説明

コーティング錠

【解決手段】分子内にイオウを含む生理活性成分を含有する素錠の表面にフィルムコーティング層を施したコーティング錠剤であって、前記フィルムコーティング層が
(a)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有し、かつ水溶性可塑剤を含まないコーティング層、及び
(b)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、着色剤、及び水溶性可塑剤を含有するコーティング層
の少なくとも2層を有することを特徴とする、コーティング錠剤。
【効果】前記本発明の構成とすることによって、分子内にイオウを含む生理活性成分の不快臭が低減され、かつ製剤の経時による変色が抑制された錠剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−システイン等の、分子内にイオウを含む生理活性成分を含有する錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、L−システイン等の分子内にイオウを含む薬物は、不快なイオウ臭、変色等の問題があった。薬物の不快臭や変色を防止する手段としては、錠剤をコーティングすることが広く知られているが、イオウを含む薬物は、通常のコーティングでは経時によりイオウ臭が発生し、変色も十分抑制されず、改善が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開2007−91620
【特許文献2】特開2005−60310
【特許文献3】特開2006−327943
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、分子内にイオウを含有する生理活性成分を含み、経時による不快臭発生と変色が十分抑制された錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、分子内にイオウを含む薬物を含有する素錠に、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有する特定組成の2層コーティングを施すことにより、前記課題を解決できることを知見した。すなわち本発明は、
【0006】
<1>分子内にイオウを含む生理活性成分を含有する素錠の表面にフィルムコーティング層を施したコーティング錠であって、前記フィルムコーティング層が
(a)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有し、かつ水溶性可塑剤を含まないフィルムコーティング層、及び
(b)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、着色剤、及び水溶性可塑剤を含有するフィルムコーティング層
の少なくとも2層を有することを特徴とする、コーティング錠。
<2>分子内にイオウを含む生理活性成分がl−システインである、請求項1に記載のコーティング錠。
<3>(a)が内相であり(b)が外相であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコーティング錠。
<4>(b)層が更に硬化油を含有することを特徴とする、請求項1〜3に記載のコーティング錠。
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
前記本発明の構成とすることによって、分子内にイオウを含む生理活性成分の不快臭が低減され、かつ製剤の経時による変色が抑制された錠剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の素錠は、分子内にイオウを有し不快臭を有する生理活性成分を含有するものである。具体的な前記生理活性成分としては、例えば、L−システイン、メチオニン、塩酸フルスルチアミン、硝酸チアミン、ニンニク、ニンニク抽出物などがあげられる。好ましくはL−システインである。
分子内にイオウを有し不快臭を有する生理活性成分の素錠中の含有量は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは4〜10質量%である。20質量%以上では、防臭効果が十分得られない。
【0009】
さらに本発明の素錠には、その他の生理活性成分、添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0010】
前記その他の生理活性成分としては、例えばビタミンB12(コバラミン、シアノコバラミン等)、ビタミンB(リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン等)、ビタミンB(塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール等)、ビタミンC(アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等)、ビタミンE(コハク酸d−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロールカルシウム、酢酸d−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール等)、アミノ酸類(アスパラギン酸、アスパラギン酸カリウム・マグネシウム、アスパラギン酸カルシウム、アスパラギン、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、グルタミン酸、プロリン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、グリシン、セリン等)、グルコサミノグリカン類としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、アミノ糖類としては、シアル酸、ムラミン酸、グルコサミン、グルコサミン塩(例えばグルコサミン塩酸塩、グルコサミン硫酸塩、グルコサミンリン酸塩)、グルコサミン誘導体(N−アセチルグルコサミン、N−メチル−L−グルコサミンなど)などがあげられる。その他、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム(例、パントテン酸カルシウムタイプS(商品名))、ビオチン、γ−オリザノール、オロチン酸、グルクロノラクトン、グルクロン酸アミド、ヨクイニン、コラーゲン等が挙げられる。これらの生理活性成分を配合する場合、その量は特に限定されるものではなく、経口製剤に含有可能な範囲で目的に応じて設定すればよいが、通常、合計で60質量%程度以下とすることが好ましい。
【0011】
前記添加剤としては、経口用錠剤に使用される各種成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができ、例えば以下のものがあげられる。
・賦形剤:ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、トウモロコシデンプン等のデンプン、乳糖、白糖、粉末還元麦芽糖水アメ等の糖類、等
・結合剤:ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース 、ポビドン、等
・崩壊剤:クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、等
・滑沢剤:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、等
・色素:酸化チタン等の顔料、酸性色素、塩基性色素、等
・香料:メントール、ハッカ油、等
【0012】
本発明のフィルムコーティング錠に使用する素錠の製造方法としては、新しい製剤学(一番ヶ瀬尚監修、廣川書店)、経口投与製剤の処方設計(京都大学大学院薬学研究科教授橋田充編、薬業時報社)、粉体の圧縮成形技術(粉体工学・製剤と粒子設計部会編、日刊工業新聞社)のような刊行物に記載されている方法を用いて得ることができる。例えば生理活性成分、賦形剤を混合し、混合粉体をそのまま、あるいは結合剤を用いて造粒・整粒し、その後崩壊剤、滑沢剤を添加して混合し、打錠することにより素錠を得ることができる。
【0013】
本発明のコーティング錠剤は、前記素錠の表面に、下記(a)層及び(b)層の、2種のフィルムコーティングを施したものである。
【0014】
(a)層
(a)層は、フィルム基剤としてポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有し、かつ水溶性可塑剤を含まないフィルムコーティング層である。
前記水溶性可塑剤とは、水への溶解度が10g/100mL以上の可塑剤でポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、トリアセチンなどである。水溶性可塑剤を含有しない(a)層を設けることにより、分子内にイオウを含む生理活性成分の不快臭、変色を効果的に抑制することが出来る。ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートは、錠剤のフィルムコーティング剤としうるものであれば特に制限はなく、例えば「三共HA」(FMCライフテック社製)として市販されているものを用いることができる。(a)層組成中のポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートの含有量は、好ましくは8〜40質量%、より好ましくは16〜26質量%である。
【0015】
その他の成分としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の他のフィルム基材、ステアリン酸、ミツロウ等の固体油脂、フマル酸等の有機酸、色素、酸化チタンなどの着色剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0016】
(a)層のコーティング量は、素錠:(a)層(質量比)=100:1〜100:5、好ましくは100:2〜100:4である。(a)層のコーティング量が素錠質量に対して1%以下では臭いのマスキングが不充分であり、5%以上では、製造における作業時間やコストがかかる。
【0017】
(b)層
(b)層は、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、水溶性可塑剤、及び着色剤を含有するコーティング層である。
【0018】
ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートは、錠剤のフィルムコーティング剤としうるものであれば特に制限はなく、例えば製品名「HA」(三共(株)製)として市販されているものを用いることができる。(b)層組成中のポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートの含有量は、好ましくは5〜26質量%、より好ましくは6〜16質量%である。この範囲で、変色隠蔽性が特に良好である。
【0019】
水溶性可塑剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、トリアセチン等があり、ポリエチレングリコールが好ましい。(b)層組成中の水溶性可塑剤の含有量は、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは20〜30質量%である。この範囲で、膜物性が特に良好である。
【0020】
着色剤としては、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、黄色4号アルミニウムレーキなどがあげられる。(b)層組成中の着色剤の含有量は、酸化チタンは好ましくは10〜35質量%、より好ましくは20〜30質量%、その他は0.01〜1質量%が好ましい。この範囲で、隠蔽性と膜物性が特に良好である。
【0021】
その他の成分としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の他のフィルム基材、ステアリン酸、ミツロウ等の固体油脂、フマル酸等の有機酸を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0022】
(b)層のコーティング量は、素錠:(b)層(質量比)=100:1〜100:10、好ましくは100:3〜100:8である。(b)層のコーティング量が素錠質量100に対して1以下では色の隠蔽が不充分であり、10以上では、製造における作業時間やコストがかかる。
【0023】
前記(a)層と(b)層は、どちらも内層または外層とすることができるが、好ましくは(a)層を内層とし(b)層を外層とすると、錠剤の着色、隠蔽の点で良好であるため好ましい。
【0024】
前記(a)(b)のフィルムコーティングは、各々、コーティング剤成分を含有するフィルムコーティング液を調整し、それを素錠に噴霧し、乾燥することにより得ることができる。コーティング液に使用する媒体としては、水、エタノールがあげられるが、水を用いることが好ましい。フィルムコーティング液の素錠への噴霧、乾燥は、市販のフィルムコーティング機を用いて、公知の方法、条件の範囲で行うことができる。
【実施例】
【0025】
(フィルムコーティング錠の調整)
(1)(造粒品1)表1の組成に従い、以下のように製造した。グルクロノラクトンをピンミル((株)パウレック社製)で粉砕し、トウモロコシデンプンを加え、精製水に溶解したヒドロキシプロピルセルロース(濃度4質量%)を噴霧し、フローコーター(FLO-5型、フロイント産業(株)製)を用いて流動層造粒し、75℃で乾燥した。(重量平均粒子径100〜300μm)これを造粒品1とした。
(2)(造粒品2)表1の組成に従い、以下のように製造した。L-システイン、ピリドキシン塩酸塩、パントテン酸カルシウム、トウモロコシデンプン加え、精製水に溶解したヒドロキシプロピルセルロース(濃度4質量%)を噴霧し、フローコーター(FLO-5型、フロイント産業(株)製)を用いて流動層造粒し、75℃で乾燥した。(重量平均粒子径100〜300μm)これを造粒品2とした。
(3)(造粒品3)表1の組成に従い、以下のように製造した。L-システイン、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、トウモロコシデンプン加え、精製水に溶解したヒドロキシプロピルセルロース(濃度4質量%)を噴霧し、フローコーター(FLO-5型、フロイント産業(株)製)を用いて流動層造粒し、75℃で乾燥した。(重量平均粒子径100〜300μm)これを造粒品3とした。
(4)表2の組成に従い、造粒品1〜3、その他の成分を混合し、表2に記載の錠剤径、錠剤重量で硬度6kg(デジタル硬度計で計測)を打錠し、素錠1、2とした。
(5)表3、4に記載のコーティング組成及び量に従って、前記で得られた素錠3600gをコーティング機(ドリアコーターDRC-500、(株)パウレック)にてコーティングし、70℃にて乾燥し、フィルムコーティング錠を得た。なお、コーティング液の溶媒としては、水を用いた。
【0026】
(評価)
得られたフィルムコーティング錠を、各々透明ガラス瓶に温度40℃、湿度75%RHで2ヶ月密栓保存し、保存後の変色、防臭性および味を評価した。以下に、その評価方法および判定基準を示す。
【0027】
防臭
パネラー5人による官能評価を行なった。
◎ 臭いが完全に隠蔽されている
○ 臭いがほぼ隠蔽されている
△ やや臭いを感じる
× かなりにおいを感じる
×× 強いにおいを感じる
【0028】
変色(保存後)
フィルムコーティング製剤もしくは素錠を割り、その製剤内部における褐変具合を評価した。
冷暗所(5℃)保存品と比べて
◎ 変色がまったくない
○ 変色がほぼない
△ 変色がやや認められる
× 変色がかなり認められる
×× 変色が強く認められる

【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にイオウを含む生理活性成分を含有する素錠の表面にフィルムコーティング層を施したコーティング錠であって、前記フィルムコーティング層が
(a)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有し、かつ水溶性可塑剤を含まないフィルムコーティング層、及び
(b)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、着色剤、及び水溶性可塑剤を含有するフィルムコーティング層
の少なくとも2層であることを特徴とする、コーティング錠。
【請求項2】
分子内にイオウを含む生理活性成分がl−システインである、請求項1に記載のコーティング錠。
【請求項3】
(a)が内相であり(b)が外相であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコーティング錠。
【請求項4】
(b)層が更に硬化油を含有することを特徴とする、請求項1〜3に記載のコーティング錠。


【公開番号】特開2010−18554(P2010−18554A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180788(P2008−180788)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】