説明

ゴム・コード複合体とそれに用いるゴム組成物およびゴム・コード複合体を用いた空気入りタイヤ

【課題】安価でありながら、コードとゴムとが充分に接着して、耐久性を低下させたり、工程不良を生じさせたりすることがないゴム・コード複合体とそれに用いるゴム組成物およびゴム・コード複合体を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】コードの表面にゴム組成物が被覆された空気入りタイヤ用のゴム・コード複合体であって、コードの表面に所定の深さの凹凸が設けられているゴム・コード複合体。コードがビードに用いられるビードワイヤであって凹凸が平均谷深さRvm0.15〜0.45mmの凹凸であるゴム・コード複合体。コードがブレーカーに用いられるブレーカーワイヤであって凹凸がRvm0.05〜0.15mmの凹凸であるゴム・コード複合体。コードがフィラーに用いられるスチールフィラーであって、凹凸がRvm0.05〜0.10mmの凹凸であるゴム・コード複合体。前記ゴム・コード複合体が用いられている空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム・コード複合体とそれに用いるゴム組成物および前記ゴム・コード複合体を用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造においては、強度や耐久性の向上を目的として、ビードワイヤ、ブレーカーワイヤ、スチールフィラーなど種々のコード(スチールコード)にゴムが複合されたゴム・コード複合体が使用されている。
【0003】
しかし、これらのコードは、一般に、ゴムとの密着性が良くないため、ゴムとの複合化に際して、ゴムとの接着性を向上させるための処理が施されている。
【0004】
例えば、前記したビードワイヤの場合には、表面にクマロン樹脂を塗布することにより、ゴムとの接着性を向上させている。また、ブレーカーワイヤやスチールフィラーの場合には、スチールコード表面にメッキ処理を施すことにより、ゴムとの接着性を向上させている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−176212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような樹脂の塗工処理やメッキ処理は、コストを上昇させるという問題があった。
【0007】
そして、コードとゴムとの接着が不充分であると、コードに錆が生じてコードの劣化を招き、耐久性を低下させる恐れがあった。
【0008】
また、樹脂の塗布量がばらついたような場合には、その後のゴムの被覆(ゴムつき)にバラツキが生じ、工程不良が生じる恐れもあった。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、安価でありながら、コードとゴムとが充分に接着して、耐久性を低下させたり、工程不良を生じさせたりすることがないゴム・コード複合体とそれに用いるゴム組成物および前記ゴム・コード複合体を用いた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るゴム・コード複合体は、
コードの表面にゴム組成物が被覆された空気入りタイヤ用のゴム・コード複合体であって、
前記コードの表面に、所定の深さの凹凸が設けられている
ことを特徴とする。
【0011】
前記のゴム・コード複合体が、
前記コードが、ビードに用いられるビードワイヤであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.15〜0.45mmの凹凸である
ことを特徴とする。
【0012】
前記のゴム・コード複合体が、
前記コードが、ブレーカーに用いられるブレーカーワイヤであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.05〜0.15mmの凹凸である
ことを特徴とする。
【0013】
前記のゴム・コード複合体が、
前記コードが、フィラーに用いられるスチールフィラーであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.05〜0.10mmの凹凸である
ことを特徴とする。
【0014】
前記のゴム・コード複合体に用いられるゴム組成物であって、
天然ゴムとイソプレンゴムのみで、ゴム成分100質量部を形成しており、硫黄を2.0〜4.0質量部含有している
ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤは、
前記のゴム・コード複合体が用いられていることを特徴とする。
【0016】
前記の空気入りタイヤは、
前記ゴム組成物が用いられた前記ゴム・コード複合体が用いられているトラック・バス用空気入りタイヤであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安価でありながら、コードとゴムとが充分に接着して、耐久性を低下させたり、工程不良を生じさせたりすることがないゴム・コード複合体とそれに用いるゴム組成物および前記ゴム・コード複合体を用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
1.空気入りタイヤ用のコード・ゴム複合体
本実施の形態のコード・ゴム複合体は、コードの表面にゴム組成物を被覆して構成されており、全面にわたってほぼ等密度で多数の凹凸が形成されている。なお、凹凸の谷深さは、コードの径や材質や用途などに応じて適宜設定されるものである。
【0019】
2.凹凸形成装置
凹凸形成装置は、コードの表面に所定の深さの凹凸を形成する装置であって、上下一対の回転ローラを備え、各回転ローラの外周側にはワイヤーブラシが取り付けられている。
【0020】
そして、上下一対の回転ローラの間にコードを通過させて、ワイヤーブラシによりコード表面に傷を付ける。これにより、コード表面の全面にわたって、ほぼ等密度で、多数の凹凸が形成される。凹凸の谷深さは、ワイヤーブラシがコードを押す押圧力や、回転速度などにより適宜調整することができる。
【実施例】
【0021】
(実施例A)
本実施例は、コードとしてビードワイヤを用いてコード・ゴム複合体(ビード)を作製した例である。
【0022】
(1)ビードワイヤ
(a)組成
本実施例に用いたビードワイヤ(線径:1.20mm)は、JIS G 3506 硬鋼線材、硬鋼線材SWRH67A又は72Aによる、表1に示す組成(残部はFe)の材料で、スチールワイヤの表面に青銅で浸漬法または電解法により均一なメッキをしたものである。
【0023】
【表1】

【0024】
(b)凹凸の形成
上記のビードワイヤに対して、前記した凹凸形成装置を用いて、表3の各実施例A1〜A6に示すRvmの凹凸を形成させた。
【0025】
(c)平均谷深さRvmの測定方法
ビードワイヤの表面の凹凸の平均谷深さRvmは、JIS B 0651―1976に準拠した触針式表面粗さ測定器を用いて、基準長さごとに区切り、各基準長さにおいて、平均線から最も深い谷底までの深さをRvとし、各基準長さにおいて求めたRvの深さの平均値をRvmとする。本実施例では基準長さ8mm、区画数n=5、評価長さ40mmとしてコード表面の凹凸の平均谷深さRvmを求めた。
【0026】
(2)ゴム組成物
ゴム組成物の配合処方を、表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
(3)コード・ゴム複合体(ビード)の作製
各実施例のビードワイヤの打ち込み本数を、38本/50mmとして、上記のゴム組成物をトッピングして、厚みが0.5〜1.5mmとなるように制御してコード・ゴム複合体(ビード)を作製した。なお、実施例A5は、比較例A1と同様に、次に述べるクマロン樹脂を塗布した。
【0029】
(4)比較例
表1に示す組成のビードワイヤを用い、凹凸を形成する代わりに、表面にクマロン樹脂(会社名:NEVILLE CHEMICAL COMPANY、商品名:COUMARONE−INDENE RESIN)を塗布した後、実施例と同様にトッピングを行い、比較例A1のコード・ゴム複合体(ビード)を作製した。
【0030】
また、上記クマロン樹脂が塗布されていないビードワイヤを用い、実施例と同様にトッピングを行い、比較例A2のコード・ゴム複合体(ビード)を作製した。
【0031】
(5)空気入りタイヤ
作製された各実施例および比較例のコード・ゴム複合体(ビード)を用いて、195/65R15のPCRタイヤを作製した。
【0032】
(6)評価
各実施例および比較例について、工程不良の発生頻度、接着力、強度、コストを測定して、それらの評価を行った。測定結果を表3に示す。
【0033】
(評価方法)
(a)工程不良の発生頻度
比較例A1の工程不具合の頻度を10としたときの工程不具合の頻度を指数で表す。
【0034】
(b)接着力
ビードワイヤをコーティングゴムでコートし、ビードワイヤを引張試験機(INTESCO 2005型)で、引張速度50mm/minで引っ張り、ビードワイヤがコーティングゴムから引き抜かれた時の抗力を測定した。比較例A1の抗力を100とし指数で表す。数値の大きい方が接着力が高い。
【0035】
(c)強度
ビードワイヤを引っ張り試験機(INTESCO 2005型)で、引張速度50mm/minで引っ張り(室温20℃、湿度65%)、ビードワイヤが破断した時の強度を測定した。比較例A1の強度を100とし指数で表す。
【0036】
(d)コスト
各実施例および比較例についてコスト試算を行った。なお、表3では、比較例A1の1m当たりの単価を100とした指数で示している。
【0037】
(評価結果)
【0038】
【表3】

【0039】
(7)考察
表3より、ブレーカーワイヤに凹部を形成させることにより、クマロン樹脂を塗布することなく、コーティングゴムの接着力が向上し、コストも安く、耐久性も優れていることが確認できる。
【0040】
また、Rvmが約0.45mmより大きくなると、強度が低下し、Rvmが約0.15より小さくなると、接着力が低下するため、0.15〜0.45mmが好ましいことが分かる。
【0041】
(実施例B)
本実施例は、コードとしてブレーカーワイヤを用いてコード・ゴム複合体(ブレーカー)を作製した例である。
【0042】
(1)ブレーカーワイヤ
(a)組成
本実施例に用いたブレーカーワイヤ(線径:1.15mm)の組成元素および組成比を表4に示す。なお、残部はFeである。
【0043】
【表4】

【0044】
(b)凹凸の形成
上記のブレーカーワイヤに対して、前記した凹凸形成装置を用いて、表6の各実施例B1〜B4に示すRvmの凹凸を形成させた。なお、Rvmの測定は、実施例Aと同様に行った。
【0045】
(2)ゴム組成物
ゴム組成物の配合処方を、表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
(3)コード・ゴム複合体(ブレーカー)の作製
各実施例のブレーカーワイヤの打ち込み本数を、38本/50mmとして、上記のゴム組成物をトッピングして、厚みが0.5〜1.5mmとなるように制御してコード・ゴム複合体(ブレーカー)を作製した。
【0048】
(4)比較例
表4に示す組成のブレーカーワイヤを用い、凹凸を形成させる代わりに、表面にCu63%、Zn37%の組成のメッキをコード1kg当たり5g施した後、実施例と同様にトッピングを行い、比較例B1のコード・ゴム複合体(ブレーカー)を作製した。
【0049】
また、上記メッキも施されていないブレーカーワイヤを用い、実施例と同様にトッピングを行い、比較例B2のコード・ゴム複合体(ブレーカー)を作製した。
【0050】
(5)空気入りタイヤ
作製された各実施例および比較例のコード・ゴム複合体(ブレーカー)を用いて、195/65R15のPCRタイヤを作製した。
【0051】
(6)評価
各実施例および比較例について、接着力、強度、コスト、耐久性を測定して、それらの評価を行った。測定結果を表6に示す。
【0052】
(評価方法)
【0053】
(a)接着力
実施例Aと同様にして測定した。
【0054】
(b)強度
実施例Aと同様にして測定した。
【0055】
(c)コスト
実施例Aと同様にして、各実施例および比較例についてコスト試算を行った。なお、表6では、比較例B1の1m当たりの単価を100とした指数で示している。
(d)耐久性
各ブレーカーワイヤをコーティングゴムでコートし、150℃、30分で加硫を行い、湿熱劣化条件下(温度80℃ 湿度98%)で、150時間放置した後、ブレーカーワイヤを取り出して、顕微鏡で20mm間隔に観察し、錆びの有無を調べ、5段階評価を行った。錆びのない状態を0とし、指数で表す。点数が上がるごとに錆びが多いことを示している。
【0056】
(評価結果)
【0057】
【表6】

【0058】
(7)考察
表6より、ブレーカーワイヤに凹部を形成させることにより、銅・亜鉛メッキ処理を施すことなく、コーティングゴムの接着力が向上し、コストも安く、耐久性も優れていることが確認できる。
【0059】
また、Rvmが0.15mmより大きくなると、強度が低下するため、Rvmとしては、0.05〜0.15mmが好ましいことが分かる。
【0060】
(実施例C)
本実施例は、コードとしてスチールフィラーを用いてコード・ゴム複合体(フィラー)を作製した例である。
【0061】
(1)スチールフィラー
(a)組成
本実施例に用いたスチールフィラー(線径:0.20mm)の組成元素および組成比を表7に示す。なお、残部はFeである。
【0062】
【表7】

【0063】
(b)凹凸の形成
上記のスチールフィラーに対して、前記した凹凸形成装置を用いて、表9の各実施例C1〜C4に示すRvmの凹凸を形成させた。なお、Rvmの測定は、実施例Aと同様に行った。なお、スチールフィラーは、中心に3本の0.17mm径コードを配置し、その外周に7本の0.20mm径コードを配置して構成されている。
【0064】
(2)ゴム組成物
ゴム組成物の配合処方を、表8に示す。なお、硫黄の配合量については、表9に示すように変量としている。
【0065】
【表8】

【0066】
(3)コード・ゴム複合体(フィラー)の作製
各実施例のスチールフィラーの打ち込み本数を、28本/50mmとして、上記のゴム組成物をトッピングして、厚みが0.5〜1.5μmmとなるように制御してコード・ゴム複合体(フィラー)を作製した。
【0067】
(4)比較例
表7に示す組成のスチールフィラーを用い、凹凸を形成させる代わりに、表面にCu63%、Zn37%の組成のメッキをコード1kg当たり5g施した後、実施例と同様にトッピングを行い、比較例C1、C3のコード・ゴム複合体(ブレーカー)を作製した。なお、硫黄量は、表9に示す通りである。
【0068】
また、上記メッキが施されていないスチールフィラーを用い、実施例と同様にトッピングを行い、比較例C2のコード・ゴム複合体(フィラー)を作製した。なお、硫黄量は、表9に示す通りである。
【0069】
(5)空気入りタイヤ
作製された各実施例および比較例のコード・ゴム複合体(フィラー)を用いて、11R22.5のTBRタイヤを作製した。
【0070】
(6)評価
各実施例および比較例について、接着力、コスト、耐久性を測定して、それらの評価を行った。測定結果を表9に示す。
【0071】
(評価方法)
(a)接着力
実施例Aと同様にして測定した。
【0072】
(b)コスト
実施例Aと同様にして、各実施例および比較例についてコスト試算を行った。なお、表9では、比較例C1の1m当たりの単価を100とした指数で示している。
【0073】
(c)耐久性
実施例Bと同様にして測定した。
【0074】
(評価結果)
【0075】
【表9】

【0076】
(7)考察
表9より、スチールフィラーにRvm0.05〜0.10の凹部を形成させることにより、硫黄の使用量が2.0〜4.0phrのように少なくても、コーティングゴムの接着力が向上し、コストも安く、耐久性も優れていることが確認できる。
【0077】
[本実施の形態の効果]
以上より、本実施の形態においては、以下の効果を有することが言える。
【0078】
(1)コードの表面に多数の凹凸が形成されているため、コードとゴムとの接着性を向上させることができる。このため、樹脂の塗工処理やメッキ処理が不要となって、コストを低減させることができる。
【0079】
(2)また、凹凸の谷深さを適宜設定することにより、樹脂の塗工処理やメッキ処理よりも大きな接着力を発揮させることができる。また、ゴムを充分に接着させることができるため、耐久性を向上させることができる。
【0080】
(3)さらに、樹脂を塗工する場合等における大きなバラツキがないため、工程不良の発生頻度を低下させることができる。
【0081】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コードの表面にゴム組成物が被覆された空気入りタイヤ用のゴム・コード複合体であって、
前記コードの表面に、所定の深さの凹凸が設けられている
ことを特徴とするゴム・コード複合体。
【請求項2】
前記コードが、ビードに用いられるビードワイヤであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.15〜0.45mmの凹凸である
ことを特徴とする請求項1に記載のゴム・コード複合体。
【請求項3】
前記コードが、ブレーカーに用いられるブレーカーワイヤであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.05〜0.15mmの凹凸である
ことを特徴とする請求項1に記載のゴム・コード複合体。
【請求項4】
前記コードが、フィラーに用いられるスチールフィラーであって、
前記凹凸が、平均谷深さRvm0.05〜0.10mmの凹凸である
ことを特徴とする請求項1に記載のゴム・コード複合体。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム・コード複合体に用いられるゴム組成物であって、
天然ゴムとイソプレンゴムのみで、ゴム成分100質量部を形成しており、硫黄を2.0〜4.0質量部含有している
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のゴム・コード複合体が用いられていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
請求項5に記載のゴム組成物が用いられた請求項4に記載のゴム・コード複合体が用いられているトラック・バス用空気入りタイヤであることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−107359(P2012−107359A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257075(P2010−257075)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】