説明

コーヒー飲料のフラン低減化方法およびフラン低減コーヒー飲料

【課題】コーヒー抽出液中に含有されるフラン濃度を低減させる。
【解決手段】粉砕されたコーヒー豆から水抽出によりコーヒー抽出液を得る前に、110〜200℃の過熱水蒸気により処理を行い、得られた揮発性成分を含む蒸気を冷却温度が30〜90℃のコンデンサにて液化して液化物を得る。得られた液化物を水抽出により得られた水抽出液と混合する、フランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
焙煎コーヒー豆よりなる嗜好性原料を抽出して得られる抽出液のフラン低減化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、挽きコーヒーを浸出塔に挿入し、その底部から高温水蒸気を導入して挽きコーヒーを所定時間蒸煮する段階、蒸煮したコーヒーに熱湯を噴霧する段階、浸出塔内の懸濁質を攪拌し、該浸出塔内の浸出を均質に行わしめる段階、上記懸濁質をろ過して浸出液をろ去する段階、上記浸出液を急冷する段階及び上記浸出塔内のコーヒー滓を除滓する段階を含むコーヒー間欠抽出方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、焙煎後のコーヒー豆又は製茶後の茶葉よりなる嗜好性原料に水蒸気や過熱水蒸気を接触させ、その接触後の蒸気を回収することにより、揮発性成分を得る方法が開示されている。この方法は、具体的には、抽出容器内に仕込まれたコーヒー豆の粉砕物の下方から300℃の過熱水蒸気や100℃の飽和水蒸気を接触させ、該抽出容器の上端部から流出する蒸気を集めて冷却することにより、液状の揮発性成分を回収している(例えば同文献の試験例1及び4参照)。さらに、同文献には、該製造方法により製造された揮発性成分と、過熱水蒸気を接触させた後の嗜好性原料を水抽出することにより得られる水抽出物とを含むコーヒー飲料のような飲食品も開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、焙煎コーヒー豆等の嗜好性原料に抽出水を接触させて水抽出液を得る水抽出工程と、同嗜好性原料に飽和水蒸気を接触させて蒸気抽出物を得る蒸気抽出工程とを備え、蒸気抽出工程では、嗜好性原料よりなる原料層の内部から、飽和水蒸気を噴出させることにより、飽和水蒸気を嗜好性原料に直接接触させることにより、該水抽出液と蒸気抽出物が混合されてなる嗜好性原料の抽出液を得る方法が開示されている。
加えて、焙煎コーヒー豆のみならず緑茶葉をも対象とする抽出方法であって、蒸気抽出工程を水抽出工程の前後いずれかに行ってもよい旨、及び水抽出工程の前に120℃〜250℃の過熱水蒸気を用いた抽出により回収した水蒸気を60℃のコンデンサにより回収してもよいことも開示されている。
しかしながら、焙煎コーヒー豆に対しては、水抽出工程と蒸気抽出工程を同時に行う方法のみが実施例として例示されているに留まり、さらに、緑茶葉に対しては水抽出工程の開始直後に蒸気抽出工程を開始することも記載されているのであって、決して蒸気抽出工程を水抽出工程の前に行う方法に限定されるものではない。
そして、これらの特許文献のいずれの記載も、コーヒーに含有されるフランに関しては全く触れておらず、当然にフランに関する問題点や課題も記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−068254号公報
【特許文献2】特開2005−137269号公報
【特許文献3】特開2007−068493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の方法は、浸出塔内に導入する高温水蒸気は浸出塔内に充満するのみであり、その高温水蒸気は浸出塔から流出させるのではなく、挽きコーヒー層を所定時間蒸煮させるために導入されるにすぎない。
特許文献2記載の方法は、焙煎後のコーヒー豆に過熱水蒸気や飽和水蒸気を接触し、その水蒸気を冷却して回収することにより揮発性成分である香気性成分を得る方法であるが、その冷却温度は不明であるし、そもそもコーヒー豆に接触させる水蒸気の温度としては極めて広範囲の温度範囲にわたるので、この温度によっては必要とする成分を得られなかったり、あるいは不要とする成分が混入することが懸念される。
特許文献3記載の方法は、焙煎コーヒー豆等の嗜好性原料に120℃〜250℃の過熱水蒸気を接触させて、得られた水蒸気をコンデンサにて60℃程度に冷却して回収することを行う方法であるが、このような過熱水蒸気を用いた具体例までは示されておらず、しかも過熱水蒸気の温度範囲は極めて広いので、この方法によっても、特許文献2記載の方法と同様に、必要とする成分を得られなかったり、あるいは不要とする成分が混入することが懸念される。
【0007】
また、コーヒーや魚の缶詰等の飲食物には沸点が31.3℃のフランが含まれるところ、フランが摂取された場合、フランは肺や腸から吸収されて体内に取り込まれ、肝臓で速やかに代謝される。このとき、肝臓においてCYP2E1によって大部分が炭酸ガスとして代謝されると共に、毒性のある代謝物として、主にcis-2-ブテン-1,4-ジアールを生成する。このcis-2-ブテン-1,4-ジアールは生体内にてタンパク質と結合することが報告されている。
このような体内動態を示すフランは、ラット及びマウスを用いた試験において、肝細胞線腫と幹細胞がんに対する用量依存性が、さらに2mg/kg体重/日という低い用量においても胆管がんが非常に高い頻度で観察されたことが報告されている。
このようなフランの性質を考慮すると、特許文献2及び3に記載された、過熱水蒸気を用いてコーヒー豆から揮発性香気成分を得る方法によれば、目的とする揮発性香気成分に加えて上記の沸点を有するフランも回収された蒸気内に多量に存在する可能性がある。
そこで、香気に優れたコーヒー飲料においても、フランの含有量を可能な限り削減することが必要であること、加えて従来のコーヒー飲料に含有されるフランは十分に濃度が低下されたものではないという課題を解決するために、過熱水蒸気による抽出と、水による抽出のそれぞれの条件を検討して本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.粉砕されたコーヒー豆に対して水抽出を行う前に、110〜200℃の過熱水蒸気により処理を行い、得られた揮発性成分を含む蒸気を冷却温度が30〜90℃のコンデンサにて液化して液化物を得る。得られた液化物を水抽出により得られた水抽出液と混合する、フランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
2.該過熱水蒸気の温度が120〜200℃である1に記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
3.該過熱水蒸気の温度が140〜200℃である1に記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
4.該コンデンサの冷却温度が40〜90℃である1〜3のいずれかに記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
5.該液化物の量が粉砕されたコーヒー豆10kgに対して2〜3Lである1〜4のいずれかに記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
6.1〜5のいずれかに記載のコーヒー抽出液の製造方法により得られたコーヒー抽出液を含有するフランを低減したコーヒー飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な揮発性香気性成分を十分に含有させると共に、これらの揮発性香気性成分と同程度の沸点を有するフランの含有量を低減させるという、相反する性質を備えたコーヒー抽出物を得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のコーヒー抽出物の製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するために必要な事項について説明する。
本発明のコーヒー抽出液の製造方法の操作は、粉砕された焙煎コーヒー豆を過熱水蒸気と水によりそれぞれ抽出することにより該粉砕された焙煎コーヒー豆の抽出液を得ることを基本とする。この製造方法は、粉砕された焙煎コーヒー豆に過熱水蒸気を接触させて抽出することにより蒸気液化物を得る過熱水蒸気抽出工程と、該粉砕された焙煎コーヒー豆に抽出水を接触させて水抽出することにより水抽出液を得る水抽出工程とからなる。さらに、水抽出工程で得られた水抽出液と過熱水蒸気抽出工程で得られた蒸気を液化させてなる液化物とを混合させることにより、両工程で得られた成分を含有する粉砕された焙煎コーヒー豆の抽出液を得る製造方法である。
この方法において、過熱水蒸気として特定の温度範囲のものを選択し、かつ、コンデンサも特定の冷却温度のものを選択することにより、得られるコーヒー抽出液に含有されるフランの濃度を大きく低減させることが初めて可能になる。
【0012】
焙煎コーヒー豆の原料のコーヒー豆(コーヒー生豆)の種類としては、香気成分の含有量が高いことから、アラビカ種、カネフォーラ種ロブスタ、コニュロン又はリベリカ種を用いることが好ましいが特に限定されない。これらのコーヒー豆は、単独で用いてもよく、複数種類のコーヒー豆をブレンドして用いてもよい。
コーヒー生豆の焙煎条件は、通常のコーヒー飲料に使用される焙煎範囲である焙煎度L値15〜30程度の範囲内であれば良く、特に限定されない。焙煎方法については、遠赤外線焙煎、熱風焙煎、直火焙煎、炭焼焙煎の何れの方法でも良く、またこれら焙煎方法の組み合わせ(同時処理、併用処理)でも良い。前記焙煎度L値が15未満の場合には粉砕されたコーヒー豆が焙煎(焙焼)されたときのスモーク臭が増加するおそれが高く、逆に30を越える場合にはコーヒー独特の好ましいロースト臭が得られにくい。
前記焙煎後のコーヒー豆の形態は、前記過熱水蒸気抽出及び水抽出が可能な形態であれば特に限定されないが、揮発性成分の抽出効率を高めるためには任意の大きさの粉砕物であることが好ましい。前記粉砕物を粉砕された焙煎コーヒー豆として用いる場合には、その粒度やホール形状等は特に限定されない。また、このコーヒー豆は、揮発性成分の損失を抑えるために、焙煎直後(好ましくは1ヶ月以内、より好ましくは10日以内、保存方法により品質劣化速度が異なるため、焙煎後直ぐに使用できない場合は不活性ガス雰囲気下や低温にて保存することが望ましい)のものを用いることが好ましい。
【0013】
上記過熱水蒸気抽出工程は、過熱水蒸気を粉砕された焙煎コーヒー豆に直接接触させた後、接触後の蒸気を回収することによって行われる。前記接触後の蒸気には、前記揮発性成分が高い濃度で含有されている。
過熱水蒸気は、飽和水蒸気に対して圧力を上げることなくそのまま熱を加えることによって生成される水蒸気である。この過熱水蒸気は、液体の水をボイラーや電磁誘導加熱等により沸騰させることによって生成した飽和水蒸気を、バーナー、電気ヒーター又は電磁誘導加熱装置で加熱することによって得られる。前記飽和水蒸気を加熱する際には、飽和水蒸気を加圧しながら加熱してもよいが、加圧後の減圧によって過熱水蒸気の温度変化が制御しにくい等の理由から加圧せずに加熱するのが好ましい。前記電磁誘導加熱装置は、通常、セラミック又は金属製の発熱体を周波数100Hz〜100kHzの電磁誘導加熱により加熱し、該発熱体の表面に飽和水蒸気を接触させつつ加熱することによって過熱水蒸気を生成させるようになっている。
【0014】
上記過熱水蒸気抽出工程によれば、粉砕された焙煎コーヒー豆から揮発性成分を蒸気抽出することができる。しかも、過熱水蒸気により得られた揮発性成分は、過熱水蒸気を生成させるための加熱がされていない飽和水蒸気等の手段を採用するよりも、焙煎コーヒー豆の高品質な風香味を忠実に再現しつつ、収量を容易に高めることができて大変有用である。
つまり、この揮発性成分は、粉砕された焙煎コーヒー豆から、水抽出する前に過熱水蒸気により蒸気抽出することによって回収される香気が良好な揮発性の高い成分をより多く抽出・含有しており、さらに、前記過熱水蒸気抽出は、水抽出と比べて、揮発性の高い成分を極めて迅速、効率的かつ特異的に抽出することができるという特性を有する。このため、本発明によれば、回収された蒸気に含有される揮発性成分は、焙煎コーヒー豆中に含まれる香気が良好な揮発性成分がより高い収量で抽出されているうえ、抽出に要する時間は極めて短時間(水抽出の半分未満の時間で抽出が可能)であることから、過熱水蒸気抽出工程で得られた蒸気を液化させてなる液化物に、劣化の程度の低い高品質な揮発性成分を多量に含有させることができる。
さらに、本発明における過熱水蒸気により抽出された揮発性成分にはフランも高濃度で含有されており、この結果、もともと粉砕された焙煎コーヒー豆に含有されていたフランと、過熱水蒸気による加熱により、生成機構は不明ではあるものの新たに生成したフランが、過熱水蒸気により抽出されると同時に気化してコーヒー抽出機から過熱水蒸気と一緒に取り出される。
【0015】
このような過熱水蒸気による抽出を行わない場合、以下に示す不都合を生じる。
焙煎コーヒー豆から低温の水により水抽出のみを行う場合には、質の良い香気成分が得られやすくなる一方で、揮発性成分の多くが十分に回収できず焙煎コーヒー豆中に残留した状態となる問題が発生する。
また、熱水にて水抽出する場合には、抽出時に香気成分や呈味成分の一部が飛散により失われたり、過熱水蒸気抽出と比べて熱水に曝される時間が長いことから変質したりしやすくなることから、風香味が低下しやすいという問題を生じる。
そして何よりも、水抽出により抽出されるフランの量が多くなり、最終的にコーヒー抽出液に含有されるフランの濃度が高くなる。
【0016】
本発明において、過熱水蒸気を用いて蒸気抽出することにより、有機酸、カフェイン、クロロゲン酸、トリゴネリン等のやや揮発しにくい成分が著しく効率的に抽出されるとともに、その他の揮発性の高い成分が著しく迅速に抽出されることから、劣化の程度が低く、極めて品質の高い揮発性成分を得ることができる。
過熱水蒸気による伝熱は、放射伝熱により水蒸気及び飽和水蒸気と比べて熱効率が非常に高くなっている。さらに、水蒸気の一種であるので対流伝熱も早いという特性を有する。過熱水蒸気は、低温の物質に触れると凝縮し、そのとき物質に熱を与えコーヒー豆の温度を上げるという水蒸気本来の性質と、加熱空気のように物質を加熱する性質を持っていることから、短時間で焙煎コーヒー豆の温度を上昇させて可溶性成分(揮発性成分)の溶解度を一過的かつ瞬時に高めることができる。特に、焙煎コーヒー豆の芯温を短時間で上昇させる効果は、長時間かけて芯温を上昇させる場合と比較して、熱による揮発性成分の変質が抑えられやすくなる点で特筆すべきである。
【0017】
さらに、所定の温度を超えると、乾燥空気中よりも過熱水蒸気中の方が乾燥速度が早まることから、過熱水蒸気中に溶解した揮発性成分は瞬時に蒸気と一体化して粉砕されたコーヒー豆から分離され、回収されるようになっている。さらにこのとき、焙煎コーヒー豆は焙煎したときと同様な物理化学的な変化を遂げることから、焙煎によって得られる以上の揮発性成分を回収することが可能であるうえ、たとえ焙煎が不十分であっても揮発性成分の回収量は高いレベルを維持することが容易である。
【0018】
本発明において、過熱水蒸気により抽出する際の過熱水蒸気の温度は、常圧で110〜200℃であり、好ましくは常圧で120〜200℃、より好ましくは常圧で140〜200℃である。
過熱水蒸気が200℃を超える場合には、過熱水蒸気抽出工程で得られた蒸気を液化させてなる液化物にコゲ臭のような香りが付き、かつ粉砕されたコーヒー豆中における確認できない反応によってフランが生成するために、該水抽出液中のフランの濃度が高くなり好ましくない。
逆に過熱水蒸気の温度が110℃未満であると、過熱水蒸気によりフランを粉砕されたコーヒー豆から十分に除去できず、上記の過熱水蒸気による抽出を行わなかった場合と同様に、その後の水抽出工程にて抽出されるフランの濃度が高くなり好ましくない。
【0019】
この過熱水蒸気による抽出における蒸気量は、粉砕されたコーヒー豆1kg当たり好ましくは0.3〜30kg/h、より好ましくは0.6〜20kg/h、さらに好ましくは1.2〜10kg/hであるとよい。蒸気量が0.3kg/h未満の場合には、揮発性成分の回収に時間を要することから、製造上の効率が悪くなるために適さない。逆に30kg/hを超える場合には、装置コストが高くなったり、またそのための装置スペースも大掛かりなものとなったりするために適さない。
【0020】
この好ましい蒸気量で過熱水蒸気抽出を行う場合の抽出時間としては、好ましくは5〜60分間、より好ましくは6〜30分間、さらに好ましくは7〜20分間である。前記抽出時間が5分未満の場合には粉砕された焙煎コーヒー豆から揮発性成分を効率的に抽出することができず、質の良い揮発性香気成分を十分に抽出できないだけではなく、フランも抽出できず焙煎コーヒー豆により多くのフランを残すことになる。
逆に60分を超えると焙煎コーヒー豆からフランを十分に抽出できるものの、新たにフランを生成しやすくなり、かつ、その他の揮発性成分の加熱劣化が進行しやすくなる。特に、過熱水蒸気を用いて30分を越えて過熱水蒸気抽出する場合には粉砕されたコーヒー豆が焙煎(焙焼)されやすくなってスモーク臭が増加するおそれがある。なお、この過熱水蒸気抽出では、過熱水蒸気を用いたとき、揮発性成分の大半が30分以内に抽出されるようになっているのに対し、工業的な水抽出を行う場合には1時間程度を要する。
【0021】
この過熱水蒸気抽出は、揮発性成分の飛散(拡散)による回収ロスを低減させるために、コーヒー抽出機等の密閉容器内で実施されるのが最も好ましい。また、この過熱水蒸気抽出は、通常は常圧(1気圧)下で行われるが、加圧状態で行われても構わない。さらに、この過熱水蒸気抽出は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気下(脱酸素状態)で行われるのが最も好ましく、この場合には揮発性成分の酸化劣化等の劣化を防止して風香味的に優れた揮発性成分を得ることが可能となる。
なお、脱酸素状態の水を用いてボイラーにて蒸気を生成した場合、過熱水蒸気には酸素がほとんど溶存していないため、粉砕された焙煎コーヒー豆を密閉容器内に仕込んだ状態で該密閉容器内に不活性ガスで置換した後に脱酸素状態の水を利用して過熱水蒸気抽出することによって、容易に不活性ガス雰囲気下を継続的に維持することが可能である。
なお、過熱水蒸気抽出を不活性ガス雰囲気下で行う場合には、揮発性成分の回収を始めとしてその他全ての製品製造工程(コーヒー生豆の焙煎工程や飲食品の製造工程等)においても同様に不活性ガス雰囲気下で行うのが最も好ましい。
【0022】
過熱水蒸気抽出による揮発性成分の回収率は、粉砕された焙煎コーヒー豆の種類等により大きく異なるが、全般に粉砕されたコーヒー豆に対して固形分として0.01〜10重量%(Brix0.01〜10)以内であるのが適当であるが、品質面を考慮すると固形分として0.05〜5重量%(Brix0.05〜5)以内であるのが望ましい。前記回収率が0.01重量%未満の場合には十分な量の揮発性成分が回収されず、逆に10重量%を超える場合には揮発性成分以外の成分、つまり過熱水蒸気抽出に依らずとも水抽出等の簡便な抽出方法によって安定に回収可能な成分が多量に回収されるため不経済である。
【0023】
本発明において、過熱水蒸気による抽出によりコーヒー抽出機から取り出された、揮発性香気成分及びフランを含有する蒸気はコンデンサにて凝縮されて液化物となるが、このコンデンサにおける冷却温度、つまりコンデンサに通液する冷却水等の冷媒の温度条件を調整することも重要であり、この温度条件を選択することによって液化物中に十分な量の揮発性香気成分を含有させると共に、液化物中のフランの濃度を低減させることが可能になる。
具体的には、コンデンサに通液する冷却水の温度としては30〜90℃であり、好ましくは40〜90℃、更に好ましくは40〜60℃である。30℃未満であると液化物中のフランの濃度が高くなり、90℃を超えると液化物中の一部の香気性成分の濃度が低下するので、コーヒー抽出物に十分な香気を付与することが困難となる。
そして、この揮発性成分は、コンデンサにて液化されて液状の状態で液化物として回収された後、粉砕された焙煎コーヒー豆から得た水抽出液中に添加されてコーヒー抽出液となる。なおこのとき、揮発性成分の化学的特性を利用して蒸留又は減圧蒸留にて分画したり、樹脂カラムを使用して精製することによりさらに目的とする成分だけを選択的に回収して使用することも可能である。
【0024】
前記水抽出は、上述したように、0〜100℃の水、好ましくは50〜100℃の水、より好ましくは60〜95℃の熱水、さらに好ましくは80〜95℃の熱水に粉砕されたコーヒー豆を浸漬させ、その水に溶出する成分(水抽出物)を回収することによって行われる。
水抽出の際の抽出温度、時間、抽出方法等の諸条件は、原料により適宜決定されるものであるが、常法に従って行われればよい。なお、この水抽出の方法については、コーヒーの場合はドリップ式、多塔式、ジェット式等が採用されるが、特に限定されない。また、2種類以上の抽出方法を組合わせて行ってもよい。なお、水抽出した後の水抽出液は、凍結濃縮、膜濃縮、真空加熱濃縮等の濃縮を行ってもよい。そして上記の過熱水蒸気による抽出工程と同様に、水抽出工程を不活性ガス雰囲気下で行うことが、水抽出液の劣化を防止する点から好ましい。
【0025】
このコーヒー抽出液は、過熱水蒸気による処理により得られた前記揮発性成分を含有する液化物と、前記揮発性成分を抽出した後の粉砕されたコーヒー豆を水抽出することによって得られる水抽出液を含有する。前記水抽出液には、粉砕された焙煎コーヒー豆中に含まれる揮発しにくい成分(難揮発性成分)と、揮発しない成分(不揮発性成分)とが含有されている。また、これらコーヒー抽出液としては、予め揮発性成分を抽出していない粉砕されたコーヒー豆を水抽出することによって得られる水抽出物を含有していてもよく、この場合には揮発性成分の含量を特に高めた製品を提供することが容易となる。
【0026】
本発明の方法により得られたコーヒー抽出液は、前記揮発性成分を含有する液化物を含有し、このようなコーヒー抽出液は、コーヒー飲料、ミルク入りコーヒー飲料や、ディスペンサー用のコーヒー濃縮エキスに用いられる。
【0027】
本発明のコーヒー抽出液は、揮発性成分の損失を低減させるために、密閉状態の袋や容器内に封入された状態で製品化されるのが好ましい。前記密閉状態の袋や容器としては、金属缶、瓶、PET容器、紙容器、プラスチック容器、アルミ包材等が挙げられる。そして、これらの袋や容器内に充填されたコーヒー抽出液又はコーヒー飲料の殺菌手段としては、レトルト殺菌、UHT殺菌、交流高電界殺菌等の手段を採用できる。
【0028】
また、コーヒー抽出液に、公知の添加物を添加しながらコーヒー飲料を製造することもできる。前記添加物としては、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム等の乳製品、果汁、野菜汁、砂糖、糖アルコール、人工甘味料、天然甘味料、重曹等のpH調整剤、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、植物性脂肪、香料、カラギーナン等の安定剤、増粘多糖類等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加物は、単独で使用してもよく、複数種類の添加物を組合わせて使用してもよい。
例えば、人工的に製造したエキスや香料を添加することによって、より好ましい香りや呈味付けを行う方法を採用することも可能である。
これらの添加剤を添加するタイミングは、コーヒー抽出液を製造後の何れの段階でもよい。なお、コーヒー抽出液又はコーヒー飲料は、製造工程から充填及び容器内に至るまで全て不活性ガス雰囲気(脱酸素状態)下で製造されるのが好ましく、使用するその他原料水や添加物も脱酸素状態のものが使用されるのが最も好ましい。
【0029】
なお、上記焙煎コーヒー豆として、過熱水蒸気を用いて焙煎したコーヒー豆を用いることも可能である。このコーヒー豆は、ロースター等の公知の焙煎機を用いる代わりに、過熱水蒸気を用いてコーヒー生豆の焙煎が行われたものである。過熱水蒸気は、上記実施形態の過熱水蒸気抽出で用いられたものと同様であればよい。なお、過熱水蒸気の蒸気量は、実施形態の蒸気量よりもやや高めの原料1kg当たり1kg/h以上であるのが好ましく、1〜30kg/hであるのがより好ましい。さらにこのとき、コーヒー生豆を焙煎する工程に続いて、上記実施形態の過熱水蒸気抽出を行うことも可能であり、この場合には、焙煎中にコーヒー生豆に接触した後の蒸気は回収せずに、焙煎度L値が30以下になってから蒸気を回収し、揮発性成分として利用するように構成されるとよい。
【0030】
このように構成した場合には、高品質な揮発性成分を大量に抽出することが容易な優れた焙煎コーヒー豆を提供することができる。また、コーヒー生豆に対し過熱水蒸気を用いた焙煎を行うことにより、コーヒー生豆の芯温を短時間で上昇させることができることから、著しく短時間でコーヒー生豆の焙煎を行うことができる。さらに、コーヒー生豆の内外を同時に加温することができることから均一に焙煎することが可能となり、焼きムラによる嫌なエグミや苦みが少なく、すっきりとしたマイルドな味わいになりやすい。加えて、乾燥空気中よりも過熱水蒸気中の方が乾燥速度が早まることから、蒸と乾燥とが同時に行え、コーヒー豆をポーラスな状態に仕上げることが容易となる。そのうえ、有機酸(ギ酸や酢酸等)の生成を抑える効果や乳成分の安定性を向上させる効果等の品質の低下を低減させる効果を発揮することができる。
【0031】
本発明によるコーヒー抽出液及びコーヒー飲料の製造方法について、図1で示す装置を例に示して説明する。
本発明のコーヒー抽出液及びコーヒー飲料を製造するための装置は図1に示すように、コーヒー抽出機、コーヒー抽出機に過熱水蒸気を供給して焙煎コーヒー豆に過熱水蒸気を接触させるための過熱水蒸気発生装置、コーヒー抽出機に熱湯等の水を供給するための装置、コーヒー抽出機から取り出されて回収された蒸気を液化するためのコンデンサ、コンデンサから得られた液化物を調合タンクに供給するための配管、熱湯等の水によって焙煎コーヒー豆から水抽出された抽出液をろ過し、さらにコーヒー抽出液として貯留するタンク、及び該タンクからコーヒー抽出液を移し、該液化物を添加、さらに必要により各種添加剤を添加して、混合・調合するための調合タンクを基本的な構成とする。
コーヒー抽出機は有底有蓋円筒状に形成された耐圧容器からなり、内部を密閉状態にすることが可能であるうえ、不活性ガスを充填すること、及び常圧及び加圧のいずれの状態にも設定可能である。このコーヒー抽出機には、粉砕された焙煎コーヒー豆を保持・収容することができる濾過メッシュ(図示略)が設けられている。
【0032】
コーヒー抽出機の上端には、粉砕された焙煎コーヒー豆を投入するための原料投入口(図示略)と、該原料投入口を開閉可能に閉塞する原料投入蓋(図示略)とが設けられている。
原料投入口から投入された粉砕された焙煎コーヒー豆は、濾過メッシュの上面に保持・収容される。そして、過熱水蒸気抽出処理及び熱湯による水処理工程の終了後には、コーヒー抽出機を開いてコーヒー抽出機内から濾過メッシュの上面の粉砕された焙煎コーヒー豆が取り出されて廃棄される。
【0033】
過熱水蒸気発生装置は、ボイラー等の蒸気を加熱するための装置である。
ボイラー等の蒸気発生手段は電磁誘導加熱装置であっても良く、液体の水を加熱して沸騰させることにより飽和水蒸気を発生させる。過熱水蒸気発生装置は、バーナー、電気ヒーター又は電磁誘導加熱装置等からなり、ボイラー等の蒸気発生手段で発生した飽和水蒸気をさらに加熱することにより過熱水蒸気を発生させる装置である。
ボイラー等の蒸気発生手段と過熱水蒸気発生装置との間は、流量計を備えた接続管で接続され、その接続管は、ボイラー等の蒸気発生手段から過熱水蒸気発生装置へと送り込まれる飽和水蒸気の流量を計測する。
【0034】
ボイラー等の蒸気発生手段から発生する過熱水蒸気の蒸気量は、焙煎コーヒー豆1kgあたり好ましくは0.3〜30kg/h、より好ましくは0.6〜20kg/h、さらに好ましくは1.2〜10kg/hである。蒸気量が0.3kg/h未満の場合には、蒸気抽出処理に時間を要することから抽出効率が低下し、逆に30kg/hを超える場合には、ボイラー等の蒸気発生手段内の内圧が高くなることから、圧力制御を実施するための装置コストが高くなったり、大きな装置スペースが必要になる。
【0035】
コーヒー抽出機内において、濾過メッシュの上面に投入されてなる粉砕された焙煎コーヒー豆に対して過熱水蒸気を供給するため、図示はしないが、なるべく濾過メッシュの上面近くで、投入されてなる粉砕された焙煎コーヒー豆の中に、過熱水蒸気を噴出するノズルを好ましくは複数設ける。
このとき、粉砕された焙煎コーヒー豆に均一かつ速やかに過熱水蒸気が行き渡るように、過熱水蒸気を供給する供給管がコーヒー抽出機内にて任意に分岐しながら、濾過メッシュの上面に位置するように、複数の該ノズルが濾過メッシュの上面に平行な同一平面上に位置するようにすることが望ましい。
該ノズルの位置としては、濾過メッシュを傷つけない範囲とするために、例えば濾過メッシュから50mm以上離間して上に位置させることが必要であり、該ノズルの向きは上方であっても良く、任意の水平方向を向いていても良く、あるいは斜め上方に向けたり、分岐された過熱水蒸気を供給する供給管の端部にさらに先に噴射するように該ノズルを設けても良い。
いずれにしても該ノズルには、粉砕された焙煎コーヒー豆をコーヒー抽出機内に供給する際に粉体等による目詰まり等の発生防止の目的で逆止弁を設けることもできる。これにより粉砕された焙煎コーヒー豆をコーヒー抽出機内に供給するときには該逆止弁を閉じ、過熱水蒸気を供給する際には該逆止弁を開けることにより、円滑に装置を運転することができる。
【0036】
各ノズルは、好ましくは1時間あたり200kg以下、より好ましくは0.1〜100kg、さらに好ましくは1〜50kgの過熱水蒸気を噴出する。各ノズルから噴出される過熱水蒸気の蒸気量が200kg/hを超える場合、コーヒー抽出機内の粉砕された焙煎コーヒー豆に対する過熱水蒸気の接触ムラが起こりやすくなる。逆に蒸気量が0.1kg/h未満の場合、分岐管の本数やノズルの個数を増やさなければ、コーヒー抽出機内全体に過熱水蒸気が行き渡り難くなるため、コーヒー抽出機内の粉砕された焙煎コーヒー豆に対する過熱水蒸気の接触ムラが起こりやすくなる。さらにこの場合、ノズルの数が増加するため、それらの洗浄にかかる手間などが増え、メンテナンス性も悪くなる。
もちろん、過熱水蒸気を適切に供給するために、過熱水蒸気の温度と供給量を検知・制御するための、検知手段、バルブ等の装置を設けることもできる。
【0037】
ここで、仮に過熱水蒸気の供給管の断面積は、過熱水蒸気を1時間あたり100kg通過させる場合に、好ましくは100mm以上、より好ましくは100〜5000mm、さらに好ましくは200〜2000mmに設定されている。過熱水蒸気の供給管の断面積が100mm未満の場合には、過熱水蒸気の供給管に高い圧力が加わるために好ましくなく、逆に5000mmを超える場合には、配管が太くなり、広い設置スペースを要したり、装置の洗浄効率が悪くなるなどの問題がある。
また、コーヒー抽出機の水平断面500mmに1つ以上の割合で該ノズルを設けても良い。洗浄や管理が困難になるほど装置が過度に複雑にならない範囲において、このようにノズルを配置することで、粉砕された焙煎コーヒー豆に対する過熱水蒸気による処理をムラなく行うことができる。
【0038】
コーヒー抽出機の上部又は上端には、蒸気を回収してコンデンサに供給するための配管が接続され、その配管はコンデンサに接続されている。その配管のコーヒー抽出機への接続箇所近傍にコンデンサに供給する蒸気の量等を制御するために、流量や温度を検知する装置、この検知結果に基づいて流量を制御するためのバルブの開度等を制御する装置を設けることができる。
【0039】
コンデンサとしては、蒸気を液化させて回収する公知のコンデンサが使用される。このようなコンデンサとしては、例えば、プレート若しくはチューブやシェル&チューブによる熱交換式のコンデンサ、又は蒸留塔からなるコンデンサが挙げられる。コンデンサは、コーヒー抽出機内で粉砕された焙煎コーヒー豆に接触した後の蒸気を液化させることにより、前記蒸気中に含まれる成分を回収する。液化物はコンデンサの下端部に設けられた抜き出し口を通して回収される。
コンデンサには蒸気を冷却して液化物を得るために冷却液を導入する構造を備え、導入される冷却液は、30〜90℃の温度範囲であり、好ましくは40〜90℃である。
【0040】
コーヒー抽出機に水抽出用の熱湯を供給するために、コーヒー抽出機の上部又は上端には、熱湯の供給管が接続されている。抽出機の上部又は上端の内面に接続されてなる供給管から熱湯を供給し、その熱湯を粉砕された焙煎コーヒー豆に接触させることによって水抽出を行なう。このとき、熱湯がコーヒー抽出機内の粉砕された焙煎コーヒー豆に均一にムラなく接触することが、安定的な抽出液を得るためには必要である。
このため、熱湯をコーヒー抽出機内の粉砕された焙煎コーヒー豆が堆積している上面に均一に噴射させることを目的として、熱湯を噴霧するためのノズル等を設けることが必要である。そのノズルの数は限定されないが、少ないとノズルの噴霧角が広くなり、均一に噴霧することが困難になりがちである。
【0041】
図1に示す装置を用いて、本発明のコーヒー抽出液を製造する方法の一例は以下の通りである。
コーヒー抽出機内に設けられた濾過メッシュ上に粉砕された焙煎コーヒー豆を必要量投入して堆積させる。次いで、粉砕された焙煎コーヒー豆、その水抽出液及び揮発性香気成分等の酸化による劣化を防止するため、該コーヒー抽出機内、各パイプ、タンク、コンデンサ等の各装置に窒素ガス等の不活性ガスを充填・置換した状態で密閉する。また、過熱水蒸気に使用する水、水抽出に使用する水も予め脱気しておくことが必要である。
【0042】
その後、ボイラーにて発生した水蒸気を過熱水蒸気発生装置において、バーナー、電気ヒーター又は電磁誘導加熱装置で加熱することにより過熱して、110〜200℃の過熱水蒸気を得て、この過熱水蒸気をコーヒー抽出機内に通じたパイプによりコーヒー抽出機内に導入する。
コーヒー抽出機内では、予め該濾過メッシュの上に堆積された粉砕された焙煎コーヒー豆からなる層の中の該濾過メッシュのなるべく近い位置に、分岐されても良い該パイプに設けたノズルから該過熱水蒸気を噴出させる。
【0043】
この噴出された過熱水蒸気は、堆積された粉砕された焙煎コーヒー豆全体を加熱しながら、過熱水蒸気により粉砕された焙煎コーヒー豆が含有する揮発性香気成分及びフランを抽出し、その揮発性香気成分及びフランを含有する蒸気流はコーヒー抽出機内を上昇することになる。このようにして得られた、揮発性香気成分及びフランを含有する蒸気はコーヒー抽出機の上部又は上端に接続されたパイプによってコンデンサに導かれ、このコンデンサ内にて30〜90℃の冷却液により冷却されて、揮発性香気成分は液化されて液化物に含有される。
【0044】
このとき、このような冷却液の温度により液化可能な揮発性香気成分は液化物中にもっぱら存在するが、この温度により液化することが困難な成分、例えば沸点がこの冷却液の温度に対して十分に低い温度であると、液化することがなく、気体のままコンデンサ内に存在することになる。このような気体のままコンデンサ内に存在する成分は、その後に連続してコンデンサに導入される蒸気により、順次コンデンサ内からコンデンサ外に通じる図示しないパイプに送出され、必要によって別の液化手段により液化される。
この場合、上記フランの沸点がコンデンサ内を流れる冷却水の温度30〜90℃の下限に近いので、上記のフランは十分に液化されることはなく、コンデンサから得られる液化物中の含有量は著しく低下する。
【0045】
上記の過熱水蒸気による抽出段階の後に、堆積された粉砕された焙煎コーヒー豆の上部に60〜95℃の熱湯を供給することにより、堆積された粉砕された焙煎コーヒー豆に含有される成分を抽出して、濾過メッシュを透過させた後にコーヒー抽出機の下部からパイプによって抜き出すことにより水抽出液を取り出す。
その取り出された水抽出液は熱交換プレートによって冷却された後、濾過されることによって、固体分が除去されて水抽出液としてタンク内に貯留される。
【0046】
こうして得られた揮発性香気成分を含有する液化物と水抽出液を調合タンクにて混合して、香気が豊かであり、かつフラン成分が低減されたコーヒー抽出液を得る。さらに必要に応じて、pH調整剤、乳分、砂糖等の添加物を添加し、さらにゲージ調整を行う。加えて調合タンク内のコーヒー抽出液を脱気することにより、安定性に優れたコーヒー抽出液を得ることができる。
このように本発明の方法によると特定の温度の過熱水蒸気により抽出されて得られた揮発性香気成分について、液化に使用する冷却液の温度が30〜90℃と高いので、粉砕された焙煎コーヒー豆からフランが効率よく抽出され、かつ沸点が低いフランはほとんど液化することがないので、得られた液化物にはわずかのフランが混入するに留まる。
そして過熱水蒸気により抽出された粉砕された焙煎コーヒー豆は、すでにより多くのフランが抽出されたので、従来よりも含有されるフランの量は少ないものである。
【実施例】
【0047】
(フランの濃度測定)
FDAがフランの定量方法として開示する方法を基にして、下記に示す分析条件に基づきフランを定量した。
1.GC条件
カラム:DB−WAX 0.25mm×60m,0.5μm
昇温プログラム:40℃(0min)から10℃/minの昇温速度で昇温し、240℃にて5分間保持した。
キャリアーガス:He、1.7ml/min
2.MS条件
イオン化法:EI(70eV)
測定法:SIM(ターゲットm/z68、内部標準m/z72)
3.試料及びヘッドスペースサンプラー条件
試料調整:試料1g、NaCl2g、HO5ml、
内部標準(Furan−d4)20ng
バイアル:50℃、30min間振とう
ニードル温度:75℃、気化室温度200℃
4.定量方法
内部標準法
【0048】
(カフェイン、クロロゲン酸、トリゴネリン分析方法)
HPLC条件:移動相 メタノール:5%酢酸=15:85
カラム:YMC−Pack ODS−A 250×4mm
カラム温度:50℃
検出器:UV検出器 クロロゲン酸 at 325nm、
カフェイン及びトリゴネリン at270nm
流速:1ml/min
(クエン酸、キナ酸、乳酸、ギ酸、酢酸分析方法)
ポストカラム法
HPLC条件:移動相 反応液(A)0.2mM BTB/15mM リン酸水素2ナトリウム
反応液(B)3mM HClO4
カラム Shodex RSPak KC-811
ミキシングモジュール:JASCO製 反応ユニット
検出器:UV検出器 at445nm
流速:1.7ml/min(反応液B濃度40%)
カラム温度:室温

フラン除去率は、水蒸気を供給せず、水抽出のみにより得られた水抽出液におけるフランの濃度と水抽出液(水蒸気を粉砕された焙煎コーヒーに接触させる処理を行った後の水抽出で得られた水抽出液)+液化物(水蒸気により処理された粉砕された焙煎コーヒー豆から得られた液化物)のフラン濃度の差の、水抽出のみにより得られた水抽出液におけるフランの濃度に対する比率である。
【0049】
(ブラックコーヒーの調整方法)
ブラジル産コーヒー豆10kg(焙煎度L値18.5〜20.5)の粉砕豆を用いた。
粉砕したコーヒー豆をドリップ式抽出機に投入し、常圧下で、該ドリップ式抽出機内、タンク内、配管内の空気を窒素ガスにて置換し、使用する水等の添加物については、予め溶存する気体を除去した。
続いて、常圧下にて100℃の飽和蒸気、110℃、140℃、160℃、200℃、220℃の過熱水蒸気をコーヒー抽出機内の焙煎コーヒー豆の充填層に30kg/hrの量となるように供給して、焙煎コーヒー豆に直接接触させて処理を行った。
コーヒー豆の充填層を通過し、該ドリップ式抽出機から取り出された蒸気は、伝熱面積1.6mのシェル&チューブ式のコンデンサで冷却することにより香気成分を含有する液化物を回収した。その液化に使用したコンデンサの温度は8℃、30℃、40℃、60℃、90℃の中から選択した。
また、過熱水蒸気の温度が160℃でコンデンサの温度が8℃の条件を採用した例においては、液化物の量を1L、2L、4Lと変化させ、過熱水蒸気の温度が160℃でコンデンサの温度が60℃の条件を採用した例においては、液化物の量を2L、3Lと変化させた。この液化物のフラン量を測定した。
【0050】
飽和水蒸気又は過熱水蒸気を接触させる上記の処理に続けて、93〜95℃の熱湯を焙煎コーヒー豆の充填層に供給して抽出を行った。抽出されたコーヒー豆の水抽出液は、熱交換プレートで25℃以下となるように冷却後、100メッシュの篩にて濾過した。回収された水抽出液が70kgとなるまで抽出した。この抽出液のフラン量を測定した。
さらに、回収された抽出液から抜き出した3150gに対してpH調整剤として重曹を5g添加し、さらにこの抽出液に対して上記の飽和水蒸気や過熱水蒸気による処理によって得られた上記の液化物を添加し、その後水にて10Lにゲージアップを行った。
また、別に上記の過熱水蒸気による処理を行わず、93〜95℃の熱湯で抽出を行っただけの水抽出液を70kgとなるまで得て、これから3150gを取り出し、pH調整剤として重曹を5g添加して、水にて10Lにゲージアップしたコーヒー抽出液も得た。
これを190g容量のSOT缶に充填し、121℃、4分間レトルト殺菌して製品とした。この製品のフラン濃度を測定し、その他の成分としてトリゴネリン、カフェイン、クロロゲン酸、クエン酸、キナ酸、乳酸、ギ酸、酢酸の濃度も測定した。
上記の測定した結果を表1及び2に示す。
【0051】
表1に示す結果によれば、水蒸気を供給せずに熱湯による抽出のみを行って得た比較例1の水抽出液70kgにはフランが22411.9μg含有されている。これを上記の方法に準じて製品化した。この製品中のフランの濃度は101.0ppbと極めて高い濃度であった。
【0052】
比較例2〜5は、蒸気液化条件を8℃、液化物収量を2Lとし、飽和水蒸気、過熱水蒸気の温度を100℃、110℃、160℃、220℃と変化させてなる例である。
比較例2によると、液化物中のフランの濃度が2911.1μgと高いためにフラン除去率が66.0%と低くなっている。そして得られた製品中のフラン濃度は、34.3ppbと若干高い値であった。
比較例3によると、フラン除去率は73.8%と高く、製品中のフラン濃度は26.4ppbと低い値であった。しかしながら、この例により得られたコーヒー抽出液は高温の過熱水蒸気により焙煎コーヒー豆にこげ臭が発生するので、得られたコーヒーは味及び香気に劣るものであった。
また、比較例4、5に示すように、飽和水蒸気と過熱水蒸気の温度を100℃から110℃と10℃高温にすると、得られた液化物2L中のフランの量は3044.4μgから3555.6μgと大幅に増加する。このため、比較例4、5によるとフラン除去率は42.9%、49.7%と低く、製品中のフラン濃度は57.7ppb、50.8ppbと高濃度であった。
【0053】
比較例2、6及び7は、蒸気液化条件が8℃、過熱水蒸気の温度を160℃とし、その液化物の収量を1L、2L、4Lとした例である。液化物のフラン量は順に1200.0μg、2911.1μg、6311.1μgと、液化物の収量に応じて増加し、特に比較例6、7は製品中のフラン濃度が48.2ppb、52.1ppbと高いものであった。
さらに比較例4、8、9において蒸気液化条件を8℃、60℃、90℃と変更し、100℃の飽和水蒸気を供給して2Lの液化物収量を得た場合、8℃の条件においては得られた液化物中のフラン量が3044.4μgと高い結果となった。他方蒸気液化条件を60℃と90℃とした場合には、液化物中のフラン量が666.7μg、288.9μgと少なかったものの、水抽出液中のフラン量が7589.0及び8698.5μgと高いため、結局フラン除去率が63.2%、59.9%と低く、得られた製品中のフラン濃度は37.2ppb、40.5ppbと高い値であった。
【0054】
実施例1、2、5及び8は、いずれも過熱水蒸気の温度を160℃、液化物収量を2Lとし、蒸気液化条件を30℃、40℃、60℃又は90℃とした例である。これらのなかでも実施例1によると、液化物のフラン量は1611.7μgと比較的多かったが、水抽出液のフラン量が4904.0μgとそれほど多くないために、フラン除去率が70.9%と高い除去率で、製品中のフラン濃度は29.4ppbと低い値であった。
実施例2、5及び8によると、フランの除去率は実施例1よりも高く、製品中のフラン濃度は低い値であった。
さらに実施例3〜5及び7は、蒸気液化条件は60℃と一定であるが、過熱水蒸気の温度を110℃、140℃、160℃、200℃と変えた例である。過熱水蒸気の温度が高くなるほど、フラン除去率が高くなり、逆に製品中のフラン濃度は過熱水蒸気の温度が110℃のときには34.0ppbと低く、さらに200℃のときの23.3ppbへと順に低下する。
実施例5及び6は過熱水蒸気の温度が160℃、蒸気液化条件が60℃と共通するものの、液化物収量が2L又は3Lである例である。実施例6によれば液化物フラン量が実施例5よりも多いために、得られる製品中のフラン濃度が31.2ppbと実施例5による製品中のフラン濃度24.87ppbよりも高くなるが、それでも実施例6による製品中フラン濃度は低い値を示している。
これらの実施例及び比較例の結果によると、ブラックコーヒーにおいては、本発明における特定の温度範囲の過熱水蒸気を選択し、加えてコンデンサの温度条件も特定の範囲のものを選択して、これらの条件を組み合わせることによって、初めてフランの濃度が低減されたコーヒー抽出液を得ることが可能となった。
特に比較例2〜7のように、蒸気液化条件が8℃の場合には、回収された水蒸気中のフランの多くが液化物中に含有されるので、フラン除去率の低下を製品中のフラン濃度の上昇を引き起こす傾向にある。
また、比較例4、8、9のように使用した水蒸気が温度100℃の飽和水蒸気である場合、その温度が低温であるがゆえに、粉砕された焙煎コーヒー豆から十分な量のフランを抽出できず、その後の水抽出工程により水抽出液中のフランが高濃度となる。
これらの表1に示す結果をまとめると、過熱水蒸気の温度が110℃〜200℃範囲であり、かつ蒸気液化条件が30℃〜90℃であれば、コーヒーとしての優れた香気を保った上で、水抽出液と液化物は少なくともいずれかに含まれるフラン量が特に少ないために、フランの除去率が高く、製品中のフラン濃度を低くすることができるという優れた効果を奏する。
なお、データは示していないが、製品を60℃、3週間の保存をすると、各実施例及び比較例共に保存前に対して保存後のフランの濃度はほぼ同程度の増加率を示すことを確認した。
【0055】
【表1】

【0056】
表2に示す結果によると、各実施例及び比較例共に、調合Brix,調合pH、トリゴネリン、カフェイン、クロロゲン酸、クエン酸、キナ酸、乳酸、ギ酸、酢酸の濃度には、処理条件による傾向の違いは見られず、どの実施例及び比較例によってもコーヒー抽出液としての主要成分の傾向に特段の違いはないといえる。
【0057】
【表2】

【0058】
(ミルク入り加糖コーヒーの調整方法)
焙煎コーヒー豆及びコーヒー豆からの抽出方法に関しては、上記ブラックコーヒーの調整方法と同じ方法を採用した(飽和水蒸気、過熱水蒸気による処理方法、コンデンサによる液化方法、水による水抽出方法も同じ、但し、実施例9及び10にて使用した過熱水蒸気は160℃で、液化物収量は2L、蒸気液化条件のみを60℃と90℃の2種の条件とした)。
実施例9及び10では、水抽出液70kgから取り出した3150gに対して、液化物を添加したものをブラックコーヒーと同様に調整し、さらに、それぞれに対して、pH調整剤としての重曹16.5g、牛乳1000g、砂糖600g及び熱湯にて溶解した乳化剤9.5gを加えて、10Lまでゲージアップを行った。比較例10では、過熱水蒸気を供給せずに得た水抽出液70kgから取り出した3150gに対して、pH調整剤としての重曹16.5g、牛乳1000g、砂糖600g及び熱湯にて溶解した乳化剤9.5gを加えて、水にて10Lまでゲージアップを行った。この結果を表3に示す。なお、これらの添加物は予め溶存する気体を脱気した。
その後、これらのミルク入り加糖コーヒーを190g容量のSOT缶に充填し、121℃、30分間レトルト殺菌して製品とした。この製品のフラン濃度を測定した。その結果を表3に示す。
ミルク入り加糖コーヒーは特にミルクに由来してフランを発生する傾向にあり、さらに殺菌工程により加熱されることによってその傾向が顕著になる。しかしながら、この結果によれば、実施例9及び10においてはミルクや砂糖を添加しても大きくはフラン濃度が上昇しておらず、蒸気を供給しない比較例10の結果よりも明らかにフランは低濃度である。
実施例9及び10以外の過熱水蒸気による処理条件及びコンデンサによる蒸気液化条件によりミルク入り加糖コーヒーを製造しても、実施例9及び10による結果に対して、上記ブラックコーヒーの製造による結果の傾向と同様の傾向を示す。
また、データは示していないが、上記製品を60℃、3週間の保存をすると、実施例9、10及び比較例10共に保存前に対して保存後のフランの濃度はほぼ同程度の増加率を示すことを確認した。
そして、このミルク入り加糖コーヒーに関する結果によっても、上記のブラックコーヒーと同様に、本発明における特定の温度範囲の過熱水蒸気を選択し、加えてコンデンサの温度条件も特定の範囲のものを選択して、これらの条件を組み合わせることによって、初めてフランの濃度が低減されたコーヒー抽出液を得ることが可能となった。
【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕された焙煎コーヒー豆に対して水抽出を行う前に、110〜200℃の過熱水蒸気により処理を行い、得られた揮発性成分を含む蒸気を冷却温度が30〜90℃のコンデンサにて液化して液化物を得る。得られた液化物を水抽出により得られた水抽出液と混合する、フランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
【請求項2】
該過熱水蒸気の温度が120〜200℃である請求項1に記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
【請求項3】
該過熱水蒸気の温度が140〜200℃である請求項1に記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
【請求項4】
該コンデンサの冷却温度が40〜90℃である請求項1〜3のいずれかに記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
【請求項5】
該液化物の量が粉砕された焙煎コーヒー豆10kgに対して2〜3Lである請求項1〜4のいずれかに記載のフランを低減したコーヒー抽出液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のコーヒー抽出液の製造方法により得られたコーヒー抽出液を含有するフランを低減したコーヒー飲料。

【図1】
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