説明

ゴムロール

【目的】 耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性を向上させたゴムロールを提供すること。
【構成】 本発明のゴムロールは、ゴム成分がアルキルクロロスルホン化ポリエチレンからなるか又は70重量%以上のアルキルクロロスルホン化ポリエチレンと30重量%未満のクロロスルホン化ポリエチレンとからなるゴム組成物で構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性を向上させたゴムロールに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、ゴムロールは、鉄心をゴムで接着被覆したロールであって、抄紙、製鉄、印刷等の種々の用途に使用されるものである。従来、原料ポリマーとして耐熱性、耐薬品性に優れたクロロスルホン化ポリエチレンを使用してゴムロールを構成し、これを製鉄分野におけるシンクロール(耐薬品性)、ホールドダウンロール(耐荷重性)、リンガーロール(液絞り性)などとして用いていた。
【0003】しかし、近年では、製鉄分野において生産性向上のために製鉄ラインのより高速化、高荷重化がはかられており、このため、用いるゴムロールのロール耐久性のいっそうの向上が要望されるようになったが、クロロスルホン化ポリエチレンから構成されるゴムロールは高速時および高荷重時の使用に際して発熱性が大で発熱によりロール破壊に至るおそれがあるのでこの要望に応え得るものではなかった。なお、ロール耐久性とは、ゴムロールの荷重耐久性をいう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情にかんがみなされたものであって、耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性を向上させたゴムロールを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のゴムロールは、ゴム成分がアルキルクロロスルホン化ポリエチレンからなるか又は70重量%以上のアルキルクロロスルホン化ポリエチレンと30重量%未満のクロロスルホン化ポリエチレンとからなるゴム組成物で構成してなることを特徴とする。
【0006】このように本発明では、アルキルクロロスルホン化ポリエチレンを用いるために、クロロスルホン化ポリエチレンから構成される従来のゴムロールに比して耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性をいっそう向上させることが可能となる。以下、本発明の構成につき詳しく説明する。
【0007】本発明者は、クロロスルホン化ポリエチレン(以下、CSMという)に常法により種々の添加剤を配合してCSM配合物となし、このCSM配合物で鉄心を接着被覆することによりCSMから構成される従来のゴムロールを作製し、このゴムロールのロール破壊荷重(150 m/分・kgf/cm) とCSM配合物の粘弾性特性(E”/E*2)との関係を見たところ、図1に示すように相関関係があることを知った。ここで、E”は損失弾性率を、E* は複素弾性率を表わし、それぞれ単位はPa(パスカル)である。これらの測定条件としては、周波数20Hz、温度120 ℃、歪率10±2%である(岩本製作所製粘弾性スペクトロメータによる)。図1によれば、E”/E*2の値を小さくコントロールすることによりロール破壊荷重が上がり、ロール耐久性が向上することが判る。
【0008】一方、上記ゴムロールについて、粘弾性特性(E”/E*2)と該ゴムロールを酸化クロム液(250 g/l)に70℃×14日浸漬したときの体積変化率(VC)%との関係を見たところ、図2に示すように相関関係があることを知った(図2中の●印による実線)。なお、体積変化率(VC)%が大きいと、ゴムロールが膨潤し、耐薬品性が悪くなるから体積変化率(VC)%は小さい方がよい。図2によれば、E”/E*2の値が小さくなると、VC%が大きくなることが判る。すなわち、ロール耐久性は向上するが、それに伴い耐薬品性を損なうことになる。
【0009】ところで、シンクロールのような耐薬品性が重要なCSMから構成される従来のゴムロールのロール破壊荷重は30kgf/cm程度である。そこで、ロール破壊荷重を耐薬品性を悪くせずこれよりも少なくとも10kgf/cm高めて40kgf/cm以上とすればロール耐久性が効果的に向上したといえる。図1から、ロール破壊荷重40 kgf/cm に対応するE”/E*2の値は25×10-9である。このため、図2において、この25×10-9のE”/E*2の値に対応する点A(縦軸E”/E*2;25×10-9、横軸VC%;6%)を通りかつ●印の実線に平行な線t(点線)を引けば、この線tよりも下方の領域が耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性を向上させることが可能となる。線tは、(E”/E*2)+0.6 ×10-9(VC)=28.8×10-9に相当する。したがって、ゴムロールを構成するゴム配合物、すなわちゴム組成物は、(E”/E*2)+0.6 ×10-9(VC)≦28.8×10-9の式を満足すればよい。
【0010】そこで、本発明者は、この式を満足するゴム組成物を提供すべく種々検討した結果、CSMの代わりにアルキルクロロスルホン化ポリエチレン(以下、ACSMという)を用いたゴム組成物が、図2における△印による一点鎖線で示すように適当であることを知った。また、図2において、線tから△印による一点鎖線までの距離が●印による実線から一点鎖線までの距離の30%程度に相当するので、ゴム成分としてACSM70重量%以上とCSM30重量%以下とを用いた場合でも上記式を満足することを知った。
【0011】したがって、本発明のゴムロールは、ゴム成分がACSMからなるか又は70重量%以上のACSMと30重量%以下のCSMとからなるゴム組成物で構成される。ここで、ACSMは下記構造式を有するものであって、公知のものである。Rはアルキル基を表わす。
【0012】


上記ゴム組成物は、上記ゴム成分以外にカーボンブラック等の種々の配合剤を必要に応じて含有することができる。
【0013】
【実施例】表1に示す配合内容(重量部)でゴム組成物No. 1〜No. 6を作製し、このゴム組成物で常法によりゴムロールを製造した。このゴムロールにつき、下記によりロール破壊荷重、耐薬品性、摩耗性を評価した。この結果を表1に示す。表1から、ACSMを用いたゴム組成物(No. 2、No. 4、No. 6)の場合にはCSMを用いたゴム組成物(No. 1、No. 3、No. 5)の場合に比して、ロール破壊荷重、耐薬品性に優れるばかりでなく、摩耗性もよい(摩耗量が少ない)ことが判る。なお、表1中、TB は引張強さを、EB は破断伸びを、M50は50%モジュラスを、Hsは硬度を、TRAは引裂強さをそれぞれ表わす。
【0014】
ロール破壊荷重の評価方法(小型ロール耐久テスト):テストロール;鉄芯径φ120mm の鉄芯にゴム厚25mmのゴム組成物を接着被覆したロール(加硫条件160 ℃×120 分) 。
評価方法 ;このテストロールにまず線圧10kgf/cmの荷重をかけ、スピード150 m/分にて回転試験を12時間行う。破壊に至るまで以後20kgf/cm×12時間、30kgf/cm×12時間、40kgf/cm×12時間と10kgf/cmづつステップアップし、破壊する荷重を測定する。
【0015】耐薬品性の評価方法:ゴムロール組成物を酸化クロム液(250 g/l)に70℃×14日浸漬したときの体積変化率(VC)%を見ることによる。VC%が大きいと、ゴムロールが膨潤し、耐薬品性が悪くなるから体積変化率VC%は小さい方がよい。
【0016】


注)
*1 昭和電工デュポン社製、ハイパロン40。
*2 昭和電工デュポン社製、ASCM(アルキル化ハイパン)。
【0017】*3 協和化学工業社製、高活性酸化マグネシウム。
*4 SHILL and SEILACHER 社製、脂肪酸エステル。
*5 神戸油化社製、クマロン樹脂。
*6 トーソー社製、塩素化パラフィン(トヨパラックスA−40) 。
*7 三菱レーヨン社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0018】*8 大内新興化学社製、ジベンゾチアジルジスルフィド(ノクセラーDM)。
*9 三新化学工業社製、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(サンセラーTRA)。
*10 デュポン社製、フェニレンジマレイミド。
【0019】
【発明の効果】以上説明したように本発明のゴムロールは、ゴム成分がACSMからなるか又は70重量%以上のACSMと30重量%未満のCSMとからなるゴム組成物で構成されるために、耐薬品性を実質的に損なうことなしにロール耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ゴムロールのロール破壊荷重とそのゴムロールを構成するゴム組成物の粘弾性特性(E”/E*2)との関係である。
【図2】ゴム組成物の粘弾性特性(E”/E*2)とそのゴム組成物から構成されるゴムロールの体積変化率(VC)%との関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴム成分がアルキルクロロスルホン化ポリエチレンからなるか又は70重量%以上のアルキルクロロスルホン化ポリエチレンと30重量%未満のクロロスルホン化ポリエチレンとからなるゴム組成物で構成したゴムロール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−200923
【公開日】平成6年(1994)7月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−349251
【出願日】平成4年(1992)12月28日
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)