説明

コーティング組成物

【課題】より簡便な方法で製造することができ、充分な性能を示す炭素数6以下のポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物から導かれる共重合体を含むコーティング組成物を提供する。
【解決手段】下記式(a)で示されるポリフルオロアルキル基を有する不飽和化合物と、下記式(b)で示されるシラン含有(メタ)アクリレートとの少なくとも1種ずつから導かれる単位を含有する共重合体を含むコーティング組成物:


式中、Q:単結合または2価連結基、R1:水素原子またはメチル基、Rf:炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基、R2:ヒドロキシ基または加水分解可能な官能基、R3、R4:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の飽和アルキル基、フェニル基、n:1〜3の整数、m、l:それぞれ独立して、0または1の整数、ただし、(4−n−m−l)は1以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のコーティング組成物は、撥水性、撥油性、防汚性、潤滑性(低摩擦性)、非粘着性、離型性、低反射性、表面移行性等の機能付与に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水撥油剤の有効成分として含フッ素アクリレート系ポリマーが使用されている。実用的に使用されている含フッ素アクリレート系モノマーの側鎖のフルオロアルキル基の炭素数は通常8以上であり、側鎖としてのフルオロアルキル基の炭素数が6以下を使用するという事はあまり考えられてこなかった。
【0003】
短鎖フルオロアルキル基を使用した含フッ素アクリレート系ポリマーとして検討されているものも有るが、含フッ素アクリレート系モノマーとアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーとの共重合組成物は実用には不充分な性能である(特許文献1参照)。また、α位を変性した含フッ素アクリレート系モノマーを使用したポリマーは、変性されたアクリレート系モノマーを使用しているので、複数の合成段階を経なければならない(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−146271号公報
【特許文献2】特開2004−352976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、より簡便な方法で製造することができ、充分な性能を示す炭素数6以下のポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物から導かれる共重合体を含むコーティング組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、鋭意検討の結果、炭素数6以下のポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物から導かれる単位と、特定のシラン含有(メタ)アクリレートから導かれる単位とを含有する共重合体を含む組成物が、より簡便な方法で製造でき、充分な性能を示すコーティング膜となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のコーティング組成物を提供する。
本発明のコーティング組成物は、下記式(a)で表されるポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物(以下、化合物(a)とも記す)の少なくとも1種と、下記式(b)で表されるシラン含有(メタ)アクリレート(以下、化合物(b)とも記す)の少なくとも1種とから導かれる単位を含有する共重合体を含むものである。以下、これを「本発明に係る組成物」ということがある。
【0008】
【化2】

【0009】
式(a)および(b)中、
Q:単結合または2価連結基、
1:水素原子またはメチル基、
f:炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基、
2:ヒドロキシ基または加水分解可能な官能基、
3、R4:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の飽和アルキル基、フェニル基、n:1〜3の整数、
m、l:それぞれ独立して、0または1の整数、
ただし、(4−n−m−l)は1以上である。
【0010】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体としては、前記式(a)におけるポリフルオロアルキル基がパーフルオロアルキル基であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0011】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体の化合物(b)から導かれる単位の含有量は、1〜50質量%であるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記化合物(a)および化合物(b)以外の非フッ素系不飽和化合物(c)(以下、化合物(c)とも記す)から導かれる単位をさらに含有することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコーティング組成物は、より簡便な方法で製造でき、共重合体のフルオロアルキル基の炭素数が6以下であっても高い撥水性、撥油性、防汚性等を有する表面を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のコーティング組成物は、被膜成分として、特定の共重合体を含む。この共重合体は、下記式(a)で表されるポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物の少なくとも1種と、後述のシラン含有(メタ)アクリレート(b)の少なくとも1種とから導かれる単位を含有する。なお本明細書中、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方またはどちらか一方を表す。
【0015】
【化3】

【0016】
式(a)中、R1は、水素原子またはメチル基である。
fは、炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基である。このポリフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を意味し、このアルキル基の炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含むものであってもよい。本明細書において、ポリフルオロアルキル基またはRf基の表記は、炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含むポリフルオロアルキル基の上位概念にあたるものとして、特にことわりのない限り、該酸素原子を含まないおよび含む両方のポリフルオロアルキル基の総称を意味する。
【0017】
上記ポリフルオロアルキル基(Rf基)は、炭素数1〜6のアルキル基に対応するフッ素置換数2以上の基であり、直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよい。たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの直鎖または分岐構造のアルキル基に対応する部分フルオロ置換またはパーフルオロ置換アルキル基、オキシポリフルオロエチレンなどが挙げられる。分岐構造のポリフルオロアルキル基としては、イソプロピル基、3−メチルブチル基などが挙げられる。
【0018】
f基のパッキングを良くするため、Rf基としては、直鎖のポリフルオロアルキル基が好ましく、特にエーテル性の酸素原子を含まないパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0019】
本発明において、Rf基は、撥水性、撥油性、防汚性の観点から、実質的に全フッ素置換されたパーフルオロアルキル基(以下、RF基とも記す)が好ましく、炭素数4〜6のRF基が好ましく、特に炭素数6のRF基が好ましい。
f基は、直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよいが、直鎖構造が好ましい。
【0020】
上記式(a)中、Qは、単結合または2価の連結基である。以下に2価の連結基を例示するが、Qは単結合または2価の連結基であれば適宜選択可能であり、これらに限定されるものではない。
2価の連結基としては、例えば、−O−、−S−、−NH−、−SO2−、−PO2−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH2−、−CH2CH2−、−CH2−、−CH2NH−、−CH2−、−CO−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基またはアルケニレン基、アルキレンオキシ基、2価の4、5、6または7員環置換基、またそれらから構成される縮合置換基、6員環芳香族基、4ないし6員環の飽和または不飽和の脂肪族基、5または6員環複素環基、またはそれらの縮合環、これら2価の連結基の組み合わせから構成される基が挙げられる。
【0021】
これらの基は、置換基を有していてもよく、置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、シアノ基、アルコシ基(メトキシ、エトキシ、ブトキシ、オクチルオキシ、メトキシエトキシなど)、アリーロキシ基(フェノキシなど)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオなど)、アシル基(アセチル、プロピオニル、ベンゾイルなど)、スルホニル基(メタンスルホニル、ベンゼンスルホニルなど)、アシルオキシ基(アセトキシ、ベンゾイルオキシなど)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシなど)、ホスホニル基(ジエチルホスホニルなど)、アミド基(アセチルアミノ、ベンゾイルアミノなど)、カルバモイル基(N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイルなど)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、2−カルボキシエチル、ベンジルなど)、アリール基(フェニル、トルイルなど)、複素環基(ピリジル、イミダゾリル、フラニルなど)、アルケニル基(ビニル、1−プロペニルなど)、アルコキシアシルオキシ基(アセチルオキシ、ベンゾイルオキシなど)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、および重合性基(ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、シリル基、桂皮酸残基など)などである。
【0022】
上記のうちでも、Qは、−Z−(Y)n−(Zは、単結合、−O−または−NH−であり、Yは2価の連結基、nは0か1の整数)で表わされる2価の連結基であることが好ましい。好ましいYの例としては、アルキレン基、イミノ基(−NH−)、スルホニル基、またはこれらの組み合わせから得られる2価の連結基が挙げられ、より好ましくは、Yが炭素数1〜5の直鎖のアルキレン基である。
【0023】
式(a)中のQが−Z−(Y)n−である態様の好ましい例は、具体的に下記式(a1)で表すことができる。
【化4】


式(a1)中、
1:水素原子またはメチル基、
Z:単結合、−O−、−NH−、
Y:炭素数1〜5のアルキレン基、
f:F(CF2n−、(CF32CF(CF2m−(Rfにおいて、n=1〜6の整数、m=0〜3の整数)を表す。
【0024】
上記式(a1)で表される化合物の具体例として、以下のポリフルオロアルキル基含有アクリレートまたはポリフルオロアルキル基含有メタクリレートが挙げられるが、本発明における化合物(a)はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【化5】

【0026】
これら化合物におけるYおよびRfの組み合わせを下記表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記化合物(a)から導かれる単位の1種を含有し、2種以上含有していてもよい。
共重合体中の上記化合物(a)全量から導かれる単位の含有量は、好ましくは50〜99質量%、より好ましくは80〜99質量%である。化合物(a)から導かれる単位の含有量が上記範囲内であると、撥水性、撥油性が良好であるからである。なお、本発明に係る組成物に含まれる共重合体において、各重合単位の含有量は、実質的に、重合仕込み量とみなすことができる。
【0029】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体を形成するシラン含有(メタ)アクリレートは、下記式(b)で表される。
【0030】
【化6】

【0031】
式(b)中、Qは、単結合または2価連結基であり、前記式(a)におけるQと同様の基が例示される。これらのうちでも、好ましいQとして、単結合、−(CH2n−、−(CH2CH2O)n−、−COO−、6員環芳香族基、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、またはこれら2価の連結基の組み合わせから構成される基が挙げられ、より好ましくは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基などが挙げられる。
【0032】
1は、水素原子またはメチル基である。
2は、ヒドロキシ基または加水分解可能な官能基であり、具体的に、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
nは、1〜3の整数であり、nが2または3の場合、R2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
mおよびlは、それぞれ独立して、0または1の整数である。(4−n−m−l)は1以上である。
3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の飽和アルキル基、フェニル基である。
【0033】
上記化合物(b)は、加水分解可能な官能基を少なくとも1つ以上含むことが好ましく、すなわち上記式(b)において、加水分解可能な官能基であるR2を少なくとも1つ含むが、なかでも、n=3であって、すべてのR2が加水分解可能な官能基であることがより好ましい。また、加水分解可能な官能基としては、アルコキシ基が最も扱いやすく、より好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜5が好ましく、炭素数1〜3が特に好ましい。
【0034】
このような好ましい化合物(b)の具体例を以下に示すが、化合物(b)はこれらに限定されるものではない。
【0035】
【化7】

【0036】
これら化合物におけるQおよびR2の組み合わせを下記表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記化合物(b)から導かれる単位の1種を含有し、2種以上含有していてもよい。
本発明に係る組成物に含まれる共重合体において、化合物(b)から導かれる単位が、1質量%含まれているだけでも、撥水撥油性能が改善される。5質量%以上含まれていれば、非常に高い性能を発現する。共重合体の安定性に優れるという観点から、共重合体中の化合物(b)全量から導かれる単位の含有量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0039】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記のような化合物(a)および(b)から導かれる単位とともに、さらに、これら以外の非フッ素系不飽和化合物(c)から導かれる単位を1種または2種以上含んでいても構わない。この化合物(c)は、上記(a)および(b)と共重合体を形成しうる他の化合物であれば特に限定されない。
【0040】
このような化合物(c)としては、たとえば、Rf基を持たず重合性の不飽和基を有する化合物が挙げられ、具体的に、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル等のポリオレフィン系不飽和エステル、ビニル基を有する化合物、エポキシ基を有する不飽和エステル、アミノ基と重合性不飽和基を有する化合物、アクリル酸ジエステル等の(メタ)アクリル酸のポリエステル、および置換アミノ基と重合性不飽和基を有する化合物などが挙げられる。
このような化合物(c)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0041】
化合物(c)の例1:スチレン系化合物(ビニル基を有する化合物)
【0042】
【化8】

【0043】
上記R5は、たとえば、−H、−OH、−CH3、−Cl、−CHO、−COOH、−CH2OH、−CH2Cl、−CH2NH2、−CH2N(CH3)2、−CH2N(CH3)3Cl、−CH2NH3Cl、−CH2CN、−CH2COOH、−CH2N(CH2COOH)2、−CH2SH、−CH2SO3Naまたは−CH2OCOCH3などである。
【0044】
化合物(c)の例2:(メタ)アクリル酸エステル
【0045】
【化9】

【0046】
上記R6は、たとえば、−H、−CH3、−CH3CH2OH、−CH2CH2N(CH3)2、−(CH2)nH(n=2〜20)、−CH2CH(CH3)2、−CH2−C(CH3)2−OCO−PH、−(CH2CH2O)nH(n=2〜20)、−CH2−PH、−CH2CH2OPH、−CH2N(CH3)3Cl、−CH2CH2O−PO(OH)2、−[Si(CH3)2O]mH(m=2〜20)、−(CH2CH2O)nCH3(n=2〜20)、
【0047】
【化10】


などである。
【0048】
化合物(c)の例3:下記式で示される化合物
【0049】
【化11】

【0050】
上記R7は、たとえば、−NHCH2OH、−NHCH2SO3H、−NHC(CH3)2CH2−CO−CH3、−N=N(CH3)3、−CNH2n+1(n=2〜20)および−NH2などである。
【0051】
化合物(c)の例4:下記化合物
【0052】
【化12】

【0053】
化合物(c)の例5:下記化合物
【0054】
【化13】


(上記例示中、Rは、HまたはCH3である)
【0055】
化合物(c)の例6:
【0056】
【化14】

【0057】
上記R1は、水素原子またはメチル基であり、R8は有機基(ポリフルオロアルキル基を除く)であり、pは1〜4の整数である。
【0058】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記のような化合物(c)から導かれる単位を、その種類によっても異なるが、50質量%以下の量で含有することができる。
【0059】
本発明において、共重合体の分子量が適度に大きければ、十分に性能を発揮することができ、一方、分子量があまりにも大きすぎると溶媒への溶解性が悪くなるため、共重合体の分子量は、重量平均分子量(Mw)で、通常、1×103〜1×107が好ましく、特に1×104〜2×105が好ましい。
【0060】
本発明に係る組成物に含まれる共重合体は、上記のような化合物(a)、化合物(b)および付加的に化合物(c)から導かれる単位を含有する以外は、重合形態などについては特に制限されない。重合形態は、ランダム、ブロック、グラフトなどのいずれでもよく、特に制限されないが、通常、ランダム共重合体が好ましい。
【0061】
共重合体はその製造方法についても特に制限されず、溶液重合だけではなく、乳化重合も可能である。本発明では、通常、各化合物中の不飽和基に基づき付加重合させることができる。重合に際しては、公知の不飽和化合物の付加重合条件を適宜に採択して行うことができる。たとえば重合開始源としては、特に限定されないが、有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等の通常の開始剤が利用できる。
【0062】
上記共重合体を含む本発明の組成物は、通常、液状形態である。このため、共重合体を後述する溶媒を重合媒体とする溶液重合で製造し、重合により液状組成物を直接調製することは好ましい態様である。重合原料の化合物が、塩化ビニルなどのガスである場合には、圧力容器を用いて、加圧下に連続供給してもよい。
【0063】
組成物を形成する溶媒は、共重合体を溶解または分散できるものであればよく、特に限定されず、各種有機溶媒(炭化水素系、ケトン系、エステル系、エーテル系、アルコール系、フッ素系溶剤等)、水、またはこれらの混合媒体などが挙げられる。共重合体中の化合物(a)から導かれる単位の含有量が多い場合には、アルコール以外の極性溶媒やフッ素系溶剤を主溶媒とすることが好ましい。具体的には、ケトン系としてはアセトンやメチルエチルケトン、エステル系としては酢酸エチル、エーテル系としてはテトラヒドロフランなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、フッ素系溶媒では、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)およびパーフルロカーボン(PFC)の使用も可能であるが、社会的環境問題を考慮すると、ハイドロフルオロカーボン(HFC)またはハイドロフルオロエーテル(HFE)などが好ましい。使用可能なフッ素系溶媒の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0064】
m−キシレンヘキサフルオリド(以下、m−XHFと記す。)
p−キシレンヘキサフルオリド(以下、p−XHFと記す。)
CF3CH2CF2CH3
CF3CH2CF2
613OCH3
613OC25
37OCH3
CF7OC25
613
CF2HCF2CH2OCF2CF2
CF3CFHCFHCF2CH3
CF3(OCF2CF2)n(OCF2)OCF2
817OCH3
715OCH3
49OCH3
49OC25
49CH2CH3
CF2CH2OCF2CF2CF2
(上記例示中、m、nはどちらも1〜20を表す。)
【0065】
本発明のコーティング組成物は、通常、上記共重合体を好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.05〜5質量%の濃度で含む。共重合体の濃度がこの範囲内であれば、撥水撥油性能を十分に発揮できる。なおコーティング組成物の上記共重合体濃度は、最終的濃度であればよく、たとえばコーティング組成物を重合組成物として直接調製する場合には、重合直後の重合組成物の共重合体濃度(固形分濃度)が20質量%を超えていてもなんら差し支えない。高濃度の重合組成物は、最終的に上記好ましい濃度となるように適宜に希釈することができる。
【0066】
本発明のコーティング組成物は、組成物の安定性、撥水撥油性能または外観等に悪影響を与えない範囲であれば、前記した以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、たとえば被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、組成物を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤、または帯電防止剤等が挙げられる。
【0067】
本発明のコーティング組成物を用いた被覆方法としては、一般的な被覆加工方法が採用できる。たとえば、浸漬塗布、スプレー塗布、または本発明の組成物を充填したエアゾール缶による塗布等の方法がある。
【0068】
本発明のコーティング組成物の塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことがより好ましい。無論、被処理部品の材質などにより、加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する組成物の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0069】
本発明のコーティング組成物は、有機材料、無機材料問わずに処理する事ができる。被処理物としては、例えば、繊維製品(織物、絨毯、布、不織布等)、石材(天然石、人工大理石等)、濾過材料(防塵マスク、フィルター等)、ガラス製品(窓ガラス、ミラー、ゴーグル、メガネ等)、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック(PET、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等)、不燃材(石膏ボード、珪酸カルシウム板、フレキシブルボード等のセラミック材等)、塗面、プラスターなどが挙げられる。
また、精密機器部品や摺動部品(モーター、時計、HDD)、電子機器部品(ビデオ、カメラ、テレビ等)、家電製品(レンジ、ポット、エアコンなど)、電気部品(電子回路や基板、電子部品等)、液晶画面やタッチパネル、光学部品、電池部品(ポリマー電池、燃料電池、太陽電池等)、金型や樹脂型などの各種モールド、成型前の樹脂表面、離型剤(内添型離型剤、外部離型剤)、各種内添剤(樹脂フィラー、マスターバッチ、塗料、顔料)、フィルム製品、事務用具、家具、医療用具(歯科も含む)、化粧品(ネイルアート、へアケア用品を含む)、スポーツ用品(スキーやサーフィン等)、紙コップや包装紙などの食品関係、調理用具や台所周り、プール、洗面所や風呂場等の水周り、エレクトロニクス分野(光デバイスや半導体部品、レジスト材料等)、自動車用品、船や飛行機や自動車などの車体、屋外設備(看板、信号機、アンテナ、屋外ファン等)、建材(橋脚、屋根、床、外壁など)、バルブや配管等、シーリング材、ノズル(インクジェット、給油ノズル、シリンジ、スプレー缶等)なども処理することができる。
【0070】
本発明のコーティング組成物は、撥水性、撥油性、防汚性、潤滑性(低摩擦性)、非粘着性、離型性、低反射性、表面移行性等の機能を、本発明で処理された被処理物に付与する事ができる。
【0071】
本発明のコーティング組成物の利用用途としては、例えば、撥水用コーティング、撥油用コーティング、防錆用コーティング、防湿用コーティング、防汚用コーティング、防油用コーティング、耐候性用コーティング、油浸入防止用コーティング、離型用コーティング、オイル拡散防止用コーティング、表面保護用コーティング(トップコート)、フォトレジスト材用コーティング、絶縁用コーティング、濾過材料用のコーティング、反射防止用コーティング、エレクトロニクス用コーティング、光デバイス用コーティング、HDDヘッド用コーティング、光触媒の担持体の表面コーティング、油汚れ、ホコリ、落書き、指紋、雪および氷等の付着防止および付着物の除去性向上用コーティング、カビ、藻若しくは苔の発生等の付着防止および付着物の除去性向上用コーティング、光ファイバー用コーティング、水の染み込み防止用コーティング、送水抵抗や液だまりの軽減用コーティング、潤滑性の付与用コーティング、シーリング材用コーティング、手触り、風合いの向上用コーティング、各種添加剤の表面用コーティング、ガスバリア用コーティングが挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりの無い限り、以下の実施例の記載において「%」で表示されるものは「質量%」をあらわすものとする。各化合物の略称表記を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
[製造例1〜20]
表3に示す各化合物(a)と、化合物(b)とを、表4示す質量比で以下のとおり重合させ、重合体1〜20を含む重合組成物1〜20を得た。
100mlのガラス製のアンプル瓶に、総仕込み量が60gになるようにして、モノマーを全量で100質量部、開始剤としてジメチル2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオナート(V−601:和光純薬)を1質量部、溶剤としてメタキシレンヘキサフルオライド(m−XHF)を399質量部の比率で仕込み、70℃で18時間反応を行い、表4に示す共重合体1〜20を含む重合組成物1〜20を得た。
【0075】
[比較製造例1〜8]
上記製造例1において、化合物(b)を用いない以外は製造例1と同様にして、化合物(a)を単独重合させ、重合体21を含む重合組成物21を得た。
上記製造例5において、化合物(b)を用いない以外は製造例5と同様にして、化合物(a)を単独重合させ、重合体22を含む重合組成物22を得た。
上記製造例9において、化合物(b)を用いない以外は製造例9と同様にして、化合物(a)を単独重合させ、重合体23を含む重合組成物23を得た。
上記製造例13において、化合物(b)を用いない以外は製造例13と同様にして、化合物(a)を単独重合させ、重合体24を含む重合組成物24を得た。
上記製造例17において、化合物(b)を用いない以外は製造例17と同様にして、化合物(a)を単独重合させ、重合体25を含む重合組成物25を得た。
また、製造例5〜7において、それぞれ、化合物(b)を化合物(c)に代える以外は製造例5〜7と同様にして重合を行い、表4に示す重合体26〜28を含む重合組成物26〜28を得た。
【0076】
[重量平均分子量の測定]
上記各重合組成物を、m−XHFを用いて2%に希釈して測定サンプルとした。昭和電工株式会社製のShodexGPC−104を用いて、以下の測定条件で測定した。
重合体1〜28の重量平均分子量の測定結果を下記の表4に示す。
<GPC測定条件>
Separtion Column:LF−604×2
Default Column:KF600RH×2
Clean Liquid:AK−225
Flow Rate:0.2ml/min
標準物質:ポリメチルメタクリレート
【0077】
[重合体組成物の固形分濃度]
上記各重合体組成物を1g採取し、110℃で2時間乾燥させた後、固形分を秤量して固形分(共重合体)濃度(質量%)を求めた。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
[実施例1〜20]
表5に示す重合組成物1〜20について、それぞれをm−XHFを用いて0.1%に希釈し、コーティング組成物1〜20を得た。
【0080】
[比較例1〜8]
表5に示す重合組成物21〜28について、それぞれをm−XHFを用いて0.1%に希釈し、コーティング組成物21〜28を得た。
【0081】
[接触角の測定]
各実施例および比較例のコーティング組成物で処理(1分浸漬後、110℃で5分間乾燥)したガラス板に対して、水およびn−HD(ノルマルヘキサデカン)に対する接触角測定を行い撥水撥油性能を評価した。結果を表5に示した。接触角の測定には、協和界面科学社製の液滴式投影型接触角計を用いた。
【0082】
本発明のコーティング組成物は、比較例と比較して高い撥水撥油性能を有することが判る。
【0083】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表されるポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物の少なくとも1種と、
下記式(b)で表されるシラン含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種とから導かれる単位を含有する共重合体を含むコーティング組成物:
【化1】


式(a)および(b)中、
Q:単結合または2価連結基、
1:水素原子またはメチル基、
f:炭素−炭素結合間に挿入されたエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基、
2:ヒドロキシ基または加水分解可能な官能基、
3、R4:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の飽和アルキル基、フェニル基、n:1〜3の整数、
m、l:それぞれ独立して、0または1の整数、
ただし、(4−n−m−l)は1以上である。
【請求項2】
前記式(a)における前記ポリフルオロアルキル基がパーフルオロアルキル基である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記共重合体の前記シラン含有(メタ)アクリレートから導かれる単位の含有量が1〜50質量%である請求項1〜2のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記共重合体が、前記ポリフルオロアルキル基含有不飽和化合物および前記シラン含有(メタ)アクリレート以外の、非フッ素系不飽和化合物(c)から導かれる単位をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング組成物。

【公開番号】特開2007−284644(P2007−284644A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116726(P2006−116726)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】