説明

ゴムの表層処理方法及び装置

【課題】グリーンタイヤなどのゴムの表層を効果的に加硫する。
【解決手段】未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理方法において、前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ等を構成するゴムの表層処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等に使用されているタイヤは、種々の原材料を混合する「混合工程」、カーカス、ビード、トレッド、ベルトなどタイヤの各パーツを作る「材料加工工程」、できあがった各パーツを一本のタイヤの形に組み上げる「成型工程」、組み上がった生タイヤ(グリーンタイヤ)を加熱・加圧しゴムの弾力性を確保する「加硫工程」、そして最終的にできあがったタイヤをチェックする「検査工程」という工程を経て製造されている。
前記加硫工程では、成形されたグリーンタイヤを加硫機に装着し、内側をブラダ等で膨張した上で、高圧・高温下で加硫処理を行う。この際、グリーンタイヤとタイヤ金型間のエアを外部に放出しないと、タイヤ表面にエアによる欠陥が生じ不良品となる。エアを外部に放出する方法としては、金型に外側へ通じるベントホールを設け、このベントホールからエアを金型外部へ放出させる方法や、分割金型などを使用し、金型間の継目からエアを外部へ放出させる方法がある。
【0003】
ところが、前述のベントホールを用いた方法では、該ベントホールに未加硫ゴムが流れ込み、加硫後のタイヤ表面にひげ状の突起物であるベントスピューが残るといった不都合が生じていた。分割金型を用いた場合であっても、金型間の継目に未加硫ゴムが流れ込み、加硫後のタイヤ表面にバリやフラッシュが残っていた。加硫成形後のタイヤを製品タイヤとするためには、前記ベントスピューやフラッシュを除去する必要があり、生産性低下の一因となっていた。
上記欠点を改善するために、原料ゴムのカーボンブラックの充填量を増量することにより、ゴムを硬質化して、ベントホール又は金型間の継目にゴム材が侵入し難くしたり、グリーンタイヤの加硫処理の前に、タイヤ表層に予備加硫を施し、ゴム流動を抑える技術が開発されている。
【0004】
特許文献1〜特許文献3には、タイヤ表層に予備加硫を施す技術が開示されている。
例えば、特許文献1には、加硫前のグリーンタイヤの表面に電子線を照射することで、ゴム分子間の炭素と炭素との有効架橋反応を促進させ、タイヤ表層を加硫させる技術が開示されている(放射線架橋方法)。
特許文献2や特許文献3には、成形前の未加硫ゴムシートの表面に6000℃〜500℃の熱源から放射される赤外線を照射し、タイヤ表層を加熱して予備的に加硫を促進させることで、金型成形加硫後のタイヤに発現するバリ、フラッシュ、ベントスピューなどのゴムのはみ出しを抑制させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平7−1471号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平8−155971号公報(第2頁〜第5頁、図1)
【特許文献3】特開平8−156511号公報(第2頁〜第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された放射線架橋方法では、電子線照射に伴う電子線の漏洩を防ぐ漏洩防止装置が大がかりなものとなり、設置スペースが過大となるばかりか設備費が高騰し、製造コストが嵩む原因となっていた。
特許文献2や特許文献3に開示された赤外線照射技術に関しては、温度6000℃〜500℃の熱源(例えばハロゲンランプ)により赤外線を発生させ、それを照射する装置は、比較的安価に製造・設置することが可能である。しかしながら、温度6000℃〜500℃の熱源から照射される赤外線は、ウィーンの変位則によれば、エネルギー密度が最も高くなる波長が0.46μm〜3.75μmとなり、この波長帯はゴムに対する吸収率が低い(反射率が高い)ため、ゴムに効率よく吸収されず、ゴム表層を確実に加熱できなかった。
【0006】
換言すれば、ゴムに対する赤外線吸収率を示した図1のグラフからわかるように、ゴムの赤外線吸収率が高いのは、3μm以上、好ましくは3μm〜15μmの領域であり、このことから特許文献2や特許文献3の熱源は、赤外線エネルギーを効率的にゴム部材表面に付与できないことがわかる。
加えて、熱源温度が600℃程度であると、赤外線のエネルギー密度が最も高くなる波長は3μm程度であり、ゴムに対する吸収率は比較的よくなるが、赤外線エネルギーは、プランクの公式から考えて、熱源温度が6000℃の時の1/10000となり、加熱のための赤外線エネルギー量が極端に小さいものとなる。
【0007】
これらのことより、特許文献2や特許文献3の技術では、グリーンタイヤ表層の効率的な予備加硫が行えない。
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、グリーンタイヤなどのゴムの表層を効果的に加硫することのできるゴムの表層処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における課題解決のための技術的手段は、未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理方法において、前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射することを特徴とする。
この技術的手段によれば、未加硫状態のゴムに照射された赤外線は、ゴムに対する高い吸収率を備えた波長帯を有しているため、当該ゴムに確実に吸収されるようになる。加えて、赤外線は収斂された上でゴムに照射されるため、そのエネルギー密度は非常に大きくなり、短時間の照射でゴム表面を確実に高温とすることができる。ゆえに、該高温状況下で未加硫であるグリーンタイヤなどのゴム表層を効果的に加硫することが可能となる。
【0009】
なお、前記赤外線の波長は、3μm以上15μm以下とすることが好ましい。
図1は各種ゴムにおける赤外線吸収率の特性の分布を示したものであり、横軸が波長、縦軸はゴムに対する吸収率を示している。この図からわかるように、ゴムの赤外線吸収率は、照射された赤外線の波長が3μm以上、詳しくは3μm〜15μmの領域において非常に高い。ゆえに、ゴムに照射される赤外線を3μm〜15μmの波長とすることで、ゴム表層は効果的に赤外線を吸収し温度が確実に上昇するようになる。
更に好ましくは、前記赤外線は、コヒーレント性を有するレーザ光とするとよい。
【0010】
コヒーレント性を有する光とは、一つの定まった波長を持ち、光の波形の山と山、谷と谷とが一致する規則正しく連続した光のことである。自然光、例えば、太陽光や熱源から放射される赤外線はこのような性質は持っていないので、コヒーレント性を有さない光(インコヒーレントな光)と呼ばれている。
インコヒーレントな光である太陽光をレンズ等を用いて光を収斂させるとする。太陽光は、いろいろな波長を含んでいるので鋭く焦点に集めることができず、そのため太陽の表面温度の6000℃以上にはならない。しかし、コヒーレント性を有するレーザ光は、波長・位相がよく揃い収束性もよいので、狭い面積にきわめて高密度の光エネルギーを集中でき、焦点温度を数万度まで上げることができる。
【0011】
ゆえに、コヒーレント性の高いレーザ光が照射されたゴム表層は、高いエネルギーを付与されて、極短時間で高温状態となる。
また、本発明における課題解決のための技術的手段は、未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理装置において、前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射し、該ゴムの表面温度を上昇させてその加硫を行わせる加硫手段を備えることを特徴とする。
【0012】
かかる表面処理装置を用いることで、未加硫であるグリーンタイヤなどのゴムの表層を効果的に加硫することのでき、該表層を予備加硫状態とすることができるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、未加硫状態のゴムの表層を効果的に加硫することができる。
特に、本発明をグリーンタイヤに適用した場合、タイヤ表面の必要な部位を均一厚みの予備加硫被膜で覆うことができ、金型を用いた成形加硫後のタイヤに発現するバリ、フラッシュ、ベントスピューなどのゴムのはみ出しを抑制すると共に、該金型の汚れを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明にかかるゴムの表層処理方法及び装置を、図を基にして説明する。
自動車等に使用されているタイヤの製造工程中、加硫工程においては、赤外線をタイヤ表面に照射し、表層を加熱して予備的に加硫を促進させることで、金型を用いた本加硫後のタイヤに発現するバリ、フラッシュ、ベントスピューなどのゴムのはみ出しを抑制させるゴムの表層処理方法が採用されることがある。
本発明は、このような予備的加硫を行う方法にかかるものであり、未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理方法において、前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射するものである。
【0015】
以下、赤外線を照射する対象となるゴムとして、グリーンタイヤ1やその構成材の一つであるゴムシート状のトレッド部材2を例示して説明を行う。
まず、予備加硫方法を行うにあたり、グリーンタイヤ1に使用されている未加硫状態のゴムの特性を調べるようにする。
グリーンタイヤ1の一部を採取し、反射率測定装置等により赤外線の反射率を測ることでグリーンタイヤ1に対する赤外線吸収率の特性を知ることができる。しかしながら、本実施形態の場合は、図1に示すような予め既知となっている吸収率データを利用している。
【0016】
図1は、タイヤに対する赤外線の吸収率特性を示したものであり、「Y.S.Touloukian,D.P.DeWitt, Thermophysical Properties of Matter Volume8, Thermal Radiative Properties Nonmetallic Solids, IFI/PLENUM NewYork-Washington, 1972」の図674を基に作成したものである。図1の横軸は赤外線の波長を示し、縦軸はゴムに対する吸収率を示している。
この図からわかるように、波長が1μm近傍、0.8〜2μmでのゴムに対する赤外線吸収率は、0.1〜0.8であって、最大でも照射した赤外線の80%しか吸収しないことになる。ところが、赤外線の波長が3〜15μmの範囲では、90%以上の吸収率を持ち、最大では98%の吸収率を備える波長もある(例えば、9μm)。
【0017】
これらのことより考えて、グリーンタイヤ1表層の予備加硫に用いる赤外線の波長は、赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する3〜15μmの範囲の波長帯、好ましくは6〜10μmであるようにするとよい。ゆえに、照射赤外線としてはCO2レーザ光3を用いている。CO2レーザ光3は波長が9.4μmまたは10.6μmのいずれかであり、ゴムへの吸収率が非常に高いものとなっている。
加えて、当該CO2レーザ光3はコヒーレント性が極めて高いため、収斂させることで高エネルギー密度とすることが可能である。すなわち、波長がそろっていると共に収束性もよいので、狭い面積に極めて多量の光エネルギーを集中でき、焦点温度を非常に高温とすることができる。CO2レーザ光3である照射赤外線を高エネルギー密度とするために収斂させる方法としては、集光レンズ4等を用いたり、シリンドリカルレンズ5を用いてスリット状に絞ったりすればよい。
【0018】
なお、コヒーレント性が高い点に着目した場合、1.06μmの波長を有するYAGレーザも照射赤外線として使用することもできる。YAGレーザ光であれは非常に高エネルギー密度にすることができるため、グリーンタイヤ1(ゴム)に対する吸収率が悪いにも関われず、グリーンタイヤ1表層を加硫可能な温度(約200℃)まで極短時間で引き上げることが可能となる。
図2には、前述のような考え方に基づき、本加硫前のグリーンタイヤ1の構成材の一つであるトレッド部材2(ゴムシート)の表面に赤外線を照射して、表面を予備的に加硫させるゴムの表層処理装置の第1実施形態が示されている。
【0019】
本表層処理装置は、長尺で未加硫状態のトレッド部材2を載置すると共に下流側に移送可能とする移送手段6を有し、トレッド部材2はその長手方向と移送方向とが略並行となるようになっている。
加えて、前記トレッド部材2に対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該トレッド部材2の表層に照射し、該トレッド部材2の表面温度を上昇させてその加硫を行わせる加硫手段7を備えている。
【0020】
この加硫手段7は、レーザ発振部8と、この発振部で発振されたレーザ光を伝達する導光線9と、該導光線9の先端部に取り付けられているスリット光変換部10とを有している。
レーザ発振部8は、CO2を励起状態にしてレーザ光を発生させるCO2レーザ発振機構を備えるものであって、当該レーザ発振部8で発生したレーザ光3は、その波長が9.4μmまたは10.6μmである。
前記発生したレーザ光3は、光ファイバーで構成された導光線9を通じてその先端部に導かれ、先端部に連結されたスリット光変換部10内に導入されるようになっている。導入されたレーザ光3は、スリット光変換部10のシリンドリカルレンズ5等により、スリット状(線状)に収斂され、収斂した部分では高エネルギー密度を有するようになる。
【0021】
当該スリット光変換部10は、発せられるスリット状の光がトレッド部材2の幅方向を向くように設置されており、スリット状のレーザ光3はトレッド部材2より幅広となっている。ゆえに、トレッド部材2の幅方向一端側から他端側の全てにレーザ光3は照射されるようになる。その照射状態で、トレッド部材2を下流側に移送することで、トレッド部材2の表面全てを加硫状態とすることができるようになる。
前記レーザ光3が照射されたトレッド部材2の表層部すなわち照射部11は、効率よく照射レーザ光3を吸収し、その部位の温度が上昇するようになる。それに伴い、ゴムの加硫(架橋反応)が進むようになる。加硫の進む範囲は、レーザ光3の照射パワーや収斂幅により適切な値に設定可能である。
【0022】
照射部11における加硫反応を効率よく促進させるためには、照射部11の温度を所定のものとする必要がある。そのために、本表層反応装置は、レーザ光3が照射された部位から放射される赤外線(放射電磁波)をサンプリングすることで、照射部11の温度を遠隔で且つ高レスポンスで測る放射温度計12(測温手段)を備えている。
この放射温度計12は、レーザ光3の有する単一の波長以外の赤外線を捕らえるものとし、照射されたレーザ光3の影響を受けないようなものとなっている。加えて、レーザ光照射時に、該レーザ光3の照射部11からの反射光が、放射温度計12に進入して正確な温度測定を妨げることを防ぐべく、後述するようにレーザ光3をパルス状に発光させて、非照射時に照射部11からの赤外線をサンプリングするようにしてもよい。レーザ光3の波長帯のみをカットするバンドパスフィルタ(図示せず)を放射温度計12の赤外線採取口の前側に設けることも好ましい。
【0023】
このような放射温度計12により、赤外線照射部11の温度をほぼリアルタイムで計測することができるようになる。図2に示すように、該放射温度計12は、スリット光変換部10の近傍に別体として設けるようにしてもよいが、スリット光変換部10内に内蔵し一体型としてもよい。
さらに、本表層処理装置は、トレッド部材2上のレーザ光3の照射部11における温度制御を行う制御部13を有している。
この制御部13では、放射温度計12から得られた照射部11の温度データを基に、例えばレーザ発振のフィードバック制御やフィードフォワード制御を行うことで、照射部11の温度を加硫を行わせるに最適な値にしたり、照射部11の最高到達温度をコントロールするようにしている。
【0024】
図3〜図5には、前記制御部13で実施される温度制御の方法を示している。各図の(a)はレーザ出力の時間推移を示しており、(b)は照射部11の温度時間推移を示している。
図3に示す温度制御方法は、まず、照射開始と共にδ関数的に一定出力のレーザ光3を照射すると、それに連動し、ゴムの赤外線が照射された部位の温度は上昇する。もし、レーザの出力が一定であれば、時間と共に、照射部11の温度は上昇し続け、加硫に最適な温度より高温となる可能性やゴムが炭化する危険性がある。そこで、所定時間後にレーザ出力を減少させるようにする。すると、それに伴い、照射部11の表面温度の上昇が止まりほぼ一定の温度(最高到達温度)のままで時間的に推移するようになる。レーザ出力が減衰しほぼ0になった後は、照射部11の温度もすみやかに低下するようになる。
【0025】
本温度制御方法は、レーザ出力の時間的推移を図3(a)の如く予め設定しておくフィードフォワード制御法を採用してもよく、照射部11の温度変化を前記放射温度計12でセンシングし、そのデータを当該制御部13に入力させて、照射部11の温度が図3(b)の如く変化するようにフィードバック制御してもよい。特に、前記放射温度計12は、非接触で且つ高速に温度データをサンプリングすることができため、フィードバック制御の場合、短時間加熱に対する正確な温度制御を可能とする。ゆえに、本表面処理装置は、トレッド部材2等の対象物に対して、オーバーキュアすることなく、所望の厚みの予備加硫薄皮を形成することができるようになる。
【0026】
図4には、前記制御部13で実施される温度制御の他の方法を示している。この制御方法は、図4(a)に示すように、照射開始からパルス状にレーザ光3を照射するものである。時間が経過すると共に、パルス状のレーザ出力を減少させるようにしているため、図3に示す方法と同様に、照射部11に加えられるトータルエネルギーは減少し、表層部の温度はほぼ一定値で推移するようになる。当然、レーザ出力が0になった後は、照射部11の表層温度はすみやかに低下するようになる。
図5には、前記制御部13で実施される温度制御のさらに別の方法を示している。この制御方法は、図5(a)に示すように、照射開始からパルス状にレーザを照射するものであり、レーザ出力は常に一定である。しかしながら、トレッド部材2表面の照射部11の温度を一定にするために、照射時間間隔(パルス周期)を徐々に長くするようにしている。
【0027】
このように、パルス状のレーザ出力のパルス周期を徐々に長くするようにしているため、照射部11に加えられる単位時間あたりのエネルギーは徐々に少ないものとなって、照射部11の温度が上がりすぎることを防ぐと共に、ほぼ一定値で時間推移するようになる。レーザ出力が0になった後は、照射部11の表層温度は低下するようになる。
図4,図5の温度制御方法のいずれにおいても、レーザ出力の時間推移を予め決めておくフィードフォワード制御を採用してもよく、照射部11の最高到達温度を略一定とするためにレーザ出力をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0028】
図6には、本発明にかかる表層処理装置の第2実施形態が示されている。
本実施形態は、レーザ光3照射部11として第1実施形態のようなスリット光変換部10を有しておらず、導光線9を通ってきたレーザ光3を一点に収斂させる集光レンズ4を備えた集光部14を有するものとなっている。該集光部14で収束されたレーザ光3はビーム状となり、ガルバノミラー15(照射角変更手段)に当てられ、かかるガルバノミラー15がその回転軸芯方向に回動することで、レーザ光3はトレッド部材2の幅方向一端部から他端部まで走査するようになり、スリット光で照射するのと同様な照射状態となる。
【0029】
放射温度計12は、レーザ光3の照射部11を向くようになっており、照射部11からの赤外線を捕らえその部分の温度上昇を行うようにしている。加えて、前記測温部をレーザ光3の走査に連動して移動させるために、当該放射温度計12は、トレッド部材2の幅方向に首降りする機構を備えている。
なお、トレッド部材2表面上において、レーザ光3が当たる照射部11と温度を測る測温部とを完全に一致させず、両者を若干離した位置にすることで、レーザ光3が放射温度計12に入り込み計測誤差をもたらす可能性を少なくすることができ、第1実施形態のように、バンドパスフィルタ等を設ける必要性を減らすことができる。
【0030】
本実施形態の他の部分は、第1実施形態と略同様であり、制御部13において図3〜図5に示すようなレーザ光3の照射制御を行うようなものとなっている。
図7には、本発明にかかる表層処理装置の第3実施形態を示している。本実施形態は、第1実施形態と同様なスリット光変換部10を有しており、レーザ光照射対象が、グリーンタイヤ1となっている。
グリーンタイヤ1は、ホイール状の把持部材16により上下方向から挟み込まれ、上下軸芯回りに回転自在となっている。その上で、前記スリット光変換部10からのスリット状のレーザ光3を上下軸芯と略並行な状態で、当該グリーンタイヤ1のトレッド部17や両ショルダー部18,18、両サイド部19,19に照射する。トレッド部17に対する照射であれば、スリット光変換部10を(A)の位置に配置し、サイド部19,19であれば、(B)の位置に配置することが好ましい。
【0031】
この時、グリーンタイヤ1を回転させることで、タイヤ外周全面の予備加硫を行うようにすることができるようになる。
このようにすることで、グリーンタイヤ1のような3次元形状を有する対象物であっても、必要な部位を均一厚みの予備加硫薄皮で覆うことが可能となる。
図8は、本発明にかかる表層処理装置の第4実施形態を示している。本実施形態は、第2実施形態と同様なビーム状のレーザ光3を照射可能な集光部14を有し、赤外線照射対象がグリーンタイヤ1となっている。
【0032】
グリーンタイヤ1は、リム状の把持部材16により上下方向から挟み込まれ、上下軸芯回りに回転自在となっている。集光部14はロボットハンド等のビーム走査機構20の先端部に取り付けられており、ビーム走査機構20を操作することにより、タイヤのトレッド部17からサイド部19,19までレーザスポット光を当てることができるようになっている。
グリーンタイヤ1を回転させつつ、それに同期させて、前記ロボットアームを操作し、レーザスポット光をタイヤのトレッド部17からサイド部19,19まで照射することにより、グリーンタイヤ1外周全面の予備加硫を行うことが可能となる。
【実施例】
【0033】
前述した実施形態の方法により、レーザ光を加硫工程前のゴムやグリーンタイヤに照射した実験について述べる。
使用した加硫用の金型(図示せず)には、外径約25mmの円板状にゴムが充填されるようになっており、この金型の一方側には、充填されたゴムに通じる複数のベントが設けられている。これら複数のベントの径は、0.2〜1.3mmである。
かかる金型に、レーザ光を照射し表層処理を行った未加硫ゴムと、表層処理を行っていない未加硫ゴムとを充填し、同一条件で加硫処理を行った。表層処理の条件としては、使用レーザはCO2レーザであって、レーザ発振出力は8Wであり、走査速度は2500mm/secとし、照射を40回繰り返した。
【0034】
その結果、レーザによる前処理を行っていないゴムの場合は、全てのベントにおいてベントスピューが発生しているものの、本実施形態にかかる表層処理を行った場合は、ベントの径が0.8mm以下のものについては全くベントスピューは発生しなかった。
また、他の実験例としてはグリーンタイヤ1に表層処理を施したものがあり、使用したレーザはCO2レーザであって、レーザ発振出力は20Wである。レーザ光3のビーム径φ1mmで、該ビームをグリーンタイヤ1幅方向に速度500mm/secで走査した場合、加硫が行われた表層の厚みは100μm程度となった。このような予備加硫の結果、金型に形成されている直径φ1mmのベントホールに起因する、本加硫後のベントスピューの発生はほとんど見られなかった。加えて、製品タイヤのトレッドパターンのエッジ部は丸みを帯びることなく金型パターンどおりに形成されていることが確認された。
【0035】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
すなわち、対象物であるトレッド部材2などのゴムシートやグリーンタイヤ1に対し、レーザ光3を走査させるようにしていたが、レーザ光3を固定とした上で、対象部を移動させるようにしてもよい。対象物がシート状であれば平行移動、円形又は環状であれば回転運動させるとよい。
また、加硫を行うゴムとして、グリーンタイヤ1やその構成材の一つであるトレッド部材2を例示しているが、それらに限定されるものではなく、本発明にかかるゴムの表層処理方法や装置は、ファンベルトや動力伝達ベルトなど加硫を行う必要性のあるゴムに適用可能である。
【0036】
また、第2実施形態におけるガルバノミラー15の代わりに、照射角変更手段としてポリゴンミラーを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ゴムに対する赤外線吸収率の特性を示した図である。
【図2】本発明にかかるゴムの表面処理装置の第1実施形態を示した図である。
【図3】制御部における温度制御方法である。
【図4】制御部における他の温度制御方法である。
【図5】制御部における他の温度制御方法である。
【図6】本発明にかかるゴムの表面処理装置の第2実施形態を示した図である。
【図7】第1実施形態をグリーンタイヤに適用した場合を示した図である。
【図8】第2実施形態をグリーンタイヤに適用した場合を示した図である。
【符号の説明】
【0038】
3 レーザ光
7 加硫手段
8 レーザ発振部
9 導光線
10 スリット光変換部
12 放射温度計
13 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理方法において、
前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射することを特徴とするゴムの表層処理方法。
【請求項2】
前記赤外線の波長は、3μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴムの表層処理方法。
【請求項3】
前記赤外線は、コヒーレント性を有するレーザ光であることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴムの表層処理方法。
【請求項4】
未加硫状態のゴムの表層に赤外線を照射し、該ゴムの表面温度を上昇させて表層の加硫を行うゴムの表層処理装置において、
前記未加硫状態のゴムに対する赤外線吸収率の特性を求め、該特性を基に赤外線吸収率の最大値又はその近傍に対応する赤外線の波長帯を求め、該波長帯を有する赤外線を収斂させて当該ゴムの表層に照射し、該ゴムの表面温度を上昇させてその加硫を行わせる加硫手段を備えることを特徴とするゴムの表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−62201(P2006−62201A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247441(P2004−247441)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】