説明

コーニファイドエンベロープ形成・成熟化促進剤

【課題】コーニファイドエンベロープ(cornified envelope;角質肥厚膜;以下、CEと略記する)の形成・成熟化促進剤の提供。
【解決手段】下記式(1)のイミダゾリジノン誘導体及び/またはその塩からなるCEの形成及び/または成熟化を促進するCE形成・成熟化促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾリジノン誘導体及び/またはその塩からなるコーニファイドエンベロープ(cornified envelope;角質肥厚膜;以下、CEと略記する)の形成及び/または成熟化を促進するCE形成・成熟化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角層は、表皮角化細胞が終末分化して形成された角質細胞と、それをとりまく細胞間脂質から構成される。細胞間脂質は、セラミド、コレステロール、脂肪酸などを成分としてラメラ構造を形成している。一方、角質細胞は、ケラチン線維を主成分とし、それを包むCEから構成される。CEは、表皮角化細胞の分化にしたがって該細胞において産生される複数のCE前駆体タンパク質が、酵素トランスグルタミナーゼにより架橋され不溶化して形成される。さらに、その一部には、セラミドなどが共有結合し、疎水的な構造をとることで、前述した細胞間脂質のラメラ構造の土台を供給することが示唆されている。
【0003】
CEは、表皮組織または培養皮膚細胞などを、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤およびメルカプトエタノールなどの還元剤を含む溶液中で煮沸し、遠心分離などの手段により可溶性成分を除去した不溶性画分を得ることにより調製できる。これを顕微鏡で形態観察することにより、その性状を評価することができる。Michel らは、角層の最外層に比較して角層の深部においては、脆弱な構造のCEが多いことを報告している(J. Invest. Dermatol. 91:11-15,1988)。さらに、乾癬や葉状魚鱗癬などでは最外層においても脆弱なCEが認められるとしている(Br. J. Dermatol. 122:15-21,1990)。
【0004】
本発明者らは、皮膚、特に角層の状態をCEの性状から解明すべく検討を行ってきた。その結果、CEの形態に加えて、例えば、ナイルレッド(Nile Red)染色によりCEの疎水性を調べ、また、構成要素であるインボルクリンの抗原性を免疫染色により調べることにより角層の変調を捉えることができることを見出した。
【0005】
さらに、かかる染色性を利用することにより培養角化細胞におけるCEの形成または成熟度を評価することができることも見出した。このような知見に基づき、本発明者らは皮膚由来の角層試料におけるCEを、疎水性領域を選択的に染色できる色素で染色し、CEの染色性を評価の指標とすることを特徴とする、CEの性状の評価方法、肌質の評価方法を提案した(特許3878787)。
【0006】
一方、CE形成・成熟化促進剤としてはグリセリン、エリスリトール、及びトリメチルグリシン(特開2002-265347)やアミジノスルホン酸誘導体(特開2006-96744)を見出したが、前者はその効果が弱く、後者は匂いの観点で改善が必要であり、更なる有効手段が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特許3878787
【特許文献2】特開2002-265347
【特許文献3】特開2006-96744
【0008】
【非特許文献1】J. Invest.Dermatol. 91:11-15,1988
【非特許文献2】Br. J. Dermatol. 122:15-21,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、CEの形成や成熟化を量的にも質的にも促進するさらなる有効手段の提供が待たれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、未熟CEが成熟しうる能力を保持しているのではないかと考え、検討したところ、一定の条件下において、未熟CEが成熟CEに変換しうることを見出した。さらに、それらの条件を満たす一定の有効成分を配合した皮膚外用組成物の連用が、ヒト皮膚のCE形成を促すことを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0011】
前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ある種のイミダゾリジノン誘導体が上記のような性質を備えており、非常に優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記式(1)のイミダゾリジノン誘導体及び/またはその塩からなる、CEの形成及び/または成熟化を促進するCE形成・成熟化促進剤を提供する。
【化1】

【0012】
本発明のイミダゾリジノン誘導体及び/またはその塩を皮膚に適用することにより、CEの形成及び/または成熟化を促進することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によりCEの形成・成熟化促進剤の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にいうCEの形成または成熟化とは、表皮角化細胞が分化するにしたがって産生される複数のCE前駆体タンパク質が酵素トランスグルタミナーゼ等の作用で架橋され不溶化し、さらに、その一部にセラミドなどが共有結合し、疎水的な構造となることを意味する。したがって、CEの形成または成熟化は、疎水性領域を選択的に染色できる色素、例えば、ナイルレッドによる染色陽性またはCEの構成タンパク質の抗原性の低下もしくは消失(具体的には、該タンパク質に対する抗体の結合性の低下もしくは消失)によって検出できる。
【0015】
また、本発明にいう、「CEの形成及び/または成熟化を促進する効果を有する」とは、本発明のイミダゾリジノン誘導体を皮膚に適用することにより、上述のようなCEの形成及び/または成熟化がもたらされる作用および効果を示すことを意味する。したがって、本発明では、イミダゾリジノン誘導体がCEの形成及び/または成熟化をもたらすような態様で使用される。
【0016】
本発明のイミダゾリジノン誘導体は、公知の化合物であり、容易に合成することができる。また、ALDRICH社やMERCK社より容易に購入することができる。また、DE2746650 には皮膚保湿剤としての用途、特許2901297 には浸透促進化合物としての用途がそれぞれ公開されている。しかしながら、本発明のイミダゾリジノン誘導体がCEの形成及び/または成熟化を促進する効果を有することは全く知られていない。
【0017】
本発明のイミダゾリジノン誘導体を化学名で言うと、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリジノンである。
【0018】
また、本発明のイミダゾリジノン誘導体は公知の方法により無機塩又は有機塩とすることができる。本発明において用いられる塩としては、特に限定されないが、例えば、無機塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としては、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられる。
【0019】
本発明のイミダゾリジノン誘導体のCE形成・成熟化促進剤としての製剤への配合量は特に限定されるものではないが、通常、それを含む組成物の全量中、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%程度である。
【実施例】
【0020】
例1:CE成熟促進試験
未熟CEを多く含む角層をテープストリッピングにより採取し、テープに接着したままの角層に被験溶液を塗布し、温度37℃、湿度70%の条件で4日間インキュベートした。インキュベート終了後に、ジチオスレイトール、ドデシル硫酸ナトリウムを含むトリス塩酸緩衝液を加えて、100℃にて10分間加熱した。不溶物を、4000g10分間の遠心により集めた。さらに溶出液添加と加熱を繰り返して、可溶性成分を徹底的に除去した。こうして得られた不溶物をCEとした。
【0021】
このように調製したCEの性状を、特許3878787号公報の方法により評価した。すなわち、CEをスライドグラスに滴下し、風乾させた後、冷アセトン中で固定した。ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩液にて水和させた後、マウス抗ヒトインボルクリン抗体(NOVOCASTRA社)を1次抗体として反応させた。余剰の抗体を洗浄により除去した後に、FITC標識ウサギ抗マウスイムノグロブリン抗体を2次抗体として反応させた。余剰の抗体を洗浄により除去した後に、ナイルレッド染色液を反応させ、封入し、蛍光顕微鏡にて観察した。観察画像をCCDカメラを介してコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(Win Roof)を用いて、インボルクリン陽性の未熟CE、ナイルレッド陽性の成熟CEなど、その成熟度を鑑別した。結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
例2 保湿効果試験
各被験者の前腕内側を被験部位とした。試験は恒温恒湿室(25℃、相対湿度30%)にて行い、角層水分量の測定はSKICON-200(IBS社製)を用いて3回ずつ行い、3回の平均値を各被験部位のコンダクタンス値とした。被験部位の試験開始時の角層水分量を測定後、各試験試料を1回塗布し、30分後及び60分後に角層水分量を測定した。30分後及び60分後のコンダクタンス値から試験開始時のコンダクタンス値を差し引いた値を△コンダクタンスとした。結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
表1の結果から、本発明に係るイミダゾリジノン誘導体により、CEの成熟化の亢進を図ることができることが明らかとなった。また、表1及び表2の結果から、本発明に係るイミダゾリジノン誘導体は代表的な保湿剤であるグリセリンと比較して著しく保湿効果が低いにもかかわらず、グリセリンより著しく良好なCE成熟促進効果を示し、CE形成・成熟化効果と保湿効果は全く別の効果であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)のイミダゾリジノン誘導体及び/またはその塩からなるコーニファイドエンベロープ(cornified envelope;角質肥厚膜;以下、CEと略記する)の形成及び/または成熟化を促進するCE形成・成熟化促進剤。
【化1】


【公開番号】特開2008−303187(P2008−303187A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152868(P2007−152868)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】