説明

コーナー部用メンブレンアンカー

【課題】低温タンクにおいてメンブレンを取り付けるなどの施工性の向上を可能にする、コーナー部用メンブレンアンカーを提供する。
【解決手段】底版2と側壁3との間のコーナー部にハンチ構造部4を有する低温タンク1における、コーナー部用のメンブレンアンカー10である。基部保冷部材と、基部保冷部材の上面上に設けられて、荷重を分散させる板状部材と、板状部材の上方に設けられて、その上面を、底版2とハンチ構造部4とのなす角、又は、側壁3とハンチ構造部4とのなす角に対応する角度で屈曲する屈曲面としたメンブレン支持金物と、板状部材とメンブレン支持金物との間に設けられた上部保冷部材と、を有してなる。メンブレン支持金物には、メンブレンを取り付ける際に使用する仮設構造体を支持する支持面16aが設けられ、支持面16aには、仮設構造体を保持するための保持部材20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーナー部用メンブレンアンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
低温タンクとしての低温液化ガスタンクは、例えば特許文献1の図3にその概略が示されるように、底版と円筒型の側壁とにより円柱状の貯蔵空間を形成し、該貯蔵空間に低温液化ガスを貯蔵するようにしている。底版と側壁は、液圧に耐え得るようにコンクリート躯体とされている。また、底版および側壁の内面には、その内面全体を覆うように保冷材を配置するとともに、該保冷材の内側に、液密性を確保するための薄い金属製のメンブレンが取り付けられている。
【0003】
前記低温液化ガスタンクに貯蔵する低温液化ガスは、例えばLNGの液化温度が約−162℃であるように、極低温となっている。したがって、前記低温液化ガスタンクは、大きな熱収縮を許容できる構成とすることが求められている。そのため、前記メンブレンは、ステンレス板によって貯蔵空間の底部及び側壁部を多数に分割した形状に形成されているとともに、個々のメンブレンにおける所要個所には、半径方向と周方向に延びるか、又は、互いに直交する2方向へ延びるコルゲーション(襞)がそれぞれ設けられている。このような構成により、該コルゲーションが変形することで、大きな熱収縮が吸収されるようになっている。
【0004】
コーナー部に設置するメンブレンは、底版又は側壁の対応する箇所にメンブレンアンカーを介して連結することで、前記したように底版及び側壁の内側に配置してある各メンブレンに熱収縮が生じても、全体形状が変形しないようにしている。
【0005】
ところで、前記コンクリート躯体の底版及び側壁を有する形式の低温液化ガスタンクでは、一般に底版と側壁との接合をピン結合とし、コーナー部にコンクリート製の成型品である横断面略直角二等辺三角形状のコーナースラントを配置している。このコーナースラントは、側壁側の高さが70cm程度、底版側の幅も70cm程度であり、底版及び側壁の内面に対してそれぞれ45度ずつ傾斜した傾斜面を形成する構造となっている。
そして、ハンチ構造部の傾斜面にも、前記底版及び側壁の内面と同様にして保冷材とメンブレンとを取り付ける必要上、ハンチ構造部の両側、すなわち底版側および側壁側に、それぞれメンブレンアンカーを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−79736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、近年では土木工事上のメリットから、側壁と底版とを一体に形成してこれら側壁と底版とを剛接合とする構造が採用されるようになってきている。このような構造では、コーナー部(ハンチ構造部)での応力集中を緩和するため、側壁側の高さが3m程度、底版側の幅も3m程度と、コーナースラントによる構造に比べて格段に大きいハンチ構造部が形成されている。
しかしながら、ハンチ構造部が前記したように大きくなると、例えば側壁にメンブレンを取り付ける際の作業足場が組み難くなるなど、施工性が著しく低下するといった課題がある。
【0008】
本発明は前記背景に鑑みてなされたもので、低温タンクにおいてメンブレンを取り付けるなどの施工性の向上を可能にする、コーナー部用メンブレンアンカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコーナー部用メンブレンアンカーは、底版と側壁との間のコーナー部にハンチ構造部を有する低温タンクにおける、コーナー部用のメンブレンアンカーであって、
基部保冷部材と、
前記基部保冷部材の上面上に設けられて、荷重を分散させる板状部材と、
前記板状部材の上方に設けられて、その上面を、前記底版とハンチ構造部とのなす角、又は、前記側壁とハンチ構造部とのなす角に対応する角度で屈曲する屈曲面としたメンブレン支持金物と、
前記板状部材と前記メンブレン支持金物との間に設けられた上部保冷部材と、を有してなり、
前記メンブレン支持金物には、メンブレンを取り付ける際に使用する仮設構造体を支持する支持面が設けられ、該支持面には、前記仮設構造体を保持するための保持部材が設けられていることを特徴としている。
【0010】
また、前記コーナー部用メンブレンアンカーにおいて、前記上部保冷部材は、該上部保冷部材の上面上に配置される前記メンブレン支持金物の前記保持部材に対応する部位が高密度ポリウレタンフォームによって形成され、その他の部位が前記高密度ポリウレタンフォームより軟質の低密度ポリウレタンフォームによって形成されているのが好ましい。
【0011】
また、前記コーナー部用メンブレンアンカーにおいて、前記基部保冷部材は、固定部材によって前記底版又は前記側壁に固定されるように構成されており、かつ、前記固定部材に対応する部位が高密度ポリウレタンフォームによって形成され、その他の部位が前記高密度ポリウレタンフォームより軟質の低密度ポリウレタンフォームによって形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーナー部用メンブレンアンカーによれば、メンブレン支持金物に仮設構造体を支持する支持面が設けられ、該支持面に、前記仮設構造体を保持するための保持部材が設けられているので、特にハンチ構造部が大きく形成されている場合に、側壁へのメンブレン取り付けなどの作業用に作業足場や仮設架台などの仮設構造体を組み立てる際、メンブレン支持金物の支持面の保持部材を用いて、仮設構造体を保持し、支持面上に支持させることができる。したがって、仮設構造体を安定した状態に組み立て、固定することができ、これによって仮設構造体の施工性を向上できるとともに、仮設構造体を利用することでメンブレン取り付けなどについての施工性も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る低温タンクの一例を示す図であり、(a)は低温タンクの概略構成図、(b)はハンチ構造部の要部破断斜視図、(c)はハンチ構造部とその周辺部の側断面図である。
【図2】本発明のコーナー部用メンブレンアンカーの一実施形態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】(a)は基部保冷部材の平面図であり、(b)は上部保冷部材の平面図である。
【図4】ハンチ構造部上に仮設構造体を設けた状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のコーナー部用メンブレンアンカーについて図面を参照して説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
まず、本発明のコーナー部用メンブレンアンカーが用いられる低温タンク(低温液化ガス貯蔵タンク)と、そのコーナー部のハンチ構造について説明する。
【0015】
図1(a)〜(c)は、本発明に係る低温タンクの一例を示す図であり、図1(a)中符号1は低温タンクである。この低温タンクは、本実施形態ではLNG地下タンクとされる。ただし、本発明の低温タンクは、貯蔵物としてLNG(液化天然ガス)に限定されることなく、LPG(液化石油ガス)やその他の低温液化ガスを貯蔵物とするタンクにも適用可能である。
【0016】
低温タンク1は、コンクリート躯体の底版2と略円筒状(厳密には多角筒状)の側壁3とを有してその内部を貯蔵空間Sとし、該貯蔵空間S内に例えばLNGを貯蔵するようにしている。底版2と側壁3とは、土木工事上のメリットからコンクリートによって一体に形成されており、これによって底版2と側壁3とは、剛接合の構造が採用されている。
【0017】
また、このような構造が採用されていることにより、図1(a)〜(c)に示すように底版2と側壁3との間のコーナー部には、側壁3側の高さが例えば3m程度、底版2側の幅も例えば3m程度と、従来のコーナースラントによる構造に比べて格段に大きいハンチ構造部4が形成されている。このような大きいハンチ構造部4により、例えば側壁3で受ける土圧が底版2側に伝わる際の、コーナー部への応力集中が大きなハンチ構造部4によって緩和されるようになっている。
【0018】
ここで、ハンチ構造部4は横断面略二等辺三角形状に形成されており、その内面4aは底版2、側壁3のいずれに対しても45度ずつ傾斜する傾斜面となっている。
このようなハンチ構造部4の内面4a(傾斜面)にも、図1(b)、(c)に示すように底版2及び側壁3の内面と同様にして、保冷材5およびメンブレン6が取り付けられている。したがって、ハンチ構造部4の内面4aに配置されるメンブレン6は、底版2の内面に配するメンブレン6、および側壁3の内面に配するメンブレン6のいずれに対しても、45度ずつ傾斜した配置となる。
【0019】
そのため、前記コーナー部のメンブレン6は、図1(c)に示すようにその下端部が底版2の外周部におけるハンチ構造部4との境界部付近に配設された、本発明の一実施形態となるコーナー部用メンブレンアンカー10に取り付けられて支持されている。そして、該コーナー部用メンブレンアンカー10に、底部のメンブレン6aの外周端部が取り付けられることで、前記コーナー部のメンブレン6と底部のメンブレン6aの端部同士は、コーナー部用メンブレンアンカー10を介してその位置が固定されている。
【0020】
また、前記コーナー部のメンブレン6の上端部は、側壁3の下端部におけるハンチ構造部4との境界部付近に配設されたコーナー部用メンブレンアンカー10に取り付けられて支持されている。そして、該コーナー部用メンブレンアンカー10に、側部のメンブレン6bの下端部を取り付けられることで、前記コーナー部のメンブレン6と側部のメンブレン6bの端部同士は、コーナー部用メンブレンアンカー10を介してその位置が固定されている。
これにより、各メンブレン6,6a,6bに熱収縮変形が生じた際にも、前記コーナー部のメンブレン6に浮き上がりが生じないようになっている。
【0021】
次に、本発明の一実施形態となる前記コーナー部用メンブレンアンカー10について、図2(a)〜(c)を参照して説明する。なお、図2(a)はコーナー部用メンブレンアンカー10の平面図、図2(b)は同じく正面図、図2(c)は同じく側面図である。また、図1(c)において底版2上に配置されるコーナー部用メンブレンアンカー10と、側壁3上に配置されるコーナー部用メンブレンアンカー10とは基本的に同じ構成である。したがって、本発明におけるコーナー部用メンブレンアンカー10は、底版2上、側壁3上にて共通で用いられようになっている。よって、以下の説明では、底版2上に設置されて用いられるものとして説明するが、側壁3上に設置されて用いられるものについても同様となる。
【0022】
コーナー部用メンブレンアンカー(以下、メンブレンアンカーと記す)10は、図2(a)〜(c)に示すように基部保冷部材11と、該基部保冷部材11の上面上に設けられた板状部材12と、該板状部材12の上方に設けられたメンブレン支持金物13と、前記板状部材12と前記メンブレン支持金物13との間に設けられた上部保冷部材14および耐火材15と、を有して構成されている。
【0023】
基部保冷部材11は、発泡ポリウレタンフォーム(PUF)によって矩形断面形状を有する平板状に成形されたもので、その底面が低温タンク1の底版2に設置され取り付けられる取付面となっている。なお、低温タンク1の側壁3に設置される場合にも、同様にその底面が側壁3への取付面となる。また、このように側壁3に設置される場合でも、本発明のコーナー部用メンブレンアンカーにおいては、側壁3への取付面となる基部保冷部材11の底面を下側とし、この底面と反対の面側を上側(上面側)としている。
【0024】
基部保冷部材11を形成する発泡ポリウレタンフォーム(PUF)については、本実施形態では図3(a)の平面図に示すように高密度発泡ポリウレタンフォームHと低密度発泡ポリウレタンフォームLとの二種類が用いられている。これら高密度発泡ポリウレタンフォームHおよび低密度発泡ポリウレタンフォームLは市販されているものである。なお、「高密度」、「低密度」は本発明においては相対的なもので、高密度発泡ポリウレタンフォームHは低密度発泡ポリウレタンフォームLに対し、相対的に密度が高いものとなっている。
【0025】
高密度発泡ポリウレタンフォームHは、低密度発泡ポリウレタンフォームLと比較して硬質で高い強度を有している反面、断熱性については劣っており、また、価格も高価である。一方、低密度発泡ポリウレタンフォームLは、高密度発泡ポリウレタンフォームHに比べ、相対的に軟質で強度が低い反面、断熱性については優れており、価格も安価である。
【0026】
したがって、本実施形態では、低温タンク1用であることから保冷部材については高断熱性のものが望まれているものの、後述するように荷重を受けることで高強度である必要もあることから、図3(a)に示したように矩形平面における短辺方向の両側に高密度発泡ポリウレタンフォームHを用い、中央部に低密度発泡ポリウレタンフォームLを用いている。なお、これらの間は接着することで一体化している。また、高密度発泡ポリウレタンフォームHが用いられている両側部には、後述するアンカーボルト(固定部材)挿通用の貫通孔(図示せず)が複数形成されている。
このように両側に高密度発泡ポリウレタンフォームHを用い、中央部に低密度発泡ポリウレタンフォームLを用いる理由については後述する。
【0027】
図2(a)〜(c)に示すように板状部材12は、基部保冷部材11の上面上に載置され、接着剤によって接着されたもので、基部保冷部材11の上面と同じ形状・寸法に形成された合板等からなるものである。このように基部保冷部材11上に接着固定されたことで、板状部材12はこれにかかった荷重を基部保冷部材11に分散させるようになっている。なお、この板状部材12にも、前記基部保冷部材11に形成されたアンカーボルト(固定部材)挿通用の貫通孔(図示せず)と対応する位置に、貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0028】
メンブレン支持金物13は、図2(c)に示すように板状部材12の上方に設けられたステンレス等の金属製のもので、図2(a)に示すように平面視矩形状のものである。このメンブレン支持金物13は、図2(a)、(c)に示すように前記板状部材12と平行に配置される矩形状の支持板部16と、この支持板部16の一方の側にて斜め上方に屈曲する傾斜板部17と、支持板部16の一方の側にて下方に折曲し垂下する垂下板部18とからなっている。
【0029】
支持板部16の上面上は本発明における支持面16aとなっており、後述するように仮設構造体を支持するための面となっている。この支持面16aには、図2(a)に示すようにステンレス等の金属板からなる正方形状の当て板19が溶接等によって固定されており、この当て板19の上面中央部には、後述するように仮設構造体を保持するための保持部材20が溶接等によって固定されている。
保持部材20は、図2(c)に示すように当て板19に対して垂直に立てられた板状のもので、上部を半円形状に角取りし、略中央部にボルト挿通用の貫通孔20aを形成したものである。
【0030】
また、傾斜板部17は、図1(c)に示したハンチ構造部4の内面(傾斜面)4aと同じ角度で傾斜している。これによって支持板部16の上面(支持面16a)と傾斜板部17の上面とは、図1(c)に示した底版2とハンチ構造部4の内面(傾斜面)4aとのなす角(135度)に対応する角度、すなわちこれにほぼ等しい約135度で屈曲する屈曲面となっている。
また、垂下板部18は、図2(c)に示すように上部保冷部材14および耐火材15の一側面に当接してこれを覆うもので、ボルト挿通用の貫通孔(図示せず)を複数形成している。
【0031】
上部保冷部材14は、前記板状部材12とメンブレン支持金物13との間に設けられた、基部保冷部材11に比べて幅が狭い略矩形板状のもので、基部保冷部材11と同様に、発泡ポリウレタンフォーム(PUF)によって形成されている。この上部保冷部材14の上面は、メンブレン支持金物13の上面がなす屈曲面とほぼ同じ角度の屈曲面、すなわち図1(c)に示した底版2とハンチ構造部4の内面(傾斜面)4aとのなす角(135度)に対応する角度(約135度)で屈曲する屈曲面となっている。
【0032】
このような構成のもとに上部保冷部材14は、耐火材15を介してメンブレン支持金物13の支持板部16および傾斜板部17を良好に支持するようになっている。なお、この上部保冷部材14は、前記板状部材12上に載置され、後述する固定部材(アンカーボルト)等によって該板状部材12に固定されるようになっている。
また、上部保冷部材14を形成する発泡ポリウレタンフォーム(PUF)としては、基部保冷部材11と同様に、高密度発泡ポリウレタンフォームHと低密度発泡ポリウレタンフォームLとの二種類が用いられている。本実施形態では図3(b)の平面図に示すように、図2(a)に示した当て板19の直下に高密度発泡ポリウレタンフォームHが配置され、他の位置には低密度発泡ポリウレタンフォームLが配置されている。
【0033】
すなわち、高密度発泡ポリウレタンフォームHは、前記メンブレン支持金物13の保持部材20に対応する部位に配置されており、その他の部位には低密度ポリウレタンフォームLが配置されている。ここで、メンブレン支持金物13の保持部材20に対応する部位とは、少なくとも保持部材20の直下とその近傍部を含む部位であり、後述するように保持部材20にかかる荷重を直接的に受ける部位である。具体的には、保持部材20が受けた荷重は例えば45度の角度で拡がりつつ下方に伝わると仮定できるので、保持部材20の幅を一辺とする正方形から45度で拡がるように上部保冷部材14の底面側に延ばしていき、該底面に投影された正方形を、メンブレン支持金物13の保持部材20に対応する部位の底面とする。そして、この底面を有する四角柱状の部位に高密度発泡ポリウレタンフォームHを配置し、その他の部位に低密度ポリウレタンフォームLを配置している。
【0034】
このように構成することで、相対的に硬質であり、高強度の高密度発泡ポリウレタンフォームHは、保持部材20にかかる荷重を受けてほとんど変形することなく、これを支持できるようになっている。
なお、他の部位では保持部材20にかかる荷重をほとんど受けないため、比較的軟質であるものの、優れた断熱性を有し、価格も安価な密度発泡ポリウレタンフォームLを用いることで、断熱性の確保やコスト低減化を図ることができる。また、この上部保冷部材14には、その幅方向に、ボルト挿通用の貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0035】
図2(c)に示すように耐火材15は、公知の耐火材料からなる薄板状のもので、上部保冷部材14の上面に倣って屈曲した状態に接着されている。
そして、この耐火材15上に、その屈曲面の屈曲位置が対応するようにして、前記メンブレン支持金物13が被着されている。
【0036】
また、上部保冷部材14の、上面が斜め上方に屈曲している側の側方には、該側面に当接してステンレス等の金属からなる規制板21が配置されている。規制板21は、メンブレン支持金物13の垂下板部18と反対の側に配置されることで、該垂下板部18とともに上部保冷部材14を挟持し、その位置を規制するようになっている。また、その上端がメンブレン支持金物13の傾斜板部17の上部側を支持するようにもなっている。この規制板21には、メンブレン支持金物13の垂下板部18に形成された貫通孔、および上部保冷部材14に形成された貫通孔と対応する位置に、貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0037】
規制板21の外面側と、メンブレン支持金物13の垂下板部18の外面側には、互いに対向して側面視L状の取付部材22が配設されている。これら取付部材22は、その一方の板部が規制板21、垂下板部18の外側に露出する板状部材12上に載置され、他方の板部が規制板21あるいは垂下板部18の外面に当接されられている。これら各板部には、それぞれボルト挿通用の貫通孔(図示せず)が形成されている。そして、規制板21あるいは垂下板部18の外面に当接されられた他方の板部間には、図2(c)に示すように上部保冷部材14を貫通して固定ボルト(図示せず)が挿通され、ナット(図示せず)が締結されている。これによって上部保冷部材14、耐火材15およびこれらを覆うメンブレン支持金物13、規制板21は、固定ボルトによって一体化される。
【0038】
また、板状部材12上に載置された取付部材22の他の板部には、図2(c)中二点鎖線で示すように、底版2に埋設されたアンカーボルト(固定部材)8が基部保冷部材11、板状部材12を貫通して挿通される。そして、ナット(図示せず)が締結されることで、基部保冷部材11等は底版2に固定されるようになっている。すなわち、アンカーボルト8によって基部保冷部材11等が底版2に固定され、さらに取付部材22を介して上部保冷部材14やメンブレン支持金物13等が基部保冷部材11側に固定されることにより、本実施形態のメンブレンアンカー10はアンカーボルト8によって底版2に固定されるようになっている。
【0039】
ここで、前記基部保冷部材11は、アンカーボルト(固定部材)8に対応する位置、すなわちアンカーボルト(固定部材)8とナットとによる締結力が作用し、これによって後述するように保持部材20にかかる仮設構造体の荷重がアンカーボルト8を介して基部保冷部材11に直接的に作用する部位を、図2(c)および図3(a)に示したように高密度発泡ポリウレタンフォームHで形成し、その他の部位を低密度発泡ポリウレタンフォームLで形成している。高密度発泡ポリウレタンフォームHの形成位置として具体的には、図2(c)および図3(a)に示したように、アンカーボルト8が挿通される貫通孔(図示せず)の周辺部とされる。
【0040】
このような構成のもとに本実施形態のメンブレンアンカー10は、図1(c)に示したようにハンチ構造部4の底版2側の端部より少し外側の底版2上に配置固定され、また、ハンチ構造部4の側壁3側の端部より少し外側の側壁3上に配置固定される。
また、このようにハンチ構造部4の外側にそれぞれメンブレンアンカー10を配置固定した後、例えば側壁3にメンブレン6bを取り付ける際には、ハンチ構造部4が大きいことから側壁3側の底版3上に直接作業足場等の仮設構造体を組むのが難しいため、図1(c)中二点鎖線で示すように、メンブレンアンカー10の支持面16aを利用して仮設構造体を組み立てる。
【0041】
例えば、ハンチ構造部4の内面(傾斜面)4aに沿って作業足場40を設置するとともに、底版2側のメンブレンアンカー10の支持面16a上に支柱41を立て、この支柱41と側壁3側のメンブレンアンカー10の支持面16aとの間に板材42を架け渡し、仮設架台43を形成する。これにより、作業足場40を上って仮設架台43の板材42上に上がることができ、側壁3へのメンブレン6bの取り付けなどの作業を側壁3の間近で行うことができる。
【0042】
また、通常は図4に示すように低温タンク1の屋根7からラック・ピニオン9を吊り下げ、側壁3の周方向に沿って側壁3の内面近傍を走行させ、メンブレン6b等の資材をラック・ピニオン9に設けたクレーン等によって吊り上げたりするが、このようなラック・ピニオン9は、通常は側壁3から1〜2m程度の近傍部に配置される。そこで、このラック・ピニオン9の下端側を走行させるレール9aを、前記仮設架台43上に設ける。これにより、ラック・ピニオン9の横揺れを防止し、資材吊り上げなどの作業を安定化させ、施工性を向上することができる。
【0043】
また、このような作業足場40や仮設架台43等の仮設構造体を組み立てるに際して、メンブレンアンカー10の支持面16a上に固定するには、各仮設構造体の、支持面16a上に配置される脚部等の部位を、支持面16a上に設けた保持部材20に当接させる。そして、固定ボルトを保持部材20の貫通孔に挿通するとともに、予め仮設構造体の脚部等に形成した貫通孔(図示せず)にも挿通し、ナット(図示せず)を締結する。これにより、脚部等を保持部材20に保持させ、固定することにより、仮設構造体をメンブレンアンカー10の支持面16a上に固定することができる。
【0044】
本実施形態のメンブレンアンカー10にあっては、メンブレン支持金物13に仮設構造体を支持する支持面16aを設け、該支持面16aに、前記仮設構造体を保持するための保持部材20を設けているので、ハンチ構造部4が大きく形成されている場合に、側壁3へのメンブレン取り付けなどの作業用に作業足場40や仮設架台などの仮設構造体を組み立てる際、メンブレン支持金物13の支持面16aの保持部材20を用いて、仮設構造体を保持し、支持面16a上に支持固定することができる。したがって、仮設構造体を安定した状態に組み立て、固定することができ、これによって仮設構造体の施工性を向上できるとともに、仮設構造体を利用することでメンブレン取り付けなどについての施工性も向上することができる。
【0045】
また、上部保冷部材14は、メンブレン支持金物13の保持部材20に対応する部位が高密度ポリウレタンフォームHによって形成され、その他の部位が低密度ポリウレタンフォームLによって形成されているので、相対的に硬質であって高強度の高密度発泡ポリウレタンフォームHが、保持部材20にかかる荷重を受けてほとんど変形することなく、これを良好に支持する。一方、その他の部位では保持部材20にかかる荷重をほとんど受けないため、比較的軟質であるものの、優れた断熱性を有し、価格も安価な密度発泡ポリウレタンフォームLを用いていることにより、断熱性の確保やコスト低減化を図ることができる。
【0046】
また、基部保冷部材11は、アンカーボルト(固定部材)によって底版2又は側壁3に固定されるように構成されており、かつ、アンカーボルトに対応する部位が高密度ポリウレタンフォームHによって形成され、その他の部位が低密度ポリウレタンフォームLによって形成されているので、相対的に硬質であって高強度の高密度発泡ポリウレタンフォームHが、アンカーボルトを介して伝わる仮設構造体の荷重を受けてほとんど変形することなく、これを良好に支持する。一方、その他の部位ではアンカーボルトを介して伝わる仮設構造体の荷重をほとんど受けないため、比較的軟質であるものの、優れた断熱性を有し、価格も安価な密度発泡ポリウレタンフォームLを用いていることにより、断熱性の確保やコスト低減化を図ることができる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では保持部材20の数を一つのみ示したが、複数であってもよいのはもちろんである。また、保持部材20の形状についても、仮設構造体を保持できる構造であれば、貫通孔20aを形成したもの以外にも種々の構造のものが採用可能である。
また、基部保冷部材11や上部保冷部材14については、前記実施形態では高密度発泡ポリウレタンフォームHと低密度ポリウレタンフォームLの両方を使い分けて形成するようにしたが、本発明はこれに限定されることなく、例えば高密度発泡ポリウレタンフォームHのみで基部保冷部材11や上部保冷部材14を形成してもよく、また、低密度ポリウレタンフォームLのみで基部保冷部材11や上部保冷部材14を形成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…低温タンク、2…底版、3…側壁、4…ハンチ構造部、6,6a,6b…メンブレン、10…コーナー部用メンブレンアンカー、11…基部保冷部材、12…板状部材、13…メンブレン支持金物、14…上部保冷部材、16a…支持面、20…保持部材、H…高密度発泡ポリウレタンフォーム、L…低密度発泡ポリウレタンフォーム、40…作業足場(仮設構造体)、43…仮設架台(仮設構造体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版と側壁との間のコーナー部にハンチ構造部を有する低温タンクにおける、コーナー部用のメンブレンアンカーであって、
基部保冷部材と、
前記基部保冷部材の上面上に設けられて、荷重を分散させる板状部材と、
前記板状部材の上方に設けられて、その上面を、前記底版とハンチ構造部とのなす角、又は、前記側壁とハンチ構造部とのなす角に対応する角度で屈曲する屈曲面としたメンブレン支持金物と、
前記板状部材と前記メンブレン支持金物との間に設けられた上部保冷部材と、を有してなり、
前記メンブレン支持金物には、メンブレンを取り付ける際に使用する仮設構造体を支持する支持面が設けられ、該支持面には、前記仮設構造体を保持するための保持部材が設けられていることを特徴とするコーナー部用メンブレンアンカー。
【請求項2】
前記上部保冷部材は、該上部保冷部材の上面上に配置される前記メンブレン支持金物の前記保持部材に対応する部位が高密度ポリウレタンフォームによって形成され、その他の部位が前記高密度ポリウレタンフォームより軟質の低密度ポリウレタンフォームによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のコーナー部用メンブレンアンカー。
【請求項3】
前記基部保冷部材は、固定部材によって前記底版又は前記側壁に固定されるように構成されており、かつ、前記固定部材に対応する部位が高密度ポリウレタンフォームによって形成され、その他の部位が前記高密度ポリウレタンフォームより軟質の低密度ポリウレタンフォームによって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーナー部用メンブレンアンカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171655(P2012−171655A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35617(P2011−35617)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】