説明

ゴム−スチールコード複合体

【課題】作業性に優れると共に、引張り特性、短時間加硫後接着性、耐熱接着性に格段に優れたゴム−スチールコード複合体を提供する。
【解決手段】ゴム成分と、硫黄と、特定構造のスルフェンアミド系加硫促進剤とを含有するゴム組成物に、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールコードが隣接していることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム−スチールコード複合体に関し、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤を含有するゴム組成物とブラスめっきの表層領域において酸化物として含まれるリンの含有量が少ないスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードとを用いることにより、作業性とゴム−スチールコード等との接着性を向上させたゴム−スチールコード複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラジアルタイヤのベルトやカーカス用ボディープライ、および各種工業用ベルト部材などのゴム物品においては、ブラスめっきを施したスチールワイヤまたはこれを複数本撚り合わせてなるスチールコードをゴムで被覆してなるものを用いることにより、補強効果を得ることが行われている。この場合に、補強効果を十分に発揮させるためには、スチールコードとゴムとの間の接着性を十分に確保することが必要であり、かかる観点からブラスめっきにおける銅と亜鉛との割合やめっき厚さを適正化すること等が検討され、これまでに一定の知見が確立されている。
【0003】
一般に、ブラスめっきスチールコードとコーティングゴムとの接着において要求される性能としては、単に初期接着性が良好であればよいというものではなく、タイヤなどのゴム製品が実使用時に劣化環境に曝された際に、接着界面の劣化に起因する故障を生じないことや、タイヤなどのゴム製品製造工程におけるトラブルの防止、配合コストの抑制など、様々な条件を満足することが必要となる。
【0004】
そこで、本出願人らは、ゴムとの接着性に優れた、スチールワイヤ及びスチールコードとして、例えば、ワイヤの周面にブラスめっき層を施したスチールワイヤであって、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量を1.5原子%以下に抑制してなるゴム物品補強用スチールワイヤ、このワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコード(例えば、特許文献1参照)を提案し、また、天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分に対し、マレイミド樹脂0.1〜5重量部およびtert−ブチル基を2個有するビスフェノール化合物0.5〜8重量部を含有し、かつ、少なくとも一種の高級脂肪酸が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードとからなるゴム−スチールコード複合体(例えば、特許文献2参照)を提案している。
これらの文献1及び2に記載されるゴム−スチールコード複合体は、今までにない優れた接着性を発揮できるものであるが、更なる作業性と、ゴム−スチールコードの更なる接着性に優れたゴム−スチールコード複合体の出現が切望されているのが現状である。
【0005】
一方、スチールコードで補強されるコーティングゴムなどのゴム組成物には、高弾性、低発熱性、耐劣化性、接着性などが要求されており、特に、このゴム−スチールコード複合体が高い補強効果を発揮し信頼性を得るためには、ゴム−スチールコード複合体間に安定した経時変化の少ない接着が必要である。
【0006】
また、ゴムとスチールワイヤなどの金属を接着する場合、ゴムと金属の結合を同時に行う方法、即ち、直接加硫接着法が知られているが、この場合、ゴムの加硫とゴムと金属の結合を同時に行う上で、加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有用とされている。
【0007】
現在、市販されているスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として、例えば、下記式で表されるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(以下、「DCBS」と略す)が知られている。
【化1】

また、このDCBSの加硫反応の遅効性よりも更に遅効性が必要な場合は、スルフェンアミド系加硫促進剤とは別に、加硫遅延剤を併用することが行われている。なお、市販されている代表的な加硫遅延剤としては、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(以下、「CTP」と略す)が知られているが、このCTPをゴムに多量に配合すると、加硫ゴムの物理的物性に悪影響を及ぼし、かつ、加硫ゴムの外観の悪化及び接着性に悪影響を及ぼすブルーミングの原因になることは既に知られている。
【0008】
更に、上記DCBS以外のスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、特定式で表されるビススルフェンアミド(例えば、特許文献3参照)や、天然油脂由来のアミンを原料としたベンゾチアゾルリルスルフェンアミド系加硫促進剤(例えば、特許文献4参照)が知られている。
しかしながら、これらの特許文献3及び4に記載されるスルフェンアミド系加硫促進剤には、ゴム物性のみの記載であり、接着性能についての記載や示唆はないものであり、しかも、本発明のスルフェンアミド化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができることについては全く記載も示唆もないものである。
【0009】
更にまた、本発明の中に用いられるスルフェンアミド化合物のいくつかの製法に関しては、例えば、特許文献5、6及び7に知られているが、これらの化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができること、及びこの促進剤がもたらすスチールコードとの接着性能については全く記載も示唆もないものである。
また、本願発明に近似するものとして、例えば、N−メチル−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどが例示された加硫促進剤(特許文献8参照)、N−第3ブチル−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどが例示された加硫促進剤(特許文献9参照)が知られているが、本願発明とはその細部の構造骨格が異なり区別化でき、また、その加硫効果等も本願発明と較べて劣るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2002/066732号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2004−82878号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2005−139239号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2005−139082号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2005−139239号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】EP0314663A1公開公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献7】英国特許第1177790号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献8】仏国特許第2037001号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献9】特公昭49−11214号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、DCBSと同等以上の加硫遅延効果を有する加硫促進剤を含むゴム組成物と、ブラスめっきの表層領域において酸化物として含まれるリンの含有量が少ないスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードとを用いることにより、ゴムやけの発生が格段に少なく、作業性に優れ、配合ゴムの経時変化が少なく安定した接着性を発現するスチールワイヤ、スチールコードとの接着性に格段に優れたゴム−スチールコード複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記従来の課.題等について、鋭意検討した結果、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤を含むゴム組成物と、ブラスめっきの表層領域において酸化物として含まれるリンの含有量が少ないスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードとを用いることにより、上記目的のゴム−スチールコード複合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0013】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(10)に存する。
(1) ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤とを含有するゴム組成物に、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールコードが隣接していることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
【化2】

(2) ゴム成分100質量部に対して、硫黄0.3〜10質量部、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部、前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70質量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である上記(1)記載のゴム−スチールコード複合体。
(3) 前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmである上記(1)又は(2)記載のゴム−スチールコード複合体。
(4) 前記スチールコードは、スチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなる上記(1)〜(3)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
(5) 前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下である上記(4)記載のゴム−スチールコード複合体。
(6) ゴム組成物に、更に有機酸のコバルト塩をコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部含む上記(1)〜(5)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
(7) 上記一般式(I)中のR12〜R15が水素原子である上記(1)〜(6)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
(8) 上記一般式(I)中のR11が水素原子であり、xが1である上記(1)〜(7)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
(9) ゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む上記(1)〜(8)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
(10) ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる上記(1)〜(8)の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業性に優れると共に、引張り特性、短時間加硫後接着性、耐熱接着性に格段に優れたゴム−スチールコード複合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のゴム−スチールコード複合体は、ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤とを含有するゴム組成物に、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールコードが隣接していることを特徴とするものである。
【化3】

【0016】
本発明に用いるゴム成分としては、ゴム−スチールコード複合体に用いられるゴムであれば特に限定されず、主鎖に二重結合があるゴム成分であれば硫黄架橋可能であるため、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤が機能するものであり、例えば、天然ゴム及び/又はジエン合成系ゴムが用いられる。具体的には、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の少なくとも1種を使用することができる。
好ましくは、スチールワイヤやスチールコードへの接着性の点から、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含むことが好ましく、更に、ゴム−スチールコード複合体の更なる耐久性の点から、ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を上記の少なくとも1種の合成ゴムよりなることが望ましい。
【0017】
本発明の上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤は、コバルト系の接着剤との組み合わせでは今まで報告されておらず、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド同等の加硫遅延効果を有し、かつ、スチールワイヤやスチールコードとの直接加硫接着における接着耐久性に優れており、肉厚のゴム製品や空気入りタイヤに用いるゴム−スチールコード複合体のゴム組成物に好適に使用することができるものである。
【0018】
本発明において、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中、
(1)R11が水素原子の場合、R〜R10は水素原子(但し、全てが水素原子である場合を除く)、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は炭素数3〜4の分岐のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、
(2)R11が炭素数1〜10の直鎖アルキル基又は炭素数3〜10の分岐のアルキル基である場合、R〜R10は水素原子(但し、全てが水素原子である場合を除く)、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は炭素数3〜4の分岐のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、
(3)上記(1)及び(2)の場合、R12〜R15は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。
本願発明の上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物、すなわち、上記(1)及び(3)で表されるスルフェンアミド化合物、並びに、上記(2)及び(3)で表されるスルフェンアミド化合物は、特に、加硫促進性能が良好であると共に、接着性能を高めることができる。
【0019】
上記一般式(I)で表される化合物において、上記(1)又は(2)のR〜R10は、全てが水素原子である場合(シクロヘキシル)を除くので、シクロヘキシル環の少なくとも1つは炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は炭素数3〜4の分岐のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていてもよいものである。炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は炭素数3〜4の分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
上記(1)又は(2)のR〜R10において、好ましくは、十分に長いスコーチタイムが得られるなどの効果の点から、R、R、R、R10が水素原子、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又は炭素数3の分岐アルキル基であり、R〜Rが水素原子であるものが望ましく(但し、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く)、更に好ましくは、R、R、R、R10の少なくとも一つが炭素数3〜4の分岐アルキル基(全てが炭素数3〜4の分岐アルキル基以外の場合は残りが水素原子)であることが望ましく、特に好ましくは、R、Rの中の一つ、並びに、R、R10の中の一つが、共に(シクロヘキシル環の2,6の位置に)、炭素数3〜4の分岐アルキル基(イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基)であり、残り2つが水素原子であり、R〜Rが水素原子であるものが望ましい。
【0020】
また、上記(1)の場合のR11は、水素原子であり、上記(2)の場合のR11は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基又は炭素数3〜10の分岐のアルキル基である。炭素数1〜10の直鎖アルキル基又は炭素数3〜10の分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基,tert−ブチル基、n−アミル基(n−ペンチル基)、イソアミル基(イソペンチル基)、ネオペンチル基、tert−アミル基(tert−ペンチル基)、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソ−オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基などが挙げられる。
上記(2)のR11において、好ましくは、合成のし易さや原材料コストなどの効果の点から、炭素数1〜8の直鎖又は炭素数3〜8の分岐アルキル基、更に炭素数1〜5の直鎖又は炭素数3〜5の分岐アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、特に、メチル基、エチル基が好ましい。
【0021】
更に、上記一般式(I)で表される化合物において、上記(3)のR12〜R15は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、中でも、全てが水素原子、または、R12とR14が、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。更に、R12〜R15が、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基の場合、炭素数1であることが好ましく、特に好ましくは、全てが水素原子であるものが望ましい。好ましいいずれの場合も、化合物の合成のし易さ及び加硫速度が遅くならないためである。
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物のR12〜R15の具体例としては、水素原子の他、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0022】
更に、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のxは1又は2の整数を表し、好ましくは、1が望ましい。
なお、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR〜R10が水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は炭素数3〜4の分岐アルキル基以外の各官能基(例えば、n−オクタデシル基等)や炭素数が5を超える直鎖又は分岐アルキル基である場合、全てが水素原子である場合、また、R11が水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は炭素数3〜10の分岐アルキル基以外の各官能基(例えば、n−オクタデシル基等)や炭素数10を超える直鎖又は分岐アルキル基である場合には、本発明の目的の効果を発揮することが少なく、ムーニースコーチタイムが早くなるため焦げやすくなり加工性が悪化したり、若しくは、接着性が低下したり、または、加硫性能やゴム性能が低下したりすることがある。更に、xが3以上では、安定性の点で好ましくない。
【0023】
本発明において、上記一般式(I)で表される化合物の代表例としては、上記(1)及び(3)で表されるスルフェンアミド化合物では、N,N−メチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−エチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−プロピルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−ブチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−イソプロピルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−tert−ブチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジメチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジエチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジプロピルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジブチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジイソプロピルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−2,6−ジtert−ブチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドなどが挙げられ、
上記(2)及び(3)で表されるスルフェンアミド化合物では、N,N−(2,6−ジメチルシクロへキシル)メチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジメチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジエチルシクロへキシル)メチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジエチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジイソプロピルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジtert−ブチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド
等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
好ましくは、更なる接着性能の点から、N,N−メチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジメチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド、N,N−(2,6−ジイソプロピルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを用いることが望ましい。
また、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(CBS)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)などの汎用の加硫促進剤と組み合わせて使用することも可能である。
【0024】
本発明の上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物の好ましい製造方法としては、下記方法を挙げることができる。
すなわち、対応するアミンと次亜塩素酸ソーダの反応によりあらかじめ調製したN−クロロアミンとビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィドを、アミンおよび塩基存在下、適切な溶媒中で反応させる。塩基としてアミンを用いた場合は、中和を行い、遊離のアミンに戻した後、得られた反応混合物の性状に従って、ろ過、水洗、濃縮、再結晶など適切な後処理をおこなうと、目的とするスルフェンアミドが得られる。
本製造方法に用いる塩基としては、過剰量用いた原料アミン、トリエチルアミンなどの3級アミン、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ、重炭酸アルカリ、ナトリウムアルコキシドなどが挙げられる。特に、過剰の原料アミンを塩基として用いたり、3級アミンであるトリエチルアミンを用いて反応を行い、水酸化ナトリウムで生成した塩酸塩を中和し、目的物を取り出した後、ろ液からアミンを再利用する方法が望ましい。
本製造方法に用いる溶媒としては、アルコールが望ましく、特にメタノールが望ましい。
【0025】
例えば、N,N−メチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドでは、N−メチルシクロヘキシルアミンに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド、N−メチルシクロヘキシルアミンおよび前述の油層を、メタノ−ルに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とする上記化合物を得ることができる。
【0026】
これらのスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、0.5〜5.0質量部、更に好ましくは、0.8〜2.5質量部とすることが望ましい。
この加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ブルームが問題となり、好ましくない。
【0027】
本発明に用いる硫黄は、加硫剤となるものであり、その含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3〜10質量部、好ましくは、1.0〜7.0質量部、更に好ましくは、3.0〜7.0質量部とすることが望ましい。
この硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ゴムの老化性能が低下し、好ましくない。
【0028】
更に、本発明のゴム組成物には、初期接着性能の向上の点から、コバルト(単体)及び/又はコバルトを含有する化合物を含有せしめることが好ましい。
用いることができるコバルトを含有する化合物としては、有機酸のコバルト塩、無機酸のコバルト塩である塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトの少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは、更なる初期接着性能の向上の点から、有機酸のコバルト塩の使用が望ましい。
用いることができる有機酸のコバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等の少なくとも1種を挙げることができ、また、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよく、具体的には、市販のOMG社製の商品名「マノボンド」等も用いることができる。
【0029】
これらのコバルト及び/又はコバルトを含有する化合物の(合計)含有量は、コバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部、好ましくは、0.03〜1質量部、更に好ましくは、0.05〜0.7質量部とすることが望ましい。
これらのコバルト量の含有量が0.03質量部未満では、更なる接着性を発揮することができず、一方、3質量部を越えると、老化物性が大きく低下し、好ましくない。
【0030】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤、コバルト化合物等の他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で用いることができ、例えば、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、軟化剤、老化防止剤などを用途に応じて適宜配合することができる。
【0031】
本発明に係るスチールコードにおいては、周面ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量を、1.5原子%以下に抑制することが必要である。リンの含有量が1.5原子%を超えて増加すると、それにつれてゴムとの接着速度が遅くなってしまう。リンの含有量を1.5原子%以下とすることにより、ゴム中の水分率にかかわらず優れたゴム接着性を安定して得ることが可能となる。
【0032】
ここで、本発明(後述する実施例等を含む)におい、ブラスめっき層のワイヤ表層領域におけるリンの定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないよう20〜30μmφの分析面積にて、めっき層のワイヤ表層領域に存在する原子、即ち、C、Cu、Zn、O、PおよびNの原子数を計測することにより行い、これらC、Cu、Zn、O、PおよびNの合計原子数を100としたときのPの原子数の比率として、リンの含有量を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2、Zn:Zn2p3/2およびN:N1Sの光電子のカウント数を夫々用いて、夫々の感度係数で補正することにより求めた。例えば、リンの検出原子数〔P〕は、下記式にて求めることができる。
〔P〕=F(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント数)
【0033】
他の原子についても同様にして検出原子数を求めれば、それらの結果から、下記式、
P(原子%)={[P]/([Cu]+[Zn]+[C]+[O]+[N]+[P])}×100
に従い、リンの相対原子%を求めることができる。また、周面からワイヤ半径方向内方への深さ方向の元素の分布についても、アルゴンエッチング等を行えば、詳細に測定することが可能である。
なお、上記分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されていた場合には、正確な分析を行うために、ワイヤ表面を適切な溶媒で洗浄し、さらに、必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施すことが必要である。
【0034】
上記ワイヤ表層領域中に酸化物として含まれるリンの量を1.5原子%以下とするためには、伸線加工のパススケジュール、ダイスのエントランスやアプローチの形状並びに角度、ダイスの材質および潤滑剤組成などの調整を、夫々単独で、または適宜組み合わせることにより、かかるリンの量を適宜調整する。とりわけ、最終伸線工程において、極圧添加剤を含む潤滑剤を通常と同様に用いて、最終伸線工程の概略20パスのダイスのうち最終パスまたは最終パスを含む後段数パス程度において、優れた自己潤滑性と切削性とを兼ね備えた材質からなるダイス、例えば、焼結ダイヤモンドダイスを適用して伸線加工を行うことが、極めて有効である。
【0035】
ブラスめっき層の平均厚みは、好適には、0.13〜0.30μmである。ブラスめっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加して初期接着性が阻害され、一方、0.30μmを超えると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行して、脆弱な接着しか得られなくなる。
【0036】
また、本発明においては、ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70質量%であり、かつ、上記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%であることが好ましい。ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60質量%未満になると、伸線性が悪化して断線により生産性が阻害され、量産することが難しくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を15原子%以上に制御することが困難となる。一方、70質量%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下して、タイヤが曝される環境に対して十分な耐久性を維持できなくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を45原子%以下に制御することが困難となる。また、ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15原子%未満であると、ワイヤ表層領域におけるリンの量を上記した1.5原子%以下に制限した場合であっても、ゴムとの接着反応に乏しくなる結果、より優れたゴム接着性の確保が困難となる。一方、45原子%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下するという不利を招く。
【0037】
更に、スチールワイヤの直径は、0.40mm以下であることが好ましい。この直径が0.40mmを超えると、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が大きくなり、座屈を引き起こし易くなる。
【0038】
本発明に用いるスチールワイヤは、単線で用いてもよく、また、その複数本を撚り合わせたスチールコードとして用いることもでき、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適である。特に、本発明のゴム−スチールコード複合体を、乗用車用タイヤ、中でも乗用車用ラジアルタイヤのベルトに適用する場合には、ゴムとの接着速度が速くなることにより、タイヤの加硫時間を大幅に短縮することができる効果をも得ることができる。一方、トラックおよびバス用タイヤ、中でもトラックおよびバス用ラジアルタイヤのカーカスに適用する場合には、ビード部においてゴムとの接着速度が速くなるため、加硫時間の短縮と併せて、ビード部耐久性の向上をも図ることが可能である。
【0039】
本発明のゴム−スチールコード複合体は、上記特定のスルフェンアミド系加硫促進剤を含有したスチールコードコーティング用ゴム組成物および上記特定のスチールコードから構成されるものであり、上記構成のゴム組成物にスチールコードを隣接してなるゴム−スチールコード複合体は、例えば、自動車用タイヤやコンベアベルトなどの工業用ゴム製品の性能を向上させるための補強材として好適に用いられる。本発明のゴム−スチールコード複合体を空気入りタイヤに用いる場合は、例えば、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、かかるカーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明のいずれかのゴム−スチールコード複合体を用いたものであり、これにより、耐久性に優れた高性能の空気入りタイヤを得ることができる。
【0040】
このように構成される本発明では、加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、DCBSと同等以上の加硫遅延効果を有し、耐熱劣化性を有する加硫促進剤を含有するゴム組成物を、接着反応を阻害するリンの含有量が少ない低リン量のスチールコード等の被覆ゴムとして用いるため、ゴムやけの発生が格段に少なくなると共に、ゴム含有時の加工性と高い耐熱接着性を維持しながら、配合ゴムの経時変化が少なく、スチールコード等との接着性(短時間加硫後接着性、耐熱接着性)に格段に優れたゴム−スチールコード複合体が得られるものとなり、また、コバルト(単体)及び/又はコバルトを含有する化合物を更に含有するゴム組成物では、更に、タイヤや工業用ベルト等のゴム製品に用いられるスチールコード等との接着耐久性に優れるゴム−スチールコード複合体が得られるものとなる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の加硫促進剤の製造例、並びに、本発明のゴム組成物の実施例及び比較例に基づいて更に詳述するが、本発明は、これらの製造例、実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
〔製造例1:N,N−メチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−メチルシクロヘキシルアミン18.3g(0.162mol)に12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液148gを0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド39.8g(0.120mol)、N−メチルシクロヘキシルアミン27.1g(0.240mmol)および前述の油層を、メタノ−ル120mlに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウム6.6g(0.166mol)で中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とするN,N−メチルシクロへキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0043】
〔製造例2:N,N−(2,6−ジメチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−メチルシクロヘキシルアミンの代わりにN−ジメチルシクロへキシルエチルアミン25.1g(0.162mol)用いて実施例1と同様に行い、N,N−(2,6−ジメチルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0044】
〔製造例3:N,N−(2,6−ジイソプロピルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドの合成〕
N−メチルシクロヘキシルアミンの代わりにN−ジイソプロピルシクロへキシルエチルアミン34.2g(0.162mol)用いて実施例1と同様に行い、N,N−(2,6−ジイソプロピルシクロへキシル)エチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミドを白色固体として得た。
【0045】
〔実施例1〜3及び比較例1〜6〕
2200mlのバンバリーミキサーを使用して、ゴム成分、硫黄、上記製造例1〜3で得た新規加硫促進剤1〜3、有機酸コバルト塩、その他の配合剤を下記表1に示す配合処方で混練り混合して未加硫のゴム組成物を調製し、以下の方法で、ムーニー粘度、ムーニースコーチタイムを評価した。
次に、上記で得た各ゴム組成物を、スチールコードにコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で接着性試験にて短時間加硫後接着性、耐熱接着性を評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0046】
用いたスチールコードは、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。なお、ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量は、アルゴンエッチングを行いながら測定した。
【0047】
(ムーニー粘度、ムーニースコーチタイムの評価方法)
JIS K 6300−1:2001に準拠して行った。
なお、評価は、比較例4の値を100として指数表示した。ムーニー粘度は、値が小さいほど作業性が良好であることを示し、ムーニースコーチタイムは、値が大きい程、作業性が良好であることを示す。
【0048】
(接着性試験:短時間加硫後接着性、耐熱接着性)
上記ブラスめっきスチールコード(1×3構造、素線径0.30mm)を30本/インチ間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表1記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。
各サンプルをASTM−D−2229に準拠して、接着性試験を行った。短時間加硫後接着性は、各サンプルを160℃×7分間の条件で加硫した後、上記試験法にて、ゴム−スチールコード複合体につき、ゴムからスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示し、短時間加硫後接着性の指標とした。数値が大きいほど短時間加硫後接着性が良好であることを示す。
また、耐熱接着性は、各サンプルを100℃のギヤオーブンに15日、30日間放置した後に、上記試験法にて、スチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示し、各耐熱接着性の指標とした。数値が大きい程、耐熱接着性に優れていることを示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1中の*1〜*8は、下記のとおりである。
*1:N−フェニル−N´−1,3−ジメチルブチル―p−フェニレンジアミン
(大内新興化学工業社製、商品名:ノゴム−スチールコード複合体クセラー6C)
*2:N,N´−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーDZ)
*3:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーCZ)
*4:N,N´−メチル−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
*5:OMG社製、商品名:マノボンドC22.5、コバルト含有量22.5質量%
*6:N−メチルシクロヘキシル−2−スルフェンアミド
【化4】

*7:N−エチル−N−(2,6−ジメチルシクロヘキシル)−2−スルフェンアミド
【化5】

*8:N−エチル−N−(2,6−ジイソプロピルシクロヘキシル)−2−スルフェンアミド
【化6】

【0051】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜3は、本発明の範囲外となる比較例1〜6に較べて、ムーニー粘度、ムーニースコーチタイムの評価から作業性に優れると共に、短時間加硫後接着性、耐熱接着性に格段に優れていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のゴム−スチールコード複合体では、乗用車、トラック、バス、二輪車用等のタイヤ、ベルトコンベアなどの肉厚のゴム製品における、ゴム−スチールコードとの直接加硫接着するゴム製品などに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤とを含有するゴム組成物に、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールコードが隣接していることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
【化1】

【請求項2】
ゴム成分100質量部に対して、硫黄0.3〜10質量部、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部、前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70質量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である請求項1記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項3】
前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmである請求項1又は2記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項4】
前記スチールコードは、スチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなる請求項1〜3の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項5】
前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下である請求項4記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項6】
ゴム組成物に、更に有機酸のコバルト塩をコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部含む請求項1〜5の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項7】
上記一般式(I)中のR12〜R15が水素原子である請求項1〜6の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項8】
上記一般式(I)中のR11が水素原子であり、xが1である請求項1〜7の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項9】
ゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む請求項1〜8の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項10】
ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる請求項1〜8の何れか一つに記載のゴム−スチールコード複合体。

【公開番号】特開2011−225664(P2011−225664A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94888(P2010−94888)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】