説明

ゴムホースの製造方法、ゴムホース、及び端子金具付きゴムホース

【課題】製造スペースを低減しながら、第1及び第2の編組層を一体化して耐久性を向上させることが可能なゴムホースの製造方法及びゴムホースを提供する。
【解決手段】ゴムホースの製造方法は、ゴム内管2の外周側に第1の編組層31を形成し、第1の編組層31の外周側に熱可塑性樹脂層30を形成し、熱可塑性樹脂層30の外周側に第2の編組層32を形成し、第1の編組層31の外周側にゴム外管4を形成して、積層構造体10を形成する積層構造体形成工程と、積層構造体10を熱可塑性樹脂層30が軟化する温度以上に加熱することで、ゴム内管2及びゴム外管4を加硫させる加硫軟化工程と、熱可塑性樹脂層30を軟化させることにより、糸状体310,320の編目31a,32aに浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、第1及び第2の編組層310,320を一体化させる一体化工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムホース及びその製造方法に係り、特に、自動車や自動二輪車等の車両におけるブレーキ装置に使用され、高圧流体を移送又は圧力を伝達する車両用ブレーキホースに好適に利用できるゴムホースの製造方法及びゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴムホースとして、ゴム内管と、ゴム内管の外側に設けられた二重の編組補強層と、二重の編組補強層の外側に形成されたゴム外管とを備えたものがある(特許文献1及び2を参照)。
【0003】
特許文献1に記載のブレーキホースは、第1の繊維編組補強層、第1の繊維編組補強層の外側に形成された中間ゴム層、及び中間ゴム層の外側に形成された第2の繊維編組補強層を有する。この中間ゴム層は、第1の繊維編組補強層及び第2の繊維編組補強層の間に生じる磨耗を防ぎ、ゴムホースの耐久性を向上させるために配置されている。
【0004】
特許文献2に記載のブレーキホースは、ゴム内管の外側に設けられた第1の繊維編組補強層、第1の繊維編組補強層の外側に設けられた第2の繊維編組補強層、及び第1の繊維編組補強層の編組が一体に硬化した硬化層を有する。
【0005】
また、特許文献2に記載のブレーキホースの製造方法では、硬化層が、含侵工程、絞り工程を経て形成される。これら工程は、一般的に、長尺の材料ホースが一定の速度によって送り出され、一連の流れ作業にて行われる。含侵工程は、第1の繊維編組補強層が形成された材料ホースを熱硬化性樹脂溶液が入った含浸溶液槽にくぐらせることにより第1の繊維編組補強層に熱硬化性樹脂溶液を含侵させる工程である。絞り工程は、第1の繊維編組補強層に含侵した熱硬化性樹脂溶液を絞り出す工程である。これらの工程終了後、第1の繊維編組補強層の外周側に第2の繊維編組補強層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4304922号公報
【特許文献2】特許第3271752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のブレーキホースでは、中間ゴム層のみにより第1の繊維編組補強層及び第2の繊維編組補強層の各編組目に生じる磨耗を十分に防ぐことは難しく、耐磨耗性を向上させるためには、第1の繊維編組補強層及び第2の繊維編組補強層を構成する化学繊維として、耐摩耗性の高い特定のものを採用する必要があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載のブレーキホースでは、硬化層の含侵工程、及び絞り工程において、熱硬化性樹脂溶液を含侵し、絞り出さなければならない。特に含浸工程においては、一連の流れ作業の中で材料ホースを大きく曲げることは望ましくないため、材料ホースの曲げを少なくしつつ材料ホースを含浸溶液槽にくぐらせるためには、含浸溶液槽を長くする必要がある。また、絞り工程においては、それ専用の装置が必要となる。即ち、特許文献2に記載のブレーキホースの製造方法は、製造スペースが大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、製造スペースを低減しながら、第1の編組層と第2の編組層との接触による磨耗のみならず、第1及び第2の編組層自体の編組間同士の磨耗を低減することで耐久性を向上させることが可能なゴムホースの製造方法、ゴムホース、及び端子金具付きゴムホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、中空部を有するゴム内管と、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、ゴム外管とを有するゴムホースの製造方法であって、前記ゴム内管の外周側に前記第1の編組層を形成し、前記第1の編組層の外周側に熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を形成し、前記熱可塑性樹脂層の外周側に前記第2の編組層を形成し、前記第2の編組層の外周側に前記ゴム外管を形成して、積層構造体を形成する積層構造体形成工程と、前記積層構造体を前記熱可塑性樹脂層が軟化する温度以上に加熱することで、前記ゴム内管及び前記ゴム外管を加硫させると共に、前記熱可塑性樹脂層を軟化させる加硫軟化工程と、前記熱可塑性樹脂層を軟化させることにより、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、前記第1及び第2の編組層を一体化させる一体化工程と、を有することを特徴とするゴムホースの製造方法を提供する。
【0011】
また、前記熱可塑性樹脂層として、融点90〜165℃(90℃以上かつ156℃以下)のポリエチレン(PE)、又は融点90〜165℃のポリエチレン−ポリ酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いてもよい。
【0012】
また、前記熱可塑性樹脂層として、融点90〜165℃のポリプロピレン(PP)を用いてもよい。
【0013】
また、前記熱可塑性樹脂層は、帯状に形成された熱可塑性樹脂を前記第1の編組層の外周側に巻き回して形成してもよい。
【0014】
また、前記糸状体としてビニロン繊維を用いてもよい。
【0015】
また、前記第1の編組層の編組密度は、3,500〜4,400dtex/mmであり、前記第2の編組層の編組密度は、2,700〜5,200dtex/mmであるとよい。
【0016】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、中空部を有するゴム内管と、前記ゴム内管の外周側に設けられ、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、前記第1及び第2の編組層の外周側に設けられたゴム外管とを有し、前記第1及び第2の編組層は、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、一体化していることを特徴とするゴムホースを提供する。
【0017】
また、前記ゴムホースを、車両のブレーキホースとして用い、前記ゴム内管の前記中空部に前記車両の制動のためのブレーキ用作動液を流通させてもよい。
【0018】
更に、本発明は、上記課題を解決することを目的として、中空部を有するゴム内管と、前記ゴム内管の外周側に設けられ、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、前記第1及び第2の編組層の外周側に設けられたゴム外管と、前記ゴム外管の端部に加締められた端子金具とを有し、前記第1及び第2の編組層は、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、一体化していることを特徴とする端子金具付きゴムホースを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造スペースを低減しながら、第1の編組層と第2の編組層との接触による摩耗のみならず、第1及び第2の編組層自体の編組間同士の摩耗を低減することで耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキホースの構成を示す斜視図である。
【図2】ブレーキホースの製造工程における積層構造体の構成を示し、(a)は全体斜視図、(b)及び(c)は(a)の部分拡大図である。
【図3】(a)〜(f)は、ブレーキホースの製造工程を各段階ごとに示す説明図である。
【図4】端子金具付きブレーキホース100の断面を簡略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係るゴムホースの一例としてのブレーキホース、及びその製造方法を図1〜図3を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキホースの構成を示す斜視図である。
【0023】
このブレーキホース1は、自動車や自動二輪車等の車両に搭載され、当該車両の制動のためのブレーキ装置を作動させるためのブレーキ用作動液を流通させる用途に用いられる。この種のブレーキホースは、車両のハンドルの操舵操作や転舵輪の転舵による屈曲、及び車両の走行に伴う振動等の機械的ストレスに対する高い耐久性を確保する必要がある。また、ブレーキ用作動液の液圧が高くなっても、膨張量が出来る限り小さいことが望まれる。
【0024】
図1に示すように、ブレーキホース1は、筒状に形成されたゴム製のゴム内管2と、ゴム内管2の外周側に設けられ、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層31,32と、第1及び第2の編組層31,32の外周側に設けられたゴム外管4とを有する。第1及び第2の編組層31,32は、後述する熱可塑性樹脂層30により一体化されている。
【0025】
ゴム内管2は、その内部にブレーキ用作動液を流通させる中空部20を有する管である。本実施の形態では、ゴム内管2を構成するゴム材料として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)を用いる。EPDMは、その分子構造から、耐熱性、耐寒性、耐オゾン性、及び耐候性に優れる。また、EPDMは、極性の低いポリマーなので、ブレーキホースに接触する部品(ブレーキホース1をシリンダ等に接続するためのバンジョーボルトのような金属製部品等)を腐食させるおそれが少ない。
【0026】
また、EPDMには、必要に応じて、充填剤、架橋剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、活性剤、スコーチ防止剤等を添加することができる。また、老化防止剤加硫系の添加剤として、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等を用いることができる。
【0027】
また、ゴム内管2を構成するゴム材料として、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソブチレンゴム(IIR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等を用いてもよい。なお、本発明に係るゴムホースを本実施の形態のようにブレーキホースとして用いる場合、ゴム内管2を構成するゴム材料としては、特に、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソブチレンゴム(IIR)が好適である。
【0028】
第1の編組層31は、ゴム内管2の外周面2aに接して設けられている。第2の編組層32は、第1の編組層31の外周側に設けられている。本実施の形態では、第1の編組層31及び第2の編組層32が、糸状体のビニロン繊維を編むことにより形成されている。
【0029】
ビニロン繊維以外の繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアクリレート繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリパラフェニレンペンズビスオキサゾール繊維、ボリイミド繊維又はポリフェニレンサルファイド繊維のような合成繊維、レーヨンやノボラックのような化学繊維、綿や麻のような天然繊維を、第1の編組層31及び第2の編組層32を構成する糸状体として用いることができる。
【0030】
ゴム外管4は、ブレーキホース1の最外層に設けられている。ゴム外管4を構成するゴム材料は、ゴム内管2を構成する上記のゴム材料と同様のものを用いることができる。本実施の形態では、ゴム外管4を構成するゴム材料として、ゴム内管2と同じくEPDMを用いる。
【0031】
(ブレーキホース1の製造方法)
次に、本実施例のブレーキホース1の製造方法を図2及び図3を参照して説明する。
【0032】
図2は、ブレーキホース1の製造工程におけるゴム内管2、第1及び第2の編組層31,32、熱可塑性樹脂層30、及びゴム外管4からなる積層構造体10の構成を示し、(a)は全体斜視図、(b)及び(c)は(a)の部分拡大図である。
図3(a)〜(f)は、ブレーキホース1の製造工程を各段階ごとに示す説明図である。なお、図3では、説明のために、第1の編組層31、熱可塑性樹脂層30、及び第2の編組層32の厚みを誇張して表している。
【0033】
ブレーキホース1の製造工程は、積層構造体10を形成する積層構造体形成工程と、積層構造体10を熱可塑性樹脂層30が軟化する温度以上に加熱することで、ゴム内管2及びゴム外管4を加硫させると共に、熱可塑性樹脂層30を軟化させる加硫軟化工程と、軟化した熱可塑性樹脂層を固化することにより、第1及び第2の編組層31,32を一体化させる一体化工程とを有する。
【0034】
(積層構造体形成工程)
積層構造体形成工程では、ゴム内管2の外周側に第1の編組層31を形成し、第1の編組層31の外周側に熱可塑性樹脂層30を形成し、熱可塑性樹脂層30の外周側に第2の編組層32を形成し、さらに第2の編組層32の外周側にゴム外管4を形成して、積層構造体10を形成する。
【0035】
ゴム内管2は、例えば図3(a)に示すように、ゴム内管2の内径と同等の外径を有する図略のマンドレル200上にゴム内管2となるゴム材料を押出成形する。
【0036】
第1の編組層31は、図2(b)及び図3(b)に示すように、ゴム内管2の外周面2a上にビニロン繊維からなる糸状体310を編み込んで形成する。図2(b)に示すように、糸状体310は格子状に編み込まれ、縦横に隣り合う糸状体310の間には編目31aが形成される。第1の編組層31は、編組密度が3,500〜4,400dtex/mmとなるように、ゴム内管2の外周面2a上に形成される。このような編組密度とすることで、第2の編組層32の編目32aに、後述する加硫軟化工程において軟化状態となった熱可塑性樹脂を十分に浸透させることができる。
【0037】
熱可塑性樹脂層30は、図2(a)及び図3(c)に示すように、熱可塑性樹脂からなる帯状のテープ301を第1の編組層31の外周側に縦添え巻きして形成される。テープ301は、第1の編組層31の各糸状体310に接するように、第1の編組層31を隙間なく覆うように巻きつけられる。なお、熱可塑性樹脂層30は、帯状のテープ301を螺旋状に巻き回して形成されることも可能である。
【0038】
熱可塑性樹脂層30(テープ301)は、加熱により軟化して流動性を示す熱可塑性の樹脂からなる。この熱可塑性樹脂としては、融点90〜165℃のポリプロピレン(PP)、融点90〜165℃のポリエチレン(PE)、又は融点90〜165℃のポリエチレン−ポリ酢酸ビニル共重合体(EVA)の何れかであることが好ましい。本実施の形態では、熱可塑性樹脂としてポリエチレン(PE)を用いる。熱可塑性樹脂層30の厚みは、0.01mmから0.1mmの範囲であるとよい。
【0039】
PP、PE、EVA以外の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)、防湿セロハンなどを熱可塑性樹脂層30の材料として適応可能である。
【0040】
第2の編組層32は、図3(d)に示すように、熱可塑性樹脂層30の外周面30aに接するように、熱可塑性樹脂層30の外周側に形成される。第2の編組層32は、図2(c)に示すように、ビニロン繊維からなる糸状体320を格子状に編み込んで形成する。縦横に隣り合う糸状体320の間には編目32aが形成される。第2の編組層32は、編組密度が2,700〜5,200dtex/mmとなるように熱可塑性樹脂層30の外周面30aに形成される。このような編組密度とすることで、第2の編組層32の編目32aに、後述する加硫軟化工程において軟化状態となった熱可塑性樹脂を十分に浸透させることができる。
【0041】
ゴム外管4は、図3(e)に示すように、その内面4aが第2の編組層32に接するように、第2の編組層32の外周面にゴム材料を押出成形し、第2の編組層32の全体を覆うように形成する。
【0042】
以上により、内側から順に、ゴム内管2、第1の編組層31、熱可塑性樹脂層30、第2の編組層32、及びゴム外管4が積層された積層構造体10が得られる。
【0043】
(加硫軟化工程)
加硫軟化工程では、積層構造体10の加熱によりゴム内管2及びゴム外管4を加硫すると共に、熱可塑性樹脂層30(テープ301)を溶融させ、熱可塑性樹脂層30が溶融した軟化状態の熱可塑性樹脂を第1の編組層31の編目31a及び第2の編組層32の編目32aに浸透させる。この加熱は、ゴム内管2及びゴム外管4が加硫反応する温度(以下、加硫温度)であってテープ301の融点以上の所定温度に達するまで行われ、その後その所定温度に維持される。
【0044】
本実施の形態では、固体状のテープ301(熱可塑性樹脂層30)の融点は100℃であり、ゴム内管2及びゴム外管4の加硫温度は140℃である。つまり、テープ301の融点は、ゴム内管2の加硫温度及びゴム外管4の加硫温度よりも低い温度である。従って、加熱温度は140℃以上に設定する。なお、テープ301の材料としてポリプロピレン(PP)を用いた場合でも、その融点は120℃であるので加熱温度に変更はない。
【0045】
テープ301が溶融して液体状の軟化状態の熱可塑性樹脂に変化すると、図3(f)に示すように、この軟化状態の熱可塑性樹脂が流動して第1の編組層31の編目31a、及び第2の編組層32の編目32aに浸透する。
【0046】
(一体化工程)
一体化工程では、加硫軟化工程において熱可塑性樹脂層30を軟化させることによって第1の編組層31の編目31a、及び第2の編組層32の編目32aに浸透させた軟化状態の熱可塑性樹脂を固化させ、第1の編組層31と第2の編組層32とを一体化させる。より具体的には、テープ301が溶融した軟化状態の熱可塑性樹脂が、第1の編組層31の編目31a及び第2の編組層32の編目32aに浸透した状態で、積層構造体10をテープ301の熱可塑性樹脂の融点以下にする。これにより、テープ301が溶融した軟化状態の熱可塑性樹脂が固化し、第1の編組層31と第2の編組層32とが一体化する。
【0047】
そして、最終的にマンドレル200を取り除くことで、ブレーキホース1が得られる。
【0048】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下に述べる作用及び効果がある。
【0049】
(1)テープ301が溶融した軟化状態の熱可塑性樹脂が第1の編組層31の編目31a及び第2の編組層32の編目32aに浸透して固化することにより、第1の編組層31と第2の編組層32とが強固に密着し、第1の編組層31と第2の編組層32との間の摩耗を抑制することができるとともに、第1の編組層31及び第2の編組層32自体の編組間同士の摩耗を低減することが可能となる。
【0050】
(2)含侵工程、及び絞り工程が不要となり、製造設備の小型化(製造スペースの低減)及びVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の削減も可能となる。また、テープ301が溶融した軟化状態の熱可塑性樹脂は温度を低下させることにより固化するので、例えばブレーキホース1をリールに巻き取りながら加硫軟化工程及び一体化工程を行うことが可能となる。
【0051】
(3)熱可塑性樹脂層30を第1の編組層31の外周側にテープ301を巻き付けることにより形成するので、例えばペースト状の熱可塑性樹脂を用いる場合に比較して、容易に熱可塑性樹脂層30を形成することが可能となる。また、熱可塑性樹脂層30の厚みを均一化することができるので、第1の編組層31の外周側を隙間なく覆いながら、熱可塑性樹脂層30の厚みを例えば0.01〜0.1mmとすることができる。この厚みは、例えば従来のブレーキホースにおける中間ゴム層の厚みの20%以下であり、ブレーキホース1の厚み及び重量を削減することが可能となる。また、従来のブレーキホースにおける中間ゴム層には、充填剤、架橋剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、活性剤、スコーチ防止剤、及び老化防止剤等さまざまな材料が配合されているが、本実施の形態におけるブレーキホース1によれば、これらの材料が不要なため、重量の更なる削減、及びコストの低減が可能である。
【0052】
(4)第1の編組層31の糸状体310及び第2の編組層32の糸状体320として、低い膨張特性を有するビニロン繊維を用いたので、使用時におけるブレーキホース1の膨張量を低く抑えることができる。また、熱可塑性樹脂層30がPP、PE、EVAの何れかであれば、糸状体310,320としてビニロン繊維を用いてもPET(Poly Ethylene Terephthalate)繊維を用いた場合と同様の高耐久性を発揮することができる。
【0053】
(5)ブレーキホース1は、耐屈曲性、耐ブレーキ油性、耐水性を有することから、車両に搭載された場合のハンドルの操舵操作や転舵輪の転舵による屈曲、及び車両の走行に伴う振動等の機械的ストレスに加え、高温や高圧、あるいはオゾン等の影響にも耐え得るので、車両用ブレーキホースとして好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、この実施例では、上記実施の形態であるブレーキホースの典型的な一例を挙げており、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではないことは勿論である。
【0055】
(1)ゴムホースの耐久試験及び膨張試験
(実施例1)
実施例1では、糸状体310,320としてビニロン繊維を用い、熱可塑性樹脂層30(テープ301)の材料としてPP(融点120℃)を用いた。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、糸状体310,320としてビニロン繊維を用い、熱可塑性樹脂層30(テープ301)の材料としてEVA(融点100℃)を用いた。
【0057】
(実施例3)
実施例3では、糸状体310,320としてビニロン繊維を用い、熱可塑性樹脂層30(テープ301)の材料としてPE(融点110℃)を用いた。
【0058】
なお、実施例1,2,3の製造時における加硫軟化工程において、加硫温度は、140℃とした。
【0059】
(比較例1)
比較例1は、従来の中間ゴム層を有するものである。比較例1は、糸状体310,320としてビニロン繊維を用い、中間層としての中間ゴム層の材料としてEPDMを用いた。
【0060】
(比較例2)
比較例2は、比較例1と同様、従来の中間ゴム層を有するものである。比較例2は、糸状体310,320としてPET繊維を用い、中間層としての中間ゴム層の材料としてEPDMを用いた。
【0061】
また、実施例1,2,3及び比較例1,2では、ゴム内管2及びゴム外管4の材料としてEPDMを用いた。実施例1,2,3及び比較例1,2について、ゴム内管2の内径は3.4mm、ゴム内管2の外径は4.8mm、第1の編組層31の外径は6.0mmである。また、実施例1,2,3について、第2の編組層32の外径は7.4mm、ゴム外管4の外径は9.8mmである。また、比較例1,2について、中間層の外径は6.6mm、第2の編組層32の外径は8.0mm、ゴム外管4の外径は10.2mmである。
【0062】
更に、実施例1,2,3及び比較例1,2において、第1の編組層31の編組密度は、3,580dtex/mm、第2の編組層31の編組密度は、5,170dtex/mmとした。
[試験方法及び試験結果]
次に、本実施の形態に係るブレーキホース1の試験方法及び試験結果を説明する。
【0063】
(試験方法)
上記方法で製造したブレーキホース1を所定の長さに切断し、耐久試験及び膨張試験を行った。試験の内容は次の通りである。
【0064】
はじめに、ブレーキホース1の中空部20にブレーキ用作動液(JISK2233)を封入した。次いで、ブレーキホース1に対して0MPaから9.8MPaの範囲で繰り返し加圧を行う試験装置に、ブレーキ用作動液が封入されたブレーキホース1を取り付けた。この試験の際の雰囲気温度は100℃に調整した。
【0065】
耐久試験としては、(株)サム電子機械製の屈曲試験機(型番:V270−2)による屈曲試験を行った。屈曲ストロークは±40mm、屈曲周波数は1.66Hzとした。耐久回数としてはブレーキホース1に損傷が発生するまでの屈曲回数を用いることとし、ブレーキホース1には、屈曲とねじりを同時に発生させて試験を行った。
【0066】
(試験結果)
表1は、耐久試験及び膨張試験に用いたブレーキホース1の構成材料、及び耐久試験及び膨張試験の試験結果を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
この実験結果から明らかなように、熱可塑性樹脂層30の材料としてPP(実施例1)、EVA(実施例2)、又はPE(実施例3)を用いた場合には、EPDM(比較例1)を用いた場合に対して耐久回数に3倍の違いが見られた。これにより、熱可塑性樹脂層30の材料としてEVA又はPPを用いることにより、耐久性の大幅な向上が見られることが明らかとなった。
【0069】
また、実施例1,2,3では、ビニロンよりも高い耐久性を有するPET繊維を用いた比較例2と同等の耐久性を示し、比較例2よりも低い膨張量を示すことが明らかとなった。
【0070】
以上の結果から、実施例1,2,3に係るブレーキホース1は、ビニロン繊維の特性である低い膨張性を維持しながら、PET繊維を用いたような高耐久性を有することが明らかとなった。
【0071】
(2)端子金具付きゴムホース(ブレーキホース)のゴム外管における膨れ発生圧力試験
次に、上述した製造方法で製造したブレーキホース1のゴム外管4の両端部に端子金具101が加締められた図4に示すような端子金具付きブレーキホース100のゴム外管4における膨れ発生圧力試験について説明する。図4は、端子金具付きブレーキホース100の断面を簡略的に表す図である。端子金具101は、図4に示すように、例えば、円筒状のソケット102と、ソケット102の内側に組み付けられたニップル103とを有するものである。
【0072】
(実施例4)
実施例4は、上述した実施例3の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径9.8mmで端子金具101を加締めたものである。ここで、加締め外径とは、図4に示すように、加締めにより内周側に最も凹んだ部分におけるソケット102の外径のことである。
【0073】
(実施例5)
実施例5は、上述した実施例3の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径9.9mmで端子金具101を加締めたものである。
【0074】
(実施例6)
実施例6は、上述した実施例3の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径10.1mmで端子金具101を加締めたものである。
【0075】
(比較例3)
比較例3は、上述した比較例1の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径9.8mmで端子金具101を加締めたものである。
【0076】
(比較例4)
比較例4は、上述した比較例1の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径9.9mmで端子金具101を加締めたものである。
【0077】
(比較例5)
比較例5は、上述した比較例1の構成を有するブレーキホース1のゴム外管4の端部に加締め外径10.1mmで端子金具101を加締めたものである。
【0078】
なお、実施例4〜6、及び比較例3〜5のブレーキホース1の外径は、いずれも9.9mmとした。
【0079】
[試験方法及び試験結果]
次に、端子金具付きブレーキホース100のゴム外管4における膨れ発生圧力試験の試験方法及び試験結果を説明する。
【0080】
(試験方法)
はじめに、端子金具付きブレーキホース100の中空部20にブレーキ用作動液(JISK2233)を封入した状態で、SAEJ1401の条件(120℃×72h)で端子金具付きブレーキホース100を老化させる。その後、中空部20からブレーキ用作動液を抜き、改めて中空部20に水やブレーキ用作動液等の液体を封入する。そして、その状態で、端子金具付きブレーキホース100の端子金具101の一方から、中空部20に封入した液体に圧力を印加し、ゴム外管4における端子金具101の近傍位置104に膨れが発生する圧力を測定した。
【0081】
なお、このゴム外管4における端子金具101の近傍位置104に発生する膨れの原因は以下の通りである。
【0082】
端子金具付きブレーキホース100が老化すると、ゴム内管2の内周と端子金具101のニップルの外周との間にブレーキ用作動液が浸入しやすくなる。この浸入したブレーキ用作動液は、ブレーキホース1の端部と端子金具101との接触部105を経て、ゴム外管4の内周に位置する第2の編組層32に到達し、第2の編組層32内に浸入する。この状態でブレーキ用作動液に高い圧力が印加された場合、ゴム外管4と第2の編組層32との間にブレーキ用作動液が溜まり、ゴム外管4における端子金具101の近傍位置104において膨れが発生することとなる。この膨れが発生すると、膨れ部分においてゴム外管4が破裂する虞があり、ブレーキ用作動液が液漏れしてしまう原因となる。
【0083】
(試験結果)
【表2】

【0084】
この実験結果から明らかなように、熱可塑性樹脂層30(PE)を用いた場合には、中空部20に封入した液体に50Mpaの圧力を印加しても、ゴム外管4における端子金具101の近傍位置104に膨れが発生せず、中間層(EPDM)を用いた場合と比較して、膨れ発生圧力の大幅な向上が見られることが明らかとなった。これは、本発明における端子金具付きブレーキホース100では、第2の編組層32の編目32aに熱可塑性樹脂が浸透していることにより、第2の編組層32に到達したブレーキ用作動液が第2の編組層32内に浸入するのを低減しているからだと考えられる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0086】
1…ブレーキホース、2…ゴム内管、2a…外周面、4…ゴム外管、4a…内面、10…積層構造体、20…中空部、30…熱可塑性樹脂層、30a…外周面、31…第1の編組層、32…第2の編組層、31a,32a…編目、200…マンドレル、301…テープ、310,320…糸状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有するゴム内管と、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、ゴム外管とを有するゴムホースの製造方法であって、
前記ゴム内管の外周側に前記第1の編組層を形成し、前記第1の編組層の外周側に熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を形成し、前記熱可塑性樹脂層の外周側に前記第2の編組層を形成し、前記第2の編組層の外周側に前記ゴム外管を形成して、積層構造体を形成する積層構造体形成工程と、
前記積層構造体を前記熱可塑性樹脂層が軟化する温度以上に加熱することで、前記ゴム内管及び前記ゴム外管を加硫させると共に、前記熱可塑性樹脂層を軟化させる加硫軟化工程と、
前記熱可塑性樹脂層を軟化させることにより、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、前記第1及び第2の編組層を一体化させる一体化工程と、
を有することを特徴とするゴムホースの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層として、融点90〜165℃のポリエチレン(PE)、又は融点90〜165℃のポリエチレン−ポリ酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いる、
請求項1に記載のゴムホースの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層として、融点90〜165℃のポリプロピレン(PP)を用いる、
請求項1に記載のゴムホースの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂層は、帯状に形成された熱可塑性樹脂を前記第1の編組層の外周側に巻き回して形成される、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のゴムホースの製造方法。
【請求項5】
前記糸状体としてビニロン繊維を用いた、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のゴムホースの製造方法。
【請求項6】
前記第1の編組層の編組密度は、3,500〜4,400dtex/mmであり、
前記第2の編組層の編組密度は、2,700〜5,200dtex/mmである、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のゴムホースの製造方法。
【請求項7】
中空部を有するゴム内管と、前記ゴム内管の外周側に設けられ、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、前記第1及び第2の編組層の外周側に設けられたゴム外管とを有し、
前記第1及び第2の編組層は、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、一体化していることを特徴とするゴムホース。
【請求項8】
車両のブレーキホースとして用いられ、前記ゴム内管の前記中空部に前記車両の制動のためのブレーキ用作動液を流通させる、
請求項7に記載のゴムホース。
【請求項9】
中空部を有するゴム内管と、前記ゴム内管の外周側に設けられ、糸状体を編むことにより形成された第1及び第2の編組層と、前記第1及び第2の編組層の外周側に設けられたゴム外管と、前記ゴム外管の端部に加締められた端子金具とを有し、
前記第1及び第2の編組層は、前記糸状体の編目に浸透した軟化状態の熱可塑性樹脂を固化することにより、一体化していることを特徴とする端子金具付きゴムホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32833(P2013−32833A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68577(P2012−68577)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】