説明

ゴムローラー

【課題】円柱基材に対する優れた防錆効果を有し、円柱基材表面上にゴム層の含有物と化学反応を生じない物質で皮膜を形成することにより、ゴム層の変色、固着、剥離を抑制し、低コストで精度の高いゴムローラーを提供する。円柱基材の端部を露出させて電子写真装置本体に設置する場合、円柱基材の露出した端部の皮膜が潤滑剤を保持することができ、円柱基材の端部及び電子写真装置本体の軸受け部分の摩擦磨耗を抑制することができるゴムローラーを提供する。
【解決手段】円柱基材の外周上にゴム層を有するゴムローラーにおいて、円柱基材が、表面に化成処理による皮膜を有し、皮膜がRz0.5以上10以下の表面粗さを有する。化成処理による皮膜がリン酸化合物を含み、2μm以上30μm以下の厚さを有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムローラーに関し、特に、電子写真装置に用いられる帯電用ゴムローラー、現像用ゴムローラー、転写用ゴムローラー、定着用ゴムローラー、紙送り用ゴムローラー等に用いられるゴムローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター、ファクシミリ等の電子写真装置には帯電ローラー、現像ローラー、転写ローラー等、多数のゴムローラーが用いられている。これらのゴムローラーは、一般的に、中心軸として機能する円柱基材と、円柱基材の外周面上に、必要に応じて接着剤層を介して設けられるゴム層とから構成されている。このようなゴムローラーの円柱基材には、非常に高い寸法精度を保ちつつ、しかも長期使用に対する防錆効果が要求される。かかる要求を満たす円柱基材として、ゴム層との化学活性がよいことから、無電解ニッケル−リンめっき処理などをした円柱基材が用いられている。かかるゴムローラーは円柱基材の外周に未加硫ゴムを設け、加硫工程を経て作製されている。更に、ゴムローラーは、電子写真装置本体やカートリッジに軸着するため、両端部のゴム層を除去して円柱基材の露出部が設けられることもある。しかしながら、上記ゴムの加硫工程において、無電解ニッケルーリンめっき膜中のニッケルと未加硫ゴム中の加硫剤に含まれるイオウが反応し、無電解ニッケル−リンめっき膜が黒色化したり、めっき皮膜とゴム層との固着が生じ、ゴム層の除去が困難となる場合がある。このような無電解ニッケル−リンめっき皮膜とゴム層との固着、密着、剥離などの問題について、種々の検討がなされている。
【0003】
その解決方法のひとつとして、無電解ニッケル−リンめっき皮膜をクロム酸処理または熱処理による不活性化処理を行う方法が報告されている(特許文献1)。クロム酸処理において、環境保全ならびにめっき層とゴム層との密着性向上の観点から、6価のクロム酸を実質的に含まず、硝酸クロム(III)を含む処理液を用いる3価クロム酸による不活性化処理が検討されている(特許文献2)。
【0004】
加熱処理では、無電解ニッケル−リンめっき層中Ni3P化合物を生成させることにより、めっき層中のニッケル成分とゴム中に含まれるイオウ成分との反応を抑制し、ニッケル−リンめっき皮膜の変色および加硫ゴムの固着を防止する方法が報告されている。(特許文献3)
また、無電解ニッケル−リンめっき膜と加硫ゴムとの固着を防止するため、ニッケル−リンめっき膜の表面側0.5μm厚さにおけるリン含有量を、9〜16質量%に調整した固着防止層を設ける方法も報告されている。(特許文献4)
しかしながら、特許文献1、2に記載されるクロム酸処理に関しては環境面から廃水設備に多大な費用がかかるだけでなく、クロム酸処理自体が廃止される方向にある。
【0005】
また、特許文献3、4に記載されるゴムローラーについては、無電解ニッケル−リンめっき膜の表面成分および化合物生成を制御しても、無電解ニッケル−リンめっき層のマトリックスはニッケルであって、ゴム層中のイオウ成分との反応を完全に避けられるとは限らない。このため、無電解めっき膜とゴム層との固着・剥離などの問題が生じる可能性が残っている。更に、 無電解めっきの表面粗さが低い場合には、その外周に未加硫ゴムを被覆すると、接着不良の原因となるゴムすべりが生じるという問題もある。
【特許文献1】特公平7−74056号公報
【特許文献2】特開2003-213447号公報
【特許文献3】特開2005−061479号公報
【特許文献4】特開2005−061480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、円柱基材に対する優れた防錆効果を有し、円柱基材表面上に形成された皮膜をゴム層の含有物と化学反応を生じない物質で構成することにより、皮膜とゴム層との間に化学反応による、変色、固着、剥離などが生じるのを抑制し、低コストで精度の高いゴムローラーを提供することにある。更に、円柱基材の端部からゴム層を除去して電子写真装置本体に設置する場合、円柱基材上に皮膜を残して、皮膜と接着剤層間または皮膜とゴム層間で分離させてゴム層を容易に除去することができるゴムローラーを提供する。これにより、円柱基材の端部からゴム層を除去した場合においても防錆を図ることができ、潤滑剤を充分に保持することができ、円柱基材の端部及び電子写真装置本体の軸受け部分の摩擦磨耗を抑制することができるゴムローラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、円柱基材の外周上にゴム層を有するゴムローラーにおいて、円柱基材が表面に化成処理による皮膜を有し、該皮膜がRz0.5以上10以下の表面粗さを有することを特徴とするゴムローラーに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴムローラーにおいては、円柱基材に対する優れた防錆効果を有する。更に、円柱基材表面上に形成された皮膜をゴム層の含有物と化学反応を生じない物質で構成することにより、皮膜とゴム層との間に化学反応による、変色、固着、剥離などが生じるのを抑制することができ、低コストで高精度のゴムローラーを得ることができる。また、本発明のゴムローラーにおいては、円柱基材の端部からゴム層を除去して電子写真装置本体に設置する場合、円柱基材上に皮膜を残して、皮膜と接着剤層間、または皮膜とゴム層間で分離させてゴム層を容易に除去することができる。このため、円柱基材は、ゴム層を除去した端部においても、化成処理による皮膜に被覆された状態となり、防錆を図ることができる。更に、円柱基材のゴム層を除去した端部において、皮膜の存在により潤滑剤を充分に保持することができ、円柱基材の端部及び電子写真装置本体の軸受け部分の摩擦磨耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴムローラーは、円柱基材の外周上にゴム層を有するゴムローラーにおいて、円柱基材が、表面に化成処理による皮膜を有し、表面粗さがRz0.5以上10以下の表面粗さを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のゴムローラーに用いられる円柱基材は、ゴム層を支持して中心軸として機能するものであり、用途に応じた強度を有するものであれば、特に制限されるものではない。その材質としては、寸法精度を保ちつつ、しかも長期使用に対する防錆効果を有するものが好ましく、導電性、耐熱性など用途に応じた機能を有するものを適宜選択することができる。円柱基材の材質として、具体的には、例えば、鉄、鋼、アルミニウム等の金属や合金などの金属製を挙げることができる。円柱基材の形状としては、中空状あるいは中実状であってもよく、大きさも適用される電子写真装置の大きさなどにより適宜選択することができ、例えば、外径2〜100mm、長さ100〜400mmなどを挙げることができる。
【0011】
上記円柱基材が、表面に有する化成処理による皮膜は、化学的処理により円柱基材上に形成されるものである。化成処理としては化学反応による処理であればよいが、リン酸化合物溶液を用いた処理が好ましい。リン酸化合物溶液を用いた処理としては、円柱基材表面にリン酸化合物の溶液を塗布する、リン酸化合物溶液中に円柱基材を浸漬する方法等を挙げることができる。このうち、リン酸化合物を含む溶液中で化学反応物のリン酸化合物を円柱基材表面に析出させる処理が好ましい。
【0012】
上記リン酸化合物溶液としては、リン酸水溶液に、例えば、リン、アルミニウム、マンガン、亜鉛、チタン、鉄、クロムなどの金属化合物を添加したものを挙げることができる。リン酸化合物中のリン酸イオンは皮膜の主成分となると共に、鉄鋼製などの円柱基材表面のエッチング剤としても作用する。リン酸イオンは、オルソリン酸の形で供給することができる。リン酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量は0.20〜1.00モル/Lであることが好ましく、より好ましくは0.30〜0.70モル/Lである。リン酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量が0.20モル/L以上であれば、効率よく皮膜を生成することができる。更に、皮膜の円柱基材への固着を強固なものとしゴム層の剥離を抑制することができると共に、円柱基材からゴム層を除去する際には皮膜とゴム層間または皮膜と接着剤層間で分離され、ゴム層を容易に除去することができる。また、リン酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量が1.00モル/L以下であれば、リン酸化合物の浪費を抑制することができる。
【0013】
上記リン酸化合物溶液に含まれる金属化合物としては、例えば、マンガン化合物を挙げることができ、具体的に、硝酸マンガン、リン酸マンガン、硫酸マンガン等を例示することができる。金属化合物のリン酸化合物溶液中の含有量は0.10〜1.00モル/Lであることが好ましく、より好ましくは0.30〜0.70モル/Lである。金属化合物のリン酸化合物溶液中の含有量が0.10モル/L以上であれば、効率よく皮膜を生成することができる。更に、皮膜の円柱基材への固着を強固なものとし、ゴム層の剥離を抑制することができると共に、円柱基材からゴム層を除去する際には皮膜とゴム層間または皮膜と接着剤層間で分離され、ゴム層および接着剤層を容易に除去することができる。また、金属化合物のリン酸化合物溶液中の含有量が1.00モル/L以下であれば、金属化合物の浪費を抑制することができる。
【0014】
このようなリン酸化合物溶液は、微量の反応促進剤を含むことが好ましい。かかる反応促進剤としては、硝酸イオン、2価の鉄イオンなどを含むものを挙げることができ、硝酸第一鉄の形で供給することが好ましい。硝酸イオンは、円柱基材へのエッチング剤および酸化剤としての作用を有し、リン酸化合物溶液へ硝酸として供給することができる。硝酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量は0.10〜1.00モル/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.30〜0.70モル/Lである。硝酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量が0.10モル/L以上であれば、円柱基材のエッチングの効果を得ることができる。更に、皮膜結晶の粗大化を抑制することができ、皮膜の円柱基材への固着を強固なものとし、ゴム層の剥離を抑制することができる。このため、円柱基材からゴム層を除去する際には皮膜とゴム層間または皮膜と接着剤層間で分離し、ゴム層を容易に除去することができる。また硝酸イオンのリン酸化合物溶液中の含有量が1.00モル/L以下であれば、硝酸イオンが酸化剤として働く亜硝酸イオンへ変化するのを抑制することができ、皮膜重量が高い皮膜を効率よく形成することができる。
【0015】
上記反応促進剤の2価の鉄イオンは、Fe3(PO42、FeHPO4などの結晶核を形成し、皮膜形成速度を速くし、皮膜の重量を高めると共に、皮膜の円柱基材への固着を強固なものとできる。2価の鉄イオンの含有量は、リン酸化合物溶中、0モル/Lを超え0.50モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.30モル/L以下である。2価の鉄イオンの含有量が0.50モル/L以下であれば皮膜を効率よく形成することができ、円柱基材表面を過剰にエッチングすることにより必要以上に表面粗度を高くすることを抑制することができる。皮膜と円柱基材との固着を強固なものとし、ゴム層の剥離を抑制すると共に、円柱基材からゴム層を除去する際には皮膜とゴム層間または皮膜と接着剤層間で分離し、円柱基材上に皮膜を残してゴム層を容易に除去することができる。
【0016】
上記化成処理は浸漬処理時間など適宜調整することができ、必要に応じて、温度調整、圧力調整を行なうことができる。
【0017】
このような化成処理により形成される皮膜としては、具体的には、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、リン酸クロムなどのリン酸化合物を挙げることができる。
【0018】
このような化成処理により得られる皮膜の表面粗さRzは0.5以上10以下である。皮膜の表面粗さRzが1から6であることがより好ましい。皮膜の表面粗さRzが0.5以上であれば、皮膜上にゴム層を成形する後工程において、皮膜と、この上に積層する未加硫ゴム間に発生する滑りを抑制することができる。皮膜の表面粗さRzが10以下であれば、ゴム層成形時に未加硫ゴムを支障なく積層し、また、塗布することができる。また、皮膜の表面粗さがこの範囲であれば、本発明のゴムローラーを端部のゴム層を除去して電子写真装置本体に軸着する場合、ゴム層を除去した円柱基材の端部の皮膜において、潤滑剤を充分に保持することができ、円柱基材の端部及び電子写真装置本体の軸受け部分の摩擦磨耗を抑制することができる。
【0019】
上記表面粗さを有する皮膜を形成するには、化成処理液に含まれるリン酸化合物などの化成処理化合物の濃度を上記範囲とし、化成処理液温度や、化成処理時間などを適宜選択して調整すればよい。化成処理液の温度は、例えば、40〜95℃、処理時間は、2〜20時間などとすることができる。
【0020】
上記皮膜の厚さは、2μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。皮膜の厚さが2μm以上であれば、円柱基材表面に均一な厚さの被膜を形成することができ、優れた防錆効果を得ることができ、ゴム層の固着を抑制することができる。皮膜の厚さが30μm以下であれば、被膜と円柱基材とを強固に密着することができる。皮膜の厚さが5μm以上20μm以下であれば、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0021】
本発明のゴムローラーにおけるゴム層としては、ゴム成分に加硫剤を添加した組成物から形成されるものであれば特に制限されるものではなく、これらの成分はゴムローラーの用途に応じて適宜選択することができる。ゴム成分としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリン系ゴム(CO、ECO、GECO)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム等を具体的に挙げることができる。加硫剤としては、イオウまたは分子構造にイオウ原子を含むイオウ供与体やトリアジンチオールおよび2,3ジメチルキノキサリンなどを挙げることができる。イオウ供与体としては、具体的には、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド(TRA)、2−(4´−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MDB)、4−4´−ジチオジモルホリン等を挙げることができる。加硫剤の添加量としては、ゴムローラーに要求されるゴム特性を満たすように適宜選択することができる。
【0022】
ゴム組成物には、ゴムローラーの用途に応じて、導電性物質、離型性物質など添加物を適宜選択して添加することができる。
【0023】
上記ゴム層の厚さとしては、ゴムローラーの用途に応じて要求される弾性を付与できる厚さを適宜選択することができ、例えば、1〜10mmを挙げることができる。
【0024】
本発明のゴムローラーに用いる接着剤層としては、化成処理による皮膜とゴム層とを接着する機能を有するものであれば、公知の接着剤を含有するものを挙げることができる。具体的には、ThreeBond3315E((株)スリーボンド社製)など市販のものを適用することができる。
【0025】
上記接着剤層の厚さとしては、上記皮膜と上記ゴム層との接着効果を有するように、例えば、1〜20μmとすることができる。
【0026】
上記接着剤層は、上記接着剤を塗布し、必要に応じて加熱・硬化し、例えば、80℃で30分後、120℃で1時間加熱、乾燥して作製することができる。
【0027】
本発明のゴムローラーは、ゴム層の他、ゴムローラーの用途に応じて、導電性層、離型層など特定の機能を有する層を適宜設けた多層構造を有するものとすることができる。
【0028】
本発明のゴムローラーにおいては、円柱基材上に化成処理により形成される皮膜が、ゴム層に含まれるイオウ成分と結合する物質を含まないことにより、ゴム層の固着、剥離を抑制し、ゴム層が適度な接着性をもって円柱基材に固定される。その上、円柱基材において優れた防錆効果を有する。また、本発明のゴムローラーを円柱基材の端部からゴム層を除去して電子写真装置本体に設置する場合、円柱基材のゴム層を除去した端部の皮膜が、潤滑剤の保持に適した表面粗さを有するため、円柱基材の端部及び電子写真装置本体の軸受け部分の摩擦磨耗を抑制できる。
【0029】
本発明のゴムローラーの一例として、図1に示すように、円柱基材1上に化成処理、例えばリン酸化合物を用いた処理による皮膜2、ゴム層3を順次積層したものや、図2に示すように、円柱基材1上に化成処理、例えばリン酸化合物を用いた化成処理による皮膜2、接着剤層4、ゴム層3を順次積層したものを挙げることができる。
【0030】
図1に示すゴムローラーを製造する方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
【0031】
円柱基材に化成処理による皮膜を形成する前に、必要に応じて円柱基材の洗浄を行うことができる。円柱基材の洗浄方法としては、円柱基材表面に残留している作製工程で使用した切削油や削れカスを除去するため、アルカリ脱脂、水洗、酸洗い、水洗などを挙げることができる。
【0032】
円柱基材に化成処理による皮膜を形成するには、上記リン酸化合物溶液などに洗浄した円柱基材を、生成する膜厚に応じて、例えば、1〜30分浸漬する。これによりリン酸化合物などの化学反応生成物の微結晶が円柱基材上に析出し、皮膜を円柱基材上に形成することができる。このとき、溶液の温度を、例えば、40〜95℃に調整することにより、図3に示す電子顕微鏡写真(20.0kV×300)で表される表面粗さRz0.5〜10の皮膜を得ることができる。
【0033】
上記皮膜の形成後、上記ゴム層を形成する方法としては、ゴム組成物を含む塗布液を作製しこれを皮膜2上に塗布し硬化する方法、ゴム組成物を架橋してチューブ状に形成したゴム層に皮膜を形成した円柱基材を圧入して接着する方法、皮膜を形成した円柱基材上に未加硫ゴムを被覆した後、硬化する方法などいずれの方法も使用することができる。特に、円柱基材上に設けられる皮膜にゴム組成物に固着が生じる物質を含有しないことから、円柱基材上でゴム組成物の硬化を行う製法を、特に好ましく使用できる。その上、円柱基材上に形成されたリン酸化合物被膜に対し、耐焼き付け性がよいため、ゴム塗工時のゴム成分への制限はない。
【0034】
円柱基材上で未加硫ゴムを硬化する方法としては、加熱や、遠赤外線、紫外線などの活性エネルギー線照射など、いずれの方法を挙げることができる。
【0035】
その後必要に応じて、ゴム層の端部を除去する。ゴム層の端部を削除するには、ローラーを回転させながらカッター刃を入れた後除去するなど公知の方法によることができる。ゴム層は皮膜2との間で分離され、皮膜2を円柱基材上に残して除去される。
【0036】
このように皮膜2に被覆された状態でゴム層が除去された円柱基材2の端部には、必要に応じて潤滑剤を塗布する。潤滑剤は上記表面粗さを有する皮膜2上に保持され、ゴムローラーを軸支する電子写真装置本体の軸受け部分およびゴムローラーの円柱基材の摩擦磨耗を抑制することができる。
【0037】
また、図2に示すゴムローラーを製造する方法として、上記図1に示すゴムローラーと同様に皮膜2を形成した後、皮膜2上に、接着剤組成物を含む塗布液を塗布して、必要に応じて、加熱、硬化して接着剤層4を作製することができる。接着剤組成物を含む塗布液を塗布する方法としては、バーコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、フレキソコート、フローコート等の方法を挙げることができる。接着剤層上に上記方法と同様の方法により、ゴム層を作製することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のゴムローラーを更に詳細に説明するが、本発明のゴムローラーの技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例]
[リン酸化合物皮膜の作製]
以下の組成のリン酸マンガン水溶液を調製した。
【0039】
リン酸マンガン 15〜20質量%
リン酸 8〜10質量%
硝酸 4〜5質量%
水 65〜75質量%
このリン酸マンガン水溶液を95℃とし、アルカリ脱脂、水洗、酸洗浄、水洗を順次行い洗浄した外径6mm、長さ210mmの炭素鋼製円柱基材を、それぞれ8分(実施例1)、12分(実施例2)、15分(実施例3)浸漬し、リン酸マンガンの皮膜を作製した。
[リン酸化合物皮膜の厚さ・表面粗さの測定]
得られたリン酸化合物被膜の厚さおよび表面粗さを表面粗さ装置(Alpha-Step IQ型のSurface Profile:KLA Tencor社製)により各試料3点測定を行い平均値を求めた。得られた値の平均値を、表1に示す。
[ゴムローラーの作製]
得られたリン酸マンガン皮膜上に、ThreeBond3315E((株)スリーボンド社製)を塗布し、80℃で30分間乾燥した後、120℃で1時間乾燥し、接着剤層を作製した。
【0040】
以下の組成のゴム材料をバンバリーミキサーで混練りした。加硫系薬品については、オープンロールを用いて混練りした。
ゴム組成
エピクロルヒドリンゴム(CG−102 ダイソー株式会社製) 100質量部
ステアリン酸(ステアリン酸S 花王株式会社製) 1質量部
酸化亜鉛2種(ハクスイテック株式会社製) 5質量部
FEFカーボンブラック(旭#51 旭カーボン株式会社製) 40質量部
パラフィンオイル(PW−90 出光興産株式会社製) 10質量部
加硫促進剤1(ノクセラーDM 大内新興化学株式会社製) 1質量部
加硫促進剤2(ノクセラーTS 大内新興化学株式会社製) 2質量部
加硫剤(サルファックス200S 鶴見化学株式会社製) 1質量部

クロスヘッド押出し機を用いて、上記ゴム組成物と上記接着剤を塗布した円柱基材とを共押出ししながら、接着剤層表面をゴム組成物で被覆し、160℃、60分熱風炉内で架橋を行った。架橋後冷却し、ローラー端部から15mmにカッター刃でゴム層に切込みを入れた後、ゴム層の除去を行った。砥石GC80、回転速度2000rpm、送り速度50cm/分の条件で、外径12mmに研磨した。このときゴム滑りは発生しなかった。ローラー端部のゴム層を除去した部分のリン酸マンガン皮膜上にフッ素系潤滑剤ドライサーフ(A−1340C 株式会社ハーベス製)を塗布した。
[ゴム層剥離の評価方法]
得られたゴムローラーのゴム層の剥離について、円柱基材からゴム層を指でむしるように力を加え、接着剤から剥離するか否かで評価した。皮膜が剥離しないものについては○、皮膜が剥離したものについては、その程度に関わらず×とした。
[比較例]
このリン酸マンガン水溶液に円柱基材を浸漬する時間を、それぞれ1.5分(比較例1)、32分(比較例2)とし、皮膜を形成した他は実施例と同様にリン酸マンガンの皮膜を作製し、皮膜の厚さ、表面粗さを測定した。その後、実施例と同様に、ゴムローラーを作製し、ゴム層剥離を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
また、実施例と同様の円柱基材を用いて、無電解ニッケル−リンめっき浴温90℃、膜厚4μmの皮膜を形成した。実施例と同様にして、表面粗さを測定した。その後、実施例と同様に、ゴムローラーを作製し、ゴム層剥離を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のゴムローラーは、円柱基材と、接着剤またはゴム層の固着、剥離が発生せず高品質である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のゴムローラーの一例の長手方向の断面図を示す図である。
【図2】本発明のゴムローラーの一例の長手方向の断面図を示す図である。
【図3】本発明のゴムローラーの化成処理皮膜の電子顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 円柱基材
2 皮膜
3 ゴム層
4 接着剤層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱基材の外周上にゴム層を有するゴムローラーにおいて、円柱基材が表面に化成処理による皮膜を有し、該皮膜がRz0.5以上10以下の表面粗さを有することを特徴とするゴムローラー。
【請求項2】
化成処理による皮膜が、リン酸化合物を含むことを特徴とする請求項1記載のゴムローラー。
【請求項3】
化成処理による皮膜が、2μm以上30μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1または2記載のゴムローラー。
【請求項4】
円柱基材とゴム層間に、接着剤層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のゴムローラー。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−108406(P2007−108406A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298990(P2005−298990)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】