説明

ゴム−スチールコード複合体および空気入りラジアルタイヤ

【課題】良好な接着性を保持しつつ、コーティングゴムにおける接着プロモーターや硫黄の配合を充分に低減し得るゴム−スチールコード複合体およびそれを補強層として用いた空気入りラジアルタイヤを提供すること。
【解決手段】本発明のゴム−スチールコード複合体は、1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、前記充填ゴム(A)が接着プロモーターを含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤの補強部材として用いられるゴム−スチールコード複合体、及びこのゴム−スチールコード複合体によって形成された補強層を有する空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤの補強に供するコードには、高い強力が必要とされているところから、コアフィラメントに複数本のシースフィラメントを撚り合わせたコードや、複数本のフィラメントを撚り合わせたコアストランドにさらに複数本のシースストランドを撚り合わせた、いわゆる層撚り構造を有するコードが使用されている。そして、これらのコードを整列させ、シート状のコーティングゴムを被覆してゴム−コード複合体が得られる。
【0003】
かかるコーティングゴムには、スチールのようなコードとの接着を促進するための接着プロモーター成分と、多量の硫黄が配合されている。こうした接着プロモーターとしては有機酸コバルト塩が代表的であるが、これを多量に配合すると、加硫促進剤や老化防止剤等と反応することによって、未加硫状態で放置した後に接着性やゴムの耐老化性が低下するおそれがあるとともに、コストが嵩むこととなる。また、硫黄を多量に配合した場合には、加硫工程前に加硫が過度に進行し、加硫後のゴム物性が劣化するという問題も生じ得る。
【0004】
こうした中、上記のような問題を解決すべく、コーティングゴムとは別にコードの周囲を被覆するゴム層を設けた種々のゴム−コード複合体が開発されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−338749号公報
【特許文献2】特開2003−11613号公報
【特許文献3】特開2007−313944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれのゴム−コード複合体も上述のような接着プロモーターや硫黄の高配合に起因する問題を充分に解消し得るものではない。
【0007】
そこで、本発明は、良好な接着性を保持しつつ、コーティングゴムにおける接着プロモーターや硫黄の配合を充分に低減し得るゴム−スチールコード複合体およびそれを補強層として用いた空気入りラジアルタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、コアに充填ゴム層を設けることで、加硫の際にこの充填ゴムからコーティングゴムへ接着プロモーターや硫黄が拡散移行する現象に着目し、この現象を活用したゴム−スチールコード複合体を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム−スチールコード複合体は、1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、
複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、
該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、
前記充填ゴム(A)が接着プロモーターを含有してなることを特徴とする。
前記コーティングゴム(C)が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量よりも少ない量で接着プロモーターを含有してなるのが望ましく、接着プロモーターを含有しないのがより望ましい。
【0010】
また、前記充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)が硫黄を含有してなり、該コーティングゴム(C)における硫黄の含有量は、前記充填ゴム(A)における硫黄の含有量よりも少ないのが好ましい。
前記層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面に予め被覆ゴム(B)を被覆したのち、前記コーティングゴム(C)を被覆してもよく、この場合、該被覆ゴム(B)は、前記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量よりも多い量で接着プロモーターを含有してなるのが好ましく、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以下の量で接着プロモーターを含有してなるのが好ましい。
本発明の空気入りラジアルタイヤは、これらゴム−スチールコード複合体からなる補強層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム−スチールコード複合体によれば、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量が極力低減されているため、コスト削減が図れるとともにコーティングゴムの耐老化性の低下をも有効に防止することができる。
また、コアに充填ゴム(A)が存在するため、コアにおけるフィラメントやストランドとゴムとの接触面積を増大させることができ、より強固で高い耐久性を発揮する接着が可能となる。
【0012】
さらに、コーティングゴム(C)における硫黄の含有量も有効に低減することができ、耐疲労破壊性の低下をも防止することが可能となる。
このような本発明のゴム−スチールコード複合体を補強層として採用すれば、耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】3+9構造の同径のフィラメントを撚り合わせた層撚りスチールコードを示す図である。
【図2】3+9構造の同径のストランドを撚り合わせた複撚りスチールコードを示す図である。
【図3】図3(a)は本発明のゴム−スチールコード複合体における第一態様を示す模式図であり、図3(b)は本発明のゴム−スチールコード複合体における第二態様を示す模式図である。図3(c)は従来のゴム−スチールコード複合体を示す模式図である。
【図4】本発明に用いるコードを製造するために使用する一般的なコード製造設備について示す図である。
【図5】コアおよびシース間の隙間の面積Aとコアおよびシース間に占める充填ゴム(A)層の面積Bを示す図である。
【図6】ゴム被覆装置を用いてコアフィラメントに充填ゴム(A)を被覆する様子を示す図である。
【図7】複撚りスチールコードを製造するために使用するコード製造設備について示す図である。
【図8】耐腐食疲労性の評価に用いる装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に、本発明に従うコードの軸方向と直交する断面を示す。
【0015】
図1は、本発明のゴム−スチールコード複合体に用いるスチールコードを示すものであり、3本のコアフィラメント(またはコアストランド)1aからなるコア1の周囲に、シース2となる9本のシースフィラメント(またはシースストランド)2aを撚り合わせてなる同径のフィラメント(またはストランド)を撚り合わせた層撚りスチールコード3aである。そして、この層撚りスチールコード3aは、図1に斜線にて示すように、コア1とシース2との間に、充填ゴム(A)層4を有するものである。なお、コアストランドおよびシースストランドを用いた場合、図2(a)〜(c)に示すように、ストランドの複数本を撚り合わせることによって複撚りスチールコード3bが構成される。図2(a)はコアストランド5の周囲に充填ゴム(A)層4を有するものであり、図2(b)は図1に示すようなスチールコードを複数本撚り合わせたものであり、図2(c)は図1に示すようなスチールコードを複数本撚り合わせた上にさらに充填ゴム(A)が被覆されてなるものである。
【0016】
本発明のゴム−スチールコード複合体における第一態様では、これら1本または複数本のコアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、複数本のシースフィラメント(またはシースストランド)を撚り合わせて層撚りスチールコード(または複撚りスチールコード)を形成し、かかるスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなる。すなわち、図3(a)の模式図に示すように、ゴム層が充填ゴム(A)層4とコーティングゴム(C)層7との2層からなるゴム−スチールコード複合体である。従来のゴム−スチールコード複合体は、例えば図3(c)に示すように、コアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆したり、装填したりするものではなかった。これに対し、本発明のゴム−スチールコード複合体は上述のように充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるので、これらコアフィラメント(またはコアストランド)とゴム間におけるより強固な接着性および高度な耐久性を発揮することができる。また、充填ゴム(A)が存在することにより、フレッティングが抑制され耐腐食疲労性が向上する。
【0017】
本発明のゴム−スチールコード複合体における第二態様では、これら1本または複数本のコアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、複数本のシースフィラメント(またはシースストランド)を撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、かかるスチールコードの外表面に予め被覆ゴム(B)を被覆したのち、コーティングゴム(C)を被覆してなる。すなわち、図3(b)の模式図に示すように、ゴム層が充填ゴム(A)層4、被覆ゴム(B)層8およびコーティングゴム(C)層7の3層からなるゴム−スチールコード複合体である。この場合、フィラメント(またはコアストランド)に充填ゴム(A)と被覆ゴム(B)とが随所で直接接することとなり、被覆ゴム(B)単独の場合よりもより強固な接着性および高度な耐久性を実現することが可能となる。
【0018】
なお、いずれの態様であっても、上記充填ゴム(A)は1本または複数本のコアフィラメント(またはコアストランド)の周囲および間隙のうち、少なくとも一部に充填されていればよく、必ずしもコアフィラメント(またはコアストランド)の外表面にまではみ出していなくてもよい。また、図2ではコアストランドを形成するコアフィラメントの周囲および間隙に充填ゴム(A)が被覆あるいは装填されていない態様を示しているが、個々のフィラメントにおける周囲及び間隙に充填ゴム(A)が被覆あるいは装填されていてもよい。
【0019】
本発明に用いるコードを形成するスチールとしては、特に限定されないが、通常の方法、例えばメッキ処理法、各種CVD法、PVD法等を利用することによりブラスコートされ、加硫ゴムとの接着性が高められたフィラメント(またはストランド)であるのが特に好ましい。
【0020】
上記充填ゴム(A)、コーティングゴム(C)および被覆ゴム(B)に用いられるゴム成分としては、タイヤ用に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、天然ゴム(NR)や、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン・イソプレン共重合体ゴム(SIR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびエチレン・プロピレン共重合体等の合成ゴムが挙げられるが、天然ゴム(NR)を単独で用いるのが望ましい。
【0021】
上記ゴム成分に加え、充填ゴム(A)、コーティングゴム(C)および被覆ゴム(B)各々で要求される特性に応じて、適宜添加剤や接着プロモーター等を配合する。
【0022】
添加剤としては、例えば充填剤が挙げられ、SRF、GPF、FER、HAF、ISAF等のカーボンブラックのほか、シリカ、炭酸カルシウム、タルクなどを用いることができる。カーボンブラックを配合する場合、上記ゴム成分100質量部に対して、40〜60質量部の量で配合するのが望ましい。
【0023】
接着プロモーターとしては、有機酸コバルト塩が挙げられ、例えば、ナフテン酸コバルト、ロジン酸コバルト、炭素数が5〜20程度の直鎖状または分岐状のモノカルボン酸コバルト塩等を挙げることができる。
【0024】
その他の添加剤として、硫黄などの加硫剤、老化防止剤、加硫促進剤、酸化亜鉛等の加工助剤、オゾン劣化防止剤、可塑剤などを配合することができる。
以下、本発明のゴム−スチールコード複合体における第一態様および第二態様ごとに、各種充填ゴム(A)、コーティングゴム(C)および被覆ゴム(B)特有の組成について述べる。
【0025】
[第一態様]
本発明の第一態様では、上記図3(a)の模式図に示すように、充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)を用いる。
【0026】
《第一態様:充填ゴム(A)》
充填ゴム(A)は、直接フィラメント(またはストランド)と接触するゴムであり、これらとの良好な接着性を求められることから接着プロモーターを含有してなる。接着プロモーターの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、通常1.0〜5.0質量部、好ましくは3.0〜5.0質量部である。すなわち、後述するコーティングゴム(C)中における接着プロモーターの含有量よりも多いのが望ましい。上記下限値以上の量であれば、加硫の際に接着プロモーターがコーティングゴム(C)に拡散移行しても、充填ゴム(A)中に充分な量で接着プロモーターを残存させることができ、スチールコードとの優れた劣化接着性を保持しつつ、初期接着性をも必要以上に低下するおそれがない。一方、上記上限値を超えて配合した場合、顕著な接着促進効果を得難く、コスト増大を引き起こす上に、共に配合された加硫促進剤や老化防止剤等と反応し、劣化接着性が不充分になるおそれがある。
【0027】
また、上記充填ゴム(A)に硫黄を配合する場合、後述するようにコーティングゴム(C)における硫黄の含有量より多いのが望ましい。具体的には、上記ゴム成分100質量部に対し、通常3.0〜7.0質量部、好ましくは5.0〜7.0質量部の量であるのが望ましい。上記下限値以上の量であれば、加硫の際に硫黄がコーティングゴム(C)に拡散移行しても、充填ゴム(A)中に充分な量で硫黄を残存させることができ、スチールコードとの優れた接着性を有効に発揮することができる。一方、上記上限値を超えて配合した場合、加硫後のゴムの耐熱劣化性が低下するとともに耐疲労破壊性が低下するおそれがある。
【0028】
《第一態様:コーティングゴム(C)》
本発明で用いるコーティングゴム(C)が接着プロモーターを含有する場合には、上記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量よりも少ないのが望ましく、含有しないのがより望ましい。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、通常0.0〜1.0質量部、好ましくは0.5質量部未満である。このように、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量を低減しても、加硫の際に充填ゴム(A)或いは被覆ゴム(B)から接着プロモーターが拡散移行してくるため、良好な接着性を充分に保持することができる。しかも、上記範囲内の量とすることにより、コーティングゴム(C)に配合される加硫促進剤や老化防止剤等との反応を有効に低減することができ、劣化接着性および耐老化性の低下を抑制することが可能となる。また、コスト削減に大きく寄与することもできる。さらに、上記充填ゴム(A)を含め、接着プロモーターに関する配合設計の自由度が向上する。
【0029】
また、上記コーティングゴム(C)に硫黄を配合する場合、上記充填ゴム(A)に配合された硫黄よりも少ない量であるのが望ましい。具体的には、上記ゴム成分100質量部に対し、通常3.0〜7.0質量部、好ましくは3.0〜5.0質量部の量であるのが望ましい。このように硫黄の含有量を低減しても、上述のように加硫後において、硫黄が充填ゴム(A)からコーティングゴム(C)へ拡散移行してくるため、コーティングゴム(C)中にも充分な量で硫黄を導入することが可能であり、また必要以上に耐疲労破壊性が低下するのを回避することができる。
【0030】
[第二態様]
本発明の第二態様では、上記図3(b)の模式図に示すように、充填ゴム(A)、被覆ゴム(B)およびコーティングゴム(C)を用いる。
【0031】
《第二態様:充填ゴム(A)》
本発明の第二態様では、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量は、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量よりも多いのが望ましく、また後述する被覆ゴム(B)中における接着プロモーターの含有量と同量若しくはそれよりも多いのが望ましい。第二態様では、第一態様にはない被覆ゴム(B)を採用するので、該被覆ゴム(B)においても接着プロモーターが含有される分、充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量を低減することができ、さらなる作業性の改善を図ることが可能となる。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、通常1.0〜5.0質量部、好ましくは3.0〜5.0質量部である。上記下限値以上の量であれば、加硫の際に接着プロモーターが被覆ゴム(B)に拡散移行しても、充填ゴム(A)中に充分な量で接着プロモーターを残存させることができ、スチールコードとの優れた劣化接着性を保持しつつ、初期接着性をも必要以上に低下するおそれがない。一方、上記上限値を超えて配合した場合、顕著な接着促進効果を得難く、コスト増大を引き起こす上に劣化接着性が不充分になるおそれがある。接着プロモーターの含有量を上記範囲内とすることにより、被覆ゴム(B)における接着プロモーターの含有量とも相まってコーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量をも有効に低減することができ、さらにコスト削減に大きく寄与することが可能となる。
【0032】
また、上記充填ゴム(A)に硫黄を配合する場合、上記ゴム成分100質量部に対し、通常、3.0〜7.0質量部、好ましくは3.0〜5.0質量部の量であるのが望ましい。このように、充填ゴム(A)における硫黄の含有量を低減しても、加硫の際に被覆ゴム(B)から硫黄が拡散移行してくるため、良好な接着性を充分に発揮することができる。なおこの際、作業性向上の観点からは、後述する被覆ゴム(B)における硫黄の含有量よりも充填ゴム(A)における硫黄の含有量が少ないほど好ましい。この場合、加硫前における加硫進行をより有効に抑制することが可能となり、作業性の向上に寄与することとなる。
【0033】
《第二態様:被覆ゴム(B)》
被覆ゴム(B)が接着プロモーターを含有する際、上記充填ゴム(A)と同様、上記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量よりも多いのが望ましく、上記充填ゴム(A)中における接着プロモーターの含有量と同量若しくはそれよりも少ないのが望ましい。また、上記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量の不足分を被覆ゴム(B)における接着プロモーターの含有量で補うという付随効果も得られる。具体的には、ゴム成分100質量部に対して、通常1.0〜5.0質量部、好ましくは3.0〜4.0質量部の量である。上記下限値以上の量であれば、加硫後に接着プロモーターがコーティングゴム(C)或いは充填ゴム(A)に拡散移行しても、被覆ゴム(B)中に充分な量で接着プロモーターを残存させることができ、スチールコードとの優れた劣化接着性を保持しつつ、初期接着性をも必要以上に低下するおそれがない。一方、上記上限値を超えて配合した場合、顕著な接着促進効果を得難く、コスト増大を引き起こす上に劣化接着性が不充分になるおそれがある。このように、接着プロモーターを含有する上記充填ゴム(A)と被覆ゴム(B)とがスチールコードに直接接することとなり、充填ゴム(A)或いは被覆ゴム(B)単独で接する場合よりも、スチールコードとゴムとの接着面積がより大きくなり、耐腐食疲労性の向上にさらに寄与することとなる。また、上記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量と相まって、コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量だけでなく充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量をも低減し得ることとなり、作業性の改善に大きく寄与することができる。
【0034】
また、上記被覆ゴム(B)に硫黄を配合する場合、上記ゴム成分100質量部に対し、通常3.0〜7.0質量部、好ましくは5.0〜7.0質量部の量であるのが望ましい。上記下限値以上の量であれば、加硫の際に硫黄がコーティングゴム(C)或いは充填ゴム(A)に拡散移行しても、被覆ゴム(B)中に充分な量で硫黄を残存させることができ、スチールコードとの優れた接着性を有効に発揮することができる。一方、上記上限値を超えて配合した場合、耐疲労破壊性が低下するおそれがある。なおこの際、コーティングゴム(C)における硫黄の含有量より多いのが望ましく、充填ゴム(A)における硫黄の含有量よりも多いのが望ましい。この場合、加硫前における加硫進行をより有効に抑制することが可能となり、作業性の向上に寄与することができる。
【0035】
《第二態様:コーティングゴム(C)》
本発明の第二態様に用いるコーティングゴム(C)は、上記第一態様に用いるコーティングゴム(C)と同様のものを採用する。コーティングゴム(C)における接着プロモーターおよび硫黄の含有量も同様である。
【0036】
[ゴム−スチールコード複合体の製造方法]
本発明のゴム−スチールコード複合体は、まず、例えば図4に示すコード製造設備によってコードを製造する。かかるコード製造設備は、複数のコアフィラメントを撚り合わせて形成されたコア部9aを巻出すコア巻出し部9およびシースフィラメント10aを巻出すシース巻出し部10の所定数を設置し、各々の巻出し部より巻き出したフィラメントを集束させるワイヤー集束器11と、この集束したフィラメント同士を撚り合わせる撚り線機12を設けている。そして、コア巻出し部9とワイヤー集束器11との間に、コア部9aに未加硫の充填ゴム(A)を被覆するゴム被覆装置13が設置されている。
【0037】
次に、上記したコード製造設備にてコードを製造する方法において、まず、コア巻出し部9に巻き付けられたコア部9aを巻出してゴム被覆装置13側へ導き、ゴム被覆装置13にてコア部9aに充填ゴム(A)を被覆してゴム被覆フィラメント13aとする。次いで、ゴム被覆フィラメント13aを、撚り線機12の入側に設置されたワイヤー集束器11に供給し、ワイヤー集束器11にて、ゴム被覆フィラメント13aの周囲にシース巻出し部10より巻き出したシースフィラメント10aを集束させて集束フィラメント11aとし、集束フィラメント11aを撚り線機12へ供給する。その後、撚り線機12にて、集束フィラメント11aを撚り合わせることによってコード15となる。
【0038】
ここで、コア巻出し部9より巻き出したコア部9aに、下記のような所定量の充填ゴム(A)を被覆した後、撚り線機12へ供給するのが望ましい。すなわち、所定量の充填ゴム(A)層4を設けることによって、撚り合わされたコードを構成するシースフィラメント相互間から充填ゴム(A)が必要以上にはみ出るのを抑制できるとともに、適度な量でコア部9aの間隙に充填ゴム(A)が装填される。かかる充填ゴム(A)における所定量とは、コードの軸方向と直交する断面において、コアおよびシース間の隙間の面積Aとコアおよびシース間に占める充填ゴム(A)層の面積Bとが、A≦B≦10Aとなる関係を満たす量である。
【0039】
コアおよびシース間の隙間の面積Aは、クローズドコードを基準として定義する。例えば、図1と同じ構造のクローズドコードを図5(a)に示すように、クローズド構造コードの軸方向と直交する断面におけるコアおよびシース間の隙間を面積A{図5の点線部分}とする。ただし、コア27の介在しないシース28相互間の隙間は除く。
【0040】
また、コア27およびシース28間に占める充填ゴム(A)層4の面積Bとは、図1に示すように、コアの周囲に被覆したゴム部分(縦線部)である。ここで、図1に示すコードを作製するに当たり、面積Aの1〜10倍の充填ゴム(A)層4を形成するには、図5(b)に示すように、該面積Bに相当する充填ゴム(A)をコアフィラメントの周囲に被覆したのち、シースフィラメントを撚り合わせればよい。
【0041】
さらに、コア部9aに対して、充填ゴム(A)の被覆を行うゴム被覆装置13は、例えば、図6に示すように、ゴム押出し機16とゴム押出しヘッド部18を有する。ここで、図6に、ゴム押出し機16およびゴム押出しヘッド部18の内部を示すように、ゴム被覆装置13では、ゴム押出し機16側からゴム押出しスクリュー17を介し、ゴム押出しヘッド部18にゴム19を押出してゴム押出しヘッド部18内を充填ゴム(A)で満たす。次いで、このゴム押出しヘッド部18内へコア部9aをゴム押出しヘッド部18の入側に設置したコードガイド20から供給し、ゴム押出しヘッド部18内を通過させる際に、コア部9aの周面に充填ゴム(A)19を被覆する。その後、充填ゴム(A)19が被覆されたコア部9aは、ゴム押出しヘッド部18の出側に設置した口金21を介して、被覆ゴム(B)の厚みが調整されながらゴム押出しヘッド部18外に導かれ、充填ゴム(A)被覆フィラメント13aとなる。
【0042】
なお、本発明ではゴム被覆装置13にて、コア部9aに充填ゴム(A)を被覆する際、コアフィラメントの複数本を同時に被覆していることとなるが、コアフィラメント1本ごとに被覆してもよい。
【0043】
その後、必要に応じ、同様にして被覆ゴム(B)を被覆し、得られた複数本のコードを1.5〜2.0mm間隔で平行にならべ、上下方向からコーティングゴム(C)を被覆して、所望の部位に応じた幅および角度に裁断してゴム−スチールコード複合体を得る。
【0044】
なお、特に複撚りスチールコードを製造する際に用いる製造設備の例を図7に示す。かかるコード設備は、コアストランド50aを巻出すコアストランド巻出し部50が設置され、コアストランド巻出し部50とシースストランド巻出し部55との間に、未加硫の充填ゴム(A)をコアストランド50aに被覆するための、ゴム押出機51およびゴム押出しヘッド部52を備えたゴム被覆装置53が設置されている。
次に、ゴム被覆装置52のゴム押出しヘッド部52から導かれたコアストランド50aは、他方でシースストランド55aを巻出すために設置されたシースストランド巻出し部55へ供給され、真直矯正冶具56を経由しつつ整形されて複撚りコード57aが形成され、複撚りコード巻取り部57へと移行する。その後、上述と同様にして被覆ゴム(B)およびコーティングゴム(C)を被覆して、ゴム−スチールコード複合体を得る。
【0045】
[空気入りラジアルタイヤ]
本発明のゴム−スチールコード複合体を、空気入りラジアルタイヤのベルト層、カーカス層、またはビード部の補強層として採用することにより、かかる補強層における接着耐久性、耐老化性、耐疲労破壊性などを向上させることが可能となり、コスト削減を図りつつ、優れた耐久性を有する高性能な空気入りラジアルタイヤを実現することができる。
【0046】
また、層撚りスチールコードや複撚りスチールコードの生産性や取り扱い性を改善することも可能となり、ゴム−スチールコード複合体および空気入りラジアルタイヤのより効率的な生産を実現することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1〜10、比較例1]
表2に示す組成に従ってゴムを作製し、下記評価内容に従って図3(a)の模式図に示す態様のスチールコードおよびゴム−スチールコード複合体を上述の方法により作製し、評価した。なお、対照例1および比較例1として、図3(c)の模式図に示すような、スチールコードにコーティングゴム(C)を被覆したのみの従来のゴム−スチールコード複合体を作製した。結果を表3に示す。
【0049】
《初期接着性》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを2.0mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、これを145℃で15分間加硫して試料を作製した。該試料を室温で1時間放置した後、スチールコードを引き抜き、そのゴム被覆率を表1に示す評価基準に従って、目視により評価した。
【0050】
《劣化接着性》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを2.0mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、これを145℃で40分間加硫して試料を作製した。該試料を温度75度、湿度90%で10日間放置し、次いでスチールコードを引き抜き、そのゴム被覆率を初期接着性の評価と同様、下記に示す評価基準に従って、目視により評価した。
【0051】
【表1】

【0052】
《耐腐食疲労性の評価》
図1に示す3+9×0.22mmのスチールコードを1.5mm間隔で平行に並べ、各ゴム組成を用いてスチールコードの上下方向からコーティングし、これを145℃で40分間加硫した。次いで、試料としてスチールコード3本の束(上ゲージ:1.0mm、下ゲージ:2.0mm、総ゲージ:3.9mm、コードピッチ:1.5mm)を切り出し、70℃の温水に12時間浸水させた。その後、図8に示すような装置を用い、各試料30をプーリー31(径22mm)に通し、コード強力7.0%のテンションを掛けた状態で試料30を上下X方向に駆動させ、試料30の破断に至るまでの繰り返し回数を測定した。得られた結果を表3では対照例を100として、表4〜5では比較例2を100として指数表示した。数値が高いほど、耐腐食疲労性が高いことを示す。
【0053】
《コスト評価》
同じサイズのゴム−スチールコード複合体を作製した際におけるコストについて、安い順に1〜5の数値により5段階評価した。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表3の結果によれば、充填ゴム(A)のない対照例および比較例に対し、充填ゴム(A)を用いた実施例は接着性・耐腐食疲労性に優れ、コストの削減も有効に実現し得ることがわかる。
なかでも、実施例4〜10によれば、コーティングゴム(C)に接着プロモーターを含有させずとも比較例1と同等の接着性能を保持しつつ、効果的なコスト削減を図ることができるのが明らかである。
【0057】
[実施例11〜24、比較例2]
表4に示す組成に従ってゴムを作製し、各スチールコードをすべて2.0mm間隔で平行に並べた以外、上記評価内容に従って図3(b)の模式図に示す態様のスチールコードおよびゴム−スチールコード複合体を作製し、評価した。なお、比較例2として、図3(c)の模式図に示すようなスチールコードにコーティングゴム(C)を被覆したのみの従来のゴム−スチールコード複合体に、被覆ゴム(B)のみを被覆したスチールコードを作製した。結果を表4〜5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
※1〜4は、表2と同様である。
【0060】
【表5】

【0061】
表4〜5の結果によっても、充填ゴム(A)のない対照例および比較例に対し、充填ゴム(A)を用いた実施例は接着性・耐腐食疲労性に優れ、コストの削減も有効に実現し得ることがわかる。
なお、充填ゴム(A)における硫黄の含有量が被覆ゴム(B)における硫黄の含有量よりも少ない量である実施例20〜24では、加硫工程前での加硫進行を有効に抑制することができ、作業性が非常に良好であった。
【符号の説明】
【0062】
1 コア
1a コアフィラメント
2 シース
2a シースフィラメント
3a 層撚りコード
3b 複撚りコード
4 充填ゴム(A)層
5 コアストランド
6 シースストランド
7 コーティングゴム(C)層
8 被覆ゴム(B)層
9 コア巻出し部
9a コア部
10 シース巻出し部
10a シースフィラメント
11 ワイヤー集束器
11a 集束フィラメント
12 撚り線機
13 ゴム被覆装置
13a ゴム被覆フィラメント
15 コード
16 ゴム押出し機
17 ゴム押出しスクリュー
18 ゴム押出しヘッド部
19 充填ゴム(A)
20 コードガイド
21 口金
27 コア
28 シース
30 試料
31 プーリー
32 チャック
50 コアストランド巻出し部
50a コアストランド
51 ゴム押出機
52 ゴム押出しヘッド部
53 ゴム被覆装置
55 シースストランド巻出し部
55a シースストランド
56 真直矯正冶具
57 複撚りコード巻取り部
57a 複撚りスチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本のコアフィラメントまたはコアストランドの周囲および間隙に充填ゴム(A)を被覆あるいは装填してなるコアの周囲に、
複数本のシースフィラメントまたはシースストランドを撚り合わせて層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードを形成し、
該層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面にコーティングゴム(C)を被覆してなるゴム−スチールコード複合体であって、
前記充填ゴム(A)が接着プロモーターを含有してなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
【請求項2】
前記コーティングゴム(C)が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量よりも少ない量で接着プロモーターを含有してなることを特徴とする請求項1に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項3】
前記コーティングゴム(C)が、接着プロモーターを含有しないことを特徴とする請求項1に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項4】
前記充填ゴム(A)およびコーティングゴム(C)が硫黄を含有してなり、該コーティングゴム(C)における硫黄の含有量が、前記充填ゴム(A)における硫黄の含有量よりも少ないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項5】
前記層撚りスチールコードまたは複撚りスチールコードの外表面に予め被覆ゴム(B)を被覆したのち、前記コーティングゴム(C)を被覆してなる請求項1〜4のいずれかに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項6】
前記被覆ゴム(B)が、前記コーティングゴム(C)における接着プロモーターの含有量よりも多い量で接着プロモーターを含有してなることを特徴とする請求項5に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項7】
前記被覆ゴム(B)が、前記充填ゴム(A)における接着プロモーターの含有量以下の量で接着プロモーターを含有してなることを特徴とする請求項5に記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム−スチールコード複合体からなる補強層を有する空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248671(P2010−248671A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102443(P2009−102443)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】