説明

コーティング組成物

【課題】プラスチックレンズ基材の表面に、密着性、特に温水と接触しても優れた密着性を有し、且つ硬度が高く耐擦傷性にも優れた透明被膜(ハードコート層)を提供するコーティング組成物を提供する。
【解決手段】(A)無機酸化物微粒子100質量部に対して、(B1)エポキシ基、及び加水分解性基を有するエポキシ基含有ケイ素化合物を50質量部以上350質量部以下、(C)ケチミン基を有するケチミン基含有化合物を0.1質量部以上10質量部以下含むことを特徴とするハードコート層形成用コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズなどの光学基材の表面に施用するコーティング組成物に関するものである。中でも本発明は、ウレタン系樹脂、又は(メタ)アクリル系樹脂よりなるプラスチック基材表面に形成するハードコート層に適するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング組成物は、プラスチックレンズなどの光学基材の耐擦傷性を向上させるために、該光学基材の表面に塗布され、硬化させることにより、ハードコート層として用いられている。このようなコーティング組成物としては、透明性を維持し、且つ耐擦傷性の高い硬化体(ハードコート層)を与えることが望まれており、そのためにコロイド状に分散したシリカゾル等の無機酸化物微粒子、及びアルコキシシランなどの有機ケイ素化合物を含む組成物が使用されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0003】
一方、コーティング組成物が適用される光学基材の材料は、多種多様であるが、その中に(メタ)アクリル系樹脂やウレタン系樹脂がある。(メタ)アクリル系樹脂は、特にフォトクロミックレンズのマトリックスとして使用されることが多い。なお、本発明において、(メタ)アクリル系樹脂とは、アクリル系モノマー、及びメタアクリル系モノマー(以下、まとめて(メタ)アクリル系モノマーとする場合もある)を重合させて得られる樹脂を指す。
【0004】
フォトクロミックレンズとは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡であり、近年その需要は増大している。(メタ)アクリル系樹脂を用いたフォトクロミックレンズの製造方法としては、これまでに、(メタ)アクリル系モノマーにフォトクロミック化合物を溶解させそれを重合させることにより、直接、フォトクロミックレンズを得る方法(練り混み法)、フォトクロミック化合物、及び(メタ)アクリル系モノマーを含んでなる硬化性組成物(以下、フォトクロミックコーティング剤とも言う)を用いてプラスチックレンズの表面にフォトクロミック性を有する層(以下、フォトクロミックコート層ともいう)を設ける方法(コーティング法)が知られている。(メタ)アクリル系モノマーを使用することにより、得られるフォトクロミックレンズ中、又はフォトクロミックコート層中で、フォトクロミック化合物が運動し易くなるため、優れたフォトクロミック特性を発揮することができる。
【0005】
当然のことながら、上記のようなフォトクロミックレンズにおいても、表面にハードコート層が形成される。近年、このようなハードコート層に要求される性能は、(メタ)アクリル系樹脂、及びその他の樹脂からなる光学基材に使用される場合において、従来よりもより一層、高まっている。
【0006】
例えば、特許文献1〜3に示されているコーティング組成物を(メタ)アクリル系樹脂よりなる光学基材に使用した場合には、ハードコート層の密着性が十分ではない場合があり、さらに、耐擦傷性などの硬度が十分ではない場合もあり、改善の余地があった。
【0007】
また、特許文献4、及び5には、無機酸化物微粒子、有機ケイ素化合物、及び水の量を最適化し、(メタ)アクリル系樹脂層表面に、優れた密着性、硬度を有するハードコート形成用コーティング組成物が示されているが、これらコーティング組成物においても、以下の点で改善の余地があった。ハードコート層を有する光学物品は、その用途において温水と接触する場合がある。前記コーティング組成物を使用した場合には、温水と接触した際、形成されたハードコート層の一部が剥離することがあり、改善の余地があった(以下、温水と接触した後のハードコート層の密着性を耐熱水性とする場合がある。)。
【0008】
さらに、特許文献6には、硬化触媒を使用し、アリル系樹脂、及びチオウレタン系樹脂よりなる光学基材に適したハードコート層形成用コーティング組成物が示されているが、このコーティング組成物においても、以下の点で改善の余地があった。特許文献6には、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物の他、様々な有機ケイ素化合物を使用できることが示されている。しかしながら、本発明者等の検討によると、これらの組み合わせの中でも、特定のケイ素化合物を組み合わせ、しかも、それらを特定量使用しなければ、特に、耐熱水性と耐擦傷性に優れたハードコート層を形成できないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−111336号公報
【特許文献2】特表2001−520699号公報
【特許文献3】特表2002−543235号公報
【特許文献4】国際公開WO2007/086320号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2008/105306号パンフレット
【特許文献6】国際公開WO2005/097497号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、プラスチックレンズなどの光学基材に対する密着性と耐擦傷性に優れ、さらには、耐熱水性にも優れたハードコート層を形成できるコーティング組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、ウレタン系樹脂、特に(メタ)アクリル系樹脂よりなる光学基材のハードコート層に好適なコーティング組成物を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は、前記コーティング組成物を混合して得られるコーティング剤において、長期間の保存安定性に優れたコーティング剤を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、(A)無機酸化物微粒子、(B1)エポキシ基、及び加水分解性基を有するエポキシ基含有ケイ素化合物(以下、単に、エポキシ基含有ケイ素化合物とする場合もある。)に、さらに、特定量の(C)ケチミン基を有するケチミン化合物(以下、単に、ケチミン化合物とする場合もある。)を必須成分として含有するハードコート層形成用コーティング組成物とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、(A)無機酸化物微粒子、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物、及び(C)ケチミン化合物を含有するハードコート層形成用コーティング組成物であって、
(A)成分を100質量部として、(B1)成分を50質量部以上350質量部以下、(C)成分を0.1質量部以上10質量部以下含んでなることを特徴とするコーティング組成物である。
【0015】
また本発明は、(C)ケチミン化合物が、ケチミン基、及び加水分解性基を有するケチミン基含有ケイ素化合物(以下、単に、ケチミン基含有ケイ素化合物とする場合もある。)であることが好ましい。なお、本発明において、ケチミン基とは、
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Rは、有機基である。)で示される基である。
【0018】
本発明においては、さらに(B2)成分として、下記式(I)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、
は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Aは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物、及び下記式(II)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Bは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物を含み、
(A)成分を100質量部として、(B2)成分を10質量部以上150質量部以下含有することを特徴とするコーティング組成物であることが好ましい。(B2)成分を配合することにより、耐擦傷性を高めることができる。
【0023】
また、本発明は、上記コーティング組成物を混合して得られるコーティング剤の製造方法であって、(B1)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物と(C)成分を混合するコーティング剤の製造方法である。さらには、(B1)成分の加水分解物、(B2)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物と(C)成分を混合するコーティング剤の製造方法である。(B1)成分、(B2)成分を加水分解した後に(C)成分を混合することにより、コーティング剤を製造する際の安定性を高めることができる。
【0024】
さらに、本発明は、プラスチック製光学基材上に、上記コーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層を有する光学物品である。また、本発明は、該基材が、(メタ)アクリル系樹脂、又はウレタン系樹脂よりなる基材である場合に、優れた効果を発揮する。特に、該基材が、(メタ)アクリル系樹脂よりなり、さらにフォトクロミック化合物を含む基材である場合に、特に優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコーティング組成物は、プラスチックレンズなどの光学基材の表面に、密着性がよく、かつ優れた耐擦傷性を有するハードコート層を形成できる。特に、温水と接触しても剥離することが少ない、耐熱水性に優れるハードコート層を形成することができる。中でも、該光学基材がウレタン系樹脂、又は(メタ)アクリル系樹脂よりなる基材である場合に優れた効果を発揮し、特に、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリル系樹脂よりなる基材である場合に優れた効果を発揮する。
【0026】
本発明のコーティング組成物が、プラスチックレンズなどの光学基材に対して優れた密着性、特に、耐熱水性に優れる理由は、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物、及び(C)ケチミン化合物を特定量使用することにあると考えられる。(C)ケチミン化合物は、コーティング組成物を混合して得られるコーティング剤中において、そのケチミン基が加水分解されることによりアミノ基を生じる。該アミノ基は、プラスチック基材の表面に存在する官能基と反応し、また、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物のエポキシ基への付加反応にも関与するものと考えられる。その結果、形成されたハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性、特に、耐熱水性が高くなるものと考えられる。
【0027】
さらに、ケチミン化合物がケチミン基含有ケイ素化合物である場合には、以下のような作用機構により、より優れた効果を発揮するものと考えられる。ケチミン基含有ケイ素化合物を使用した場合、上記アミノ基の他、加水分解性基、例えば、アルコキシシリル基が加水分解されることによりシラノール基を生じる。該シラノール基は、ハードコート層中のその他のケイ素化合物と縮合したり、無機酸化物微粒子表面の水酸基と反応するものと考えられる。その結果、上記アミノ基の作用に加え、このシラノール基の作用も生じるため、ケチミン基含有ケイ素化合物を使用することにより、形成されたハードコート層とプラスチック基材との密着性、特に、耐熱水性をより向上できるものと考えられる。
【0028】
また、光学基材として(メタ)アクリル系樹脂を使用した場合には、上記作用に加えて、(メタ)アクリル系樹脂中に残存する(メタ)アクリロイル基と該アミノ基がマイケル付加反応により結合し、形成されたハードコート層が高い密着性、特に耐熱水性を発現すると考えられる。さらに、ウレタン系樹脂を使用した場合には、該アミノ基がウレタン結合部と、水素結合などの相互作用をすることために、高い密着性、特に体熱水性を発現すると考えられる。
【0029】
このように(C)ケチミン化合物は、ハードコート層と光学基材の両方に作用することができ、ハードコート層と光学基材の密着性、特に、耐熱水性を向上できるものと考えられる。
【0030】
本発明のコーティング組成物は、透明性が高く、優れた耐擦傷性を有するハードコート層を形成することができ、優れた密着性、特に耐熱水性を有する。そのため、本発明のコーティング組成物は、前記に説明した(メタ)アクリル系樹脂、又はウレタン系樹脂以外の樹脂からなる基材用のハードコート層形成用コーティング組成物としても、好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のコーティング組成物は、(A)無機酸化物微粒子、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物、さらに(C)ケチミン化合物を含んでなるコーティング組成物である。以下、各成分について説明する。
【0032】
<(A)無機酸化物微粒子:(A)成分>
本発明で使用する(A)無機酸化物微粒子は、公知のものを使用することができる。この(A)無機酸化物微粒子は、一種類の無機酸化物からなるもの、さらには二種類以上の無機酸化物を含んでなる複合無機酸化物微粒子であってもよい。
【0033】
この(A)無機酸化物微粒子は、形成されるハードコート層中に均一に分散させ得るという観点から、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒を分散媒として、コロイド状に(A)無機酸化物微粒子が分散したゾルの形態で使用される。なお、以下、この無機酸化物微粒子を単に(A)成分とする場合もある。
【0034】
前記分散媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、または水、およびこれらの混合溶媒を使用することができる。これらの中でも、アルコール溶媒、または水を使用することが好ましい。
【0035】
また、これらの分散媒を使用する場合、(A)無機酸化物の固形分濃度(ゾル中に含まれる(A)無機酸化物微粒子の濃度)は、分散状態の安定性、さらに得られるコーティング組成物の組成を調整しやすいという観点から、10〜45質量%であることが好ましい。
【0036】
(A)無機酸化物微粒子は、電子顕微鏡(TEM)により観察される1次粒子径が1〜300nm程度のものが好適に使用できる。
【0037】
このような(A)無機酸化物微粒子の使用量は、最終的に形成されるハードコート層に占める(A)無機酸化物微粒子の割合が好ましくは20質量%乃至70質量%、さらに好ましくは25質量%乃至60質量%となるような量に、他の成分の使用量に合わせて設定するのがよい。上記範囲を満足することにより、形成されるハードコート層は、硬度が高くなり、耐熱性に優れたものとなる。また、上記範囲を満足することにより、ハードコート層を形成しやすくなり、コーティング剤の硬化時にクラックを低減することもできる
本発明における(A)無機酸化物微粒子は、特に制限されるものではなく、Si、Al、Fe、In、Zr、Sn、Sb、Ti及びWから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物からなる酸化物微粒子が挙げられる。中でも、Si、Zr、Sn、Sb及びTiから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物からなる酸化物微粒子が好ましい。具体的には、酸化ケイ素微粒子(シリカ微粒子)、五酸化アンチモン微粒子、または前記元素の酸化物を複数含む複合無機酸化物微粒子であってもよく、その使用用途に応じて、含まれる酸化物の割合を適宜決定してやればよい。
【0038】
例えば、屈折率が1.50以下の低屈折率プラスチックレンズ基材に適用する場合には、シリカ微粒子を使用してやればよい。このシリカ微粒子は特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒に分散した状態のもので、固形分濃度が10質量%乃至45質量%、1次粒子径が1〜300nmのものを使用することが好ましい。これらシリカ微粒子は、市販のものを使用することができる。このシリカ微粒子としては、日産化学工業(株)より販売されている、スノーテックスOXS、スノーテックスOS、スノーテックスO、スノーテックスO−40等の水を分散媒とするシリカゾル、MA−ST−MS(分散媒;メタノール)、IPA−ST(分散媒;イソプロパノール)等のアルコールを分散媒とするシリカゾルを使用することができる。
【0039】
また、屈折率が1.50を超える高屈折率プラスチックレンズ基材に適用する場合には、酸化アンチモン微粒子、又は前記元素の酸化物を複数含む複合無機酸化物微粒子を使用することができる。中でも、高屈折率プラスチックレンズ基材に適用する場合には、Si、Zr、Sn、Sb、及びTiの酸化物からなる複合無機酸化物微粒子を使用することが好ましい。この複合無機酸化物微粒子を使用する場合、各成分の配合割合は、使用する用途に応じて適宜決定すればよいが、酸化スズを50質量%乃至96質量%、酸化ジルコニウムを3質量%乃至49質量%、酸化アンチモンを1質量%乃至29.9質量%、酸化ケイ素を0.1質量%乃至29質量%を満足することが好ましい。また、酸化アンチモン微粒子、複合無機酸化物微粒子ともに、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒に分散させた状態のもので、固形分濃度が10質量%乃至45質量%、1次粒子径が1〜300nmのものを使用することが好ましい。これら第一無機酸化物微粒子(A2)は、市販のものを使用することができ、具体的には、日産化学工業(株)製AMT−332S・NV(分散媒;メタノール)等の五酸化アンチモンゾル、酸化ジルコニウムや酸化スズの複合無機酸化物微粒子であるHXシリーズ(分散媒;メタノール)等が好適に使用できる。
【0040】
次に、(B1)エポキシ基、及び加水分解性基を有するエポキシ基含有ケイ素化合物(エポキシ基含有ケイ素化合物)について説明する。
【0041】
<(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物>
本発明のコーティング組成物における(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物は、コーティング剤を硬化してハードコート層を形成したときにマトリックスとなる透明な硬化体を形成する成分であり、前記(A)無機酸化物微粒子のバインダーとしての機能を有するものである。なお、以下、この(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物を単に(B1)成分とする場合もある。
【0042】
本発明の(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物は、分子内にエポキシ基を含有し、アルコキシシリル基のような加水分解性基(アルコキシ基がSi原子に結合した基)を有する有機ケイ素化合物である。このエポキシ基含有ケイ素化合物は、プラスチックレンズなどの光学基材に対するハードコート層の密着性を高める作用を有する。
【0043】
(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物としては、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有し、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物であれば、特に制限無く使用できるが、前記効果の観点から好適な化合物を具体的に例示すると、下記式(III)で示されるケイ素化合物を使用することが好ましい。
【0044】
【化4】

【0045】
式中、Rは、下記式
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、R11は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基、又は下記式
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、R12は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
10は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Cは、0〜2の整数である。
【0050】
は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、特に、メチル基、エチル基が好ましい。Rが複数存在する場合には、互いに同じ基であっても、それぞれ異なる基であってもよい。ただし、反応性、密着性、耐擦傷性の点から考慮すると、Cは、0又は1であることが好ましい。
【0051】
10は、Rと同じく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、特に、メチル基、エチル基が好ましい。R10が複数存在する場合には、互いに同じ基であっても、それぞれ異なる基であってもよい。
【0052】
11、及びR12は、炭素数1〜8のアルキレン基であり、直鎖状であっても、分岐状のものであってもよい。中でも、炭素数2〜3の直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0053】
このような前記式(III)で示される(B1)成分としては、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、又はβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を使用することもできる。これらの中でも、形成されるハードコート層におけるプラスチック製光学基材との密着性、耐擦傷性を考慮すると、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを使用するのが好適である。なお、このγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランも、単独で使用することもできるし、これらを混合して使用することができる。γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GTSとする場合もある)は単独で使用しても優れた効果を発揮するが、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(以下、GDSとする場合もある)と併用して使用する場合には、GDSに対するGTSの質量比(GTS/GDS)が2.0以上10.0以下となるようにすることが好ましい。
【0054】
なお、(B1)成分として、1種類のエポキシ基含有ケイ素化合物を使用する場合には、そのエポキシ含有ケイ素化合物の質量が、下記に詳述する(B1)成分の配合量となる。また、2種類以上のエポキシ基含有ケイ素化合物を使用する場合には、それらの合計量が(B1)成分の配合量に該当する。
【0055】
次に、(B1)成分の配合量について説明する。
【0056】
((B1)成分の配合量)
本発明において、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物の配合量は、前記(A)無機酸化物微粒子の配合量を100質量部として、50質量部以上350質量部以下である。(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物が50質量部未満の場合には、形成されるハードコート層の耐熱性、密着性が低下し、さらには柔軟性が低下し、ハードコート層自身が脆くなるため好ましくない。一方、350質量部を超える場合には、ハードコート層の硬度が低下し、耐擦傷性が低下するため好ましくない。形成されるハードコート層の硬度、耐熱性、柔軟性、等を考慮すると、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物の配合量は、80質量部以上300質量部以下が好ましい。
【0057】
なお、この(B1)成分の配合量は、加水分解性基、例えば、アルコキシシリル基が加水分解されていない(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物の量である。
【0058】
次に、(C)ケチミン基を有するケチミン化合物(ケチミン化合物)について説明する。
【0059】
<(C)ケチミン化合物>
本発明において、(C)ケチミン化合物は、形成されるハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性をより向上させる効果を発揮するものと考えられる。この密着性は、ハードコート層を形成した直後の密着性だけでなく、長期間の実使用を加味した耐候性試験後の密着性をも含まれる。(以下、この密着性を耐候性とする場合もある)。さらには、(C)成分を使用することにより、温水と接触させた後の密着性(耐熱水性)をも改善することができる。
【0060】
本発明において、(C)ケチミン化合物とは、アミンの第一級アミノ基をケトンでブロックして得られる、前記ケチミン基を分子内に少なくとも1つ有する化合物である。(C)ケチミン化合物が、優れた効果を発揮する理由は、以下のように推定している。ケチミン化合物を使用した場合、コーティング剤中で、ケチミン基が加水分解しアミノ基(−NH)が生じ、これにより、プラスチック製光学基材へのハードコート層の密着性が向上すると考えられる。該アミノ基は、アルカリ処理などの前処理などで活性化されたプラスチック製光学基材の表面に生じる官能基や、該基材中の(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、イソシアネート基などと反応したり、該基材中のウレタン結合やカーボネート結合との水素結合に関与するものと考えられる。また、該アミノ基は、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物のエポキシ基の付加反応にも関与するものと考えられる。このエポキシ基への付加反応で生じる水酸基やアミノ基の効果により、プラスチック製光学基材との結合や相互作用を強くすることができるため、ハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性、特に、耐熱水性を高くするものと推定される。
【0061】
さらに、前記ケチミン化合物の中でも、ケチミン基、及び加水分解性基を有するケチミン基含有ケイ素化合物(ケチミン基含有ケイ素化合物)である場合には、上記アミノ基の作用に加えて、以下の作用が生じるため、特に優れた効果を発揮するものと考えられる。ケチミン基含有ケイ素化合物を使用した場合、コーティング剤中にケチミン基が加水分解しアミノ基(−NH)が生じるだけでなく、加水分解性基、例えば、アルコキシシリル基が加水分解しシラノール基が生じる。これら2つの官能基が生成することにより、プラスチック製光学基材とハードコート層との密着性が、より一層向上するものと考えられる。該シラノール基は、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物等のケイ素化合物から生じるシラノール基と縮合反応したり、(A)成分の表面のシラノール基と反応して架橋体(硬化体)を形成する。一方、アミノ基は、上記の通り、作用するものと考えられる。その結果、ケチミン基含有ケイ素化合物は、ハードコート層を形成する架橋体の一部となり、さらに、プラスチック製光学基材との結合を強くすることができるため、より一層ハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性、特に、耐熱水性を高くするものと推定される。中でも、プラスチック製光学基材として(メタ)アクリル系樹脂を使用した場合、該樹脂中の(メタ)アクリロイル基とアミノ基がマイケル付加反応を起こすものと推定されるが、特に優れた密着性を達成することができる。
【0062】
なお、上記理由から、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有する有機ケイ素化合物も、プラスチック製光学基材と形成されるハードコート層の密着性向上に効果はあるが、下記の理由により好適ではない。
【0063】
例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシランのように、一級アミノ基を元々有する化合物は、その塩基性が強いため、局所的に有機ケイ素化合物の加水分解が進むものと考えられる。その結果、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを使用した場合、得られるコーティング剤は、有機ケイ素化合物のゲル状物質が原因と考えられる白濁や、ブツが生じ易くなり、形成されるハードコート層の外観不良を生じると共に、硬度の低下を招くおそれがある。一方、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランは、アミノ基の塩基性が弱いために、密着性を向上させるためにはその添加量を多くしなければならない。その結果、形成されるハードコート層は、硬度が低下する傾向にある。
【0064】
本発明において、加水分解性基を有さない(C)ケチミン化合物としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、m―キシリレンジアミン、エチレンジアミンなどのアミン化合物と、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトンといったケトン化合物との反応によって製造された化合物が挙げられる。
【0065】
また、本発明において、ケチミン基含有ケイ素化合物としては、下記式(IV)で示される化合物が好適に用いられる。
【0066】
【化7】

【0067】
前記式(IV)において、R13、R14、R16及びR17は、炭素数1〜5のアルキル基であり、R15は、炭素数1〜10のアルキレン基であり、Xは、2または3の整数である。
【0068】
13、R14、R16及びR17としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0069】
15は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基などが挙げられ、中でも、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基が好ましい。
【0070】
また、Xは、より架橋性の高いハードコート層を形成できるという観点から、3が好ましい。
【0071】
前記式(IV)で示される3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−メチルジエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−メチルジメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリエトキシシリル−N−(1,2−ジメチル−プロピリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プロピリデン)プロピルアミン、3−メチルジエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プロピリデン)プロピルアミン、3−メチルジメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プロピリデン)プロピルアミンなどのケチミン基含有ケイ素化合物が挙げられる。これらの中でも、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンが好ましい。これらケチミン基含有ケイ素化合物は、市販のものを使用することができ、具体的には、信越化学社製 商品名「KBE−9103」などが挙げられる。
【0072】
なお、(C)ケチミン化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上のものを使用することもできる。
【0073】
次に、(C)ケチミン化合物の配合量について説明する。
【0074】
((C)成分の配合量)
本発明において、(C)ケチミン化合物の配合量は、前記(A)無機酸化物微粒子の配合量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である。(C)ケチミン基含有化合物の配合量が0.1質量部未満の場合には、形成されるハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性、特に耐熱水性の向上効果が十分ではないため好ましくない。一方、10質量部を超える場合には、形成されるハードコート層の硬度が低下するため、十分な耐擦傷性を発揮できないため好ましくない。形成されるハードコート層の硬度、密着性のバランスを考慮すると、(C)ケチミン基含有化合物の配合量は、0.2質量部以上8質量部以下がより好ましく、さらに0.4質量部以上5.5質量部以下であることが好ましい。
【0075】
なお、複数種類のケチミン化合物を使用する場合には、ケチミン化合物の合計量が上記範囲を満足すればよい。また、(C)成分の配合量は、ケチミン化合物がケチミン基含有ケイ素化合物である場合には、加水分解性基、例えば、アルコキシシリル基が加水分解されていないケチミン基含有ケイ素化合物の量である。
【0076】
本発明のコーティング組成物は、前記(A)成分、(B1)成分、及び(C)成分を必須成分として含むものであればよく、その他の成分を配合することもできる。以下、その他の成分について説明する。先ず、(B1)成分、(C)成分のケチミン基含有ケイ素化合物以外に配合できる好適な(B2)ケイ素化合物について説明する。
【0077】
<(B2)ケイ素化合物>
本発明のコーティング組成物には、形成されるハードコート層の硬度を向上させる目的で、前記(B1)成分、(C)成分のケチミン基含有ケイ素化合物以外の(B2)ケイ素化合物を配合することができる。
【0078】
本発明で使用される(B2)成分としては、下記式(I)
【0079】
【化8】

【0080】
(式中、
は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Aは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物、及び下記式(II)
【0081】
【化9】

【0082】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Bは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物であることが好ましい。
【0083】
前記式(I)で示されるケイ素化合物において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。中でも、メチル基、エチル基が好ましい。また、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、メチル基、またはエチル基が好ましい。さらに、加水分解性基が多い方が、硬度が高くなる傾向にあるため、Aは、0又は1であることが好ましい。
【0084】
前記式(II)で示されるケイ素化合物において、Rは、直鎖状、または分岐状のアルキレン基であってもよく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基が挙げられ、特に、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい。R、及びRは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。また、R、及びRは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0085】
前記式(I)及び(II)で示される化合物を具体的に示せば、テトラエトキシシランのようなテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランなどのメチルトリアルコキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジエトキシメチルシリル)ヘキサン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、1−(トリエトキシシリル)−2−(ジエトキシメチルシリル)エタンなどを挙げることができる。特に、ハードコート層の硬度をより向上させるという観点から、加水分解性基を3つ以上有するケイ素化合物であることが好ましく、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタンなどが好適に用いられる。前記式(I)及び(II)で示される化合物は、単独で使用することもできるし、2種以上のものをすることもできる。
【0086】
((B2)成分の配合量)
本発明における(B2)成分の配合量としては、(A)成分を100質量部として、10質量部以上150質量部以下であることが好ましい。(B2)成分の配合量が、上記範囲を満足することにより、形成されるハードコート層の硬度を向上することができ、さらには、コーティング剤が硬化する際に生じるクラックを低減することができる。形成されるハードコート層の硬度、クラック抑制などの観点を考慮すると、(B2)成分の配合量は、20質量部以上120質量部以下であることがより好ましい。
【0087】
なお、複数種類の(B2)成分を使用する場合には、合計量が上記範囲を満足すればよい。また、この(B2)成分の配合量は、加水分解されていない(B2)成分の量である。
【0088】
次に、本発明のコーティング組成物に配合できるその他の成分について説明する。本発明のコーティング組成物には、通常のコーティング組成物に使用される公知のその他の成分、具体的には、水、硬化触媒、水溶性有機溶媒、添加剤等を配合できる。先ず、水について説明する。
【0089】
(水)
本発明のコーティング組成物には、水を配合することができる。本発明のコーティング組成物では、前記(B1)、及び必要に応じて配合される(B2)成分が加水分解し、この加水分解物が(A)成分を取り込んだ形で重合硬化(重縮合)してマトリックスとなる硬化体を形成し、(A)成分が緻密にマトリックス中に分散したハードコート層を形成する。このコート層を形成するためには、(B1)、(B2)成分の加水分解を促進させるために、水を配合することが好ましい。
【0090】
このような水の配合量は、本発明で使用する(B1)、及び(B2)成分の合計質量100質量部当り、好ましくは10質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは15質量部以上90質量部以下、特に好ましくは15質量部以上80質量部以下である。なお、(B2)成分を使用しない場合には、前記水の配合量は、(B1)成分のみの量を100質量部とする。また、前記水の配合量は、(B1)、(B2)成分が加水分解されていない状態のものを基準とする。
【0091】
つまり、水の量が少なすぎると、(B1)、(B2)成分の加水分解が十分に進行せず、得られるハードコート層の耐擦傷性が低下する傾向にあり、また、得られるコーティング剤の保存安定等の特性が低下するおそれがある。また、水の量が多くなりすぎると、均一な厚みのハードコート層の形成が困難となり、光学特性に悪影響を与えるおそれがある。なお、(C)成分がケチミン基含有ケイ素化合物である場合、この(C)成分も加水分解されるが、(C)成分は、(B1)成分の配合量に比べて少ない量であるため、上記水の配合量で十分に加水分解することができる。
【0092】
既に述べた通り、前記(A)成分は、水に分散させた分散液(ゾル)の形態で使用されることがある。このような場合には、前記水の配合量は、この分散媒に使用されている水の量を含むものとする。例えば、(A)成分を使用する際に、分散液に含まれる水の量が、前記水の量の範囲を満足している場合には、さらに水をコーティング組成物に混合する必要ない。また、前記水の量の範囲に満たない場合には、さらに水を混合してやればよい。
【0093】
また、ここで使用される水は、(B1)、(B2)成分の加水分解を促進するため、酸水溶液とすることもできる。この場合、酸分は少ないため、酸水溶液の量を水の配合量とすることができる。酸水溶液を具体的に例示すれば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、または酢酸、プロピオン酸等の有機酸の水溶液を使用できる。これらの中でも、コーティング組成物の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸及び酢酸が好適に使用される。また、酸水溶液の濃度は、0.001〜0.5N、特に0.01〜0.1Nであるのが好適である。
【0094】
なお、水と散水溶液の両方を使用する場合には、水と酸水溶液との合計質量が、前記水の配合量を満足すればよい。
【0095】
次に、硬化触媒について説明する。
【0096】
(硬化触媒)
本発明のコーティング組成物には、下記の硬化触媒を配合することもできる。硬化触媒は、前記(B1)成分、(C)ケチミン基含有ケイ素化合物、及び必要に応じて配合する(B2)成分の加水分解物の縮合(重合硬化)を促進させるために使用される。具体的には、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩、有機金属塩、各種ルイス酸が使用され、これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。これら硬化触媒を使用することにより、ハードコート層をより硬くすることができる。
【0097】
アセチルアセトナート錯体としては、例えば特開平11−119001号公報に記されているもの、具体的には、アルミニウムアセチルアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、インジウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、ニッケルアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。これらの中では、アルミニウムアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナートが好適である。
【0098】
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等を例示することができる。
【0099】
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛等を例示することができる。
【0100】
ルイス酸としては、塩化第二錫、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等を例示することができる。
【0101】
本発明においては、比較的低温でも短時間で耐擦傷性の高いハードコート層が得られ、コーティング組成物の保存安定性が優れるという観点から、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩を使用することが好適である。中でも、硬化触媒の50質量%以上、特に70質量%以上、最適には硬化触媒の全量が、アセチルアセトナート錯体、または過塩素酸塩であることが好ましい。
【0102】
前記硬化触媒は、より硬いハードコート層を得るという観点から、前記(A)成分の配合量100質量部当たり、0.5質量部以上15質量部以下、特に1質量部以上13質量部以下の範囲の量で使用されることが好ましい。なお、2種類以上硬化触媒を使用する場合には、合計量が前記範囲を満足すればよい。
【0103】
次に、水溶性有機溶媒について説明する。
【0104】
(水溶性有機溶媒)
本発明のコーティング組成物には、水溶性有機溶媒を添加することも可能である。本発明において、水溶性有機溶媒とは、水に対する25℃における溶解度が10質量%以上、好ましくは50質量%以上の有機溶媒を指す。
【0105】
水溶性有機溶媒は、(B1)成分、(C)成分、及び必要応じて配合する(B2)成分の溶剤となり、且つ(A)成分の分散媒となるものである。このような水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸メチル等の低級カルボン酸の低級アルコールエステル類;セロソルブ、ジオキサン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類が挙げられる。これら有機溶媒は単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
【0106】
これら水溶性有機溶媒の中でも、コーティング剤を塗布して硬化させる際に、容易に蒸発し、平滑なハードコート層が形成されるという観点から、特にメタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、アセチルアセトンを使用するのが好ましい。また、このような水溶性有機溶媒の一部は、先に述べたように、(A)成分の分散媒として、予め無機酸化物微粒子と混合しておくこともできる。
【0107】
水溶性有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、保存安定性と十分な耐擦傷性を得るために、前記(A)成分の配合量100質量部当たり、好ましくは200質量部以上1000質量部以下、より好ましくは250質量部以上800質量部以下の範囲とすることが好ましい。なお、前記水溶性有機溶媒の配合量は、(B1前記)、(C)ケチミン基含有ケイ素化合物、及び(B2)成分が加水分解して生じたアルコールは含まない量である。また、2種類以上の水溶性有機溶媒を使用する場合には、合計量が前記範囲を満足すればよい。
【0108】
次に、その他の添加剤について説明する。
【0109】
(その他の添加剤成分)
本発明のコーティング組成物には、ハードコート層とプラスチックレンズ基材との密着性を向上、安定させる目的で環状ケトン化合物を添加することもできる。具体的には、N−メチルピロリドン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン、1−ビニル−2−ピロリドン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。これら環状ケトン化合物の配合量は、(A)成分の配合量100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。
【0110】
また、本発明で使用されるコーティング組成物には、プラスチックレンズ基材とハードコート層との密着性を向上させる目的で、4級アンモニウム塩を添加することもできる。4級アンモニウム塩を添加することにより、上記のような効果が得られる作用機構は明確ではないが、4級アンモニウム塩が(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物のエポキシ基の反応を促進する反応触媒としての機能、及び界面活性剤としての機能を有することから、このような機能に起因して密着性が向上するものと考えられる。
【0111】
4級アンモニウム塩としては、窒素に炭素数1〜4のアルキル基が置換したものが好ましく、対イオンとしてハロゲン原子を有するものが好ましい。このような4級アンモニウム塩を具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、ジメチルジイソプロピルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムアセテート、テトライソプロピルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。その中でも、入手の容易さ、及び密着性の向上効果の観点から、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドが好適に用いられる。
【0112】
この4級アンモニウム塩を使用する際の配合量は、(A)成分の配合量100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下とすることが好ましい。配合量としては、コーティング組成物中に微量含まれていればよく、1質量部を超える場合には、ハードコート層の白化を生じる場合があり好ましくない。
【0113】
また、本発明の目的を損なわない限り、通常、コーティング組成物に配合されるその他の添加剤を配合することができる。このような添加剤の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等を挙げることができる。
【0114】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、プラスチックレンズ基材への濡れ性の観点からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、(A)無機酸化物微粒子の配合量100質量部当たり、0.01〜2.0質量部の範囲が好ましい。
【0115】
また、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これらの配合剤の添加量は、(A)無機酸化物微粒子の配合量100質量部当たり、0.1〜2質量部の範囲が好ましい。
【0116】
染料、顔料は、着色のために使用されるものであり、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンゾアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、ペリノン系染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴイド系顔料、トリフェニルメタン系顔料、キサンテン系顔料等を挙げることができる。染料、顔料の使用に当たっては、着色すべき基材の色濃度によって、適宜決定される。
【0117】
次に、上記成分を含むコーティング組成物を混合して、コーティング剤を製造する方法について説明する。
【0118】
<コーティング剤の製造方法>
本発明において、前記コーティング組成物から得られるコーティング剤は、所定量の各成分を秤取り混合することにより製造することができる。各成分の混合順序は、特に限定されず、全ての成分を同時に混合することもできるが、調合初期から長期にわたる安定した物性が得られるコーティング剤とするためには、以下の方法を採用することが好ましい。
【0119】
つまり、(B1)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物と(C)成分を混合する方法を採用することが好ましい。
【0120】
先ず、(B1)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物は、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物を水、又は酸水溶液などにより加水分解した後に(A)無機酸化物微粒子を混合するか、(A)無機酸化物微粒子の水分散体と(B1)成分とを混合し、(B1)成分を加水分解と両成分の混合を同時に行うことにより得ることできる。この(B1)成分の加水分解物と(A)成分の混合物を得る際には、ハードコート層の物性に悪影響を与えず、且つ得られたコーティング剤の保存安定性を低下させないようにするため、10〜40℃の温度で5〜72時間混合を行うことが好ましい。この条件であれば、(B1)成分を十分に加水分解できる。(B1)成分の加水分解の終了は、加水分解時に生じるアルコール量を確認してやれればよい。
【0121】
次いで、上記混合物と(C)成分を混合することにより、コーティング剤を製造することが好ましい。この際、(B1)成分の加水分解が十分に行われておらず、また(A)成分と(B1)成分の混合・反応が不十分な場合には、白濁や沈降物を生じる場合がある。この理由は明らかではないが、(C)成分の加水分解により生じるアミノ基が(B1)成分の加水分解により生じるシラノール基の縮合を、局所的に一気に促進するため、高分子量成分が容易に生成することが原因と推定している。そのため、(B1)成分が加水分解された後、(C)成分を混合することにより、コーティング剤製造時の安定性を高めることができる。なお、(B2)成分を使用する場合には、(B1)成分と同じタイミングで加水分解してやればよい。
【0122】
また、本発明で必要に応じて添加される水、硬化触媒、水溶性有機溶剤、及びその他添加剤を混合する順序は、特に限定されず、全ての成分を同時に混合することもできるが、水については、(B1)成分、(B2)成分を加水分解する際に混合することが好ましい。水溶性有機溶剤、及びその他添加剤については、(B1)成分、(B2)成分を加水分解する前後に混合することもできるし、又は(B1)成分の加水分解物と(A)成分との混合物に混合することもできる。また、硬化触媒は、(B1)成分、(B2)成分の加水分解後に混合されるのが好ましい。さらに、(C)成分は、上記成分全てを混合した後に、混合されることが最も好ましい。
【0123】
以上のような方法を採用することにより、ハードコート層の物性に悪影響を与えず、且つコーティング剤自体の安定性も向上させることができる。
【0124】
このように混合して得られるコーティング剤は、特に制限されるものではないが、固形分濃度が、コーティング剤の全質量中、15〜50質量%、好適には20〜40質量%にすることが好ましい。
【0125】
次に、得られたコーティング剤を塗布するプラスチックレンズなどの光学基材について説明する。
【0126】
<プラスチック製光学基材>
本発明のコーティング組成物は、眼鏡レンズ、カメラレンズ、液晶ディスプレーなどの表面へのハードコート層の形成に適用されるが、中でも眼鏡レンズの用途に好適に使用される。
【0127】
また、眼鏡レンズなどのプラスチックレンズに使用されるプラスチックの種類は、特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等、公知の樹脂を挙げることができる。本発明のコーティング組成物は、前述の樹脂表面に形成するハードコート層になんら制限なく適用できる
本発明のコーティング組成物より得られるコーティング剤は、特に、(メタ)アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂との密着性をより向上させることが出来る。その理由は前述のように、本発明で添加する(C)ケチミン化合物が加水分解して生じるアミノ基が、アルカリ処理などの前処理などで活性化されたプラスチックレンズ基材表面に生じる官能基と反応することにより、高い密着性が得られると推定している。特に、(メタ)アクリル系樹脂を含むプラスチック製光学基材に対しては、(メタ)アクリル系樹脂中に残存する(メタ)アクリロイル基と(C)成分から生じるアミノ基がマイケル付加反応により結合することで、高い密着性を発現すると考えられる。
【0128】
次に、この(メタ)アクリル系樹脂よりなる光学基材について説明する。
【0129】
((メタ)アクリル系樹脂)
本発明のコーティング組成物は、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリル系樹脂よりなるプラスチック製光学基材上のハードコート層を好適に形成できる。
【0130】
従来、(メタ)アクリル系樹脂に対しては、ハードコート層が密着しにくいことが知られている。従来技術としては、ハードコート層の密着性を向上させるために、(メタ)アクリル系樹脂中に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、やγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどを添加する手法が知られている。しかし、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを添加すると、得られるプラスチック製光学基材の吸湿性が増加し、レンズ基材の長期保存安定性などの問題が生じる。また、グリシジルメタクリレートを、フォトクロミック化合物(特にクロメン化合物)を含む(メタ)アクリル系樹脂に添加すると、フォトクロミック化合物と相互作用し、プラスチックレンズ基材を着色するといった問題が生じる場合がある。さらに、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを添加した場合には、ガラスモールド内で得られた(メタ)アクリル系樹脂の硬化体を離型する際に、ガラスモールドから剥しにくく、ガラスモールドや(メタ)アクリル系樹脂の硬化体に割れなどが生じるといった問題点がある。本発明のコーティング組成物は、(メタ)アクリル系樹脂中に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、及びγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランといったコーティング組成物の密着性を向上させる成分を、全く含まないプラスチックレンズ基材に対しても好適に用いることができる。
【0131】
本発明において使用する(メタ)アクリル系樹脂は、特に制限されるものではないが、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート、及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂であることが好適である。これらの(メタ)アクリレート化合物を含有することにより、フォトクロミック化合物が共存する際に、フォトクロミック化合物が構造変化しやすい自由空間が多く存在するため、発色濃度が高く、退色速度が速いフォトクロミックレンズを提供することが出来る。
【0132】
このような3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートを具体的に例示すれば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートが挙げられる。また、繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートとしては、平均分子量536のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量736のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量536のポリプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量258のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量308のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量272のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、平均分子量536のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、2,2−ビス[4−メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0133】
さらに、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート、及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物には、他の重合性単量体を加えてもよく、たとえば、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリレートを加えることもできる。
【0134】
上記のフォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズ基材(フォトクロミックレンズ基材)は、フォトクロミック化合物が基材内部に分散され、或いは基材表面にフォトクロミック化合物が分散されたフォトクロミックコート層が形成されたものであってもよい。より具体的には、本発明のコーティング組成物は、上記(メタ)アクレート系モノマーとフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を練り込み法でフォトクロミックレンズとしたもののハードコート層の形成に好適に使用できる。また、プラスチックレンズ基材の表面に、上記(メタ)アクレート系モノマーとフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を塗布し、次いで、硬化させてフォトクロミックコート層を形成したもののハードコート層の形成にも好適に使用できる。
【0135】
次に、ウレタン系樹脂よりなる光学基材について説明する。
【0136】
(ウレタン系樹脂)
また、本発明のコーティング組成物より得られるコーティング剤は、ウレタン系樹脂に対しても優れた密着性を有する。その理由としては、ウレタン系樹脂に含まれるウレタン結合部と、(C)成分の加水分解により生じたアミノ基が水素結合などの相互作用をすることにより、高い密着性を発現すると推定している。
【0137】
本発明で使用されるウレタン系樹脂は、チオール化合物とイソシアネート化合物とを反応させて得られる。チオール化合物としては、例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、プロパントリス(2−メルカプトアセテート)、1,3−プロパンジチオール、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ペタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)プロパン、2−メルカプトエタノール、2,3−ジメルカプトプロパノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、ジ(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、トリス(メルカプトメチル)イソシアヌレート、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、4−メルカプトフェノール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3−ジメルカプトメチルベンゼン、1,4−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、ビスメルカプトエチルスルフィド、1,2−ビス{(2−メルカプトエチル)チオ}−3−メルカプトプロパン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、テトラキス(メルカプトエチルチオメチル)メタン等が挙げられる。
【0138】
イソシアネート化合物としては、例えば、メチレンジフェニルジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,2−ジイソシアナートベンゼン、1,3−ジイソシアナートベンゼン、1,4−ジイソシアナートベンゼン、1,2−ジイソシアナートメチルベンゼン、1,3−ジイソシアナートメチルベンゼン、1,4−ジイソシアナートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナートメチルシクロヘキサン等を挙げることが出来る。
【0139】
本発明のコーティング組成物は、前記チオール化合物とイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレタン系樹脂よりなる光学基材に好適使用できる。
【0140】
次に、プラスチックレンズなどの光学基材上に、前記方法で得られたコーティング剤を塗布し、ハードコート層を有する光学物品の製造方法について説明する。
【0141】
<光学物品の製造方法、光学物品>
上記のようにして製造されるコーティング剤は、必要に応じて異物を取り除くための濾過を行った後、プラスチックレンズ基材の表面に塗布され、乾燥後、硬化することによりハードコート層を形成する。なお、プラスチック製光学基材は、種々の表面処理が施されたものであってもよい。このような表面処理としては、例えば、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマおよび低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理等を挙げることができる。
【0142】
コーティング剤の塗布は、ディッピング法、スピンコート法、ディップスピンコーティング法、スプレー法、刷毛塗りあるいはローラー塗りなどを採用できる。
【0143】
塗布後の乾燥は、最初に60〜80℃で5〜30分程度の予備硬化を行い、その後、基材によって異なるが、90℃〜120℃の温度で1〜3時間程度の硬化を行うのがよい。特に、本発明のコーティング組成物より得られるコーティング剤は、優れた密着性を発揮するため、予備硬化後の温度を比較的低温にすることもできる。具体的には、予備硬化後の温度を95〜115℃、さらに100〜110℃とすることも可能である。このように比較的低温で硬化させることができるため、プラスチックレンズの黄変や、熱変形を防止することが可能である。
【0144】
上記のようにして形成されるハードコート層は、0.1〜10μm程度の厚みとすればよく、一般に、メガネレンズでは1〜5μmの厚みが好適である。上記方法を採用することにより、プラスチックレンズ基材上に、ハードコート層が形成された光学物品を得ることができる。
【0145】
本発明のコーティング組成物によれば、優れた耐擦傷性を有するハードコート層を与えるばかりでなく、長期間使用してもハードコート層の剥離などの外観不良を防止することができる。
【0146】
本発明のプラスチックレンズ基材においては、ハードコート層上に、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物から成る薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止膜を形成してもよい。また、プラスチックレンズ基材とハードコート層のとの間に、ウレタンプライマー等の耐衝撃性プライマーを施しても良い。さらには、反射防止膜上に、帯電防止処理、撥水処理および防曇処理等の加工及び2次処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0147】
以下、実施例および比較例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0148】
本実施例で使用した光学基材(レンズ基材)、各成分について説明する。
【0149】
(1)プラスチック製光学基材(レンズ基材)
CR:アリル樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.50
MRA:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60
MRB:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.67
また、以下に示すフォトクロミック光学基材も使用した。
【0150】
MA1:メタクリル系樹脂プラスチックレンズ
〔MA1の作製方法〕
ラジカル重合性単量体である平均分子量328のポリプロピレングリコールジメタクリレート 43質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート 10質量部、平均分子量394のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート 5質量部、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート 16質量部、グリシジルメタクリレート 1質量部、α―メチルスチレンダイマー 1質量部、ウレタンアクリレート(ダイセル化学工業製EBECRYL4858) 25質量部を原料とする重合性組成物を調製し、該重合性組成物100質量部に対し、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート 0.1質量部、フォトクロミック化合物(1)を0.03質量部、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカネート1.0質量部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1質量部を添加してよく混合し、フォトクロミック重合硬化性組成物を調製した。次いで、得られた該組成物をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、33℃から90℃まで17時間かけて徐々に昇温した後、90℃で2時間保持した。重合終了後、鋳型を空気炉から取り出し、放冷後、硬化体を鋳型のガラスから取り外し、その後オーブンに入れ110℃で3時間加熱した。
【0151】
【化10】

【0152】
MA2:メタクリル系樹脂プラスチックレンズ
〔MA2の作製方法〕
ラジカル重合性単量体である平均分子量328のポリプロピレングリコールジメタクリレート 43質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート 10質量部、平均分子量394のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート 5質量部、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート 16質量部、α―メチルスチレンダイマー 1質量部、ウレタンアクリレート(ダイセル化学工業製EBECRYL4858) 26質量部を原料とする重合性組成物を調製し、該重合性組成物100質量部に対し、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート 0.1質量部、フォトクロミック化合物(1)を0.03質量部、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカネート1.0質量部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1質量部を添加してよく混合し、フォトクロミック重合硬化性組成物を調製した。次いで、得られた該組成物をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、33℃から90℃まで17時間かけて徐々に昇温した後、90℃で2時間保持した。重合終了後、鋳型を空気炉から取り出し、放冷後、硬化体を鋳型のガラスから取り外し、その後オーブンに入れ110℃で3時間加熱した。
【0153】
MA3:プラスチックレンズ基材表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層を有するレンズ(フォトクロミック光学基材)
〔MA3の作製方法 コート法によるフォトクロミック光学基材〕
ラジカル重合性単量体である平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート/グリシジルメタクリレートを、それぞれ49質量部/15質量部/25質量部/10質量部/1質量部の配合割合で配合した。次に、このラジカル重合性単量体の混合物100質量部に対して、3質量部のフォトクロミック化合物(2)を加え、70℃で30分間の超音波溶解を実施した。その後、得られた組成物に重合開始剤であるCGI1870:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:7)を0.35質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、及びレベリング剤である東レ・ダウコーニング株式会社製シリコーン系界面活性剤L−7001を0.1質量部添加し、十分に混合することによりフォトクロミック重合硬化性組成物(フォトクロミックコーティング剤)を調製した。
【0154】
【化11】

【0155】
プラスチック製光学基材として、MRA(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60)を用い、このプラスチック製光学基材をアセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理、4分間の流水洗浄、そして40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、プライマーコート液として、竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールPFR402TP−4』及び酢酸エチルをそれぞれ50質量部となるように調合し、更にこの混合液に対して東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤FZ−2104を0.03質量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌した液を用いた。このプライマー液を、MIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズB表面にスピンコートした。このレンズを室温で15分間放置することにより、膜厚7μmのプライマー層を有するレンズ基材を作成した。
【0156】
次いで、前述のフォトクロミック重合硬化性組成物(フォトクロミックコーティング剤) 約1gを、前記プライマー層を有するレンズ基材の表面にスピンコートした。前記フォトクロミック重合硬化性組成物(フォトクロミックコーティング剤)よりなる塗膜が表面にコートされたレンズに、窒素ガス雰囲気中で、レンズ表面の405nmにおける出力が150mW/cmになるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを用いて、3分間、光照射し、塗膜を硬化させた。その後、さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行うことでフォトクロミックコート層を形成した。得られるフォトクロミックコート層の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。該フォトクロミックコート層の膜厚は、40±1μmとなるように調整した。
【0157】
(2)コーティング組成物用成分
〔A成分;無機酸化物微粒子〕
SOL1:メタノール分散シリカゾル。(日産化学工業(株)製)、固形分濃度(シリカ微粒子の濃度);30質量%。
SOL2:酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.6質量%、酸化アンチモン7.0質量%、二酸化珪素3.7質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル。固形分濃度(複合金属酸化物微粒子の濃度);40質量%。
SOL3:メタノール分散五酸化アンチモン微粒子(日産化学工業(株)製サンコロイドAMT−332S・NV)。固形分濃度(五酸化アンチモン微粒子の濃度);30質量%
SOL4:水分散シリカ微粒子。(日産化学工業(株)製スノーテックスO−40)、固形分濃度(シリカ微粒子の濃度);40質量%。
【0158】
〔B1成分;エポキシ基含有ケイ素化合物〕
GTS:γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
GDS:γ―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン。
【0159】
〔C成分;ケチミン化合物〕
K1:3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(信越化学社製「KBE−9103」)。
【0160】
〔B2成分;ケイ素化合物〕
MTEOS:メチルトリエトキシシラン。
TEOS:テトラエトキシシラン。
BSE:1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン。
【0161】
〔水溶性有機溶媒〕
MeOH:メタノール。
TBA:t―ブタノール。
IPA:イソプロピルアルコール。
EGPE:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル。
AcAc:アセチルアセトン。
DAA:ジアセトンアルコール。
【0162】
〔その他添加剤〕
シリコーン系界面活性剤
L1:シリコーン系界面活性剤 東レ・ダウコーニング株式会社製L7001。
【0163】
環状ケトン化合物
NMP:N−メチルピロリドン。
【0164】
4級アンモニウム塩
TMAC:テトラメチルアンモニウムクロライド。
【0165】
アミノ基を有する有機ケイ素化合物
AM1:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン。
AM2:N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0166】
コーティング剤1の製造
(組成物1から得られるコーティング剤1)
(B1)成分としてγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン118g、(B2)成分としてメチルトリメトキシラン95g、溶媒としてt−ブチルアルコール165g、アセチルアセトン50g、メタノール28g、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 95g、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L−7001)0.5gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、0.05Nの塩酸水溶液49gを添加し、添加終了後から約1時間撹拌を継続した。次いで、テトラメチルアンモニウムクロライド0.3g、(A)成分を含有するメタノール分散シリカゾル396g、さらにトリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 4.4gを加えた後、室温で48時間撹拌した。最後に、(C)成分として3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン 2.1gを混合し、室温で3時間撹拌後一昼夜熟成させて本発明のコーティング剤1を得た。このコーティング剤1は、白濁することなく、またゲル化物が生じることなく製造できた。
【0167】
このコーティング剤1とする前の各成分の配合量(コーティング組成物1の配合量)を表1に示した。なお、表1におけるコーティング組成物1の配合割合のものを上記方法で混合したものがコーティング剤1に該当する。
【0168】
コーティング剤2〜11、比較コーティング剤1〜6の製造
(コーティング組成物2〜11から得られるコーティング剤2〜11)
(比較コーティング組成物1〜6から得られる比較コーティング剤1〜6)
表1に示す(A)無機酸化物微粒子、(B1)エポキシ基含有ケイ素化合物、(C)ケチミン基含有化合物、(B2)ケイ素化合物、水、硬化触媒、水溶性有機溶媒、添加剤;シリコーン系界面活性剤、環状ケトン化合物、4級アンモニウム塩を用いた以外は、コーティング剤1と同様な方法で製造した。コーティング剤2〜11は、白濁することなく、またゲル化物が生じることなく製造できた。配合の組成を表1、表2に示した。
【0169】
なお、表1におけるコーティング組成物2〜11の配合割合のものを上記方法で混合したものが、コーティング剤2〜11に該当する。また、表2における比較コーティング組成物1〜6の配合割合のものを上記方法で混合したものが、比較コーティング剤1〜6に該当する。
【0170】
比較コーティング組成物3、4は、(C)ケチミン化合物を使用する代わりにアミノ基を有する有機ケイ素化合物(AM1:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、AM2:N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)を使用したものである。
【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

【0173】
実施例1
プラスチック製光学基材としてMA1を、60℃の20質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、超音波洗浄器を用いて、5分間アルカリエッチングを行った。アルカリエッチング後、水道水、及び50℃の蒸留水で順次洗浄し、残余のアルカリ分を取り除いた後、室温になるまで約10分間放置した。このレンズ基材に、コーティング剤1を25℃で、引き上げ速度30cm/分の速さで、ディップコートした。この後、70℃のオーブンにて15分間予備硬化した後、110℃で2時間の硬化を行い、プラスチックレンズ基材MA1の両面に、それぞれ1.5μmの厚みでハードコート層が形成された光学物品(ハードコートレンズ)を得た。
【0174】
(光学物品の評価結果)
この光学物品(ハードコートレンズ)について、外観評価、耐熱水性試験、耐候性試験、Bayer試験、スチールウール耐擦傷性について評価を行ったところ、外観:○、耐熱水性:100(5時間)、耐候性試験:100、Bayer値:5.3、スチールウール耐擦傷性:Bであった。この結果を表2に示した。各評価については、下記の方法で行った。
【0175】
(外観評価)
ハードコート層を有するプラスチックレンズ基材の外観の評価は、コート膜の透明性、ブツの有無などを目視により実施した。コート膜が透明でブツがなく外観良好なものを〇、コート膜の白化やブツが見られるものに関しては、外観不良×と評価した。
【0176】
(耐熱水性試験)
試験方法は、得られた光学物品(ハードコートレンズ)を沸騰させた蒸留水に入れ、1時間毎にハードコート層の密着性を評価し、試験時間5時間を上限とした。密着性の評価は、ハードコート膜とプラスチックレンズの密着性をJISD−0202に準じてクロスカットテープ試験によって行った。すなわち、カッターナイフを使いレンズ表面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、コート膜の残っているマス目を測定した。評価結果は、(残っているマス目数)/100で表した。ここでの密着性は、レンズ基材上に積層している全ての層の密着性を評価している。該評価をレンズの凸面で行った。
【0177】
(耐候性試験)
試験方法は、得られた光学物品(ハードコートレンズ)を光照射による硬化物層の耐久性を評価するために、次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた硬化物層を有する光学物品をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により300時間促進劣化させた後、前記耐熱水性試験と同様の方法で密着性を評価した。
【0178】
(Bayer試験)
Bayer試験法(ASTM D−4060またはASTM F735−81)に基づいて、ハードコート層が形成されていないレンズ基材(ノンコートレンズ)の表面及びレンズ基材上に形成されたハードコート層表面(ハードコートレンズ表面)に、以下の方法で傷をつけた。
【0179】
即ち、2つのΦ50mmの穴を持つ研磨剤保持体に、ノンコートレンズ及びハードコートレンズを、それぞれ、その凸面を上にして、穴の下方から装着した。次いで市販されている研磨剤((SAINT−GOBAIN CERAMIC MATERIALS CANADA INC.,製のアルミナ−ジルコニアからなる研磨剤)500gを研磨剤保持体に入れ、この状態で装着された2つのレンズを毎分150ストロークの振動数で、合計2分間、4インチのストローク幅で振動させることにより、2つのレンズの表面を研磨することにより、傷をつけた。
【0180】
次いで、これらのレンズについて、分光計(スガ試験機(株)製 Hazeメーター)によりHazeを測定し、傷をつける前と傷をつけた後でのHaze値の差を求め、下記式によりBayer値を算出した。
【0181】
Bayer値=ΔHaze(ノンコート)/ΔHaze(ハードコート)
式中、ΔHaze(ノンコート)は、ノンコートレンズについて、試験後でのHaze値から試験前のHaze値を引いた値であり、ΔHaze(ハードコート)は、ハードコートレンズにおける試験後のHaze値から試験前のHaze値を引いた値である。この値が大きいほど表面硬度が高く耐擦傷性に優れていることを意味する。
【0182】
(スチールウール耐擦傷性)
スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用い、3kgの荷重を加えながら、10往復、光学物品表面(ハードコート膜表面)を擦り、傷ついた程度を目視で評価した。評価基準は次の通りである。
A:傷か付かなかい(目視で傷が確認できなかった場合)。
B:ほとんど傷が付かない(目視で1以上5本未満の擦傷がある場合)。
C:極わずかに傷が付く(目視で5本以上10本未満の擦傷がある場合)。
D:傷が付く(目視で10本以上の擦傷がある場合)。
E:ハードコート膜の剥離が生じている。
【0183】
耐擦傷性に関しては、B以上の評価結果であれば実用上問題なく、表面硬度に優れていることを意味する。
以上の結果を表3に示した。
【0184】
実施例2〜16
表1に示すコーティング組成物から得られたコーティング剤1〜11、およびプラスチックレンズ基材を使用して、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズを作製し、その評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0185】
【表3】

【0186】
比較例1〜10
表2に示す比較コーティング組成物から得られた比較コーティング剤1〜6、およびプラスチックレンズ基材を使用して、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズを作製し、その評価を行った。評価結果を表4に示した。
【0187】
なお、比較例10においては、最初から得られたハードコート層にクラックが発生し、さらにプラスチックレンズ基材に密着していなかったことから、それ以上の評価は実施しなかった。
【0188】
【表4】

【0189】
前記実施例から明らかなように、(C)ケチミン化合物を配合することにより、密着性に優れ、さらにBayer値や耐擦傷性といった硬度が良好であるハードコート層を形成することができた。特に、(メタ)アクリル系樹脂やウレタン系樹脂に対する密着性が向上した。それに対し、比較例1〜8に示すように、(C)ケチミン化合物を含まない場合や2級のアミノ基を有するケイ素化合物を使用した場合は、密着性が十分に向上しなかった。また、(C)ケチミン化合物の配合量が多すぎる場合や、1級のアミノ基を有するケイ素化合物を使用した場合には、硬度が低下した。また、比較例9、及び10に示すように、(B1)成分の配合量が多すぎる場合には耐擦傷性が低下し、(B1)成分の配合量が少ない場合には密着性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機酸化物微粒子、
(B1)エポキシ基、及び加水分解性基を有するエポキシ基含有ケイ素化合物、及び
(C)ケチミン基を有するケチミン化合物
とを含有するハードコート層形成用コーティング組成物であって、
(A)成分を100質量部として、(B1)成分を50質量部以上350質量部以下、(C)成分を0.1質量部以上10質量部以下含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記(C)ケチミン化合物が、ケチミン基、及び加水分解性基を有するケチミン基含有ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記コーティング組成物が、さらに(B2)成分として、下記式(I)
【化1】

(式中、
は、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Aは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物、及び下記式(II)
【化2】

(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
、及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であり、
Bは、0〜2の整数である。)
で示されるケイ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物を含み、
(A)成分を100質量部として、(B2)成分を10質量部以上150質量部以下含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のコーティング組成物を混合してコーティング剤を製造する方法において、(B1)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物と(C)成分を混合することを特徴とする特徴とするコーティング剤の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のコーティング組成物を混合してコーティング剤を製造する方法において、(B1)成分の加水分解物、(B2)成分の加水分解物、及び(A)成分が混合された混合物と(C)成分を混合することを特徴とするコーティング剤の製造方法。
【請求項6】
プラスチック製光学基材の表面に、請求項1〜3の何れかに記載のコーティング組成物を硬化させて得られるコート層が積層された光学物品。
【請求項7】
前記プラスチック製光学基材が、(メタ)アクリル系樹脂よりなる基材である請求項6記載の光学物品。
【請求項8】
前記プラスチック製光学基材が、フォトクロミック化合物を含む基材である請求項7記載の光学物品。
【請求項9】
前記プラスチック製光学基材が、ウレタン系樹脂よりなる基材である請求項6記載の光学物品。

【公開番号】特開2013−14636(P2013−14636A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254608(P2009−254608)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】