説明

ゴム−スチールコード複合体および空気入りラジアルタイヤ

【課題】良好な接着性を保持しつつ、接着プロモーターや硫黄の配合を充分に低減し得るゴム−スチールコード複合体およびそれを補強層として用いた空気入りラジアルタイヤを提供すること。
【解決手段】本発明のゴム−スチールコード複合体は、1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に接着プロモーターを含有する充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、前記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以上の量であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤの補強部材として用いられるゴム−スチールコード複合体、及びこのゴム−スチールコード複合体によって形成された補強層を有する空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤの補強に供するコードには、高い強力が必要とされているところから、コアフィラメントに複数本のシースフィラメントを撚り合わせたコードや、複数本のフィラメントを撚り合わせたコアストランドにさらに複数本のシースストランドを撚り合わせた、いわゆる層撚り構造を有するコードが使用されている。そして、これらのコードを整列させ、シート状のコーティングゴムを被覆してゴム−コード複合体が得られる。
【0003】
かかるコーティングゴムには、スチールのようなコードとの接着を促進するための接着プロモーター成分と、多量の硫黄が配合されている。こうした接着プロモーターとしては有機酸コバルト塩が代表的であるが、これを多量に配合すると、加硫促進剤や老化防止剤等と反応することによって、未加硫状態で放置した後に接着性やゴムの耐老化性が低下するおそれがある。また、硫黄を多量に配合した場合には、加硫工程前に加硫が過度に進行し、加硫後のゴム物性が劣化するという問題も生じ得る。
【0004】
こうした中、上記のような問題を解決すべく、コーティングゴムとは別にコードの周囲を被覆するゴム層を設けた種々のゴム−コード複合体が開発されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−338749号公報
【特許文献2】特開2003−11613号公報
【特許文献3】特開2007−313944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれのゴム−コード複合体も上述のような接着プロモーターや硫黄の高配合に起因する問題を充分に解消し得るものではない。
【0007】
そこで、本発明は、良好な接着性を保持しつつ、接着プロモーターや硫黄の配合を充分に低減し得るゴム−スチールコード複合体およびそれを補強層として用いた空気入りラジアルタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、コアに充填ゴム層を設けることで、加硫の際にこのコーティングゴムから充填ゴムへ接着プロモーターや硫黄が拡散移行する現象に着目し、この現象を活用したゴム−スチールコード複合体を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム−スチールコード複合体は、1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に接着プロモーターを含有する充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、
複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、
該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、
前記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以上の量であることを特徴とする。
前記充填ゴム(A)が、接着プロモーターを含有しないのが望ましい。
【0010】
また、前記充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)が硫黄を含有してなり、前記充填ゴム(A)における硫黄の含有量が、前記コーティングゴム(C)における硫黄の含有量以下の量であるのが好ましい。
本発明の空気入りラジアルタイヤは、これらゴム−スチールコード複合体からなる補強層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム−スチールコード複合体によれば、接着プロモーターの含有量が極力低減された充填ゴムを用いるため、コード全体として充填ゴムの耐老化性の低下を有効に防止することができる。
また、コアに存在する充填ゴムにより、コアにおけるフィラメントやストランドとゴムとの接触面積を増大させることができ、より強固で高い耐久性を発揮する接着が可能となる。
【0012】
さらに、充填ゴムにおける硫黄の含有量も有効に低減することができ、コードを製造する際の加硫進行時、或いは加硫工程前の保存中における加硫進行を有効に抑制することが可能となる。
このような本発明のゴム−スチールコード複合体を補強層として採用すれば、耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】3+9構造の同径のフィラメントを撚り合わせた層撚りスチールコードを示す図である。
【図2】3+9構造の同径のストランドを撚り合わせた複撚りスチールコードを示す図である。
【図3】図3(a)は本発明のゴム−スチールコード複合体における第一態様を示す模式図であり、図3(b)は従来のゴム−スチールコード複合体を示す模式図である。
【図4】本発明に用いるコードを製造するために使用する一般的なコード製造設備について示す図である。
【図5】コアおよびシース間の隙間の面積Aとコアおよびシース間に占める充填ゴム層の面積Bを示す図である。
【図6】ゴム被覆装置を用いてコアフィラメントに充填ゴムを被覆する様子を示す図である。
【図7】複撚りスチールコードを製造するために使用するコード製造設備について示す図である。
【図8】耐腐食疲労性の評価に用いる装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に、本発明に従うコードの軸方向と直交する断面を示す。
【0015】
図1は、本発明のゴム−スチールコード複合体に用いるスチールコードを示すものであり、3本のコアフィラメント(またはコアストランド)1aからなるコア1の周囲に、シース2となる9本のシースフィラメント(またはシースストランド)2aを撚り合わせてなる同径のフィラメント(またはストランド)を撚り合わせた層撚りスチールコード3aである。そして、この層撚りスチールコード3aは、図1に斜線にて示すように、コア1とシース2との間に、充填ゴム(A)層4を有するものである。なお、コアストランドおよびシースストランドを用いた場合、図2(a)〜(c)に示すように、ストランドの複数本を撚り合わせることによって複撚りスチールコード3bが構成される。図2(a)はコアストランド5の周囲に充填ゴム(A)層4を有するものであり、図2(b)は図1に示すようなスチールコードを複数本撚り合わせたものであり、図2(c)は図1に示すようなスチールコードを複数本撚り合わせた上にさらに充填ゴム(A)が被覆されてなるものである。
【0016】
本発明のゴム−スチールコード複合体は、これら1本または複数本のコアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、複数本のシースフィラメント(またはシースストランド)を撚り合わせて層撚りスチールコード(または複撚りスチールコード)を形成し、かかるスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなる。すなわち、図3(a)の模式図に示すように、ゴム層が充填ゴム(A)層4とコーティングゴム(C)層7との2層からなるゴム−スチールコード複合体である。従来のゴム−スチールコード複合体は、例えば図3(b)に示すように、コアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆したり、装填したりするものではなかった。これに対し、本発明のゴム−スチールコード複合体は上述のように充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるので、これらコアフィラメント(またはコアストランド)とゴム間におけるより強固な接着性および高度な耐久性を発揮することができる。また、充填ゴム(A)が存在することにより、フレッティングが抑制され耐腐食疲労性が向上する。
【0017】
なお、上記充填ゴム(A)は1本または複数本のコアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙のうち、少なくとも一部に充填されていればよく、必ずしもコアフィラメント(またはコアストランド)の外表面にまではみ出していなくてもよい。また、図2ではコアストランドを形成するコアフィラメントの周囲および間隙に充填ゴム(A)が被覆あるいは装填されていない態様を示しているが、個々のフィラメントにおける周囲及び間隙に充填ゴム(A)が被覆あるいは装填されていてもよい。
【0018】
本発明に用いるコードを形成するスチールとしては、特に限定されないが、通常の方法、例えばメッキ処理法、各種CVD法、PVD法等を利用することによりブラスコートされ、加硫ゴムとの接着性が高められたフィラメント(またはストランド)であるのが特に好ましい。
【0019】
上記充填ゴム(A)、およびコーティングゴム(C)に用いられるゴム成分としては、タイヤ用に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、天然ゴム(NR)や、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン・イソプレン共重合体ゴム(SIR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびエチレン・プロピレン共重合体等の合成ゴムが挙げられるが、天然ゴム(NR)を単独で用いるのが望ましい。
【0020】
上記ゴム成分に加え、充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)各々で要求される特性に応じて、適宜添加剤や接着プロモーター等を配合する。
【0021】
添加剤としては、例えば充填剤が挙げられ、SRF、GPF、FER、HAF、ISAF等のカーボンブラックのほか、シリカ、炭酸カルシウム、タルクなどを用いることができる。カーボンブラックを配合する場合、上記ゴム成分100質量部に対して、40〜60質量部の量で配合するのが望ましい。
【0022】
接着プロモーターとしては、有機酸コバルト塩が挙げられ、例えば、ナフテン酸コバルト、ロジン酸コバルト、炭素数が5〜20程度の直鎖状または分岐状のモノカルボン酸コバルト塩等を挙げることができる。
【0023】
その他の添加剤として、硫黄などの加硫剤、老化防止剤、加硫促進剤、酸化亜鉛等の加工助剤、オゾン劣化防止剤、可塑剤などを配合することができる。
以下、本発明のゴム−スチールコード複合体における各種充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)特有の組成について述べる。
【0024】
《充填ゴム(A)》
本発明のゴム−スチールコード複合体では、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量は、後述するコーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量以下の量であり、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量よりも少ないのが望ましく、接着プロモーターを含有しないのがより望ましい。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、通常0〜3.0質量部、好ましくは0質量部である。このように、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量を低減しても、加硫の際にコーティングゴム(C)から接着プロモーターが拡散移行してくるため、良好な接着性を充分に保持することができる。しかも、上記範囲内の量とすることにより、充填ゴム(A)に配合される加硫促進剤や老化防止剤等との反応を有効に低減することができ、未加硫状態で放置した際における接着性および耐老化性の低下を抑制することが可能となる。
【0025】
また、上記充填ゴム(A)に硫黄を配合する場合、該硫黄の含有量がコーティングゴム(C)における硫黄の含有量以下の量であるのが望ましく、コーティングゴム(C)における硫黄の含有量よりも少ないのがより望ましい。具体的には、上記ゴム成分100質量部に対し、通常、3.0〜7.0質量部、好ましくは3.0〜5.0質量部の量であるのが望ましい。このように、充填ゴム(A)における硫黄の含有量を低減しても、加硫の際にコーティングゴム(C)から硫黄が拡散移行してくるため、良好な接着性を充分に発揮することができる。これにより、加硫前における加硫進行をより有効に抑制することが可能となり、作業性の向上に大きく寄与することとなる。
【0026】
《コーティングゴム(C)》
コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量は、上記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以上の量であり、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量よりも多いのが望ましい。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、通常1.0〜5.0質量部、好ましくは1.0〜3.0質量部である。上記下限値以上の量であれば、加硫後に接着プロモーターが充填ゴム(A)に拡散移行しても、コーティングゴム(C)中に充分な量で接着プロモーターを残存させることができ、スチールコードとの優れた劣化接着性を保持しつつ、初期接着性をも必要以上に低下するおそれがない。一方、上記上限値を超えて配合した場合、顕著な接着促進効果を得難く、劣化接着性が不充分になるおそれがある。このように、コーティングゴム(C)からスチールコードに直接接することとなる充填ゴム(A)へ充分な量の接着プロモーターを供与することとなり、スチールコードとゴムとの強固な接着を有効に確保することができ、初期接着性の向上にも寄与することとなる。
【0027】
また、上記コーティングゴム(C)に硫黄を配合する場合、該硫黄の含有量は、充填ゴム(A)における硫黄の含有量以上の量であるのが望ましく、充填ゴム(A)における硫黄の含有量よりも多いのがより望ましい。具体的には、上記ゴム成分100質量部に対し、通常3.0〜7.0質量部、好ましくは5.0〜7.0質量部の量である。上記下限値以上の量であれば、加硫の際に硫黄が充填ゴム(A)に拡散移行しても、コーティングゴム(C)中に充分な量で硫黄を残存させることができ、スチールコードとの優れた接着性を有効に発揮することができる。一方、上記上限値を超えて配合した場合、耐疲労破壊性が低下するおそれがある。
【0028】
[ゴム−スチールコード複合体の製造方法]
本発明のゴム−スチールコード複合体は、まず、例えば図4に示すコード製造設備によってコードを製造する。かかるコード製造設備は、複数のコアフィラメントを撚り合わせて形成されたコア部9aを巻出すコア巻出し部9およびシースフィラメント10aを巻出すシース巻出し部10の所定数を設置し、各々の巻出し部より巻き出したフィラメントを集束させるワイヤー集束器11と、この集束したフィラメント同士を撚り合わせる撚り線機12を設けている。そして、コア巻出し部9とワイヤー集束器11との間に、コア部9aに未加硫の充填ゴム(A)を被覆するゴム被覆装置13が設置されている。
【0029】
次に、上記したコード製造設備にてコードを製造する方法において、まず、コア巻出し部9に巻き付けられたコア部9aを巻出してゴム被覆装置13側へ導き、ゴム被覆装置13にてコア部9aに充填ゴム(A)を被覆してゴム被覆フィラメント13aとする。次いで、ゴム被覆フィラメント13aを、撚り線機12の入側に設置されたワイヤー集束器11に供給し、ワイヤー集束器11にて、ゴム被覆フィラメント13aの周囲にシース巻出し部10より巻き出したシースフィラメント10aを集束させて集束フィラメント11aとし、集束フィラメント11aを撚り線機12へ供給する。その後、撚り線機12にて、集束フィラメント11aを撚り合わせることによってコード15となる。
【0030】
ここで、コア巻出し部9より巻き出したコア部9aに、下記のような所定量の充填ゴム(A)を被覆した後、撚り線機12へ供給するのが望ましい。すなわち、所定量の充填ゴム(A)層4を設けることによって、撚り合わされたコードを構成するシースフィラメント相互間から充填ゴム(A)が必要以上にはみ出るのを抑制できるとともに、適度な量でコア部9aの間隙に充填ゴム(A)が装填される。かかる充填ゴム(A)における所定量とは、コードの軸方向と直交する断面において、コアおよびシース間の隙間の面積Aとコアおよびシース間に占める充填ゴム(A)層の面積Bとが、A≦B≦10Aとなる関係を満たす量である。
【0031】
コアおよびシース間の隙間の面積Aは、クローズドコードを基準として定義する。例えば、図1と同じ構造のクローズドコードを図5(a)に示すように、クローズド構造コードの軸方向と直交する断面におけるコアおよびシース間の隙間を面積A{図5の点線部分}とする。ただし、コア27の介在しないシース28相互間の隙間は除く。
【0032】
また、コア27およびシース28間に占める充填ゴム(A)層4の面積Bとは、図1に示すように、コアの周囲に被覆したゴム部分(縦線部)である。ここで、図1に示すコードを作製するに当たり、面積Aの1〜10倍の充填ゴム(A)層4を形成するには、図5(b)に示すように、該面積Bに相当する充填ゴム(A)をコアフィラメントの周囲に被覆したのち、シースフィラメントを撚り合わせればよい。
【0033】
さらに、コア部9aに対して、充填ゴム(A)の被覆を行うゴム被覆装置13は、例えば、図6に示すように、ゴム押出し機16とゴム押出しヘッド部18を有する。ここで、図6に、ゴム押出し機16およびゴム押出しヘッド部18の内部を示すように、ゴム被覆装置13では、ゴム押出し機16側からゴム押出しスクリュー17を介し、ゴム押出しヘッド部18にゴム19を押出してゴム押出しヘッド部18内を充填ゴム(A)で満たす。次いで、このゴム押出しヘッド部18内へコア部9aをゴム押出しヘッド部18の入側に設置したコードガイド20から供給し、ゴム押出しヘッド部18内を通過させる際に、コア部9aの周面に充填ゴム(A)19を被覆する。その後、充填ゴム(A)19が被覆されたコア部9aは、ゴム押出しヘッド部18の出側に設置した口金21を介して、被覆ゴム(B)の厚みが調整されながらゴム押出しヘッド部18外に導かれ、充填ゴム(A)被覆フィラメント13aとなる。
【0034】
なお、本発明ではゴム被覆装置13にて、コア部9aに充填ゴム(A)を被覆する際、コアフィラメントの複数本を同時に被覆していることとなるが、コアフィラメント1本ごとに被覆してもよい。
【0035】
その後、得られた複数本のコードを1.5〜2.0mm間隔で平行にならべ、上下方向からコーティングゴム(C)を被覆して、所望の部位に応じた幅および角度に裁断してゴム−スチールコード複合体を得る。
【0036】
なお、特に複撚りスチールコードを製造する際に用いる製造設備の例を図7に示す。かかるコード設備は、コアストランド50aを巻出すコアストランド巻出し部50が設置され、コアストランド巻出し部50とシースストランド巻出し部55との間に、未加硫の充填ゴム(A)をコアストランド50aに被覆するための、ゴム押出機51およびゴム押出しヘッド部52を備えたゴム被覆装置53が設置されている。
次に、ゴム被覆装置52のゴム押出しヘッド部52から導かれたコアストランド50aは、他方でシースストランド55aを巻出すために設置されたシースストランド巻出し部55へ供給され、真直矯正冶具56を経由しつつ整形されて複撚りコード57aが形成され、複撚りコード巻取り部57へと移行する。その後、上述と同様にしてコーティングゴム(C)を被覆して、ゴム−スチールコード複合体を得る。
【0037】
[空気入りラジアルタイヤ]
本発明のゴム−スチールコード複合体を、空気入りラジアルタイヤのベルト層、カーカス層、またはビード部の補強層として採用することにより、かかる補強層における接着耐久性、耐老化性、耐疲労破壊性などを向上させることが可能となり、優れた耐久性を有する高性能な空気入りラジアルタイヤを実現することができる。
【0038】
また、層撚りスチールコードや複撚りスチールコードの生産性や取り扱い性を改善することも可能となり、ゴム−スチールコード複合体および空気入りラジアルタイヤのより効率的な生産を実現することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
表2に示す組成に従ってゴムを作製し、下記評価内容に従って図3(a)の模式図に示す態様のスチールコードおよびゴム−スチールコード複合体を上述の方法により作製し、評価した。なお、対照例1および比較例1〜2として、図3(b)の模式図に示すような、スチールコードにコーティングゴム(C)を被覆したのみの従来のゴム−スチールコード複合体を作製した。また、比較例3は、図3(a)の模式図に示す態様のゴム−スチールコード複合体に従い、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量を充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量よりも少ない量とした。結果を表3に示す。
【0041】
《初期接着性》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを1.5mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、これを145℃で15分間加硫して試料を作製した。該試料を室温で1時間放置した後、スチールコードを引き抜き、そのゴム被覆率を表1に示す評価基準に従って、目視により評価した。
【0042】
《劣化放置接着性》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを1.5mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、温度35度、湿度75%で7日間放置し、これを145℃で40分間加硫して試料を作製した。次いでスチールコードを引き抜き、そのゴム被覆率を初期接着性の評価と同様、下記に示す評価基準に従って、目視により評価した。
【0043】
【表1】

【0044】
《耐腐食疲労性の評価》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを1.5mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、これを145℃で40分間加硫した。次いで、試料としてスチールコード3本の束(上ゲージ:1.0mm、下ゲージ:2.0mm、総ゲージ:3.9mm、コードピッチ:1.5mm)を切り出し、70℃の温水に12時間浸水させた。その後、図8に示すような装置を用い、各試料30をプーリー31(径22mm)に通し、コード強力7.0%のテンションを掛けた状態で試料30を上下X方向に駆動させ、試料30の破断に至るまでの繰り返し回数を測定した。得られた結果について対照例を100として指数表示した。数値が高いほど、耐腐食疲労性が高いことを示す。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表3の結果によれば、充填ゴム(A)のない対照例1および比較例1〜2に対し、充填ゴム(A)を用いた実施例は耐腐食疲労性に優れることがわかる。
なかでも、実施例1、3、4によれば、充填ゴム(A)に接着プロモーターを含有させずとも対照例と同等の接着性能を保持しつつ、優れた耐腐食疲労性を発揮できるのが明らかである。
【0048】
また、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以上の量である実施例は、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量に満たない比較例3と比して、特に劣化放置接着性に優れた効果を発揮することがわかる。
【0049】
なお、充填ゴム(A)における硫黄の含有量がコーティングゴム(C)における硫黄の含有量よりも少ない量である実施例6では、加硫工程前での加硫進行を有効に抑制することができ、作業性が非常に良好であった。
【符号の説明】
【0050】
1 コア
1a コアフィラメント
2 シース
2a シースフィラメント
3 コード
4 充填ゴム(A)層
5 コアストランド
6 シースストランド
7 コーティングゴム(C)層
9 コア巻出し部
9a コア部
10 シース巻出し部
10a シースフィラメント
11 ワイヤー集束器
11a 集束フィラメント
12 撚り線機
13 ゴム被覆装置
13a ゴム被覆フィラメント
15 コード
16 ゴム押出し機
17 ゴム押出しスクリュー
18 ゴム押出しヘッド部
19 充填ゴム(A)
20 コードガイド
21 口金
27 コア
28 シース
30 試料
31 プーリー
32 チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に接着プロモーターを含有する充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、
複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、
該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、
前記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以上の量であることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
【請求項2】
前記充填ゴム(A)が、接着プロモーターを含有しないことを特徴とする請求項1に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項3】
前記充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)が硫黄を含有してなり、前記充填ゴム(A)における硫黄の含有量が、前記コーティングゴム(C)における硫黄の含有量以下の量であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム−スチールコード複合体からなる補強層を有する空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248670(P2010−248670A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102384(P2009−102384)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】