説明

コーヒー果実の処理方法、コーヒー生豆、コーヒー焙煎豆、及びコーヒー飲料

コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法であって、コーヒー果実を蒸気処理した後、コーヒー生豆を分離精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーノキと呼ばれるアカネ科の植物の果実であるコーヒー果実は、一般的に赤道周辺の熱帯地域で栽培される。コーヒー果実は、通常、播種から2〜3年で開花・結実し、収穫可能となる。
現在、コーヒー果実の処理方法としては、非水洗式又は水洗式手法により、コーヒー果実からその外皮及び果肉部分を取り除いてコーヒー生豆を得る精製工程が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
このとき得られたコーヒー生豆を焙煎処理(ロースト)したものがコーヒー焙煎豆である。コーヒー特有の味覚や香りの素となる成分であるコーヒー香味成分は、コーヒー生豆を焙煎処理する焙煎工程において生成される。
コーヒー香味成分は、粉砕したコーヒー焙煎豆に熱湯等を注ぐことによって抽出できる。当該コーヒー香味成分を含んだ抽出液がコーヒー飲料となる。
【0003】
コーヒー果実は成熟した後に収穫される。また、収穫される地域が熱帯地域であれば、比較的短期間でコーヒー果実の棲み付き菌などの雑菌によって腐敗が進行する虞がある。そのため、収穫後はできるだけ速やかに精製工程を実施する必要がある。しかし、収穫量が非常に多い場合、或いは人手の足りない等の場合には、短期間で処理できない虞がある。このとき、コーヒー果実の腐敗が進行すると、品質の低下を招いたり、収穫したコーヒー果実を廃棄せざるを得ない事態が生じていた。
【0004】
また、近年、コーヒー飲料に対する消費者の嗜好が多様化しており、コーヒーの香味について様々の改善が求められている。その改善方法の一つとして、微生物によって収穫したコーヒー果実の発酵処理を行い、新たなコーヒー香味をコーヒー生豆に添加する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
この方法において、微生物による発酵処理を実施する際、前記棲み付き菌等による雑菌汚染が問題となる場合が生じていた。例えば、コーヒー果実が酢酸菌により汚染された場合、酢酸菌により産生された酢酸をコーヒー生豆が吸収し、その焙煎豆から得られるコーヒー飲料の品質を著しく低下させる虞があった。
また、コーヒー果実が、例えばアスペルギルス フラバス(Aspergillus Flavus)等の毒素産生能を有する雑菌により汚染された場合、当該雑菌が産生したアフラトキシン等の毒素をコーヒー生豆が吸収してしまい、食用・飲用に利用できなくなる虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/029969号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Michael Sivetz,M,S.and H.Elliott Foote,Ph.D“Coffee Processing Technology Vol1”1963 p48〜49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、収穫後のコーヒー果実の日持ちを良くし、かつ、コーヒー果実について微生物による発酵処理を実施する際の雑菌汚染を防止することのできるコーヒー果実の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の第一特徴構成は、コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法であって、前記コーヒー果実を蒸気処理した後、コーヒー生豆を分離精製するコーヒー果実の処理方法とした点にある。
【0010】
本構成によれば、コーヒー果実を蒸気処理することにより、コーヒー果実に付着している棲み付き菌を殺菌して、初期汚染菌数を減少させることができる。その結果、雑菌の増殖を遅らせることが可能となり、コーヒー果実の腐敗の進行を抑制してコーヒー果実の日持ちを良くすることができる。従って、コーヒー果実の品質の低下を招く、或いは収穫したコーヒー果実を廃棄するのを未然に防止できる。そのため、精製工程に係る設備や人手を特に増大させずとも、より多くのコーヒー生豆を得ることが可能となり、生産効率が上がる(生産コストが下がる)ので、より安価なコーヒー生豆を提供することも可能となる。
【0011】
尚、コーヒー果実からコーヒー生豆を得るための精製工程には、非水洗式と水洗式の二種類が知られている。本発明は、これら両方の精製方法に適用することが可能である。即ち、収穫したコーヒー果実を蒸気処理した後、その蒸気処理したコーヒー果実について非水洗式又は水洗式の精製工程を実施することができる。
【0012】
本発明の第二特徴構成は、前記蒸気の温度を70℃〜150℃、処理時間を5秒〜60分とした点にある。
【0013】
本構成の条件により、高温短時間でコーヒー果実の棲み付き菌を効果的に殺菌することができ、コーヒー果実の雑菌汚染による品質低下を未然に防止することができる。また、殺菌時間が短時間となるため水の使用量が少なくなり、排水量を減らすことができる。
【0014】
本発明の第三特徴構成は、前記蒸気の温度を70℃〜110℃、処理時間を5秒〜300秒とした点にある。
【0015】
本構成では、蒸気処理を行う際に高圧容器などの特別な設備を必要としないため、設備投資を抑制できる。また、短時間で殺菌を行うため、熱によるコーヒー果実の香味品質を損なう虞が少ない。
【0016】
本発明の第四特徴構成は、前記蒸気処理後のコーヒー果実について、そのコーヒー果実に含まれる資化成分と微生物とを接触させて発酵処理した後、コーヒー生豆を分離精製する点にある。
【0017】
コーヒー生豆は、コーヒー果実の最も内側に存在しており、発芽に備えて吸水する性質がある。また、酵母等に代表されるある種の微生物は、資化成分である有機化合物を分解(発酵)してアルコール類・有機酸類・エステル類等(以下、発酵成分と称する)を産生し得ることが知られている。
【0018】
従って、コーヒー生豆と資化成分との存在下において酵母等の微生物による発酵を行うと、資化成分を分解して産生された発酵成分は、水分と共にコーヒー生豆に吸収され得る。その結果、発酵成分および水分を吸収したコーヒー生豆を焙煎すると、従来のコーヒー香味成分に加えて、当該発酵成分に由来する新たな香味成分を含むコーヒー焙煎豆を得ることが可能となる。このように、当該コーヒー焙煎豆から抽出されたコーヒー飲料には新たな良質の香味が付与され得る。
尚、本発明における主たる資化成分は、コーヒー果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分)である。
【0019】
本発明においては、蒸気処理後のコーヒー果実について上述の発酵処理を実施するので、コーヒー果実の棲み付き菌数が減少し、雑菌汚染を防止した状態で発酵処理を行うことができる。さらに、蒸気処理によりコーヒー果実の植物繊維が膨潤し、軟らかくなることで、微生物がコーヒー果実内に侵入し易くなると共に、コーヒー果肉内に含まれる糖分等も溶出し易くなり、微生物による発酵がより促進され得る。
【0020】
本発明の第五特徴構成は、前記微生物を、酵母、乳酸菌、又は不完全菌類からなる群より選択した点にある。
【0021】
本構成で列挙した微生物は、入手が容易で、かつ培養や保存等に関しても一般的な方法で対応することができるので扱い易い。
【0022】
本発明の第六特徴構成は、前記酵母をワイン発酵用酵母とした点にある。
【0023】
本構成によれば、醸造香といった特徴ある香味をコーヒー生豆に付与することが可能である。そして、当該コーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味に加えて、フルーティーな醸造香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
【0024】
本発明の第七特徴構成は、前記酵母をサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母とした点にある。
【0025】
本構成によれば、サッカロミセス属に属する酵母として、例えばサッカロミセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス バヤヌス(Saccharomyces bayanus)を使用して発酵処理させた場合、何れの微生物を使用しても、新たな香味成分(発酵成分)をコーヒー生豆に付与することが可能である。
特に上記微生物を使用して得られたコーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味とバランスのとれた(アルコール臭の抑えられた)華やかでリッチなエステリー香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
【0026】
本発明の第八特徴構成は、前記不完全菌類をゲオトリクム(Geotrichum)属に属する不完全菌類とした点にある。
【0027】
本構成によれば、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する不完全菌類として、例えば、ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)、又はゲオトリクム クレバニ(Geotrichum klebahnii)を使用して発酵処理させた場合、何れの微生物を使用しても、新たな香味成分(発酵成分)をコーヒー生豆に付与することが可能である。
特に上記微生物を使用して得られたコーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味とバランスのとれた(アルコール臭の抑えられた)華やかでリッチなエステリー香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
【0028】
本発明の第九特徴構成は、前記ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する不完全菌類を、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号FERM BP−10300)もしくはその変異体、又はそれらの形質転換体とした点にある。
【0029】
ゲオトリクム スピーシーズSAM2421(以下、SAM2421と称する)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、2005年3月22日付で受託されている。
このSAM2421を使用することによって、コーヒー生豆に新たな香味成分(発酵成分)が付与されて、より華やかでリッチなエステリー香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
【0030】
尚、本発明においては、SAM2421もしくはその変異体、又はそれらの形質転換体を適宜使用することが可能である。
変異体としては、例えば自然突然変異によるもの、或いは、野生株に対して放射線や突然変異物質による処理を行って人為的に突然変異を誘発したもの等が挙げられる。一方、形質転換体としては、例えば野生株であるSAM2421若しくはその変異体に外来遺伝子を導入したものが挙げられ、このような形質転換体から、より発酵能の優れた、或いは、取扱いが容易である等の特徴を持つ株を分離して使用することが可能である。
【0031】
本発明の第十特徴構成は、前記蒸気処理後のコーヒー果実を1時間以内に40℃以下まで急冷処理した後に発酵処理を行う点にある。
【0032】
例えばワイン発酵用酵母等の発酵処理に用いる微生物は熱に弱い。そのため、発酵処理を行うためには、蒸気処理後のコーヒー果実が発酵処理に適した温度まで低下するのを待つ必要がある。自然放冷の場合は、その待ち時間の間に、コーヒー果実が余熱で品質劣化したり、わずかに生き残った雑菌が増殖することによる汚染が発生する虞がある。しかし、本構成のように、速やかに冷却することでコーヒー果実の品質劣化を防ぐことができ、かつ、速やかに発酵処理用の微生物を接種して、上述した雑菌の増殖を抑制することができる。
【0033】
本発明の第十一特徴構成は、前記発酵処理の前工程または発酵処理中にpH調整剤を添加してpHを2〜5に制御することにより発酵処理を行う点にある。
【0034】
本構成では、発酵処理において、雑菌の繁殖を抑制することができる。尚、pHを2〜5に制御した場合でも、最終的に分離精製されたコーヒー生豆の香味に異味・異臭はなく、発酵によって生成される良好な醸造香が付与される。
【0035】
本発明の第十二特徴構成は、前記pH調整剤を、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、アミノ酸、又はアミノ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種とした点にある。
【0036】
本構成で列挙したpH調整剤は入手し易く、効果的にpHを低下させることができる。
【0037】
本発明の第十三特徴構成は、前記pH調整剤を、乳酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、酢酸からなる群より選択される少なくとも1種とした点にある。
【0038】
本構成で列挙したpH調整剤は安価で入手し易く、取扱いや保存が簡便である。これらは食品への利用が認められており、安全に飲食できる。
【0039】
本発明の第十四特徴構成は、第一特徴構成の処理方法により得られたコーヒー生豆とした点にある。
【0040】
本構成のコーヒー生豆は安価であり、かつ、コーヒー飲料に新たな良質の香味を付与し得る発酵成分を含む。
【0041】
本発明の第十五特徴構成は、第十四特徴構成のコーヒー生豆を焙煎処理したコーヒー焙煎豆とした点にある。
【0042】
本構成のコーヒー焙煎豆は安価であり、しかも焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味成分に加えて、発酵処理用微生物による発酵により産生された発酵成分に由来する新たな香味成分を含む。
【0043】
本発明の第十六特徴構成は、第十五特徴構成のコーヒー焙煎豆を原料に用いて得られたコーヒー飲料とした点にある。
【0044】
本構成のコーヒー飲料は安価であり、しかも従来のコーヒー香味に加えて、発酵処理用微生物による発酵により産生された発酵成分に由来する新たな良質の香味を有する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
〔実施形態〕
本発明のコーヒー果実の処理方法は、コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するものである。より詳細には、後述の(1)洗浄・選別工程、(2)蒸気処理工程、(3)急冷処理工程、(4)発酵処理工程、(5)乾燥工程及び(6)精製工程を包含する。
【0046】
尚、本発明のコーヒー果実の処理方法は、収穫したコーヒー果実に対して、(1)洗浄・選別工程〜(6)精製工程を順に実施するものである。このとき、必要に応じて、これらの工程のうち(2)蒸気処理工程、及び(6)精製工程以外の工程を任意に選択して省略したり、あるいは、これらの工程(1)〜(6)以外の別の工程を適宜加えて実施するようにしても良い。
【0047】
以下に、(1)洗浄・選別工程、(2)蒸気処理工程、(3)急冷処理工程、(4)発酵処理工程、(5)乾燥工程、及び(6)精製工程を順に説明する。
【0048】
(1)洗浄・選別工程
コーヒーノキより収穫したコーヒー果実を定法に従って水洗いし、それらのコーヒー果実の中から適当な形態(色、大きさ、形等)を有するものを選別する。
【0049】
(コーヒー果実)
本発明におけるコーヒー果実とはコーヒーノキの果実を指す。当該コーヒー果実は、概略すると、コーヒー生豆(種子)、果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分)及び外皮から構成される。より詳細には、最も内側にコーヒー生豆が存在し、当該コーヒー生豆の周囲は、内側から順に、銀皮(シルバースキン)、内果皮(パーチメント)、果肉、外皮で覆われている。
コーヒー果実の品種としては、アラビカ種・ロブスタ種・リベリカ種などが適用可能である。また、産地についても、ブラジル産・エチオピア産・ベトナム産・グアテマラ産などが適用可能であるが、特に限定されるものではない。
【0050】
(2)蒸気処理工程
洗浄・選別されたコーヒー果実に、後述の条件下において蒸気を当て、コーヒー果実に付着している棲み付き菌を殺菌して、初期汚染菌数を減少させる。
【0051】
蒸気処理に使用可能な水としては、軟水・硬水・酸素水・炭酸水・バナジウム水・海洋深層水・イオン水・アルカリ水・酸性水などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、蒸気は飽和蒸気・過熱蒸気のどちらも利用可能である。
【0052】
蒸気処理の条件としては、処理温度が高温であるほど、また、処理時間が長時間であるほど雑菌汚染の抑制に効果的である。しかし、過度な処理条件下(処理温度が高過ぎる、あるいは処理時間が長過ぎる場合)では、コーヒー果実が煮えてしまう等、良好な香味が損逸してしまう虞がある。
一方、十分な殺菌効果が得られない処理条件下、例えば処理温度が低く過ぎる、あるいは処理時間が短過ぎる場合では、雑菌による汚染を招く虞がある。
【0053】
そのため、処理温度としては70℃〜150℃、処理時間としては5秒〜60分で行うことが好ましい。
このとき、処理温度が70℃〜110℃であれば、高圧容器などを必要とせず、大気圧下での蒸気処理が可能であるため過剰な設備投資を必要としない。
また、処理時間が5秒〜300秒であれば、アスペルギルス フラバス(Aspergillus Flavus)等の毒素産生能を有する雑菌を十分に死滅させることができ、かつ果実のもつフレッシュな香味が十分に維持できる。
【0054】
蒸気処理の方法としては、最も簡便には、コーヒー果実を並べた状態で蒸気を散布する方法が考えられる。
好ましくは、少なくとも1箇所以上の蒸気導入部分を有し、温度・圧力を調節可能な金属製の釜を用いて処理温度と処理時間をコントロールする方法が挙げられる。また、トンネル型の蒸気導入部分を少なくとも1箇所以上を設けた速度調節可能なコンベアを使用し、処理温度および処理時間をコントロールする方法としてもよいが、特にこれら方法に限定されるものではない。
【0055】
(3)急冷処理工程
急冷処理の方法としては、蒸気処理後のコーヒー果実に対して0℃〜40℃の冷水を散布する方法、0℃〜40℃の冷水中に投入する方法、地面の上に撒き広げる方法、冷蔵庫等の低温庫内へ保管するといった方法が挙げられる。特にトンネル型の冷風(−30℃〜40℃)の吹き出し口を少なくとも1箇所以上設けた速度調節可能なコンベアを使用し、処理温度と処理時間をコントロールする方法により行うのが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0056】
(4)発酵処理工程
急冷処理工程後のコーヒー果実について、主としてコーヒー果実の果肉を資化成分とし、後述の微生物によって当該資化成分を発酵させる発酵処理を行う。
【0057】
(4−1)微生物
本発明に適用し得る微生物は、コーヒー果実の果肉等を資化(発酵)することが可能であれば適用できる。例えば酵母・乳酸菌・不完全菌類などが挙げられる。これらの微生物は、入手が容易であり、取り扱い性の容易さから好適に用いることができる。
【0058】
酵母は、食品としての安全性の面から、食品での使用実績のあるワイン発酵用酵母やビール発酵用酵母といった醸造用酵母を好適に用いることができる。ワイン発酵用酵母としては、例えば、以下の市販の乾燥酵母、
Lalvin L2323株(サッカロミセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、以下L2323と称する:セティカンパニー社)、
Lalvin EC1118株(サッカロミセス バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、以下EC1118と称する:セティカンパニー社)、
CK S102株(サッカロミセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、以下S102と称する:Bio Springer社)
などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0059】
通常、L2323は赤ワイン醸造用、EC1118はスパークリングワイン醸造用、S102はロゼワイン醸造用に用いられる。このように酵母を用いた場合、醸造香といった特徴のある香味を添加することができる。
【0060】
乳酸菌は、発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ発酵乳等の製造に用いられる公知の菌であれば、適用可能である。例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌が好適に例示される。
【0061】
不完全菌類としては、例えば、ゲオトリクム(Geotrichum)属の不完全菌類が好適に例示され、例えば、ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)、及びゲオトリクム クレバニ(Geotrichum klebahnii)等であり、より好ましくは、ゲオトリクム スピーシーズ((Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号FERM BP−10300)、以下、SAM2421と称する)若しくはその変異体、又はそれらの形質転換体である。
【0062】
本発明でいう変異体とは、自然突然変異によるもの、或いは野生株に対して放射線や突然変異物質による処理等を行って人為的に突然変異を誘発させることにより得られたものを含み、DNAの塩基配列が、欠失・置換若しくは付加されることにより、野生株であるSAM2421と比べて変化したものをいう。
【0063】
一方、本発明でいう形質転換体とは、他種の生物の持つ遺伝子である外来遺伝子を、新規微生物である野生株のSAM2421若しくはその変異体に人工的に導入したものを意味する。製法としては、例えば、外来遺伝子を適当な発現ベクター内に組み込み、その発現ベクターを、電気穿孔法・リン酸カルシウム法・リポソーム法・DEAEデキストラン法など公知の方法で導入する。
【0064】
微生物が乾燥したものである場合は、それぞれの適した方法にそって覆水を行うことができる。例えば、乾燥酵母を用いる場合、37〜41℃に加温した水に20〜30分懸濁してから用いることができる。
【0065】
本発明における微生物の使用量は、香味の添加の効果が得られれば特に限定されないが、培養時間やコストを考え、適宜設定できる。コーヒー果実重量当りでは、例えば酵母や乳酸菌の場合、1.0×105cells/g〜1.0×1010cells/gが適当であり、不完全菌の場合、1.0mg/g〜10mg/gが適当である。
【0066】
(4−2)資化成分
本発明における発酵処理工程において微生物は、蒸気処理されたコーヒー果実中の果肉を資化成分とするが、必要に応じて、その他の資化成分を追加して発酵させても良い。
その他の追加可能な資化成分としては、果肉(コーヒー果肉・ブドウ果肉・サクランボ果肉・桃果肉等)、果汁(ぶどう・桃・リンゴ等)、糖類(サトウキビや甘藷等の植物からとれる単糖・二糖・多糖等)、穀物類(麦芽を糖化させた麦汁等)、培地等が挙げられる。しかし、微生物が資化可能な成分であれば特に限定されず、これらの追加的な資化成分を単独か、あるいは任意に組み合わせて使用しても良い。
尚、上述した追加的な資化成分は、必要に応じて熱水処理・蒸気処理等の殺菌処理を行った後に使用する。
【0067】
(4−3)微生物と資化成分との接触方法
発酵処理工程において微生物と資化成分とを接触させる方法には、例えば以下の方法が挙げられる。
【0068】
(a)直接法
直接法は、コーヒー生豆の存在下において、微生物を資化成分に直接接触させる方法である。例えば、コーヒー果肉を少なくとも一部露出させたコーヒー果実(精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉とコーヒー生豆との混合物)に、上述の微生物の懸濁液を噴霧あるいは散布して直接接触させて発酵させる。
特に、コーヒー果肉を一部露出させたコーヒー果実を用いて発酵させる場合、資化される糖分等がコーヒー果肉中に高濃度で局在するため、効率良く発酵が進む。さらに、すぐ近傍にコーヒー生豆が存在するため、発酵により生成されたアルコール類やエステル類等の発酵成分が速やかにコーヒー生豆中に移行し得る。尚、乾燥させたコーヒー果実あるいはコーヒー果肉を使用する場合は、適度に水分を含ませた状態で発酵させても良い。
【0069】
(b)間接法
間接法は、発酵槽に貯留してある発酵液中に、コーヒー生豆・資化成分・微生物を各別に加えて混合し、発酵液中に溶出し得る資化成分に微生物を接触させる方法である。例えば、上述の微生物と、コーヒー果肉を少なくとも一部露出させたコーヒー果実(又は、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉とコーヒー生豆との混合物)とを発酵液中に添加して発酵させる。
【0070】
(4−4)コーヒー果肉の露出方法
本発明において、発酵処理工程における発酵速度を増加させるために、コーヒー果実の表面の少なくとも一部に、コーヒー果肉を露出させる方法を用いても良い。
【0071】
コーヒー果肉を露出させる方法としては、熱水処理の前又は後にコーヒー果実に鋭利な刃物等で傷を付けても良いし、脱穀装置等を用いて外皮に切れ目が入るようにコーヒー果実に圧力をかけるようにしても良い。このとき中のコーヒー生豆にまで傷をつけないように注意が必要である。
また、皮むき機等を使用して、コーヒー果実の外皮のみを剥いて果肉を露出するようにしても良い。尚、コーヒー果実を収穫する際、偶然に傷がついてその果肉の少なくとも一部が露出してしまったものについては、特に上述の果肉の露出操作を行う必要はない。また、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉を使用する場合にも、特に上述の果肉の露出操作を行う必要はなく、別途コーヒー生豆を加えて発酵を行う。
【0072】
(4−5)発酵処理条件
微生物の発酵処理条件については、発酵が実施され得る条件であれば特に限定されず、必要に応じて発酵に適した条件を適宜設定することができる。当該条件は、例えば使用する微生物の種類やその菌量(初期菌数)・資化成分の種類や量(濃度)・温度・湿度・pH・酸素又は二酸化炭素濃度・発酵時間等である。
【0073】
また、資化成分以外にも、必要に応じてpH調整剤などの添加剤、窒素源および炭素源を補うための市販の栄養培地等を補助的に添加することもできる。
【0074】
発酵処理工程において、雑菌汚染防止のため、雑菌の増殖を抑えるように温度・pH・二酸化炭素濃度等の条件をそれぞれ単独か又は適宜組み合わせてもよい。
例えば、15〜30℃といった低温環境下にて発酵を行わせる、或いは、必要に応じてpH調整剤等を添加して、より厳しい酸性条件下で発酵を行わせることが可能である。当該pH調整剤は、例えば乳酸・アジピン酸・クエン酸・リンゴ酸・酢酸等の各種有機酸、各種有機酸塩、リン酸等の各種無機酸、各種無機酸塩、各種アミノ酸、各種アミノ酸塩等が例示される。
さらに、二酸化炭素濃度を上げてより嫌気的な条件下で、或いは、酸素濃度を上げてより好気的な条件下で発酵を実施するなどしても良い。
【0075】
また、発酵処理工程において、上記の発酵条件を、自動及び/又は手動で制御可能な恒温槽・タンク・貯蔵庫にて発酵処理工程を行うこともできる。制御すべき発酵条件は、例えば、使用する微生物の種類やその菌量(初期菌数)、資化成分の種類・量・濃度、温度、湿度、pH、酸素又は二酸化炭素濃度、発酵時間等である。
【0076】
尚、発酵処理工程に要する時間は限定されず、添加される香味の質・強さによって、あるいは、微生物や資化成分によって、適宜選択すればよい。また、資化成分の枯渇を目安に、発酵処理工程を終了してもよい。
【0077】
発酵処理工程を終了させる際には、加熱滅菌する、水洗する、天日干しする、資化成分とコーヒー生豆を分離する、あるいは、焙煎するといった方法を組み合わせることができる。例えば、乾燥機を用いる場合、35〜60℃で1〜3日程度乾燥させることにより、発酵を終了させることができる。
【0078】
本発明のコーヒー果実の処理方法においては、微生物や発酵条件をそれぞれ適宜選択して、任意に組み合わせることによって、コーヒー生豆に様々な香味を添加することも可能である。尚、微生物は、2種類以上の微生物を選択して、それらを同時に使用することも可能である。
【0079】
(4−6)発酵処理工程の一例
ここでは、コーヒー果実を用いて発酵を行う例を説明する。
本発明は、例えば、コーヒー生豆の精製工程中に発酵処理工程を行うことができる。
【0080】
非水洗式の精製工程では、例えばコーヒー果実を収穫して蒸気処理した後、上記の(a)直接法により微生物および資化成分を接触させて発酵させた後、乾燥させる。
一方、水洗式の精製工程では、例えばコーヒー果実を収穫して蒸気処理した後、そのコーヒー果実を水槽に沈めて不純物を除去する際、上記の(b)間接法により微生物およびコーヒー果実を当該水槽(発酵槽)で混合して発酵させる。
【0081】
(5)乾燥工程
発酵処理工程を終了したコーヒー果実は、その表面に付着している微生物を水で洗い流して分離してから、或いは微生物を付着させたままの状態で、約40℃の熱風下において約2〜3日間乾燥させる。
【0082】
(6)精製工程
乾燥工程を終了したコーヒー果実は、その後、通常の精製工程に沿ってコーヒー果肉等が除去され、脱穀されてコーヒー生豆が分離される。
【0083】
コーヒー果実からコーヒー生豆を得るための精製工程には、非水洗式と水洗式の二種類が知られている。
非水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、そのまま乾燥させたものを脱穀して外皮・果肉・内果皮・銀皮等を除去し、コーヒー生豆を得る方法である。
一方、水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、水中に沈めて不純物を除去し、果肉除去機で外皮及び果肉を除去してから、再度水中に沈めて粘着物を溶かして除去し、さらに、水洗した後に乾燥させたものを脱穀して内果皮、銀皮を除去してコーヒー生豆を得る方法である。
非水洗式の精製工程は操作が容易であるが、主に気候が乾燥している地域で適用される。一方、水洗式の精製工程は、主に多雨の地域で適用される。
【0084】
尚、本発明におけるコーヒー生豆とは、コーヒー果実内に種子として存在する状態で存在するものであっても良いし、あるいはコーヒー果実から下記の精製工程を経て単離された状態で存在するものであっても良い。1粒のコーヒー果実からコーヒー生豆は1粒或いは2粒採取される。
【0085】
このようにして分離されたコーヒー生豆は、通常の方法で焙煎処理することが可能である。当該焙煎処理の条件を適宜変更することで、焙煎度合の異なる種々のコーヒー焙煎豆(ライトロースト〜イタリアンロースト)を得ることができる。
得られたコーヒー焙煎豆は、粉砕した後、加水して濾材によって濾過抽出して得られた抽出液をレギュラーコーヒーとして飲用に供することができる。その他に、当該コーヒー焙煎豆は、工業用原料としてインスタントコーヒー、コーヒーエキス、缶コーヒーなどを製造する原料に使用することが可能である。
【実施例】
【0086】
以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)蒸気処理の発酵への影響(雑菌の抑制効果)についての検討
コーヒー果実を用いて、蒸気処理の発酵への影響を検討した。トンネル型の蒸気導入部分を設けた速度調節可能なコンベア(送帯式蒸機2K型・カワサキ機工社)を用い、蒸気温度100℃、処理時間30秒となるようにコーヒー果実1000gを処理した。蒸気処理したコーヒー果実1000gを3000mL容フラスコに収容した。
【0088】
次にワイン発酵用酵母であるEC1118株の乾燥菌体1gに対し、無菌水4gを加えて溶解した酵母溶液を、蒸気処理済のコーヒー果実1000gに満遍なく付着させた。これを23℃にて48時間静置して発酵処理した(試料1)。また、蒸気処理をしないコーヒー果実をコントロールとして準備した(比較例1)。
【0089】
発酵処理を行ったコーヒー果実を経時的(1時間、24時間、48時間)にサンプリングし、コーヒー果実表面に付着している雑菌数の測定を行った。
【0090】
雑菌数の測定においては、コーヒー果実5粒を無菌水15mLに懸濁し、その上澄み液を微生物用プレート培地に塗布後、30℃の恒温培養器にて48時間培養した。培養終了後、培地上の微生物コロニーのうちワイン発酵用酵母以外のものを雑菌としてカウントし、コーヒー果実1個あたりの雑菌数を得た。結果を表1に示す。その結果、試料1は比較例1よりも雑菌数が少ないことが確認された。この結果より、コーヒー果実を蒸気処理することによって、雑菌の繁殖を抑えることに、本発明の技術が有効であることが判った。
【0091】
【表1】

【0092】
次に、コーヒー焙煎豆の評価を行った。試料1および比較例1について、発酵処理後のコーヒー果実を40℃の乾燥器で乾燥させた後、パルピングマシーンを用いて果肉や果皮を取り除いてコーヒー生豆を得、これをL値20に焙煎した。
【0093】
コーヒー官能専門のパネラー5名によって、コーヒー焙煎豆の官能評価を行った。試料1及び比較例1の各コーヒー焙煎豆30gを、粉砕せずにそのままの形状で専用の官能グラスに入れ、ガラスの蓋をした。官能時に蓋をずらし、エステリー香、異臭(腐敗臭)を評価した。弱い(1点)、やや弱い(2点)、中程度(3点)、やや強い(4点)、強い(5点)の5段階で、0.5点きざみで評価した。5名の評価点の平均値を算出し、その結果を表2に示した。その結果、試料1のコーヒー焙煎豆は、比較例1のコーヒー焙煎豆に比べて、良好な香りであった。
【0094】
【表2】

【0095】
上記試料1及び比較例1のコーヒー焙煎豆を用いてコーヒー抽出液を調製した。各コーヒー焙煎豆を細挽きにし、粉砕豆12gに対して熱湯を100g加えて攪拌した。カップテストの定法に従って、浮き上がったコーヒーを取り除き、上澄み液の官能評価を行った。官能評価は、コーヒー専門パネラー5名により実施した。評価項目は、香り(エステリー香、異臭(腐敗臭))及び味(ボディ感、雑味)とした。弱い(1点)、やや弱い(2点)、中程度(3点)、やや強い(4点)、強い(5点)の5段階で、0.5点きざみで評価した。5名の評価点の平均値を算出し、その結果を表3に示した。その結果、比較例1のコーヒー抽出液に比べて、試料1のコーヒー抽出液は、香り、味ともに良好なものであった。
【0096】
【表3】

【0097】
(実施例2)蒸気処理の温度条件、時間条件の検討
コーヒー果実の蒸気処理には、蒸気導入部分を設けた温度・圧力調節可能な圧力容器(HTS−70/160・日阪製作所社)を用いた。
蒸気処理の条件は、
蒸気温度70℃・処理時間60秒(試料2−1)、
蒸気温度100℃・処理時間5秒(試料2−2)、
蒸気温度100℃・処理時間30秒(試料2−3)、
蒸気温度100℃・処理時間300秒(試料2−4)、
蒸気温度100℃・処理時間60分(試料2−5)、
蒸気温度110℃・処理時間30秒(試料2−6)、
蒸気温度150℃・処理時間10秒(試料2−7)、
としてコーヒー果実に対して蒸気処理を行った。
【0098】
蒸気処理後は実施例1に準じて発酵処理を行い、発酵処理中の雑菌の数を計測した。またコントロールとして、蒸気処理をしないコーヒー果実を用いて同様に試験した(比較例2)。結果を表4に示す。その結果、蒸気処理を行った場合、比較例2よりも雑菌数が少ないことが確認された。
【0099】
【表4】

【0100】
(実施例3)蒸気処理後の急冷処理の検討
コーヒー果実を用いて、蒸気処理後の急冷処理の発酵への影響について検討した。実施例1に準じてコーヒー果実1000gに対して蒸気処理(蒸気温度100℃・処理時間30秒)を行った後、冷風装置で5分以内に40℃以下まで急冷処理したもの(試料3)、および、40℃以下になるまでそのまま12時間放置したもの(比較例3)として、実施例1に準じて発酵処理を行い、発酵処理中の雑菌の数を計測した。結果を表5に示す。その結果、比較例3に比べ、試料3は雑菌数が少ない状態を保ったまま、発酵処理を終了することができた。
尚、結果は示さないが、1時間以内に40℃以下まで急冷処理することにより、試料3と同様に、雑菌数が少ない状態を保ったまま、発酵処理を終了することができた。
【0101】
【表5】

【0102】
(実施例4)酵母品種の検討
コーヒー果実を用いて、酵母品種の違いによる発酵への影響について検討した。実施例1に準じてコーヒー果実1000gに対して蒸気処理(蒸気温度100℃・処理時間30秒)を行った後、40℃以下まで急冷したコーヒー果実に対し、EC1118株を利用したもの(試料4−1)、CK S102株を利用したもの(試料4−2)として実施例1に準じて発酵処理を行った。その結果、試料4−1、試料4−2とも、雑菌の増殖はほとんど無く、良好に発酵処理を終えることができた。
次いで発酵処理を終えたコーヒー果実をそれぞれ40℃にて乾燥した後、脱穀してコーヒー生豆とした。これらをL値20まで焙煎し、その香りについて実施例1に準じてパネラーによって評価した。その結果、試料4−1、試料4−2とも、発酵処理よって良好なエステリー香が付与されることが確認できた。
【0103】
【表6】

【0104】
(実施例5)pH調整剤の検討
コーヒー果実の微生物による発酵処理における、pH調整剤の発酵への影響(雑菌の抑制効果)について検討した。実施例1に準じてコーヒー果実500gに対して蒸気処理(蒸気温度100℃・処理時間30秒)を行った後、冷風装置で5分以内に40℃以下まで急冷したものに対し、20000ppmのアジピン酸溶液(pH=2.60)を300g加えたもの(試料5−1)を作成した。
同様に、蒸気処理したコーヒー果実500gに対し、1300ppmのアジピン酸溶液(pH=3.30)を300g加えたもの(試料5−2)、
10ppmのアジピン酸溶液(pH=4.64)を300g加えたもの(試料5−3)、
14000ppmの乳酸溶液(pH=2.68)を300g加えたもの(試料5−4)、
390ppmのリン酸溶液(pH=2.66)を300g加えたもの(試料5−5)、
無菌水(pH=6.00)を300g加えたもの(比較例5)を作成した。
【0105】
これらに実施例1に準じて作成した酵母溶液(EC1118株)をそれぞれ2.5gずつを加え、よく攪拌した後、48時間静置した。
【0106】
雑菌数の測定においては、これら発酵中の上澄み液を経時的(1時間、24時間、48時間)にサンプリングし、微生物用プレート培地に塗布後、30℃の恒温培養器にて48時間培養した。培養終了後、培地上の微生物コロニーのうちワイン発酵用酵母以外のものを雑菌としてカウントし、コーヒー果実1個あたりの雑菌数を得た。その結果、試料5−1、試料5−2、試料5−3、試料5−4、試料5−5は比較例5に比べ、発酵処理終了まで雑菌数を低い状態に保つことが確認できた。
このように、発酵処理において、pHを2〜5程度に制御した場合、雑菌の繁殖を抑制することができ、最終的に分離精製されたコーヒー生豆の香味に異味・異臭はなく、発酵によって生成される良好な醸造香が付与される。
【0107】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー果実からコーヒー生豆を分離精製する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法であって、
前記コーヒー果実を蒸気処理した後、コーヒー生豆を分離精製するコーヒー果実の処理方法。
【請求項2】
前記蒸気の温度が70℃〜150℃、処理時間が5秒〜60分である請求項1に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項3】
前記蒸気の温度が70℃〜110℃、処理時間が5秒〜300秒である請求項2に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項4】
前記蒸気処理後のコーヒー果実について、そのコーヒー果実に含まれる資化成分と微生物とを接触させて発酵処理した後、コーヒー生豆を分離精製する請求項1に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項5】
前記微生物が、酵母、乳酸菌、又は不完全菌類からなる群より選択される請求項4に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項6】
前記酵母がワイン発酵用酵母である請求項5に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項7】
前記酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母である請求項5に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項8】
前記不完全菌類がゲオトリクム(Geotrichum)属に属する不完全菌類である請求項5に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項9】
前記ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する不完全菌類が、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号FERM
BP−10300)もしくはその変異体、又はそれらの形質転換体である請求項8に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項10】
前記蒸気処理後のコーヒー果実を1時間以内に40℃以下まで急冷処理した後に発酵処理を行う請求項4に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項11】
前記発酵処理の前工程または発酵処理中にpH調整剤を添加してpHを2〜5に制御することにより発酵処理を行う請求項4に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項12】
前記pH調整剤が、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、アミノ酸、又はアミノ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項11に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項13】
前記pH調整剤が、乳酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、酢酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項12に記載のコーヒー果実の処理方法。
【請求項14】
請求項1に記載される処理方法により得られたコーヒー生豆。
【請求項15】
請求項14に記載されるコーヒー生豆を焙煎処理したコーヒー焙煎豆。
【請求項16】
請求項15に記載されるコーヒー焙煎豆を原料として用いて得られたコーヒー飲料。

【公表番号】特表2010−509910(P2010−509910A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536909(P2009−536909)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【国際出願番号】PCT/JP2007/072701
【国際公開番号】WO2008/062886
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】