先に述べた本実施形態のフィルム(フィルム付基材)をより確実に得ることができるようになる。
以下、本実施形態のフィルム(フィルム付基材)の製造方法の各工程について説明する。
【0052】
(a)コーティング組成物調製工程
コーティング組成物調製工程は、先に述べた本実施形態のコーティング組成物を調製する工程である。コーティング組成物は、先に述べたように、ポリビニルアルコール、又は、あらかじめポリビニルアルコールとポリビニルアルコール用溶媒とを混合してポリビニルアルコールを溶解したポリビニルアルコール溶液と、別途、ナノダイヤモンド粒子とナノダイヤモンド粒子用分散媒とを混合して調製したナノダイヤモンド粒子分散液を混合して得ることができる。上記のように、ポリビニルアルコール溶液を調製せず、後述のように調製したナノダイヤモンド粒子分散液にポリビニルアルコール粉末を投入し、加熱・攪拌して本実施形態のコーティング組成物を得ることもできる。
【0053】
(b)コーティング組成物塗布工程
コーティング組成物塗布工程は、先に述べた本実施形態のコーティング組成物を基材に塗布する工程である。
【0054】
本実施形態において用いることのできる基材としては、コーティング組成物を塗布して乾燥(及び必要に応じて加熱)してフィルムを搭載することのできる、少なくとも1つの主面を有するものであれば、特に制限はないが、耐熱性に優れた基材であるのが好ましい。
【0055】
基材は、本実施形態のコーティング組成物から塗布、乾燥及び必要に応じた加熱によって形成して得られるフィルムで保護すべき対象物を構成するものである。かかる対象物としては、例えば、建築物の壁、床、手すり、看板、サインボード、広告板、窓、ガラス、照明カバー、各種表示ディスプレイや太陽電池などのパネル、電気電子製品の筐体、マウスパッド、乗り物の車体、机やテーブル等の各種家具等が挙げられる。
【0056】
したがって、基材を構成する材料としては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミックス、ガラス又は金属等を挙げることができる。
【0057】
また、基材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された基材や親水化処理等の表面処理を施した基材を用いてもよい。
【0058】
コーティング組成物を基材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、例えば、流延(キャスト)法、ディスペンサー法、インクジェット法、フレキソ法、グラビア法、スクリーン法、コータ法、スピンコーティング法、刷毛塗り法又はシリンジ法等を用いることができる。
【0059】
また、塗布されて、乾燥及び、必要に応じて、加熱により形成される前の状態のコーティング組成物からなる塗膜の形状は、最終的に得るフィルムの形状に合わせて所望する形状にすることが可能であり、したがって、本実施形態における「塗布」とは、コーティング組成物を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念であり、本実施形態の塗膜及びフィルムは、面状及び線状の塗膜及びフィルムのいずれも含む概念である。また、これら面状及び線状の塗膜及びフィルムは、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0060】
(c)フィルム形成工程
上記のように塗布した後の塗膜を乾燥することにより、本実施形態のフィルム(フィルム付基材)を得る。本実施形態における乾燥は、例えば1.0×10-3〜0.1気圧の減圧下、12〜48時間、10〜50℃で行うのが好ましい。加熱を行う場合は、コーティング組成物や基材が熱によって変形や変色等のダメージを受けない範囲で適宜選択すればよい。
【0061】
このようにして本実施形態のフィルム(フィルム付基材)を得ることができる。このようにして得られる本実施形態のフィルムは、例えば、0.1〜300μm程度、より好ましくは1〜100μmである。本実施形態のコーティング組成物を用いれば、上記のような厚さでも、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムが得られる。
【0062】
また、このようにして得られる本実施形態のフィルムは、380nmの可視光に対して、50〜90%/100μmの透過率を有し得る。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明のコーティング組成物及び本発明のフィルム(フィルム付基材)の製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
≪実験例1≫
爆発法で合成した平均一次粒径が3〜10nmのナノダイヤモンド粒子を、4N水酸化ナトリウム水溶液と混合し、得られた混合物のナノダイヤモンド粒子含有量は15質量%に調整した。この混合物を室温で12時間撹拌した後、デカンテーションで上澄みを除去し、沈殿物(ナノダイヤモンド粒子)をイオン交換水で洗浄して回収した。
【0065】
次に、回収したナノダイヤモンド粒子を濃硫酸と混合し、得られた混合物のナノダイヤモンド粒子含有量は15質量%に調整した。この混合物を70℃で2.5時間撹拌した後、デカンテーションで上澄みを除去し、沈殿物(ナノダイヤモンド粒子)をイオン交換水で洗浄して回収した。
【0066】
更に、このようにして回収したナノダイヤモンド粒子を35質量%塩酸と混合し、得られた混合物のナノダイヤモンド粒子含有量は15質量%に調整した。この混合物を室温で1.5時間撹拌した後、デカンテーションで上澄みを除去し、沈殿物(ナノダイヤモンド粒子)をイオン交換水で洗浄して回収した。
【0067】
このようにして回収したナノダイヤモンド粒子をイオン交換水と混合し、得られた混合物のナノダイヤモンド粒子含有量は0.8質量%に調整し、ろ液の電気伝導率が10μS/cmになるまで限外ろ過を行い、更に、ろ液のナノダイヤモンド粒子含有量が2.75質量%になるまで濃縮した後、ビーズミルで分散させ、遠心分離で粗大粒子(凝集粒子)を沈降させ、ナノダイヤモンド粒子分散液を得た。
【0068】
日本合成化学工業(株)製のゴーセノールNH−18(ケン化度99%以上、重合度1,800のポリビニルアルコール)の粉末を、上記のように調製したナノダイヤモンド粒子分散液に添加し、攪拌しながら90℃に加熱し、コーティング組成物1を得た。得られたコーティング組成物におけるポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との割合は、99.5:0.5に調節した。
【0069】
このようにして得たコーティング組成物を、室温にてガラス板上にキャストを行った後、減圧下、40℃で48時間乾燥させることで、厚み100μmのフィルム1を得た。
【0070】
≪実験例2≫
得られたコーティング組成物におけるポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との割合は、99.9:0.1に調節したこと以外は、実験例1と同様にして、コーティング組成物2を調製し、コーティング組成物2を用いてフィルム2を形成した。
【0071】
≪実験例3≫
得られたコーティング組成物におけるポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との割合は、99.0:1.0に調節したこと以外は、実験例1と同様にして、コーティング組成物3を調製し、コーティング組成物3を用いてフィルム3を形成した。
【0072】
≪実験例4(比較例)≫
ナノダイヤモンド粒子を用いず、日本合成化学工業(株)製のゴーセノールNH−18(ケン化度99%以上、重合度1,800のポリビニルアルコール)の粉末を、イオン交換水に溶解させて得られる溶液(コーティング組成物4)を用い、実験例1と同様にして、フィルム4を形成した。
【0073】
≪実験例5≫
得られたコーティング組成物におけるポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との割合は、95.0:5.0に調節したこと以外は、実験例1と同様にして、コーティング組成物5を調製し、コーティング組成物5を用いてフィルム5を形成した。
【0074】
≪実験例6≫
得られたコーティング組成物におけるポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との割合は、90.0:10.0に調節したこと以外は、実験例1と同様にして、コーティング組成物6を調製し、コーティング組成物6を用いてフィルム6を形成した。
【0075】
[評価試験]
(1)フィルムの引張試験
(株)島津製作所製のオートグラフAGS−1kNDを用い、初期試料長さ:20mm、引張速度:2mm/min、及び測定温度:室温の条件で、フィルム1〜6の破断強度及びヤング率を測定した。破断強度の測定結果を図1に示し、ヤング率の測定結果を図2に示した。
【0076】
(2)吸光度(透過率)の測定
(株)日立製作所製のUV/V is spectrometer U−2000を用い、380nmの可視光で、波長走査レート:400nm/minの条件で、フィルム1〜6の吸光度(透過率)を測定した。結果を図3に示した。
【0077】
なお、実験例3〜実験例6で得られたフィルム3〜フィルム6のヤング率Y(GPa)、破断強度σmax(MPa)、及び破断伸びεmax(%)については、下記の表1にまとめた。ただし、表1中、PVAはポリビニルアルコール、NDはナノダイヤモンド粒子を示し(以下、同様。)、「PVA/ND」の右横の数値は、ポリビニルアルコール及びナノダイヤモンド粒子の合計量に対するナノダイヤモンド粒子の含有量を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
図1〜図3及び表1に示す結果から、下記のことがわかった。
(a)力学物性の観点(図1及び図2、表1参照)
(a−1)ヤング率
図2に示すように、ナノダイヤモンド粒子を少量添加してもヤング率が急激に向上している。また、ナノダイヤモンド粒子無添加のフィルム4のヤング率約3.7GPaに対し、
PVA:ND=99.9:0.1のフィルム2で約6GPa、
PVA:ND=99.5:0.5のフィルム1で約7.5GPa、
PVA:ND=99.0:1.0のフィルム3で約9.7GPa、
PVA:ND=96.0:4.0付近でヤング率は最大となり、それ以上にナノダイヤモンド粒子の添加量を増やしても、ヤング率は変わらないか、低下する。
【0080】
(a−2)破断強度
図1に示すように、ナノダイヤモンド粒子無添加のフィルム4の破断強度約95.3MPaに対し、
PVA:ND=99.0:1.0のフィルム3で約115.8MPa、
PVA:ND=95.0:5.0のフィルム5で約124.3MPa、
PVA:ND=90.0:10.0のフィルム6で約126.8GPa、
である。
【0081】
(b)光学特性の観点(図3参照)
厚さ100μmのフィルムの透過率は、波長380nmの可視光に対し、
PVA:ND=100:0のフィルム4で約90%、
PVA:ND=99.9:0.1のフィルム2で約82%、
PVA:ND=99.5:0.5のフィルム1で約65%、
PVA:ND=99.0:1.0のフィルム3で約50%、
である。
【0082】
以上より、力学物性の観点からは、ナノダイヤモンド粒子の添加量は、PVA:ND=96.0:4.0以下が好ましく、PVA:ND=99.9:0.1以上PVA:ND=99.0:1.0以下がより好ましい範囲であることがわかる。また、光学特性の観点からは、ナノダイヤモンド粒子の添加量は、PVA:ND=99.0:1.0以下が好ましく、PVA:ND=99.5:0.5がより好ましく、PVA:ND=99.9:0.1がさらに好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により得られるコーティング組成物は、従来のナノ炭素材料を用いたポリマー複合材料の欠点を解消し、優れた透明性、高強度及び高弾性率を有するフィルムを形成し得るものである。得られる本発明のフィルムの用途としては、例えば、建築物の壁、床、手すり、看板、サインボード、広告板、窓、ガラス、照明カバー、各種表示ディスプレイや太陽電池などのパネル、電気電子製品の筐体、マウスパッド、乗り物の車体、机やテーブル等の各種家具等、広範な用途が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子とを含むコーティング組成物。
【請求項2】
ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、4.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコールとナノダイヤモンド粒子との合計量(乾燥状態)に対して、1.0質量%以下のナノダイヤモンド粒子を含む、請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれかに記載のコーティング組成物からなるフィルム。
【請求項5】
380nmの可視光に対する透過率が50〜90%/100μmである、請求項4に記載のフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−26390(P2011−26390A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171397(P2009−171397)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】